電子機器冷却用装置のヒートシンクの伝熱促進に関する研究

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電子機器冷却用装置のヒートシンクの伝熱促進に関する
研究
安藤, 健志
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2013-06
http://hdl.handle.net/10297/7941
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静岡大学
博士論文
電子機器冷却用装置のヒートシンクの
伝熱促進に関する研究
平成 25 年 6 月
安
藤
健
志
目
第1章
次
序
論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-1
研 究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-2
本 論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
第2章
電 子機器冷却 用装置の説 明と改良研 究目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2-1
電 子機器冷却 装置につい て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2-2
研 究目標と方 針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
第3章
冷 却性能評価 方法につい て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3-1
冷 却性能評価 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3-2
各 種評価方法 の詳細説明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第4章
ペ ルチェ素子 について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4-1
熱 電効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4-1-1
トムソン 効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4-1-2
ゼーベッ ク効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4-1-3
ペルチェ 効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
4-2
熱 電冷却の基 礎式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
4―2-1
電熱冷却 のエネルギ ー収支・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
4―2-2
冷却のた めの消費エ ネルギ-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
4―2-3
成績係数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4―2-4
最大吸熱 量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4―2-5
最大温度 差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4―2-6
最大成績 係数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
4―3
熱 伝素子の性 能指数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
4-3-1
熱電材料 の性能指数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
4―3-2
ペルチェ 素子の材料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
4―3-3
熱電材料 の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
4-3-4
性能特性 図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
第5章
研 究目標の物 理量として の数値化の ための基礎 実験・・・・・・・・・・・35
5-1
高 密度プレー トフィンシ ンクによる 基礎実験・・・・・・・・・・・・・35
5-2
伝 熱グリスの 差による吸 熱能力の差 の実験・・・・・・・・・・・・・・・39
5-3
冷 却ユニット の吸熱能力 の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
5-4
改 良方針再確 認と基礎実 験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
5-4-1 改良方針 再確認・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
5-4-2 水冷ユニ ットによる 改良方針の 確認実験・・・・・・・・・・・・43
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
第6章
各 種ヒートシ ンクの解析 、実験によ る冷却性能 の比較検討 ・・・・・49
6-1
概 要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
6-2
プ レートフィ ン・ヒートシンクのス トレートフ ィンと
オフセット フィンのC AE解析に よる冷却性 能比較・・・・・・・・・49
6-2 -1
試料 形状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
6-2 -2
解析 条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
6-2 -3
解析 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
6-2 -4
解析 結果図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
6-3
オ フセットプ レートフィ ン・ヒート シンクのフ ード効果・・・・・53
6-3 -1
概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
6-3 -2
実験 条件と実験 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
6-4
高 密度プレー トフィン・ ヒートシン クの
ヒートブロ ック法によ る性能実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
6-4 -1
概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
6-4 -2
実験 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
6-4 -3
結果 の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
第7章
ピ ンフィン・ヒートシン クの詳細検 討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
7-1 概 要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
7-2 電 子機器用冷 却装置の性 能向上のた めの基礎検 討・・・・・・・・・・・・57
7-3 改 良方針の検 討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
7-3-1
熱伝達率 h 増加の可 能性の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
7-3-2
ピンフィ ンの効率η の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
7-3-3
銅製の ピンフィン による冷却 性能の実験 ・・・・・・・・・・・・62
7-4 軸 流ファン風 速分布偏在 性がピンフ ィンシンク 冷却性能に
及ぼす影響 の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
7-4-1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
7-4-2 軸流ファ ンの風速分 布の実測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
7-4-3 軸流ファ ンの風速分 布がピンフ ィンシンク 冷却
に及ぼす影 響のCAE 解析による 検討・・・・・・・・・・・・・・・66
7-4-4 軸流ファ ンの風速分 布がピンフ ィン・ヒートシンク
冷却に及ぼ す影響のラ バーヒータ ーによる検 討・・・・・・・73
7-4-5 ピンフィ ン・ヒートシンクの中 心部の
冷却寄与率 に関する冷 却実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
7-5 ピ ンフィンシ ンクの熱伝 達率 h の風 速との関係 に関する検 討・・80
7-5-1
熱伝達率 と風速の熱 流体力学に よる検討・・・・・・・・・・・・・80
7-5-2
ピンフィ ン・ヒートシンクの熱 伝達率 h の
風速 u との 関係実測デ ータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
7-6 熱 伝達促進の ための擬似 格子構造ヒ ートシンク による実験 ・・・・84
7-6-1
概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84
7-6-2
高密度プ レートフィ ンによる擬 似格子構造
ヒートシン クによる冷 却性能実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・85
7-6-3 トリップメッシュ擬 似格子構造 ヒートシン クの実験・・・85
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88
第8章
各 実験検討結 果に基づく 改良方針と 改良実験・・・・・・・・・・・・・・・・89
8-1 各 実験結果に 基づく改良 方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
8-2 風 速増加によ るペルチェ クーラーの 改良実験・・・・・・・・・・・・・・・90
8-2-1 ファンの 選定と特性 比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90
8-2-2 高速ファ ンによるヒ ートシンク の熱抵抗の 測定・・・・・・・91
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
第9章
発 泡多孔質体 の界面熱伝 達率の優位 性に関する 論理的考察 ・・・・93
9-1 緒 言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93
9-2 非 連結多孔質 体(粒子充 填層)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93
9-3 発 泡多孔質体 の熱伝達・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95
9-4 発 泡多孔質体 における熱 伝達モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
9-5 滲 み出し混合 流速の見積 もり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101
9-6 既 存の実験結 果と相関式 の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
第10章
改良シングルブロー法によるセラミック多孔質体の
高 精 度 な 界 面 熱 伝 達 率 の 決 定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
10-1
概
要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
10-2
緒
言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
10-3
実 験 装 置 と 実 験 手 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
10―4
実 験 結 果 の 検 討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113
10-5
結 論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
参 考 文 献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
11章
ピ ンフィン・ ヒートシン クと発泡多 孔質体ヒー トシンクの
冷却性能比 較実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
11-1
概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
11-2
実験試料仕 様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
11-3
実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119
11-4
実験結果の 検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126
第12章
ハイブリッ ドフィンシ ンクの性能 の検証と考 察・・・・・・・・・・・・127
12-1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127
12-2 実験試料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127
12-3 測定点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
12-4 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130
12-5 実験データ と理論式に よる比較検 討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135
第13章
軸流ファン によるハイ ブリッドフ ィンシンク の性能検証 ・・・・137
13-1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
13-2 実験試料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
13-3 実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
13-4 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139
13-5 実験結果の 検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140
第14章
流体で満た された多孔 質体チャネ ル強制対流 の
局所非熱平 衡モデルに 基づく厳密 解・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
14-1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
14-2 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
14-3 有効気孔率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・143
14-4 金属発泡体 の淀み有効 熱伝導率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146
14-5 等温高温壁 および低温 壁を有する
金属発泡体 充填チャン ネルの強制 対流熱伝達 ・・・・・・・・・・・150
14-6 等熱流束下 の金属発泡 体充填チャ ンネルの
強制対流熱 伝達・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・162
第15章
結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・166
付録―1
改良前ペル チェクーラ ーの外観と 仕様とノン ドレン・・・・・・・170
付録―2
新型ペルチ ェクーラー の仕様と従 来型との性 能比較・・・・・・・173
記号(熱電 素子に関す る記号)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・177
記号(熱流 体力学に関 する記号) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・178
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・180
第1章
序
論
1-1
研 究の背景
20 世紀後半のブロードバンドの実現に伴うパソコンとインターネットサービス
の普及、このサービスをインフラとして支える通信用のサーバー、ルーター、スイ
ッチ、これらの装置で構成されたデータセンターなどの情報インフラの増築が現在
も進んでいる。また、21 世紀に入り携帯電話の普及と、この通信サービスを支える
基地局の増設により通信網の拡大が進められている。図 1-1、1-2 に郊外の通信基地
局の例を示す。図 1-3 には小型通信基地信局(小型通信装置を収納した筐体)と、
これの冷却装置であるペルチェ素子を使った電子機器用冷却装置(以下本文ではペ
ルチェクーラと称す)が電柱に設置されている様子を示す。
図 1-1
郊外基地局ア ンテナ
1
図 1-2
郊外基地局コ ンテナ
小型通信基地局
(小型通信装置収納筐体)
ペルチェクーラ
図 1-3
小型通信局と ペルチェク ーラ
2
通信サービスをよりきめ細やかにするために、通信基地局の増設が必要となって
いる。しかし,ビルなどの建築物が乱立する都市部では大型の通信基地局が設置で
きないめ、図 1-3 に示すように、小型の通信装置を防水性のキャビネットに収納し、
ペルチェクーラで冷却する小型通信基地局が街角の電柱などに多数設置されている。
通信基地局や小型通信基地局の各種通信装置には多数の半導体素子が使用されてい
る。現代はインターネットや携帯電話は不可欠で、当たり前のものとなってきてい
る。このインターネットや携帯電話などの発達を牽引してきたのが、CPUに代表
される半導体素子である。図 1-4 にCPUの発熱密度の年代による推移を示す (1) 。
発熱密度[W/cm2]
10,000
1,000
100
10
1
1970
1980
1990
年 代
2000
2010
図 1-4 年代の経過とC PUの発熱 密度の年代 推移
図 1-4 のCPUの発熱密度の年代推移のグラフをみると、特に 1990 年から 10 年
ごとに発熱密度は 10 倍になっている。これらはインターネットおよび携帯電話の普
及と呼応している。このように情報通信インフラは拡大の一途をたどっている。し
かし、情報通信資本の成長という観点から見ると、過去 10 年間で、米国は約 4 倍の
成長、英国は約 4.5 倍の成長を示いるが、日本はこれらの約半分の成長に留まって
いる。分野別では「小売」「対個人サービス」「農林・水産」「医療・福祉」「教育」
において ICT(Information Communication Technology)の利活用が低迷している。
日本の情報通信産業の市場規模は全産業市場の 10%を占めており、日本の情報通信
3
産業はマイナス成長の時期も含めて、経済成長に対する寄与度は一貫してプラスを
維持しており、平成 19 年度のまでの 5 年間では平均 34%の寄与率を示している。
ICT の利活用が低迷している分野における情報化投資の加速と ICT 利活用の促進が
日本の今後の成長に必要であり、ICT による経済成長と国際競争力の強化が今後の
日本の繁栄にとって極めて重要である (2) 。
このような背景から、国策として ICT の利活用の促進政策も進められてきた。文
科省においては教育情報化推進委員会が平成 16 年に設置され、2005 年度末までに、
教室のインターネット接続率を 100%にすることを目標に掲げている (3) 。総務省と
文部科学省は 2011 年 7 月 6 日、「フューチャースクール推進事業」および「学びの
イノベーション事業」に係わる提案公募について発表した (4) 。都道府県、市町村、
これらの連携体および国立大学法人 1 校に ICT 利活用に関する措置に補助金を出す
というものである。
このように、国策としても情報通信事業の成長は非常に重要な位置にある。一方、
私生活でも、ますます必要不可欠となったインターネット、携帯電話などの情報通
信インフラを安全かつ確実に 24 時間連続運用することがさらに重要になってきて
いる。その上、携帯電話の通信サービスの内容が高度化し、通信負荷(トラフィッ
ク)は増える傾向にある。それと共に、通信エリアの拡大に応じて通信基地局の増
設が今も続いている。現在、半導体素子の主流は Si であり、ジャンクション温度は
170℃が限界である。この半導体素子を如何に正常動作温度に冷却できるかが情報通
信サービスを確実に提供するための大きな技術課題となっている。
図 1-5
CPUの冷却
4
図 1-5 に コ ン ピ ュ ー タ の 高 速 計 算 処 理 を す る 半 導 体 素 子 で 構 成 さ れ た 中 央
演 算 処 理 装 置 、 C P U ( Central Processing Unit) の 冷 却 の 例 を 示 し た ( 5 ) 。
C P U と プ レ ー ト フ ィ ン シ ン ク の 間 に 熱 伝 導 グ リ ス を 塗 り 、軸 流 フ ァ ン を ネ ジ
で 固 定 し 冷 却 す る 例 が 一 般 的 で あ る 。日に日に高度化する通信サービスの安定し
た提供は、CPUに代表される、半導体の冷却技術の如何にかかっていると言って
も過言ではなく、今後さらに冷却技術の重要 性 は 高 く な る と 考 え ら れ る ( 6 ) 。
半 導 体 の 進 展 と し て は 現 在 主 流 の Si に 変 わ り 、 SiC や GaN が 注 目 さ れ て い
る 。SiC に い て は 一 部 ス イ ッ チ ン グ 直 流 電 源 に 実 用 化 さ れ つ つ あ る ( 7 ) - ( 8 ) 。こ れ
ら の 素 子 は ジ ャ ン ク シ ョ ン 温 度 が 200℃ と 高 い 上 に 、ス イ ッ チ ン グ 時 の 排 熱 ロ
ス が 従 来 の Si 素 子 の 1/10 と 言 わ れ て お り 、将 来 は C P U に も 展 開 さ れ る こ と
は 間 違 い 無 い 。 し か し 、 図 1-4 の C P U の 熱 密 度 の 変 遷 が 示 す よ う に 、 Si 素
子 の 性 能 が 向 上 す る と そ の 性 能 を 限 度 ま で 使 う 技 術 が 出 現 し 、素 子 の 性 能 向 上
と 共 に 素 子 の 発 熱 密 度 を 高 め 、冷 却 技 術 が 従 来 に 比 べ さ ら に 重 要 と な っ て き た 。
SiC や GaN も Si と 同 じ 発 熱 密 度 の 歴 史 を た ど る こ と は 十 分 考 え ら れ る 。一 方 、
素 子 そ の も の の 冷 却 技 術 の 革 新 を 追 及 し た 、マ イ ク ロ チ ャ ン ネ ル な ど に よ る 冷
却 技 術 も 20 年 近 く 研 究 が 続 け ら れ て い る ( 9 ) - ( 1 4 ) 。レ ー ザ ー 素 子 の 冷 却 や 一 部 の
コ ン ピ ュ ー タ で の 実 用 例 は あ る が 、数 は 少 な く 、一 般 的 な 半 導 体 素 子 の 冷 却 に
ま で は 普 及 し て い な い 。従 っ て 、従 来 の 放 熱 シ ン ク に よ る 強 制 対 流 に よ る 冷 却
技 術 は 今 後 も 主 流 で あ り 、効 率 の 良 い 放 熱 シ ン ク な ど の 研 究 開 発 は 今 後 も 重 要
と な る ( 1 5 ) - ( 1 7 ) 。こ の 技 術 的 基 礎 と な る 熱 流 体 力 学 の 重 要 性 も ま す ま す 大 き く な
るものと考えられる。
さ ら に 、素 子 単 体 の 冷 却 は 言 う に 及 ば ず 、こ れ ら の 素 子 で 構 成 さ れ た 通 信 装
置 や ス イ ッ チ ン グ 電 源 、こ の 装 置 を 覆 う ケ ー ス 、さ ら に は こ れ ら の 半 導 体 を 使
用 し た 機 器 類 や 通 信 装 置 を 収 納 す る キ ャ ビ ネ ッ ト 、ラ ッ ク 、こ れ ら の キ ャ ビ ネ
ットやラックを多数設置したデータセンターや基地局全体にまでに合理的な
熱 対 策 の 必 要 性 は 及 ん で い る 。特 に 、小 型 基 地 局 は 携 帯 電 話 の サ ー ビ ス の 内 容
の 高 度 化 と 通 信 網 の 拡 大 、細 密 化 の た め 、前 述 し た よ う に 都 市 部 の 電 柱 な ど に
設 置 さ れ る こ と が 増 え て 来 て い る 。そ れ に 伴 い 通 信 装 置 と そ の キ ャ ビ ネ ッ ト も
5
小 型 化 の 傾 向 に あ り 、こ れ ら を 冷 却 す る ペ ル チ ェ ク ー ラ の 小 型 化 、高 性 能 化 の
要 求 が 強 く な っ て き た 。こ の 要 求 に 応 え る こ と は 通 信 技 術 を 陰 で 支 え 、利 便 性
の 維 持 や 緊 急 時 の 連 絡 の 確 保 な ど 社 会 性 も 高 い た め 、積 極 的 に ペ ル チ ェ ク ー ラ
の 小 型 高 効 率 化 の 改 良 研 究 を 、次 世 代 に 繋 が る 放 熱 シ ン ク の 可 能 性 の 追 求 と 共
に進める事にした。
1-2
本論文の構成
本論文は、15章からなり、第2章「電子機器用冷却装置の説明と改良研究目標 」
では、ペルチェクーラの構成ユニットの説明と、期待される研究目標について述べ
ている。従来のペルチェクーラの概要、性能、仕様は付録1に示してある。第3章
「冷却性能評価方法について」では、本研究で行った様々なシンクの放熱性能実験
や冷却性能実験方法を記述してある。各章、各項で同様の実験方法が何回も出てく
るが,その都度の詳細説明は極力止め,4 種の代表的な実験方法について説明し、
名称だけで分るようにした。第4章 「ペルチェ素子について」では、電子機器用冷
却装置の心臓部である、ペルチェ素子について重要と思われる項目についてまとめ
た。第5章「研究目標の物理量としての数値化のための基礎実験」では、研究の初
期段階に位置づけられる各種基礎実験を行っている。筐体の容積の冷却能力への影
響、各部熱抵抗の影響の検討を行い、とくにグリスの影響について調べた。また、
従来のペルチェモジュールの吸熱能力の限界を具体的に把握し、ペルチェクーラの
放熱に関する式、 Q h =Q c + P を検討した。また、第2章の改良目標を、実験値をも
とに物理量としての目標値を具体化し、ペルチェユニットの水冷ユニットによる実
験で放熱抵抗半減が吸熱能力も向上につながることを確認している。第6章「各種
ヒートシンクの解析、実験による冷却性能の検討」では、数種類のヒートシンクの
CAE解析や実験を行い、各シンクの性能向上に対する有用性の是非の検討を行っ
ている。第7章「ピンフィン・ヒートシンクの詳細検討」では、前述の多くの検討結
果から、空冷で現状のピンフィン・ヒートシンクで熱抵抗を半減という目標を熱流体
力学的な問題として捉え、現状のピンフィン・ヒートシンクの熱伝達率 h の向上によ
る放熱シンクの熱抵抗の半減という方向が明確にし、従来のペルチェユニットの放
6
熱シンクの熱伝達率 h を物理量の数値として具体化した。次に、文献で向上できる
余地について検討した。また、フィン効率について検討し、実験で改良の余地の有
無の検討をした。ペルチェクーラには軸流ファンを使用するが、軸流ファンにはそ
の外縁部と中央部では風速分布に極端な差があるという、風速の偏在性という問題
がある。これとピンフィン・ヒートシンクを組み合わせた場合の風速の偏在性が冷却
性能に及ぼす影響の有無について徹底的に調べた。また、ピンフィンヒート・シンク
の熱伝達率 h と風速 u の関係について熱流体力学の理論式の検討と、実測データの
検討から熱伝達率 h と風速 u との関係を具体化した。この関係基づき適切なファン
を選定し放熱フィンの熱抵抗を半減を実現し、回路構成の変更により冷却性能の向
上を従来のピンフィン・ヒートシンクの大きさで実現すべく、2 種類のヒートシンク
に乱流促進構造を付加し、それぞれの試料で冷却性能の向上の効果について実験結
果の報告を行なっている。第8章「各実験検討結果に基づく改良方針と改良実験」
では、今までの解析、実験、理論的検討結果について再検討を行い、物理量として
の改良方針の再確認を行ない、最終的には風速を従来の 4 倍のファンの使用により
熱抵抗を半減し、従来の約半分の大きさの小型化した製品を実現するとともに、回
路構成なども変更することでCOPを世界1の水準にし、機会学会の技術賞も受賞
した。付録-2にこれらの詳細説明を載せた。第9章「発泡多孔質体の界面熱伝達率
の優位性に関する理論的考察」では、発泡多孔質体はピンフィンと異なり、熱伝達
率が風速の約 1 乗に比例する点に注目した。この発泡多孔質体とピンフィンシンク
の熱伝達の機構の差を、発泡多孔質体の物理モデルに基づく 2 エネルギー方程式を
求め、さらに局所体積平均理論により発泡多孔質体の熱伝達率が風速の約 1 乗に比
例する半理論式を導出した。また、各研究者の論文データとの比較においてよい一
致を示したことを報告している。第10章「改良シングルブロー法によるセラミッ
ク多孔質体の高精度な界面熱伝達率の決定」では、第9章で理論的に証明した、発
泡多孔質体の界面熱伝達率が風速の約 1 乗に比例することを、従来法より高精度か
つ再現性の高い改 良 シ ン グ ル ブ ロ ー 法 を 用 い て 各 種 セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 の 熱 伝
達 率 測 定 実 験 を 行 う こ と で 、実 験 で も 発泡多孔質体の熱伝達率が風速の約 1 乗に
比例することを証明した。第 11章「ピンフィンシンクと発泡多孔質体シンクの冷
7
却性能比較実験」では、同じ大きさのアルミ製のピンフィンシンクと金属発泡体シ
ンクの伝熱特性の比較実験を行い、ピンフィンシンクの熱伝導と発泡多孔質体の熱
伝達の優位性を明らかにしている。第12章「ハイブリッドフィンシンクの性能の
検証と考察」では、ピンフィンシンクの熱伝導特性と発泡多孔質体の熱伝達特性の
それぞれの優位性を組み合わせたハイブリッドシンクを作成し、熱伝達率の測定実
験を実施し、熱伝達率がピンフィン・ヒートシンクより約 2 倍向上することを示す
とともに、理論解析を行い理論式が実験値と一致することを報告している。第13
章「軸流ファンによるハイブリッドフィンシンクの性能検証」においては、小型ヒ
ートシンクとしての応用を念頭に置き,軸流ファンによるハイブリッドシンクの熱
伝達性能の実験を行い、その有用性を明らかにしている。第14章「流体で満たさ
れた多孔質体チャネル強制対流の局所非熱平衡モデルに基づく厳密解」では、従来
の2エネルギー方程式で使用されてきた流体相と固体相の熱伝導に関する式が過り
であることを淀み熱伝導率から有効気孔率を導出することで証明している。また、
有効気孔率の概念が、流体で満たされた多孔質体チャネル内の固体相と流体相、そ
れぞれの有効熱伝導率に与える迷路係数と熱分散の効果を説明するために有効であ
ることを示している。この有効気孔率の概念を使って、局所非熱平衡モデルに基づ
き,発泡金属充填チャネル内の強制対流熱伝達の厳密解を得ている。局所熱流束壁
と局所熱平衡壁の理論的考察から、実際の見積もりにおいては、局所熱平衡壁の条
件を用いるべきであることを明らかにしている。
8
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J94-C(11),pp. 441-447,2011.
(11)F.Y.LM et al.,Simulation of the Macroscopic Heat Transfer and Flow
Behaviours in Microchannel Heat Sinks Using Porous Media Approximation,
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(12) D.B. Tuckerman and R.F.W. Pease,High-performance heat sinking for
VLSI,IEEE Electron Device Letters, vol. EDL–2, no. 5, pp.126–129, 1981.
9
(13)
S. Sasaki and T. Kishimoto, Optimal structure for microgrooved cooling
fin for high-power LSI devices, Electronic Letters, vol. 22, no. 25,
pp.1332–1334,1986.
(14) C.Bower et al.,HEAT TRANSFER IN WATER COOLING SILICON CABIDE MILLI-CHANNEL
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2003 ASME Internatioal Mechanical Engineering Congress & Exposition
Wasington DC,pp.1-9,2003.
(15) Sidy Ndao et al.,Multi-objective thermal design optimization and
comparative analysis of electronics cooling thechnologies,Internatinal
Journal of Heat Mass transfer 52,pp.4317-4326,2009.
(16) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山顕, 発泡金属充填ピンフィンヒートシン
クを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782
