2014年10月 - 浜銀総合研究所

調 査 速 報
浜銀総合研究所
調査部
産業調査室
2014.11.26
タイ自動車市場の月次統計(2014年10月)
持ち直しの兆候が見られる地方部でのピックアップトラックの販売動向に注目
○輸出減速により生産調整が行われた
・10 月の四輪車生産台数は前年同月比 13.7%減の 16.0 万台と 16 か月連続で前年を下回っ
た。季節調整済み年率換算値(X-12-ARIMA にて当社試算、以下 SAAR)も前月比 3.8%減
の 180.8 万台と、3か月ぶりに増加した前月から再び減少に転じた(図表1)
。前月のレ
ポートで警戒していたように、輸出が7月以降急減速していたため、在庫が積み上がるの
を回避すべく完成車メーカーは生産のアクセルとブレーキを慎重に操作している状況で
ある。
・生産の内訳をみると、構成比が最も高いピックアップトラック(含む PPV:ピックアップ
トラックベースの SUV)の台数は前月比 10.8%減の 106.1 万台となり、3か月ぶりに前
月比で増加した9月から大きく減少した(図表2)
。国内需要が底ばいで推移する中、輸
出需要が7月以降に急減速していたため、生産調整をしたメーカーがあったと考えられる。
・一方で、
乗用車の生産台数は前月比 3.9%増の 72.7 万台と3か月連続で増加した
(図表3)
。
後述するが、ここ数か月の統計を見ると販売に底入れ感が出てきており、長らく減産を続
けてきた乗用車生産においては、ようやく在庫調整局面を脱した可能性が高い。
・そして、残る中大型トラック及びバスの生産台数の SAAR は前月比 28.9%増の 2.8 万台と
と大幅に増加した(図表4)
。販売には依然として反発力は見られないが、タイ投資委員
会(BOI)による大規模投資案件の審査が6月に再開されたことで民間設備投資が回復し、
建築許可面積も9月に大幅に増加するなど、トラック需要に対して追い風が吹き始めてい
る。加えて、タイ政府は 10 月1日、公共施設の建設やインフラ整備を含む景気刺激策を
発表しており、この点が今後のトラック需要の回復を後押ししよう。実際、大手完成車メー
カーは足元の受注に回復の兆しが見え始めているとコメントしており、受注の増加に合わ
せて在庫の積み増しを行っていると思われる。
図表1 四輪車の生産は前月比で再び減少
千台
四輪車生産台数:SAARと前年同月比
3,000
前年同月比、%
200
10月SAAR 180.8万台
前月比▲3.8%
2,500
150
2,000
100
1,500
50
1,000
0
500
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
0
.
2010年
11
12
13
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
1
14
-50
-100
図表2 ピックアップトラックは 10 月に生産調整
ピックアップトラック生産台数( 含むPPV)
SAARと前年同月比
千台
1,600
前年同月比、%
250
1,400
200
1,200
150
1,000
100
10月SAAR 106.1万台
前月比▲10.8%
800
600
50
0
400
-50
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
200
0
-100
-150
.
2010年
11
12
13
14
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
図表3 乗用車生産は3か月連続の増加
千台
乗用車生産台数:SAARと前年同月比
1,500
1,400
1,300
1,200
1,100
1,000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
前年同月比、%
200
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
10月SAAR 72.7万台
前月比+3.9%
150
100
50
0
-50
-100
.
2010年
11
12
13
14
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
図表4 中大型トラック/バスは在庫積み上げ局面に
千台
中大型トラック/バス生産台数:SAARと前年同月比
80
前年同月比、%
10月SAAR 2.8万台
前月比+28.9%
70
100
80
60
60
40
50
20
40
0
30
-20
-40
20
-60
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
10
-80
0
-100
.
2010年
11
12
13
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
2
14
○国内需要は底ばい推移が続いている
・国内販売に目を向けると、10 月のタイ国内の四輪車販売台数は前年同月比 20.4%減の
7.1 万台と 18 か月連続の前年割れとなった。2012 年 12 月にタイ政府による「自動車購入
支援策」が終了して以降、需要の反動減が続いており、タイ国内の全体需要はいまだ低迷
から脱していない。
10 月の SAAR は前月比 1.2%減の 83.4 万台と2か月連続の減少となっ
たが、後方3か月移動平均値でみると底ばい推移が続いている(図表5)
。四輪車需要は
一進一退の状況が続いている。
・販売の内訳をみると、ピックアップトラックの販売台数の SAAR は前月比 1.6%増の 41.9
万台と2か月連続で増加し(図表6)
、乗用車販売の SAAR は前月比 3.2%増の 36.6 万台
と2か月ぶりに増加に転じた(図表7)
。乗用車とピックアップトラックの販売に底入れ
感が出てきた。一方で、中大型トラック/バスの SAAR は前月比 5.2%減の 7.9 万台と2か
月連続で減少した(図表8)
。もっとも、前述のような BOI の対応をきっかけにして、建
築許可面積の3か月後方移動平均値が9月に反転増加するなど設備投資に回復の兆しが
現れ始めており(図表9)
、今後、中大型トラック/バスの販売が順調に盛り返すかどうか
に注目したい。
図表5 国内需要は底ばい推移が継続
千台
四輪車販売台数:SAARと前年同月比
前年同月比、%
2,000
120
10月SAAR 83.4万台
前月比▲1.2%
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
1,800
1,600
100
80
1,400
60
1,200
40
1,000
20
800
0
600
-20
400
-40
200
-60
0
-80
.
