世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約

Japanese version
世界保健機関によって、この出版物に含まれている
情報を検証するため、全ての妥当な予防策が実行さ
れてきました。しかし、出版された資料は、表示あ
るいは暗示であっても、いかなる保証もせずに配信
されています。資料の解釈及び使用に関する責任は
読者にあります。どんな事故でも、その利用により
発生する損害に対して世界保健機関は責任を負いま
せん。
本書は2009年に世界保健機関(World Health
Organization)
により以下の表題で発行されました。
WHO Guidelines on Hand Hygiene in
Health Care: a Summary
© 世界保健機関 2009
日本語版の翻訳と出版の権利については、新
潟県立六日町病院に対して世界保健機関事務
局長から承認されています。
日本語版に関する責任はすべて新潟県立六日
町病院にあります。
医療における手指衛生ガイドライン:
要約版
Japanese version Copyright
© Niigata Prefectural Muikamachi Hospital
2009
世界保健機関医療における手指衛生ガイドライン:
要約©世界保健機関 2009
世界保健機関から 2009 年に出された「手指衛生ガ
イドライン」の要約版です。2002 年に CDC から出
された手指衛生ガイドラインの更新版となっており、
世界標準となっています。
Burden(バーデン)について:burden はバイオ・
バーデンとして滅菌の概念では初期菌量とされ、滅
菌を成し遂げるために問題となる負荷という意味で
訳されることもあります。このガイドラインでの
burden は全ての分野において妨げとなる負荷・負
担・重荷という意味で使われています。医療関連感
染が健康の問題で障害・負荷となっているとか、手
指衛生での汚れの問題とかすべて burden・バーデン
としています。ここではそういった全ての分野で当
初から目的を達するための負荷・負担・重荷・障害
となっているものをバーデンとして訳しました。
alcohol-based handrub:アルコールベース速乾性擦
り込み式手指消毒剤と昔は訳していましたが、環境
感染学会用語集に則り、
「擦式アルコール製剤」と訳
しています。
“My five moments for hand hygiene”:「私の手指
衛生の5つの瞬間」
2010 年盛夏の候、六日町から・・・。
新潟県立六日町病院 麻酔科 市川高夫
[email protected]
世界保健機関 医療における
手指衛生ガイドライン:要約
最初の世界的な患者安全の挑戦
清潔なケアがより安全なケア
世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
序文
毎年世界中で何億人もの患者が、医療関連感染(HCAI)に罹患しています。
感染は、さらに重大な疾患、入院期間の延長をもたらし、長期に渡る障害を誘発し、患者とその家族に
多大な更なる費用を負担させ、医療制度の余分な大規模な財政負担となり、しばしば悲劇的な死亡に帰
結します。
まさにそれらの本質として、感染はシステムと
を十分に認識し理解することに寄与するでしょう。
国家の教育、政治的、経済的状態そしてしばしば
我々の次の 10 年のビジョンは、世界中の全ての国
社会規範と信念によって条件づけられる人々の行
で、この認識を奨励し、順守を改善し、持続させ
動とともに、医療供給システムと手順に関係する
る必要性を提唱することです。
多くの様々な因子によって引き起こされます。
しかし、ほとんどの感染は予防できます。
国々は、改善戦略の中で、医療従事者と同じよ
うに患者とサービス利用者を巻き込み結びつける
手指衛生は感染を減らすための主要な方法です。 ために、彼ら自身の医療システムに「挑戦」を導
おそらく簡単な行動ではあるのですが、医療従事
入するよう促されます。我々は、一緒に皆の長く
者の間で守られていないことが、世界中で問題と
続く利益のための全ての活動が持続可能であるこ
なっています。手指衛生順守と最も優れた推進戦
とを確かなものとするために協力できます。
略に影響している局面の調査研究によって、新し
組織変革が多くの所で必要ですが、人間の行動
いアプローチが有効であることが証明されました。 の持続的な変化が更により重要で、仲間と政治的
手指衛生推進と改善のためのさまざまな戦略が提
なサポートが絶対不可欠です。
案され、世界保健機関の最初の世界的な患者安全
「清潔なケアがより安全なケア」は選択の自由
の挑戦「清潔なケアがより安全なケア」が、成功
ではなく基本的な権利です。清潔な手が患者の苦
した介入の実行に加え、医療における手指衛生の
痛を防いで命を守ります。
標準と実行を改善することに注意を向けています。
100 名を超える有名な国際的な専門家の協力で
「挑戦」に取り組み、より安全な患者ケアに寄
与していただきありがとうございます。
開発された医療における手指衛生の新しい世界的
ガイドラインが、世界の様々な場所で試験され試
ディディエ・ピッテ(Didier Pittet)教授、
用され、2009 年に開始されました。試験サイトは、
制作責任者、
先進国の近代的な高度な技術を持った病院から、
ジュネーブ大学病院および
辺境の資源の乏しい村の診療所までに及んでいま
医学部感染管理プログラム、
す。
スイス
病院と医療施設に「私の手指衛生の5つの瞬間」
アプローチを含んだこれらのガイドラインを採用
するように働きかけることが、手指衛生の重要性
最初の世界的な患者安全の挑戦、世界保健機関患
者安全推進者
内容
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
V
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第Ⅰ部 医療関連感染と手指衛生の重要性のエビデンス
1
1.
問題:医療関連感染は世界中の死亡と障害の主たる原因です。
2
医療関連感染バーデン(負荷、汚れ)の程度
先進国での医療関連感染
開発途上国での医療関連感染
医療従事者間の医療関連感染
2.
医療関連感染のバーデンを減らすための手指衛生の役割
5
2.1
手を介しての医療関連病原体の伝播
2.2
医療従事者間の手指衛生順守
2.3
手指衛生順守を改善する戦略
2.4
医療関連感染における手指衛生推進の影響
2.5
手指衛生推進の費用対効果
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第Ⅱ部 合意された勧告
11
1.1
1.2
1.3
1.4
合意された勧告と順位付けシステム
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
手指衛生の適応
12
手指衛生の方法
15
手術時手洗いのための勧告
15
手指衛生製品の選択と取り扱い
16
スキンケア
16
手袋の使用
17
手指衛生のその他の局面
17
医療従事者のための教育とモチベーション・プログラム
17
政府と施設の責任
18
9.1
医療施設管理者のために
9.2
政府のために
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第Ⅲ部 ガイドラインの実践
25
1.
2.
3.
実施戦略とツール
26
適切な手指衛生に必要とされるインフラストラクチャー
28
手指衛生 - 特に擦式アルコール製剤使用に関するその他の問題
28
3.1
手指衛生実施のための方法と製品選択
3.2
手指衛生に関する皮膚反応
3.3
擦式アルコール製剤使用に関する有害事象
3.4
擦式アルコール製剤とクロストリジウム・デフィシルとその他の非感受性病原体
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
参考文献
32
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
付録
43
1.
用語の定義
44
46
2.
「WHO 医療における手指衛生ガイドライン 2009」の目次
3.
手指衛生実施ツールキット
49
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
謝辞
50
はじめに
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――-
患者安全の重要な問題に直面して、2002 年第 55 回世界保健総会がこの問題に可能な限りの注視を払
い、安全と監視システムの強化を図ることを国々に急がせることを決議しました。2004 年 5 月、第 57
回世界保健総会が患者安全を改善するための世界的発議として、国際的提携の設立を承認しました。
「患
者安全のための世界提携」は 2004 年 10 月に開始され、現在「情報、エビデンスと調査研究クラスター」
を含む「WHO 患者安全プログラム」に置かれています。
「WHO 患者安全」は、専門家、機関のトップ、
政策立案者と患者グループを結びつけ、患者
安全の様々な局面における経験、専門的知識
とエビデンスを合致させることで患者ケアの
安全を世界的に確実にする環境を作ることを
狙っています。この努力のゴールは、議論と
行動に触媒作用を及ぼし、勧告を作成し、そ
の実施を促進することです。
WHO 患者安全は多くの作業を開発し、様々な
問題領域に対する行動に焦点を当てています
(http://www.who.int/patientsafety/en/ )。
1つの特定のアプローチが、患者安全の分野
における優先事項に値する特定のテーマ(挑
戦)に焦点を当ててきました。
「清潔なケアがより安全なケア」は、医療関
連感染(HCAI)を世界中で減少させることを
目 的 に 「 最 初 の 世 界 的 患 者 安 全 挑 戦 (1st
GPSC)」として 2005 年 10 月に開始されまし
た。これらの感染は先進国と過渡的な開発途
上国の両方の国で発生し、入院患者で死亡と
罹病率の増加の大きな原因です。
「清潔なケアがより安全なケア」での主要な
行動は、世界的にそして全ての医療の段階で
手指衛生を推進することです。
非常に簡単な行動であるはずの手指衛生は、
医療関連感染の減少と患者安全を強化する第
1 のモードの 1 つであると十分に理解されて
はいます。
4年の活動全体に渡り、最初の世界的患者安
全挑戦の技術的作業は、永続的あるいは助産
師による在宅ケアのような医療が一時的に行
われるような全ての施設において、医療が供
給される全ての状況で手指衛生実行を改善す
る勧告と実施戦略の開発に焦点を当ててきま
した。
このプロセスは、医療における手指衛生にお
ける WHO ガイドラインの準備に繋がってい
1
ます。
これらのガイドラインの目的は、医療従事者
(HCWs)、病院管理者と医療当局に医療におけ
る手指衛生に関するエビデンスの完全なレビ
ューと、実行を改善し患者と医療従事者への
病原体の伝播を減らすための特別な勧告を提
供することです。
それらは、世界的見地で先進国あるいは開発
途上国に対してというよりむしる、全ての
国々に利用できる資源に適応し、地域の状況
に合わせることを奨励し、開発されてきまし
た。
「WHO の医療における手指衛生ガイドラ
イン 2009」
(http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/
9789241597906_eng.pdf) は、2008 年6月
までの文献レビューとパイロットテストで学
ばれたデータと教訓に従って 2006 年 4 月に発
行された進歩的ドラフトの更新と最終版です。
「1st GPSC」チームは、利用できる科学的エ
ビデンスのレビューと文章の記述、そして著
者間の議論を発展させるプロセスを調整する
専門家のコアグループによってサポートを受
けました。100 人以上の国際的なエキスパー
ト、技術的貢献者、外部の批評家と専門家が、
文書を準備するための入力を提供しました。
作業部会がまた、特定の分野で徹底的に異な
る局面を調べ、勧告を提供するために設立さ
れました。エビデンスのための系統立った文
献調査に加えて、他の国際的および国の感染
対策ガイドラインと教科書が調べられました。
勧告はエビデンスと専門家の合意に基づいて
作られ、アメリカ合衆国ジョージア州アトラ
ンタにある CDC の HICPAC によって開発さ
れたシステムを使って等級づけられました。
進歩的なドラフトと並行して、重要な戦略
(WHO 多様的手指衛生改善戦略)が、医療施
設でガイドラインを、ベッドサイドで実施の
ために分かりやすく説明する(その時点で「試
験的実施パック」と呼ばれていた)様々なツ
ールとともに開発されました。
ガイドライン準備のための WHO 勧告に従
い、テスト段階が以下の目的で実施されまし
た;勧告の実行を必要としている資源におけ
る現場データを準備するため;介入の実現可
能性、妥当性、信頼性と費用対効果の情報を
形成するため;提案された実施戦略を適応さ
せ改善するため。
データ分析とパイロット・サイトから学ばれ
た教訓の評価は、ガイドライン、実施戦略と
現段階で「実施ツールキット」を含むツール
を決定するために非常に重要でした。
(付録3
を参照;
http://www.who.int/gpsc/5may/tools/en/inde
x.html で入手可能)
最終のガイドラインは、更新されたエビデン
ス、手指衛生の世界的推進を行った過去数年
間のフィールドテストと経験からのデータに
基づいています。
特別な注意が、実行に対し異なる状況で直面
した様々な障害と、それらに打ち勝つ提案を
含んだ全ての経験を記述することに払われま
した。例えば、WHO によって推薦された世界
中の様々な設定での手指擦式製品の地域の生
産品の教訓に基づいた小区分があります。
(ガ
イドライン第Ⅰ部 12 を参照)
先進的なドラフトと比較して、最終のガイ
ドライン(付録2の目次を参照)では、現行
の合意勧告の大きな変更はありませんが、い
くつかの勧告のエビデンス等級は違っていま
す。2,3の勧告が加えられ、その他いくつ
かが並び変えられるか言い替えられました。
主要な革新的なトピックのいくつかの新し
い章が最終のガイドラインに追加されました、
(例えば世界中の医療関連感染のバーデン;
手指衛生改善の国家的アプローチ;手指衛生
推進における患者の関与;手指衛生の国家的
ガイドラインと地方のガイドラインの比較)。
成功した戦略の普及と実施は、これらのガ
イドラインの目的を達成するために必要であ
り、これは WHO の多様的手指衛生推進戦略
に関連するもう1つの新しい章の基を作りま
す。この章からの主要なメッセージは、同様
2
にこの文章の第3章に要約されています。
合理的な意思決定のために、コストと転帰
について、信頼できる情報を持っている必要
があります。手指衛生推進の経済的影響を評
価する章は、低収入および高収入の両方の設
定において、これらの局面をよりよく評価し
やすくするため追加された新しいかなりの情
報を用いて、広くレビューされました。
全ての他の章と付録もまた、概念を発展さ
せることを目的に、改訂と追加がなされまし
た。「WHO 医療における手指衛生ガイドライ
ン 2009」の目次は付録2に含まれています。
現在の要約は、ガイドラインの最も今日的な
意味を帯びている部分に焦点を当て、実施と
さらに実行へ結び付けるために特に重要ない
くつかのツールの「案内」に注意を向けてい
ます。それは、手指衛生推進の基となる科学
的エビデンスとガイドラインの核となる勧告
の実行の理解を促進するための主要な概念の
総合体を提供します。
現在英語でしか利用できないガイドライン
と対照的に、この要約は全ての WHO の公式
言語に翻訳されてきました。
勧告(第Ⅱ部)は少なくとも 2011 年までは有
効であると予想されています。
「WHO 患者安全」は、「WHO の医療におけ
る手指衛生ガイドライン」を2~3年ごとに
確実に更新することを約束します。
第Ⅰ部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
医療関連感染と手指衛生の重要性のエビデンス
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1
1.
