パルス中性子ブラッグエッジイメージングのためのひずみテンソル CT 法

26th Dec. 2014
平成26年度中性子イメージング専門研究会 於 京都大学原子炉実験所
パルス中性子ブラッグエッジイメージングの
ためのひずみテンソルCT法の開発
佐 藤 博 隆1,
塩田 佳徳2, 篠原 武尚3, 加美山 隆1,
大沼 正人1, 古坂 道弘1, 鬼柳 善明2
1北海道大学,
2名古屋大学,
3J-PARCセンター
1
J-PARC MLF BL22 「 螺鈿 (RADEN) 」
祝!ファーストビーム & 施設検査合格
(J-PARC News 第115号より)
エネルギー分析型中性子イメージング装置
実験装置設置詳細計画書における装置名称:
物質情報 3次元 可視化装置
2
パルス中性子TOF分析型イメージング
Time-of-Flight(TOF)
分光法
13000 μs ~
5000 μs ~
2500 μs ~
800 μs ~
100 μs ~
~ 2 meV (6.4Å)
~ 13 meV (2.5Å)
~ 50 meV (1.28Å)
~ 500 meV (0.4Å)
~ 35 eV (0.05Å)
TOF分析型中性子画像検出器
測定試料
パルス中性子ビーム
エネルギー分析型
中性子イメージング
3
中性子透過 「ブラッグエッジ」 スペクトル
1つの画素で測定される透過率スペクトルとそれに含まれている情報
α-iron (5 mm thickness)
形状変化 ・ 強度増加(多重回折)
 集合組織(結晶方位)
 結晶子サイズ
70%
40%
30%
エッジパターン(位置 & 落差)
 結晶構造
 結晶相
0.1
110
200
50%
211
60%
431
330
321
310
220
Neutron transmission
80%
0.2
0.3
0.4
Neutron wavelength / nm
エッジ出現波長 ・ 線幅
 平均ひずみ
(結晶格子面間隔)
 局所ひずみ
(面間隔の分散)
回折指数
0.5
画素毎の解析 → 結晶組織構造情報の2次元大面積マッピング
4
平均ひずみイメージング と 次の課題
引張試験中
その場 平均ひずみ 2次元 イメージング
Macrostrain of crystal lattice plane {110}
(µε = 10-4% = 10-6)
手法開発における次の目標
2次元ラジオグラフィ(レントゲン)型から
3次元トモグラフィ(CT)型への発展
+ 325
3.6
Position y / cm
+ 175
+ 25
- 125
1.8
- 275
- 425
- 575
- 725
(50 µε/div)
0.0
0.0
1.05
2.1
Position x / cm
d − d0
ε=
d0
K. Iwase, H. Sato, et al.,
J. Appl. Crystallogr. 45 (2012) 113-118.
?
5
平均ひずみ のCTを実現するためには?