号,1958-1967,2011.
(17) 安藤健志, 桑原不二朗, 楊臣, 中山顕, 発泡金属充填チャンネル流路の強制
対流熱伝達の局所熱平衡解析,化学工学会論文集, Vol.39, No.2,
pp.78-85,2013.
10
第2章
電 子機器冷却 用装置の説 明と改良研 究目標
2-1 電 子機器冷却 装置につい て
小型基地局に設置される通信装置の発熱は数 10Wと小さく、屋外設置における、
一昔前の方法は、密閉度の高い筐体に収納し、自然放熱で冷却していた。そのため
大きな放熱面積が必要になり、通信装置の大きさに比べ数倍もの大きさの筐体に収
納し、コストもかかっていた。また、筐体が大型のため本来は小型で軽量である通
信装置も筐体を入れた総重量は重くなり、設置時の作業性の悪化などの影響もあっ
た。自然放熱の研究などもなされたが、実用化に至っていない (1) 、 (2) 。通信用筐体の
空冷限界などについて論じた論文も複数あるが、具体的な事例には対応出来ていな
いのが実際のところのようである (3)-(6) 。そこで、100W程度の冷却能力のクーラであ
れば小型通信基地局の通信装置を収納する筐体を確実に冷却し、なおかつ、小型化
でき、電柱などの高所作業における作業性の向上、安全性の向上が確保しやすい利
点がある。そのため、近年、100Wの程度の冷却能力のペルチェクーラが採用された。
コンプレッサ式のクーラでは 400W程度までしか小容量化が出来ないこと、ポンプ、
コンプレッサなど稼動部による振動、冷媒の補充などメンテナンスも必要である。
ペルチェクーラの稼動部はファンだけであり、ポンプなど振動の大きい稼動部が無
く、冷媒のメンテナンスも不要であることも、ペルチェクーラが採用される理由で
ある。また、ペルチェクーラを実装した専用筐体もある (7) 。図 2-1 にペルチェクー
ラの構成要素と吸熱性能 100Wのペルチェクーラの外観を示す。ペルチェクーラは
大きさ40mm×40mm、厚さ 4mmのペルチェ素子を、W100×H37×D130 の大き
さのアルミ合金製で、2mm□のピンフィンシンクに熱伝導グリスで密着させ、他の
隙間を断熱材で埋め、吸熱側と放熱側のピンフィンシンクをバネ入りのネジで一定
の締め付けトルクで締め付けて組み立てた、ペルチェユニットを基本構成要素とし
ている。ペルチェクーラの定格に合わせてペルチェユニットを必要数使用し、各定
格のペルチェクーラを作成している。図 2-2 にペルチェクーラの基本構成要素であ
るペルチェユニットの外観を示す。
11
ペルチェクーラー
ペルチェ素子
図 2-1
ペルチェユニット
ペルチェクー ラの構成要 素と外観
吸熱側
吸熱側
放熱側
図 2-2
ペルチェユニ ット外観図
130
ペルチェ素子
100
図 2-3
ヒートシンク 上のペルチ ェ素子配置
12
図 2-2 のペルチェユニットの上部が吸熱側、下部が放熱側であり、図 2-3 に示す
ようにペルチェ素子を 3 枚配置するのが基本構成である。これらのペルチェ素子を
直列につなぎ、所要の電流を流し、軸流ファンを使用し吸熱と放熱を行う。吸熱能
力は図 2-2、図 2-3 に示したペルチェユニット単体では約 65Wである。このペルチ
ェユニットを 2 台使い、ファン、電源、表示装置などと一緒に組み立てて、約 100W
の吸熱性能のペルチェクーラとする。詳細な仕様は付録―1に示す。
2-2
研 究目標と方 針
第1章で述べたように携帯電話の基地局の増設が続いている。通信機器はその
サービスの内容が高度化を続け、黒電話の時代は音声のみの電信で良かったものが、
音声と文字、さらには画像の送信、動画の伝送、近年ではインターネットのモバイ
ル端末化、と激しく進化している。これに伴い通信トラフィックは増加し、高容量、
高速の通信サービスをよりきめ細かく確実に行う必要が出てきた。さらに、従来に
比べより高性能かつ小型化した通信装置を使った小型基地局が各地に多数設置され
るようになり、冷却装置も小型、高効率化が求められるようになった。この結果、
以下に示す目標を満たすペルチェクーラの改良研究が必要になった (8),(9) 。
研究目標
1)小型化の要求:従来のサイズを半分にする
2)冷却性能
:従来の吸熱性能 100W維持
3)COP
:従来の 0.56 から 1 以上にする
注:ここで言うCOPはペルチェクーラの全消費電力と吸熱量の比
方針
以上 3 つの研究目標は一応数値で示してある。しかし、この研究目標を実現する
ためには、目標とする数値をより具体的な、制御できる物理量として数値化する必
要がある。このため、冷却に関する基礎実験を行い、物理量としての数値目標の具
体化から始めることにした。
13
参考文献
(1) 岡崎多佳志,瀬下裕,前田有美, 移動体通信機極の冷却システムに関する研究
冷媒自然循環を用いる冷却装置の性能解析,日本機械学会論文集,B編 71(707),
pp.1878-1884,2005.
(2) 中里典生,平沢茂樹,森利行,真藤孝徳, 通信機器きょう体内フィン付鉛直基
板の自然対流冷却,日本機会学会論文集(B編),61 巻,587 号,pp.2667-2681,
1995.
(3) 中山亘, 電子機器の空冷技術:その適用限界を探る, REAJ 誌,Vol.29,No.2,
pp.438-445,2007.
(4) 平澤茂樹ら,LSIチップ内のSOI構造トランジスタ素子の熱解析,日本機械
学会論文集(B 編),62 巻,593 号,pp.405-409,1996.
(5) 佐藤圭,鈴木恭宜,三村哲也,楢橋祥一、野島俊男,小型極低温受信フロン
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(6) 宮坂明宏,加保貴奈,三次仁,中須賀好典,上羽正純,発熱特性信号による衛星搭
載用中継器の発熱低減評価,日本航空宇宙学会論文,Vol.52,pp.507-513,2004
(7) 屋外通信用キャビネット ReiCabi,日東工業、販促資料,2011.
(8) Ando, K., Nakayama, A., Imai, Y., Hirai, H., Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media, AIP Conf. Proc. Vol. 1254, pp. 27-32, Proc.
3rd Int. Conference on Porous Media and Its Applications in Science,
Engineering and Industry, 2010.
(9) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝達
率の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,2013.
14
第3章
冷 却性能評価 方法につい て
3-1
冷 却性能評価 方法
第2章のペルチェクーラの性能向上のための、研究目標を制御できる物理量とし
ての数値目標として具体化するためには、各種シンクの冷却性能を多数の実験で調
べる必要がある。この実験方法には、製品の規格に基づく冷却性能評価、シンクの
冷却性能を簡便に比較する評価方法などがあり、各種実験において各種冷却評価方
法を必要に応じて使い分けている。各章の項目でその都度試験方法の説明を極力省
くため、本項に各試験方法をまとめ、各試験方法が名称で分かるようにした。冷却
性能の評価は温度測定技術が基本であり各種規格、多くの文献に記述されている基
本の方法を元に行なっている (1)-(5) 。必用に応じて試験方法を図で説明することもあ
る。
以下の 4 種の試験方法が主に使用される:
1)二重箱法・・・・規格に基づく製品性能評価やペルチェユニット性能評価
2)ヒートブロック法・・シンクの冷却性能、熱抵抗の相対評価等に使用する
3)吊り下げ法・・・室温にモジュールなどを吊るした状態で冷却実験をする
4)ダクト法・・・・ダクトに試料を設置し送風しヒートブロックと組み合わ
せて性能評価をする
3-2
各 種評価方法 の詳細説明
1)二重箱 法
ペルチェクーラの冷却性能の評価は熱関連機器工業会の試験規格 (1) で行う。こ
の冷却性能評価法には二重箱法とエンタルピー法の 2 種類がある。二重箱法の方
がエンタルピー法より実際の使用条件に近い性能が分かるため、試験規格ではエ
ンタルピー法で求めた能力には 0.7 を乗じて実質的な性能としている。今回のヒ
ートシンクの性能評価には、二重箱法を多用している。二重箱法は断熱した試験
筐体に発熱体と評価試料を設置し、試験筐外部温度を一定に保てる恒温槽内に置
く。規格では、槽内の温度を 35℃に設定し、試験筐体内の電熱ヒータを発熱させ、
15
断熱筐体に設置した試料クーラを作動させる。筐体内部の温度が 35℃になり筐体
外部の温度と平衡になったときのヒータの消費電力をクーラの吸熱能力と考え
ることができる。図 3-1 に二重箱法の概念図を示し、断熱箱の例を図 3-2 に示す。
恒温槽内部 温度 35[℃]
断熱箱
試験筐体内 部温度
ヒーター
35[℃]
クーラ
電力計
W
図 3-1
図 3-2
二重箱法の概念
断熱箱(ペル チェユニッ ト評価の例 )
16
恒温槽
ヒートシンクの冷却性能などの相対評価においては、恒温槽ではなく恒温室も使
用する。また設定温度も冷却装置の評価では 35℃であるが、ヒートシンクや冷却ユ
ニットなど、部材の冷却特性の相対評価では温度の値を特に定めていない。但し、
断熱箱内部と外部の温度を同じ値にすることで評価を行い、筐体内部と外部の温度
が同じ温度で平衡状態になったときのヒータに供給した電力を試験試料の吸熱性能
とみなす点は規格試験と同じである。各部の温度は熱電対で計測する (2),(3) 。
2)ヒートブロ ック法
主にヒートシンクの冷却特性の相対評価を行う場合に使用する簡便法である。熱
抵抗も求められる。図 3-3 にヒートブロックの概観図と構成部材を示す。
図 3-3
ヒートブロッ ク
メインヒータで発熱量を制御し、ガードヒータはメインヒータと同じ温度になる
ようにコントロールする。両ヒータの温度差が 0.2K以内になるように設定する。
これにより図 3-3 に示すベークライトはほぼ断熱状態となり、メインヒータからの
熱は銅版を通して、ほぼ 100% 試験試料に供給される。周囲温度 T a [℃]と試料シン
クの温度 T s [℃]を測定し、メインヒータの供給熱量 Q h [W]から、ニュートンの冷
却の式 Q h = hA ( T s -T a )により hA を決定する。ここで、 h は熱伝達率[W/m 2 K]、
A は試料シンクの表面積[m 2 ]である。R th =1/ hA が熱抵抗[K/W]となる。各種
ヒートシンクの冷却性能の相対比較がこの試験方法により可能となる。試験装置の
17
概要を図 3-4 に、ヒートブロック部を図 3-5 に示す。それぞれの実験で各部の温度
の測定は熱電対 (2) を使用し、JIS規格に準じた方法で行う (3) 。
図 3-4 ヒートブロック 試験装置の 概要
図 3-5
ヒートブロッ ク部
18
3)吊り下 げ法
ラバーヒータや試料シンクに適切な熱量を与えた時の熱分布を正面や背 面 から 、
サーモグラフィで確認する ( 6)-(8) 。大型ペルチェユニットでヒートブロック法の適
用が困難な場合、そのヒートシンクの冷却性能を調べる場合に、常温の部屋などで
行う簡便な評価方法である。ラバーヒータとサーモグラフィの例を図 3-6、大型ペ
ルチェユニットの例を図 3-7 に示す。
図 3-6 サー モグラフィ の例
図 3-7 ペルチェユニッ トの例
4)ダクト 法
ブロア
風速計
ヒータ
熱電対
熱電対
試験試料
図 3-8
ダクト法
19
ダクト中央に注目する試料で構成したヒートブロックを設置し、インバータで風速
を変え、アネモメーター (9)-(12) で風速を測定し各部の温度を熱電対で測定し、ヒー
トシンクの冷却性能を把握する方法である。図 3-8 に試験装置の概観図を示す。こ
のような試験方法を駆使し次世代のヒートシンクの研究をすすめる (13),(14) 。
参考文献
(1) 電子冷却式盤用クーラーの性能評価試験方法,技術資料
第 008 号-2009
TECTA 盤用熱関連機器工業会,2009.
(2) JIS C1602-1995
熱電対,日本規格協会,1995.
(3) JIS Z8710-1993
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(4) 伝熱工学資料,第1章 温度測定、日本機械学会、改定4,pp.285-303,1986.
(5) 石塚勝,電子機器の熱設計基礎と実際 12.1 温度測定法, 丸善,
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(6) D.Auer,サーモグラフィポケットガイド,TestoAG,2009.
(7)出 村 克 宣:赤 外 線 サ ー モ グ ラ フ ィ に よ る 室 内 空 間 の 温 度 分 布 測 定 ,社 団 法 人
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wire Thermal flow sensor,International Journal of Physics and ence,Vol.6
pp.3270-3278,2011.
(12) 菱田幹男,長野靖尚,田代真一郎:速度変動と温度変動の同時測定,日本機械
学会論文集,43-365,pp.225,1977.
20
(13) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山顕, 発泡金属充填ピンフィンヒートシン
クを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782
号,1958-1967,2011.
(14) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕,連結・非連結多孔質体の界面熱伝達
率の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,2013.
21
第4章
ペルチェ 素子につい て
ペルチェクーラの性能向上、小型化においてペルチェ素子の特性について理解し
ておくことは重要である。また、熱的基礎実験の動作温度を知る場合に、特にペル
チェ素子の I - Q c 吸熱特性上での検討が有効であることから,熱電効果とペルチ
ェ素子の基本について各種文献を参考にしてまとめた (1)-(4) 。
4-1
熱 電効果
電気と熱の間の現象を熱電効果(thermoelectric effect)と称す。この熱電効果に
は三つあり、トムソン効果(Thomson effect)、ゼーベック効果(Seebeck effect) 、
ペルチェ効果(Peltier effect)である。電流が流れると抵抗で発熱するジュール熱
(Joule heating)があるが、一般には熱電効果には含まれない。ペルチェ効果につい
ては後の項で詳細な説明を行う。ここでは、トムソン効果とゼーベック効果につい
てその概要を説明する。
4-1-1
トムソン 効果
B
A
I
TB
TA
V
図 4-1
トムソン効果 の原理図
図 4-1 に示すように、一つの導体、または半導体の中に温度差が存在する場合、
これに電流を流すとジュール熱の他に、熱の発生または吸収がみられる。この
熱量を Q T とすると、以下のような式で表される。
Q T =σ・ I ・ ΔT
(4-1)
ここで I は電流[A]、ΔT は温度差( T A ― T B )[K」をあらわしている。またσは
比例定数でトムソン係数(Thomson coefficient)と呼ぶ。温度の高い方から低い方
(図4-1において T A > T B )へ電流を流したとき熱が発生する場合、トムソン係
数σが正となるように定めている。この様な熱の発生、または吸収の現象は 1851
22
年トムソン(Sir W.Thomson)が発見し、トムソン効果と呼ぶ。この現象はペルチェ効
果の利用を考える場合、厳密には考慮する必要があるが、実際問題としては無視す
ることが多い。
4-1-2
ゼーベッ ク効果
I
1
TB
TA
A
B
I
2
図 4-2 ゼーベック効果 の原理図
図 4-2 の よ う に 異 種 の 2 つ の 導 体 、 あ る い は 半 導 体 を 接 続 し て 閉 回 路 を 構 成 し 、
2 種の導体の接続点、A、B点の温度 T A 、 T B が異なる場合、この閉回路に電流 I
が流れる。即ち、この回路に起電力が発生する。この現象は 1821 年ゼーベック
(T.J.Seebeck)が発見した。これをゼーベック効果と呼び、誘起された起電力を熱起
電力(thermoelectric electromotive force)という。一つの材料の定数として、温
度差1K当たりにに誘起される熱起電力αを考え、これを絶対熱起電力(absolute
thermoelectric power)という。これは他の熱電効果をまったく示さない仮想的な材
料を組み合わせた場合の熱起電力である。図 4-2 に注目し、材料 1,2 の絶対熱起電
力をα 1 、α 2 とすれば、熱起電力 V 12 は次のように表される。
V 12 =(α 1 -α 2 ) ΔT
(4-2)
ΔT =( T A ―T B )
(4-3)
このゼーベック効果または熱起電力は、古くから金属材料の組み合わせを使って、
温度測定、熱放射測定、赤外線検出などに使われてきた。熱電対(thermocouple)が
その代表である。半導体を使うと、金属材料に比べて大きな熱起電力が得られるの
で、ゼーベック効果を使った熱発電が考えられるようになり、研究が盛んに行われ
ている。
23
4-1-3
ペルチェ 効果
A
1
I
2
V
図 4-3
ペルチェ効果 の原理図
図 4-3 はペルチェ効果を説明するための原理図である。1 および 2 の二種の導体
を接続し、これに直流電流 I を流すと、接続点Aで熱の発生あるいは、熱の吸収が
起こる。図示した方向の電流Iで熱の吸収が起こる場合、電圧Vの極性を反転し、
電流の方向を逆にすると、熱の発生が起こる。この現象はペルチェ(J.C.A.Peltier)
によって 1834 年に発見されたもので,ペルチェ効果という。この効果は古くから
知られていたが、半導体工学の発展とともに効率の良い素子が開発され、各種冷却
装置に使用されるようになってきた。
4-2
熱 電冷却の基 礎式
ペルチェ素子は図 4-3 に示す金属 1,2 をP型、N型の半導体素子にし、この組を
多数(典型的なモジュールでは 127 対ほど)直列に接続し、図 4-4 に示すようなペ
ルチェモジュールとしている (5) 。
銅電極
リード線
セラミック基板
熱電半導体(N型)
熱電半導体(P型)
図 4-4
ペルチェモジ ュールの概 観図
24
原理を理解しやすくするため1対のP型、N型半導体素子の組により構成された
基本的なペルチェ素子の簡易図を用いる。熱電素子の基礎式の検討により、ペルチ
ェ素子を冷却装置、特に筐体の冷却に使用する場合の技術的課題について述べる。
吸熱フィン
熱伝導性グリス
電気絶縁板
導体
P 形 半 導
N 形 半 導
+
-
導体
電気絶縁板
熱伝導性グリス
電
流
図 4-5
4―2-1
放熱フィン
PN半導体の ペルチェ素 子の原理図
電熱冷却 のエネルギ ー収支
図 4-5 に示すように、P型、N型半導体、一対の素子に電流 I を流したとき、上
部が冷却側となりN型およびP型の半導体と導体の接触部で吸熱が行われる。また、
図 4-5 の下部が放熱側となり吸熱側と同様、各半導体と導体の接触部で発熱が起こ
る。これらの吸熱量を Q c とし、放熱側の放熱量を Q h とすると、それぞれが以下の
式で示される。
Q c = α e T cj I-(ReI 2 )/2-K e ΔT j
(4-4)
Q h = α e T hj I+(ReI 2 )/2-K e ΔT j
(4-5)
T Cj :冷却側接合部温度[K]
T hj :放熱側接合部温度[K]
α e : T Cj と T hj の平均温度における素子一対のゼーベック係数 [V/K]
25
R e :素子一対の電気抵抗 [Ω]
K e :素子一対の高低温接合部間熱コンダクタンス [W/K]
ΔT j : T hj -T Cj
[K]
式(4-4)、式(4-5)両式の第一項は電流によってそれぞれの接合部に発生するペ
ルチェ熱である。第二項は同じく電流によって発生するジュール熱であり、冷却
側と放熱側に半分づつ分配されて流入する。第三項は高温接合部から低温接合部
に貫流する熱伝導による流入熱である。即ち、冷却側で吸収される熱量 Q c は、
ペルチェ効果による吸熱量から、ジュール熱の半分と温度差により高温側から流
入する熱量を差引いたものである。また、発熱側で放熱する熱量 Q h はペルチェ
効果による発熱量にジュール熱の半分を加えたものから、温度差による低温側に
流出する熱量を差し引いたものである。これらの式にはトムソン効果 (1) の熱は考
慮されていない。ゼーベック効果は温度により変化し、実際には吸熱側と放熱側
のゼーベック係数は異なる。しかし、ゼーベック係数として高低温間の平均温度
α e を用いることで、近似的にトムソン効果を計算に組み入れたことになる。
4―2-2
冷却のた めの消費エ ネルギ-
熱電冷却において一対の素子間の電圧 V e は下式
V e =α e ΔT j + R e I
(4-6)
であり、温度差があるときは熱起電力に打ち勝つための余分な電圧を加える必要
がある。消費されるエネルギー(電力) P は
P = V e I =(α e ΔT j + R e I ) I
(4-7)
となる。また、エネルギー収支から見て
P = Q h- Q c
(4-8)
でなければならない。
また、放熱側の放熱量は
Q h = Q c+ P
(4-9)
であり、放熱側の吸熱量に消費電力Pが加算されたもので、吸熱量に比べると大き
26
くなる。特に消費電力 P は電流 I の増加に伴ってこの 2 乗で急速に増大する。この
熱をできるだけ効果的に放熱させることが、熱電冷却を実用化するに当たって最も
重要な技術課題である。
4―2-3
成績係数
消費したエネルギー(電力) P に対する吸熱量 Q c の割合を 成 績係 数(COP)という 。
COP をφ c とすれば
φ c= Q c/ P
(4-10)
で表すことができる。
4―2-4
最大吸熱 量
前述 の式(4-2) Q c = α e T C j I -( R e I 2 )/2- K e ΔT j は 電流 I の 二 次 関 数 で あ る 。
吸熱量 Q c が最大になる電流 I qcmax は、 Q c を I で微分し dQ c / dI =0 と置けば
I qcmax =α e T Cj / R e
(4-11)
となる。このときの電圧 V qcmax は V qcmax = I qcmax ・ R e =α e T Cj で示される。
V qcmax =α e T Cj =α e T hj ( ΔT J = T hj - T Cj =0)
さらに、
となる。
また、このときの最大吸熱量 Q cmax は
Q cmax =α e 2 T Cj 2 /2 R e ― K e ΔT j
(4-12)
となる。これは ΔT j = T hj - T Cj =0 のとき K e ΔT j =0 となり最大となり、これ
を一般的に最大吸熱量 Q cmax と呼ぶことが多い。従って、 Q cmax =α e 2 T Cj 2 /2 R e
このとき T hj = T Cj であるから I qcmax =α e T hj / R e でもあり、
Q cmax =α e 2 T hj 2 /2 R e = V qcmax ・ I qcmax /2= P qcmax /2
となり、最大吸熱量の時の COP は 0.5 となる。
4―2-5
最大温度 差
前述の式(4-4)は式(4-14) と書き換えることができる。
27
(4-13)
Q c =α e T Cj I -( R e I 2 )/2- K e ΔT J
(4-4)
Q c =α e ( T hj - ΔT J ) I -( R e I 2 )/2- K e ΔT J
(4-14)
Q c および低温接合部の最低到達温度( T Cj ) mini また高温接合部温度 T hj のいずれか
が与えられたとき、接合部温度差 ΔT J が最大になる電流 IΔT jmax は ΔT J を I で
微分し dΔT J / dI =0 と置けば
IΔT jma x =α e ( T Cj ) min i / R e =( K e /α e )[{1+2 Z ( T hj + Q c / K e )}1/2-1]
として求められる。式中のZは熱電素子の性能指数と呼ばれるもので、
Z =α e 2 /( R e K e )
(4-15)
と表される。
4―2-6
最大成績 係数
高・低温両接合部の温度 T hj と T cj が与えられたとき、冷却の成績係数が最大にな
る電流 IΦ max は
IΦ max =α e ΔT J / R e ( M -1)
(4-16)
である。ただし、M =(1+ ZT j ) 1/2 であり、T j =( T hj + T Cj )/2 とした式である。
このときの電圧 VΦ max は
VΦ max =α e ΔT J M /( M -1)
(4-17)
となる。また、冷却の最大成績係数 Φ max-cool は
Φ max-cool =( T hj / ΔT J )( M - T hj / T Cj )/( M +1)
(4-18)
である。
4―3
熱 伝素子の性 能指数
熱伝冷却における最大吸熱量 Q cmax 、最大温度差 ΔT Jmax 、最大成績係数 Φ max
の式の中には、熱伝素子の性能特性を示すゼーベック係数α e 、電気抵抗 R e 、熱コ
ンダクタンス K e および、性能指数 Z =α e 2 /( R e K e )などが含まれていて、 Z が
大きいほどこれらの値はいずれも大きくなり、熱電冷却の性能が優れていること
を示している。このことはまた、熱電発電における最大出力、最大変換効率などに
対しても同じことが言える。
28
4-3- 1
熱電材 料の性能指 数
これまでの説明では、熱電素子の性能指数 Z =α e 2 /( R e K e )とし、(P+N)1対
素子のものとして扱ってきた。しかし、材料の性能指数は、P、Nそれぞれについて
評価しなければならない。今、P型・N型熱電材料のゼーベック係数、抵抗率、熱
伝導率をそれぞれα p・α n 、ρ p・ρ n 、κ p・κ n とし、断面積および長さを A p ・ A n 、
L p ・ L n とすると(P+N)1対素子では
α e =α p -α n =α p +|α n |
R e =ρ p ( L p / A p )+ρ n ( L n / A n )
K e =κ p ( A p / L p )+κ n ( A n / L n )
で表される。α e は素子の寸法に左右されないが、熱電素子(対)の性能指数 Z を最大
にするには R e 、K e が最小になるように、P型・N型の素子寸法を最適にしなけれ
ばならない。その条件を求めると、
( L n A p )/( L p A n )={(ρ p κ p )/(ρ n κ n )} 1/2
の関係が得られる。しかし通常では L p = L n = L 、A p = A n = A で使用するのでその場合
の(P+N)1対素子では
R e = ( L / A )(ρ p +ρ n )
K e = ( A / L )(κ p +κ n )
となり、そのときの性能指数 Z は
Z =(α p -α n ) 2 /{(ρ p +ρ n ) (κ p +κ n )}
となる。すなわち、熱電素子(対)の性能指数 Z はP型・N型熱電材料の持つ固有の
ゼーベック係数、抵抗率、熱伝導率によって左右される。そこで
P型: Z p =α p 2 /(ρ p κ p )
(4-19)
N型: Z n =α n 2 /(ρ n κ n )
(4-20)
を、熱電素子の寸法に関係ない材料固有の「熱電材料の性能指数」と呼んでいる。
当然ながら、熱電素子(対)の性能指数は、P型・N型熱電材料の性能指数 Z p ・ Z n
が大きくなるほど大きくなる。
29
4―3-2
ペルチェ 素子の材料
熱電発電はゼーベック効果、熱電冷却はペルチェ効果を応用したもので、これ
らを総称して熱電変換と呼んでいる。ゼーベック係数α(熱起電力、熱電能とも
言う)の大きい材料ほどペルチェ効果が大きい。これに電流を流した場合の冷却
の妨げとなるジュール熱を小さくするため、できるだけ電気抵抗が小さいこと、
即ち比抵抗ρが小さい物質であることが望ましい。また高温側から低温側に熱が
流れると冷却時に温度差を阻害するので、熱伝導率κはできるだけ小さいものが
よい。この結果、熱電変換に用いられている物質の性能の良否を示す指数として、
上述の性能指数 Z を熱電変換素子の性能の基準としている。この Z は一般化して
Z =α 2 /(ρκ)
[K - 1 ]
で表され、Z の大きい物質を熱電材料と称し、Z が大きいほど冷却効果も大きい。
4―3-3
熱電材料 の種類
ペルチェ素子の性能指数 Z は温度によって変わる。現在よく知られているいろ
いろな熱電材料の性能指数 Z の最大値と Z が最大になるときの温度をP形を表
4-1、N形を表 4-2 に示す。
表 4-1 各ペルチェ素子 の最大性能 指数 Z と温 度:P形
ペルチェ素子の材質
Z [10 ― 3 /K]
温度 T [K]
(Bi,Sb) 2 (Te,Se) 3
2.45
300
(Bi,Sb) 2 Te 3
2.50
350
FeSi
0.20
750
SnTe
0.50
780
SiGe
0.60
1050
SiGe-GaP
0.70
1050
1.20
700
(Cu,Ag) 2 Se(TPM-217)
1.30
700
Ge-TeSbTe 2 (TAGS)
2.00
700
PbSnTe
(TEGS-3P)
30
表 4-2 各ペルチェ素子 の最大性能 指数 Z と温 度:N形
ペルチェ素子の材質
Z [10 ― 3 /K]
温度 T [K]
Bi 2 (Te,Se) 3
3>
150>
BiSb
2.60
330
PbTe (TEGS-2N)
1.60
450
PbTe(TEGS-3N)
1.50
600
SiGe-GaP
1.20
930
Gd 2 Se 3 (TPM-217)
1.20
1100
SiGe
1.25
1100
FeSi
0.50
700
冷却素子として使えるのは 300K前後に最大性能指数 Z を示すビスマス-テルル
系の材料に限らおり、 Z =2.4~2.5[10 ― 3 /K]である。ここ数 10 年間研究されてい
るが、冷却用の素材はビスマス-テルル系の材料以外には発見されていない (6) 。 一
方、熱発電用の素子はかなりの温度範囲で使用できそうなものもあるが、性能指数
Zが冷却用に比べて一般的に低い。しかし、現在も熱発電用の素子は研究が続けら
れている (7),(8) 。
4-3-4
性能特性 図
電熱冷却における吸熱量は次式で示される。
Q c =α e T c I -( R e I 2 )/2- K e ΔT
(4-21)
Q c :吸熱量[W]
α e :熱電素子合計のゼーベック係数 [V/K]
R e :熱電素子合計の電気抵抗 [Ω]
K e :熱電素子合計の並列コンダクタンス [W/K]
I :熱電素子に通電する直流電流[A]
T c :吸熱側接合部温度
[K]
T h :発熱側接合部温度
[K]
(+)冷却、(-)加熱
ΔT :吸熱側接合部温度( T c )と発熱側接合部温度( T h )の温度差( T h - T c )[K]
31
上記のα e 、 R e 、 K e は使用される熱電材料により異なるためメーカーによって若干
異なる。また使用温度によっても異なる。ある T h で I と Q c の関係を ΔT をパラメ
ーターとしてグラフ化したものをサーモモジュールの性能特性グラフという。本論
文で使用するペルチェ素子の各係数を基に式 4-21 に基づき、 T h =50℃における
I - Q c 特性の結果を図 4-6 に示す。
図 4-6
ペルチェモジ ュール性能 特性図(T h =50℃)
図 4-6 のTh=50℃の I - Q c 特性において、ΔT =30Kで通電電流 I =6.5Aでも吸
熱量 Q c は 35Wしかなく、 R e を 2Ωとするとジュール熱は( R e I 2 )/2=84.5Wとなる 。
ペルチェ素子は、レーザー発信器のレーザー励起素子の冷却や、ワインクーラ、
車載用の冷蔵庫、またエネルギーハーベストの先駆として体温で駆動する時計への
応用、その技術の展開の研究もあり (9) 実用化されている。レーザー発信器では発信
波長が温度の変化に敏感に反応する。レーザー励起素子の冷却装置のコストや大き
さよりも、発信波長の安定性を重視するため、水冷装置により放熱を促進し、フィ
ードバック制御回路などで温度を確実に安定化している。放熱部分は冷却水を供給
するチラーや、熱を大気に放熱する大型のファンとラジエターなどで構成されてお
り、我々が目標とするキャビネットの放熱部分の大きさ、コストとは格段の差があ
32
る。これらの技術をキャビネットのクーラの放熱部分にそのまま適用することは、
大きさ、コストの面で難しい。ペルチェクーラの放熱ヒートシンクは、この吸熱側
の吸熱量と吸熱側で生ずるジュール熱、そしてこれとほぼ同等の放熱側の発熱によ
るジュール熱および、電源やファンなどの他の部材の発熱なども放熱する必要があ
る。大きな吸熱量を得るため、単純に電流を大きくするだけでは発熱量が非常に大
きくなりこれを放熱する放熱部も大きくなる。また、車載用冷蔵庫や振動を嫌うワ
インクーラなどは比較的小型に作ることができる。これは冷蔵庫に収納する物や、
ワインそのものには発熱がないため、冷蔵庫内部の温度を下げ、ある程度時間をか
ければ収納物やワインも所用の温度に下げることができ、さらにその温度を維持し
ながら、外気に適切な放熱ができればよいからである。一方、キャビネットの冷却
において冷蔵庫と大きく異なる点は、キャビネット内部に設置される通信装置など
の機器類は発熱するということである。屋外設置筐体の場合、内部の装置の発熱と
太陽からの受熱も含めた冷却をする必要がある。
また、内部の発熱密度の違いでは、住宅用のクーラとの違いが挙げられる。一般
住宅において、4 人家族を想定すると、人間一人は約 100Wの発熱であると言われて
おり、3LDKに住んでいるとした場合、家の体積と住人の総発熱量 400Wで計算し
た場合の発熱密度と、小型通信装置の発熱量 50W程度を収納したキャビネットの大
きさに対する発熱密度は 2 桁ほど異なり、発熱密度の点でも筐体用のペルチェクー
ラの方が厳しい状況にある。従って、ペルチェ素子に供給する電流を下げてペルチ
ェモジュール自身が発生するジュール熱を減らしつつ、ペルチェ素子の枚数を増や
し、必要な冷却性能になるように設計する必要がある。しかしながら,コストパフ
ォーマンスも考慮しなければならないため、いたずらにペルチェの枚数を増やすこ
とも出来ない。
この最適解を求めることがペルチェクーラの開発の技術課題の中心であり、ペル
チェ素子について基本的な理解が重要となる。また、特に冷却性能の向上による小
型、高効率化においては吸熱を確実に確保しつつ、放熱を如何に効率良く行うこと
できるかにかかっており、強制空冷による冷却が必須である。このためには、熱流
体力学の基本を十分マスターし、実際に応用できることが必要である (10),(11) 。
33
参考文献
(1) 和田正信,半導体工学,朝倉書店,pp.187-1921976.
(2) 上村欣一,西田勲夫,熱電半導体とその応用,日刊工業新聞社,pp.1-38,1988.
(3) 森勇鋼,ペルチェ素子の作成・モジュール化とその利用技術,技術情報協
会,2003.
(4) 岡本晃,今泉久郎,電子冷却,テビジョン学会誌,Vol.44,No.8,
pp.993-997,1990.
(5) トランジスタ技術:ペルチェ素子の使い方とその駆動回路,pp.203-204,2003.
(6) H.C.Kim,T.S.Oh,D.B.Hynm,Thermoelectric propaties of the p-type Bi2Te3Sb2Te3-Sb2Se3 alloys fabricated alloying and hot pressing,Journal of
