newton mac

特集/
ニュートン方程式
十 河
清
ma = −mg =⇒ a = −g
1. 力学を学ぶ ― 私の経験から
この「ニュートン方程式」の原稿依頼が私のと
1
⇒ v = v0 − gt ⇒ x = v0 t − gt2
2
ころに舞い込んだのは,最近「ゼロからの大学物
のように,頭の中で a = v,
˙ v = x˙ と置き換えて
理」シリーズの一つとして『力学 I, II』 を書いた
積分を実行する(あるいは,そのまま覚えてしま
ばかりなので,執筆経験の感想とか,やむを得ず
う)のが普通である。
1)
ボツにした事柄など,腹に溜ったものを出させて
ニュートン記法の利点は,一つの表式で速度と
あげよう,というのが編者の意図と推察している。
いう変数とそれが位置の微分であることを同時に
力学はすべての物理学の基礎であり,ここから
表すことができる点にある。しかしながら,高校
物理学が始まったのではあるが,どちらかという
生や入学直後の大学生にとって,この両者の使い
と過去の学問であり,効率よく勉強して次の段階
分けは,慣れないとわかり難いのも事実である。
の電磁気学とか量子力学へ進むのが良い,と思わ
高校の力学と大学の力学の違いは,ひとくちに
れている。確かにそういう側面もあるのだが,なか
言うと「微分方程式」という考え方の有無である
なかどうして奥が深く,一概に「終わった学問」と
といえる。そもそもニュートンにとっては,微分
もいえないのである。私の経験を振り返りながら,
積分と力学は一体であったにも拘らず,高校の物
「力学」に対する感じ方の変遷をたどってみたい。
理教科書ではそれに触れてはならないという不合
1.1 高校の力学と大学の力学
理が今もまかり通っている。その結果,例えば速
高校3年のときである。あらかたの問題集をや
度に比例した抵抗を受けた落下の問題
りつくした私は,変わった問題集はないかと高松
市内の書店を物色して,大学生用の力学演習書を
見つけて購入した。どの出版社のものであったか
覚えていないのだが,中を読み始めて少々面食らっ
た。第一は「記号法」である。位置 x の微分すな
v˙ = g − kv,
v(0) = 0
(1)
を,大学の期末試験で出題すると
v = gt − kvt
⇒
v=
gt
1 + kt
わち速度を表すのに x˙ ,加速度を表すのに x
¨ とい
とする学生が後を絶たない。このタイプの学生は
うふうに,いわゆるニュートンの記法を使ってい
微分と積分が逆演算であること(微積分学の基本
る。高校物理では速度は v ,加速度は a などと別
定理)および簡単な積分公式は理解しているが,微
の文字を使い,例えばボールを鉛直に投げ上げた
分方程式という概念およびそれを「解く」とはど
後の運動は
ういうことか,は理解していないのである。この
数理科学
NO. 552, JUNE 2009
1
式が正しい解
v=
)
g(
1 − e−kt
k
1.2 「ニュートン力学の形成について」
さて,その頃までには物理学科への進学を考え
ていたのだが,級友の一人があるとき「物理をや
と一致するのは,t = 0 と t → ∞ の2点(最初と
るなら,武谷三男『弁証法の諸問題』3) くらい読ん
最後)だけであるのは,ちょっとおもしろい。微分
でおかなきゃ」とのたまわった。当時の私は「弁
方程式 (1) を解く問題は,学生のこの点に関する
償法が物理とどう関係するんだ」と思ったくらい
理解度を知るのに最適な問題のひとつなのである。
無知であったが,この友人も本当にそれを読んで
高校生の私が面食らったことの第二は,後のほ
いたのかどうかは定かでない。高校3年は背伸び
うの章でオイラー・ラグランジュ方程式が議論さ
れていたことである。当時の私には,何をやって
する時期なのである。
弁償法が弁証法の間違いで,ソクラテスの産婆
いるのか訳が分からなかったのはいうまでもない。
術に始まりヘーゲルの弁証法を経て,マルクス・
それを理解したのは,大学に入ってからランダウ・
エンゲルスの唯物弁証法に至ったものだという概
リフシッツ『力学』を読んだときであった。
略を,倫理・社会の教科書を通して知った。冬休み
「変分」の考え方が発見されたのは,ニュートン
に兄が帰省したときに『弁証法の諸問題』を知っ