問題:医療関連感染(HCAI)は、世界中の死亡と障害の主たる原因です
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.1 医療関連感染バーデンの程度
医療関連感染は患者安全にとって重大な問題で
あり、その予防は医療を安全に行うことを任され
た状況および施設にとって最優先でなければなり
ません。
医療関連感染の影響は、長引く入院、長期に渡
る障害、抗菌薬に対する耐性菌の増加、大規模な
更なる経済的バーデン、健康システムに対する高
コストや患者・家族への感情的ストレスという意
味を含みます。
医療関連感染に罹患するリスクは、病原体(例え
ば、毒力、環境での生存能力、抗菌薬耐性)、宿主
(例えば、高齢、低出生体重、基礎疾患、衰弱・
免疫抑制・低栄養状態)と環境(例えば、ICU 入
室、長い入院期間、侵襲的な医療器具や処置、抗
菌薬治療)に関係する因子によります。
医療関連感染に罹患するリスクは世界中で普遍的
であり、全ての医療施設とシステムに充満してい
るとしても、全体的なバーデンは信頼できる診断
データの収集が難しいことからよく分かっていま
せん。
これは、主として医療関連感染を診断するために
使用される基準が複雑で、統一性が欠如しており、
医療関連感染のサーベイランス・システムが事実
上ほとんどの国で存在しないという事実によりま
す。
従って、医療関連感染は今のところ、施設ある
いは国が解決できないと主張できる隠れた横断的
懸念事項のままになっています。
1.2 先進国での医療関連感染
先進国では、医療関連感染は入院患者の 5~15%
に関係し、ICU に入る患者の 9~37%に影響して
います。(1,2)
ヨーロッパで行われた最近の研究で、病院全体の
医療関連感染に影響を受けた患者罹患率は 4.6~
9.3%に及んでいます。 (図 I.1)(3-9)
図 I.1 先進国における医療関連感染の有病率*
* 文献は WHO 医療における手指衛生ガイドライン 2009 の第 1.3 部にあります。
**罹患率
2
毎年、ヨーロッパの急性期病院では少なくとも
500 万の医療関連感染が発生しており、毎年 13 万
5 千の死亡と約 2500 万日の余分な入院と 130~
240 億ユーロの経済的バーデンになっていると見
積もられました。
(http://helics.univ-lyon1.fr/helicshome.htm)
アメリカ合衆国(USA)での医療関連感染の罹患率
は 2002 年では 4.5%と見積もられ、1000 患者日当
たり 9.3 の感染と 170 万人の患者が影響を受け、
2004 年では毎年の経済的影響は 65 億米ドルに相
当しました。(10) およそ 9 万 9 千の死亡は医療
関連感染が原因でした。(11)
ICU での罹患率は、ヨーロッパ(12)およびUSA
で評価したとき9~37%、大まかな死亡率は 12~
80%の範囲でした。(2)
特に ICU においては、
様々な侵襲的器材
(例えば、
中心静脈カテーテル、器械的人工呼吸あるいは尿
道カテーテル)の使用が、医療関連感染罹患の最
も重要なリスク因子の 1 つです。
アメリカ合衆国の国立医療安全ネットワーク
(NHSN)で検出された 1000 器材・日あたりの器材
関連感染率は、表 1.1.13 にまとめてあります。
器具関連感染症は、重大な経済的影響を持ってい
ます;例えば、MRSA によるカテーテル関連血流
感染症は1発症あたり3万8千ドルほど費用がか
かるかもしれません。(14)
1.3 開発途上国での医療関連感染
医療関連感染の診断が通常困難であるのは、開
発途上国では、検査データの不足や信頼性のなさ、
放射線医学のような診断施設の利用制限や劣悪な
カルテ維持が、信頼できる医療関連感染バーデン
の評価への障害として存在しているに違いありま
せん。従って、これらの状況では医療関連感染の
限定されたデータは文献からの利用となります。
さらに、ほとんど全ては限定された経済的資源
のためなのですが、人員不足、劣悪な衛生や下水
設備、基本的な設備の欠如あるいは不足、不適切
な構造や過密のような多くの好ましくない因子の
組み合わせの結果として、基本的な感染管理手段
がほとんどの状況で事実上存在していません。
さらに、栄養不良や様々な疾患に大きく影響され
た集団が、開発途上国では医療関連感染のリスク
を増大させています。
これらの状況の下では、おびただしい数のウイ
ルス性および細菌性医療関連感染が伝播し、この
ような感染によるバーデンは先進国で観察される
より数倍高いと見込まれます。
例えば、アルバニア、モロッコ、チュニジアと
タンザニア連合共和国の1カ所の病院で最近行わ
れた 1 日罹患率サーベイランスで、医療関連感染
罹患率は 19.1%と 14.8%の間にありました (図
I.2)(15-18)
図 I.2 開発途上国*の HCAI の有病率
* 文献は WHO 医療における手指衛生ガイドライン 2009 の第 1.3 部にあります。
3
患者に手術部位感染(SSI)の発生させるリスクは、
開発途上国において最もしばしば監視される医療
関連感染のタイプで、先進国に比べて非常に高い
(例えば、ナイジェリアの小児病院で 30.9%、タ
ンザニア連合共和国の病院の一般外科では 23%あ
るいはケニアの母性ユニットで 19%)。(15, 19, 20)
成人および小児 ICU で行われた多施設研究から
報告された器具関連感染率も、開発途上国では
NHSN システム(米国)の率と比べて数倍高値で
す(表1)。(13, 21, 22)
新生児感染は、先進国と比べて開発途上国では、
病院で生まれた新生児で 3~20 倍高いと報告され
ています。(23)
表 I.1.
いくつかの状況(ブラジルとインドネシア)で、医
療関連感染を受けた新生児ユニットに入室した新
生児の半数以上は 12~52%の死亡率と報告されて
います。(23)
医療関連感染を管理するコストは、低収入国では
同様に医療つまり病院予算のかなりのパーセント
を占めていることが見込まれています。
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生ガ
イドライン 2009」の第 1.3 部でより広範に論議さ
れています。
NHSN の率と比較した開発途上国の ICU における器具関連感染率
状況
患者数
CLA-BSI*
VAP*
CR-UTI*
PICU
1,808
6.9
7.8
4.0
NHSN,2006-2007,USA(13)
PICU
-
2.9
2.1
5.0
INICC,2002-2007,18 の 開
成人 ICU#
26,155
8.9
20.0
6.6
成人 ICU#
-
1.5
2.3
3.1
サーベイランス・ネットワ
ーク
研究機関、国
INICC,2002-2007,18 の 開
発途上国†(21)
発途上国†(21)
NHSN,2006-2007,USA(13)
* 総合的(統合平均)感染率/1000 デバイス・日
INICC=国際院内感染管理協会;NHSN=国立医療安全ネットワーク;PICU=小児集中治療室;
CLA-BSI=中心ライン関連血流感染;VAP=人工呼吸器関連肺炎;CR-UTI=カテーテル関連尿路感染;
† アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、キューバ、エルサルバドル、インド、コソボ、
レバノン、マケドニア、メキシコ、モロッコ、ナイジェリア、ペルー、フィリピン、トルコ、ウルグアイ
# 内科/外科系ICU
1.4 医療従事者間の医療関連感染
医療従事者も患者ケア中に感染を受けます。
アンゴラのマールブルグウイルス出血熱事故の時
に、医療施設内伝播がアウトブレイクの拡大の大
きなきっかけとなっていました(WHO 未公開デ
ータ)
。医療従事者への伝播を伴った院内群化(ク
ラスタリング)は、SARS の際立った特徴でした。
(24,25)
同じように、医療従事者は、インフルエンザのパ
4
ンデミックの間に感染しました。(26)
伝播は、主に大きな飛沫、感染性物質との接触あ
るいは感染性物質で汚染された無生物物質との接
触を通して起こります。
高リスク患者のケア実施の能力と不適切な感染管
理実施が、リスクに結びついています。
医療従事者へのその他のウイルス(例えば、HI
V、B型肝炎)や結核を含む細菌性疾患の伝播も、
よく知られています。(27)
2.
医療関連感染のバーデンを減らすための手指衛生の役割
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2.1 手を介しての医療関連病原体の伝播
不完全な手指洗浄(例えば、不十分な量の製品
医療関連病原体の伝播は、直接および間接接触、 の使用かつ/あるいは手指衛生行為の不十分な継
飛沫、空気と一般媒介物を介して起こります。
続時間)が、劣悪な手指の除染となります。
汚染された医療従事者の手指を介する伝播は、ほ
明らかに、1 人の患者の一連のケアの間、かつ/あ
とんどの状況で一般的なパターンであり、5つの
るいは複数の患者との接触の間に、手指をきれい
連続したステップを必要とします:(i)病原体は患
にすることに失敗した時、微生物の伝播が起こっ
者皮膚あるいは患者のすぐ側にある無生物物質に
ているようです。
付いています;(ii)病原体は医療従事者の手指にう
汚された医療従事者の手が、地域特異性の医療関
つされるに違いありません;(iii)病原体は医療従事
連感染(56,57)や同様にいくつかの医療関連感染
者の手指で少なくとも数分は生存できるに違いあ
アウトブレイクに関連してきました。(58-60)
りません;(iv)医療従事者による手洗いあるいは手
指消毒は、不適切であるか完全に省略されている
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生
か、手指衛生に使用される薬剤が不適切であるに
ガイドライン 2009」の第 1.5-7 部でより広範に論
違いありません;(v)汚染した手あるいはケアを提
議されています。
供する人の手が、もう1人の患者あるいは患者と
直接接触することになる無生物物質に直接接触す
るに違いありません。(28)
2.2 医療従事者間の手指衛生順守
医療関連病原体は。感染創あるいはドレナージ
されている創からだけでなく、正常な普通の患者
皮膚のしばしば保菌される部位からも復活させる
ことができます。(29-43)
生きている微生物を含んだほぼ 106 個の皮膚落屑
が毎日正常皮膚から落下し(44)、患者衣服、ベッ
ドリネン、ベッドサイド家具や患者のすぐ側にあ
るその他の対象物が患者の細菌叢で汚染されるこ
とは驚くことではありません。(40-43,45-51)
手指衛生は、医療関連感染と抗菌薬耐性菌の広
がりを防ぐために有効であると証明された主要な
方法です。しかし、医療従事者が手指衛生の適応
に従うとき、様々なレベルで困難に遭遇すること
が示されてきました。
手指衛生行動の欠如で、ケアの継続時間が長くな
ればなるほど、手の汚染の程度はよりひどくなり
ます。
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生ガ
イドライン 2009」の第 1.16 部でより広範に論議
されています。
不十分あるいは非常に低い順守率が先進国と開
発途上国の両方から報告されています。推奨され
た手指衛生手順への医療従事者の順守は、平均基
本率が 5~89%と様々で、総体的な平均は 38.7%
であると報告されています。手指衛生パフォーマ
多くの研究が、医療従事者は彼らの手指あるい
ンスも仕事の強度やいくつかのその他の因子によ
は手袋を、
「清潔操作」あるいは入院患者の皮膚の
って様々で、病院での観察研究では、医療従事者
正常な部分に接触することで、グラム陰性桿菌、
は手を、シフト当たり 5~42 回、時間当たり 1.7
黄色ブドウ球菌、腸球菌やクロストリジウム・デ
フィシルで汚染させることを明らかにしています。 ~15.2 回きれいにしていました。さらに、手をき
れいにするエピソードの時間の長さは、平均 6.6
(35,36,42,47,48,52-55)
秒の短さから 30 秒までの範囲でした。
劣悪な手指衛生を決定づけるだろう主な因子には、
患者及び/または汚染した環境との接触で、微生
手指衛生勧告へ従うことが欠如している医療従事
物は様々な時間(2~60 分)
、手の上で生存できま
者自身によって与えられる理由とともに、疫学的
す。医療従事者の手は、患者ケアの間に可能性の
研究で観察された順守しないリスク因子が含まれ
ある病原体と同様に片利共生細菌叢によっても
ます。
徐々に保菌されます。(52,53)
5
表 I.2.1
A
B
C
6
推奨された手指衛生実施の順守に影響する因子
推奨された手指衛生実施の劣悪な順守で観察されたリスク因子
医師という立場(看護師よりもむしろ)
看護助手という立場(看護師よりもむしろ)
理学療法士
臨床工学技士
男性
集中治療室での業務
外科ユニットでの業務
救急ユニットでの業務
麻酔科での業務
週日での勤務(週末に対して)
ガウン/手袋着用
患者環境に触れる前
患者環境、例えば設備、に触れた後
65 歳以下の患者のケア
麻酔後ケアユニットで清潔/準清潔手術から回復している患者のケア
隔離室でない病室での患者ケア
患者と接触している間(2分以内)
患者ケア行動の中断
自動止水栓シンク
交差感染のリスクの高い行為
人員不足/過密
患者ケアにおいて時間当たりの手指衛生の頻回の機会
手指衛生の貧弱な順守における自己申告された因子
手荒れや乾燥の原因となる手洗い製品
シンクの不便な配置/シンクの不足
石けん、紙タオルの不足
忙しすぎる/不充分な時間
患者への対応が第1優先
手指衛生が医療従事者-患者関係を阻害する
患者からの感染を受けるリスクは低い
手袋を着ける/手袋の使用は手指衛生の必要を取り除くという信念
ガイドライン/プロトコルを知らない
知識、経験、教育の欠如
報酬/奨励の欠如
同僚あるいは先輩に理想的モデルがいない
それについて考えない/物忘れ
手指衛生の価値についての疑念
勧告との意見の相違
医療関連感染における改善された手指衛生の決定的な影響の科学的情報の欠如
適切な手指衛生で更に認識された障壁
個人あるいは施設レベルで手指衛生の促進での活動的な参加の欠如
手指衛生のための組織化した優先順位の欠如
管理的な非承諾者の制裁/承諾者の報償の欠如
組織的な安全風土/手指衛生を行う医療従事者の個人的責任の文化の欠如
2.3 手指衛生順守を改善する戦略
この 20 年の間、多くの研究が医療従事者の間で
手指衛生を改善する効果的な介入が存在すること
を明らかにしてきた(表 I.2.2)が、手指衛生順守の
測定は、適切な手指衛生の定義や手指衛生の評価
も直接観察あるいは手指衛生製品の消費量による
など様々で、比較が難しい。
者教育、手指衛生実施のオーディットとパフォー
マンス・フィードバック、リマインダー、流水と
石けんの利用のしやすさの改善、自動止水栓シン
クの使用、そして/あるいは施設、医療従事者と患
者レベルでの施設の安全文化の改善と同様に擦式
アルコール製剤の導入。
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生
ガイドライン 2009」の第 I.20 部でより広範に論
議されています。
異なる方法にもかかわらず、ほとんどの研究は、
以下を含む多様的戦略を使っています:医療従事
表 I.2.2 手指衛生改善介入の前後での医療従事者による手指衛生順守
文献
設定
基 準 順 介 入 後 順 介入
守率(%) 守率(%)
16
30
より使いやすいシンクの配置
Preston, Larson & ICU
Stamm(78)
Mayer et al.(79)
ICU
Donowitz(80)
PICU
Conly et al.(81)
MICU
63
31
14/28 *
92
30
73/81
Graham(82)
Dubbert et al.(83)
32
81
45
92
ICU
ICU
Lohr et al.(84)
小 児 科 外 49
来
Raju & Kobler(85) 育 児 室 と 28
NICU
Wurtz, Moye & SICU
22
Jovanovic(86)
Pelke et al.(87)
NICU
62
Berg, Hershow & ICU
5
Ramirez(88)
Tibballs(89)
PICU
12/11
Slaughter
et MICU
41
al.(90)
Dorsey, Cydulka 救急部門
54
Emerman(91)
Larson et al.(92)
ICU
56
49
63
38
60
63
パフォーマンス・フィードバック
上着(overgown)の着用
フィードバック、ポリシーレビュー、メモ、
ポスター
擦式アルコール製剤導入
まず勤務中に、次にグループ・フィードバッ
ク
サイン、フィードバック、医者への言葉での
リマインダー
フィードバック、文献の普及、環境培養の結
果
自動止水栓手洗い設備の設置
13/65
58
更衣不要
講義、フィードバック、デモンストレーショ
ン
公然とした観察、その後のフィードバック
日常的なガウンと手袋着用
64
サイン/レビューを配布
83
前もって医療従事者からの質問に基づいた講
義、フィードバック、管理者によるサポート、
自動止水栓手洗い装置
Avila-Aguero
et 小 児 科 病 52/49
74/69
フィードバック、動画、ポスター、パンフレ
al.(93)
棟
ット
ICU=集中治療室;SICU=外科系 ICU;MICU=内科系 ICU;MSICU=内科系/外科系 ICU;PICU=小児