PHISICS AND CHEMISTRY OF SOLID 61,pp.739-743,2000.
(7) 西田勲夫,ここまで進んだ熱電変換技術-材料 7 プロセスの点から-,Break Trouh,
リアライズ社,pp.9-17,2001.
(8) 伊藤滋,広瀬次郎,HIP 法による FeSi2 熱電素子の作成,粉体および粉体冶金,台
39 巻,第 10 号,pp.870-874,1992.
(9) 山本晃祐,頃石圭太郎,須藤修三,岸松雄,超小型ペルチェ素子の開発,メカトロ
ニクス,日本時計学会誌,Vol.48,No.1,pp.1-8,2004.
(10) Ando, K., Nakayama, A., Imai, Y., Hirai, H., Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media, AIP Conf. Proc. Vol. 1254, pp. 27-32, Proc.
3rd Int. Conference on Porous Media and Its Applications in Science,
Engineering and Industry, 2010.
(11) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝達
率の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,2013.
34
第5章
研 究目標の物 理量として の数値化の ための基礎 実験
5-1
高 密度プレー トフィンシ ンクによる 基礎実験
従来のペルチェユニットは、100×130×35 の剣山型 2mm□ピンフィンシンクを
使用しており、ペルチェ素子 3 枚で構成されている。従来品より約 30%小さい 100
×100×40 の高密度プレートフィンシンクで、従来のペルチェ素子 3 枚から 1 枚減
らした 2 枚のペルチェ素子で、同じ性能が出せないか実験することにした。もし同
じ性能が出れば、サイズ縮小、枚数削減の合算で 90%の性能向上となり、ほぼ研究
目標を実現したことになる。図 5-1-1 に従来のピンフィンシンク、図 5-1-2 に高密
度プレートフィンシンクの概観を示す。
図 5-1-1
図 5-1-2
従来クーラ ピンフィン シンク
100×130×35 2mm□ Al ピン
高密度プレ ートフィン シンク
100×100×49 2mmピッチt0.5 Al プレート
図 5-3-1 に実験用冷却ユニット、図 5-3-2 にシンクとペルチェ素子の配置を示す。
フィン
図 5-3-1
実験用ペル チェ冷却ユ ニット
35
図 5-3-2
ペルチェ素子
シンクとペ ルチェ素子 配 置
二重箱法により 2 枚のペルチェ素子を直列にしたペルチェユニットで、ペルチ
ェ素子の通電電流と断熱箱の容積を変えて、ペルチェ素子の I - Q c 特性グラフ
上にそれぞれの条件での吸熱能力の結果を示した。グリスはシリコングリスを使
っている。図 5-4-1~図 5-4-4 に各容積の試験用の断熱箱の概観と、実験結果を
図 5-5 に示す。
図 5-4-1 恒温層内の断 熱箱(内部 断熱)
図 5-4-2 断熱箱
0.48m 3
図 5-4-3 断熱箱
36
0.24m 3
0.138m 3
図 5-4-4 断熱箱
従来ペルチェの動作点
Th=50℃
60.0
ΔT=0
50.0
ΔT=10
ΔT=20
Qc(W)
40.0
ΔT=30
30.0
ΔT=40
20.0
ΔT=50
10.0
ΔT=60
0.0
0
1
2
3
4
5
6
7
ペルチェ素子電流(A)
I-Qc特性
図 5-5
8
0.48m3 3
0.48m
(信越シリコーン)
0.26m3 3
0.24m
(信越シリコーン)
3
0.138m3
0.138m
(信越シリコーン)
各断熱箱容積 での I - Q c 特性
ペルチェ素子 1 枚の T h =50℃での I - Q c 特性上に、各容積の断熱箱での試験電
流 2~6Aの吸熱量を示してある。従来品は、ほぼ ΔT =30K,3.5Aでペルチェ素子
1 枚の吸熱量 Q c は約 22Wであり、この値はペルチェ素子を 3 枚使ったユニットの
吸熱量約 65Wから求めた値である。実験結果は、断熱箱の容積の違い、約 0.14~0.48
m 3 では差が無く、どれも従来より低い吸熱量、約 18Wを示した。第4章のペルチ
37
ェ素子の特性の説明で「4-2-2 冷却のための消費エネルギー」では冷却に必要
な電圧の式から、式(4-9) Q h = Q c + P を導出しているがここでは「4-2-1 電
熱冷却のエネルギー収支」にあるペルチェ素子の吸熱、放熱に関する前述の式(4-4)、
(4-5)を再掲しこれを使って検討する。
Q c =α e T Cj I -( R e I 2 )/ 2- K e ΔT J
(4-4)
Q h =α e T hj I +( R e I 2 )/ 2- K e ΔT J
(4-5)
式(4-4)および式(4-5)から式(5-1)を得る
Q h = Q c + R e I 2 +α e ΔT J
(5-1)
式(5-1)から、電流をいたずらに大きくしても、ペルチェ素子の抵抗でジュール熱が
増加し、吸熱量は増えないことが伺える。ペルチェ効果の大きい素子はBiTe 系の
半導体に限られ、抵抗値 R e も材料特性と素子の大きさで決まりほぼ一定である。
放熱能力 Q h を上げつつ、電流を下げることが、吸熱量を増加するということに繋
がることが分かる。図 5-6 に,式(5-1)に基づく実験筐体の各部位とその温度分布を
模式的に表した。
ペルチェ素子
吸熱シンク
放熱シンク
放熱
吸熱
発熱体
接触抵抗、放・吸熱抵抗などによるロス
ΔT
ΔT j
図 5-6
実 験筐体と温 度分布模式
38
これらの実験は各文献の知見を参考にして進めた (1)-(5) 。図 5-6 の ΔT j は式
(4-4)で吸熱側と放熱側のペルチェ素子のジャンクション温度の差である。実際に
はジャンクション温度を直接計測することは不可能なので、吸熱シンクと放熱シ
ンクの温度の差 ΔT からシリコングリス、その他の部分の熱抵抗を推定して、凡
その見積もりをたてる。ペルチェ素子については R e 、 K e などの定数が、ペルチ
ェの素子の機種によって若干異なるため、経験値が重要となる。
しかしながら、図 5-5 の特性グラフから、 ΔT が小さいほど同じ電流における
吸熱量は大きくなることが分かる。従来のペルチェクーラのペルチェ素子は、
T h =50℃、 ΔT =30Kで見積もると実験と符合するということが経験上分かって
いる。接触抵抗、吸熱、放熱の熱抵抗を下げることで実質的な ΔT が下がり、吸
熱能力が向上すると考えられる。しかし、吸熱、放熱用の各ヒートシンクの大き
さは今回の改良方針の小型化の実現と言う観点から大きくできない。シンクベー
スの厚さを薄くすれば熱抵抗を減らせるが、現状以下の厚さではそりなどを生ず
るため、ペルチェ素子とシンクの確実な接合を保つための平坦度確保の点で原状
より薄く出来ない。材質もアルミを想定しており、従来と同じ材質のため熱抵抗
率も変わらない。 R e もBiTe 系の半導体の特性値であり、熱抵抗に関しては、
グリスの熱抵抗を変える以外にないという結論に至った。
5-2
伝 熱グリスの 差による吸 熱能力の差 の実験
ペルチェユニットはペルチェ素子にシリコングリスを薄く塗り、ばね入りネジ
で吸熱シンクと放熱シンクを固定してある。従来のシリコングリスの熱伝導率は
0.9W/mKである。銀の微粉末が入ったグリスの熱伝導率は 8.7W/mKと通常の
シリコングリスの約 10 倍であり、これを使えば図 5-6 の接触熱抵抗による熱損失
を減らし、 Δ T が小さくなり、接触抵抗が減少し吸熱量が増加することが期待さ
れた。前述のペルチェ素子 2 枚のペルチェユニットで、2 種のグリスそれぞれを
使った 2 種の実験試料を作り、二重箱法で冷却性能の比較実験を行った。断熱筐
体は図 5-4-4 の 0.138m 3 を使用した。実験結果を図 5-7 に示す。
39
従来製品動作点
60.0
ΔT=0
50.0
ΔT=10
ΔT=20
Qc(W)
40.0
ΔT=30
30.0
ΔT=40
20.0
ΔT=50
10.0
ΔT=60
0.0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
ペルチェ素子電流(A)
I-Qc特性
図 5-7
0.138m3
(信越シリコーン)
0.138m3
銀粉入グリス
(シルバーグリス)
シリコングリス
伝熱グリスの 差による吸 熱量の比較 結果
図 5-7 の実験結果では、放熱グリスの差による吸熱能力に差はなく、従来製品の
動作点よりも低く、従来のシリコングリスと銀粉入グリスの間には差は認められな
かった。グリスの厚さは非常に薄く、せいぜい、0.2mm程度であり、図 5-6 の筐体
内部温度から外気温度に至る温度分布の中で、ペルチェ素子とシンクの接触部のグ
リスの厚さがきわめて小さく、グリスの熱伝導率を 10 倍程度にしても他の部分の熱
抵抗に比べると寄与率が極めて小さく、ペルチェクーラの吸熱性能を向上させる効
果はないことが明確になった。
結果の検討 と方針の確 認
ここまでの実験で、従来のシンクより 30%小さいが、熱抵抗はほとんど同じ,高
密度プレートフィンシンクを用い,従来と同じ冷却性能を出すことを考えたが、効
果は認められなかった。また、グリスの熱抵抗も従来の 1/10 にしたが、冷却効果に
差が認められなかった。これらのことから、接触各部の熱抵抗は現状のレベルを容
40
認することとした。研究目標を実現するには、他の部分の熱抵抗を下げるか、吸熱
能力、あるいは放熱能力を向上させることが重要であることが明確になった。
5-3
冷 却ユニット の吸熱能力 の測定
上述の検討を踏まえ、まず、吸熱側の吸熱能力の実態把握を行うことにした。前
述の図 5-3-1、図 5-3-2 のペルチェ素子 2 枚で構成したペルチェユニットを使用し、
吸熱側のファンの速度を変えた場合の吸熱能力を測定し、吸熱側の吸熱能力に増加
の余地がどの程度あるかを調べることにした。ペルチェ電流を 2、3、4Aの 3 種類
の下で、放熱側のファンは定格運転し、断熱箱内部の吸熱ファンの風速を 0~約 5m/
sの範囲で変え、二重箱法により各条件下での吸熱量を測定した。その結果を図 5-8
にに示す。
40.0
Qc[W]
30.0
20.0
ペルチェ電流値2A
ペルチェ電流値3A
ペルチェ電流値4A
10.0
0.0
0
1
2
3
4
5
風速[m/s]
Qc-風速特性
図 5-8
ペルチェ電流 をパラメー タとした風 速と吸熱量 の関係
41
ペルチェユニットの冷却性能の測定結果をまとめた図 5-8 では、ペルチェ電流
3Aで風速 3m/sの時の吸熱量が 35Wを示し最大である。しかしながら、大局的
に見れば風速 2~4m/sではあまり大きな差は認められない。風速を上げ過ぎて
5m/s程度になると、全ての電流において吸熱量が低下する。これは、放熱側の
放熱能力が足りないため、吸熱側の風速を上げても吸熱フィンと断熱箱内部の空
気との熱伝達が追いつかず、さらにファンの発熱が増加するためであると判断さ
れた。吸熱側の性能の向上以前に、放熱側の放熱能力の向上に注力する方がより
冷却性能向上の効果が大きく、より早く改良効果が得られると考えられた。以上,
第4章の式(4-9) Q h = Q c + P 及び、前述の式(5-1)を Q h = Q c + R e I 2 +α e ΔT
を本実験を通して再認識する結果となった。
5-4
改 良方針再確 認と基礎実 験
以上の実験結果の検討から,ペルチェクーラの吸熱部から放熱部までをペルチェ
素子を介した一つの系として考えなければ十分な冷却効果は得られないことが分か
った。これらの結果を考慮し、以下の改良方針を考え,研究目標を物理量の数値と
して具体化した。
5-4-1 改良方針 再確認
1)吸熱側は従来のまま熱抵抗 R th =0.1K/Wとする
2)放熱側は熱抵抗を従来の半分以下、 R th <0.05K/Wにする
3)製品の大きさは従来の半分の大きさを目標とする
4)ペルチェユニット1台の大きさは従来と同等か、それより小さくする
5)基本的に空冷で進める
42
5-4-2
水冷ユニ ットによる 改良方針の 確認実験
ペルチェクーラの放熱シンクの熱抵抗を下げることがペルチェクーラの冷却性
能の向上に実際につながるか否かについて実験確認することにした。前述の冷却ユ
ニットの実験では吸熱部の風速の増加に対し、冷却性能が頭打ちになり限界を示し
た。これは放熱部の放熱能力が低いためであると判断した。従って、改良方針も放
熱側の熱抵抗の半減という数値目標を打ち出した。しかし、放熱部の性能が向上し
ても吸熱部の吸熱能力が飽和していればペルチェクーラの冷却性能向につながらな
いことが懸念された。水冷は大幅に熱抵抗を下げることが出来る。水冷のペルチェ
素子は、レーザー発信機の発信波長の熱変動を抑制するためフィードバック制御に
よる温度制御、温度管理が重要なDNA増幅器などに使用されている (6)-(10) 。400W
を越えるペルチェクーラは水冷であり、この機材である、水冷ジャケットを放熱シ
ンクとして使用したペルチェユニットを作成し、二重箱法により、放熱部の熱抵抗
の低減によるペルチェクーラの冷却性能の向上の効果の確認を行った。この実験用
のペルチェユニットには、吸熱部のシンクに従来のペルチェクーラのピンフィン・
ヒートシンクを 100×100 の大きさに加工したものを使用した。ペルチェ素子は、従
来のものを 3 枚から 2 枚に減らし、吸熱ファンは従来のものを定格電圧で動作させ、
従来の吸熱シンクより厳しい吸熱条件設定とした。水冷ペルチェクーラの水冷ジャ
ケットを放熱シンクとし、これにシリコングリスを塗布し、ペルチェユニットを作
成した。図 5-9 に水冷ユニットの実験の概要図を示し、図 5-10、図 5-11、図 5-12、
図 5-13 に各部の様子を示してある。
実験は、吸熱ファンは定格条件で運転し、放熱用ラジエターファンの風速 2.0、
3.0、 4.2、 4.9、 6.0、7.0m/sで行い、それぞれの風速における吸熱量を測定した。
結果を図 5-17 に示す。従来のペルチェクーラのペルチェ素子 1 枚当たりの冷却能力
は風速 3.5m/sで約 22Wであった。今回の水冷ジャケットの実験では、同じ 3.5m/
sの風速でペルチェ素子 1 枚当たりの冷却能力は約 73Wを示し、現状の約 3 倍以上
の冷却能力が得られることを確認した。
43
断熱BOX
断熱箱
水冷フィン
空冷フィン
空冷フィン
熱抵抗 0.031程度
水冷ジャケット
ペルチェ素子
ファン
ラジエター
ラジエター
ヒーター
ポンプ
図 5-9
水冷ユニット の実験概要 図
図 5-10
実験風景
44
図 5-11
放熱ファン、 ラジエター 、ポンプな ど水冷系部 材
図 5-12
水冷ジャケッ ト部
45
図 5-13
断熱箱内部、 吸熱ピンフ ィン・ヒートシンクと ファン
ペルチェ電流と吸熱量の関係
吸
熱
量
[W]
改良前動作点
電 流 [A]
図 5-14
二重箱法によ る水冷ジャ ケット冷却 実験結果
46
水冷ペルチェクーラの二重箱法による製品性能データから得た水冷ジャケット
の熱抵抗は Rth =0.03K/W以下である。従って、今回の実験の放熱部の熱抵抗は
従来の空冷ペルチェクーラの1ユニットの熱抵抗 R th =0.1K/Wの 1/3 以下であり、
今回の従来のクーラより吸熱条件を厳しくした水冷放熱による実験結果は、従来の
クーラの吸熱部にはまだ余力が十分あり、ペルチェクーラの放熱抵抗を下げれば、
その分だけ冷却能力が向上することを示唆している。大容量の水冷ペルチェクーラ
の水冷システムを使えば確実に冷却能力は向上するが、ポンプ、クーラント、配管、
ラジエター、ファン、その他電源などの機器類の実装を考えると、従来のペルチェ
クーラのサイズを 1/2 にするのは不可能である。問題は、どうすれば空冷で熱抵抗
を半減し,今回のような冷却性能を得ることができるか、そもそも、空冷でこれが
可能なのかということが問題として浮かび上がった。その解決策として発泡多孔質
体の応用が考えられるが実用性の検討が必要であり本研究でこの点も明らかにして
ゆく (11)-(13) 。
参考文献
(1) 小川吉彦:熱電変換システム設計のための解析,森北出版,2011.
(2) 上村欣一,西田勲夫,熱電半導体とその応用,日刊工業新聞社,pp.39-58,1988.
(3) 大坪一夫,木田雅之,電子冷却式ユニットクーラ,電子材料,pp.73-77,1998-9.
(4) 電熱工学,第 7 章伝熱の応用と伝熱機器,日本機械学会,pp.183-207,2005.
(5) 演習電熱工学,第 7 章伝熱の応用と伝熱機器,日本機械学会, pp.99-108,2008.
(6) 福田克史,ペルチェモジュールの実用,伝熱,JHTSJ,Vol.44,No.186,pp.18-21,
2005.
(7) 小林良二,電子冷却式クーラとその現況, 日本冷凍空調学会,冷凍,Vol.84(982),
pp.703-707,2009.
(8) 都能克博,ボックスクーラー, 日本冷凍空調学会,冷凍 Vol.78(903),pp.47-51,
2003.
(9) 松浦虔士,「熱電変換技術」の論文特集号によせて, 電気学会論文誌. A,
基礎・材料・共通部門誌,Vol.116(3),pp.195,1996.
47
(10) 田辺徹美,電子冷却と新しい冷却技術に関するワークショップ, 日本物理學會
誌 Vol.46(1),pp.51-53,1991.
(11) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山顕, 発泡金属充填ピンフィンヒートシン
クを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782 号,1958-1967,
2011.
(12) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝達
率の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,2013
(13) Ando, K., Hirai, H., Nakayama, A., An Accurate Experimental Determination
of Interstitial Heat Transfer Coefficient of Ceramic Foams Using the Single
Blow Method, Proc. JSSUME 2012, pp. 203-206,2012.
48
第6章
各 種ヒートシ ンクの解析 、実験によ る冷却性能 の比較検討
6-1
概要
通常の密度のプレートフィンの報告は過去にも数例ある (1)-(5) が、我々が要求する
冷却性能には届いていない。本章では冷却効果が高いヒートシンクを選定するため、
オフセットプレートフィン・ヒートシンクに関するCAE解析と実験結果、高密度プ
レート・フィン・ヒートシンクとピンフィン・ヒートシンクのCAE解析、およびヒー
トブロック法による冷却性能の比較検討について報告する。
6-2
プ レートフィ ン・ヒートシンクのス トレートフ ィンとオフ セットフィ ンの
CAE解析 による冷却 性能比較
6-2-1
試料形状
ストレート フィン
オフセット フィン
図 6-1
6-2-2
CAE解析試 料形状
解析条件
・使用ソフト : 熱設計 PAC V5
・解析機能
: 非圧縮性定常解析
・解析領域
: 図 6-1 に示す青線内
・格子数
: 299200(100×34×88)
・乱流
: 低レイノルズ数型モデル
・浮力、輻射 : 無視
・境界条件
: ヒートシンク底面、側面、上面は断熱、
49
流入部 2m/s
表 6-1
、排気部
全圧規定
・周囲温度
: 20℃
・発熱量
: 100W(ヒートシンク下面)
材料物性
材質
ヒートシンク
A1100
密度
比熱
熱伝導率
粘性係数
体膨張率
[kg/m 3 ]
[J/(kg・K)]
[W/(m・K)]
[Pa・s]
[1/K]
2710
904
222
-
-
1.1609
1007
0.0261
1.86×10 -6
0.003495
@300[K]
気体
空気
@300[K]
6-2-3
表 6-2
解析結果
解析による各 種フィンの 平均温度
フィンの配置
平均温度[℃]
上昇値[K]
ストレートフィン
90.2
70.2
オフセットフィン
67.1
47.1
表 6-1 に解析に使用した各種材料物性を示す (6) 。ダクト法にあたる解析条件設定
で解析を行い、解析結果、表 6-2 が示すように、通常のプレートフィンに比べ、オ
フセットプレートフィンは冷却効果が高い。しかし、後述の解析結果、図 6-2~図
6-5 が示すように、オフセットプレートフィンは風が当たる先端部分の熱交換は活
発で、温度も下がっているが、風下の後半部分は十分な放熱ができず、フィン全体
で効率よく放熱することができていない。熱抵抗 R th = ΔT / P を、P はシンク下面
発熱熱 100W、ΔT は上表の上昇値[K]で計算し、ストレートフィンR th =0.70K/
W、オフセットフィンR th =0.48K/Wとなる。熱抵抗はオフセットフィンの方が低
いが、従来のピンフィン・ヒートシンクの 0.1K/Wに比べかなり大きく、目標の 0.05
K/Wには遠く及ばない。
50
6-2-4
解析結果 図
図 6-2
図 6-3
温度分布(ス トレートフ ィン)周囲 温度 20℃
流速分布(ス トレートフ ィン)
51
風 速 2m/s
図 6-4
図 6-5
温度分布(オフセットフィン) 周囲温度
流速分布(オ フセットフ ィン)
52
風 速 2m/s
6-3
オ フセットプ レート・ヒ ートシンク のフード効 果
6-3-1
概要
オフセットフィン・ヒートシンクはストレートフィン・ヒートシンクに比べ、フィ
ンの長さを短くし、千鳥状に短いフィンを配置し、風が当たる先端部分を増やし、
冷却効果を高めようとしている。しかし、前述したように、シンクの前半部分のフ
ィンには確かにその効果があるが、後半部分のフィンでは前半部分の排熱により高
温になった風がフィンの先端に当たる。そのため、後半のフィンの先端部分は前半
の先端部分ほど冷却せずオフセットにした効果が出ていない。後半のフィンの先端
部にも冷気が当たるように図 6-6、図 6-7 に示すような、途中に開口部を設けたフ
ードをつけ、冷却効果が向上するかどうかをヒートブロック法で実験した。
図 6-6
図 6-7
オフセットフ ィン・ヒートシンクフ ード実験(概様)
オフセットフ ィン・ヒートシンクフ ード実験(拡大)
53
6-3-2
実験条件 と実験結果
ヒータの発熱量約 49W、周囲温度 26.0℃、フィンの飽和温度 33.2℃から R th =
ΔT / P =(33.2-26.0)/49=0.148K/W。フードの効果によりCAE解析での
熱抵抗 R th =0.48K/Wに比べ 1/3 程度になっている。しかし、フードをつけての
実測で抵抗 R th =0.148K/Wでは、従来の放熱用ピンフィン・ヒートシンクの 0.1
K/Wより悪い。また、フードの形状などがいびつであるため、大幅な設計変更を
要するため実際には使用できないと判断した。
6-4
高 密度プレー トフィン・ヒートシン クのヒート ブロック法 による性能 実 験
6-4-1 概要
第5章で基礎実験に使用した高密度プレートフィン・ヒートシンクと従来のペル
チェクーラのピンフィン・ヒートシンクとについて、100×100 の大きさのシンクで
ヒートブロック法による冷却性能の比較実験を行った。この 2 種のヒートシンクの
冷却性能の比較検討を行い、改良の手段としての適合性を検討した。図 6-7,6-8 に
試料の概観を示し、図 6-9 にヒートブロック法による実験風景を示す。
ヒートシン ク試料
図 6-8
ピンフィン・ヒートシン ク
図 6-9
54
高密度プレー トフィン・シンク
図 6-10
6-4-2
表 6-3
ヒートブロッ ク実験風景
実験結果
ピンフィンヒ ートシンク と高密度プ レートフィ ンシンクの 実験結果
風向
R th
ΔT
試験電力 P
[K/W]
[K]
[W]
従来ピンフィン
押し込み
0.126
5.8
46.1
シンク
吸出し
0.140
7.1
50.6
高密度プレート
押し込み
0.110
6.4
55.9
シンク
吸出し
0.149
8.1
54.4
6-4-3
結果の検 討
CAE計算の結果は、投影面積が 130cm 2 の従来ペルクールピンフィン・ヒート
シンクに対し投影面積 100cm 2 の高密度プレートフィン・ヒートシンクが面積は
30%小さいにもかかわらず、同じ 150Wの発熱に対し同等の温度上昇 14.7Kとなり、
どちらも熱抵抗はほぼ 0.1K/Wを示し、30%の小型化が期待できる結果となった。
ヒートブロック法による熱抵抗測定では、約 50Wの電力で、従来ピンフィン・ヒ
ートシンクと高密度プレート・ヒートシンクとも押し込み方向の方が吸出し方向よ
55
り熱抵抗が低い値を示した。押し込み方向では高密度プレートシンクの方が低い値
を示し、吸い込み方向ではピンフィンシンクの方が低い値を示した。また、熱抵抗
は 0.1K/W以上となった。実用化する場合はシンクの周辺に電源や表示装置など
流動抵抗となるものがあるため、吸い込み方向の方が都合が良い (2) 。しかし、今回
の実験での熱抵抗は 0.11~0.14K/W程度であり、従来のピンフィン・ヒートシン
クの熱抵抗 0.1K/Wに近いものの、目標の 0.05K/Wには届かない。高密度プレ
ートフィンシンクは従来のペルチェクーラのピンフィン・ヒートシンクとほとんど
冷却能力においては差がなく、コストを考えると採用するに値しないという結果に
なった。以上、各種シンクの冷却性の比較実験を行った結果、従来のピンフィン・
ヒートシンクが最良という結論に達し、これで改良研究を進めることにした。これ
で性能が出ない場合、発泡多孔質体の応用が考えられる (7) 。
参考文献
(1) 本 間 徹 ,石 塚 勝 ,中 川 慎 二 ,自 然・強 制 共 存 対 流 中 の LSI冷 却 用 小 型 ヒ ー ト シ
ン ク の 性 能 , 熱 工 学 コ ン フ ァ レ ン ス 講 演 論 文 集 ,pp.353-354,2004.
(2) 上 原 伸 哲 ,一 法 師 茂 俊 ,山 田 晃 ,園 田 功 ,自 然 空 冷 ヒ ー ト シ ン ク の 実 用 設 計
に 関 す る 一 考 察 , 熱 工 学 コ ン フ ァ レ ン ス 講 演 論 文 集 ,pp.117-118,2003.
(3) 相 原 利 雄 ,垂 直 長 方 形 フ ィ ン 列 か ら の 自 然 対 流 熱 伝 達 第 4 報 不 等 温 フ
ィ ン 列 の 伝 熱 特 性 , 日 本 機 械 学 会 論 文 集 , Vol.36,No.292,pp.2077-2086,
1970.
(4) 宮 崎 保 志 ,川 口 清 司 ,宮 下 徹 ,押 し 出 し 材 を 用 い た 自 然 空 冷 式 長 寸 ヒ ー ト シ
ン ク に お け る 放 熱 フ ィ ン 形 状 の 検 討 ,日 本 機 械 学 会 論 文 集 (B 編 )77巻 774
号 ,pp.395-401,2011.
(5) 伊 藤 謹 司 ,国 峰 尚 樹 ,電 子 機 器 の 熱 対 策 設 計 ,日 刊 工 業 新 pp.198-201,1998.
(6)
伝熱工学資料 改定4版,Ⅴ.物性編,pp.318,321,354,日本機械学会,1981.
(7) 安 藤 健 志 ,今 井 悠 介 ,平 井 秀 和 , 中 山 顕 , 連 結・非 連 結 多 孔 質 体 の 界 面 熱
伝 達 率 の 違 い に 関 す る 理 論 的 考 察 ,化 学 工 学 論 文 集 , Vol.39, No.2,
pp.73-77,2013.
56
第7章
ピ ンフィン・ヒートシン クの詳細検 討
7-1 概 要
第5章の「5-5
水冷ユニットによる改良方針の確認」からペルチェクーラの
放熱抵抗 0.1K/Wを従来の 1/2 以下の 0.05K/W以下に下げることが物理量として
具体的な数値目標であることが判明した。また、第6章で各種ヒートシンクのCA
E解析結果、冷却性能の比較実験結果から、従来のピンフィン・ヒートシンクの冷却
性能の優位性が示され、軸流ファンとの組み合わせで、吸い込み方向が小型化にお
いても有効という結論に達した。また、篠原らによるピンフィンシンクのダクト法
と軸流ファンによる試験方法に冷却特性の差に関する研究報告では軸流ファンの風
速の偏在性に多少触れているが詳細について検討されておらず、また試験方法によ
る冷却性能の差は多少あるものの、実用的には問題ない差である (1) 。本章では特に
ピンフィン・ヒートシンクの流体力学的な性質や熱的性質を、解析的検討、CAE
解析、各種実験を通して徹底的にピンフィン・ヒートシンクの性質を把握し、最終
的に改良に結びつける。
7-2
電 子機器用冷 却装置の性 能向上のた めの基礎検 討
図 7-1 にペルチェクーラの冷却部分の概念図を示す。
周囲温度 T a
放熱
吸熱
Qh
放熱フィン温度 T fc
図 7-1
ペルチェクー ラー冷却部 概念図
57
図 7-1 において、放熱量 Q h [W]、放熱フィンの熱伝達率 h [W/m 2 K]、放熱面積
A [m 2 ]放熱フィン温度 T fc [K] 、周囲温度 T a [K]とすると,ニュートンの冷却の式 (2)
から式(7-1)を得る。
Q h = hA ( T fc ― T a )
(7-1)
放熱フィンの熱抵抗は R fth =1/ hA で示される。熱抵抗を小さくするには放熱面積を
拡 大 す る か 、 熱 伝 達 率 hを 大 き く す れ ば 良 い が 、 放 熱 面 積 A を 大 き く す る こ と は 小
型化追求に反する。従って熱伝達率 h を大きくするという方向で検討を進めること
にした。
7-3
改 良方針の検 討
熱伝達率 h の向上という改良方針に実現性があるかどうか、従来のピンフィン・
ヒートシンクの熱伝達率 h の限界について把握すべく、検討をおこなった。
7-3-1
熱伝達率 h 増加の可 能性の検討
各状態での熱伝達率の大きさを以下の表 7-1 に示す ( 2 ) 。
表 7-1
各 状態の熱伝 達率の大き さ
状態
h [W/m 2 K]
水の沸騰
1000-3000000
水蒸気の凝 縮
300-30000
水の強制対 流
1000-6000
水の自然対 流
200-600
ガスの強制 対流
10-300
ガスの自然 対流
5-30
従来のペルチェクーラで熱抵抗を小さくするには熱伝達率 h を大きくする以外にな
いが、ピンフィン・ヒートシンクと軸流ファンによる冷却は表 7-1 ではガスの強制対
流に該当する。従来のペルチェクーラの熱伝達率 h が表 7-1 のガスの強制対流 300
58
W/m 2 K以上であれ ば ファンの 能 力の向上 な どで h を 増 加するこ と は不可能 と なる。
一方、熱伝達率 h が 300W/m 2 Kより充分小さければ h の増加で冷却性能を向上で
きる。この可能性を調べるため以下の式に基づき h を算出した。
熱抵抗
R fth =1/ hA =0.1 K/W
:
(製品実測値)
h =1/( R fth ・ A )
熱伝達率:
図 7-2 にペルチェクーラの放熱側シンクの図面を示す。この図面に基づいて従来
のピンフィンシンクの表面積とベース面の面積から全表面積を求めると A =0.186
m 2 となった。従って従来のペルチェクーラの放熱シンクの熱伝達率 h は
h =1/(0.1×0.186)=53.8 W/m 2 K≒54 W/m 2 K
従来の製品の放熱シンクの熱伝達率は約 h =54W/m 2 Kであり、限界値の 300W/m 2
K より十分小さく、まだhを大きくする余地が充分あることが判明し た。 従 って 、
h の増加という技術的方向性でペルチェクーラの性能の向上の可能性があることが
確認できた。
図7-2
従 来のペルチ ェクーラー の放熱シン ク図面
59
7-3-2
ピンフィ ンの効率η の検討
1)概要
前述の検討により,熱伝達率 h の向上によりペルクールの冷却効率を上げられる
可能性があることが分かった。ここでは従来のピンフィン・ヒートシンクのフィン
効率に改良の余地があるのかどうかについて検討した。もし効率が 50%程度であれ
ばピンフィンの長さを変えることで効率の大幅な向上が期待できる。フィン効率η
について図 7-3 に示すピンフィンモデルにより現状のペルチェクーラのフィン効率
ηの検討を行った (2 ) 。
ベース
ピン長さ L
ピン断面積 A
ピン周長 P
図 7-3
ピンフィン
ピンフィン 効率η計算 用モデル
2)理論計 算による検 討
フィン効率
η=tanh( BL )/( BL )
におけるパラメーターB= √ Ph / A κ
ここで,κはフィンの熱伝導率
を計算する。
Al:233W/(m・K)(@300K) (3)
実際のピンフィンの奥行き寸法は 3mmと 2mmの 2 種があり、幅はベース部分は 2
mm、先端は 1.6mmで楔形であるが,ここではピンフィンの幅は平均の 1.8mmで
考える。
ピンの長さL=27mm=27×10 - 3 m
60
P1 =3+1.8+3+1.8=9.6mm=9.6×10 - 3 m
P2 =2+1.8+2+1.8=7.6mm=7.6×10 - 3 m
h=54W/m 2 K
A1=3×1.8=5.4mm 2 =5.4×10 - 6 m 2
A2=2×1.8=3.6mm 2 =3.6×10 - 6 m 2
B1= √ 9.6×10 - 3 ×54/(5.4×10 - 6 ×233)
≒20.3[1/m]
B2= √ .7.6×10 - 3 ×54/(3.6×10 - 6 ×233)
≒22.1[1/m]
η1=tanh(20.3×27×10 - 3 )/(20.3×27×10 - 3 ) =0.91
η2=tanh(22.1×27×10 - 3 )/(22.1×27×10 - 3 ) =0.87
奥行 2mm、3mmともフィン効率ηは 90%程度ありまだ 10%程度ほど性能向上の
余地がある。ピンフィンの長さを変えた場合のフィン効率ηを求め、ピンの長さと
フィン効率ηの関係を図 7-4 に示す。
奥行3mm
奥行き2mm
フィン効率(η)
フィン長さ(mm)とフィン効率η
1.000
0.950
0.900
0.850
0.800
0.750
0.700
0.650
0.600
0.550
0.500
0.450
0.400
0.350
0.300
0.250
0.200
0.150
0.100
0.050
0.000
0
5
10
15
20
25
フィン長さ(mm)
図 7-4
ピンフィン効 率ηの計算 結果グラフ
61
30
3)実験に よる計算結 果の確認
前述の計算では、ピンフィンの長さ 27mmではフィン効率η=90%程度で、フィ
ンの長さを 10%ほど短くし、ピンフィン効率ηを 100%にすることで冷却性能の多
少の向上が期待できた。この検討に従い、実際にピンフィンを短くしたフィンでペ
ルチェユニットを作成し、二重箱法で実験した。短くすることで冷却性能の若干の
向上を期待したが、逆に冷却性能は低下した。従来のピンフィン効率ηはすでに
100%に近く、フィンの長さを短くすることで逆に放熱面積を削減した影響の方が
大きくなった結果である。そこで,ピンフィンの長さに関しては従来のままとし、
他の方法で冷却性能向上の検討を進めることにした。
7-3-3 銅製のピンフィンに よる冷却性 能の実験
1)概要
ヒートシンクの材料の熱伝導が大きいほど,熱輸送量が増加し,冷却効果の向上
が見込めると考え、熱伝導率の大きい材料のヒートシンクを考えた。例えばダイヤ
モンドは熱伝導率、約 2000 W/mKである。レーザーダイオードの冷却用にダイヤ
モンド粒子と熱伝導率の高い Cu などを最適な条件で焼結したシンクの例もあり,熱
伝導率は 600 W/mKである (4) 。ここでは、コストの関係上、アルミのほぼ 2 倍の
伝熱導率 400 W/mKの銅でピンフィン・ヒートシンクを作り、現状のアルミピンフ
ィン・ヒートシンクとの冷却性能の比較実験を行うことにした。図 7-5 に実験試料の
