千葉県私立・麗澤高校の試みと「志望理由書サポート講座」 千葉県にある私立・麗澤中学・高等学校は、この春、 「世界に通じる知と心で、もっと東大を れい たく 目指せる麗澤へ」をスローガンに、 新「プロジェクト叡智(深く優れた知恵と高い品性) 」をスター えい ち トさせる。 「感謝」 「自立」 「思いやり」の3つの心を教育理念に、東大をはじめ卒業生の 4 分の 1 が国公立大に合格するなど進路実績を向上させている同校では、どのような教育が展開されて いるのか。今後の方向性や新プロジェクト始動の意図も含めて進路指導部に話をうかがった。 います。議論の中で他者の意見 を整理して理解し、また自分の 意 見 を よ り 論 理 的 に 表 現 す る。 言葉を使って物事を的確に説明 し、状況を客観的に分析するこ とを重ね、論証を加えた上で文 章にまとめます。言語技術の修 練 を 通 し て、 高 度 な コ ミ ュ ニ ケーション能力や情報処理能力 を高め、世界に向けての未来の 情報受信者、発信者としての能 力を磨い上げていくのです」(廣 中先生) 一般的な入試問題に見られる 予め設定された正解を導くこと を目的とする学習では得られな い能力を、基礎教育期間である 中学1年からの4年間の正規の 授業に加え、重視しているとい うことだろう。 「ディベートなどの活動では、 グループワークとなるため、ク ラスやチームにリーダーを置く ことになります。リーダーは毎 回持ち回りにしているので、多 くの生徒がさまざまな立場を経 験します。それがリーダーシッ プの熟成にもつながり、自主的 な学びの意識も一層高まる。そ 管 理 の 下、 高 い 道 徳 性 と リ ー ると思います」と進路指導部部 熱心な部活動と進学伸びを ダーシップを生活の中で学んで 長・丸島淳先生は話す。 両立させる学習支援体制 いるが、夜間の自習時間に英・ 長期休暇中の季刊講座や部活 数の教員が待機し、生徒の質問 動引退後の高3生対象放課後 千葉県柏市の麗澤高校は、「感 謝」 「自立」「思いやり」の心を 「 課 外 授 業 」 を 含 め る と、 一 般 や相談に対応している。いわば、 育てることを教育理念とし、道 朝起きてから夜寝るまでの学習 の予備校などを上回る時間数や 徳教育を根幹とする学校だ。2 環境がセッティングされており、 バリエーションの授業が校内で 014年春の卒業生では生徒数 その各所に教員がいて、授業を 行われていることになる。その の約4分の1が国公立大に合格 はじめ、個別指導・相談をして ため、校外の塾や予備校に通う するなど、近年、国公立大や難 いると言えそうだ。 生徒はほとんどいないという。 関私大の合格者を急激に伸ばし 「 生 徒 た ち は 教 師 の 出 す 課 題 「 課 外 講 座 は 通 常 の 授 業 と 連 ている。その一方で、ボランティ や叱咤激励に追われて勉強をす 携ができるし、個々の生徒の個 ア活動に加え6月の体育祭や9 る と い う よ り も、 学 校 全 体 が、 性や学力の伸長、科目単元ごと 月の文化祭では、伝統的に高3 チームで戦っているという雰囲 の 強 み 弱 み も 把 握 し て い る の で 、 生が中心的な役割を担い、部活 “ 自 前 ” 予 備 校 な ら ば、 学 習 効 気があるので、怠けたり、勉強 動にも高2までは約9割、高3 が遅れたりすると、周囲がフォ 果が格段に高くなります。周囲 でも約7割が加入している。 ローしたりカバーしたりし合う にいるのが尊敬し合えるライバ 「本校は、通常の ~ 時限、 ルということで、学習意欲も相 の で す。 朝 か ら 夜 ま で の フ ォ 土曜日 時限の授業のほか、部 ローは、教員にもそれなりの労 乗的に高くなっています」と進 活動に参加している生徒でも授 力かもしれませんが、生徒の将 路指導部副部長・廣中富士子先 業内容の発展演習に取り組むこ 来を思えば、我々もできる限り 生は、その効果を強調する。 