調 査 速 報 メキシコ自動車市場月次統計(2016年1月)

調 査 速 報
浜銀総合研究所
調査部
産業調査室
2016.2.19
メキシコ自動車市場月次統計(2016年1月)
足元は好調だが、今後は米国市場への高い依存度がリスク要因に転じる
○メキシコビジネスでの勝利のカギはプレミアムカー向けビジネスの獲得
・メキシコ自動車市場の月次統計レポートの執筆を開始する。筆者は 2016 年1月にメキシ
コにて、同国政府経済省、アグアスカリエンテス(Aguascalientes)及びグアナフアト
(Guanajuato)州政府、両州に進出する日系サプライヤーへの個別取材を行った。当レポー
トでは現地取材情報を基に、メキシコ自動車市場の特長及び同市場の課題を整理する。
・日系自動車関連企業の進出先として脚光を浴びているメキシコは、15 年の自動車生産台数
が 340 万台と世界第7位の規模を誇る。隣国・米国向けの輸出拡大を背景に、メキシコの
自動車生産はリーマンショック後に高成長を続けた。今後も完成車メーカーの進出・能力
拡張が相次ぐことにより、同国の総生産能力は 15 年末の 376 万台から 19 年末には 560 万
台へと大きく拡大し、増産ニーズは更に高まる見通しである。
・昨年の台数実績を振り返ると、メキシコ自動車工業会(Asociación Mexicana de la Industria
Automotríz:以下、AMIA)が発表した統計では、15 年のメキシコの四輪車生産台数は前
年比 5.6%増の 340 万台、輸出は同 4.4%増の 276 万台、国内販売は同 19.0%増の 135 万
台となった。主要仕向地の米国での旺盛な新車需要を背景に輸出は堅調に拡大し、またメ
キシコ内で中古車輸入が新車需要に置き換わるかたちで国内販売が増加したことにより、
15 年の国内生産と輸出台数は共に6年連続で過去最高記録を更新した。国内販売台数も
15 年に過去最高を記録した。
・また、直近月次データをみると、16 年1月の生産台数の季節調整済年率換算値(SAAR)
は前月比 3.4%増の 355 万台、
輸出は同 9.0%増の 305 万台、
国内販売は同 9.0%増の 151 万
台と、いずれも 15 年実績台数を上回る数字であり、16 年の出足は好調である。
・もっとも、同国の生産台数の約8割をも占める輸出は足元では高水準であるものの、15 年
後半は大きく減速し、前年割れが続いた時期もあった。Volkswagen(以下、VW)の排ガ
ス不正問題に端を発する、同メーカー製車両の米国向け輸出の減速に加え、米国新車販売
が頭打ちしていることも背景にあった。米国への輸出依存度が高いメキシコ自動車産業が
抱える「脆弱性」が課題として現れた。
・もうひとつの課題として、同国国内市場はすでに「モータリゼーション」の終焉に差し掛
かっていることにも要注意である。同国の人口千人あたり自動車保有台数は、年率2桁%
の国内市場の成長が続く、
いわゆるモータリゼーション期の目安の 300 台に近づいている。
今後、国内販売が堅調に拡大し続けると期待するのは禁物である。
・以上のように、輸出依存度が高いというリスクを抱えるメキシコ自動車産業において、日
系サプライヤーが中長期でビジネスを成功させるためには、高い品質が求められるプレミ
アムカーでのビジネスを獲得し、顧客ポートフォリオを拡げることが重要であると考える。
・メキシコは現地サプライヤーの数が少なく、サプライチェーンの基盤が整っていないため、
現地調達率が低いというのが特徴であり、ここに日系サプライヤーの進出余地がある。全
般的にチェーンの現調率は低いが、多くの日系自動車メーカーが進出するメキシコ中部バ
ヒオ地区においては、とりわけ金型、鍛造、ダイカスト関連企業への進出期待が高い。
1
○「脱・中国戦略」でより一層重要度が高まるメキシコビジネス
・自動車産業においてメキシコが注目を集めている背景として、同国の自動車生産台数が安
定的に高い成長を続けていることが挙げられる。メキシコの自動車生産台数は、2004 年か
ら 14 年までの 10 年間に年率
(CAGR)
7.9%増と高成長が続き、
直近の 15 年も前年比 5.6%
増と堅調に台数を伸ばした。15 年のメキシコの生産台数は 340 万台と、世界第7位の生産
規模を誇っている(図表1)
。
・一方、同じ自動車新興国として代表的な国である中国、ブラジル、ロシア、インドネシア
の生産台数は 15 年に大きく失速した。
15 年の中国の自動車生産台数は前年比 3.3%増と、
それまでの2桁成長から鈍化し、ブラジル、ロシア、インドネシアは2桁%の減少へと大
失速となった。
・このように多くの新興国において自動車市場の成長が減速・失速している中、海外事業の
拡大を推し進める自動車関連企業は、事業拡大のチャンスを高成長が続くインドやメキシ
コに求めている。そして、インドと比較しメキシコへ成長機会を求める動きが強い背景に
は、巨大市場の米国向けに輸出が堅調であることが挙げられよう。加えて、ここ1∼2年
の間に世界最大の市場である中国において、自動車販売が大幅に減速し、過剰生産能力を