銅製のピンフィン・ヒートシンクを示す。
<銅シンク寸法>単位:[mm]
・W100×D100
・ベース厚さ:6
・ピンフィン:2□
図 7-5
銅製ピンフィ ン・ヒート シンク
62
H:27
2)実験結 果の検討
同じ寸法のアルミピンフィン・ヒートシンクと銅製ピンフィン・ヒートシンクで
実験用ペルチェユニットを作成し、二重箱法による冷却性能の比較実験を行った。
その結果、アルミピンフィン・ヒートシンクの吸熱量が 80Wに対し,銅製ピンフィ
ン・ヒートシンクは 100Wとなり、銅の方がアルミより 20%高い結果を得た。しかし、
熱伝導率が銅の方がアルミに比べ 2 倍近くあることから期待したほどの冷却効果の
差はなかった。熱伝導の熱量の輸送量は銅がアルミのほぼ 2 倍であるが、空気への
熱伝達が多少増すものの、あまり変わらないため、結局大幅に冷却性能が向上しな
かったと考えられる。ヒートシンクの熱伝導と熱伝達という伝熱現象の間のミスマ
ッチングに大きな壁があることが分かった。むしろ、アルミ製のシンクでも空気と
の熱伝達をもっと活発にできれば目標とする性能が得られる可能性があると考えら
れた。
7-4 軸 流ファン風 速分布偏在 性がピンフ ィンシンク 冷却性能に
及ぼす影響 の検討
7-4-1 概要
ヒートシンクの冷却に使用するファンは寸法の小型化、および取り付け方法の利
便性、コストの点で軸流ファンを使用することが一般的であり、多種多様の汎用製
品が市場に供給されている。しかし,この軸流ファンの風速分布は図 7-6 に示す (5)
ように強風部分が外縁部に集中し、中心部の風速は極めて小さく、この風速分布の
偏在性がピンフィン・ヒートシンクの冷却性能に与える影響について検討されたこ
とはなかった。ここでは軸流ファンの風速分布の偏在性がピンフィン・ヒートシン
クの冷却性能に与える影響を明らかにするため、種々の検討を行った。軸流ファン
とピンフィン・ヒートシンクでの各部の風速の実測、数学モデルによるCAE解析、
ピンフィン・ヒートシンクにラバーヒータを貼り付けたユニットを軸流ファンで冷
却した場合の、裏面ラバーヒータの温度分布のサーモグラフィによる計測、および
63
通常のピンフィン・ヒートシンクと中央部をくり抜いたピンフィン・ヒートシンク
による冷却性能の比較実験などを行い、それぞれの結果について検討を行った。
図 7-6 軸流ファン風速 分布
7-4-2 軸流ファ ンの風速分 布の実測
1)風速分 布実測の概 要
120□のピンフィンに軸流ファンを取り付け、定格電圧DC12Vで作動させ、各
部の風速を無指向性の風速計で測定した。測定の様子を図 7-7、各部の測定点を図
7-8、図 7-9 に示す。また、測定した結果を表 7-2、表 7-3、表 7-4 に示す。
風速計
ファン
フィンB面
フィンA面
図 7-7
風 速測定概要 図
64
a外
a中
a内
b内
b中
b外
左
中
右
上
中
下
c内
c外
c中
図 7-8
図 7-9 フィンA面、B 面風速測定 点
ファン風速測 定点
2)各部風 速測定結果
表 7-2 ファン風速 [m/s]
内
中
外
a
2.2
6.8
14.3
b
2.2
7.7
13.4
c
3.0
10.0
15.0
表 7-3 フィンA面風速 [m/s]
左
中
右
上
1.3
11.3
1.4
中
1.2
9.2
0.9
下
0.65
9.0
1.7
65
表 7-4 フィンB面風速 [m/s]
左
中
右
上
2.1
6.0
0.7
中
1.1
6.0
1.7
下
1.8
5.2
1.5
3)実測結 果の検討
軸流ファンの排気風速分布は内側と外側では 5~7 倍の差があり中心部の方が極
端に小さいことが確認された。一方、フィンの側面では中央部の方が端部に比べ風
速が大きいという結果になった。図 7-6 のような軸流ファンの風速分布の偏在性が
実測でも確認された。またピンフィン・ヒートシンクも吸い込み風速の場所による
偏在性が確認された。従って軸流ファンでピンフィンを冷却すると、風速の小さい
中心部は冷却に十分寄与していない可能性があることが懸念された。
7-4-3
軸流ファ ンの風速分 布がピンフ ィンシンク 冷却に及ぼ す影響の
CAE解析 による検討
1) CAE解析概要
前述の図 7-6 に示したような軸流ファンの風速分布の偏在性が前述の実測実験でも確
認された。ここではCAE解析によるシミュレーション (6)-(8) により、軸流のファンの風速分布の
偏在性がピンフィン・ヒートシンクの冷却に影響があるか否かについて調べた。影響があれば、
シンクの中心部が外延部に比べ高温になると推測された。
2)解析試 料形状と各 部財仕様
・ヒートシンク
: ペルチェクーラ放熱ヒートシンク
・換気扇
: ペルチェクーラ軸流ファン
・ユニットケース: 130×100×10
厚さ 1mm
66
(図 7-2 参照)
アクリル製
換気扇
ユ ニ ッ ト ケース
ヒートシンク
図 7-10
図 7-11
解析試料形状
軸流ファン名 P-Q 特性
3)解析条 件
・使用ソフト : 熱設計 PAC V5
・解析機能
: 非圧縮性定常解析
・解析領域
: 図 8-10 に示す青線内
・格子数
: 858000(130×110×60)
・乱流モデル : k-ε方程式
・浮力、輻射 : 無視
・境界条件
: シンク底面:断熱、 他の開口部:全圧規定
・周囲温度
: 20℃
・発熱量
: 150W(ピンフィンヒートシンク下面)
67
表 7-5
材料物性
材質
密度
比熱
[kg/m 3 ]
熱伝導率
粘性係数
体膨張率
[J/(kg・K)] [W/(m・K)]
[Pa・s]
[1/K]
ケース
アクリル(293K) 1190
1400
0.21
-
-
ヒートシンク
A1100( 300K) 2710
904
222
-
-
気体
空気(300K) 1.1609
1007
0.0261
1.63×10 -6
0.003495
4)解析結 と検討
表 7-6
ピンフィンシ ンク平均温 度
換気扇の流れの向き
平均温度[K]
上昇値[K]
吸出し
46.7
26.7
押込み
54.1
34.1
解析モデルの解析結果では、軸流ファンの P-Q 特性は実機のカタログ特性を使
用した。風速の分布は解析の都合上、図 7-12 に示すように円筒状で近似し計算し
ている。
図 7-12
円筒状風速分 布
また、解析ではファンの風の向きをピンフィン・ヒートシンクから吸い出す方向
と、押込む方向の両方について計算している。解析結果の図を図 7-13~図 7-20 に
示してある。
表 7-6 のピンフィン・ヒートシンク平均温度 によると、吸出しの方が押込みよ
り平均値で 7.4℃ほど温度上昇値が低く、吸出しの方が冷却効果が高いという結果
になった。ピンフィン・ヒートシンクでの温度分布を見ると風速分布の形状の影響
68
を大きく受け、予測したようにヒートシンク中心部の温度が、押込みも吸出しも高
くなっている。ヒートシンクの温度分布はファンの風速分布の偏在性の影響をその
まま反映した結果を示している。当然ながら空気温度も中央部の方が周縁部に比べ
高くなっている。CAE解析結果からは、ヒートシンクの中央部の熱交換をもっと
活発にすれば冷却効果を向上できる可能性が認められた。
5)解析結 果の図
図 7-13
ヒートシンク 温度分布( 吸出しの場 合)
図 7-14 空 気温度分布 (吸出しの 場合)
69
図 7-15
図 7-16
流速分布
流速分布
鉛直断面 中心(吸出 しの場合)
水 平断面 H=23mm(吸出 しの場合)
70
図 7-17
ヒートシンク 温度分布( 押込みの場 合)
図 7-18
空気温度分布 (押込みの 場合)
71
図 7-19
流速分布
鉛 直断面 中心(押込み の場合)
図 7-20
流速分布
水 平断面 H=23mm(押込 みの場合)
72
7-4-4
軸流ファ ンの風速分 布がピンフ ィン・ヒートシンク冷 却に及ぼす 影響
のラバー ヒーターに よる検討
1)ラバー ヒーターに よる実験の 概要
軸流ファンの風速分布偏在性がピンフィン・ヒートシンクの冷却に与える影響を
CAE解析した結果、シンクの温度分布に軸流ファンの風速の偏在性の影響が現れ
る結果となった。しかし、CAE解析での風速のモデルは極端な円筒風速分布の近
似がなされており、また,計算機の性能、解析ソフトの分解能などの問題もあり、
解析結果を鵜呑みに出来ないと考えた。そこで、ラバーヒータを貼ったヒートシン
ク・ユニットを用い,軸流ファンによる冷却下でのラバーヒータの温度分布をサー
モグラフィで確認する実験を実施した。
2)実験方 法
100□のピンフィンと軸流ファンのユニットにラバーヒータを貼り付け、ファン
の風をフィンに対し、押込み方向および、吸出し方向の両方向に与えた。その時の
ラバーヒータの温度分布をサーモグラフィで測定し比較検討した。
3)実験風 景
ヒータ用電源
ラバーヒータ
サーモグラフィカメラ
図 7-21
ラバーヒータ の発熱分布 測定風景
73
ラバーヒータ
ピンフィン・ヒートシンク
図 7-22
軸流ファン
実験試料ユニ ット
試料ユニット
サーモグラフィカメラ
図 7-23
実験測定風景
サーモグラフィカメラ
試料ユニット
図 7-24
ユニット測定 風景
74
4)サーモ グラフィ測 定結果
(1)ラバ ーヒータ単 体
図 7-25-1 常温時
図 7-26
サ ーモグラフ ィ画像
図 7-25-2 常温時
デ ジタルカメ ラ画像
加熱時のサー モグラフィ 画像
常温時はラバーヒータも周囲も同じ温度のためサーモグラフィではラバーヒータを
認識できない。デジタルカメラの影像ではラバーヒータが写っている。ラバーヒー
タに通電加熱すると、サーモグラフィにラバーヒータの影像が浮かび上がる。ラバ
ーヒータの内部は細いニクロム線がつづら折に封しされているが、加熱時はニクロ
ム線の分布の影像はなく、ほぼ全面が均一な温度になっており、ヒートシンクに接
着した場合も均一に熱を与えることができることが分かった。
75
(2)ユニ ット
押込 み方向の風 の場合
図 7-27
加熱途中
フィンシンクとラバーヒータの密着
不良による空洞(断熱層)
ラバーヒータ単体の加熱ではこのよう
な模様は出ていない
図 7-28
110℃前後で加熱終了し 電力を維持
ファンの風速分布から点線の円周部内が
赤く高温になると考えられたが、実験では
むしろ低い温度となった。また、シンクと
接触不良の部分は放熱されずそのまま赤
熱して残っている。
図 7-29 フ ァンオン( 押込み方向 )
76
(3)ユニ ット
ファンon
ファ ン吸出し方 向
吸引方向
図 7-30 ヒーター再 加熱
110℃程度に電 力を維持
押込み方向と吸出し方向では温度
分布に大きな差がない
図 7-31 フ ァンオン( 吸出し方向 )
ユニットによる実験では、ファンを動作させた場合,押込み、吸出し、どちらの方
向も温度および温度分布はほぼ同じ傾向になった。図より明らかなように,軸流フ
ァンの風速分布の偏在性がもたらす不均一な冷却状態は認められない。むしろ、若
干ではあるが、中心部のほうが両端部より温度が低い傾向が見られた。
5)実験結 果の検討
本実験結果では,予想に反して,ヒートシンクの裏面は,ほぼ均一というより、
むしろ中心部のほうが両端部より若干低い温度分布を示すことが分かった。今回、
シンクの裏面のラバーヒータの温度で観測した。接着が悪い部分があり部分的に数
箇所ホットスポットができた。しかしながら、ラバーヒータは 2mm程度と薄く、
ラバーヒータの温度分布がほぼアルミピンフィンシンクの裏面の温度分布を示し
ていると考えられる。従って,今回の実験結果により,軸流ファンの風速分布の偏
77
在性の影響でピンフィン・ヒートシンク中央部が周辺部より放熱性能が低下するこ
とはないことが判明した。剣山状の 2mm□の多数のピンフィンにより複雑な風流
が生じ、ピンフィン中心部まで空気が到達し、ピンフィン・ヒートシンクの中央部
においても活発な熱伝達が行なわれていることが予想された。
7-4-5 ピンフィン・ヒートシンクの中 心部の冷却 寄与率に関 する冷却実 験
1)実験概 要
前述のラバーヒータユニットによるサーモグラフィの温度測定実験では,軸流フ
ァンの風速分布の偏在性がピンフィン・ヒートシンクの冷却に影響を及ぼすことは
無いという結論を得た。今回さらに、実際の正常なピンフィン・ヒートシンクと中央
部をくり抜いたピンフィン・ヒートシンクの放熱性能の差を冷却性能実験により確
認することで、シンクの中央部の冷却に軸流ファンの風速分布の偏在性が影響して
いないことを実証することにした。外形 120□,H40 の 2□の通常のピンフィン・
ヒートシンク試料(図 7-32)と中央部を穴径φ45 でくりぬいた試料(図 7-33)の
冷却性能を比較した。ピンフィン・ヒートシンクの中央部が軸流ファンの風速分布
の影響を受けて、ほとんど冷却に寄与しないのであれば中央部をくり抜いた試料と
通常の試料では冷却効果にほとんど影響は現れない。一方,中央部でも活発に熱伝
達を空気に行っていれば、くり抜いた試料は通常の試料に比べ冷却効果が低下する
有意な差が現われると考えた。
2)実験試 料
図 7-32
通常のシンク 試料
図 7-33
78
φ45 くり抜い たシンク試 料
3)実験方 法
それぞれ前述の 2 種類のヒートシンクを放熱側に装着したペルチェユニットを作
成し、二重箱法により吸熱量を測定した。
4)実験結 果
通常のシンクとくり抜きシンクの性能評価実験の結果を表 7-7 に示す。
表 7-7
通常シンクと くり抜きシ ンクの性能 比較
シンクの種 別
通常シンク
くり抜きシ ンク
実験電圧[V]
46
48
実験電流[A]
5.5
5.5
消費電力[W]
263
264
90
70
0.36
0.27
吸熱量[W]
COP
5)結果検 討
表 7-7 に示すように、ピンフィンシンクの中央部をくり抜いたことで通常のピン
フィンシンクに比べ、吸熱量は 22%、COPは 25%低下するというという有為な差
を示した。このことは、軸流ファンの風速分布の偏在性に関係なく、ピンフィン・
ヒートシンクの中央部でも辺縁部と同様の活発な熱交換が行われていることを示唆
している。ヒートシンクの投影面積は 144cm 2 、くりぬいた面積は 19.6cm 2 で、くり
ぬいた面積の比率は 13.6%であるが、吸熱量は 22%も減少しており、ピンフィンシ
ンクの中央部は冷却性能においてかなり重要な役割を担っていることが判明した。
79
7-5
ピ ンフィンシ ンクの熱伝 達率 h の風 速との関係 に関する検 討
7-5-1
熱伝達率 と風速の熱 流体力学に よる検討
ピンフィン・ヒートシンクは図 7-2 に示したように、ピンフィンの太さは大体
2mm□で長さ 27mmである。軸流ファンにより吸い込み方向の風で冷却される。
「7-4-2 軸流ファンの風速分布の実測」においてヒートシンクの吸引風速は
0.65m/sから 11.5m/sと大きくばらついている。ピンフィンに当たる風の流れ
の様子を図 7-34、図 7-35 に示す。
図 7-34 ピンフィン 横方向の風 の流れ
(上から見 た場合)
図 7-35 ピ ンフィン縦 方向の風の 流れ
(横から見 た場合)
図のように横方向、縦方向共にピンフィンに沿った流れになると考えられる。風速
u を 0.65~11.5m/s、参照長 Lref [m]としてピンの幅 2×10 ― 3 mと長さ 27×10 - 3
m、動粘度νは 300Kの空気の値 1.583×10 - 5 m 2 /s (12) としてレイノルズ数 R e の
式で R e= u・Lref /νを求めると、以下の表 7-8 になる。
80
表 7-8
ピンフィンの 各方向、風 速でのレイ ノルズ数 R e
方向
風速
Re
[m/s]
縦
横
0.65
1109
11.5
19614
0.65
82.1
11.5
1453
平板上の流れの場合おおよその目安として、レイノルズ数が 5×10 5 より小さい場
合は整然とした層流となり、これより大きい場合は乱流となる (2) 。ピンフィンも局
部的には平板と同様と考えられ、表 7-8 の結果はレイノルズ数が 2 桁ほど異なる部
分はあるものの、前述の層流と乱流の判断基準からすれば桁としてはその差は小さ
く、ピンフィンの縦、横両方向とも層流と考えてよいと判断される。熱伝達率 h を
大きくすることで従来のペルチェクーラの放熱シンクの熱抵抗 0.1K/Wを半分以
下に下げることができる。今回、2 種類の参照長 L ref =2mmと 27mmを用いて,
各 Lef に基づき算出したヌッセルト数 Nu L ref = hL ref / κ の計算結果を表 7-9
に示す。 h は前述の実測値 54W/m 2 Kとし、空気の熱伝導率kは 300Kの空気の
値 2.614×10 - 2 W/mKで計算した (3) 。
表 7-9 各参照長のヌッ セルト数
参照長 L ref
[10 - 3 m]
ヌッセルト数
Nu L ref
2
4.13
27
55.8
プラントル数 Pr は Pr =μ C p / κ で示され、速度境界層と温度境界層の厚さの
比に密接に関連する数値であるとともに、ヌッセルト数とレイノルズ数の関係にも
関連 する 数 値で ある 。 μは 粘 度 で あ り μ = ν ρ 、 前 述 の 動 粘 度 と 密 度 の 積 と な る 。
81
空気の密度は 300Kでρ=1.1763Kg/m 3 、動粘度ν=1.583×10 - 5 m 2 /sからμ
=1.862×10 - 5 Kg/msとなる。 C p は空気の定圧比熱であり温度 300Kで C p =
1.007×10 3 J/KgK、 k は前述の空気の熱伝導率で 300Kで
κ =2.614×10 - 2 W
/mKである。これらの数値からプラントル数 Pr =μ C p /κを求めると Pr =
0.7173 と求まる。 Pr の大きさのちがいにより以下の関係が示されている (2) 。
P r<1:
δ/δt~P r 1/2
P r>1:
δ/δt~P r 1/3
δは速度境界層の厚さ、δ t は温度境界層の厚さである。 Pr =0.7173<1から
δ/δ t ~Pr 1/2 であり、δ/δ t =√0.7173≒0.85 となる。速度境界層と温度境界
層はほとんど同じ程度の厚さであることが分かる。またヌッセルト数 Nu Lef とレイ
ノルズ数 Re の関係はプラントル数 Pr によって以下のようになる。
P r<1:
Nu L ref ~ Re 1/2 Pr 1/2
P r>1:
Nu L ref ~ Re 1/2 Pr 1/3
おおまかに見積もれば、 Pr ≒1として Nu L ref ≒ Re 1/2 になる。ヌッセルト数
Nu L ref = hd / κ 、レイノルズ数 Re = u ・ L ref /νで示されるが、 L ref はピン
フィン・ヒートシンクの寸法であり、 κ は空気の熱伝導率、νは空気の動粘度であ
り、現在検討しているピンフィン・ヒートシンクにおいてはすべて定数と考えても問
題ない。ヌッセルと数 Nu L ref = h・L ref / κ とレイノルズ数 Re = u ・ L ref /νの
定義式で、前述の
Nu L ref ≒ Re 1/2 から h ∝ u 1/2 という関係となる。
7-5-2
ピンフィ ン・ヒートシンクの熱 伝達率 h の 風速 u との 関係実測デ ータ
軸流ファンとピンフィンが一体となったシンクの姿図と熱抵抗と風速の関係を
82
示したデータの例を図 7-36、図 7-37 に示す (9) 。
図 7-36
アルミピンフ ィン・ヒートシンクと ファンユニ ットの例
0.6
0.5
熱抵抗
0.4
Y =0.3309 X - 0.634
0.3
[K/W]
0.2
0.1
0.
1
0
3
2
4
5
風速[m/s]
図 7-37
アルミピンフ ィン・ヒートシンク熱 抵抗-風速 特性
図 7-37 に 2□ピンフィンで高さ 40mm、100×100 のサイズのピンフィン・ヒート
83
シンクのダクト法による熱抵抗と風速の関係を示す。この図に近似曲線と近似式も
示してある。近似式の指数は X の-0.634 乗となっている。図 7-37 のX軸は風速[m
/s]を示している。熱抵抗 R th =1/ hA =0.3309 X - 0.634 となり、1/ hA =
0.3309/ X 0.634 となる。従って hA = X 0.634 /0.3309 となる。0.3309 Ah = X 0.634
となり、0.3309 A は定数であるから h ∝ X 0.634 となる。従ってピンフィン・ヒートシ
ンクを軸流ファンで吸出し方向に冷却した場合、伝達率 h は風速の 0.643 乗に比例
することが分かる。理論式、実測データの検討の結果からピンフィン・ヒートシン
クの熱伝達率 h と風速 u の関係は
h ∝ u 0.5 ~ 0.634
(7-1)
この 結果 か ら、 現状 の ファ ン の 風 速 を 4 倍 に す れ ば 熱 伝 達 率 h は ほ ぼ 2 倍 に な り 、
熱抵抗1/ hA がほぼ半分になることが分かる。
7-6
熱 伝達促進の ための擬似 格子構造ヒ ートシンク による実験
7-6-1
概要
ピンフィン・ヒートシンクをファンで吸気する場合、ピンフィンにおいては風が
ピンに当たり横あるいは高さ方向に流れる層流が支配的であるため h ∝ u 0.5 の関係
により、空気への十分な熱伝達ができないと考えられる。ピンと直交した構造、遊
具のジャングルジムのような格子構造のヒートシンクであれば横方向のピンフィン
により風の流れに攪拌が起こり、これに伴い乱流遷移が生じ空気への熱伝達促進が
得られる可能性があると考えられる。しかし、アルミの一体成型でこのような構造
を作ることは困難である。そこで,今回は、前述の高密度プレートフィンに多数の
φ3 のアルミ棒を通し、この横に貫通した多数のアルミ棒による空気への伝熱促進
効果を期待した高密度プレートフィンシンクによる擬似格子構造ヒートシンクと、
ピンフィン・ヒートシンクにトリップメッシュとしてステンレス製の網を数枚取り
付けた、擬似格子構造ヒートシンクの冷却能実験を行いそれぞれの冷却効果の評価
を行った。
84
7-6-2
高密度プ レートフィ ンによる擬 似格子構造 ヒートシン クによる
冷却性能実 験
1)実験試 料
高密度プレートフィンシンクにφ3mmの棒を 27 本、等間隔に挿入し、格子状に
近いシンクを作成した。その概容を図 7-38 に示す。
図 7-38
高密度プレー トフィンシ ンクを改造 した擬似格 子状ヒート シンク
2)実験結 果
図 7-38 に示す擬似格子構造ヒートシンクとピンフィン・ヒートシンクと組み合わ
せペルチェユニットを作成し、同寸法のピンフィン・ヒートシンクだけの組み合わ
せのユニットと冷却能力を二重箱法で比較実験した。実験の結果、ピンフィン・ヒー
トシンクの熱抵抗に比べ擬似格子構造ヒートシンクの熱抵抗が 25%低下した。熱伝
達率では 33%の増加であり、目標の 2 倍、100%の増加には程遠いものの、ヒートシ
ンクを格子構造に近づけることで、熱伝達促進効果を与えることができることが分
かった。
7-6-3
トリップ メッシュ擬 似格子構造 ヒートシン クの実験
1)試料と 実験方法
ピンフィン・ヒートシンクの隙間の寸法にほぼ適合したトリップメッシュとして
ステンレスの金網を数段入れる事で、理想に近い格子構造が得られると考えた。60
85
×60、2□のピンフィンシンクにトリップメッシュを組み込み、その段数を変えた場
合の冷却性能をヒートブロック法で計測し、各段数での冷却性能の比較を行った。
図 7-39、図 7-40 に試験試料の概観を示す。また、実験結果を図 7-41 に示す。
側面図
図 7-39 試 験試料
図 7-40 試 験試料
上面図
ト リップメッ シュ 4 段
ト リップメッ シュ8段
86
2)実験結 果
トリップメ ッシュ段数
図 7-41
トリップメッ シュ段数に よる冷却効 果の比較
3)実験結 果の検討
今回の測定はヒートブロック法で行った。トリップメッシュに冷却性能向上の効
果があることが図 7-41 の結果から見て取れる。今回、2 段の場合 15%の性能アップ
が確認できた。ピンフィンにきちんと合わせたメッシュを作成し、素材も熱伝導率
の悪いステンレスではなく、アルミであればもっと性能が向上する可能性はある。
しかし、メッシュとピンフィンとの接触点を確実に金属結合する技術が無いことや、
メッシュ自体特注製造となり,標準対応は難しいと考えた。しかし、ピンフィン・
ヒートシンクに金網をかぶせるだけで、空気への熱伝達促進が可能であるため、製
造方法の問題が完結すれば,実用になる可能性は十分あると思われる。今後の研究
によっては発泡多孔質体の応用も可能性が充分ある (10)-(12) 。
87
参考文献
(1) 篠原健治郎他,軸流ファンによるピンフィン型ヒートシンクの冷却特性,
熱工学講演会講演論文集,pp.5-7,1997.
(2) 中山顕,桑原不二朗,許国良,熱流体力学,共立出版,pp.3-4,pp.16-18,
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(5) 国峰尚樹,熱設計完全入門,日刊工業新聞社,pp.159,2000.
(6) 熱流体解析ユーザーズガイド 理論編,㈱ソフトウエアクレイドル,2002
(7) Suhas V.Patankar 著,水谷幸夫,香月正司 訳,コンピューターによる熱移動と流
れの数値解析,森北出版,2004.
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F100, https://www.micforg.co.jp/dxf/S.pdf,2010.
(10) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山 顕, 発泡金属充填ピンフィンヒートシ
ンクを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782 号,1958-1967,
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(11)Ando, K., Nakayama, A., Imai, Y., Hirai, H., Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media, AIP Conf. Proc. Vol. 1254, pp. 27-32, Proc.
3rd Int. Conference on Porous Media and Its Applications in Science,
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(12) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕,, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝
達率の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,
2013.
88
第8章
各 実験検討結 果に基づく 改良方針と 改良実験
8-1
各 実験結果に 基づく改良 方針
各種実験結果を検討した結果、従来のペルチェクーラの冷却性能を従来のピンフ
ィン・ヒートシンクで 2 倍にできれば現状の 1/2 に小型化ができる。このための基本
方針は、式 Q c = hA ( T fc ―T a ) (1)-(3) での h の倍増による放熱シンクの熱抵抗、
R th =1/ hA の半減である。従来放熱シンクの h は、ほぼ 54 W/m 2 Kであり、気
体の強制冷却の h の最大値、300 W/m 2 K
(1)
に比べ十分余裕があり、 h の増加が可
能であることを確認した。また、フィン効率の計算 (1) では改良の余地があったが、
実験ではフィン効率はほぼ 100%であり、フィンの長さは変えないことにした。さ
らに、熱抵抗の低減により冷却性能が向上することを水冷クーラの部材による実験
で確認した。製造上、従来のペルチェクーラの構造を踏襲し、軸流ファンとピンフ
ィン・ヒートシンクの組み合わせで改良を進めることにした。軸流ファンに関しては、
風速分布の偏在性 (2) という問題があった。ピンフィン・ヒートシンクが軸流ファンの
風速分布偏在性の影響を受け、冷却効率が低下していればこの部分の改良で多少の
性能向上が期待できた。そこで、軸流ファンの風速偏在性がピンフィン・ヒートシン
クの冷却性能に与える影響については詳細に調べた。CAE解析、ラバーヒータ付
きヒートシンクと軸流ファンで作成した簡易モジュールのサーモグラフィによるシ
ンク底面のヒータの温度分布測定、ピンフィン・ヒートシンクの中央部をくり抜い
た試料による冷却性能実験などを行った。その結果、軸流ファンの風速分布偏在性
がピンフィン・ヒートシンクの冷却性能に局部的な低下を生じさせていることはな
く、シンク中央部も活発な熱伝達を行っていることが分かった。また、ピンフィン
の熱抵抗と風速の関係は熱抵抗が風速の-0.5~-0.6 乗に比例する (1)-(3) ことにも
注目した。現状のファンの風量と圧力損失が 4 倍以上のファンを従来のピンフィン・
ヒートシンクに使用すれば熱抵抗は半減する。これによって小型化も可能となる。
しかしながら、そのようなファンの市場性が懸念された。そこで、アルミ合金ヒー
トシンクの空気への熱伝達特性の改善のため、2 種類の擬似格子構造ヒートシンク
89
を考案し実験したが、性能の向上は 15~20%前後であり、目標レベルには程遠かっ
た。また手作り試作のため完成度も低かった。実用化には研究の時間とコストが必
要であり、性能向上が現状の 2 倍になる裏付けも乏しいので、擬似格子構造ヒート
シンクの可能性を探るのは保留とした。また、研究段階の発泡多孔質体の応用も考
えられたが (4)-(6) 市場への早急な供給を重視し、結論として現状のファンの風量が 4
倍以上で、寸法が 100×100 程度の軸流ファンを模索することとした。
8-2
風 速増加によ るペルチェ クーラーの 改良実験
8-2-1 ファンの選定と特性 比較
文献調査 (7) 、市場調査 (8) の結果、従来のファンに比べ,最大風量が 4 倍以上、静
圧が 3.5 倍以上ある高速ファンを採用することとした。図 8-1 に従来のファン、図
8-2 に新型ファンの P-Q 特性を示す。図 8-2 の新型ファンの P-Q 特性に,従来
のファンの P-Q 特性を重ねるとその違いが良く分かる。採用する新型ファンは図
8-2 の青、赤、黒のうちの赤で示してある。
従来のファ ン
図 9-2
図 8-1
従来のファン P-Q 特性
図 8-2
90
新型ファン P-Q 特性
新型ファン P-Q 特性
8-2-2 高速ファンによるヒ ートシンク の熱抵抗の 測定
従来ファンの外径が 92□に対し,今回採用した高速ファンの外径は 119□あり、
現状のピンフィン・ヒートシンクの寸法(100×130)に採用した高速ファンが固定で
きない。そのため、現状のピンフィン・ヒートシンク 2 台が一体化でき、ファンもね
じ止めできる枠を作り、2 つのピンフィン・ヒートシンクを一体化した。この一体化
したピンフィン・ヒートシンクを 2 組使用し、ペルチェ素子 4 枚を直列接続ではさみ、
隙間を断熱材で埋め、高速ファンをそれぞれのピンフィン・ヒートシンクに固定した
ペルチェユニットを作成した。ペルチェ素子に交流を通電しヒータとして使用し、2
台のファンを定格条件で両方とも吸出し方向で作動させ、吊り下げ法で熱抵抗の測
定を行った。測定風景を図 8-3 に、その拡大図を図 8-4 に示す。
図 8-3
高速ファンの ペルチェユ ニットによ る熱抵抗測 定風景
図 8-4
高速ファンの ペルチェユ ニットによ る熱抵抗測 定拡大図
91
測定の結果、一組のピンフィン・ヒートシンクの並列の熱抵抗値は 0.023K/W
であることが分かった。1 台の従来のピンフィン・ヒートシンク(100×130)の熱抵抗
に換算すると 0.048K/Wとなり、当初の目標1台のピンフィン・ヒートシンクの熱
抵抗 0.1K/Wを半分以下にすることに成功した。この成功により,小型高性能、
従来のほぼ半分の大きさで、COP=1.37 を有する世界一の性能の新型ペルチェク
ーラを製作することが可能となった。新型の詳細は付録-2 に示す。
参考文献
(1) 中山顕,桑原不二朗,許国良, 熱流体力学,共立出版,pp.3-4,pp.16-18,2002.
(2) 国峰尚樹,熱設計完全入門, 日刊工業新聞社,pp.32-43,pp.159,2000.
(3) 石塚勝,電子機器の熱設計 基礎と実際,丸善,pp.369~389,1998.
(4) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,仲山顕, 発泡金属充填ピンフィンヒートシン
クを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782 号,1958-1967,2011.
(5) Ando, K., Nakayama, A., Imai, Y., Hirai, H., Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media, AIP Conf. Proc. Vol. 1254, pp. 27-32, Proc.
3rd Int. Conference on Porous Media and Its Applications in Science,
Engineering and Industry,2010.
(6) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝達
率の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,
2013.
(7) 西 山 利 ,輿 水 賢 悟 ,稲 葉 恵 市 、大 型 ハ イ ブ リ ッ ド フ ァ ン の 開 発 、
KOMATSU TECHNICAL REPORT VOL.50,No.15,pp.8-14,2004.
(8) 藤巻哲他,高風量ファン, San Ace Technical Report,No.20,pp.16-20,2005.
92
第9章
9-1
発泡多孔質 体の界面熱 伝達率の優 位性に関す る論理的考 察
緒言
ピンフィン型のヒートシンクでは熱伝達率は流速のほぼ 0.5~0.6 乗に比例する
ことは第7章の式(7-1)で説明したとおりである。ピンフィン・ヒートシンクでは境
界層流れが形成されているものと考えられる。また、粒子充填層の多孔質体の熱伝
達率においても、Wakao-Kaguei (1) の実験より明らかなように、熱伝達率が流速の
0.6 乗に比例することが知られている。一方焼結金属、多孔質セラミックおよびセ
ラミックフォームなどの発泡多孔質体においては、熱伝達率が流速の 0.9 から 1.34
乗に比例することが多くの実験研究を通して報告されている。熱伝達率が流速にほ
ぼ比例するということは風速を少し上げるだけでも、通常のピンフィン・ヒートシン
クに比べ大きな放熱能力を得られることを意味する。この発泡多孔質体とピンフィ
ン・ヒートシンクの熱伝達の機構の差を体積平均理論に基づく数学モデルにより明
らかにすることで、発泡多孔質体がピンフィン・ヒートシンクより高性能なヒートシ
ンクを具体化できる可能性を検討する。
9-2
非 連結多孔質 体(粒子充 填層)
ここではピンフィン・ヒートシンクの熱伝達率が流束の約 0.6 乗にしか比例しな
いことを、非連結多孔質体の代表的な流れの構造を持つ、粒子充填層の熱伝達を物
理モデルと理論式をもとに検討を行うことで境界層ながれの熱伝達率と風速の関係
を把握し数式を得る。
粒子充填層内の粒子は連結しておらず、各粒子には図 9-1 の物理モデルに示すよ
うな同様な温度境界層が形成されていると考えられる。ある粒子の後面側(下流側)
の境界層はその下流の粒子の前面側(上流側)と空間を共有することになる。両境
界層が空間を共有するためには、両境界層の厚さは同じ程度でなければならない。
従って粒子周りの局所熱伝達率はほぼ一様になると考えられる。粒子の前面に一様
流が当たるものとし、熱伝達率を Falkner-Skan の解析解に基づき概算すると
次式(9-1)を得る。
93
hd p
kf
1/ 2
 uD d p 
 1.47 