ICU;NICU=新生児 ICU;Emerg=救急;Oncol=腫瘍学;CTICU=心胸部 ICU;PACU=麻酔後ケアユニ
ット:OPD=外来部門;NS=記述なし
* 患者との接触前/後の順守率
7
表 I.2.2 手指衛生改善介入の前後での医療従事者による手指衛生順守(続き)
文献
設定
Pittet et al.(75)
全ての病棟
Maury et al.(94)
Bischoff
et
al.(95)
Muto, Sistrom &
Farr(96)
Girard, Amazian
& Fabry(97)
Hugonnet,
Perneger
&
Pittet(98)
Harbarth
et
al.(99)
Rosenthal
et
al.(100)
Brown et al.(62)
Ng et al.(101)
Maury
et
al.(102)
das Neves et
al.(103)
Hayden
et
al.(104)
Berhe, Edmond
& Bearman(105)
Eckmanns
et
al.(106)
Santana
et
al.(107)
Swoboda
et
al.(108)
Trick et al.(64)
MICU
MICU
CTICU
内科病棟
基 準 順 介入後順 介入
守率(%) 守率(%)
48
67
ポスター、フィードバック、管理者によるサポ
ート、アルコール擦式剤設置
42
61
擦式アルコール製剤設置
10/224/ 23/487/1 教育、フィードバック、アルコールジェル設置
13
4
60
52
教育、リマインダー、アルコールジェル設置
全ての病棟
62
67
教育、アルコールジェル設置
MICU/ SICU
NICU
38
55
ポスター、フィードバック、管理者によるサポ
ート、擦式アルコール製剤設置
PICU
/
NICU
全ての病棟3
病院
NICU
NICU
MICU
33
37
17
58
ポスター、フィードバック、擦式アルコール製
剤設置
教育、リマインダー、より多くのシンクの設置
44
40
47.1
48
53
55.2
NICU
62.2
61.2
MICU
29
43
MICU,
SICU
ICU
31.8/50
39 / 50.3
29
45
MSICU
18.3
20.8
IMCU
19.1
25.6
23/30/3
5/32
46/50/43/ 手指擦式剤利便性向上、教育、ポスター
31
3 研究病院
1 対照試験、
病院全体
et NICU
教育、フィードバック、アルコールジェル設置
教育、リマインダー
観察の予告(ベースライン時に内密での観察と
比べて)
ポスター、ラジオでのミュージカル的パロデ
ィ、スローガン
壁付けディスペンサー、教育、パンフレット、
ボタン、ポスター
パフォーマンス・フィードバック
観察の予告(ベースライン時に内密での観察と
比べて)
擦式アルコール製剤ディスペンサーの導入、ポ
スター、ステッカー、教育
手指擦式が失敗の時、声で指示する
Raskind
89
100
教育
al.(109)
Traore et al.(110) MICU
32.1
41.2
ジェル対液体手指擦式剤製品
Pessoa-Silva et NICU
42
55
ポスター、フォーカス・グループ、教育、アン
al.(111)
ケート、ケアプロトコル・レビュー
Rupp et al.(112)
ICU
38/37
69/68
擦式アルコール・ジェル製剤導入
Ebnother
et 全ての病棟
59
79
多様な介入
al.(113)
Haas
& 救急部門
43
62
携帯式個人用手指擦式ディスペンサーの導入
Larson(114)
Venkatesh
et 血液病ユニッ 36.3
70.1
手指擦式が失敗の時、声で指示する
al.(115)
ト
Duggan
et 病院全体
84.5
89.4
監査者による予告された訪問
al.(116)
ICU=集中治療室;SICU=外科系 ICU;MICU=内科系 ICU;MSICU=内科系/外科系 ICU;PICU=小児
ICU;NICU=新生児 ICU;Emerg=救急;Oncol=腫瘍学;CTICU=心胸部 ICU;PACU=麻酔後ケアユニ
ット:OPD=外来部門;NS=記述なし
* 患者との接触前/後の順守率
8
2.4 医療関連感染における手指衛生推進の影響
適切な手指衛生の実行の失敗は、医療関連感染と
多剤耐性菌の広がりの原因とみなされ、アウトブレ
イクの重大な因子とされています。
多様な実現戦略を通しての改善された手指衛生が医
療関連感染率を減らすことができるという信頼性の
あるエビデンスがあります。(61)
さらに、感染率は報告されていませんが、いくつか
の研究が、手指衛生改善戦略の実行に引続き、多剤
耐性細菌の分離と患者の保菌が持続的に低下してい
ることを明らかにしました。(62-65)
医療関連感染のリスクにおける手指衛生の影響につ
いての少なくとも 20 の病院ベースの研究が、1977
年と 2008 年の間に出版されています(表 1.2.3)。
研究の限界にもかかわらず、ほとんどの報告は、手
指衛生実行の改善と感染率および交差感染率の低下
の間に時間関係があることを示しています。
表 I.2.3 改善された手指衛生実行の順守と医療関連感染率の間の関係(1975 年~2008 年 6 月)
年
著者
病院設定
主な結果
追跡期間
1977 Casewell & 成人 ICU
クレブシエラ属による患者穂菌あるいは感染の著
2年間
Phillips(66)
しい減少
1989 Conly
成人 ICU
手指衛生推進後直ちに医療関連感染率の著しい減
6年間
et al.(81)
少(4年明けての二つの介入後、それぞれ、33%
から12%、33%から10%へ)
。
1990 Simmons
成人 ICU
医療関連感染率に影響はなかった(手指衛生順守の
11 ヶ月
et al.(117)
統計学的有意な改善はなかった)
1992 Doebbeling
成人 ICU
二つの異なる手指衛生製剤を使って医療関連感染
8 ヶ月
et al.(118)
率の間に有意差
1994 Webster
NICU
複数のその他の感染管理方法を合わせたとき
9 ヶ月
et al.(74)
MRSA の除去がなしえた。バンコマイシン使用の削
減。手洗いにクロルヘキシジンと比べてトリクロサ
ンを使用して院内菌血症の有意な減少(2.6%から
1.1%に)
。
1995 Zafar
新生児保育所 その他の感染管理手段に加えて、手洗いにトリクロ
3.5 年
et al.(67)
サン製品の使用で MRSA アウトブレイクをコント
ロール
2000 Larson
MICU/NICU 介入病院のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)率の有
8 ヶ月
et al.(119)
意な減少(85%);対象病院で統計学的に有意でない
減少(44%);MRSA では有意な変化はなかった。
2000 Pittet
病院全体
1年を通しての医療関連感染罹患率(42%)と
8年
et al.
MRSA 交差感染率(87%)の有意な減少。同じ期
(75,120)
間に積極的な監視培養と接触予防策が実施された。
追跡研究が、戦略以降、手指擦式剤使用の増加、安
定した医療関連感染率と費用削減が続いているこ
とを示した。
2003 Hilburn
整形外科ユニ 尿路感染症の 36%と SSI 率(8.2 から 5.3%に)の
10 ヶ月
et al.(121)
ット
減少
2004 MacDonald
病院全体
医療関連 MRSA 症例の有意な減少(1.9 から 0.9%
1年
et al.(77)
に)
2004 Swoboda
成人中間ケア 医療関連感染率の減少(統計学的に有意ではない) 2.5 ヶ月
et al.(122)
ユニット
2004 Lam
NICU
(統計学的に有意ではないが)医療関連感染率の減
6 ヶ月
et al.(123)
少(11.3/1000 患者日から 6.2/1000 患者日に)
2004 Won
NICU
特に呼吸器感染で、医療関連感染率の有意な減少
2年
et al.(124)
(15.1/1000 患者日から 10.7/1000 患者日に)
9
表 I.2.3 改善された手指衛生実行の順守と医療関連感染率の間の関係(1975 年~2008 年 6 月)
(続き)
年
著者
病院設定
主な結果
追跡期間
2005 Zerr
病院全体
病院関連ロタウイルス感染の有意な減少
4年
et al.(125)
2005 Rosenthal 成人 ICU
医療関連感染率の有意な減少(47.5/1000 患者日から
21 ヶ月
et al.(126)
27.9/1000 患者日に)
2005 Johnson
病院全体
MRSA 菌血症の有意な減少(57%)
36 ヶ月
et al.(127)
2007 Thi Anh
脳外科
SSI の総体的な発生の減少(54%,NS)。表層 SSI の有
2年
Thu
意な減少(100%)
;対象病棟と比して介入病棟で SSI
et al.(128)
発生の有意な低下
2007 Pessoa-Si 新生児ユニッ 医療関連感染率の減少
(1000 患者日当たり 11 から 8.2
27 ヶ月
lva
ト
に)と超低体重児の医療関連感染リスクの減少(1000
et al.(111)
患者日当たり 15.5 から 8.8 に)
2008 Rupp
ICU
多剤耐性病原体による器材関連感染と感染症に影響は
2年
et al.(112)
ない
2008 Grayson
1)6パイロッ 1)有意の MRSA 菌血症(月当たり 0.05/100 患者退院
1) 2 年
et al.(129) ト病院、
から 0.02/100 患者退院へ)と臨床的 MRSA 分離の減
2) 1 年
2)(オースト 少
ラリア)ビク 2) 有意の MRSA 菌血症(月当たり 0.03/100 患者退院
トリアでの全 から 0.01/100 患者退院へ)と臨床的 MRSA 分離の減
ての公的病院 少
さらに、手指衛生実施の強化が医療施設での病気
た。(62)
の流行のコントロールを助けます。(66,67)
もうひとつの研究で、クロストリジウム・デフ
アウトブレイク調査が、感染と人員不足つまり手
ィシル関連疾患と MRSA 感染の頻度を減らすこ
指衛生の順守困難に常に繋がる超過密と関係があ
とで達せられたコスト削減は、擦式アルコール製
ることを暗示しました。(68-70)
剤の使用の追加コストより遥かに多かったと見積
交差感染のリスクにおける手指衛生推進の有益な
もられました。(76)
効果は、学校、デイケアセンターや社会環境でも
同じように、MacDonald と同僚は、教育と医療従
同様に示されました。(71-73)
事者へのフィードバックをアルコール基剤ハンド
手指衛生推進は、小児の健康を改善し、開発途上
ジェルの使用との組み合わせたことが、MRSA 感
国の小児の上気道肺感染、下痢と「とびひ」を減
染の発生と(このような感染症を治療するために
らします。
用いた)テイコプラニンの支出の減少をもたらし
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生ガ
たことを報告しました。(77)
イドライン 2009」の第 I.22 部でより広範に論議
アルコール基剤ジェルに使われる1英国ポンド当
されています。
り、9~20 英国ポンドがテイコプラニンの支出に
対して削減できました。
2.5 手指衛生推進の費用対効果
手指衛生推進プログラムのコストには、プログ
Pittet と同僚は(75)、2600 ベッド当り年間5万
ラムによる医療従事者時間、教育と推進資料に関
7千米国ドル、1入院患者当り 1.42 米国ドル、手
係するコストに加えて、手指衛生導入と製品のコ
指衛生プログラムに関係した直接および間接コス
ストが含まれます。
トが少なくなると見積もっています。
著者たちは、もし観察された医療関連感染で減少
手指衛生推進プログラムの費用削減を評価する
の 1%未満でも、手指衛生実施を改善することに
ために、医療関連感染の発生を減らすことによっ
起因していれば、手指衛生プログラムはコスト削
て成し遂げられる削減の可能性を考慮する必要が
減になっていたと結論づけています。
あります。
イングランドとウェールズで行われた「きれいな
数個の研究が、手指衛生推進プログラムからのコ
スト削減のいくつかの量的評価を提供しています。 手で!」手指衛生推進キャンペーンの経済的分析
が、医療関連感染率が 0.1%ほどの小さな低下でも
(74,75)
プログラムは費用便益であると結論づけています。
ロシアの新生児 ICU で行われた研究で、著者た
「WHO 医療における手指衛生ガ
ちは医療関連 BSI の追加コスト(1100 米ドル)は、 これらの概念は、
イドライン 2009」の第Ⅲ.3 部でより広範に論議さ
手指消毒剤使用の 3265 患者日(1患者日当たり
れています。
0.34 米ドル)を埋め合わせるだろうと評価しまし
10
第Ⅱ部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合意された勧告
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
11
合意された勧告と順位付けシステム
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
勧告は、ガイドライン及び専門家の合意の様々な部分で記述されたエビデンスに基づいて公式化されま
した。
エビデンスと勧告は、米国ジョージア州アトランタのCDCの HICPAC によって開発されたものから適
合されたシステムを使って等級づけられました(表 II.1)。
表 II.1
ガイドラインの勧告の等級付に使用された順位付けシステム
カテゴリー
基準
IA
実行を強く勧告し、うまく計画された実験的、臨床的あるいは疫学的研究によって強く支持
されている。
IB
実行を強く勧告し、いくつかの実験的、臨床的あるいは疫学的研究と強い理論的根拠によっ
て支持されている。
IC
連邦そして/または州の規則あるいは標準によって強制的に実行することが求められている。
II
実行することが提案され、示唆に富む臨床的あるいは疫学的研究あるいは理論的根拠あるい
は専門家集団の合意によって支持されている。
1.
手指衛生の適応
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 目で見て汚れているか血液あるいはその他の
体液で目に見えて汚れている時(ⅠB)、トイ
レを使用した後(Ⅱ)は手を流水と石けんで
洗う。(130-140)
B. クロストリジウム・デフィシルのアウトブレ
イクを含め、もし芽胞形成病原体への暴露が
強く疑われるか証明されるならば、流水と石
けんによる手洗いがよりよい方法である(Ⅰ
B)
。(141-144)
C. もし手が目で見て汚れていないなら、下記の
項目D(a)~D(f)に記載された全てのその他
の臨床状況では、日常的な手指消毒として擦
式アルコール製剤の使用が好ましい方法であ
る。(ⅠA)(75, 82, 94, 95, 145-149)もし
擦式アルコール製剤が利用できなければ、流
水と石けんで手を洗う(ⅠB)(75, 150, 151)
D. 手指衛生の実行
(a) 患者に接触する前後(ⅠB)
;(35, 47, 51,
53-55, 66, 152-154)
(b) 手袋をしている、いないに関わらず、患
12
者ケアで侵襲的器材を扱う前(ⅠB);
(155)
(c) 体液あるいは浸出液、粘膜、正常でない
皮膚あるいは創部ドレッシングに触れた
後(ⅠA)
;(54, 130, 153, 156)
(d) 同一の患者のケアの間に、もし汚染され
た身体の部分からもう1つの部分へ移動
するなら(ⅠB);(35, 53-55, 156)
(e) 患者に極めて近い(医療設備を含めて)
無生物表面や対象物に触れた後(ⅠB);
(48, 49, 51, 53-55, 156-158)
(f) 滅菌手袋(Ⅱ)あるいは未滅菌手袋(Ⅰ
B)を脱いだ後(53, 159-162)
E. 薬剤あるいは食べ物の準備の前には、擦式ア
ルコール製剤を使うか、または石けんあるい
は消毒スクラブ剤と流水で手を洗い手指衛生
を実施する(ⅠB)(133-136)
F. 石けんと擦式アルコール製剤は併用されるべ
きではない(Ⅱ)(163, 164)
図 II.1
手指擦式のやりかた
擦式アルコール製剤での手指衛生の技術
全工程時間:20-30 秒
お椀形にした手に製品を全ての表面を覆いながら手のひら一杯にする。手のひらのどうし擦る;
指を組み合わせて、
右の手のひらを左の手背上に、
そして逆も同様に;
指を組み合わせて
手のひら同士に;
右の手のひらで左の親指を
右手の固くした指で左の
握って回転させて擦る、
手のひらの中で、前後しながら
そして逆も同様に;
回転させて擦る、
そして逆も同様に;
13
両手の指を(連結器のように)
連結し、指の背部を
反対の手のひらに向ける;
一旦、乾かせば、その手は
安全です。
図 II.2
手の洗い方
石けんと流水での手指衛生の技術
全工程時間:40-60 秒
手を水で濡らす;
指を組み合わせ、右の手のひらを
左の手背に当てる、そして
逆も同様に;
右手のひらで握った左の親指を
回転させて擦る、
そして逆も同様に;
単回使用のタオルで手を
完全に乾燥させる;
14
全ての手の表面を覆うに
十分な石けんを取る;
指を組み合わせて手のひらを
手のひらに;
右手の固くした指で左の手の
ひらの中で、前後しながら回転
させて擦る、そして逆も同様に;
止水栓を止めるためタオルを
使う;
手のひら同士で手を擦る;
(連結器のように)連結させた
指で指の後ろを反対の手のひら
に当てる;
水で手をすすぐ:
その手は安全です。
2.