1. 新概念CT画像再構成アルゴリズム テンソルCT法 を開発する必要がある。
•
•
平均ひずみは 観測方向によって観測値が変わる テンソル物理量
従来のスカラーCT法では テンソル物理量をCT処理することはできない。
例) 吸収コントラストCT: 密度 (スカラー物理量)のCT画像再構成
位相コントラストCT: 屈折率(スカラー物理量)のCT画像再構成
医療用X線CT
2. 汎用性の高いテンソルCTアルゴリズムを開発する必要がある。
(吸収コントラストCTの例)
• あらゆる対象のために:単純な軸対称ひずみ分布だけでなく非軸対称
ひずみ分布もCT処理が可能なアルゴリズムを開発する。
•
さらなる情報のために:全てのひずみ要素(せん断ひずみも含む)を
CT処理可能なアルゴリズムを開発する。これにより、将来的には応力
CTが実現できる見込みがある。
•
画像工学の将来のために:非常に難しい課題であるため、将来の発展
を見据え、シンプルかつ制限の少ないアルゴリズムを開発する。
http://www.st-mary-med.or.jp/patient/me/me_ct.html
6
研究の目的と内容
目的
パルス中性子透過ブラッグエッジイメージングのための
汎用ひずみトモグラフィ法を開発する。
内容
① テンソルCTアルゴリズムの開発
② 軸対称ひずみトモグラフィの実験による検証
③ 非軸対称ひずみトモグラフィのシミュレーション計算
による検証
7
① テンソルCTアルゴリズムの開発
8
基本概念の考察
ひずみテンソル
Axis 3
ε33
ψ
ε11
εφψ
ε22
φ
Axis 2
Axis 1
観測角度 φ & ψ に依存して
観測値 εφψ が変わる。
ある位置で観測されるひずみ量 εφψ
ε φψ = ε 11 cos 2 φ sin 2 ψ + ε 22 sin 2 φ sin 2 ψ + ε 33 cos 2 ψ + ε 12 sin 2φ sin 2 ψ + ε 23 sin φ sin 2ψ + ε 31 cos φ sin 2ψ
垂直ひずみ
①
垂直ひずみ
②
垂直ひずみ せん断ひずみ せん断ひずみ せん断ひずみ
③
①
②
③
各位置における各テンソル要素(スカラー量:ε11, ε22, ・・・, ε31)を
個別かつ一斉にCT画像再構成する。
9
ML-EMを基にしたテンソルCTアルゴリズム
Maximum Likelihood - Expectation Maximization (最尤推定-期待値最大化)
逐次近似式 (k → k+1 回目)
ε
k +1
ij
=
ε ijk
D
n
C
A
∑ id ijd
d =1
n
pd Cid Aijd
D
∑
d =1
I
J
k
ε
∑∑ i ' j 'Ci 'd Ai ' j 'd
i '=1 j '=1
パラメーターの定義
Multiple components
at the position “ i ”
εi1, εi2, εi3, ・・・, εiJ
Contribution of “ i ”
J
Cid:検出器 “ d ” による位置 “ i ” の幾何学的検出確率
∑ε
j =1
ij
Cid Aijd
Aijd:検出器 “ d ” による位置 “ i ” の
j 番目テンソル要素の検出確率
(角度によって重みを変えた逆投影)
n: ML-EM逆投影過程における各 Aijd の重み(指数)
(シミュレーション計算を通じて明らかになった
最適値: 軸対称:16、 非軸対称:1)
Projection data
Detector “ d ”
I
J
∑∑ ε
i =1 j =1
ij
Cid Aijd ≈ pd
基本原理はML-EMスカラーCTと同じ。観測量の角度依存変化の
考慮だけが新しい計算要素。 → シンプル かつ 制限が小さい
10
② 軸対称ひずみトモグラフィの実験による検証
11
測定試料:VAMAS標準試料
中性子回折ひずみ解析用VAMAS国際標準試料
「Aluminum shrink-fit ring and plug (Al シリンダー 冷やし填め)」
50 mm
緑色の矢印に沿って観測されるひずみ
ε φ 90 (r , θ ) = ε θθ (r ,θ ) cos 2 φ (r ,θ ) + ε rr (r ,θ ) sin 2 φ (r ,θ )
50 mm

Inner plug diameter
25 mm
y
φ
(r ,θ )
x
εθθ : Hoop strain (周ひずみ)
εrr : Radial strain (径ひずみ)
2つのひずみ要素(周ひずみ・径ひずみ)が軸対称に分布
12
結晶格子面間隔測定実験
J-PARC MLF BL10 “NOBORU” ビームライン
J-PARC 3 GeV 陽子加速器の出力:300 kW
VAMAS試料
GEM(Gas Electron Multiplier)型
中性子画像検出器(10Bベース)
KEK 宇野グループ
中性子
中性子ビーム特性
中性子束:0.8×106 n/cm2/s
中性子波長分解能:0.34% @ 4Å
L/D(コリメーター比):600
(BL10ロータリーコリメーター「小」)
測定時間:16時間/run
中性子画像検出器特性
画素サイズ:800 μm×800 μm
検出面積:10 cm×10 cm
検出効率:1%以下
TOF分析速度:10 μs
試料は軸対称であるため、1方向の測定のみ行った。
13
測定データの解析とCT画像再構成条件
ブラッグエッジ透過スペクトル
得られた結晶格子面間隔の径依存性
0.23400
Single pixel
80%
0.23395
0.23390
d111 / nm
70%