  
1/ 2
Pr
1/ 3
 uD d p 
 2.33 

  
Pr1/ 3
(9-1)
ここで気孔率は,粒子重点層における典型的な値ε=0.4 を用いている。図 9-2
に Wakao-Kaguei の実験式 (1) と共に本モデルに基づく式(9-1)を示した。図 9-2 にお
いて、式(9-1)は、指数に若干の違いがあるものの、広いレイノルズ数範囲で Wakao
-Kaguei の実験式と概ね一致していることが分かる。
後 面 側 の 境 界 層
x
前面側の境界層
uD
図 9-1
非連結多孔質 体の物理モ デル
94
図 9-2
9-3
粒子充填層に おける熱伝 達
発 泡多孔質体 の熱伝達
ここでは発泡金属に代表される発泡多孔質体の熱伝達について検討する。上述の
ように、非連結多孔質体においては粒子周りの外部流れ的流動場により温度境界層、
図 9-1 が形成されるのに対し、発泡多孔質体では図 9-3 に示すような内部流れ的熱
流動場が形成される。
図 9-3
発泡多孔質体 (連結多孔質体)
95
すなわち、巨視的流れに沿う主要路(白矢印)と、その周辺の構造体内の微細流
路(黒矢印)を流体塊が複雑に行き来する熱流動場が形成されるところに発泡多孔
質体の熱伝達の特徴がある。構造体内の微細流路内に入り込んだ流体塊は周囲が固
体壁に囲まれていることから、瞬時に壁温にまで上昇し、局所熱平衡に至る。その
後、主要流路に再度合流するといった乱流混合に似た、流体塊の空間的混合が活発
に繰り返されるものと考えられる。この流体塊の混合を介して、微細流路を有する
構造を成す固体相と主要流路内の流体相との間の熱の授受が促進されることになる。
これらのシナリオに沿って、巨視的エネルギー式の導出を行い、その上で、速度の
1 乗に比例する発泡多孔質体の熱伝達率の特異な伝熱促進機構の解明を試みる。
まず、主要路を通る流体塊のエネルギーの式と微細流路を含む構造体のエネルギ
ーの式を考える。これらの基礎方程式を局所体積理論により、局所コントロールボ
リュームVにわたり体積平均することで、以下の巨視的エネルギー式が得られる。
なお、Vは構造体の孔径よりも十分大きく、構造体の全体の寸法より十分に小さく
設定するものとする。
主要流路のエネルギーの式
 f cp


u jT 
x j
x j
f


 
  k f   f c p t  T 


f

 T  x j 

(9-2)
微細流路を含む構造体のエネルギーの式
 f cp
f


u jT 
x j
x j
 T 
 ks

 x 
j 

(9-3)
式(9-2),(9-3)における添え字の f と s はそれぞれ流体相と固体相を表す。また
k s は構造体の有効熱伝導率であり、式(9-3)における u j は見かけの流速である。
u f と T はそれぞれ主要流路における、平均流速と平均温度である。Vt と σ T はそ
れぞれ渦動粘度と乱流プラントル数である。
次に,流体で満たされた多孔質体のコントロールボリューム V を考える。コント
96
ロールボリュームの長さ V 1/3 は巨視的な代表長さよりも非常に小さいが、構造体の
代表長さよりは非常に大きい。この条件下で、ある変数φの体積平均は次式のよう
に定義される。

f

1
Vf

dV
Vf
(9-4)
式(9-4)において, V f は主要流路の流体が占める体積である。全体積における流体
相の割合は気孔率εと呼ばれ、気孔率
  Vf V と表すことができる。次に、変数φ
を実質平均とその平均値からの偏差に分解する。
     
f
(9-5)
また、発泡多孔質体の二つのエネルギーの式を体積平均するために、次の体積平均
理論を利用する。
12

xi
f
 1
f
f
2
f
 2
 1
1  


xi
f
(9-6)
f

1
Vf

A int
 n i dA
(9-7)
式(9-7)において、 A int は流体と固体間の局所境界であり、 n i は流体側から固体側
への単位ベクトルである。式(9-6)と(9-7)の関係を式(9-2),(9-3)に適用すること
で、体積平均されたエネルギーの式を得る。
97
流体相:
 f cp 
f

uj
x j
f
T
f
f
 
   k   f c p f  t   T  k f
T n j dA   f c p f u jT 

 x
  f
Aint

V
T
j

 
1
1
T
  kf
n j dA     f c p f u j T n j dA 
A

x j
V int
V  Aint


x j
f




(9-8)
構造体:
 f c p 1   
f

uj
x j
s
T
s
s
T
k
 
1   k s

 s  Tn j dA  1    f c p f u jT 

x j
x j
V Aint

T
1
1
  kf
n j dA     f c p f u j T n j dA 
A
int

x j
V
V  Aint
式(9-8)、(9-9)において T
f
s
は流体の実質平均温度、 T




(9-9)
s
は構造体の実質平均温
度である。流体よりも構造体は熱慣性が十分大きいため、時間変動は無視してよい。
式(9-8)の右辺第二項は、主要流路と構造体の境界面における対流熱伝達を表す。式
(9-8)の右辺第三項は、低密度発泡多孔質体の熱伝達における微細流路へ出入りする
滲み出し混合流れによる熱伝達の項である。式(9-8)の右辺第一項は拡散項を表すが、
主要流路内では対流が支配的であるため第一項は無視できるほど小さい。また、図
9-3 に示されるように、構造体の微細流路から主要流路に飛び出す流体は、連続の
式を満たすべく、再び構造体内の微細流路へと戻る。つまり、微細流路を通過する
流体は構造体全体で考えた場合、平均流速がゼロとなる。そのため、式(9-9)の左辺
が表す対流項は無視し得る。したがって式(9-8)、(9-9)をそれぞれ以下のように書
き改める。
98
 f cp 
f

uj
x j
f
f
T

1
V

Aint
kf
1
T
n j dA     f c p f u j Tn j dA

V  Aint
x j
s
T
k
 

1   k s
 s  Tn j dA  1    f c p f ujT 
V Aint
x j 
x j

1
1
T
n j dA     f c p f u j T n j dA
  kf

V Aint x j
V  Aint
s
(9-10)




(9-11)
式(9-10)、 (9-11)より
 f cp 
f
1

V

uj
x j
f
T
f
s
T
 
T
1

Aint k f x j n j dA  V  Aint  f c p f u jT n j dA   x j  k eff x j





(9-12)
また,式(9-11)における構造体の拡散項は,次のようにモデル化できる。
1   k s
T
x j
s
k
 s
V

Aint
Tn j dA  1    f c p f ujT   k eff
s
T
s
x j
(9-13)
式(9-13)は、微細流路へ出入りする流体の運動から生ずる機械的熱拡散
 1    f cp f u jT によっても構造体の有効熱伝導率が増加し、さらに、発泡多孔
s
質体の熱伝達率も増大することを示している。
9-4 発泡多孔質体 における熱 伝達モデル
面積分で表される式(9-12)の右辺第一項は、主要流路と構造体の境界面での対流
熱伝達を表し、Newton の冷却則に基づき次のようにモデル化できる。

1
T
kf
n j dA  a f h T

V Aint x j
s
 T
f

(9-14)
99
ここで、 a f と h はそれぞれ比表面積、界面熱伝達率である。
式(9-12)の右辺第二項は、滲み出し混合流れによる熱伝達を表す。本モデルでは、
微細流路は周囲の固体相の温度に順応しやすく、微細流路における流体は構造体と
s
局所熱平衡にあると仮定する。この仮定より図 9-4 に示すように、流体は温度 T で
f
微細流路内から主要流路へ滲み出し、温度 T で主要流路から微細流路へ戻る。
界面からの滲み出し混合流速を uintとすると、微細流路内の流体が構造体から主要流
路に飛び出しては戻る際、正味エンタルピの授受は、以下のようにモデル化できる。


1
  f c p f u jT n j dA   f c p f uint a f T

V  Aint
s
 T
f

(9-15)
モデル化した界面対流熱伝達項と滲み出し混合による対流熱伝達項を、流体相のエ
ネルギーの式である式(9-8)に代入し、次式を得る。
 f cp 
f

uj
x j
f
T
f

 a f h   f c p f u int
 T
s
 T
f

(9-16)
 f cp uint a f T
f
図 9-4
s
 f cp uint a f T
f
f
滲み出し混合 流れによる 熱伝達
式(9-16) より、 h  c p f uint は有効熱伝達率であり、シングルブロー法などで測定
される発泡多孔質体の熱伝達率は、 h 単独ではなく実効値 h  c p f uint として得られ
ることを示唆している。有効熱伝達率に基づく有効ヌッセルト数の相関式は以下の
ように表せる。
100
Nu 
h  
f

c p f u int Lref
kf
(9-17)
ここで Lref は代表長さである。発泡多孔質体では、滲み出し混合流速 uintを伴う、
滲み出し混合流れによる伝熱が支配的であると考えられるので、式(9-17)は、
 uref Lref
Nu  c1 
 
1
 2 13  f c p f uint Lref  f c p f uint Lref
 Pr 

kf
kf

(9-18)
もしくは、
Nu v 
hv Lref
kf
2

となる。ここで、
 f c pf u int a f Lref 2
hv  a
kf
f
h  
(9-19)
f

c p f u int は体積熱伝達率である。発泡多孔質
体においては表面積の正確な測定が困難であるため、界面熱伝達率に代わりに体積
u
熱伝達率が用いられる。式(9-19)において int
が求められれば。ヌッセルト数を
見積もることができる。
9-5
滲 み出し混合 流速の見積 もり
滲み出し混合流れは、連結多孔質体内の乱流混合と密接な関係があるのは明らか
である。したがって、滲み出し混合流速が多孔質体内の乱流エネルギ-の平方根に
比例すると仮定する。
Nakayama ら (3) は平均流における運動エネルギーの輸送方程式について考察し、円
柱群などの直交流、粒子充填層の流れ,平行平板・円管・棒束の軸方向流れといっ
た、複雑な多孔質体内乱流にも適用できる一般的乱流モデルを提案した (4) 。
Nakayama ら (3) の一般化した乱流モデル式を以下に示す。
101
k
f

t


x j
f



x j

f
k
f
k    k


    t  ij  dis ij 

 k 
c p  x j

 2 t sij

t

uj
x j
f
f
sij
 

uj
x j
f

f

(9-20)
f
  b uj
2
f
 2c1 t sij
 c2  2 b
f
sij

cD
uj
2K
 c2 
f

f
k    


    t  ij  dis ij 

  
c p  x j

f
uj
3
f 2
uj
f
k

f
(9-21)
f
f

f 2
ここで ij はクロネッカーデルタテンソルである。

f
は乱れエネルギーの散逸率
であり、ここでは気孔率  とは異なる。また,熱分散テンソル k dis
ij
の表現につい
ては文献 (5) を参照されたい。ここで得られた乱流モデルは非常に一般的であり、圧
力損失の計測により透過率 K と Forchheimer 係数 b を求めれば、様々な形態の多孔
質体で使用可能である。
そこで、巨視的乱れエネルギーを見積るため、巨視的一方向流れを仮定する。一方
向流れでは、対流項と拡散項が消えるため,式(9-20)と式(9-21)により、巨視的乱
れエネルギーとエネルギーの散逸率を得ることができる。
k
f
  2b
   1.75
2K
u
cD
f 2
   0.673 u 
2
u
150cD
f 2
102
f 2
(9-22)

f
 
f 3
 b u
2
 
1.751    u


d
f 3
ここで、k-εモデルにおける定数
cD
(9-23)
は 0.09 である。また透過率 K と Forchheimer
係数 b は Ergun の式を用いて見積る。
K
b
3
1501   
2
d2
(9-24)
1.751   
 3d
(9-25)
式(9-22)より明らかなように、均一な多孔質体内における十分発達した乱流場では、
体積平均した乱れエネルギーの平方根と、体積平均した平均流速の割合は、気孔率
によらず一定となる。
以上のことより、滲み出し混合流速 uintは以下のように表すことができる。
u int 
9-6
k
f
 0 .82 u
f
(9-26)
既 存の実験結 果と相関式 の比較
式(9-26)より滲み出し混合流速 uintは、ダルシー速度 uD ( uD
  u )に比例する
f
ことが分かった。また気孔径 d m は比表面積 a f に反比例するという関係に留意する
と、式(9-19)はダルシー速度 uD と気孔径 d m を用いてヌッセルト数を表すことがで
きる。
103
Nuv 
2
 f c p f uD d m
hv d m
u d 
 c3
 c3  D m  Pr
kf
kf
  
(9-27)
ここで、比例定数 c3 は構造や熱伝導率、固体と流体の組み合わせに依存する。発泡
多孔質体については多くの実験データが公表されており、実験条件が明らかなデー
タを集めカーブフィットする事で、広い範囲まで適用できるよう、式(9-27)におけ
る比例定数 c3 を決定した。
2
hd
   3  uDdm 
Nu v  v m  0.07 
 Pr
 
kf
1      
2
0.7    0.95 , 3  u d
D m
(9-28)
  1000
式(9-28)より、比例定数 c3 は気孔率
ε の影響が大きいことがわかる。
Fu ら (2) は,発泡セラミックにおける体積熱伝達率を、シングルブロー法を用いて
求めた。彼らは、実験結果から最小二乗法を用いて、ムライトとコージライト試料
における相関式を、以下のように求めた。
1.01
u d 
Nuv  0.275 D m 
  
u d 
Nuv  0.099 D m 
  
:ムライト(ε=0.916)
:コージライト(ε=0.722)
(9-29)
(9-30)
図 9-5 に,これらの相関式(9-29)(9-30)と本数学モデルの比較を示す。図から、両
者は良好な一致を示していることが分かる。
104
図 9-5
本数学モデル と Fu らの 相関式の比 較
Kamiuto と Yee ら (6) は、シングルブロー法および定常法で求められた既存の実験
結果の調査を行った。彼らは、体積熱伝達率に関する様々な実験結果を調査し、繊
維径に基づくヌッセルト数の相関式を提案した。彼らの提案した相関式を、気孔径
を用いて書き改めると、次式となる。
 3 
hd

Nuv  v m  0.124
kf
 41    
2
0.605
 uD d m 
Pr 

 