手指衛生の方法
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 手のひら一杯の擦式アルコール製剤を取り、
手全体に塗る。乾燥するまで擦る(ⅠB)
(165,166)手指擦式の方法は図 II.1 で示されて
います。
B. 石けんと流水で手を洗う時は、水で手をぬら
し、全ての表面を覆うために必要な石けんの
量を用いる。流水ですすぎ、単回使用のタオ
ルで完全に乾燥させる。可能ならいつでも。
清潔な水道を使う。頻回に温水を使うと皮膚
炎のリスクが増加するので、温水を使うこと
は避ける。(ⅠB)(167-169)止水栓/コックを
閉めるためにタオルを使う。(ⅠB)(170-174)
手を再汚染しない方法で手を完全に乾燥させ
る。タオルが複数回あるいは多人数に使われ
ないことを保証する(ⅠB)(175-178) 手洗
い方法は図 II.2 に示されています。
C. 石けんの形態として液体、固形、薄紙あるい
は粉末が使用できます。固形石けんを使うと
き、石けんを乾燥させるために、排水できる
石けん入れに入れた小型の固形石けんを使う。
(179-185)
3.
手術時手洗いのための勧告
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 手術時手洗いを始める前に、指輪、腕時計と
腕輪はずす。(Ⅱ)(186-190) 付け爪は禁止
(ⅠB)(191-195)
B. シンクは水はねの危険を減らすように設計さ
れる(Ⅱ)(196,197)
C. もし手が目で見て汚れていれば、手術時手洗
いの前に普通の石けんで手を洗う(Ⅱ) 可
能なら流水の下で、ネイル・クリーナーを使
って爪床下からクズを除去する(Ⅱ)(198)
G. 消毒スクラブ剤を使って手術時手指消毒を行
う時は、メーカーによって勧告された長さ(一
般には2~5分)手と前腕をスクラブする。
長いスクラブ時間(例えば 10 分)は必要ない
(ⅠB)(200,211,213-219)
H. 残留効果のある手術用擦式アルコール製剤を
使う時は、適応時間についてはメーカーの指
示に従う。製品は乾燥した手にだけに使用す
る(ⅠB)(220,221)
手術時手指スクラブ剤
と擦式アルコール製剤による手術時手指擦式
を連続して一緒に行わない。(Ⅱ)
(163)
D. 手術時手洗いにブラシは勧められない。
(ⅠB)
I.
(199-205)
E. 滅菌手袋を着用する前に、できるなら残留効
果のある適切な消毒スクラブ剤あるいは適切
な擦式アルコール製剤を使って手術時手指消
毒を行う。
(ⅠB)(58,204,206-211)
F. もし手術室の水質が確認されていなければ、
手術を行う時、滅菌ガウンを着用する前に擦
式アルコール製剤を使った手術時手指消毒が
勧められる。
(Ⅱ)(204,206,208)
15
J.
擦式アルコール製剤を使う時は、手術時手指
準備行為の全体に渡って、手指擦式剤を使っ
て手と前腕が濡れたままとなるように十分な
量の製品を使う。(ⅠB)(222-224) 擦式ア
ルコール製剤を使っての手術時手指準備の方
法は、図 II.3 で示されます。
推奨される擦式アルコール製剤を使用した後、
滅菌手袋を着用する前に手と前腕を完全に乾
燥させる。
(ⅠB)(204,208)
4.
手指衛生製品の選択と取り扱い
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 医療従事者に手荒れを起こしにくい効果的な
手指衛生製品を提供する。
(ⅠB)
(146,171,225-231)
B. 医療従事者に手指衛生製品の受け入れを最大
とするため、考慮される全ての製品の皮膚許
容性、感触や香りに関して彼らの感想を求め
る。
(ⅠB)(79,145,146,228,232-236) この
過程では、比較評価が非常に有効であるかも
しれません。(227,232,233,237)
切に信頼性を持って供給することを保証
する(Ⅱ)
;(75,243)
(e) 擦式アルコール製剤のディスペンサーシ
ステムが可燃性物質に認可されているこ
とを保証する(ⅠC)
;
(f) ハンドローション、クリーム、あるいは
擦式アルコール製剤が組織で使用されて
いる消毒スクラブ剤の効果におよぼす全
ての影響に関してメーカーから情報を求
め評価する。
(ⅠB)(238, 244,245)
(g) 効果、皮膚許容性や職員の受け入れの条
件を満たした製品に対してのみ、価格比
較を行う。
(Ⅱ)(236,246)
C. 手指衛生製品を選ぶ時:
(a) 手をきれいにするために使用された製品、
スキンケア製品と施設で使用された手袋
D. 一部が空になった石けんディスペンサーに石
の種類との間の全ての分かっている相互
けん(ⅠA)や擦式アルコール製剤製品(Ⅱ)
作用を決定する。(238,239)
を継ぎ足さない。
(b) 製品汚染のリスクについてメーカーから
E. もし石けんディスペンサーが再利用されるな
情報を求める。(57,240,241)
らば、洗浄のための勧告手順に従う。
(c) ケアの現場でディスペンサーが利用でき
(247,248)
ることを確認する(ⅠB)
;(95,242)
(d) ディスペンサーが、製品の適切な量を適
5.
スキンケア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 医療従事者のための教育プログラムに、刺激
性接触性皮膚炎とその他の皮膚障害のリスク
を減らすよう企画されたハンドケア実施に関
する情報を入れる。(249,250)
B. 医療施設で使用されている標準的な製品に対
してアレルギーあるいは副作用がはっきりし
ている医療従事者には、代りの手指衛生製品
を提供する。
(Ⅱ)
C. 手指消毒あるいは手洗いに関係して刺激性接
触性皮膚炎の発生を最小限とするため、医療
従事者にハンドローションかクリームを提供
する。(ⅠA)(228,229,250-253)
16
D. 擦式アルコール製剤が医療施設での衛生学的
手指消毒に利用可能である時、消毒スクラブ
剤の使用は勧告されない。
(Ⅱ)
E. 石けんと擦式アルコール製剤は併用しない。
(Ⅱ)(163)
6.
手袋の使用
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 手指衛生のために、手袋の使用は、いかなる
手指擦式あるいは手洗いに取って代わるもの
ではない(ⅠB)(53,159-161,254-256)
B. 血液あるいはその他の感染性のある物質、粘
膜あるいは正常でない皮膚に触れる理由のあ
る可能性がある時は、手袋を着用する。
(ⅠC)
(257-259)
C. 患者のケアの後は手袋を脱ぐ。1 人以上のケア
に 同 じ 一 双 の 手 袋 を 着 け な い 。( Ⅰ B )
(51,53,159-161,260,261)
D. 手袋を着けている時、同じ患者あるいは環境
の中で、汚染した身体の部位から他のもう 1
つの部位(正常でない皮膚、粘膜あるいは医
療器具を含む)に移動するなら、患者ケア中
に手袋を交換するか脱ぐ。
(Ⅱ)(52,159,160)
E. 手袋の再利用は勧められない(ⅠB)(262)
手袋を再利用する場合、最も安全な再処理方
法を実施する。
(Ⅱ)(263)
未滅菌と滅菌手袋の着脱技術は図 II.4 及び II.5
に示してあります。
7.
手指衛生のその他の局面
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 患者に直接接触する時は人工爪つまりエクス
テンダーは着けない。
(ⅠA)
(56,191,195,264-266)
B. 自然爪は短くする(先から 0.5mmより短く、
つまりおおよそ 1/4 インチ)。
(Ⅱ)(264)
8.
医療従事者のための教育とモチベーション・プログラム
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A. 医療従事者向けの手指衛生推進プログラムで
は、行動に重要な影響を与えることが現在分
かっている要因に特に焦点を当てますが、手
指衛生の製品のタイプにのみに注目すること
はしない。戦略は、多面的で、多様的で、実
行に対する教育と上級管理者のサポートを含
めます。
(ⅠA)
(64,75,89,100,111,113,119,166,267-277)
C. 推奨された手指衛生実施への医療従事者の順
守を監視し、彼らにパフォーマンス・フィー
ドバックを提供する。
(ⅠA)
(62,75,79,81,83,85,89,99,100,111,125,276
)
B. 医療従事者に、手指汚染をもたらす患者ケア
活動のタイプについてと、手をきれいにする
ために使用される様々な方法の利点と欠点に
D. 医療施設内で、手指衛生を推進するために患
者、家族と医療従事者間の協力を奨励する。
(Ⅱ)(279-281)
17
ついて教育する。(Ⅱ)
(75,81,83,85,111,125,126,166,276-278)
9.
政府と施設の責任
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
9.1 医療施設管理者のために
9.2 政府のために
A. 管理者が、多面的多様的な手指衛生戦略の推
進につながる状況と、以下のポイントB-Ⅰ
の実行による患者安全文化を推進するアプロ
ーチを保証することが肝要です。
A. 手指衛生順守を国家の最優先事項とし、監視
と長期の継続可能性を確実にしながら、資金
供給され、よく協調された実行プログラムの
提供を考慮する。(Ⅱ)(292-295)
B. 医療従事者に、手洗いを実行するために、全
ての蛇口に安全で持続的な水の供給と、必要
な設備の利用を提供する。
(ⅠB)
(276,282,283)
B. 医療施設内の感染管理能力の強化を援助する。
(Ⅱ)(290,296,297)
C. 地域レベルで、自己防御と他人の防御の両方
を強化するために手指衛生を推進する。(Ⅱ)
(71,138-140,298-300)
C. 医療従事者に患者ケアの場所で擦式アルコー
ル製剤が直ちに利用できるようにする。
(ⅠA)
(75,82,94,95,284-288)
D. 医療施設が、医療の質インジケーターとして
手指衛生を利用するよう奨励する(オースト
D. 改善された手指衛生順守(コンプライアンス)
ラリア、ベルギー、フランス、スコットラン
を施設の最優先事項とし、適切なリーダーシ
ド、米国)。
(Ⅱ)(278,301)
ップ、管理者サポート、経済的資源と手指衛
生、感染予防と活動の管理に対するサポート
を提供する。
(ⅠB)(75,111,113,119,289)
E. 医療従事者が、手指衛生のセッションを含む
感染管理トレーニングのための専用の時間を
持つことを保証する。
(Ⅱ)(270,290)
F. 推奨された手指衛生実施への医療従事者の順
守を改善するよう企画された学際的で多面的
で 多 様 な プロ グ ラ ム を実 行 す る。( Ⅰ B )
(75,119,129)
G. 手指衛生に関して、上水道が物理的に医療施
設内で排水と下水道から分離していることを
確認し、日常的なシステム監視と管理を行う。
(ⅠB)(291)
H. 手指衛生とその他の感染予防と管理活動に対
して強いリーダーシップと支援を提供する。
(Ⅱ)(119)
I. 擦式アルコール製剤の生産と保管は、国の安
全ガイドラインと地方の法的要求事項に従う。
(Ⅱ)
18
図 II.3
擦式アルコール製剤製品による手術時手洗い
手術時手洗いのための手指擦式は、完全にきれいで乾燥した手で行われなければなりません。
手術棟に到着し、手術棟衣(縁なし帽子(キャップ)/縁あり帽子/婦人用帽子とマスク)を着た後、石けん
と流水で手を洗う。手術後手袋を脱ぐとき、もしタルクの残りやあらゆる生物学的液体(例えば、手袋
が穿孔している)があるなら、手を擦式アルコール製剤で手を擦式するか、石けんと流水で洗う。
もし手術時手洗いのために手指擦式技法が次のように行なわれれば(1~17の画像)
、手を洗う必要な
く手術は次々に遂行できる。
右腕の肘でディスペンサーを操作し、 爪下を浄化するために手指
おおよそ5mL(3回分)の
擦式剤に右手の指先を浸す
擦式アルコール製剤を
(5秒間)。
左の手のひらに取る。
画像3の説明を参照
画像3の説明を参照
19
画像3の説明を参照
左腕の肘でディスペンサーを
操作して、おおよそ5mL
(3回分)の擦式アルコール製剤
を右の手のひらに取る。
画像 3-7;手指擦式剤を右前腕に
肘まで塗りつける。手指擦式剤が
完全に蒸発するまで(10-15 秒)、
前腕の周りを回転の動きで全ての
皮膚が覆われることを確認する。
画像3の説明を参照
爪下を浄化するために
擦式アルコール製剤に
左手の指先を浸す(5秒間)
図 II.3
擦式アルコール製剤製品による手術時手指準備(続き)
手指擦式剤を左前腕に肘まで
塗りつける。手指擦式剤が
完全に蒸発するまで(10-15 秒)、
前腕の周りを回転の動きで
全ての皮膚が覆われることを
確認する。
擦式アルコール製剤で
回転の動きで手のひら同士を
擦ることで、手首までの手指
の全表面を覆う。
横向きの前後運動で、他の
ひらの中に指を保持して
指の後ろを擦る。
右腕の肘でディスペンサーを操作して、
おおよそ5mL(3回分)の擦式アル
コール製剤を左の手のひらに取る。
手首まで同時に両手を擦り、画像 12-17
で示される全てのステップが続いて
行われることを確認する(20-30 秒)。
右手のひらを前後に動かして
手首を含めて左手背を擦る。
そして逆も同様に。
指を組み合わせて、手の
ひら同士を合わせて
前後に擦る。
右手のひらでぐっと左手の親指を
握って回転させて擦る。
逆も同様に。
手が乾燥したら、滅菌手術手の
ガウンと手袋を着用する。
メーカーによって推奨された総時間に一致した時間、擦式アルコール製剤で手術
時手指準備のため上記に図示された順番を繰り返す(平均時間は 60 秒)
20
図Ⅱ.4
未滅菌手袋の着脱法
手袋着用が必要な接触の前の手指衛生の実施時、擦式アルコール製剤あるいは石
けんと流水で手指衛生を行う。
Ⅰ.手袋の着用法
1.手袋を元の箱から取り出す。
2.手首にあたる手袋の
限定した表面だけに触
れる(袖口の端先)
4.素手で 2 番目の手袋を取り、
手首に当たる手袋の限定した
表面だけを触る。
3.最初の手袋を着ける。
5.手袋をはめた手で前腕の皮膚を
触れることを避けるため、
手袋を着けた手の曲げた指で
着用した手袋の外の表面を
ひっくり返す、このように
2 番目の手に手袋も着ける。
6.いったん手袋を着ければ、
手袋使用のための適応や状況で
ない全ての他に触れてはなり
ません。
Ⅱ.手袋の脱ぎ方
1. 前腕の皮膚に触れないで、脱ぐ
ために手首のところで1つの手袋を
摘み、裏返しになるよう手袋を
手から剥がします。
2.手袋をした手で脱いだ手袋を
保持し、手袋をしていない手の
指を手袋と手首の間の中側に
滑り込ませる。2番目の手袋を
手からまき下ろして脱ぎ、
最初の手袋を畳み込む。
3.脱いだ手袋を捨てる。
4.そこで、擦式アルコール製剤あるいは石けんと流水で手指衛生を行う。
21
図 II.5
滅菌済み手袋の着脱法
この技術の目的は、患者のために最大の無菌状態を保証し、患者の体液(複数)から医療従事者を守る
ことです。この目的を達成するため、医療従事者の皮膚は、手袋の内側とのみ接触を保ち、外側とは接
触しません。この技術の遂行のどんな間違いも、手袋の交換を必要とする無菌状態の破たんとなります。
Ⅰ.滅菌済み手袋の着用法
1.