Raw analysis
data
Moving
averaged data
Theoretical
value
0.23385
60%
0.23380
Al {111}
Neutron transmission
90%
50%
40%
0.23375
0.23370
0.23365
30%
0
10000
20000
Neutron flight time / μs
30000
0
5
10
15
20
Distance from the center / mm
25
 投影データ方向数: 16 (1方向の実験値で16方向分のデータを補完)
 ML-EM逐次近似のイタレーション回数: k = 30
 入力した既知情報: 以下の式(角度依存係数)のみ
ε φ 90 (r ,θ ) = ε θθ (r ,θ ) cos 2 φ (r ,θ ) + ε rr (r ,θ ) sin 2 φ (r ,θ )

 最後に、結晶格子面間隔 d のCT画像をひずみ ε の画像へ変換
14
CT画像再構成の結果:ひずみの断層分布
再構成CT画像
0
Position y / mm
25
50
-1000
+1000
+500
0
+1000
+500
0
-500
-1000
25
50
Position x / mm
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
0
「重み」が
かかる方向
+1000
+500
0
-500
-1000
25
50
Position x / mm
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
+1000
+500
0
-500
-1000
0
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
Position y / mm
25
50
0
25
50
Position x / mm
0
径ひずみ
Position y / mm
25
50
0
-500
0
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
0
周ひずみ
Position y / mm
25
50
理論値
25
50
Position x / mm
ひずみ要素毎に個別に再構成はできている。周ひずみの再構成は
精度良くできている。各ひずみ分布は各方向に重みを持つ。 15
CT画像再構成の結果:絶対値
1500
Hoop (Theor.)
Radial (Theor.)
Hoop (Exper.)
Radial (Exper.)
Hoop (Sim.)
Radial (Sim.)
Strain / με
1000
500
0
-500
-1000
-1500
-25
-15
-5
5
15
Distance from the center / mm
25
軸対称ひずみ分布の場合、
周ひずみは高い確度・精度で画像再構成できることがわかった。 16
③ 非軸対称ひずみトモグラフィの
シミュレーション計算による検証
17
非軸対称分布:再構成結果(シミュレーション)
y 要素
0
0
+1000
+500
0
-500
-1000
25
50
Position x / mm
0
Position y / mm
25
50
-1000
+1000
+500
0
25
50
Position x / mm
0
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
+1000
+500
0
-500
-1000
0
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
Position y / mm
25
50
25
50
Position x / mm
-500
0
0
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
25
50
Position x / mm
Position y / mm
25
50
0
+500
45°画像
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
+1000
+500
0
-500
-1000
25
50
Position x / mm
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
+1000
+500
0
-500
-1000
0
-1000
+1000
0
Position y / mm
25
50
再構成CT画像
0
-500
Position y / mm
25
50
Crystal lattice strain ε111 / με
+1400
0
Position y / mm
25
50
元の画像
x 要素
0
25
50
Position x / mm
各々の要素は再構成できている。
しかし、各ひずみ要素は各々の方向に重みがかかった分布を示す。18
まとめ
 新概念テンソルCT法の開発
• 1箇所に存在する複数のテンソル要素を一斉にCT画像再
構成する。
• 観測対象の観測量が角度によって変化することを考慮に
入れて(重みを付けて)ML-EMの逆投影を行うことが重要
。
 テンソルCTアルゴリズムの検証
• ひずみ要素の各々の方向に重みを受けた画像が得られ
ることがわかった。
• 「方向によって重みの異なるCT画像」は、テンソルCTに必
須な「角度によって重みを変えた逆投影」により生じる。
• この逆投影過程を最適化することが、今後の重要な研究
課題。
19