0.791
:Kamiuto and Yee
(9-31)
この相関式(9-24)および Younis ら (7) による実験式、本数学モデル式(9-28)と共に図
9-6 に示す。実験条件の違いから、指数に違いが見られるものの、すべての実験式
と良好な一致を示している。これにより、発泡多孔質体における本理論モデルの妥
当性が確認できる。
105
図 9-6
本数学モデルと様々な相関式の比
また、式(9-27)は以下に整理される。
2
k f    3  uD 
hv  0.07 
   Pr
dm  1      
(9-32)
以上のように、体積熱伝達率がダルシー速度の 1 乗に比例するという発泡多孔質体
の伝熱特性が理論的に示された (9),(10) 。この考察を基に、発泡多孔質体をヒートシ
ンクに使用した場合の冷却特性の向上について、実験的に検討することとした。
106
参考文献
( 1)Wakao, N. and Kaguei, S., Heat and mass Transfer in packed beds, Gordon
and Breach Science Pub.,1982.
(2)X.Fu, R.Viskanta, J.P.Gore, Measurement and correlation of volumetric heat
transfer coefficients of cellular ceramics, Experimental Thermal and Fluid
Science,17,pp.285-293,1998.
(3)A.Nakayama, F.Kuwahara, A general macroscopic turbulence model for flows
in packed beds, channels, pipes, and rod bundles,ASME Journal of Fluids
Engineering,Vol.130,pp.101205-1-101205-7,2008.
(4)A.Nakayama, F.kuwahara, A macroscopic turbulence model for flow in a porous
medium, ASME Journal of Fluids Engineering, Vol.121, pp.427-433, June 1999.
(5) F.kuwahara, A.Nakayama, and H.Koyama, A numerical study of thermal
dispersion in porous media,vol.118,Issue3,pp.756-761,1996.
(6)Kouichi Kamiuto, San San Yee, Heat transfer correlations for open-cellular
porous materials, International Communications in Heat and Mass Transfer,
Vol.32,pp.947-953,April 2005.
(7)L.B.Younis and R.Viskanta, Experimental determination of the volumetric
heat transfer coefficient between stream of air and ceramic foam, Int.J.Heat
Mass Transfer, Vol.36, No.6, pp.1425-1434,1993.
(8)C.Yang, A.Nakayama, A synthesis of tortuosity and dispersion in effective
thermal conductivity of porous media, International Journal of Heat and Mass
Transfer, Vol.53, pp.3222-3230,2010.
(9)Ando, K., Nakayama, A., Imai, Y., Hirai, H., Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media, AIP Conf. Proc. Vol. 1254, pp. 27-32, Proc.
3rd Int. Conference on Porous Media and Its Applications in Science,
Engineering and Industry,2010.
(10) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山顕,連結・非連結多孔質体の界面熱伝達率の
違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,2013.
107
第10章
改良シングルブロー法によるセラミック多孔質体の
高精度な界面熱伝達率の決定
10-1
概
要
前 章 に お い て 、理 論 的 に 連 結 多 孔 質 体 の 界 面 熱 伝 達 率 が 風 速 の ほ ぼ 1 乗 に 比
例 す る こ と を 明 ら か に し た 。本 章 で は 実 験 に よ り 連 結 多 孔 質 体 の 界 面 熱 伝 達 率
が 風 速 の ほ ぼ 1 乗 に 比 例 す る こ と を 確 か め 、理 論 的 検 討 結 果 の 妥 当 性 を 証 明 す
る 。本 実 験 で は 改 良 シ ン グ ル ブ ロ ー 法 を 用 い 、実 験 試 料 を 完 全 に 熱 平 衡 に な る
ま で 加 熱 し 、加 熱 を 急 に 止 め 、冷 却 曲 線 を 使 用 し 2 エ ネ ル ギ ー 方 程 式 用 に 基 づ
く冷却曲線と実測の冷却曲線をカーブフィットすることで界面熱伝達率を得
て い る 。こ の よ う に 得 た 界 面 熱 伝 達 率 を 過 去 の 研 究 者 の 研 究 論 文 の 有 用 な 実 験
実 験 デ ー タ と 比 較 検 討 し た 結 果 、 非 常 に よ い 一 致 が 認 め ら れ た (1)。
10-2
緒
言
放 熱 シ ン ク な ど に 多 孔 質 体 を 適 用 す る 場 合 、固 体 相 と 流 体 相 間 の 界 面 熱 伝 達
を見積もる必要がある。即ち、放熱シンクには局所熱平衡仮定は適用できず、
流 体 相 と 固 体 相 の 正 確 な 温 度 の 決 定 に は 、2 エ ネ ル ギ ー 法 の 使 用 が 必 要 で あ る 。
従 っ て 、多 孔 質 体 を 応 用 す る 場 合 、界 面 熱 伝 達 率 を 見 積 も る こ と は 、透 過 率 を
見 積 も る の と 同 様 に 重 要 で あ る 。界 面 熱 伝 達 率 は 通 常“ シ ン グ ル ブ ロ ー 法“ ( 2 )
に よ っ て 測 定 さ れ る 。シ ン グ ル ブ ロ ー 法 と い う 名 称 は 、試 料 の 加 熱 を 一 種 類 の
流 体 で 行 う こ と に 由 来 す る 。試 験 方 法 の 詳 し い 説 明 は W akao-Kaguei の 論 文 に
あ る ( 3 ) 。 従 来 と 今 回 の 実 験 装 置 の 概 念 図 を 図 10-1(a )、 10-1(b )に 示 す 。 こ
れ ら に お い て は 内 部 流 体 の 温 度 は 時 間 と 共 に 変 化 し 、界 面 熱 伝 達 も 時 間 依 存 性
を 持 つ 。こ の 結 果 、多 孔 質 体 と 流 体 間 の 熱 伝 達 現 象 を 非 定 常 現 象 と し て 連 成 し
て 取 り 扱 う 必 要 が あ る 。最 初 に 流 体 と 試 験 試 料 は 熱 平 衡 状 態 に し て あ る 。次 に 、
流 入 す る 流 体 の 加 熱 を 急 激 に と め る 。そ の 後 の 、試 験 試 料 入 り 口 と 出 口 の 温 度
変 化 を 継 続 的 に 記 録 す る 。記 録 デ ー タ が シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 と 符 合 す る よ う 、
界面熱伝達率を変化させ決定する。
108
図 10-1( a )
図 10-1( b )
従来シングルブロー法
改良シングルブロー法
今回の改良シングルブロー法は従来の方法と大きく 2 点が異なる。第一に、
従 来 の 方 法 は ダ ク ト 内 部 に 送 る 風 の 加 熱 開 始 と 同 時 に 、試 料 前 後 の 固 体 相 、流
体 相 の 温 度 計 測 を 始 め る 。今 回 の 改 良 方 法 は 後 述 す る よ う に 、試 験 試 料 が 十 分
加 熱 さ れ 熱 平 衡 状 態 に な っ て か ら 各 部 の 温 度 計 測 を 始 め る 。第 二 に 、従 来 法 は
温 度 変 化 の 温 度 上 昇 曲 線 を 使 用 す る 。今 回 の 改 良 方 法 は 試 験 試 料 を 充 分 加 熱 し
熱 平 衡 に な っ た 後 の 温 度 下 降 曲 線 を 使 用 す る 。今 回 の 改 良 方 法 は 実 験 再 現 性 と
信頼性が従来に比べ向上している。
109
10-3
実験装置と実験手法
こ の 研 究 に お い て は 、図 3-8 に 示 し た ダ ク ト 法 を 用 い て 実 験 を 行 な っ て い る
が 、 実 験 手 続 き の 説 明 を 分 か り や す く す る た め 図 10-2 に そ の 詳 細 を 示 す 。
図 10-2 実 験 装 置
1:ブロワー
2:インバーター
3:連結ダクト
4:可変変圧器
5:ヒーター
6:直流電源
7:ミキサー
8:フィルター
9:試験試料
10:熱電対
11:アネモメーター
12:パソコン
供 給 さ れ る 風 は 常 時 ヒ ー タ に よ っ て 加 熱 す る 。次 に 、ミ キ サ ー と フ ィ ル タ ー
を 通 り 、良 く 攪 拌 さ れ 、均 一 な 温 度 の 熱 風 が 試 験 試 料 を 通 る 。こ の よ う な 熱 的
に 平 衡 な 状 態 を 4 時 間 な い し 5 時 間 維 持 す る 。試 料 が 完 全 に 熱 的 に 平 衡 に な っ
た 頃 を 見 は か り 、入 り 口 の 風 の 温 度 を 変 化 さ せ る た め 、試 験 装 置 前 方 の ヒ ー タ
の 電 源 を 突 然 停 止 す る 。こ れ と 同 時 に 多 孔 質 体 内 の 流 体 相 と 固 体 相 の 温 度 変 化
が は じ ま り 、こ の 温 度 変 化 を パ ソ コ ン に 記 録 す る 。記 録 さ れ た 温 度 変 化 に 符 合
す る よ う に 、2 エ ネ ル ギ ー 方 程 式 中 の 界 面 熱 伝 達 率 を 調 整 し 、そ の 値 を 決 定 す
る。
110
以下に 2 エネルギー方程式を示す。
流体相:
 T
 f c pf 
 t

f
 uD
2

   *k d T
f
dx 
dx 2
d T
f

f
 hv T
f
 T
s

(10-1)
固体相:
T
 s cs
t
ここで
s
d2 T
 1   *k s
dx 2
s

 hv T
s
 T
f

(10-2)
uD と ε * は ダ ル シ ー 速 度 と 有 効 気 孔 率 を そ れ ぞ れ 示 す 。
図 10-3、(a),(b)に 示 す よ う に 、試 験 試 料 の 風 下 に お け る 温 度 変 化 の 測 定 結 果
7 に合うように界面熱伝達率
hv を 決 め る 。
典 型 的 な セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 6PPI, L =25m m , u D =4.9m /s の 場 合 、 界 面 熱 伝
達率は
h v = 15.3×10 4 W /m 3 K と な っ た 。
111
(a)流体相
(b)固体相
図 10-3
( 6PPI , L = 25 mm,
温度変化
u D = 4.95m/s , h v = 15.3×10 4 W/m 3 K )
112
10―4
実験結果の検討
図 10-4 に 今 回 の 実 験 に 使 用 し た 各 種 多 孔 質 体 の 試 験 試 料 を 示 す 。
図 14-4
多孔質体試験試料
試 験 試 料 の 6、9,13PPI は セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 で あ り 、20PPI は ニ ッ ケ ル 金 属 多
孔質体である。
ダルシー速度
uD と 界 面 熱 伝 達 率
h v の 関 係 を 図 10-5 に 示 す 。 本 研 究 と 異 な る
加 熱 法 を 用 い た Kamiuto ら ( 4 ) に よ る 実 験 結 果 と 今 回 の シ ン グ ル ブ ロ ー 法 に よ
る実験結果は非常に良い一致を示している。
図 10-5
ダルシー速度
uD と 界 面 熱 伝 達 率
113
hv の 関 係
すべての試料におけるダルシー速度と界面熱伝達率の相関が直線性を示し
て い る 。我 々 は 体 積 平 均 理 論 を 用 い て 界 面 熱 伝 達 率 の 理 論 的 な 研 究 を 行 な っ た
(5)
。こ の 研 究 報 告 で 、な ぜ ヌ ッ セ ル ト 数 の 表 現 に お い て 、レ イ ノ ル ズ 数 の 指 数
が 、セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 の よ う な 低 密 度 の 連 結 多 孔 質 体 の 場 合 指 数 が 極 め て 1
に 近 い 値 に な り 、こ れ が 粒 子 充 填 層 の よ う な 非 連 結 多 孔 質 体 の 場 合 と 大 き く 異
な る の か に つ い て 説 明 し て い る 。多 孔 質 体 の 気 孔 径 を 基 に し た ヌ ッ セ ル ト 数 と
レイノルズ数は以下のように定義される。
ヌッセルト数:
Nu
v
h d
 v
kf
2
m
(10-3)
レイノルズ数:
Redm 
uDdm
(10-4)

こ こ で 、 セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 の 気 孔 径 d m は P PI か ら 以 下 の 式 で 計 算 で き る 。
dm 
0 .0254
PPI
4
(10-5)

す べ て の 実 験 計 測 で 得 た セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体( 6,9,13 PPI)と 20PPI の ニ ッ ケ
ル多孔質体界面熱伝達率を前述のレイノルズの数の関数としてヌッセルト数
の 表 現 で 図 10-6 に 示 す 。
114
103
Pr e se nt St ud y
20PPI
1 3P P I
9PPI
6 PP I
Fu et a l.
6- 6 0P PI
Yo u nis et a l.
102
6 6P P I
4 6P P I
3 0P P I
2 0P P I
1 0P P I
101
100
101
102
図 10-6
103
104
レイノルズ数に対するヌッセルト数
比 較 の た め 、 同 じ グ ラ フ の 中 に Fu ら ( 6 ) 、 及 び Younis-Viskanta ( 7 ) の 論 文 の デ
ータを描き込んである。
本研究における前述の実験装置を使用して得た各種セラミックおよび金属多
孔質体の界面熱伝達率のレイノルズ数表現は以下のようになる。
6PPI (Ceramic foam) :
Nuv  0.055Redm
1.15
(500≦ Re d m ≦ 2000)
(10-6a)
9PPI (Ceramic foam) :
Nuv  0.012Red m
1.27
13PPI (Ceramic foam)
:
Nuv  0.015Red m
1.21
(700≦ Re d m ≦ 1300)
(10-6b)
(300≦ Re d m ≦ 800)
(10-6c)
20PPI (Nickel metal foam)
Nu v  0.342Red m
0.80
:
(100≦ Re d m ≦ 600)
115
(10-6d)
このように実験結果から得たヌッセルト数のレイノルズ数での指数表現に
お け る 指 数 は 、1 に 極 め て 近 い か 、ま た は そ れ よ り 大 き い 。こ の 発 見 は Fu ( 6 ) 、
及 び Younis-Viskanta ( 7 ) の 論 文 の 実 験 デ ー タ と 一 致 す る 。 ま た Yang ら ( 8 ) に よ
れ ば 、セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 の 場 合 、固 体 相 か ら 流 体 相 へ の 熱 拡 散 係 数 は き わ め
て 小 さ く 、界 面 熱 伝 達 率 と ダ ル シ ー 速 度 と の 間 に は 線 形 性 が 認 め ら れ る こ と が
指 摘 さ れ て い る 。改 良 シ ン グ ル ブ ロ ー 法 を 基 に し た 今 回 の 実 験 方 法 を 使 用 す る
ことで、多孔質体の正確な界面熱伝達率の決定が可能であることが判明した。
10-5
結
論
改良シングルブロー法を用いた多孔質体の界面熱伝達率に関する実験研究
を 実 施 し た 。6,9,13PPI の セ ラ ミ ッ ク 多 孔 質 体 と 20PPI の ニ ッ ケ ル 金 属 多 孔 質
体 を 実 験 試 料 と し 、こ れ ら の 試 料 を 今 回 の 実 験 装 置 の ダ ク ト 内 部 に 設 置 し 、流
体 相 お よ び 固 体 相 の 温 度 の 同 時 計 測 を 行 っ た 。多 孔 質 体 固 体 相 と 流 体 相 間 の 界
面 熱 伝 達 率 を 得 る べ く 、こ れ ら の 温 度 の 時 間 変 化 デ ー タ に 符 合 す る よ う 界 面 熱
伝 達 率 を 変 化 さ せ 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 実 施 し た 。得 ら れ た 界 面 熱 伝 達 率 は
有 用 な 他 の 実 験 者 の 実 験 デ ー タ と 良 い 一 致 を 示 し た 。今 回 開 発 さ れ た 実 験 方 法
は各種多孔質体の界面熱伝達率を調べる際に極めて有用である。
参考文献
(1)Ando, K., Hirai, H., Nakayama, A.,
An Accurate Experimental
Determination of Interstitial Heat Transfer Coefficient of Ceramic
Foams Using the Single Blow Method, Proc. JSSUME 2012, pp. 203-206,2012.
(2)Liang C.Y., Yang, W.J., Modified single blow technique for performance
evaluation on heat transfer surfaces, Trans ASME J Heat Transfer vol.
97.pp.16-21,1975.
(3)Wakao, N. and Kaguei, S., Heat and mass Transfer in packed beds, Gordon
and Breach Science Pub.,1982.
116
(4)Kamiuto,K.and Yee, S. S., Heat transfer correlations for open-cellular
porousmaterials,Int.Comm. Heat Mass Transfer,vol.32,pp. 947-953,2005.
(5)Nakayama, A., Ando, K., Yang, C, Sano, Y., Kuwahara, F. and Liu, J.,
A study on interstitial heat transfer in consolidated and nconsolidated
porous media, Heat Mass Transfer, Volume 45, Issue 11, pp. 1365-1372,
2009.
(6)Fu, X., Viskanta, R. and Gore, J. P., Measurement and correlation of
volumetric heat transfer coefficients of cellular ceramics,
Experimental Thermal and Fluid Science,vol.17,pp.285-293,1998.
(7)Younis, L. B. and Viskanta, R, Experimental determination of the
volumetric heat transfer coefficient between stream of air and ceramic
foam, Int. J. Heat Mass Transfer, vol. 36, pp. 1425-1434,1993.
(8)Yang, C. And Nakayama, A., A synthesis of tortuosity and dispersion
in effective thermal conductivity of porous media, Int. J. Heat Mass
Transfer, vol. 53 (15-16), pp.3222-3230,2010.
117
11章
ピ ンフィン・ ヒートシン クと発泡多 孔質体ヒー トシンクの
冷却性能比 較実験
11-1
概要
第8章までで、ピンフィン・ヒートシンクの熱伝達率は風速のほぼ 1/2 乗に比例
することから、風速を 4 倍することでペルチェクーラーの小型化を実現した。これ
に対し、第9章では連結多孔質体の界面熱伝達率が流速のほぼ 1 乗に比例すること
を理論的に証明し (1) 、第11章では実験により界面熱伝達率が流速のほぼ 1 乗に比
例することを証明した (2) 。他の研究者の論文においても多孔質体の応用や、構造が
簡単なものや、ロータス銅などがあるが、基本的に水冷であり、我々の用途には向
かない構造であり、熱抵抗も我々の追及する値の 10 倍程度である (3)-(8) 。本章では
ピンフィンと連結多孔質体の 2 者の流速に対する界面熱伝達率の違いを確認するた
め、同一の寸法のアルミ製ピンフィン・ヒートシンクとアルミ製発泡多孔質体シン
クによりヒートブロックを作成し、ダクト法でヒートシンクの冷却性能の比較を行
った。
11-2
実験試料仕 様
実験試料の仕様、ピンフィン・ヒートシンクを図 11-1 に発泡多孔質体シンクを
図 11-2 に示す。
気孔率
0.75
縦(mm)
120
横(mm)
高さ(mm)
120
ピン(mm)
35
図 11-1 ピ ンフィン・ヒートシン クの仕様
118
2
材質
アルミ
気孔率
0.90
縦(mm)
横(mm)
120
120
図 11-2
11-3
高さ(mm)
PPI
35
40
発泡多孔質体 ヒートシン クの仕様
実験装置
実験装置の概略図を図 11-3 に示す。
ブロワ
風速計
ヒータ
熱電対
実験試料
図 11-3
実験装置概略 図
119
熱電対
材質
アルミ
実験用のヒートブロック試料の概略図を図 11-4 に示す。
⑦
⑧
⑥
④
⑤
③
②
①
⑨
⑩
図 11-4
ヒートブロッ ク実験試料 外略図
実験試料の各部の構成を以下に示す。
①
ヒートシンク
120×120×35mm
②
銅板
120×120×1.5mm
③
主ヒータ(ラバーヒーター)
120×120×1.5mm
④
ベークライト
120×120×15mm
⑤
ガードヒータ(ラバーヒーター)
120×120×1.5mm
⑥
熱電対
3 箇所(壁面温度用)
⑦
熱電対
3 箇所(主ヒーター用)
⑧
熱電対
3 箇所(ガードヒーター用)
⑨
熱電対
3 箇所(入口温度用)
⑩
熱電対
3 箇所(出口温度用)
120
⑥、⑦、⑧の実験試料の温度測定箇所を図 11-5 に示す
60mm
×
×
×
60mm
30mm
30mm
図 11-5
30mm
30mm
実験試料の温 度測定箇所
アクリル製のダクトで作られた流路の中央にピンフィン、または発泡多孔質体で
作成したヒートブロック試料を設置する。実験は恒温室内で行い、流入空気の温度
を一定に保つ。風速は、ヒートブロック試料の上流部のダクト上部に挿入したアネ
モメータで測定し、ブロアで風速を調整する。各ヒートブロック試料のヒートシン
ク上部からヒータにより熱量一定 5Wの条件で加熱する。主ヒータ、ガードヒータ
の温度を、熱電対を用いて測定し、主ヒータとガードヒータが等温になるようガー
ドヒータの出力を調整する。このことにより、ヒータの熱量をほとんどすべて実験
試料のヒートシンク側に伝えることができる。また、図には示してないが、実験試
121
料側面は断熱効果の大きい発泡スチロールで覆うことにより、外気への熱損失を防
いでいる。熱電対により、主ヒータとヒートシンクの接触面と入り口空気温度およ
び出口空気温度をそれぞれ 3 点ずつ測定する。ヒートシンクとヒータの各接触面の
温度測定位置は図 11-5 に示すとおりである。主ヒータとガードヒータが等温になる
よう調整し、充分に時間が経過し、熱平衡になった後、60 分間の温度データを測定
する。各測定点の温度データの平均値をとり、その時の主ヒータとガードヒータの
温度差が±0.2K以内であれば正確なデータとして採用する。
次に有効熱伝達率を以下の式(11-1)で定義する。
h 
Q
ATs  Tin 
(11-1)
ここで
h
:熱伝達率[W/Km 2 ]
Q
:主ヒータへの供給熱量[W]
A
:ヒータとヒートシンク接触面積[m 2 ]
T s :主ヒータとヒートシンク接触面平均温度[K]
T in :入り口の温度[K]
11-4
実験結果の 検討
2mm角のピンフィン・ヒートシンクと 40PPI の発泡多孔質体ヒートシンクを、熱
量 5Wで各風速における温度測定値を処理し、式 11-1 で其々の場合の熱伝達率を得
た。図 11-6 にピンフィン・ヒートシンクと発泡多孔質体ヒートシンクとの熱伝達率
と風速の関係を示す。
122
図 11-6
発泡多孔質体 とピンフィ ンの h - u 特性
図 11-3 には描いてないが、ブロアの回転速度をインバータで 10Hz から 60Hz ま
で 10Hz 毎に変化させ、其々の試料について 6 点の風速のデータを収集した。ピンフ
ィン・ヒートシンクと発泡多孔質体シンク、それぞれ 6 点のデータを図 11-6 に示す。
図のように熱伝達率-風速平面にデータをプロットすると両者は同じ曲線上に載っ
ている。当初、発泡多孔質体シンクの熱伝達率-風速特性は直線になり、同一の風速
であれば発泡多孔質体シンクの熱伝達率のほうがピンフィン・ヒートシンクより大
きくなると予測された。しかし、同一の曲線に乗るということは、同一風速におい
ては同一の熱伝達率であることを示す。また発泡多孔質体シンクの熱伝達率は風速
の 1 乗ではなく、1/2 乗に比例することになり、前章の理論、実験結果とも一致し
ない。また、発泡多孔質体シンクのプロットデータがピンフィン・ヒートシンクの
プロットデータより低速側に集中している。これは発泡多孔質体シンクの方がピン
フィン・ヒートシンクより流動抵抗が大きいためである。これらの結果は、発泡多
孔質体シンクでピンフィン・ヒートシンクと同じ熱伝達率を得るにはファンの風圧
123
を上げる必要があり、より大きな電力を必要とすることを意味する。実用の点から
すると、発泡多孔質体シンクは意味を持たないことになる
しかし、この実験結果についてさらに検討を進めると、発泡多孔質体の気孔率が
90%であり、ベースと固体相は分散的に接触しており、発泡多孔質体の固体相のベー
スとの接触率は合計で 10%と低く、ベースからの熱伝導による熱の輸送量がピンフ
ィン・ヒートシンクに比べ小さいことが原因のひとつと考えられる。検討のために、
4×4=16mm 2 のベースのスペースを単位面積と考えると、ピンフィン・ヒートシン
クのピンの断面積は 2×2=4mm 2 であり単位面積の 25%を占める。一方、発泡多孔
質体シンクの接触面積の合計は前述のように 10%程度であり、ほぼ 1.6mm 2 の面積
となる。従って、ベースからのピンフィン・ヒートシンクのフィンの熱伝導による
熱輸送量は発泡多孔質体シンクの 2.5 倍であると考えられる。この接触面積のイメ
ージを図 11-7 に示した。
接触部
4mm
4mm
2mm
4mm
4mm
2mm
発泡多孔質体 (Σ10%)
図 11-7
ピンフィン(25%)
各シンク試料 接触面積比 較
小松らは焼結アルミ繊維を用いた放熱シンクの研究報告をしている。気孔率 0.8~
0.98 において各種繊維径での実験を行ないヌッセルト数のレイノルズ数表示での
指数はほぼ 0.31~0.37 としている (6) 。今回の連結発泡多孔質体の場合より小さい指
数となっている。今回の連結発泡多孔質体シンクがピンフィン・ヒートシンクの熱
伝導面積が1/2.5 にも係わらず、同じ風速で同じ熱伝達率を示すことは、アルミの
固体相から空気という流体相への熱伝達の能力が 2.5 倍あるということになる。発
124
泡多孔質体の比面積増加(ピンフィン・ヒートシンクが 520/m に対し、発泡多孔質
体が 2700/m)と流体混合による空気への界面熱伝達の効果がピンフィンシンクよ
り高いことに起因するものと考えられ、この結果からも、発泡多孔質体の界面熱伝
達における優位性が伺われる。今回の実験により、発泡多孔質体ヒートシンクの界
面熱伝達の効果はピンフィン・ヒートシンクに比べかなり大きく、空気への熱輸送の
能力が非常上に高いことが分かった。しかし、気孔率が 90%と高いためベースとの
接触面積は 10%と小さく、シンクのベースから熱伝導で熱をフィンと空気との接点
まで輸送する能力はピンフィン・ヒートシンクの方が高い。しかし、今回検討してい
るピンフィン・ヒートシンクのフィン効率ηがほぼ 90%であり、ピンフィンから如何
に効率よく空気へ熱を伝えるかが課題である。ピンフィン・ヒートシンクの熱伝導に
よる熱をフィンと空気の接点まで輸送する能力と、発泡多孔質体ヒートシンクの界
面熱伝達による空気への熱輸送の能力が非常上に高いこと、これらの、お互いの良
い点を組み合わせることで、欠点を補完し合い、性能の良いヒートシンクができる
のではないかと考え、ピンフィン・ヒートシンクと発泡多孔質体ヒートシンクを組合
せたシンクの試作品をつくり性能を調べる実験を行うことにした。このシンクの試
作品をハイブリッドフィンシンクと命名した (9) 。
125
参考文献
(1) Ando, K., Nakayama, A., Imai, Y., Hirai, H., Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media, AIP Conf. Proc. Vol. 1254, pp. 27-32, Proc.
3rd Int. Conference on Porous Media and Its Applications in Science,
Engineering and Industry, 2010.
(2) 安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝
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(3) 金田謙次,望月美代,長田裕司,半導体デバイス用の高性能ヒートシンク
(エ
レクトロニクス機器・デバイスのサーマルマネージメント 1), 熱工学コンフ
ァレンス講演論文集,pp.265-266,2006.
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(5) 中島秀雄,ポーラス化によって創られる材料性能 4.2 ロータス銅を用いたヒ
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(7) 平沢壮史,稲垣義勝,最新のヒートシンクの動向とその特許技術,古河電工時
報,第 115 号,pp.2005、
(8) 小松喜美,菅原征洋,藤田忠,焼結アルミニウム繊維ヒートシンクの伝熱性能
実験,日本冷凍空調学会論文集,26(3),pp.217-224,2009.
(9)安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山顕, 発泡金属充填ピンフィンヒートシン
クを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782,1958-1967,2011.
126
第12章
ハイブリッ ドフィンシ ンクの性能 の検証と考 察
12-1 概要
発泡多孔質体ヒートシンクの熱伝達特性は論理的解析 (1)-(9) 及び改良シングルブ
ロー法の実験結果 (10) から熱伝達率が風速のほぼ1乗に比例し、多孔質体をシンクと
して用いればピンフィンシンクに比べより高性能な冷却特性が期待された。しかし、
前述の実験の結果、ベースからの熱伝導による熱の供給の良否がシンクの冷却性能
に大きく影響していることが判明した。多孔質体の開孔率を小さくすることは熱伝
導においては効果的であるが多孔質体の界面熱伝達率の優位性を損なう。そこで多
孔質体の開孔率は 90%のままとし、ピンフィン・ヒートシンクと組み合わせることで
熱伝導と界面熱伝達率の両方を維持したハイブリッドフィンシンクを考案し、通常
のピンフィンシンクと冷却特性の測定し,比較を行った。
12-2 実験試料
本実験で使用するピンフィン・ヒートシンクを図 12-1 に示す。
図 12-1 ピ ンフィン・ヒートシン ク
本実験では、10PPI、20PPI、40PPI の 3 種類のアルミ多孔質体をピンフィン・ヒー
トシンクに充填する。充填するアルミ多孔質体(10PPI)を図 12-2 に示す。
127
図 12-2 ア ルミ多孔質 体(10PPI)
表 12-1 に充填させるアルミ多孔質体の仕様を示す。
表 12-1 ア ルミ多孔質 体の仕様
PPI
気孔径(mm)
気孔率
縦(mm)
横(mm)
高さ(mm)
10
2.76
0.91
38
38
12
20
1.37
0.90
38
38
12
40
0.69
0.92
38
38
12
次に、ハイブリッドフィンシンクを図 12-3 に、仕様を表 12-2 に示す。
図 12-3
ハイブリ ッドフィン シンク
128
表 12-2
ハイブリッ ドフィンシ ンクの仕様
ヒートシンク
気孔率
縦(mm)
横(mm)
高さ(mm)
ピンフィン
0.89
40
40
15
発泡金属充填(10PPI)
0.74
40
40
15
発泡金属充填(20PPI)
0.76
40
40
15
発泡金属充填(40PPI)
0.73
40
40
15
12-3
測定点
ヒートシンクの大きさに合わせ風洞の流路を 40mm×13mm としたダクト法により
測定を行った。ヒータから供給する熱量は、6.5Wで行った。ヒータとヒートシンク
20mm
接触面の温度測定位置は以下の図 12-4 に示す。
×
×
20mm
×
10mm
図 12-4
10mm
10mm
温度測定位置
129
10mm
12-4
実験結果
風速と熱伝達率の関係を図 11-5 に示す
700
600
h(W/m2K)
500
400
300
200
100
0
0
1
2
3
4
5
u(m/s)
ピンフィン
発泡金属充填(20PPI)
図 12-5
6
7
8
9
10
発泡金属充填(10PPI)
発泡金属充填(40PPI)
実験結果
三種類のPPIでは風速と熱伝達率の関係にほとんど差が無い。これらのピンフィ
ンシンクに対し各種ハイブリッドフィンシンク(発泡金属充填)は同じ風速におい
てはピンフィンの約 2 倍の熱伝達率を示し、冷却効果の優位性を示している。
12-5
実験データ と理論式に よる比較検 討
第 9 章で説明した、発泡多孔質体(連結多孔質体)の熱伝達率の理論式は、シング
ルブロー法などの実験で行われるようなフィン全体の温度が一様、すなわちフィン
効率が 1 の条件を想定している。しかしながら本実験では、実際の応用を想定し,
ヒートシンク一面のみを加熱している。したがって,フィン全体の温度は一定には
ならず、フィン効率 (11) を考慮する必要がある。そこで、以下の図 12-6 に示すよう
なハイブリッドフィンシンク模式図を考え、本理論モデルを今回の実験データに適
応させる。
130
ピンフィン
アルミ多孔質体
T in
ud
y
Tw
x
L
図 12-6 ハイブリッド フィンシン ク模式図
底面は T w の等温壁であり、他の面は断熱であるとする。
このヒートシンクのピン 1 本における熱バランスを考えると
 2Ts ( y)
Aks
 ( H 2  A)hv (Ts ( y)  T f ( x))  0
2
y
(12-1)
ここで、 A はピンフィンの断面積、 H 2 はピン 1 本あたりの伝熱面積、 h v はアルミ
フォームの体積熱伝達率である。フィンのベース温度 T w と流体温度 T f(x)の差に
基づく無次元温度を用いて式(12-1)を解く。
Ts ( y)  T f ( x)
Tw  T f ( x)