抱えていることで価格競争が激化していることや、人件費が高騰していることから同国で
の事業収益性が急速に悪化しており、限られた経営資源を同国から他の成長市場に振り向
ける動きが強まっている。いわゆる、自動車関連企業における「脱・中国戦略」の流れが
強まっていることも、メキシコ事業の重要性がより一層高まっている要因である。
図表1 高成長が続くメキシコ
国別生産台数主要15か国の生産台数規模と過去増減率
万台
3,000
2,500
15暦年生産台数(左軸)
2,450
16.3
2,000
1,500
3.3
過去10年増減率(04→14年年率平均CAGR:右軸)
20
成長減速
市場回復
3.8
-0.7
-0.3
1,210
1,000
15年増減率(右軸)
%
30
-5.1
高成長継続
9.8
2.7
2.7
7.4
13.7
7.9
5.6
0.4
輸出増加が
内需不振を吸収
3.1
-1.2
1.3
0.6
国内空洞化
進展
12.3
7.3
10
5.8
5.4
-6.8
-1.5
1.8
3.2
0
-4.6
-10
新興国失速
928
-15.4
607
500
-20
452
413
340
273
0
中国
1
米国
2
日本
3
ドイツ
4
韓国
5
インド
6
-22.8
243
228
メキシコ スペイン ブラジル カナダ
7
8
9
10
191
182
168
タイ
11
フランス
12
英国
13
-27.8
137
110
-30
ロシア インドネシア
ネシア
14
15
15
注: 韓国とフランスの2015暦年生産台数は未公表のため、同台数は14年実績値、「15年増減率」は15年上期実績値とした。
出所: OICA(国際自動車工業連合会)及び各国自動車工業会のデータを基に浜銀総合研究所が作成
2
○完成車メーカーの能力拡張・新工場設立が相次ぐ:2019 年に生産能力は 560 万台に
・そして、今後もメキシコの自動車生産が増加すると期待されている背景に、多くの完成車
メーカーが既存工場の能力拡張や新工場の設立を予定していることがある。
・図表2はメキシコで自動車生産を行う完成車メーカーの生産能力推移を表している。2015
年末のメキシコの自動車生産能力(2直定時稼働ベース)は 376 万台あったと筆者は試算
するが、この生産能力は 19 年末には 560 万台まで拡大すると予想する。
・GM や VW が既存工場の能力を拡張することに加え、
新工場が相次いで設立されることが、
同国生産能力の大幅な拡大に繋がる見通しである。具体的には、VW 傘下の Audi(16 年)
、
韓国・起亜自動車(16 年)
、日産と独 Daimler の生産合弁会社 COMPAS(COoperation
Manufacturing Plant AguascalienteS:17 年)
、BMW(19 年)
、そしてトヨタ自動車(19 年)
が新工場を稼働させる予定である。
・後述するが、日系サプライヤーがメキシコでの事業拡大を目指す上では、プレミアムカー
(高級車)向けのビジネス獲得が重要と考える。なお、プレミアムカーの生産能力は現在、
BMW の 3 万台強に過ぎないが、
上記のように立て続けに新工場が設立されることにより、
19 年には 66 万台にまで大きく拡大する見通しである。
図表2 今後も完成車メーカーの能力拡張・新工場設立が相次ぐ
メキシコ完成車工場の生産能力推移
メーカー
工場所在地
州名
生産能力(万台:2直定時稼働ベース:暦年末)
14年
15
16
17
18
19
20
日産/Renault
Cuernavaca
Edo de Morelos
85
85
Aguascalientes No.1+2
Aguascalientes
日産/Renault/Daimler Aguascalientes COMPAS
Aguascalientes
El Salto, Guadalajara
ホンダ
6.3
6.3
Jalisco
Celaya
Guanajuato
20
20
Tijuana
Baja California
トヨタ
6.3
8.9
Apaseo el Grande郊外
Guanajuato
Salamanca
マツダ
Guanajuato
14
25
Silao(KD)
日野自動車
Guanajuato
0.12 0.12
Izcalli(CKD)
Edo de Mexico
いすゞ自動車
NA
NA
VW Group
Cuautlancingo(VW)
Puebla
60
60
SanJoseChiapa(Audi)
Puebla
Queretaro(MAN)
Queretaro
NA
NA
BMW
Araquari
Santa Catarina
3.2
3.2
San Luis Potosi
San Luis Potosi
GM
Ramos Arizpe
Coauhila
San Luis Potosi
59
59
San Luis Potosi
Silao
Guanajuato
Ford
Izcalli
Edo de Mexico
51
51
Hermosillo
Sonora
FCA
Toluca