とができるよう、食堂で夕食を のことを、と考えてしまうので、 ほかにも、校内随所に設けら とった後、主に英数2科目の夜 こんなスタイルが定着している れたテーブルで、学習や進路に (廣中先生) 間講座を開設しています。部活 のだと思います」 関する個別指導を受ける生徒と 動後の夜間講座は、身体的にも 教員の姿は、休み時間や放課後 「英語教育」と 大きな負担はかかりますが、3 の麗澤風物詩の一つという。 「言語技術教育」 年間継続する中で培われる基礎 また、学校敷地内にある男女 体力が、生徒自身の進路実現へ 各寮には、全校生徒の1割強を では、そうした生徒も教師も 一丸となるチームワークの感覚 の力量向上に確実に繋がってい 占める寮生が厳しい規則や時間 4 6 7 は、どうやって定着したのだろ 難関私立大や海外留学を目指す です。そもそも英語は、意思疎 うか。それは、高2からの実戦 ILコースの各コースに分かれ、 通、コミュニケーションの手段。 的なカリキュラムの前段階、中 一貫生と高入生が混成で学ぶカ 少 人 数 の 生 徒 を 対 象 に、 ネ イ 学 年から高校 年までの4年 リキュラムになっており、多彩 ティブ教員と日本人教員の連携 間の学びがポイントのようだ。 な課外講座を含む、大学上位合 で授業を進め、『読む・書く・聞 高校生の3分の2が併設の中 格を念頭に置いた、より実戦的 く・話す』の 技能をバランス 学校からの進学者であり高 で なプログラムへと移行する。 よく習得できるプログラムです。 は、当然内部進学者と高校から 「一貫生は、中学1・2年を第 中学2年段階で、英文パラグ の入学者は、別々の基礎力完成 一ステージ、中学3年と高校1 ラフを、3年次にはエッセイが プログラムに取り組む。しかし、 年を第二ステージとして、それ 書 け る よ う に 指 導 し て い ま す。 高2からは難関国立大を目指す に続く目標進学先別の学習の基 また3年次には全員がイギリス TKコース、難関私立大・国公 礎づくりとして、本校独自の学 研修旅行を経験しますが、研修 立大を目指すSKコース、そし び方をしています。 先の学校やホームステイ先では、 て、とりわけ英語に力点を置き、 その一つが、例えば英語教育 英語によるプレゼンテーション を行います。英語による発信力 を早期から身に付けさせている のです」(丸島先生) 麗澤中学・高校の英語教育は 定評があり、例えばGTECの スコアは中3生の平均点が全国 の高2の平均点を上回るレベル だという︵2013年実施︶。 そして、もう一つ「言語技術 教育」も特徴的なカリキュラム だ。「 言 語 技 術 教 育 は、 日 常 の 言語活動における情報の受け取 りや伝達の技術を習得すること を目的としており、主に日本語 を用いての思考訓練を展開して 1 1 1 16⑶ 34⑸ 20⑶ 17⑵ 4 9⑴ 1⑴ 中央大 2 【難関私立大】 21⑷ 法政大 1 早大 1 慶応義塾大 2⑴ 東京理科大 8⑵ 学習院大 3⑵ 上智大 2 明治大 31⑶ 同志社大 青山学院大 6⑴ 立命館大 立教大 25⑷ 関西大 【合計】 国公立大 54⑷ 難関私立大 204 お茶の水女子大 東京外語大 横浜国立大 国際教養大 首都大学東京 1 2⑴ 1 3 7⑴ 【国公立大】 東大 北大 東京工大 筑波大 千葉大 ◆主要大学の合格者数(2014年3月卒生) ※( )内の数字は過年度卒業生(内数) 4 2015 / 3 学研・進学情報 -16- -17- 2015 / 3 学研・進学情報 “一人ひとりがもっと東大以上を目指せる学校へ” 新「プロジェクト叡智」。その中身と可能性 ◆国公立大・難関私大現役合格者推移 問 訪 部 導 指 路 進 ●進路指導部訪問 千葉県私立・麗澤高校の試みと「志望理由書サポート講座」 ●進路指導部訪問 千葉県私立・麗澤高校の試みと「志望理由書サポート講座」 世界に通じる知と心を 備える人材育成 の全教員が学研主催の『小論文 研究会』に参加し、前年度入試 の傾向から、次代に向けて解決 すべき課題を洗い出します。