の遺産を食いつぶしていた英国ではなく,ニュー
ているかと聞くと,持っているから無事に東京へ
トンの仕事の先を目指した大陸においてであった,
出て来れたら貸してやろうと言う。おまけに「本
といわれる。2) 微分方程式と変分法,この2つが大
人に会わせてやる」とのたまうではないか。医学
学の力学で新しく導入される概念の双璧であろう。
生の兄がどうして面識があるのか不思議だったが,
しかしながら,変分という概念は(例を用いて
東京へ出てその謎が解けた。何のことはない,兄
示せばやさしいのであるが)初学者にはわかり難
は武谷先生のご子息と大学で同級だったのである。
いところがある。オイラー・ラグランジュ方程式
個人的な経緯はさておき,その『弁証法の諸問
の導出は,式変形をしているだけで,一向に「何
題』についてである。これは戦前・戦中に書かれ
かを解いている」気がしない,というのである。
た諸論文を集めたもので,なかでも「ニュートン
こういう一般的な議論に弱いタイプの学生群は
力学の形成について」は圧巻である。これは,力
確かに存在し,彼らは何の役に立つのかわからな
学の発展史を分析して,ティコブラーエの現象論,
い一般論は受け付けないのだ。直ぐに答えが得ら
ケプラーの実体論を経てニュートンの本質論へ進
れる(反射神経だけが要求される)問題に慣れた
んだという,いわゆる「三段階論」を提示したも
弊害で,論理の鎖が長くて息の長い議論が不得手
のである。
なのかも知れない。直角座標と極座標との関係
x = r cos φ ⇒ x˙ = r˙ cos φ − rφ˙ sin φ
y = r sin φ ⇒ y˙ = r˙ sin φ + rφ˙ cos φ
も同様で,微分法の性質(積の微分と合成関数の
後になって A. コイレのものや T. クーンなども
読んだが,武谷論文は短いけれどもそれらより数
段優れていると思う。どこが偉いといって
現在の問題を解くために,歴史から学ぶ
微分)だけを使っており,具体的に微分を実行し
という姿勢がすばらしいと思うのである。もちろ
ているわけではないからである。
ん,その問題とは「湯川中間子論」であったわけ
そういう事情から,
『力学 I』では,力学と微分積
であるが。
分を平行して導入することを主たる目標とし,
「変
こんど読み返してみて,連想したのは数学者ヴェ
分と最小作用の原理」には意図的に言及しないこ
イユによる同趣旨の文章である。「数学史:
「何故
とにした。これが良い選択であったかどうかは,読
に?」および「如何にして?」」と題された論文4)
者の評価を待つ他はない。
がそれで,いくつかの数学史に関する著作もある
2
ヴェイユによれば,現役の数学者が史的な著作を
先生によるラテン語原典からの翻訳があるのは喜
読むのは「独創的な思索を喚起されんがため」で
ばしいことである。
あるという。両者を比較すると,武谷に比べてヴェ
ニュートンは,逆2乗則と楕円軌道の関係を含
イユはよりプラグマティックではあるが,目的と
む主な結果を,20 年近く前に微積分学の手法で得
戦略は共通していると思う。どちらもご一読をお
ていたといわれている(逆2乗則だけなら,ケプ
勧めする。
ラーの第3法則から次元解析によっても導出でき
1.3 ニュートン力学の形成と発展
る)。にも拘らず『プリンキピア』では,その論証
『力学 I』の「ニュートンの3法則」部分を書く
はすべて幾何学的な言葉で定式化されている。そ
にあたって,念のためガリレイやニュートンの著
の理由として,1) 微積分学についてニュートン
作にも目を通してみた。もちろん以前に読んだも
自身がその全貌を公開していないので,一般に馴
のもあるのだが,それらに関する四方山話を書い
染みがないこと,2) 当時は「ユークリッド的」と
てみたい。
いえば厳密さの代名詞であったこと,などが挙げ
まずはガリレイについて。これに関しては,豊田
られている。
利幸先生による世界の名著本の解説「ガリレオの
いずれにしても,幾何学よりは微積分に馴染み
生涯と科学的業績」 がたいへんすばらしい。200
のある現代の読者にとって,読み難いことは事実
ページを超える大作で,これ自身が名著である。
である。実際『プリンキピア』の各命題を解析学
ガリレイによる「相対性原理(=ニュートンの第
の言葉で書き直した本まで存在する。その他にも,