2.
「無菌操作」の前に擦式アルコール製剤あるいは手洗いで、手指衛生を行う。
破損がないか包装を調べる。下の2重になっている滅菌包装に触れないようにして、それを出す
ために最初の未滅菌の包装のヒートシールを完全に剥がし包装を開ける。
3. 2 重の滅菌包装に触れないで、きれいな乾燥した表面の上に置く。包装を開け、紙の折り畳みを開
けて、開いたままにするため、下の方に折る。
4. 片手の親指と人差し指を使って、手袋の袖の端を慎重につかむ。
5. 1 回の動きで手首のレベルに折り畳まれた袖を持ってくるように手袋の中に片手を滑り込ませる。
6-7.手袋をした手の指を手袋の袖の下に滑り込ませることで、2 番目の手袋を取り上げる。
8-10.1 回の動きで、着用した手袋以外の表面に手袋をした手を触れたり/休ませたりしないで、2 番目
の手袋に手袋をしていない手を入れる(触れたり/休ませたりは、無菌状態の破たんとなり、手袋交
換が必要となる)。
11.必要なら、両方の手袋をした後、手袋が完全にフィットするまで、指と指の間を調節する。
12-13.手袋の外側以外の表面に触れないようにして、最初の手袋をした手の袖を、もう片方の指をや
さしく折り目の中に入れて返しを開く。
14.手袋を着けた手は、滅菌器具あるいはあらかじめ消毒された患者の身体にのみ触れます。
22
図 II.5
滅菌済み手袋の着脱法(続き)
Ⅱ.滅菌済み手袋の脱ぎ方
15-17. 反対の手の指で最初の手袋を剥ぐように脱ぐ。
2 番目の指の関節まで裏返して手袋を脱ぐ(完全に脱いでしまわない)
。
18.
部分的に脱いだ手の指の外縁にもう一方の手袋を向けてその手袋を脱ぐ。
19.
医療従事者の皮膚がいつも手袋の内側だけに触れていることを確認して、手袋を完全に裏
返しにして脱ぐ。
20. 手袋を捨てる。
21. 推奨された適応に従って、手袋を脱いだ後手指衛生を実施する。
注意:手術時の手術用滅菌済み手袋の着用は、以下を除き同じ順番で行われます;
* 手術時手指準備が先行されます:
* 手袋着用は手術用滅菌ガウンを着た後に行います;
* 最初の包装(未滅菌)の開封は助手が行います;
* 2 番目の包装(滅菌)は手術に使われた以外の滅菌状態の表面の上に置かれます;
* 手袋は滅菌ガウンの手首まで覆います。
23
24
第Ⅲ部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガイドラインの実施
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
25
1.
WHO実施戦略とツール
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
WHO 多様性手指衛生推進戦略と広い範囲のツ
ールが、勧告をベッドサイドでの実行に落とし込
むために、ガイドラインと並行して開発されまし
た(ガイドライン第 I.21.1 部を参照)。
実施戦略は、実施科学、行動変移、拡張方法論、
技術革新と影響評価の普及についての文献によっ
て知らされました。
ガイドラインと共に、戦略とツールは6つの
WHO 地域内の8つのパイロット施設とその他の
世界中の施設でテストされました(ガイドライン
第 I.21.5 部参照)。
多様性戦略は、並行して実施される5つの構成要
素からなります;
実施戦略自体は、厳守を危険にさらすことなく適
応できるよう設計され、手指衛生実行が着手され
なければならない施設だけでなく、手指衛生が実
行されている施設の内部においても同様に使用さ
れることを意図しています。
5つの必須要素は、(実施ガイドの第二部参照
(http://www.who.int/gpsc/5may/Guide_to_Imple
mentation.pdf)):
1.
2.
組織変革;必要なインフラストラクチャーが
医療従事者が手指衛生を実行するために設置
されていることを保証する。これは 2 つの必
須要素を含んでいます:

石けんとタオルと同じように、安全で持続
的な上水道の利用;

ケアの場所で、直ちに利用できる擦式アル
コール製剤
トレーニング/教育:「私の手指衛生の5つの
瞬間」アプローチと全ての医療従事者に対す
る正しい手指擦式と手洗いに基づいた手指衛
生の定期的な実施訓練の提供。
3.
評価とフィードバック:パフォーマンスと結
果フィードバックをスタッフに提供しながら、
医療従事者間の関係する認識と知識と共に、
手指衛生実施とインフラストラクチャーの監
視。
4.
作業場でのリマインダー:医療従事者に手指
衛生の重要性と、それを行うための適切な適
応と手順について刺激し思い出させる。
5.
組織的な安全風土:以下を含めて、全てのレ
ベルで手指衛生実施の考えが高度優先である
ことを保証しながら、患者安全の問題につい
て認識を高めることを容易にする環境と見識
を作ること;

施設と個人の両方のレベルで積極的に参
加;

変革し改善するという(自己効力感)個人
26

と施設の能力の認識;そして
患者および患者組織との協調(文化的問題
および利用できる資源に依存;ガイドライ
ンの第Ⅴ部を参照)
。
「私の手指衛生の5つの瞬間」の革新的アプロー
チが、ケアの現場での勧告の実施の中核をなしま
す。(ガイドラインの第 21.4 部と手指衛生テクニ
カル・リファレンス・マニュアルの第 II.1 部を参
照
http://www.who.int/gpsc/5may/tools/training_ed
ucation/en/index.html) (302)(図 III.1)。
科学的エビデンスを考慮して、この概念は医療に
おける手指衛生の WHO ガイドライン(ガイドラ
インの第Ⅱ部参照)により勧告された手指衛生の
適応を、手指衛生が必要とされる5つの瞬間に融
合させます。このアプローチは、統合した考え方
を医療従事者、トレーナーや観察者に提案し、個
人間差異を最小限にし、効果的な手指衛生実施へ
の順守の世界的増加を可能とします。
この概念によると、医療従事者は、(1)患者の触
れる前、(2)清潔/無菌操作前、(3)体液に触れた/可
能性の後、(4)患者に触れた後、(5)患者の周りを触
れた後、手を清潔にすることを求められます。
この概念が、医療施設において手指衛生を教育、
監視、まとめ、フィードバックと促進を行うため
の様々な WHO のツールに統合されてきました。
テストから学ばれたデータと教訓が、先進的な
ガイドライン草稿の内容をレビューするために決
定的に重要でした。手指衛生順守の重要な増加が
全てのパイロットサイトで観察されました。
さらに、医療従事者の医療関連感染の重要性と
その予防についての認識が、手の伝播と手指衛生
実施についての知識と同様に観察されました。
さらに、WHO が推奨する擦式アルコール製剤が
商業的に利用できない施設において、これらの製
剤がその場所で生産されることを含めて、手指衛
生のための施設と設備の改善を伴う相当の組織変
革が成し遂げられました(ガイドラインの第
I.12.5 と I.21.5 部を参照)
。
テストの主な結果によると、戦略とその核となる
構成要素は、非常に成功したモデル、異なる状況
での手指衛生の改善のキー、およびその他の感染
管理介入のために使用されるためにも適切である
と確認されました。
ガイドライン勧告の妥当性も同様に十分確認され
ました。
さらに、しかるべき時には、ユーザーと学ばれた
教訓からのコメントが、一連の実施ツールの修正
と改善を可能としました。
WHO 多様性手指衛生改善戦略と実施ツールキ
ットの日本語最終バージョンが、
http://www.muikamachi-hp.muika.niigata.jp/ac
ademic/WHO_CCiSC_chart.html
で入手可能です。
その実際的な実施を容易にするため、ツールキ
ットは各々の戦略構成要素と一致している様々な
範囲のツールを含んでいます(付録3を参照)
。
実施案内日本語訳
(http://www.muikamachi-hp.muika.niigata.jp/a
cademic/GuidetoImplementationJP.pdf) は、
WHO 医療施設における手指衛生ガイドラインに
従って、手指衛生の改善の実行を医療施設が行う
ことを助けるために開発されました。
第Ⅱ部で、ガイドは詳細に渡って戦略構成要素を
説明し、それぞれのツールの目的と有用性を述べ
ています;第Ⅲ部で、それは実行に必要な資源を
示し、ひな形の行動計画を提供し、医療施設レベ
ルでの実際的な実施のための段階的なアプローチ
を提案しています。
特に手衛生改善プログラムがゼロから着手され
なければならない施設では、以下が必要不可欠な
ステップです(実行ガイドの第Ⅲ部参照)
。
ステップ1:施設準備 - 行動の準備
ステップ2:ベースライン評価 - 現在の状況
の確証
ステップ3:実施 - 実施活動の導入
ステップ4:追跡的評価 - 実施影響の評価
ステップ5:行動計画とレビューサイクル -
次の5年(最小限)の計画を開発
WHO 多様性手指衛生改善戦略、
「私の手指衛生
の5つの瞬間」と5段階アプローチは図 III.1 に
示されています。
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生ガ
イドライン 2009」の第 I.21 部でより広範に論議
されています。
図 III.1
WHO 多様性手指衛生改善戦略の5つの構成要素
1a. 組織変革
医療における手指衛生の5つの瞬間
-
ケアの現場での擦式アルコール製剤
+
1b. 組織変革
-
安全な継続的な上水道、
石けんとタオルの利便
+
2. トレーニングと教育
+
3. 評価とフィードバック
+
4. 現場でのリマインダー
+
5. 組織安全風土
段階的アプローチ
施設の備え
覚悟
27
ベースライン
の評価
実施
追跡的評価
レビューと企画
2.
適切な手指衛生に必要とされるインフラストラクチャー
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
順守がなされていない重要な原因として、消耗
ンクに設置されることが勧められます。壁取り付
品の不十分な調達と補充に繋がる劣悪な物流シス
け手指擦式剤ディスペンサーは、ケアの現場の手
テムと同様に、ユーザーフレンドリーな手指衛生
指衛生を促進する場所に設置します。手指擦式剤
設備の欠如も挙げられるかもしれません。
の噴出は、全ての汚れた手でのディスペンサー接
触を避けるために「ノンタッチ」方式でできるよ
全ての施設で常時機能する上水道がないかもし
うにします(例えば、
「肘ディスペンサー」つまり
れませんが、水道(理想的は飲用可能)が手洗い
手首で使用できるポンプ)。(304) 概して、いく
に適しています(ガイドラインの第 I.11.1 部参照)
。 つかのシステムは問題を改良する努力にもかかわ
これが利用できない施設では、蛇口の付いた容器
らず、いつも機能不全の状態であるため、最終的
からの「流れている」水の方が、洗面器に入った
に医療施設に導入されるディスペンサーのデザイ
「たまり」水よりは好ましいのです。水道が利用
ンと機能は、事前に十分に評価されるべきです。
可能なら、汚い手で蛇口を触れることなく利用で
(243) 壁取り付けディスペンサーの差違は、ポン
きる方が良いです。医療施設では手感知センサー、 プを備える容器の配置を決めるホルダーとフレー
あるいは肘か足踏み式駆動蛇口が、適切な基準と
ムです。ポンプはふたの代わりに容器の上へねじ
考えられます。
入れられます。このディスペンサーシステムが最
しかしこれらの利用可能性は、特に資源に限りの
も低コストとなりえます。
ある施設では、高度優先としては考えられており
ポンプのついた容器は、またどんな水平面(例え
ません。これらの使用のための推奨はエビデンス
ば、カート/台車あるいは消灯台/ベッドサイド・テ
に基づいていないことに注意すべきです。
ーブル)にも簡単に置けられます。
手洗いシンクは、ケアの現場に可能な限り近く
にあるべきであり、WHO の最小要求に基づいて、
相対的な手洗いシンク対病床数は 1:10 であるべ
きです。(303)
手指衛生製品(石けんと手指擦式剤)の配置は、
「私の手指衛生の5つの瞬間」の概念に基づき、
手指衛生を推進するために調整されるべきです。
多くの施設で、壁取り付けやケアの現場での使
用のためのように、様々なディスペンサーの形式
が、最大の順守を達成するために組み合わされる
べきです。壁取り付け石けんディスペンサーは、
手頃なら、患者あるいは検査室の全ての手洗いシ
個人用の携帯ディスペンサー(例えば、ポケッ
ト瓶)は、もし壁取り付けディスペンサーを避け
たい、あるいは導入できないユニットで「ケアの
現場」での利用と使用しやすさを増やすために、
壁取り付けディスペンサーと一緒に使用できれば、
理想的です。
これらのシステムの多くは使い捨てとして使用さ
れるので、環境への配慮もまた考慮されるべきで
す。
これらの概念は、
「WHO 医療における手指衛生ガ
イドライン 2009」の第 I.23.5 部でより広範に論議
されています。
3.
手指衛生、特に擦式アルコール製剤使用に関するその他の問題
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
3.1 手指衛生実施のための方法と製品選択
* 全く特別なインフラストラクチャーを必要とし
ない(きれいな上水道ネットワーク、洗面器、石
ⅠB勧告に従って、擦式アルコール製剤が利用
けん、タオル)。
できるときには、医療において日常的手指衛生の
ために好ましい手段として使用される。
手が目で見て汚れているあるいは、血液やその他
の体液が付いている時、芽胞形成有機体に曝露し
擦式アルコール製剤は以下に示される直接的な利
た可能性が著しく高い時、あるいはトイレを使用
点があります(ガイドライン第 I.11.3 部参照)
;
した後は、石けんと流水で手を洗う必要がある。
(勧告 ⅠAとⅠB)
日常的手指衛生勧告を遂行するために、医療従事
* (ウイルスを含む)ほとんどの病原体を除去;
者はケアが提供される時と場所で理想的に手指衛
* 作用に短時間しか必要としない(20~30 秒);
生を実施すべきで、このことはケアの現場で適切
* 「ケアの現場」で製品を利用できる;
な瞬間に、勧告された技術と時間に従うことを意
* 皮膚によく耐えられる(ガイドライン第 I.14 部
味します(この要約の第 III.1 部と図 III.1 を参照)
。
参照);
28
表 III.1
手指衛生に使用される生体消毒剤の抗微生物活性と特性の要約
グラム グラム エンベロープの エンベロープの
生体消毒剤
陽性菌 陰性菌
あるウイルス
ないウイルス
アルコール類
+++
+++
+++
++
クロロキシレノール
+++
+
+
±
クロルヘキシジン
+++
++
++
+
ヘキサクロロフェン a +++
+
?
?
ヨードフォア
+++
+++
++
++
トロリクロサン d
+++
++
?
?
4 級アンモニウム化 ++
+
+
?