そ うしたテーマ性を明確につかん だ上で、年間のプログラムを決 定し、国家レベルのプロジェク トの一員である麗澤大学の教授 陣や例えば国立環境研究所の主 任研究員の方々を招聘した講座 中講座を併せて行うことで、本 物の情報に向き合うこと、一つ の事象に対して多面的かつ深く 掘り下げて考えることの大切さ を学ぶ機会としています」 ︵廣 中先生︶ 学外業者の教材内容を十分に 吟味したうえで、適時、適所に 活用している麗澤高校の取り組 みは、大いに参考となる事例と いえよう。 10 そうしたカリキュラムをさら につき進めていったものが、『知 と心でもっと東大以上を目指せ る学校へ』を掲げた新プロジェ クトのようだ。 「 新 た に 中 高 全 学 年 で 始 ま る 『 プ ロ ジ ェ ク ト 叡 智 』 は、 今 ま で我々が研究・実践してきた教 育内容をより充実・深化させた ものであり、日本が、そして世 界がより良く進んでいくために、 日本のそして世界の一人でも多 くの人々が、より心豊かに幸せ な人生を全うし得るために今 もっとも必要とされる、我々一 人ひとりの深く優れた智恵や高 い品性、つまりは『叡智』を身 に付けた人材の育成を目標とし ています。奇しくも、東京大学 憲章にある『世界的視野をもっ た市民的エリートの育成』とそ の目的はほぼ合致している点か ら、『 も っ と 東 大 を 目 指 せ る 麗 澤へ』というキャッチコピーを 掲げた訳です。もちろん、東大 “受験”に合格することも目標 の一つですが、その先の大学で の学び、卒業後のキャリア形成 にまで役立つ基礎能力を身に付 けることを目的としており、必 然的に国際社会で活躍すること が 期 待 で き る で し ょ う。 プ ロ ジェクト叡智の一環としてこの 春設置する中学新コース『アド バンスト叡智コース』では、次 世 代 の グ ロ ー バ ル リ ー ダ ー を、 選りすぐりのプログラムを通じ て育んで参ります」︵丸島先生︶ ア ド バ ン ス ト 叡 智 コ ー ス は、 6年間を一貫したコースで学び、 東大受験を経て世界で活躍でき るリーダーの育成を目指す。こ のコースのほかにエッセンシャ ル 叡 智 コ ー ス が あ り、 高 2・3 年次の難関国立大を目指すTK クラス、難関私立大や国公立大 を目指すSKクラス、そして実 践的な英語に力点を置き、難関 私立大や海外大学を目指すIL クラスが設けられる。 次世代のグローバルリーダー の育成という言葉は、文部科学 省の方針も含め、昨今しばしば 耳にする。現代の社会状況から 考えても、その育成は急務では あろうが、そのノウハウの獲得 のためには、今までの高校教育 を根底から変えるような改革が 必要だろう。その中で、以前か ら独自の学びを工夫してきた麗 澤高校において、新プロジェク トを始動させるという点は大い に注目すべきだろう。 こに伴走者としての教員が加わ 層高める効果があるようです。 の視点から客観的に評価する機 いに期待できそうである。 ることで、生徒と教師間の関係 高2生は、 の学問系統から 会としても活用している。 「 志 望 理 由 書 サ ポ ー ト 講 座 」 と 性も質の高く濃いものとなりま 1つを選択し、有名大学から派 「 実 践 的 な 英 語 力 や 言 語 技 術 「小論文研究会」 す」 (廣中先生) 遣された大学講師による出張講 力の修得に力を注ぎつつ、いよ 義を受講します。大学での学び いよ自分の将来を具体的に見定 こうした独自の教育が展開さ そうした技能と意識を作り上 れている麗澤高校では、外部業 げるための4年間の基礎教育が、 の一端を垣間見ることで、高校 めて志望校に照準を合わせた 者による教材・データには、学 近年の進路状況にも結び付いて で学んでいる内容が大学でどう コースを選択する直前のこの時 校のカリキュラムの中で適切な いるようだ。 活きていくのか、高3時の選択 期 に 活 用 し て い ま す。 こ れ に 時期に適切な形で活用すると 科目を絞り込む時期に貴重な示 よって、自分がどれほど正確な 高校3年間を通じて展開される いった工夫が加えられている。 唆を与えていただいています。 