1法則)」および「仕事の原理」の重要性や,日常
ファインマンによる講義録8) とか,チャンドラセ
語を物理的議論に使うことなど,参考にさせて頂
カールによる講義録9) などもある。特に後者は主
いたことは多い。
な命題について,現代風に著者自身で解き直すと
5)
豊田先生の解説は,歴史的背景を含めたガリレ
いう試みから生まれた本で,大部ではあるがたい
イの生涯を,いくつかの興味深い一次資料の翻訳
へん示唆に富んだものである。例えば,既出のアー
を付して詳述するのみならず,彼の死後のイタリ
ノルドの本6) にもある「ケプラー運動と2次元調
アの科学界や弟子達の動向も含めた周到な論文で
和振動との双対性」の問題(後述する)について
ある。
も,議論されている。
さらに特筆すべきは,ホイヘンスについて 20
ニュートン以後の力学の発展については,オイ
ページ以上を割いて記述していることである。ホ
ラー・ラグランジュとハミルトンの業績を挙げな
イヘンスは彼の名を冠した「ホイヘンスの原理」
くてはならない。前者は,既に述べたニュートン
で有名ではあるが,彼が実際に何をしたのかにつ
力学の変分原理による再定式化である。
いては,あまり知られていない。アーノルドの本6)
既に書いたように,変分のアイデアは「大陸発」
には「ニュートンやライプニッツと同じ問題を解
というのが通説であるが,チャンドラセカール本9)
きながら,いつも幾分彼らを凌駕していたが解析
によれば,ベルヌーイによる「最速降下線の問題」
学を全く使わなかったホイヘンス」という,たいへ
(有名な変分問題)を問われたニュートンは,即座
ん意味深長な文章があるが,豊田先生による「光
に正解を返答したという。ニュートンは,時代をは
についての論考」の抄訳は,その疑問に部分的に
るかに超えた概念と知見を密かに有していた,と
答えてくれるものである。より広範な読者を対象
いうのがチャンドラセカールの判定である。
に,どこかの出版社によって独立して出版される
ことを希望したい。
ハミルトンは,正準運動方程式の定式化によっ
て,大陸に遅れをとっていた英国に再び解析学の
つぎはニュートンについて。ニュートンの主著
先進国の地位を取り戻した。その概念体系は,現
『プリンキピア』が,同じく世界の名著に河辺六男
代数学において「シンプレクティック幾何学」へと
数理科学
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3
発展している。また,物理学においても再び,分
1
eps=0.3
子動力学や非平衡熱統計力学に,その新たな展開
0.8
0.6
を見せている。
0.4
Y
0.2
2. ケプラー運動再考
0
-0.2
-0.4
太陽重力の下での惑星の運動を求めること,す
なわちケプラー問題を解くことは,力学のハイラ
イトのひとつである。運動方程式に基づいて,ケ
-0.6
-0.8
-1
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
X
プラーの3法則すなわち1) 楕円軌道,2) 面積速
度一定,3) 公転周期が長半径の 3/2 乗に比例,の
3つの性質を導くことは,
『力学 II』の目標のひと
つであった。これに関してやむを得ず省略した事
柄がある。時々刻々の位置座標を時間の関数とし
図1 離心率 ε = 0.3 のケプラー運動
以上の関係式は,例えば次のようにして確かめ
られる。角運動量保存則
r2 φ˙ = h
(5)
て具体的に表す問題である。普通の教科書ではあ
まり記述されない事項であるが,おもしろい問題
なので,以下に概略を書いてみよう。
と式 (2)(3) より
∫
∫ ξ
h
h dt
dt
=
dξ
2
2
0 r
0 r dξ
∫ ξ
hT
dξ
=
2
2πa 0 1 − ε cos ξ
(√
( ))
1+ε
ξ
−1
= 2 tan
tan
1−ε
2
2.1 ケプラー・レビチビタ変数 ξ
結論を先に書くと,ケプラー・レビチビタ変数
とよばれるパラメータ変数 ξ を用いて,これらは
間接的に表現できるのである。天下り的であるが,
まず実時間 t と変数 ξ との対応を
ωt = ξ − ε sin ξ,
ω=
で与える。ここで,T = 2π
√
2π
T