Edo de Mexico
50
50
(Chrysler)
Saltillo
Coauhila
Daimler
Santiago Tianguistenco
Edo de Mexico
7
7
(Freightliner)
Saltillo
Coauhila
Monterrey
Nuevo Leon
起亜自動車
総合計
362 376
プレミアムブランド合計(黄色ハイライト部合算)
3
3
出所: 各社ニュースリリース、報道、取材情報を基に浜銀総合研究所が予想
Baja California
Sonora
Coauhila
Nuevo Leon
Aguascalientes
San Luis Potosi
Queretaro
Mexico City
Puebla
Jalisco
Guanajuato
Estado de
Moleros
3
21
85
85
85
85
85
85
6.3
20
8.9
23
6.3
20
8.9
30
6.3
20
8.9
25
0.12
NA
70
15
NA
3.2
25
0.12
NA
70
15
NA
3.2
25
0.12
NA
70
15
NA
3.2
30
6.3
20
8.9
20
25
0.12
NA
70
18
NA
3.2
15
30
6.3
20
8.9
20
25
0.12
NA
70
18
NA
3.2
15
30
6.3
20
8.9
20
25
0.12
NA
70
18
NA
3.2
15
80
100
120
120
120
120
51
51
51
51
51
51
50
50
50
50
50
50
7
7
7
7
7
7
15
437
18
30
495
41
30
522
48
30
560
66
30
560
66
30
560
66
○2015 年国内生産は6年連続で過去最高記録を更新
・足元の市場の動きに話を移したい。直近の台数実績を振り返ると、AMIA が発表した統計
では、15 年のメキシコの四輪車生産台数は前年比 5.6%増の 340 万台、輸出は同 4.4%増
の 276 万台、国内販売は同 19.0%増の 135 万台となった(図表3)
。
・主要仕向地の米国での旺盛な新車需要を背景に輸出は堅調に拡大し、またメキシコ内で中
古車輸入が新車需要に置き換わって国内販売が増加したことにより、15 年の国内生産と輸
出台数は共に6年連続で過去最高記録を更新した。なお、国内販売台数は 15 年に過去最
高を記録した。
・長期推移をみると、メキシコの自動車生産台数は 94 年の北米自由貿易協定(NAFTA)締
結を機に、過去 20 年間で約3倍の規模にまで成長した。95 年から 15 年までに生産台数は
240 万台強増加したが、市場成長を牽引したのは輸出の拡大であり、輸出は同期間に約 200
万台増加した。FTA を活用して、自動車メーカーは隣国・米国の自動車市場の成長を取り
込むように輸出を大きく増やしたのである。
・直近月次データをみると、16 年1月の生産台数の季節調整済年率換算値(SAAR)は前月
比 3.4%増の 355 万台、輸出は同 9.0%増の 305 万台、国内販売は同 9.0%増の 151 万台と
(図表4∼6)
、いずれも 15 年実績台数を上回る数字であり、16 年の出足は好調である。
図表3 2015 年は生産、輸出、国内販売すべてが過去最高台数を更新
メキシコ自動車市場の長期推移
(1993年∼)
万台
350
生産
輸出
2005年 中古車輸入解禁
(NAFTAによる米・加からの輸入義務化)
中古車輸入
250
150
122
100
108
60
50
112
93
97
132
97
143
97
65
62
189
148
143
182
「リーマンショック」
139
154
151
131
92
98
161
119
98
87
202
158
161
154
110
113 114
78
210
276
214
151
110
135
103
103
122
75
82
91
99
47
46
60
33
264
166
77
18
236
242
129
109
117
293
186
177
107
68
198
288
256
226
1994年1月 北米自由貿易協定(NAFTA)締結
1994年12月末 通貨危機「テキーラ・ショック」
340
322
国内販売
300
200
2013年 メキシコ政府による
中古車輸入規制
106
64
114
46
18
49
27
0
出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に浜銀総合研究所が作成
4
図表4 16 年1月の生産は堅調な伸び:増産基調が続く
季調済、千台
4,000
メキシコ総生産台数
前年同月比、%
40
3,500
30
3,000
20
2,500
10
2,000
0
1,500
-10
16年1月SAAR 355万台
前月比+3.4%
1,000
-20
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
500
-30
0
-40
.