e
B ( Ly  y )
e
 B ( Ly  y )
BLy
e
 BLy
e
(12-2)
131
( H 2  A)hv
 d p2
ここで、 B 
、A 
、 d p はピンの直径である。
Aks
4
次に式(12-2)を積分してフィンの平均温度 T s を求める。
Ts  T f ( x)  (Tw  T f ( x))
tanh( BL y )
(12-3)
BL y
次にエネルギーの式を考えると
 f c pf uD Ly
f
dT

 a f h f Ly T f ( x)  Ts
dx

(12-4)
式(12-3)を代入して
 f c pf u D L y
d T
f
 a f h f L y ( T
dx
f
 Tw )
tanh( BL y )
BL y
(12-5)
式(12-5)より
T
f
 Tw
Tin  Tw

a f h f tan(BL y ) 
 exp 
x
  a u

BL y
f f D


(12-6)
また、ニュートンの冷却則、式(12-3)および式(12-6)を用い単位幅あたりの放熱
量を考えると
Q  Ly a f h f
 T
L
0
s

 T f ( x ) dx
Q  Ly a f h f
tanh( BL y )
Q  Ly a f h f
tanh( BL y )
BL y
BL y

L
0
(Tw  T f ( x ))dx

a f h f tanh( BL y ) 
L
x dx
(Tw  Tin )  exp  
  c u

0
BL y
f pf D



 a f h f L tanh BL y
Q   f c pf u D L y (Tw  Tin )1  exp  
  c u

BL y
f pf D


132




(12-7)
式(12-7)より熱伝達率は
h
a h L tanh( BL y ) 
Ly 
Q
 1  exp(  f f
  f c pf u D
)

L (T w  Tin )
L 
 f c pf u D
BL y

(12-8)
ここで, a f h f はアルミ多孔質体の熱伝達であり、ピンフィンから多孔質体への熱伝
導の効率(η pin )を考慮して以下のように表せる。
a f h f   pin
kf
H2 A
H2  A


h
0.07
v
pin
2
2
H
H
dm
  


1  
2/3
uD

(12-9)
Pr
H2  A
ここで、
はピン 1 本あたりのアルミ多孔質体の面積を表している。
H2
図 12-7、図 12-8、図 12-9 に式(12-8)より求めた熱伝達の理論値と各 PPI にお
ける実験値(供給熱量 6.5W)との比較を示す。
700
600
h(W/m2K)
500
400
300
200
100
0
0
1
2
理論値
3
4
u(m/s)
実験値(発泡金属充填10PPI)
5
6
図 12-7 ハ イブリッド フィンシン ク(10PPI)における実 験値と理論 値の比較
133
700
600
h(W/m2K)
500
400
300
200
100
0
0
1
2
理論値
3
4
5
u(m/s)
実験値(発泡充填金属20PPI)
6
図 12-8 ハ イブリッド フィンシン ク(20PPI)における実 験値と理論 値の比較
700
600
h(W/m2K)
500
400
300
200
100
0
0
1
2
理論値
3
u(m/s)
4
5
6
実験値(発泡金属充填40PPI)
図 12-9 ハ イブリッド フィンシン ク(40PPI)における実 験値と理論 値の比較
式(12-4)における η pin の値は以下の表 12-3 に示す。
表 12-3
η pin の値
PPI
η pin
10
0.20
20
0.14
40
0.08
134
図 12-7、図 12-8、図 12-9 に示すように、各ヒートシンクにおいて理論値と実験
値は良好な一致が得られた。40PPI アルミ多孔質体を充填したハイブリッドフィン
シンクにおいて、実験値と理論値の誤差が大きいのは、ヒートシンクを作成した際
にアルミ多孔質体の気孔を潰してしまったためであると考えられる。また、表 12-3
に示すη pin の値が小さいのは、今回の実験においてはピンフィンとアルミ多孔質体
はロウ付けしておらず、接触熱抵抗が高くピンフィンからアルミ多孔質体への熱伝
導が小さかったためと考えられる。
参考文献
(1) Ando K.,Imai Y., Hirai H., and Nakayama, A., “Heat Transfer Characteristics
in Consolidated Porous Media”, API Conference Proceeding,Vol. 1254,
pp.27-32,2010.
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(4)安藤健志,今井悠介,平井秀和, 中山顕, 連結・非連結多孔質体の界面熱伝達率
の違いに関する理論的考察,化学工学論文集, Vol.39, No.2, pp.73-77,2013.
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Classification, Application”, J. Engineering Physics, Vol. 47, pp. 1110-1123,
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135
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Porous Materials”, Int. Comm. Heat Mass Transfer, Vol. 32, pp. 947-953, 2005.
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Heat Transfer Coefficient Between Stream of Air and Ceramic Foam”, Int. J.
Heat Mass Transfer, Vol. 36,pp. 1425-1434,1993.
(10)Ando, K., Hirai, H., Nakayama, A.,
An Accurate Experimental Determination
of Interstitial Heat Transfer Coefficient of Ceramic Foams Using the Single
Blow Method, Proc. JSSUME 2012, pp. 203-206,2012 .
(11) 中山顕,桑原不二朗,許国良,熱流体力学, pp.16-18,共立出版,2002.
136
第13章
軸流ファン によるハイ ブリッドフ ィンシンク の性能検証
13-1
概要
第 12 章のダクト法によるハイブリッドフィンシンクの実験において、同一の風
速で、ハイブリッドフィンシンクがピンフィンシンクの 1.7 倍の熱伝達率を示すこ
とが分かった (1) 。ピンフィンシンクの熱伝導性の良さに発泡多孔質体の高い界面熱
伝達率という特性を組み合わせることで、お互いの欠点を補完し、冷却性能が向上
することを実証した。ここでは、コンパクト・ヒートシンクとしての実用に近い状
況でのハイブリッドフィンシンクの性能を確認するため、市販の軸流ファン(最大風
量 0.69m 3 /min) によるハイブリッドフィンシンクとピンフィンシンクの性能比較実
験を行い、軸流ファンによる熱伝達率の違いを把握する。
13-2 実験試料
前章の図 12-1 に示すピンフィンシンクに、図 12-2 に示す外観を持つ発泡多孔質
体で表 12-1 の各仕様のものを組み合わせ、外観が図 12-3 に示すハイブリッドフィ
ンシンクを使用した。
13-3
実験装置
実験装置は、ヒートブロック法を基本とし、ヒータの発熱量は 7.5Wとし実験を
行った。実験装置の外観を、図 13-1 に示す。2 枚のアルミ板を用い、図には示して
ないが 4 本のねじ付きロッド棒で実験試料のヒートブロックを上下に挟みつけるよ
うに固定している。適切な圧力で伝熱面の接触熱抵抗を軽減し、同時にファンとシ
ンクを固定している。また、熱電対により、主ヒータとヒートシンクの接触面の温
度を 5 点と、室温を測定している。図 13-2 にヒートシンクとヒータの接触面の温度
測定位置を示す。主ヒータとガードヒータを等温に調整し、十分に時間が経過し熱
平衡になった後、120 分間の温度データを測定し、測定データの平均値をとる。そ
の時の主ヒータとガードヒータの温度差が±0.2K以内であれば正確なデータとし
て採用する。
137
熱伝達率を以下の式(13-1)のように定義する。
h 
Q
ATs  Ta 
(13-1)
h :熱伝達率 [W/Km 2 ]
Q :主ヒータへの供給熱量[W]
A :ヒータとヒートシンク接触面積[m 2 ]
T s :主ヒータとヒートシンク接触面平均温度[℃]
T a :室温[℃]
空気流
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
アルミ板
ファン
試料
銅板
主ヒータ
ベークライト
ガードヒータ
発泡断熱材
断熱用ベークライト
40×40×28mm
40×40×35mm
40×40×1mm
40×40×1.5mm
40×40×15mm
40×40×1.5mm
図 13-1 軸流ファンに よる実験装 置外観
138
×
10mm
×
×
×
10mm 10mm 10mm
×
10mm 10mm 10mm 10mm
図 13-2
13-4
温度測定箇所
実験結果
図 13-3 に各ヒートシンクの熱伝達率の比較結果を示す。
800
700
h(W/m2K)
600
500
400
300
200
100
0
ピンフィン
10PPI
20PPI
40PPI
図 13-3 ハ イブリッド フィンシン クとピンフ ィンシンク の伝熱特性 比較実験結 果
139
13-5
実験結果の 検討
図 13-3 に示すように、市販の軸流ファンでもハイブリッドフィンシンクはピン
フィン・ヒートシンクと比較して約 40%熱伝達率が高いことが分かる。ただし、今
回のハイブリッドフィンシンクはピンフィンに発泡多孔質体を機械的にはめ込んだ
だけのものであり、ピンと発泡多孔質体の接触は機械的である。この接触を完全な
金属接触にすることで熱伝導率を向上できれば冷却効果をもっと向上させることが
可能であると思われる。各研究者により長年各種ヒートシンクの研究がなされてき
ている (2 )-(7 ) 。本研究の 1 つの成果である、ハイブリッドフィンシンクはこれらの
研究に一石を投じうるものと思われる。
参考文献
(1) 安藤健志,今井悠介,平井秀和,中山顕, 発泡金属充填ピンフィン・ヒートシ
ンクを用いた伝熱促進,日本機械学会論文集(B編),77 巻,782 号,1958-1967 号,
2011.
(2) 近藤義弘,松下伸二,ファン付きヒートシンク周りの最適形状, 熱工学講演会講
演論文集,pp.549-550,2001.
(3) 伊東 誠,小林理津子,強制空冷における電子デバイス冷却用ヒートシンク形状
最適化,電子情報通信学会総合大会講演論文集.エレクトロニクス(2),
pp.16,2001.
(4) 羽下誠司,小林孝,大串哲朗,軽量ヒートシンク(不等ピッチフィン)の最適化設
計手法の開発,設計工学・システム部門講演会講演論文集,pp.158-161,2003.
(5) 川村圭三,中島忠志,松村均,高熱マイクロプロセッサに装着するファン付平板
ヒートシンクの冷却特性に及ぼすファン取り付け高さの影響,日本機械学会論
文集(B 編),63 巻,632 号,pp.199-204,1999-4.
(6) 福江孝ら,局所強制対流冷却電子機器の冷却性能予測精度,日本機械学会第 2
回計算力学講演会 CD-ROM 論文集,No.9-21,pp.712-713,2009-10.
(7) 小糸康志,富村寿夫,複合体の有効熱伝導率について(二次元モデルによる理論
的検討),日本機械学会九州支部第 63 期総会講演会,pp.281-282,2010-3.
140
第14章
流体で満 たされた多 孔質体チャ ネル強制対 流の局所非 熱平衡モデ ルに
基づく厳密 解
14-1 概要
有効気孔率は局所非熱平衡モデルによる解析において極めて効果的である。流体
で満たされた多孔質体内の固体相と流体相、それぞれの有効熱伝導率に対する迷路
係数と熱分散の効果を適切に加味することができる。ここでは,この有効気孔率の
概念を使うことで、流体相と固体相の体積平均温度が異なる場合の多孔質体強制対
流局所非熱平衡問題を解くことを提案する。2 つの熱的に十分発達した多孔質体チ
ャネル内の強制対流を考える。即ち、等温の高温壁と低温壁の場合及び一定熱流束
壁の場合を考える。
14-2 緒言
多孔質体内の熱伝導と対流の熱的挙動を把握するに当たり,2 種類のモデルが提
案されている。即ち、いわゆる局所熱平衡モデル(一相モデル)と局所非熱平衡モ
デル(二相モデル)である。両者は,1 エネルギー方程式モデル、2 エネルギー方程
式モデルとそれぞれ呼ばれている。局所熱平衡モデルでは 2 相の温度が等しいとし,
一つのエネルギー方程式で扱う。一方,局所非熱平衡モデルでは、固体の温度と流
体の温度が異なることを許し、2 つの相の独立したエネルギー方程式を連立して扱
う。
局所熱平衡仮定に基づく1エネルギー方程式は,今まで,多孔質体内での伝達現
象のモデルとして広範囲に利用されている。内部発熱がない場合 (1)、(2)、(3)、(4) の熱伝
導および熱伝達の多くの場で、極めて効果的であることが判明している。しかしな
がら、Quintard (5) と Quintard-Whitaker (6)(7) は局所熱平衡仮定が成立しない多くの
物理的状況があることを指摘し、2 エネルギー方程式モデルを使うことを勧めてい
る。局所熱平衡の仮定の妥当性と評価に関しては多くの研究者らによって議論され
た。彼らは Minkowycz ら (8) 、Kim-Jang
(9)
、Kiwan-Al.Nimr (10) 、Al.Nimr-Abu.Hijleh (11) 、
Abu.Hijleh ら (12) 、Khashan ら (13) 、Khashan-Al.Nimr (14) 、そして Haddad ら (15) である。
141
局所熱平衡仮定の基での厳密解を 2 エネルギー方程式に基づいて得た厳密解と比
較した研究もいくつかある。Nakayama ら (1) は Hsu (16) や Hsu ら (17) によって提案され
た 2 エネルギー方程式モデルを用い,2 つの基礎的な定常熱移動の厳密解を得てい
る。一つは,一次元の定常熱伝導で内部発熱のある多孔質体のスラブに関する解、
今ひとつは熱的に発達する一次元流れの半無限の多孔質体内の熱伝達に関する解で
ある。彼らは、局所熱平衡の仮定は定常熱問題においても成立しない場合があるこ
とを指摘した。一方、Haddad ら (15) は発泡体にはめ込んだ垂直な板の自然対流を取
り扱い、レイリー数が十分高い場合は局所熱平衡仮定が成立しないことを指摘した。
さら、Kuznetsov-Nield (18) はナノ流体に満たされた多孔質体の垂直層における対流
の発生について研究し、ある状況下においては局所熱平衡の仮定が成立しないこと
を報告している。Kuznetsov ら (19)、(20) もまた顕熱蓄熱充填層に関連付けられた非熱
平衡問題の摂動解を提示している。
2 エネルギー方程式モデルに基づいて研究している多くの研究者は、淀み熱伝導
率における迷路係数の効果を無視し、単に流体相の熱伝導率を気孔率とその熱伝導
率の積として評価し、そして、同様の評価を固体相にも行なっている。このような
評価は熱伝導において、特に、金属発泡体の内部のように個体相の熱伝導率と流体
相の熱伝導率が大きい場合に非常に大きな誤差を生む。
本章では最初に 2 エネルギー方程式において迷路効果を的確に考慮し得る有効気
孔率の概念を提案し、局所体積平均エネルギー方程式群を導出する。導出において
は迷路係数と同様、熱分散についても考慮する。アルミニウム発泡体との空気の組
み合わせを例として取り上げ、有効熱伝導率をそれぞれ流体相および固体相につい
て考慮し検討する。個々の相の熱伝導率を見積もるための解析的表現を提案する。
導かれた表現は、前述のような簡略化された 2 エネルギー方程式モデルとはまった
く異なるということが判明した。また、この 2 エネルギー方程式を使ってアルミニ
ウム発泡体で満たされた平行平板の中で十分発達した対流流れを考える。平行平板
の断面内の固体相と流体相のそれぞれの温度分布を明らかにする。等温壁と等熱流
束壁の両者の場合について厳密解を導く。これらの厳密解は非熱平衡仮説に基づく
数値解析のベンチマークとして使用されることが期待できる。さらにこの結果は、
142
等熱流束の場合、非熱平衡モデルを使って扱わなければならないことを示している。
何故なら、多孔質体チャネル内の流体相と固体相は熱平衡に決して至らないからで
ある。今一つの基礎的な問題として多孔質体が充填された円環内の強制対流を取り
扱った論文 (21) および平行平板間内に多孔質体が充填された論文 (22) があるが、ここ
では,かなり複雑な解析が紹介されている。
14-3 有効気孔率
局所体積平均エネルギー方程式を確立すべく、流体相のエネルギー方程式と、固
体相の熱伝導の式について考察する。
流体相:
 f cp
f
T


  f cpf
u jT 
t
x j
x j
 T 
 k f

 x j 
(14-1)
固体相:
 s cs
T


t x j
 T 
 ks

 x j 
(14-2)
これらの方程式を,局所体積平均理論 (6)、(7)、(23)、(24) に基づき,積分し,以下の局所
体積平均エネルギー方程式を得ることができる。:
流体相:
 f c p
T
f
f
  f c p f
t
 uj
f
x j
T
f

f
kf
T
 
k f


V
x j 
x j

Aint
~  1
Tn j dA   f c p f  u~jT  
 V


Aint
kf
T
n j dA
x j
(14-3)
固体相:
 s cs 1   
 T
t
s


x j
s

 T
k
 1    k s
 s


x
V
j


Aint
 1
Tn j dA  
 V

143

Aint
kf
T
n j dA
x j
(1-4)
ここで,注目する変数φは局所体積平均値とそれからの空間的ずれに分解してある。
 
f
 
これらの2つのエネルギー方程式を加え合せ、境界における温度と熱流速の連続
性に注意すると、次に示す巨視的な方程式を得る:

  f c p f T
f
 1    s c s T
s
t


x j
f
f
pf
 1    s cs
f

x j   T
 T
t
  f cp f
s
f
 uj
T
f
x j
pf
f
s

 k  T  1   k  T  k f  k s
s
 f x j
x j
V

ここでまず  T
 c
   c

Aint
~
Tn j dA   f c p f u~ j T
f




(14-5)
x j   T x j を仮定する。
 uj T
x j


x j

k f  ks
 T

   k f  1    ks 
V
x j


Aint
Tn j dA   f c p f u j T
f



(14-6)
ここで
 
1
V
  dV
V
(14-7)
は注目する変数φのダルシアン平均であり、 u j   u j
f
はダルシー速度ベクトル

である。前述の式(13-6)から巨視的な熱流ベクトル qi  q x , q y , q z

とそれに応じ
た淀み熱伝導率 k stag を次のように定義する。
qi  kstag
T
T
1
~f
~f
f cpf u~iT  kf 1ks 
kf ks   TnidAf cpf u~iT
xi
xi
V Aint
(14-8)
一番右の最後の項は熱分散項を表しており、多孔質構造体の存在による流体混合
に起因する付加的な熱流束である。表面積分と関係のある第2項は巨視的熱流束に
おける迷路効果を示している。右辺の第1項は平衡モデルに基づく有効淀み熱伝導
率の上限に対応しており、つまり、
k  1   k 
f
s
である。従って迷路項(右辺
第2項)はその上限値から正確な値に有効淀み熱伝導率のレベルを調整する役割を
144
担っている。淀み熱伝導率が下式のように与えられて、有効気孔率ε*を以下のよう
に定義する。


k stag ij   * k f  1   * k s
(14-9a)
即ち
* 
k s  k stag
ks  k f
 
k f  1   k s  k stag
ks  k f
(14-9b)
したがって

*

 xT

i
1
V
(14-10)

Tni dA
Aint
有効気孔率 ε*を使うことで,局所体積平均エネルギー方程式(14-3)、(14-4)を次
のように簡単に書き直すことができる。
流体相:
 f cp 
T
f
t
f
  f cp f
 uj T
f


x j
x j
f
f

T
   * k  T  k
f
dis jk

x j
xk


  h T
 v


f
 T
s

(14-11)
固体相:
 s c s 1   
T
t
s
s
T
 
*
1   ks

x j 
x j




h T
 v


s
 T
f

(14-12)
ここで熱分散項は勾配拡散モデル (13) に従い、以下のようにモデル化されている。
  f c p f u j T
f
 kdiskj
 T
f
(14-13)
xk
また、固体と流体相間の界面熱伝達はニュートンの冷却法則を用いてモデリングさ
れている。
1
V

Aint
kf

T
n j dA  hv T
x j
s
 T
f

(14-14)
ここで hv は体積熱伝達率である。
145
14-4 金属発泡体 の淀み有効 熱伝導率
Yang-Nakayama (26) は局所体積平均理論に基づく一般的な単一セルを用いた有効熱
伝導率の算出法を提案した。粒子充填層、スクリーンワイヤーおよび金属発泡体な
どの有効熱伝導率の評価を行なった。それらの結果は実験結果と良好な一致を示し
ている。ここで,我々が注目する金属発泡体の構造は極めて複雑であり、実際、そ
れらのセルは通常、多数の面を持つ多面体である。その中の各々の面は五角形や六
角形をしている。従って、その構造を正確に全て詳細を記述することは実践的では
ない。そこで,Yang-Nakayama (26) は発泡セル構造体を提唱した。高気効率多孔質の
金属発泡体に一般的な単一モデルを適用し、彼らは次の解析的表現を導出した。
k stag
kf
  2  1    
2
2 1   
   1   
(14-15)
ここで
(14-16a)
  1  3 2  2 3
これをζについて解くと

1
4 
1
 cos cos 1 2  1 

2
3
3 

(14-16b)
上式(14-15)は熱伝導率の比率   k s / k f
と気孔率εの2つの変数のみの関数で
ある。高気孔率ζ<<1 でかつ高熱伝導率比を有する場合、すなわち,金属発泡体と
空気のような場合はσ>>3/(1-ε)を満たす。この場合,式(14-15)とともに(14-16a)
はより簡略化でき以下のようになる。
k stag
kf

1 
3
(14-17)
これは Lemlich 理論 (30) に基づく Krishnan ら (29) により導出された表現と同じである。
Calmidi-Mahajan (31)、(32) は複雑な泡構造を近似すべく、6角形の構造を提案している。
この構造を用い,彼らは一次元の熱伝導の解析を行い,有効淀み熱伝導率の表現を
得ている。彼らの表現は熱伝導率比   k s / k f に3次元パラメーターの関数を加え
たもので、既存の実験データとも良好な一致を示している。しかし、一般性には乏
146
しく,固有な金属繊維泡構造に限られている。Calmidi-Mahajan (31) は種々の金属発
泡体を使い、一連の実験を行なった。流体相としては,空気と水を用いて,金属発
泡体の有効熱伝導率が測定された。収集された実験データに基づいて、彼らは次の
ような実験式を提案している。
k stag
kf
   0.191   
0.763

(14-18)
一方,Bhattacharya ら (33) はより広範囲な熱伝導率比について、網目状ガラスファ
イバー(RCV)の発泡体を固体相とし、空気と水を流体相として用い測定を行った。彼
らの実験相関式は、固体相と流体相を直列または並列に並べた時の有効熱伝導率を
重みを付けて足し合わせたように表される。
k stag
kf
 0.35  1     
0.65
 1  
 

 

(14-19)
Singh-Kasana (34) は金属発泡体の熱伝導率の既存の実験データを集め、それらのデー
タに最も良く適合する表現の式として次式を提案し,その指数Fを決定した。
k stag
kf
   1    
F
1  

 

 

 (1 F )
(14-20)
ここで
F  0.3031  0.0623 ln 
(14-21)
流体相を空気とした場合の既報の実験データと共に,前述の解析的表現および実験
的表現を一緒に、図 14-1 に示す。これらの表現は Calmidi-Mahajan (31) の実験デー
タとかなり良い一致を示している。金属発泡体と空気の組み合わせにおいては、簡
単な表現の式(14-17)が、十分正確に淀み有効熱伝導率を広い気孔率の範囲で示すこ
とができるということがわかる。
147
今回の式
図 14-1
空気で満たさ れたアルミ 金属発泡体 の淀み熱伝 導率の各種 表現
Calmidi-Mahajan (32) は2エネルギー方程式モデルを用いるにあたり,流体相の熱伝
導率としては kstag
そして固体相の熱伝導率としては k stag
を使用するこ
k f 0
k s 0
とを勧めている。しかしながら、前述の式(14-11)と(14-12)は迷路係数と熱分散が
重要なことを示しており、流体相と固体相の正確な淀み熱伝導率においては以下を
用いる必要がある。
 *k f 
  k stag k f
1   k
 1
*
s

k
stag

kf
k f 1
 1
(14-22a)
(14-22b)
ks
図 14-2 は、アルミ発泡体と空気の組み合わせの場合の流体相と固体相の熱伝導率に
ついて示しいる。前述の式(14-22a)と(14-22b)は,淀み有効熱伝導率に関する
Calmidi-Mahajan の実験式と良い一致を示している示している。
148
図 14-2 アルミ発泡体 と空気の組 合わせにお ける流体相 と固体祖の 淀み熱伝導 率


アルミニウム相の淀み有効熱伝導率が全淀み熱伝導率そのもの、 k stag  1   * k s
に
非常に近い値になるということは注目に値する。これはアルミニウムの熱伝導率が
空気の熱伝導率   3 / 1   
より非常に大きいという事実によるものである。表
現式(14-17)より
* 
k s  k stag
ks  k f

1 
ks
2
3

ks  k f
3
ks 
(14-23)
さらに,それぞれ気相とアルミニウム相の熱伝導率は次によって与えられる.
 *k f 
2
kf
3
(14-24a)
149
そして
1   k
1
k s  k stag
3