として,式 (4) が示される。ここで,積分公式(岩
(2)
a3 /GM は公転周
期,ε は離心率,a は長半径である。このとき,動
径 r と角度 φ は
r = a(1 − ε cos ξ)
( ) √
( )
φ
1+ε
ξ
tan
=
tan
2
1−ε
2
(3)
(4)
と書かれる。
図1は 1 周期を等分割したときの各 t に対する
ξ の値を式 (2) から求め,それを式 (3)(4) に代入
した後,x = r cos φ, y = r sin φ をプロットした
ものである。近日点では速く,遠日点では遅く運
動していることがよくわかる。常微分方程式を差
分化して数値的に解く場合とは異なり,正確な解
を描画しているだけなので,軌道が閉じないとか
発散するといった数値不安定はないことに注意。
4
t
φ=
波「数学公式 I」P.189)
∫
ξ
dξ
2
×
=√
1
−
ε
cos
ξ
1 − ε2
0
(√
( ))
1+ε
ξ
−1
× tan
tan
1−ε
2
√
と等式 hT = 2πa2 1 − ε2 を用いた。
2.2 ケプラー運動と2次元調和振動
変数 ξ の持つ不思議な意味は,前章に述べたケ
プラー運動と2次元調和振動との間の双対性を考
えると,より一層あらわになる。2次元調和振動
の運動方程式
d2 X
= −Ω2 X,
dτ 2
d2 Y
= −Ω2 Y
dτ 2
(6)
の解を

 X = a√1 − ε cos(Ωτ )
 Y = a√1 + ε sin(Ωτ )
(7)
とする。すると ξ = 2Ωτ として,2次元調和振
動の極座標変数 R, Φ からケプラー運動の極座標
変数 r, φ への変換を
ar = R2 ,
φ = 2Φ
(8)
で定める。このとき
=⇒
(−1 + ε cosh ξ)
r= 2
ε −1
√
( )
( )
φ
ε+1
ξ
=
tanh
tan
2
ε−1
2
(12)
(13)
と書かれる。このとき,式 (11)(12) から
dt
=
·r
dξ
h(ε2 − 1)1/2
R2 = X 2 + Y 2 = a2 (1 − ε cos ξ)
= ar
として
r = a(1 − ε cos ξ)
が成り立つ。また,運動方程式より
および
GM
dv
=− 3 r
dt
r
( )
φ
Y
tan
= tan Φ =
2
X
√
( )
ξ
1+ε
=
tan
1−ε
2
⇒
GM
dv
= 2
dt
r
であるから
を得る。これらはケプラー運動の解 (3)(4) に他な
らない。言い換えると,変数 ξ = 2Ωτ は,本質
的に2次元調和振動の「時間変数」なのである。
2次元調和振動とケプラー運動の間の変換 (8)
は,複素数表示すれば,さらに簡潔に
(X + iY )2 = a(x + iy)
(14)
(9)
と表される。これを「ボーリン変換」という。6)
dv
dv dt
GM
=
·
=
2
1/2
dξ
dt dξ
r
h(ε − 1)
(
)
1 2
=
|v| − E
(15)
h(ε2 − 1)1/2 2
を得る。ここで,エネルギー保存則
1 2 GM
|v| −
=E
2
r
(16)
を用いた。したがって,新しい従属変数 w を
w=
√
一般に,2つの中心力ポテンシャルのベキ指数
2E ·
v
|v|
(17)
2
により導入すると,|w||v| =
m, n について
(m + 2)(n + 2) = 4
(10)
を満たす2つのモデルは互いに双対となり,解は
互いにベキ的な複素変換によって移りあう。ケプ
ラー運動(m = −1)と2次元調和振動(n = 2)
は,その特別な場合なのである。
|dw| =
√
√
2E = 一定 ゆえ
2
2E · |dv| / |v| となるから,式 (15) は
2
dξ 2 =
4 |dw|
(1 − w · w)2
(18)
と書き換えられる。ここで h2 = GM , E =
GM (ε2 − 1)/2 を用いた。
式 (18) はガウス曲率 K = −1 を持つ曲面の計
2.3 ケプラー運動と双曲幾何学
量の式に他ならない(双曲幾何学のポアンカレ模
変数 ξ に微分幾何学者レビチビタの名前が
付いているのは以下のような事情による。10) 離
心率 ε が1より大きいときは,軌道は双曲線に