.
11
12
13
14
15
16
2010年
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に作成
図表5 輸出は 15 年下期に減速したが、足元増加基調
季調済、千台
メキシコ総輸出台数
3,500
前年同月比、%
50
16年1月SAAR 305万台
前月比+9.0%
3,000
40
2,500
30
2,000
20
1,500
10
1,000
0
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
500
-10
0
.
.
-20
11
12
13
14
15
16
2010年
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に作成
図表6 国内販売は右肩上がりが続いている
季調済、千台
メキシコ総販売台数
1,600
前年同月比、%
40
1,400
30
1,200
20
1,000
10
800
0
600
-10
16年1月SAAR 151万台
前月比+9.0%
400
-20
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
200
0
.
-30
-40
.
11
12
13
14
15
16
2010年
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に作成
5
○高い米国への依存度:メキシコ自動車市場に潜在する脆弱性
・以上のように、メキシコ自動車市場は右肩上がりの成長が続いているが、その成長が将来
に亘っても盤石であるとは言い切れない。なぜなら、メキシコ自動車産業は今、大きく2
つの課題を抱えていると考えるからである。1つは、米国市場への依存度の高さであり、
もう1つは国内市場がすでに「モータリゼーション期」の終盤に差し掛かっており、今後、
内需の拡大を期待するのが難しいことである。これらの課題は、今後メキシコビジネスを
行う上で意識すべきリスク要因といえよう。
・メキシコ自動車産業は輸出にかなり依存した構造となっている。図表7は同市場の需給推
移を示しているが、生産台数に対する輸出台数の比率は、過去7年間の実績をみても常に
8割を超えており、極めて高い水準である。
・そしてその輸出の仕向地構成を表したのが図表8であるが、2015 年の輸出台数の実に7割
強も占めているのが米国向けとなっている。従って、メキシコの自動車生産のうち6割弱
(=輸出比率 81%×米国向け輸出構成比 72%)が米国市場向けとなっており、同市場へ
の依存度が極めて高いことがわかる。
・これまで米国新車市場は堅調に拡大していたが、政策金利の引き上げやマクロ景気の悪化
により、今までのような自動車消費の着実な拡大を期待するのが難しい状況である(図表
9)
。米国新車販売台数は依然として高水準で推移しているものの、今後、同国新車需要
が伸び悩むもしくは減少に転じるとなると、メキシコの自動車生産に対する下方圧力が強
まることになろう。米国市場への依存の高さが、メキシコ自動車市場の脆さとなって表れ
ることに留意が必要である。
・実際、2015 年の終盤には、米国市場の頭打ちがメキシコの輸出減速に繋がったと思われる。
図表 10 は米国向け乗用車輸出台数の推移を示しているが(本レポート執筆時、メキシコ
経済省貿易統計検索サイト(SIAVI)が公表する最新統計は 15 年 11 月実績まで)
、輸出台
数は 10 月以降に減速している。一部に、VW の排ガス不正問題により同社製車両の米国向
け輸出が減少したことも影響したと考えられるが、市場成長の鈍化が足かせになったこと
も否定できない。前ページの図表5では 12 月、1月と輸出は増加しているものの、米国
新車販売の減速が続いていることから、今後輸出に対する下方圧力が強まるリスクに要警
戒と考える。
図表8 輸出の米国依存度が高い
図表7 輸出台数は生産台数の8割超を占める
メキシコ自動車市場の需給推移
万台
600
400
84
82
81
500
83
82
81
60
59
51
56
55
55
57
53
59
55
300
50
48
38
75
226
151
91
135
114
106
99
40
77
輸入車販売比率(%)
=輸入/国内販売
供給 需要
輸入 国内
販売
82
200
0
輸出仕向地別構成比(2015年)
100
80
82
60
100
輸出比率(%)
=輸出/生産
256
186
288
214
293
236
264
276
生産
122
2009年
2009
2010
2010
2011
2011
2012
2012
2013
2013
2014
2014
0
-20
-40
340
322
242
20
2015
2015
アルゼンチン
1%
その他
7%
ドイツ
3%
カナダ
11%
米国
72%
-60
輸出
凡例
-80
-100
注: 国内販売は輸入車を含む。
出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)及びメキシコ経済省貿易統計検索サイト(SIAVI)のデータを基に浜銀総合研究所が作成
6
中国
コロンビア 2%
2%
ブラジル
2%
出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)
図表9 米国新車販売に頭打ち感あり
メキシコ乗用車輸出台数
米国向け
季調済、千台
米国新車販売台数
季調済、百万台
19
図表 10 米国向け乗用車輸出は昨年終盤に減速
前年同月比、%
40 1,600
前年同月比、%
50
18
30 1,400
40
17
20
30
16
10
0
15
1,200
20
1,000
10
-10 800
14
16年1月SAAR 16.99百万台
前月比▲5.2%
12
11
-30
-40
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
SAARの3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
10
9
0
-10
-20 600
-50
400
15年11月SAAR 140万台
前月比+2.9%
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
200
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
-60
.