合物 c
生体消毒剤
アルコール類
クロロキシレノール
クロルヘキシジン
ヘキサクロロフェン a
ヨードフォア
トリクロサン d
4 級アンモニウム化
合物 c
典型的な濃度 %
作用速度
60-80 %
Fast
0.5-4 %
Slow
0.5-4%
Intermediate
3%
Slow
0.5-10 %)
Intermediate
(0.1-2%)
Intermediate
Slow
抗酸菌
+++
+
+
+
++
±
±
真菌
+++
+
+
+
++
±e
±
芽胞
±b
-
残留効果
No
相反する
Yes
Yes
相反する
Yes
No
使用
HR
HW
HR,HW
HW,しかし推奨されない
HW
HW; seldom
HR,HW;
Seldom;
+alcohols
Good = +++, moderate = ++, poor = +, variable = ±, none = - HR: 手指擦式(handrubbing);
HW: 手洗い(handwashing) *活性は濃度で変わる。 a 静菌性
b 生体消毒として使用される濃度ではヨードフォアは殺芽胞性ではない。
c 静菌性、静真菌性、高濃度で殺菌性 d ほとんど静菌性 e カンジダ属に活性があるが、糸状真菌に対して
は活性がない。(訳者注:filementous は filamentous の誤りと思われる)
出典: 2007 年 Pittet, Allegranzi と Sax からの許可を得て(362)
これはしばしばアルコール製剤を使用するよう
要求します。
し、効果的な殺微生物活性を持っていると通常考
えられています。(305,306)
手指衛生は、普通石けんあるいは消毒剤を含ん
だ製品を使うことで実行できます。
後者は、微生物を不活化あるいは様々な活性スペ
クトルで微生物の成長を抑制する特性を持ってい
ます;例として、アルコール類、クロルヘキシジ
ン・グルコン酸塩、塩素化合物、ヨウ素、クロロ
キシレノール、4 級アンモニウム化合物とトリク
ロサン(表 III.1)
。
最善の抗微生物効果のある擦式アルコール製剤
は通常、75~85%のエタノール、イソプロパノー
ルあるいは n-プロパノール、またはこれらの製剤
の混合を含んでいます。
(訳者注:イソプロパノー
ル (isopropanol,2-propanol) も n-propanol(ノル
マルプロピルアルコール,1-propanol)も分子式は
C3H8O であるが、示性式では isopropanol は
CH3CH(OH)CH3、n-propanol は
CH3CH3CH(OH)で表される。ともに第 2 級アル
コールの 1 種。プロパノールはこの2種類の構造
異性体がある。
)
普通石けん、消毒スクラブ剤と擦式アルコール
製剤の生体での効果を扱った検査室研究の結果を
比較することは、様々な理由で問題かもしれませ
んが、擦式アルコール製剤が消毒スクラブ剤より
効果的であり、消毒スクラブ剤は通常、普通石け
んより効果があることが示されてきました。しか
し、社会環境で行われた様々な研究で、薬の入っ
た石けんと普通石けんは、微生物の広がりを防ぐ
ことと、子どもの消化管と上気道感染あるいは「と
びひ」の減少において、大体同等であることが示
されました。(72,139,305) 擦式アルコール製剤が
利用できる医療施設では、普通石けんは適切な時
に手洗いを実行するために提供されるべきです。
60~80%アルコールを含んでいるアルコール
溶液は、90%以上の濃度では効き目が劣るのに対
29
WHO 推奨製剤は、75% v/v イソプロパノール
か 80% v/v エタノールを含んでいます。
これらは施設レベルで、現場調剤のために確認さ
れ、検査され、保証されます。
利用可能なデータによると、現地生産が現実的で
あり、製品は手指消毒に有効で、医療従事者の受
容性とともに良好な皮膚許容性があり、低価格で
す(ガイドラインの第 I.12 部と現場調剤ガイドを
参照:WHO推奨手指擦式製剤
http://www.muikamachi-hp.muika.niigata.jp/acad
emic/GuidetoLocalProduction_JP.pdf)。
市場から入手可能な手指衛生製品の選定は以下の
基準に基づくべきです(ガイドラインの第 I.15.2 部
と擦式アルコール製剤参照:計画と原価計算ツー
ル
http://www.muikamachi-hp.muika.niigata.jp/ac
ademic/Alcohol_based_Planning_and_Costing_T
ool_JP.pdf):
ASTM と EN 基準による消毒剤の相対的効果
(ガイドラインの第 I.10 部参照)と手指消毒
と手術時手洗いのための製品の選択のための
配慮:(訳者注:ASTM:米国材料試験協会
(American Society for Testing and
Materials)、EN:ヨーロッパ規格(European
Norm))
皮膚許容性と皮膚反応;
乾燥に要する時間(製品が違えば乾燥時間も
違うと考える;より長い乾燥時間を要する製
品は手指衛生のベストプラクティスに影響す
るかもしれない);
コスト問題;
香り、色、手触り、
「べたつき」と使いやすさ
のような、医療従事者と患者の美的な好み;
ディスペンサーの可用性、利便性と機能、お
よび汚染防止機能;
上記要因を配慮した後、施設レベルで医療従
事者による選択の自由。







手指衛生行動は、手の皮膚に切創がなく、自然
の爪で短く、マニキュアを塗っておらず、そして
手と前腕に宝石類がついてなく素手のままの状態
の時により効果的です (ガイドライン第 I.23.3-4
部と手指衛生テクニカル・リファレンス・マニュ
アル第Ⅳ部
http://www.muikamachi-hp.muika.niigata.jp/ac
ademic/TechnicalmanyualJP.pdf を参照)。
3.2
手指衛生と関係する皮膚反応
患者ケア中に頻回の手指衛生が必要なため、医
療従事者の手に皮膚反応が現れるかもしれません
(ガイドラインの第 I.14 部参照)
。手指衛生に関
連している皮膚反応には大きく 2 つのタイプがあ
ります。最初の最も頻回に見られるタイプは、刺
激性接触皮膚炎で、乾燥して刺激性で、かゆく、
いくらかの症例では、ひび割れて出血すらします。
2番目のタイプの皮膚反応は、アレルギー性接触
性皮膚炎で、稀に手指衛生製品の中の何らかの成
分にアレルギー示します。アレルギー性接触性皮
膚炎の徴候もまた、穏やかで局所限定から重度で
全身的なものまで区分できます。最も深刻な状態
では、アレルギー性接触性皮膚炎は呼吸窮迫やそ
の他のアナフィラキシーの兆候を伴うかもしれま
せん。手指衛生に関連した皮膚反応や訴えをもつ
医療従事者は、適切な対応サービスに相談できる
システムが必要です。
概して、刺激性接触性皮膚炎はより一般的にヨ
ードフォアで報告されています。(171) 刺激性接
触皮膚炎を起こすその他の消毒剤として、頻度の
多い順で、クロルヘキシジン、クロロキシレノー
ル、トリクロサンとアルコール製剤があります(ガ
イドラインの第 I.11 部参照)。
(訳者注:イソジン、ヒビテン、クロロキシレノール(別
30
名パラクロロメタキシレノール(PCMX)で日本では主成分
とする消毒剤はない)、トリクロサン(日本では保存剤として
しか使用されない)、アルコール成分のみの製品の順に手荒れ
が少ないとしている。しかし最も多く使われている4級アン
モニウム化合物のベンザルコニウム塩化物についての評価が
ないのはどういうわけだろうか?あと、日本で興味を持たれ
ている問題はアルコール製剤の多くの擦式アルコール製剤で
の比較であるはずだが、それの解決にはならないなぁ)
しかし、アルコール製剤品が他の手指衛生製品
よりよく許容され、受け入れと許容に関係してい
ることを示す非常に多くの報告があります。
(149,230,237,308-313)
4級アンモニウム化合物、ヨウ素つまりヨード
フォア、クロルヘキシジン、トリクロサン、クロ
ロキシレノールとアルコール類を含む消毒剤に対
するアレルギー反応(132,314-323)は、製品の皮
膚吸収に関する毒性の可能性(233,324)と同じよ
うに報告されています。擦式アルコール製剤に起
因するアレルギー性接触性皮膚炎は極めて稀です。
傷ついた炎症を起こした皮膚は、不快の原因と
さらに専門家としての作業ができないのみならず、
傷ついた皮膚の手は患者へ感染を伝播させるリス
クを増加させるという事実のため、好ましくあり
ません。
効果的でかつ皮膚にできるだけやさしい製品を
選択することが非常に重要です。
例えば、アルコールの乾燥効果についての懸念
が、病院で擦式アルコール製剤の受け入れが悪い
主な原因でした。(325,326) 多くの病院が医療従
事者に皮膚炎発生を最少とする希望を持って普通
石けんを提供していましたが、このような製品の
頻回使用も、いくつかの消毒剤調合液より、さら
に大きな皮膚損傷、乾燥と刺激に関係していまし
た。(171,226,231) 刺激性の石けんや洗浄剤への
医療従事者の被曝を減らす 1 つの戦略が、湿潤剤
を含む擦式アルコール製剤の使用を推進すること
です。このような製品が医療従事者によりよく許
容され、普通石けんや消毒スクラブ剤と比較した
時によりよい皮膚の状態と関係していることをい
くつかの研究が示しています。
(75,95,97,146,226,231,327-329) 擦ることで、手
指消毒に必要な時間がより短くなり、許容性と順
守率が増加するかもしれません。(285)
手指衛生における副作用の可能性を最小にする方
法には、刺激性の少ない製品の選択、皮膚保湿剤
の使用や不必要な手洗いのようなある種の手指衛
生行為を修正することが含まれます(勧告 5A-E
と手指衛生テクニカル・リファレンス・マニュア
ルの第Ⅴ部
http://www.muikamachi-hp.muika.niigata.jp/ac
ademic/TechnicalmanyualJP.pdf を参照)。
ある行為が皮膚炎のリスクを増やしたら、その
行為を避けるべきです。例えば、アルコール製剤
を使った前後に直ちに石けんと流水の手洗いを行
うことは、不必要なだけでなく皮膚炎を引き起こ
します。(163) 手洗いに熱いお湯を使うことは、
皮膚損傷の可能性を増すため避けるべきです。き
れいな使い捨てタオルを使用する時は、ひび割れ
を避けるため、擦るよりも皮膚を軽く叩くように
することが重要です。さらに流水と石けんでの手
洗いの後でも、アルコール製剤を使っても、濡れ
ている手の状態で手袋をつけることは、皮膚炎の
リスクを増やします。
3.3 擦式アルコール製剤使用に関係する安全
性の問題
アルコールは可燃性です;従って、擦式アルコ
ール製剤は国家と地方の規則に従って高温あるい
は炎から離して貯蔵します(地方の製造ガイドの
第B部:WHO 推奨手指擦式剤製品
http://www.who.int/gpsc/5may/tools/system_cha
nge/en/index.html を参照)。
擦式アルコール製剤は可燃性ですが、このよう
な製品に関係している火災のリスクは極めて低い
のです。
例えば、米国で調査された 798 の医療施設のど
こからも、擦式アルコール製剤ディスペンサーに
関係した火災の報告はありません。766 の全ての
施設で、手指擦式剤ディスペンサーに起因する火
災を起こすことなく、擦式アルコール製剤使用の
病院・年は 1430 であったと見積もられました。
(330)(訳者注:火災が一つの病院で 1 年なかった
場合、1病院・年となる)
擦式アルコール製剤が長年広く使用されている
ヨーロッパでは、このような製品と関係のある火
災発生は非常に低値でした。(147) ドイツの病院
で行われた最近の研究(331)が、手指擦式剤の使用
が全ての病院で 3 千 5 百万リットルの使用量をも
って、全体で 25,038 病院・年と見積もられたこと
を報告しました。合計7件の重大でない火災事故
が報告されていました(病院の 0.9%)
。
これは 0.0000475%の病院当たり年間 1 回の発生
となります。静電気あるいはその他の要因で火災
となった報告はありませんし、貯蔵区域にも関係
していませんでした。実際、ほとんどの報告され
た事例は、裸火(例えば、タバコに火をつける)に
意識的に曝露することに関係していました。
「きれいな手で!」キャンペーンの開始から
2008 年 7 月までの擦式アルコール製剤の使用に関
係した事例のまとめでは
(http://www.npsa.nhs.uk/patientsafety/patients
afetyincident-data/quarterly-data-reports/ )、
692 件の事故のたった2件の火災事故が、英国と
ウェールズで報告されています。
手指衛生に使われたアルコール製品の事故的と
意図的な摂取が報告され、ある急性症例では重症
なアルコール中毒を引き起こすかもしれません。
(332-335) 「きれいな手で!」キャンペーン事例
要約の中で、189 例の摂取症例が医療施設で報告
されています。しかし、大部分は障害が全くない
か低いもので、12 例が中等度、2例が重症、1 例
の死亡が報告されています(しかし、この患者は
前日に重症のアルコール中毒ですでに入院してい
ました)
。特に小児科と精神科の病棟では、安全対
策が必要とされることは明らかです。これらは以
下を含むでしょう:堅牢な壁取り付けディスペン
31
サーの中に設置する;説明にアルコール含有をあ
いまいにしたラベルをディスペンサーに貼り、誤
った使い方の警告を加える;おいしさを損なうよ
う製品に添加物を含有させる。その間、医師と看
護スタッフはこの潜在的な危険に注意を払うべき
です。
アルコールは吸入と正常な皮膚から吸収されま
すが、後者の経路から(経皮的吸収)は非常に低
値です。多くの研究が、アルコールの経皮的吸収
と適応つまり皮膚への撒布後の吸入を評価してい
ます。(324,336-339) 全て症例でアルコール血中
濃度が全くないか非常に低値(ほろ酔い濃度すな
わち 50 mg/dL よりかなり低値)が検出され、症
候は気付かれていません。
実際、擦式アルコール製剤使用がアルコール吸
収のため危険であるかもしれないことを示すデー
タは皆無である一方、手指衛生順守の低下は防ぎ
える医療関連感染を引き起こすということははっ
きりしています。
3.4 擦式アルコール製剤とクロストリジウ
ム・デフィシルやその他の非感受性病原体
アルコールは、グラム陽性とグラム陰性の増殖
型細菌(MRSA や VRE のような多剤耐性菌を含
む)
、結核菌と様々な真菌の対し試験管内で優れた
殺菌性活性を持っています。
(131,306,307,340-345) それに対し、アルコール
は事実上細菌芽胞あるいはプロトゾアのオーシス
トには活性がなく、ある種のエンベロープのない
(親水性)ウイルスの活性を低下させます。しか
し、いくつかの擦式アルコール製剤(70~80%v/v)
の濃度で使われると、生体においても多くのエン
ベロープのないウイルス(例えば、ロタウイルス、
アデノウイルス、ライノウイルス、A型肝炎と円
テロウイルス)に対して活性を持っています。
(177,346,347) 様々な 70%アルコール溶液(エ
タノール、n-プロパノール、イソプロパノール)
は、ノロウイルスの代替えに対してテストされ、
エタノール 30 秒は他より殺ウイルス活性が優れ
ていました。(348) 最近の実験的な研究で、エタ
ノール製品がエンベロープのないヒトウイルスと
してテストされた代替えウイルスの著しい減少を
示しました;しかし、活性は抗微生物でない、つ
まり水道水の対照より優れていませんでした。
(349) 概して、エタノールはイソプロパノールよ
り対ウイルス活性が大きいことが示されています。
(350) 医療において手指衛生のゴールドスタン
ダードとして擦式アルコール製剤の広範な使用に
引き続き、芽胞形成病原体(特にクロストリジウ
ム・デフィシル)に対する効果がないことに対す
る懸念が言われてきています。医療施設において
擦式アルコール製剤の広範囲に亘る使用は、何人
かによって非難されてきました。(351,352)
擦式アルコール製剤はクロストリジウム・デフ
ィシルに対して効果がありませんが、それがクロ
ストリジウム・デフィシル関連疾患増加の引き金
となっていることは示されていません。
(63,76,353,354)
クロストリジウム・デフィシル関連疾患率は、
米国では擦式アルコール製剤の広範な使用のずっ
と以前から起こり始めていました。(355,356) 流
行株 REA-group B1(ribotype 027 に同じ)のアウ
トブレイクは、クロストリジウム・デフィシル関
連疾患以外の全ての患者に擦式アルコール製剤を
導入しても、うまく管理できました。(354)
石けんあるいは消毒スクラブ剤と流水で手を洗う
ことです。(359,360) こういった状況では、手が
完全に乾いていることを確認した後、例外的に手
洗いの後に擦式アルコール製剤を使うことができ
ます。しかも、擦式アルコール製剤 - 現在医
療従事者の手によって伝播させられる多数の有害
な耐性および非耐性病原体から患者を守るための
さらに、最近いくつかの研究が、擦式アルコー
ゴールドスタンダードと考えられている - が
ル製剤消費とクロストリジウム・デフィシルの臨
同じ施設の全てのそれ以外の時には使用され続け
床的分離頻度の間に関係がないことを示しました。 られるべきです。
(353,357,358)
ケアの現場での手指擦式実行を通して観察され
る総体的な感染率への劇的な影響を考慮すると、
クロストリジウム・デフィシル・アウトブレイ
クロストリジウム・デフィシル関連疾患の患者以
クの時の接触予防策は強く勧告されており、具体
外の患者のための擦式アルコール製剤の使用を放
的には手袋の使用(接触予防策の 1 部として)
、お
棄することは、遥かに有害です。(361)
よび下痢の患者のケア後に手袋を脱いだ後に普通
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以下 42 ページまで文献。
文献は省略しました。原文を当たってください。
32
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
付録
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
43
1.