職業観を持っているか、社会ひ 独自のキャリア教育プログラム いては自分自身とどれほど真剣 例えば、学研の「志望理由書 高3生になると、一部を除く サポート講座」がそれだ。これ ほぼすべての科目で、授業時間 に向き合っているのかというこ は、特に大学や就職先企業へ提 内に厳選された良質入試問題演 とを理解することになります」 出する志望理由書や自己推薦書 ︵廣中先生︶ 習を行っています。授業に加え の書き方を実践的に書いて理解 て、放課後の実戦演習講座を受 「 志 望 理 由 書 サ ポ ー ト 講 座 」 し、さらに通信添削を受けると 講することで、自然と大学入試 では、まず①「志望理由が明快 いう講座だ。 問題についての知見を深めてい に書かれているか」といったこ くことができます」︵丸島先生︶ 一般的にAO・推薦入試や就 とから、②「学習・研究や仕事 職試験では、合否の重要な要素 への意欲」がどれほど具体的に い ず れ の プ ロ グ ラ ム も、「 行 ける大学」でも「行きたい大学」 で あ る は ず の 志 望 理 由 書 だ が、 書かれているか、③「学ぶ目的 自分のつくった文章に対する具 ︵志望する職種︶の社会的意義」 で も な く、「 行 く べ き 大 学 」 を 体的なアドバイスを受ける機会 生徒自身が考え、志望大学への をどれほど理解しているかとい は少なく、高3生が本番直前の 進学実現のその先、例えば大学 う点まで、具体的に記述するこ 時期に挑戦して、その要領をつ を首席で卒業する、ある最先端 とが求められている。そうした かむという利用のされ方をする 領域の研究者となって世界に貢 ことは、実際に書いてみて、あ こ と が 多 い が、麗 澤 高 校 の 場 合 献 す る な ど、 将 来 の 具 体 的 な るいは添削などを通して評価さ は、こ れ を 高 1 生 の 進 路 選 択 の キャリアデザインを意識させて れて初めて自分の認識の中途半 重要な要素と位置付け、書いた いるといる。学業に対する取り 端さに気づくことになる。 ものを生徒自身が採点者として 組みを向上させる相乗効果が大 「『 志 望 理 由 書 サ ポ ー ト 講 座 』 麗澤高校でのキャリア教育プ ログラムは、高1での職業研究、 高2での学部学科研究、高3で の 入 試 問 題 研 究 と い う 構 成 で、 キャリアデザインの骨格を形成 する高2までの内容は総合的な 学習の時間内で学んでいく。 「 高 1 生 は、 複 数 の 適 性 検 査 の結果分析によって自らの適性 を掘り下げた上で、毎年 名前 後の卒業生による職業別講演会 に臨みます。本校では、高2以 降志望進路別のコース制を敷い ています。コース選択直前の大 切な時期に、第一線で活躍する 職業人、しかも先輩の声を聴く この機会は、我々教員の狙い以 上に、生徒の進路意識をより一 の添削のコメントは、明快で的 確。自分の職業観、将来像があ いまいなままであることを認識 すると同時に、ではどうするか といったアドバイスが具体的に 示されているので、生徒は改め て書き直してみよう、そのため にもっとその仕事や学問分野の 抱える課題についてぜひ調べて みよう、と思うきっかけになっ ているようです。 この『志望理由書サポート講 座』や『小論文講座』で取り上 げられる問題そのものの分析も 確かなので、例えば今の社会情 勢の中で何が問題で、その最前 線ではどう動くべきなのかと い っ た こ と が よ く わ か り ま す。 生徒たちの教材として利用価値 が高いばかりか、われわれ教員 にとっても不可欠な学びの機会 となっています」︵廣中先生︶ この延長線上にあり、高3対 象の放課後の課外講座「受験小 論文」は、推薦入試や私大入試、 国公立2次試験における、いわ ゆる「ズバリ的中」を頻発して いる人気講座の一つだ。 「 講 座 を 担 当 す る 文 系・ 理 系 2015 / 3 学研・進学情報 -18- -19- 2015 / 3 学研・進学情報 20
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