-50
11
12
13
14
15
16
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: メキシコ経済省貿易統計検索サイト(SIAVI)のデータを基に作成
○モータリゼーションが終焉を迎えつつある:内需拡大に期待するのは禁物
・もう1つの課題として、メキシコ国内市場はすでに「モータリゼーション」の終焉に差し
掛かっていることにも注意したい。
・同国の人口千人あたり自動車保有台数は 285 台(13 年末)となっており、国内販売の年率
2桁%の成長が続くモータリゼーション期の目安とされる 300 台に近づいている。図表
11 では、主要自動車市場における人口千人当たり保有台数(2013 年末:棒グラフ)と過
去 10 年間の販売台数増減率(CAGR)を示している。保有台数が 300 台を大きく下回る中
国、インド、インドネシアなどでは、国内販売が年率平均 10%前後の高い水準で成長した。
一方、メキシコ国内市場の成長率は年率平均 1.8%増という低い水準で推移した。
・ここ数年でメキシコの新車需要が堅調に拡大している背景は、13 年に同国政府が中古車輸
入に対する規制措置を講じたことにより、中古車から新車に需要が置き換わっていること
が寄与していることがある。もっとも、中古車輸入台数はすでにかなり低い水準にまで落
ち込んでいるため(図表3)
、今後、国内販売がここ数年で見られたように、堅調に拡大
し続けると期待するのは禁物であると考える。
図表 11 メキシコ国内市場はモータリゼーション期の終焉に差し掛かっている
台
900
800
%
国別生産台数主要15か国の人口千人当たり自動車保有台数と販売台数の増減率
人口千人当たり保有台数(2013年末)
20
過去10年増減率(05→15年年率平均CAGR:右軸)
15.6
15
790
700
9.0
600
603
500
4.2
-0.1
1.0
285
-1.5
200
6.6
578
5
1.7
1.8
394
0.0
594
4.1
400
300
10
635
579
568
0.7
-1.0
198
308
0
-1.2
208
-5
-4.7
100
91
20
77
0
中国
1
米国
2
日本
3
ドイツ
4
韓国
5
インド
6
メキシコ スペイン ブラジル カナダ
7
8
9
10
タイ
11
フランス
12
注: 韓国の2015年暦年台数は未公表のため、15年1∼11月累計台数を単純年率換算した。
出所: OICA(国際自動車工業連合会)及び各国自動車工業会のデータを基に浜銀総合研究所が作成
7
-30
-40
0
2010
09
10
11
12
13
14
15
16
2007年 08
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米国センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Autodata、Bloombergのデータより作成
-20
.