用語の定義
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Hand hygiene practices:手指衛生実施
Hand hygiene:手指衛生
手指をきれいにする全ての行為を参照する一般的
用語(下の「手指衛生の実施」参照)
Hand hygiene products:手指衛生製品
Alcohol-based (hand) rub:(手指)擦式アルコー
ル製剤、アルコール基剤(手指)擦式剤
微生物を不活化かつ/あるいは一時的にそれらの
成長を抑えるために手指に適用されるようデザイ
ンされたアルコール含有調剤(液体、ジェルある
いは、あわ)
。このような調剤は、1 つあるいは複
数の種類のアルコール、賦形剤や保湿剤によるそ
の他の活性成分を含有しているかもしれません。
Antimicrobial (medicated) soap:消毒(薬剤入り)
スクラブ剤
微生物を不活化かつ/あるいは一時的にそれらの
成長を抑制するに十分な濃度の消毒剤を含有して
いる石けん(洗浄剤)そのような石けんの洗浄活
性は通過菌あるいは皮膚からのその他の汚染を除
去し、その後の水による除去を容易にします。
Antiseptic agent:生体消毒剤
生体上で微生物を不活化するか成長を抑える抗微
生物物質。例えば、アルコール、クロルヘキシジ
ン・グルコン酸塩(CHG)、塩素誘導体、ヨウ素、
クロロキシレノール(PCMX)、4 級アンモニウム化
合物とトリクロサンが含まれます。
Detergent (surfactant):洗浄剤(界面活性剤)
洗浄作用を有する化合物。
それらは親水性と親油性部分を持つ化合物で、4
つのグループに分類されます:陰イオン性、陽イ
オン性、両性と非イオン性です。医療で手洗いあ
るいは消毒剤手洗いのために使われる製品は様々
な洗浄剤のタイプを意味しますが、用語「石けん」
はこのガイドラインではこのような洗浄剤を参照
するために使用されます。
Plain soap:普通石けん
なんら抗微生物剤を添加していないか、保存剤と
してだけ加えられている洗浄剤。
Antiseptic handwashing:消毒剤手洗い
消毒スクラブ剤と流水あるいは、生体消毒剤を含
んだその他の洗浄剤で手を洗うこと。
(訳者注:"washing hands with soap and water"
とあるが soap は antiseptic soap の間違いと思わ
れる)
Antiseptic handrubbing (or handrubbing):
(消毒
剤)手指擦式
外部の水源を必要とせず、すすぎあるいはタオル
やその他の方法で乾燥させる必要もない、微生物
を減らすか成長を抑えるために消毒剤手指擦式剤
を用いること。
Hand antisepsis/decontamination/degerming :
手指消毒、手指除染、手指除菌
手指擦式剤を使用あるいは消毒剤手洗いを実施し
て微生物を減少あるいは成長を抑えること。
Hand care:ハンドケア
皮膚損傷あるいは皮膚炎のリスクを減少させる行
為。
Handwashing:手洗い
普通石けんあるいは消毒スクラブ剤と流水で手を
洗うこと。
Hand cleansing:手をきれいにする
物理的にあるいは機械的に汚れ、有機物かつ/ある
いは微生物を取り除く目的で行われる手指衛生の
行為。手指物体消毒(Hand disinfection)は、世界
のある地域では用語として広く使用されていて、
生体消毒剤手洗い、消毒剤手指擦式、手指生体消
毒/除染/除菌、消毒スクラブ剤と流水による手洗い、
衛生的手指消毒あるいは衛生的手指擦式の意味で
用いられています。ただ、
「物体消毒(disinfection)」
は普通、生命のない表面と物の除染を言及するの
で、この用語(disinfection)はこれらのガイドラ
インで使われません。
Hygienic hand antisepsis;衛生的手指消毒
常在細菌叢に影響せず、通過微生物叢を減らすた
めに、消毒剤手指擦式剤あるいは消毒スクラブ剤
による手指の処置。
Hygienic handrub:衛生的手指擦式
常在細菌叢に影響する事なく通過細菌叢を減らす
ために、消毒剤手指擦式剤による手指の処置。
これらの調剤は広いスペクトルと即効性で、残留
活性は必要ではありません。
44
Hygienic handwash:衛生的手洗い
常在細菌叢に影響せず通過細菌叢を減らすために
消毒スクラブ剤と水での手洗いによる手指の処置。
それは広いスペクトルですが、通常衛生的手指擦
式より、効果は少なく、ゆっくり作用します。
Surgical hand antisepsis/surgical hand
preparation/presurgical hand preparation:手術
時手指消毒/手術時手指準備/手術前手指準備(手術
時手洗い)
。
手術チームによる常在細菌叢を減少させ通過細菌
叢を取り除くため、手術前に行われる消毒スクラ
ブ剤による手洗いあるいは消毒剤手指擦式。その
ような消毒剤は、しばしば残留抗菌活性がありま
す。手術時手指擦式/手術前スクラブは消毒スクラ
ブ剤と流水による手術時手洗いのことです。手術
時手指擦式は水を使わない擦式アルコール製剤に
よる手術時手洗いのことを意味します。
関連用語
Efficacy/efficacious:効果/効果的
検査室あるいは生体上で検査される時に、手指衛
生製品塗布の(可能性のある)効果。
Effectiveness/effective:有効性/有効
手指衛生製品が病原体の広がりを減らす可能性を
試験された臨床的な状況、例えは臨床治験。
Health-care area:医療領域
手指衛生のための主な時間の「地理的」な可視化
に関係する概念。
患者Xの患者ゾーンの以外の医療施設内の全ての
表面を含みます(すなわち、他の患者と彼らの患
者ゾーンと医療施設環境)
。
Humectant:保湿剤
皮膚に湿潤を与えるために手指衛生製品に添加さ
れた成分(複数)。
Patient zone:患者ゾーン
手指衛生のための主な時間の「地理的」な可視化
に関係する概念。それは患者Xと彼/彼女の直近の
環境を含みます。これは一般的には、患者の正常
皮膚と、ベッド柵、ベッドサイド・テーブル、ベ
ッドリネン、輸液チューブやその他の医療設備の
ような患者によってつまり物理的に直接接触され
る全ての無生物表面を含みます。それは、さらに
その他の「非常に頻回」に触れる表面と同様に、
モニター、ドアノブ、ボタンのような、医療従事
者が患者のケアの間に頻回に触れる表面を含みま
す。
2.
45
Persistent activity:残留効果
特定の消毒剤の適応後、微生物の成長あるいは生
存を妨げる持続性あるいは広い抗菌活性:同様に、
「残余」「持続」「残り」活性とも呼ばれる。主体
および主体でない活性成分の両方が、使用後に微
生物の成長を著しく抑制する残留効果を示せてい
ます。
Point of care:ケアの現場
3つの要素が一緒になる場所:患者、医療従事者
と患者および患者の環境(患者ゾーン内の)と接
触するケアあるいは治療。(302) 概念は、ケアが
なされるところで、推奨された正にその瞬間に手
指衛生を行う必要性を内包します。これは、手指
衛生製品(例えば、利用できれば擦式アルコール
製剤)が容易に利用でき、患者ケアあるいは治療
が行われる所に可能な限り近い(腕が届く距離)
必要があります。ケアの場所の製品は、患者ゾー
ンから医療従事者が離れる必要がなく利用できる
べきです。
Resident flora (resident microbiota):常在細菌叢
角質層の上皮細胞の下にいて、皮膚の表面でも見
つかる微生物。
Surrogate microorganism:代替微生物
消毒剤の抗菌活性をテストする時に、院内病原体
の特定の型あるいはカテゴリーを表すために使用
された微生物。代替は、それらの安全性、取り扱
いやすさや抗菌薬への相対的な耐性で選ばれます。
Transient flora (transient microbiota):通過細菌
叢(一時的細菌叢)
皮膚の表面層に定着し、日常的手洗いで除去され
やすい微生物。
Visibly soiled hands:目で見て汚れた手指
汚れや体液が付いていることがすぐわかる手指
WHO 医療における手指衛生ガイドライン2009の目次
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
第Ⅰ部
手指衛生に関係した科学的データのレビュー
1. 用語の定義
2. ガイドライン準備の工程
2.1 進歩的草稿の準備
2.2 進歩的草稿のパイロットテスト
2.3 WHO医療における手指衛生ガイド
ラインの仕上げ
3. 医療関連感染のバーデン
3.1 先進国における医療関連感染
3.2 開発途上国における医療関連感染の
バーデン
4. 医療における手指衛生の歴史的見通し
5. 手指上の正常細菌叢
6. 正常皮膚の生理学
7. 手指による病原体の伝播
7.1 患者皮膚上あるいは無生物環境に存
在する有機体
7.2 医療従事者の手指への有機体の移動
7.3 手指上での有機体の生存
7.4 不完全な手指洗浄が手指が汚染され
たままにする
7.5 汚染された手による有機体の交差感
染
8. 手指による伝播モデル
8.1 実験的モデル
8.2 数学的モデル
9. 手指衛生と医療関連病原体獲得の関係
46
10. 手指擦式剤と手洗い剤と手術時手指準備
用の製品を評価する方法
10.1 現在の方法
10.2 伝統的なテスト方法の欠点
10.3 よりより方法の必要性
11. 手指衛生に使われる調剤のレビュー
11.1 水
11.2 普通(抗菌でない)石けん
11.3 アルコール
11.4 クロルヘキシジン
11.5 クロロキシレノール
11.6 ヘキサクロロフェン
11.7 ヨウ素とヨードフォア
11.8 4級アンモニウム化合物
11.9 トリクロサン
11.10 その他の薬剤
11.11 芽胞形成細菌に対する消毒剤の活性
11.12 微生物の消毒剤に対する感受性の低
下
11.13 普通石けん、消毒剤スクラブとアル
コールの相対的効力
12. WHO推奨手指擦式製剤
12.1 総合的コメント
12.2 世界の異なる施設でのWHO推奨手指
擦式製剤の地域生産から学ばれた教訓
13. 手術時手指準備:最先端
13.1 手術時手指準備のためのエビデンス
13.2 手術時手指準備の目的
13.3 手術時準備のための製品選択
13.4 消毒スクラブ剤を使う手術時手指消
毒
13.5 擦式アルコール製剤による手術時手
指準備
13.6 消毒スクラブ剤での手術時手指スク
ラブあるいは擦式アルコール製剤によ
る手術時手指準備
14. 手指衛生に関係する皮膚反応
14.1 刺激性接触性皮膚炎の頻度と病理
14.2 手指衛生製品の関係するアレルギー
性接触性皮膚炎
14.3 薬剤の副反応を減らす方法
15. 手指衛生製品を選ぶときに考慮すべき因
子
15.1 パイロットテスト
15.2 選択因子
16. 医療従事者における手指衛生実施と勧告
への順守
16.1 医療従事者における手指衛生実施
16.2 観察された手指洗浄の順守
16.3 順守に影響する因子
17. 手指衛生の宗教的および文化的局面
17.1 異なる宗教における手指衛生の重要
性
17.2 異なる宗教と文化における手ぶり(手
のジェスチャー)
17.3「目で見て汚れている」手の概念
17.4 擦式アルコール製剤の使用といくつ
かの宗教によるアルコール禁制
17.5 解決法
18. 行動で考慮すべきこと
18.1 社会科学と健康にかかわる行動
18.2 手指衛生の行動学的局面
19. 手指衛生を推進するための教育プログラ
ムの組織化
19.1 ガイドラインを実行するとき教育プ
ログラムを開発する工程
19.2 トレーニング・プログラムの組織化
19.3 感染管理にリンクしている医療従事
者
20. 手指衛生推進のための戦略の策定
20.1 推進戦略の要素
20.2 ガイドライン実現のための戦略の開
発
20.3 手指衛生推進のためのマーケッティ
ング技術
21. WHO 多様的手指衛生改善戦略
21.1 成功戦略のための主要な要素
21.2 医療施設レベルでの実現のための必
要不可欠のステップ
21.3 実現のための WHO のツール
21.4「私の手指衛生の5つの瞬間」
21.5 パイロットおよび補完的なサイトに
おける WHO 手指衛生改善戦略のテスト
から学んだ教訓
22. 改善した手指衛生の影響
23. 適切な手指衛生実施に対する現実的問題
と潜在的障壁
23.1 手袋ポリシー
23.2 安全な血液および血液製剤のための
47
手指衛生の重要性
23.3 宝飾具
23.4 指の爪と人工爪
23.5 適切な手指衛生のために必要なイン
フラストラクチャー
23.6 擦式アルコール製剤調剤に関する安
全性の問題
24. 手指衛生研究事項
第 II 部
合意勧告
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
エビデンスの順位付け法
手指衛生の適応
手指衛生の技術
手術時手指準備の勧告
手指衛生薬剤の選択と取り扱い
スキンケア
手袋の使用
手指衛生のその他の局面
医療従事者への教育とモチベーション・プ
ログラム
10. 政府および施設の責任
11. 医療施設管理者のために
12. 国家の政府のために
第 III 部.
プロセスと転帰評価
1. パーフォーマンス指標としての手指衛生
1.1 直接法による手指衛生監視
1.2 WHO の推奨する直接監視の方法
1.3 手指衛生パーフォーマンスの間接的
監視
1.4 手指衛生の自動監視
2. 患者安全の質指標としての手指衛生
3. 手指衛生推進の経済的影響の評価
3.1 経済的評価の必要性
3.2 費用便益と費用対効果分析
3.3 経済文献調査
3.4 施設レベルでの手指衛生のコスト把
握
3.5 手指衛生推進プログラムからの典型
的な費用削減
3.6 国家のプログラムを支援するための
財政的戦略
第 IV 部
よりよい手指衛生のためのキャンペーンの一
般的モデルに向かって -
手指衛生改善への国家的アプローチ
第 VI 部.
手指衛生のための国家と地方のガイドライン
の比較
1.
2.
3.
4.