なる。このとき,前節の式は変数 ξ を形式的に
ξ → iξ と置き換えればそのまま成り立つ。この
とき cos(iξ) = cosh ξ, sin(iξ) = i sinh ξ 等を使
型)。変数 ξ は,そのときの「固有時」を意味し
ている。
このとき,ケプラー運動の双曲線軌道は
√
)
sinh ξ, ε2 − 1 cosh ξ
w=
1 + ε cosh ξ
(
(19)
に写像されることがわかる。
う。すなわち,ε > 1 のときは
2
t=
h(ε2 − 1)3/2
数理科学
(−ξ + ε sinh ξ)
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(11)
5
は量子力学のほうが「高尚な学問」であると思っ
1
ていた。実際,古典統計力学よりは量子統計力学
eps=1.2
を,古典可積分系よりは量子可積分系をと,古典
0.5
系の充分な理解をなおざりにしてまで,新奇なも
W2
のを追い求めてきたようである。
0
近頃になってようやく,もう少し広い視野でも
のごとを見ることが出来るようになったらしい。
もちろん今でも量子可積分系に残された重要な問
-0.5
題は多いが,古典可積分系にもおもしろい問題は
-1
-1
-0.5
0
0.5
1
W1
図2 離心率 ε = 1.2 のケプラー運動
これは,図2に見るように,ポアンカレ円板内
たくさんあることに気付いたのである。さらには,
可積分性にこだわる必要もなく,興味を引かれる
問題がつぎつぎと目に入るのである。
若い人達が新しい事柄に興味を持つのは,当然
に描かれた次のような測地線を表している。
のことである。それなくして学問は進展しない。
(
)2
1
ε
= 2
w12 + w2 − √
2
ε −1
ε −1
先輩風を吹かして忠告するとすれば,古典だとか
ケプラー運動と双曲幾何学との間にある,以上
のような関係,すなわち
ケプラー軌道は曲がった空間の測地線である
ことを発見したのが,レビチビタなのである。
量子だとかの分類に捕われることなく
良い問題に対するセンス
を磨いて欲しい,ということである。どうすれば,
それが得られるかって? それには,良い問題を
たくさん見ることに尽きる。
参考文献
3. おわりに
3.1 書き残したこと
じつを言うと,もうひとつ『力学 II』で腐心し
たのは,コマの運動に関する記述である。保存量
などの対称コマの定性的性質は示したのだが,定
量的な解そのものは,楕円関数の導入を必要とす
ることを理由に断念したのである。
対称コマの運動は『力学 II』でも示したように,
運動座標系とオイラー角を用いた通常の取り扱い
よりも,慣性座標系での記述のほうが簡単になる。
これらの話題についても,ここで述べたいので
はあるが,残念ながら与えられた紙数が尽きてし
まっている。手前味噌の文献だけを挙げて11) ,別
の機会にしたい。
3.2 再び私の経験から
ご他聞にもれず学生時代の私も,古典力学より
6
1) 十河清・和達三樹・出口哲生『ゼロからの力学 I, II』
(岩波書店,2005)
2) W.Yourgrau and S.Mandelstam, Variational
Principles in Dynamics and Quantum Theory
(Dover, 1968)
3) 武谷三男『弁証法の諸問題』(勁草書房,1968)
4) A. ヴェイユ(足立・三宅訳)
『数論:歴史からのアプ
ローチ』(日本評論社,1987)に所載
5) 豊田利幸編訳『ガリレオ』
(世界の名著 21,中央公論
社,1973)
6) V.I. アーノルド(蟹江訳)『数理解析のパイオニアた
ち』(シュプリンガー・フェアラーク東京,1999)
7) 河辺六男編訳『ニュートン』
(世界の名著 26,中央公
論社,1971)
8) D.L. グッドスティーン他(砂川訳)
『ファインマンさ
ん,力学を語る』(岩波書店,1996)
9) S. チャンドラセカール(中村編)
『プリンキピア講義』
(講談社,1998)
10) J. ミルナー「ケプラーの復活」(山下訳『ガロアの神
話』(現代数学社,1990)所載)
11) K. Sogo, J.Phys.Soc.Japan 77 (2008) 084002.
(そごう・きよし,北里大学理学部)