13
英国
13
-10
ロシア インドネシア
ネシア
15
14
15
○日系サプライヤーのメキシコビジネスでの勝利のカギはプレミアムカービジネスの獲得
・以上のように、今後、メキシコ自動車産業においては、米国市場の頭打ちと内需の低成長
という、2つの外部環境リスクを意識する必要があると考える。3ページで示したように、
完成車の生産能力は大幅に増える見通しであるが、もし増産ペースが鈍化するとなると、
余剰生産能力は拡大し、価格競争が激化する懸念が高まる。これはまさに今、中国自動車
市場で起きていることであり、メキシコ市場の収益性も中国同様に低下していくだろう。
ちなみに、メキシコの自動車生産能力は 2019 年末の 560 万台に向けて年率平均(CAGR)
で 10.4%も増加し、15 年の生産台数の増加率 5.6%を大きく上回るピッチで拡大する見通
しである。
・図表 12 では、筆者の現地取材情報を基にして、同国に進出するサプライヤーを想定した
SWOT 分析を示している。メキシコには上記以外にも数多くのリスク要因(SWOT 分析上
の Threats)が存在する。サプライヤーは自社の強みを活かしてより多くのチャンス(収益
機会)を掴むことで、これらリスク・逆風を打ち消す必要がある。
・具体的には、日系サプライヤーは、高い品質管理能力を活かし、今後生産を増やしていく
高級車メーカーへのビジネスを獲得することが、メキシコビジネスの勝利のカギになると
筆者は考える。主要顧客である日系自動車メーカー向けよりも高い収益性が見込めるプレ
ミアムカービジネスを増やすことで、長期的に安定した事業収益の拡大を実現することが
できるのである。
・実際、筆者が訪問した一部の日系サプライヤーは、ISO/TS16949(自動車産業の品質管理
規格)を取得し、一般的な製造工程監査に加え厳しいロジスティック監査もクリアするこ
とで、世界的に品質要求が極めて高い Audi のビジネスを獲得していた。Tier-2 以下の中
堅・中小企業にとっては、このような Tier-1(一次取引)サプライヤーへのビジネスを追
求することが重要であると考える。
図表 12 勝利のカギはプレミアムカービジネスの獲得
メキシコで成功しうるTier-1サプライヤーのSWOT分析
組織状況
(経営資源)
外部環境条件
Strength(強み)
Opportunity(チャンス)
日系OEMの能力増強 勝利のカギ 日系OEMとの事業実績
高い品質管理能力
プレミアムカーの生産拡大
(ISO/TS16949)
中古車輸入規制⇒新車需要増
VA/VE・原低・高効率生産推進
石化産業自由化=材料費低下
Threats(リスク・脅威)
Weakness(弱み)
相続税がない=貧富格差縮まらず
高い米国依存
低い非日系メーカーとの交渉力
内需拡大余地小さい
高い米ドル建債務比率
厳格な原産地規則(ACE55号)
低い現調率/現地部品会社不在
法人税30%+PTU10%=40%
メキシコ人管理職の育成難
高い通関・輸送コスト
原油安・ペソ安
* ACE55号:メキシコ・メルコスール自動車協定
* PTU = 労働者利益分配金
出所:メキシコ現地調査(2016年1月実施)を基に浜銀総合研究所が作成
8
○低い現地調達率:Tier2 以下の日系中堅・中小企業のメキシコ進出が渇望されている
・最後に、メキシコではどの自動車部品の現地調達ニーズが高いのかについて述べたい。図
表 13 は工程別の現地調達率(以下、現調率)を示している。メキシコでは現地部品会社
が少なく、サプライチェーンの基盤が未だしっかりと整備されていないことから、殆どの
生産工程で現調率が 50%を切る状況にある。
・最近では、図表 12 のリスク項目で示したような、自動車部品の原産地規則(メキシコ・
メルコスール(南米南部共同市場)自動車協定 ACE55 号)が 2015 年3月に厳格化された
ことから、メキシコ進出サプライヤーにおいては、現調率を早期に引き上げる必要性が高
まっており、中堅・中小企業を含めた Tier-2 以下の日系中堅・中小企業の進出を切望する
声が多い。
・ちなみに、多くの日系完成車メーカーが進出している Aguascalientes 州や Guanajuato 州と
いった、メキシコ中部バヒオ(Bajio)地区では、とりわけ鍛造、金型、ダイカストの専業
メーカーの誘致が急務となっている。
図表 13 現地調達率が低く、日系中堅中小企業の誘致が急務
10億米ドル.
16
メキシコ自動車産業工程別現地調達率(2013年)
国内生産(左軸)
輸入(左軸)
現調率(右軸)
14
60%
50%
12
40%
10
8
30%
6
20%
4
10%
2
0
0%
出所:メキシコ経済省・貿易投資促進機関ProMexicoの資料を基に浜銀総合研究所作成
担当:調査部 産業調査室 深尾三四郎
Tel: 045-225-2375
Email: [email protected]
本レポートの目的は情報の提供であり、売買の勧誘ではありません。本レポートに記載されている情報は、浜銀総合研究所・調査部が
信頼できると考える情報源に基づいたものですが、その正確性、完全性を保証するものではありません。
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