文献
はじめに
目的
歴史的見通し
公的キャンペーン、WHO とマスメディア
4.1 医療の中での国家的キャンペーン
5. 国家的プログラムの利点と障壁
6. 国家的プログラムⅣの限界
7. 社会的マーケッティングと社会運動理論
の関連
7.1 医療の外での手指衛生改善キャンペ
ーン
8. 医療の全国規模で行われた手指衛生改善
9. 医療の中の国家的手指衛生改善の開発、実
施と評価のための青写真に向けて
10. 結論
第Ⅴ部
手指衛生改善への患者関与
1. 概観と用語
2. 患者へ自信を与えること(エンパワーメン
ト)と医療
3. 自信を与えること工程の要素
3.1 患者参加
3.2 患者知識
3.3 患者スキル
3.4 促進環境と積極的逸脱の創造
4. 手指衛生順守と自信を与えること
4.1 患者と医療従事者へ自信を与えること
5. 患者と医療従事者への自信を与えること
を含む、手指衛生推進のプログラムとモデ
ル
5.1 エビデンス
5.2 プログラム
6. WHO 患者経験の世界的調査
7. 医療施設あるいは地域における患者/医療
従事者へ自信を与えることのプログラム
の開発、実施と評価のための戦略と資源
48
付録
1. 医療施設とその他の関連用語の定義
2. クロストリジウム・デフィシル拡散に関連
した適切な手指衛生ガイド
3. 手および皮膚の自己評価ツール
4. 直接的な方法による手指衛生監視
5. 費用を評価するための集計表の例
6. WHO 手指衛生改善における患者経験の世
界的調査
3.
手指衛生実施ツールキット
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
WHO多様的手指衛生改善戦略の「実施案内」
行動計画のテンプレート(ひな型)
組織変革のための ト レ ー ニ ン グ / 教 評価とフィードバ 作業現場における 組織安全風土のた
リマインダーのた めのツール
育のためのツール ックのためのツー
ツール
ル
めのツール
手指衛生コーディ
手指衛生テクニカ
管理者に手指衛生
病棟インフラスト ネーターのための ル ・ リ フ ァ レ ン 「あなたの手指衛
生の5つの瞬間」
を推奨するための
ラクチャー調査
スライド
ス・マニュアル
ポスター
テンプレート文
トレーナー、観察 観察ツール:観察
管理者に手指擦式
者と医療従事者の フォームと順守測 手指擦式法のポス 発議を共感させる
ための教育セッシ 定フォーム
ター
ためのテンプレー
ョンのスライド
ト文
現場製造の案内:
手洗い法のポスタ 手指衛生発議で患
WHO 推奨の手指 手指衛生訓練動画 病棟インフラスト
者と患者組織を結
ラクチャー調査
ー
擦式剤処方
びつける案内
指 衛 生 : 何 時 そ 改善をなし続ける
石 け ん / 手 指 擦 式 訓練動画と組み合 石 け ん / 手 指 擦 式 手
医療施設が考
してどのように、 -
剤消費調査
わせるスライド
剤消費調査
えるための更なる
のチラシ
活動
使用あるいは導入
計画のある擦式ア 手指衛生テクニカ
「命を守る:きれ
ルコール製剤の許 ル ・ リ フ ァ レ ン 医療従事者のため 「命を守る:きれ
いな手で!」のス いな手で!」のプ
容性と受容性の評 ス・マニュアル
の認識調査
クリーンセーバー ロモーションDV
価のためのプロト
D
コル:方法1
様々な擦式アルコ
ール製剤の許容性
部長のための認識
と受容性の評価と 観察フォーム
調査
比較のためのプロ
トコル:方法2
「手指衛生、なぜ、 医療従事者のため
どのようにそして の手指衛生知識ア
何時」パンフレッ ンケート
ト
使用あるいは導入
計画のある擦式ア
手袋使用情報チラ ルコール製剤の許
シ
容性と受容性の評
価のためのプロト
コル:方法1
様々な擦式アルコ
「あなたの手指衛 ール製剤の許容性
生の5つの瞬間」 と受容性の評価と
のポスター
比較のためのプロ
トコル:方法2
データ入力分析ツ
FAQ
ール
主要な科学的出版 データ入力と分析
物
のための説明書
改善をなし続ける
- 医療施設が考 データ集積報告体
えるための更なる 制
活動
アルコール製剤に
よる手指擦式計画
と原価計算ツール
49
謝辞
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
より良いケアチーム(WHO 患者安全、情報、エビデンスと研究の集団)は、「清潔なケア」によって開
発されました;Benedetta Allegranzi, Sepideh Bagheri Nejad, Marie-Noelle Chraiti, Cyrus Engineer,
Gabriela Garcia Castillejos, Wilco Graafmans, Claire Kilpatrick, Elizabeth Mathai, Didier Pittet,
Lucile Resal, Herve Richet, Rosemary Sudan.
内容 に対する極 めて重要な貢
献:
John Boyce Saint Raphael
Hospital,
New
Haven,
CT;United States of America
Yves Chartier World Health
Organization,
Geneva;Switzerland
Marie-Noelle
Chraiti
University
of
Geneva
Hospitals,
Geneva:Switzerland
Barry
Cookson
Health
Protection
Agency,
London;United Kingdom
Nizam Damani Craigavon
Area
Hospital,
Portadown,Northern Ireland;
United Kingdom
Sasi Dharan University of
Geneva
Hospitals,
Geneva;Switzerland
Neelam
Dhingra-Kumar
Essential Health Technologies,
World Health Organization,
Geneva;Switzerland
Raphaelle
Girard
Centre
Hospitalier
Lyon
Sud,
Lyon;France
Don Goldmann Institute for
Healthcare
Improvement,
Cambridge,
MA:
United
States of America
Lindsay Grayson Austin &
Repatriation Medical Centre,
Heidelberg; Australia
Elaine
Larson
Columbia
University School of Nursing
50
and Joseph Mailman School of
Public Health, New York, NY;
United States of America
Yves Longtin University of
Geneva
Hospitals,
Geneva;Switzerland
Marianne
McGuckin
McGuckin
Methods
International
Inc.,
and
Department of Health Policy,
Jefferson Medical College,
Philadelphia, PA; PA; United
States of America
Mary-Louise McLaws Faculty
of Medicine, University of New
South
Wales,
Sidney;
Australia
Geeta Mehta Lady Hardinge
Medical College, New Delhi;
India
Ziad Memish King Fahad
National Guard Hospital,
Riyadh; Kingdom of Saudi
Arabia
Peter
Nthumba
Kijabe
Hospital, Kijabe; Kenya
Michele Pearson Centers for
Disease
Control
and
Prevention,
Atlanta,
GA;
United States of America
Carmem Lucia Pessoa-Silva
Epidemic and Pandemic Alert
and Response, World Health
Organization,
Geneva; Switzerland
Didier Pittet University of
Geneva Hospitals and Faculty
of
Medicine,
Geneva;
Switzerland
Manfred Rotter Klinishche
Institut fur Hygiene und
Medizinische
Mikrobiologie
der Medizinischen Universitat,
Vienna;Austria
Denis Salomon University of
Geneva Hospitals and Faculty
of
Medicine,
Geneva;Switzerland
Syed
Sattar
Centre
for
Research on Environmental
Microbiology,
Faculty
of
Medicine,
University
of
Ottowa, Ottawa; Canada
Hugo Sax University of
Geneva Hospitals, Geneva;
Switzerland
Wing Hong Seto Queen Mary
Hospital, Hong Kong Special
Administrative
Region
of
China
Andreas
Voss
Canisius-Wilhelmina Hospital,
Nijmegen;The Netherlands
Michael
Whitby
Princess
Alexandra Hospital, Brisbane;
Australia
Andreas F Widmer Innere
Medizin und Infektiologie,
Kantonsspital
Basel
und
Universitatskliniken
Basel,
Basel;Switzerland
Walter Zingg University of
Geneva Hospitals, Geneva;
Switzerland
技術的貢献:
Vivienne Allan National
Patient
Safety
Agency,
London;United Kingdom
Charanjit
Ajit
Singh
International
Interfaith
Centre,
Oxford;United
Kingdom
Jacques Arpin Geneva;
Switzerland
Pascal Bonnabry University
of
Geneva
Hospitals,
Geneva;Switzerland
Izhak Dayan Communaute
Israelite
de
Geneve,
Geneva; Switzerland
Cesare Falletti Monastero
Dominus Tecum, Pra’d Mill;
Italy
Tesfamicael
Ghebrehiwet
International Council of
Nurses;Switzerland
William
Griffiths
University
of
Geneva
Hospitals,
Geneva;Switzerland
Martin
J.
Hatlie
Partnership for Patient
Safety; United States of
America
Pascale
Herrault
University
of
Geneva
Hospitals,
Geneva;
Switzerland
Annette Jeanes Lewisham
Hospital, Lewisham; United
Kingdom
Axel
Kramer
Ernst-Moritz-Arndt
Universitat
Greifswald,
Greifswald; Germany
Michael Kundi University
of Vienna, Vienna, Austria
Anna-Leena Lohiniva US
Naval Medical Research
Unit, Cairo; Egypt
Jann Lubbe University of
Geneva
Hospitals;
Geneva;Switzerland
51
Peter Mansell National
Patient
Safety
Agency,
London; United Kingdom
Anant
Murthy
Johns
Hopkins Bloomberg School
of Public Health, Baltimore,
MD; United States of
America
Nana
Kobina
Nketsia
Traditional
Area
Amangyina,
Sekondi;
Ghana
Florian
Pittet
Geneva;
Switzerland
Anantanand
Rambachan
Saint
Olaf
College,
Northfield, MN; United
States of America
Ravin
Ramdass
South
African
Medical
Association; South Africa
Beth Scott London School of
Hygiene
and
Tropical
Medicine, London; United
Kingdom
Susan Sheridan Consumers
Advancing Patient Safety;
United States of America
Parichart
Suwanbubbha
Mahidol
University,
Bangkok; Thailand
Gail
Thomson
North
Manchester
General
Hospital,
Manchester;
United Kingdom
Hans Ucko World Council of
Churches,
Geneva;
Switzerland
編集的貢献:
Rosemary
Sudan
University
of
Geneva
Hospitals,
Geneva;Switzerland
特別な技術的貢献:
Benedetta
Allegranzi
Clean Care is Safer Care
Team,
WHO Patient
Safety
ピアレビュー:
Nordiah
Awang
Jalil
Hospital
Universiti
Kebangsaan
Malaysia,
Kuala Lumpur; Malaysia
Victoria
J.
Fraser
Washington
University
School of Medicine, St Louis,
MO; United States of
America
William R Jarvis Jason &
Jarvis
Associates,
Port
Orford, OR; United States
of America
Carol O’Boyle University of
Minnesota
School
of
Nursing, Minneapolis, MN;
United States of America
M Sigfrido Rangel-Frausto
Instituto
Mexicano
del
Seguro Social, Mexico, DF;
Mexico
Victor D Rosenthal Medical
College of Buenos Aires,
Buenos Aires; Argentina
Barbara
Soule
Joint
Commission Resources, Inc.,
Oak Brook, IL; United
States of America
Robert C Spencer Bristol
Royal Infirmary, Bristol;
United Kingdom
Paul
Ananth
Tambyah
National
University
Hospital,
Singapore;
Singapore
Peterhans J van den Broek
Leiden Medical University,
Leiden; The Netherlands
監修者:
Didier Pittet University of
Geneva
Hospitals
and
Faculty
of
Medicine,
Geneva; Switzerland
Patient Safety Programme,
WHO (All teams and members
listed in alphabetical order)
African Partnerships for
Patient Safety:
Sepideh Bagheri Nejad,
Rachel Heath, Joyce
Hightower, Edward Kelley,
Yvette Piebo, Didier Pittet,
Paul Rutter, Julie Storr,
Shams Syed
Samantha Van Staalduinen,
Merrilyn Walton
血流感染:
Katthyana Aparicio,
Sebastiana Gianci,Chris
Goeschel, Maite Diez
Navarlaz,Edward Kelley,
Itziar Larizgoitia, Peter
Pronovost
患者安全のための患者:
Joanna Groves , Martin Hatlie,
Edward Kelley, Anna Lee, Pat
Martin, Margaret Murphy,
Susan Sheridan, Garance,
Upham
中心的サポートと管理:
Armorel Duncan, Sooyeon
Hwang, John Shumbusho
H1N1チェックリスト:
Carmen Audera-Lopez, Gerald
Dziekan, Atul Gawande,
Angela Lashoher, Pat Martin,
Paul Rutter
患者チェックリスト:
Benjamin Ellis, Pat Martin,
Susan Sheridan
安全な分娩チェックリスト:
Priya Agraval, Gerald
Dziekan, Atul Gawande,
Angela Lashoher, Claire
Lemer, Jonathan Spector
外傷チェックリスト:
Gerald Dziekan, Angela
Lashoher, Charles Mock,
James Turner
コミュニケーション:
Vivienne Allan, Margaret
Kahuthia, Laura Pearson,
Kristine Stave
教育:
Esther Adeyemi, Bruce
Barraclough, Benjamin Ellis,
Itziar Larizgoitia, Agnes
Leotsakos, Rona Patey,
52
患者安全のための国際分類:
Martin Fletcher, Edward
Kelley, Itziar Larizgoitia,
Pierre Lewalle
患者安全裁:
Benjamin Ellis, Edward Kelley,
Agnes Leotsakos
パルスオキシメータ:
William Berry, Gerald
Dziekan, Angela Enright,
Peter Evans, Luke Funk, Atul
Gawande, Alan Merry,
Isabeau Walker,Iain Wilson
報告と学び:
Gabriela Garcia Castillejos,
Martin Fletcher, Sebastiana
Gianci, Christine Goeschel,
Edward Kelley
研究と知識管理:
Katthyana Aparicio, Carmen
Audera-Lopez, Sorin Banica,
David Bates,Mobasher Butt,
Mai Fujii, Wilco Graafmans,
Itziar Larizgoitia, Nittita
Prasopa-Plaizier
安全な手術が命を救う(SSS
L):
William Berry, Priya Desai,
Gerald Dziekan, Lizabeth
Edmondson, Atul Gawande,
Alex Haynes, Sooyeon Hwang,
Agnes Leotsakos, Pat Martin,
Elizabeth Morse, Paul Rutter,
Laura Schoenherr, Tom Weiser,
Iain Yardley
解決と高度の5つ:
Laura Caisley, Edward Kelley,
Agnes Leotsakos, Karen
Timmons
抗菌薬耐性への取り組み:
Armorel Duncan, Gerald
Dziekan, Felix Greaves, David
Heymann, Sooyeon Hwang,
Ian Kennedy, Didier Pittet,
Vivian Tang
技術:
Rajesh Aggarwal, Ara Darzi,
Rachel Davies, Edward Kelley,
Oliver Mytton,Charles
Vincent, Guang-Zhong Yang
WHO 共同部門:
WHO Lyon Office for National
Epidemic Preparedness and
Response, Epidemic and
Pandemic Alert and Response,
Health Security and
Environment Cluster Blood
Transfusion Safety, Essential
Health Technologies, Health
Systems and Services Cluster
Clinical Procedures, Essential
Health Technologies, Health
Systems and Services Cluster
Making Pregnancy Safer,
Reproductive Health and
Research, Family and
Community Health Cluster
Policy, Access and Rational
Use, Medicines Policy and
Standards, Health Systems
and Services Cluster Vaccine
Assessment and Monitoring,
Immunization, Vaccines and
Biologicals, Family and
Community Health Cluster
Water, Sanitation and Health,
Protection of the Human
Environment, Health Security
and Environment Cluster
WHO acknowledges the
Hopitaux Universitaires de
Geneve (HUG), in particular
the members of the Infection
Control Programme, for their
active participation in
developing this material.
53