*
s
(14-24b)
金属発泡体と空気の組み合わせの場合は、近似方程式(14-24)で個々の相の有効
熱伝導率を算出し,2 エネルギー方程式を用いれば良い。多くの研究者たちによっ
て使用されてきた、気体相 k f と固体相 1   k s の熱伝導率の伝統的な表現が、こ
れらの結果と相当異なるということには,留意する必要があろう。
14-5
等温高温壁 および低温 壁を有する 金属発泡体 充填チャン ネルの強制 対
流熱伝達
ここでは局所非熱平衡モデルを使って金属発泡体に満たされたチャンネルの強
制対流熱伝達を検討する。第1の例として。図 14-3 に示すような金属発泡体が充填
された高さLの反無限の平行平板を通して流れている空気のチャンネル流れについ
て検討する。下部の壁の境界は等温で、一定の温度T h に加熱されており、同時に
上部の壁も等温で、一定の温度T l に冷却されているものとする。Dukhan (35) や,
Nakayama (36) は,ダルシー速度は壁の極近傍でしか変化しないと指摘している。従っ
て、粘性境界項(即ち、ブリンクマン項)は無視できる。また、十分入口から離れて
おり、温度場も速度場も充分に発達した状態にあるものとする。この時,エネルギ
ー方程式(14-11)と(14-12)は次のような常微分方程式に帰着する。
流体相:

 d dyT
2
*
k f  k dis yy

f
2
 hv T
f
 T
s
 0
(14-25)
固体相:
1   k
d2 T
*
s
dy
2
s

 hv T
s
 T
f
 0
(14-26)
150
図 14-3
金属発泡体充 填等温壁チ ャンネルの 強制対流熱 伝達
個々の相の温度の境界条件は次のよう与えられる。
s
y  L / 2 : T
y  L/2: T
s
 Th , T
 Tl , T
f
f
 Th   T
(14-27a)
 Tl  T
(14-27b)
2つのエネルギー方程式を加え,積分することで下の壁から上の壁へ向かう全熱流
束を得る:

q w    k f  k dis yy
*

dT
dy
f


 1  ks
*
dT
dy
s
 const.
(14-28)
境界条件(13-27a) および境界条件(13-27b)を用い,さらに積分し,固体相と流体相
の間の温度の関係を得る:

*
k f  k dis yy
 T
f



 Th  T   1   * k s T
s

L

 Th   q w  y  
2

151
(14-29)
壁の温度を用いて,壁の熱流束は簡単に見積もることができる。

q w  k stag  k dis yy
T


 Tl
T
 2  * k f  k dis yy
L
L
h
前述の関係を式(14-26)に代入し,T
s
を消去すると T
f
(14-30)
に関する次の2階常微分方
程式を得る。
1   k
d2 T
*
s
dy
s

2
k stag  k dis yy
 k f  k dis
*
yy

hv  T

s

Th  Tl 
qw
hv y
 *
2   k f  k dis yy
(14-31)
これを解き,次の解を得る。
Th  Tl
*
y  k f  k dis yy
2
 
Th  Tl
L k stag  k dis yy
s
T





 T   y  sinh y  

 



 Th  Tl   L / 2  sinh  L  
 2

(14-32a)
さらに,固体相と流体相の温度の関係式(14-29)により
T
Th  Tl
*
y  k f  k dis yy
2
 
T h  Tl
L k stag  k dis yy
f

 T

 Th  Tl




  y 
1   * ks
sinh y  
 
 *


  L / 2   k f  k dis yy sinh   L  
 2



(14-32b)
ここで

k
 kdisyy hv
f
 kdis 1 ks
 k
stag
*

 
(14-33a)
*
無次元温度差 T / Th  Tl  は局所熱不平衡の度合いを示す。アルミニウム発泡体と
152
空気の組み合わせの場合については,λ を式(14-17)と(14-23)を使っ次のように算
出する。
k dis yy
1 
 
3
kf
d m 
k dis yy  1  
 2




 3
 3
k
f 

 hv d m 2 


 k 
 f 
(14-33b)
Calmidi-Mahajan (31)、(32) はアルミ発泡体と空気の組み合わせの場合について,既報の
実験データに基づき、体積熱伝達率と熱分散率を以下のように相関した。
 1  / 0.04
  uD dm 
hd
1/ 4  1  e
0.37
 
Nuv  v m  8.721    
 Pr
kf


   
1/ 2
2
k dis
kf
yy
1/ 2
  f c p uD K 
f

 0.06


kf


(14-34)
(14-35)
ここで、ud はダルシー速度であり、透過率は実験式(14-19)に従って次のように算
出する。
K / dm
2
1.18
1  
 0.224 


 0.000731   
 1  e 1  / 0.04 3 


1.11
(14-36)
ここで d m は気孔の直径である。アルミと空気の場合について, =8200、ε =0.95、
2
 f c p u D L / k f =5000、dm L =0.1、
K / dm
f
=0.015、 T / Th  Tl 
=0.5/20=0.025 と
して求 めた 。 発泡金属充填チャネルの温度分布を図 14-4 に示す。
153
図 14-4 金 属発泡体充 填等温壁チ ャンネルの 温度分布
両相の温度差は壁に近い非常に薄い層においてのみ確認できる。
非熱平衡度 T / Th  Tl  の大きさはこの層の厚さに影響しないことが分かる。壁近
傍の薄い相以外の横断面においてほぼチャンネル全体にわたり熱平衡が実現されて
いることが分かる。このように,等温壁の場合においては局所熱平衡の仮定が充分
であることが分かる。式(14-30)を用い,ヌッセルト数を以下のように算出する。
Nu L 
k dis yy
k dis yy
2
qw L
1 
 

 2

 3
Th  Tl k f
kf
kf
3

 T

 T  T
l
 h



(14-37)
図 14-5 に示したように,レイノルズ数
Re d m  u D d m / 
と共にヌッセルト数は増
加する。一方,式(14-37)より,熱不平衡度が高い程,ヌッセルト数が減少すること
が分かる。
154
図 14-5 金 属発泡体充 填等温壁チ ャンネルの 温度分布の ヌッセルト 数
14-6
等熱流束下 の金属発泡 体充填チャ ンネルの強 制対流熱伝 達
今一つケースとして、上と下の境界壁両方が一定の壁熱流束 q wで加熱されている
場合を考える.境界条件は以下のように与えられる.

q w   k f  k dis yy
*

T
y
f


 1   ks
y  L 2
155
*
T
y
s
(14-38)
y  L 2
図 14-6 金属発泡体充 填等熱流束 チャンネル
各相のエネルギー方程式(14-11)、(14-12)は、この場合,対流項が残り,次のよう
に記述できる。.
流体相:
 f cp uD
  k f  k dis yy
x
f

f
T
*

2 T
y

f
 hv T
2
f
 T
s

(14-39)
固体相:
1   k
2 T
*
s
y
2
s

 hv T
s
 T
 0
f
(14-40)
両者を合わせると
 f c p uD
f
T
x
f
T
  *

 k f  k dis yy
y 
y



f


 1  ks
*


y 

T
s
(14-41)
式(14-38)の境界条件で、上式(14-41)を積分することで、エネルギーバランスに関
156
する以下の式が得られる。
 f c p uD L
f
dT
B
 2q w
f
T
dx
f
したがって
d T
dx
f
B

T

x
s

x
2q w
 f c pf uD L
(14-42)
これを方程式(14-41)に代入し
T
  *
 k f  k dis yy
y 
y



f


  2 qw
L
y 

T

 1  ks
*
s
これを積分し,

*
k f  k dis yy

T
f


 1  ks
y
*
T
s
y
2
qw
y
L
y=0 における対称性に留意し,さらに積分し

*
k f   k dis yy
T
w
 T   T
f
 1   k T
*
s
w
 T
s
  qL
w
 L 2

   y 2 
 2 



(14-43)
流体相と固体の温度の関係を示すこの関係(14-43)を方程式(14-40)に代入し、次の

ような T
s

 Tw に関する常微分方程式を得る。
157
1   k

d2 T
*


s
T w
s
dy
*
k f  k dis yy
stag
 k dis yy
 k f  k dis
2
hv q w
 k

hv T
*
s
 Tw
yy

qw L
2
y  hv  T 
*

L
4

k f  k dis yy





(14-44)




これを解くと,
s
T

 Tw
Lq w / k stag  k dis yy

1  y 
8
 
 1 
4   L / 2 
L 2
2

cosh y   
1 




L
cosh
/
2

 
 * k f  k dis 
cosh y  
T
1 


k stag  k dis  cosh L / 2   Lq w / k stag  k dis

yy
yy
(14-45a)
yy





さらに式(14-43)より,
T

f
 Tw
Lq w / k stag  k dis yy



2
1  * ks
coshy   
1   y 
8 






1
1


*
2 


4  L / 2 
cosh

L
/
2


k

k



L

 
f
dis yy

 1  * ks 

coshy   
T

1 
  1

 k stag  k dis  cosh L / 2   Lq w / k stag  k dis 
yy
yy






158

(14-45b)
ここでλは既に方程式(14-33a)で定義してある。温度差 ΔT に関する 2 つの漸近
的状態について考える。一つは、壁が局所熱平衡状態、即ち ΔT =0 にある場合で、
もうひとつは,壁が局所的に熱流束一定に在る場合で,その際の条件は次のように
与えられる。
 * k f  k dis  T
qw 

y
f
yy
y  L / 2
1  *  T

ks
1 
y
s
y  L / 2
これより,壁が局所的に熱流束一定に在る場合の非熱平衡度が得られる。
T
Lqw / k stag  k disyy


1   k stag  k disyy tanhL / 2

1
L / 2
ks
1  *

 *k f  k disyy
L tanhL / 2
k stag  k disyy
(14-46)
アルミと空気の組み合わせにおける金属発泡体に満たされた平行平板の上半分
の横断面での流体相と固体相について、
 = 8200 、

= 0.95 、  f cp f uD L / k f = 5000 、
2
d m L =0.1、 そして K / d m =0.015 とし、局所熱平衡壁の場合と局所等熱流束壁の
場合を,それぞれ図 14-7(a)と(b)に示す。局所熱流束壁の条件では,壁における
流体相の温度勾配が要求された熱流束を満たすべく,非常に高い温度を示しいる。
壁での流体相の温度が固体相の温度をはるかに超えている。しかし、このような漸
近的状態が壁に現れることは現実的ではない。今一つの局所熱平衡壁の条件( ΔT
=0)が図 14-7(a)に示されているが、十分に高い熱伝導率の材料においては,当然,
両者の壁温が近いものになるだろうし,より現実に近いだろう 。 したがって,実際
の見積もりにおいては、両図が鮮明に示しているように、チャンネル壁が一定の熱
流速の場合、局所熱平衡壁の条件を用いるべきと考える。
159
(a) 壁が 局 所 熱 平衡 に あ る 場合 (  T =0)
(b) 壁が 局 所 的 に等 熱 流 束 であ る 場 合
図 14-7
金属発泡体充 填等熱流束 チャンネル の 温 度分 布
160
最 後 に , 局 所 熱 平 衡 壁 ( ΔT = 0)条 件 で 得 ら れ た ヌ セ ル ト 数 を 式 (14-47)に 示 し 、
ヌセルト数とレイノルズ数の関係をを図 14-8 に示す。レイノルズ数と共に単調増加
を示していることが分かる。
6
Nu L 
T
qw L
w
 T
f
B
k

f
1
1   k
k stag  k dis yy
kf
*
s
 k f  k dis
*
yy
12 
tanh L / 2  
1 

2 
L / 2 
L  
k dis yy 
1  


6
 3

k
f



1   
4 
tanh L / 2  
1 

1
2 
L / 2 
 2   k dis yy  L  



 3

k
f


図 14-8
金属発泡体充 填等熱流束 チャンネル のヌッセル ト数
161
(14-47)
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165
第15章
結言
・近年携帯電話がインターネットの端末になりつつあるという、通信史上でも画期
的な変革期にあり、国策としても情報通信事業の拡大は日本の将来の発展に繋が
る。その通信事業のインフラとして、小型基地局の増設に伴う通信装置の小型高
効率化が進み、これに伴い、冷却装置の小型化高効率化の要求が生じ、これに応
えるためペルチェクーラの小型高効率化の研究を開始した。
・ペルチェクーラはペルチェ素子を最小単位とし、ピンフィン・ヒートシンク、軸流
ファンなどで構成されたユニットからなる。小型高効率化という課題を物理量と
して数値目標化するため各種実験を行い、またペルチェ素子の基本式、ニュート
ンの冷却則に基づく検討を進め、軸流ファンとピンフィン・ヒートシンクで、現
状の放熱熱抵抗を半減することにした。
・現状のペルチェクーラの熱伝達率を調べ、対流熱伝達の限界値に比べ十分改良の
余地があることを確認した。熱伝達率の倍増による放熱能力の増加で冷却性能が
向上することを水冷ユニットによる実験で確認し、現状の放熱熱抵抗半減という
改良方針の実現性も確認した。
・軸流ファンの風速偏在性がピンフィン・ヒートシンクの冷却性能に及ぼす影響を、
CAE解析、サーモグラフィによる観測、くりぬきシンクによる冷却性能比較実
験から検討した結果,風速偏在性のある軸流ファンとピンフィン・ヒートシンク
組み合わせでもシンク中央部で活発な熱伝達が行なわれていることを確認した。
・ピンフィンの熱伝達率は風速の 0.5-0.6 乗に比例することを、理論と実測データ
分析で明らかにした。熱伝達率の倍増は風速を約 4 倍にすることを意味し、これ
は現状のファンの性能を 4 倍にすることを意味する。この様なファンの市場性を
懸念し、トリップメッシュなどで乱流促進効果の実験をしたが、せいぜい 20%程
度の促進効果しかなく今回は採用を断念した。
・結局,市場調査の結果、寸法は現状の 1.2 倍であるが、性能がほぼ 4 倍のファン
を入手し、このファンで実験を行い、放熱シンクの熱抵抗が半減することを実験
で確認した。この結果を応用することで,従来の約半分の大きさで性能は同等、
COPは従来の 2 倍以上のペルチェクーラを開発することが出来た。
166
・開発研究の途上、シンクの熱伝導特性と空気への熱伝達特性の間の伝熱特性の効
率に非常に大きな乖離があり、技術的障壁が認められた。より良い放熱の方法の
検討をすすめた結果,発泡多孔質体が候補として浮上してきた。
・局所体積平均理論に基づく数学モデルにより,界面熱伝達率が風速の1乗に比例
することを明らかにした。発泡多孔質体がピンフィン・ヒートシンクより高性能
なヒートシンクを具体化できる可能性を示すことにし、 発泡多孔質体の界面熱伝
達率の優位性に関する論理的考察を行った。まず、非連結多孔質体内の界面熱伝
達の式を導いた。軸対称温度境界層理論に基づき,ヌッセルト数がレイノルズ数
の平方根に依存することを示し、現存する実験データとも極めて良い一致を示す
ことを明らかにした。次に、局所体積平均理論に基づき、高気孔率の連結多孔質
体の流体相と固体相の巨視的なエネルギー方程式を導いた。一次および二次流路
の数学的モデルを導入することで、高気孔率の連結多孔質体のヌッセルト数表示
におけるレイノルズ数の指数が、非連結多孔質体のそれより大きくなる理由を明
らかにした。今回導出した式を既存の実験データや経験式と比較し、広範囲の気
孔率とレイノルズ数での妥当性を示した。
・ 理論による界面熱伝達率が風速のほぼ1乗に比例することを示した。この結果を
実験による測定でも確認することにした。改良シングルブロー法により、各種セ
ラミック多孔質体の界面熱伝達率を求めた。改良シングルブロー法は従来法と 2
点違いがあり、第一に、従来法はダクト内部に送る風の加熱開始と同時に温度計
測を始めるが、改良法は試験試料が十分加熱され熱平衡状態になってから温度計
測を始める。第二に、従来法は温度変化の温度上昇曲線を使用したが、改良法は
温度下降曲線を使用する。この方法で 3 種類のPPIのセラミック多孔質体と1
種類のPPIのニッケル多孔質体の実験データを取り、2 エネルギー法による理
論式の界面熱伝達率を調整し、各究者らの有用なデータとのカーブフィットによ
り夫々の最適な界面熱伝達率を決定した。これらの界面熱熱伝達率を過去の研究
者達が発表したデータと比較検討した結果良好な一致を示し、今回の改良シング
ルブロー法による実験による測定でも界面熱伝達率が風速のほぼ1乗に比例す
ることが裏付けられた。
167
・理論および実験で発泡多孔質体の熱伝達特性がピンフィンシンクとは異なり、熱
伝達率は風速の約 1 乗に比例することを明らかにした。実験で同じ寸法のピンフ
ィンシンクと、高気孔率の発泡多孔質体シンクの熱伝達特性を比較すべく,風速
を変えて有効熱伝達率の測定を行なった。その結果、風速-熱伝達率の関係にお
いて両者は同様の特性を示した。シンクベースとの接触面積がピンフィンシンク
のピンに比べ、発泡多孔質体の方が小さく、ピンフィンシンクの熱伝導能力より
低いため,期待した熱伝達率と流速の線形性が得られないものと考えた。即ち、
シンクベースとの接触面積が 2.5 倍ほどの差があり、発泡多孔質体はピンフィン
の熱伝導の熱輸送能力の 40%しかないにもかかわらず、同じ風速で同じ熱伝達率
を示すことは発泡多孔質体の空気への熱輸送能力、即ち界面熱伝達能力の高さを
示している。一方、高気孔率の発泡多孔質体は、熱伝導による熱輸送能力が低い
ため、風速を上げても十分な空気への熱伝達能力を発揮できないことも示唆して
いる。そこで、ピンフィンシンクの熱伝導能力と発泡多孔質体の界面熱伝達能力
を組み合わせたハイブリッドシンクを考案した。
・ハイブリッドシンクを作成し、熱伝達特性をダクト法により同じ寸法のピンフィ
ンシンクと比較測定した。その結果、ハイブリッドシンクはピンフィンシンクの
約 2 倍の熱伝達率を示し、ハイブリッド化により両者の伝熱特性の良い点が融合
し、空冷のシンクとして優れた性能を示すことが分かった。また、理論的解析も
行い,理論式と実験データが,良い一致を示めすことを明らかにした。
・ さらに、実際のコンパクト・ヒートシンクとしての応用を考え、ハイブリッドフ
ィンに市販の軸流ファンを装着した場合においての効果の有無を確認する実験も
行なった。その結果、ハイブリッドフィンはピンフィンシンクの有効熱伝達率の
1.4 倍と優位な値を示し、軸流ファンの装着時においても有効であることが判明
した。
・理論解析は今後の高性能なシンクの開発においても強力なツールであり解析技術
の向上は重要である。この理論解析における最新の研究結果として、有効気孔率
の概念に基づく各種理論的検討を行った。局所非熱平衡モデルを導入し,流体で
満たされた多孔質体チャネル強制対流熱伝達問題の厳密解を導いた。有効気孔率
168
を導入することで,淀み有効熱伝導率での迷路係数の効果を適切に表現すること
が可能であることを明らかにし、この局所熱非平衡モデルを金属発泡体充填チャ
ンネルの強制対流問題に適用した。有効気効率に基づき得られた淀み有効熱伝導
率の結果をアルミニウムと空気の場合の既存の実験データと比較し,良好な一致
を確認した。また、これらの表現が、従来の研究者たちのほとんどが使用してき
た気孔率の重みに基づく簡略化された表現とはまったく異なることを明らかにし
た。局所熱非平衡モデルを使うことで、熱的に十分発達した等熱流束下にある金
属発泡体充填チャンネルの強制対流に関する 2 つの漸近的状態,すなわち,局所
熱平衡壁と局所等熱流束壁の漸近的状態が明確になった。しかしながら,局所熱
流束壁の場合における解析結果は現実ではありえない流体温度が固体温度より極
端に高くなる結果を示した。この結果から,実際の見積もりにおいては,局所熱
平衡壁の条件を用いるべきであることを明らかにした。
169
付録―1
改良前ペル チェクーラ の外観と仕 様とノンド レン
付1-1
従来ペルチ ェクーラの 外観と仕様
図 付 1-1
表 付1
ペルチェク ーラ外観図
従 来ペルチェ クーラの仕 様
寸 法 [mm]
定格電
冷却能力
定格電圧
[W ]
[V](単 相 )
品名記号
PCA-10
定格電力
騒音
質量
[W ]
[dB(A)] [k g]
195
約 52
流
115
ヨコ タテ
フカサ
250
142
380
[A ]
AC100-240
2.0/1.0
8
COP:0.56
付 1-2
ペルチェ クーラの定 格温度とノ ンドレンに ついて
ペルチュクーラはノーメンテナンスの一つにノンドレンをうたっている (1) 。ここではノンドレン
について説明する。まず、キャビネット用ペルチェクーラの冷却温度は 35℃を採用
している。これは多くの通信装置、その他の機器の動作周囲温度が 0~40℃であり、
キャビネット内部の温度が 35℃であれば装置類は十分正常に動作すると考えられ
るからである。また、通信装置を収納したキャビネットの外気温に相当する恒温槽
170
内部温度を 35℃としているのは、気象庁の定義 (2) により、夏日は日最高気温が 25℃以
上の日、真夏日は 30℃以上の日、猛暑日は 35℃以上の日とあり、外気温を 35℃で試験し
ておけば十分厳しい日射条件での性能保証となると考えられるからである。また IEC 規格 (3)
では大気条件として気温 25℃、相対湿度 100%を基準にしている。二重箱法による試験で
クーラーが定格能力を出力したときの吸熱側のフィンの温度は 28℃程度であり、クーラーの
内部での結露はなく、ノンドレンを実現できる。ただし、製品には万が一に備えてドレンパン
が装備されている。図付 1-21 に空気線図全体 (3) 、図 1-3 に空気線図の部分拡大図を示す。
25℃での相対湿度 100%は絶対湿度で 0.020kg/kg である。28℃の絶対湿度は
0.024kg/kg であり、IEC の大気条件で 28℃の相対湿度は 0.020/0.024×100=
83.3(%)となり結露しない。また 35℃の絶対湿度は 0.037kg/kg であり、相対湿度
は 0.020/0.037×100=54.1%となり問題ない。従って性能としてノンドレンもうたって
いる。
図付1-2
空気線図
171
図 付 1-3
空気線図拡 大
参考文献
(1) 電子冷却式盤用クーラーの性能評価試験方法:技術資料,第 008 号-2009
TECTA 盤用熱関連機器工業会.
(2) 気象庁:気象庁が天気予報で用いる予報用語(2011 年 3 月現在)
気温に関する用語
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kion.html.
(3) IEC 61439-1:Low voltage switchgear and controlgear assembles
Part1:General rules
7.1 Normal service conditions.
172
付録―2
新型ペルチ ェクーラの 仕様と従来 型との性能 比較
付2-1
従来型と新 型のファン の比較
従来ファン
図 付 2-1
従来ファ ンと新型フ ァンのP-Q 特性の比較
従来ファン
新型ファン
図 付 2-2
従来ファン と新型ファ ンの大きさ の比較
173
付2-2 製品化のた めの諸検討
製品の性能向上は実験とは異なり、市場性のある部材で構成できなくてはならな
い。特注品では市場でのコスト競争に勝てないからである。市販のファンと現状の
ピンフィン・ヒートシンクで現状のペルチェクーラの熱抵抗を半分以下にできるこ
とを証明したことは開発部門を大きく刺激し、ペルチェクーラの小型化、高効率化
を加速した。COPを高めるとともに、コストも下げるため、ペルチェ素子の回路
構成も変更した。従来型の回路構成を図付 2-3、新型の回路構成を図付 2-4 に示す。
AC 200W
計 167.8W
図 付 2-3
従来型の回 路構成
AC 73W
図 付 2-4
新型の回路 構成
174
従来は特注の電源で、ファン 12V、ペルチェは 21V の 2 種の電圧を使用していた。
ペルチェ電流も 3.5Aと大きく熱損失も大きかった。合計消費電力も DC168W、AC200
Wであった。新型はペルチェ素子数を 2 枚増やし、これらをすべて直列にし、DC24
Vで 1.5Aしか流さないようにし、ファンも DC24V 定格にした。高速ファンは初期
の実験では DC12Vを使ったが、製品として動作電圧もシリーズ化されており、製品
試作では DC24Vを採用した。これらの対応の効果で、電源は市販の標準品を使うこ
とができ、ペルチェ素子の増加分のコストを埋めることに繋がった。また、ペルチ
ェ素子に流れる電流も従来の半分以下になったため、ペルチェ素子 2 枚分の増加に
よる発熱の増加よりも電流半減の効果が大幅に効き、消費電力が DC64W、AC73Wと
従来に比べ大幅に小さくなった。従来の吸熱能力 115Wの COP は 0.56 であるのに対
し、新型は吸熱能力 100Wで、COP は 1.37 となった。ペルチェクーラとしての製品
の COP も当初の目標の世界一である COP1以上を達成した。
さらに、新型のファンの騒音が大きいということで騒音の小さいファン 2 台で同じ
性能を出す検討を行い、2 枚のピンフィンヒートシンクの圧力損失抵抗を測定し、
選定当初のファンの P-Q 特性と圧力損失抵抗特性の交点と同じ交点から動作点を求
め、この動作点になる各種ファンの組み合わせを求め、そのファンを選定し騒音の
小さ い製 品 にす るこ と がで きた 。 この 検討の P-Q 特 性 で の 結 果 を 図 付 2-5 に 示 す 。
図 付 2-5
高風量ファンと低騒音ファン 2 台の動作点
175
さらに従来はペルチェモジュールを 100×130 のシンクとファンを一組として考え
ていた。同じものを量産するほうが安くなるという考えからである。しかし、今回
小型化という点でシンクを 2 つ繋ぐことで製品の大きさも約半分になった。さらに
冷却性能を向上させるにはファンをシンクの中央ではなく偏芯させる方がさらに性
能が向上することも分かり、これも新製品に盛り込んだ。以上の事柄を盛り込んだ
新型のペルチェクーラーの新型と従来型の性能比較表を表付 2-1 に示す。
表付2-1 従来製品と新製品の 仕様と外観 の比較
製品化実現
従来製品
新製品
冷却能力(W)
115
100
消費電力(W)
200
73
COP
0.58
0.56
1.37
寸法
W:250、H:420、D:142
W:190、H:275、D:167
体積比
1
0.67
取り付け面積
1
0.5
重量(kg)
8.5
6.5
コスト比
1
0.75
外観
176
記号(熱電 素子に関す る記号)
QT
σ
ΔT
α
:熱量[W]
:トムソン係数[-]
:温度差[K]
:絶対寝付き電力[V]
Qc
:吸熱量[W]
Qh
:放熱量[W]
T cj
:冷却側接合部温度[K]
T hj
:放熱側接合部温度[K]
Ae
: T Cj と T hj の平均温度における素子一対のゼーベック係数 [V/K]
Re
:素子一対の電気抵抗 [Ω]
Ke
:素子一対の高低温接合部間熱コンダクタンス [W/K]
Φ cool
:吸熱量の成績係数[-]
Z
:性能指数[V 3 KA]
177
記号(熱流 体力学に関 する記号)
A
:表面積 [m 2 ]
A int
: 流体相と固体相間の境界面積[m 2]
c
: 比熱 [J/kgK]
cp
: 定圧比熱 [J/kgK]
dm
: 平均気孔径 [m]
hv
: 体積熱伝達率 [W/m 3 K]
k
: 熱伝導率 [W/mK]
K
: permeability [m 2 ]
L
: 流路高 [m]
nj
: 流体相から固体相に流出する単位ポインティングベクトル (-)
Pr
: プラントル数 [-]
q
: 熱流束 [W/m 2 ]
T
: 温度 [K]
uD
: ダルシー速度 (一様入り口速度)[m/s]
ui
: 速度ベクトル [m/s]
V
: 標準基本体積 [m 3 ]
xi
: デカルト座標 [m]
x, y, z
: デカルト座標 [m]

: 気孔率 [-]
*
: 有効気孔率 [-]

: 動粘係数 [m 2 /s]

: 密度 [kg/m 3 ]
178
特殊記号
~

: 実質平均との偏差


: ダルシー平均
f ,s
: 実質平均
添え字
dis
: 拡散
f
: 流体相
s
: 固体相
stag
: 淀み
w
: 壁
179
謝辞
本論文は、静岡大学工学部、中山顕 教授の多大、詳細、且つ懇切なご指導によ り
まとめることが出来たものであり、心より感謝いたしております。また、この論文
の前半にあたる、ペルチェ素子の基礎的な項目につきましては、元小松エレクトロ
ニにクス役員、森勇剛氏の御指導によるものであり、深くお礼申し上げます。ペル
チェクーラのシンクのCAE解析では、当時の日東工業研究解析グループの林秀晃
係長、また製品化におきましては当時の日東工業熱関連商品開発部の渡辺義和部長、
伊東佳伸氏の協力を得て実現できたことに、心からお礼を申し上げます。本論文の
研究課題の中心であるヒートシンクの伝熱促進および発泡多孔質体に関する基礎実
験、理論解析などにおきまして多大な協力をいただきました、本山英明 技官、当時
の大学院生、今井悠介君、平井秀和君に感謝の意を表します。また発泡多孔質体関
連の論文作成におきましては桑原不二朗現教授、そして最後に、本論文すべてに関
し御教授いただきました中山顕 教授に再び感謝する次第であります。
180