2010年
11
12
13
14
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が算出
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
図表6 ピックアップトラックは2か月連続で増加
千台
ピックアップトラック販売台数:SAARと前年同月比
前年同月比、%
900
100
10月SAAR 41.9万台
前月比+1.6%
800
700
600
前年同月比、%
120
10月SAAR 36.6万台
前月比+3.2%
80
900
60
800
80
700
60
600
40
500
20
400
0
20
400
乗用車販売台数:SAARと前年同月比
1,000
40
500
図表7 乗用車販売は2か月ぶりに増加
千台
100
0
300
-20
200
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
100
0
300
-40
-20
200
-60
100
-80
0
.
-40
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
-60
-80
.
2010年
11
12
13
14
2010年
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
11
12
13
14
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
3
図表8 中大型トラック/バスは2か月連続で減少
中大型トラック/バス販売台数:SAARと前年同月比
160
前年同月比、%
図表9 建築許可面積は増加
千台
120
160
100
140
120
80
120
100
60
100
80
40
80
60
20
60
40
0
40
20
-20
20
-40
0
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
140
10月SAAR 7.9万台
前月比▲5.2%
0
2010年
11
12
13
2,500
2,000
1,500
1,000
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
建築許可面積(季調済)の後方3か月移動平均値(右軸)
2009
2010年
11
12
13
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industries及びBank of Thailandのデータを基に作成
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
500
0
2008年
14
千㎡
3,000
.
.
中大型トラック/バス販売台数と建築許可面積の推移
.
千台
14
○急減速していた輸出需要は緩やかに回復
・タイ工業連盟(Federation of Thai Industries)の公表数値によると、四輪車全体の 10 月の輸
出台数は前月比で 0.8%増の 104.9 万台となった(図表 10)
。後方3か月移動平均値が示
すトレンドでみると、5月から始まった減速基調は9月に収束し、10 月に緩やかながら反
転増加した。
・そこで、タイ中央銀行(Bank of Thailand)が 10 月 31 日に公表した9月の貿易統計をみる
と、乗用車と商用車の輸出金額(季調値)が共に3か月連続で減少している(図表 11、図
表 12)
。しかし、タイ工業連盟の 10 月輸出台数実績を見る限り、今月末発表される 10 月
の貿易統計では、輸出金額が9月実績から大きく減少するとは考え難い。注目したいのは、
ピックアップトラックを含む商用車の輸出金額である。大手完成車メーカーがタイで生産
開始した新型世界戦略車の輸出対象地域が拡大することで、タイ周辺国への輸出減退を吸
収することが期待される。タイ自動車生産で最大規模を誇るピックアップトラックの輸出
が盛り返すことが、同国での自動車生産の回復の鍵を握っており、日系関連企業のタイ現
地法人における 2015 年の収益拡大を左右するからである。
図表 10 四輪車輸出が緩やかに回復
千台
1,600
四輪車輸出台数:SAARと前年同月比
前年同月比、%
80
10月SAAR 104.9万台
前月比+0.8%
1,400
60
1,200
40
1,000
20
800
0
600
-20
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
400
200
0
-40
-60
-80
.
2010年
11
12
13
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
4
14
図表 11 乗用車輸出金額は9月まで3か月連続の減少
10億バーツ
乗用車輸出金額:季節調整値と前年同月比
30
前年同月比、%
9月季調値 136億バーツ
前月比▲5.8%
25
120
100
80
60
20
40
20
15
0
-20
10
-40
季節調整値(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
5
0
-60
-80
-100
-120
.
2010年
11
12
13
14
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: 季節調整値は米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Bank of Thailandのデータを基に作成
図表 12 ピックアップトラックの輸出金額も減少継続
10億バーツ
商用車輸出金額:季節調整値と前年同月比
40
前年同月比、%
9月季調値 228億バーツ
前月比▲2.2%
35
120
100
80
60
30
40
25
20
20
0
-20
15
-40
10
季節調整値(左軸)
後方3か月移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
5
0
-60
-80
-100
-120
.
2010年
11
12
13
14
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値
注2: 季節調整値は米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算
出所: Bank of Thailandのデータを基に作成
5
○持ち直しの兆候が見られる地方部でのピックアップトラックの需要動向に注目
・ピックアップトラックについては、輸出動向に加え、同国地方部の販売の動きに変化が現
れ始めている点も注目される。前述の通り、ピックアップトラックの国内販売は 2014 年
に入ってから底ばいで推移しているが、第1次産業構成比の高い地方部では足元で需要が
持ち直しの兆しを見せている。
・タイ中央銀行は、タイの乗用車及びピックアップトラックの地域別月次販売台数を開示し
ている(図表 13)
。主要4地域区分(図表 14 及び 15 を参照)の内、中央部以外では地域
別販売構成比が比較的高い東北部と北部にて、9月の販売台数の SAAR が前月比で増加し
た。とりわけ、北部での販売は2か月連続の増加となっている。9月の全国販売の増加
(ページ3参照)はこの2地域が牽引役となったことがわかる。
・もっとも、9月におけるこれら2地域での販売増加をもって、地方部での需要の本格回復
と判断するのは時期尚早であろう。なぜなら、地方部におけるピックアップトラックの需
要はコメ農家を中心とした第1次産業従事者によって支えられるが、インラック政権のコ
メ担保融資制度に端を発する地方農家の過剰債務問題は依然として消費の下押し要因と
して存在しているためである。
・ただし、タイ政府は 10 月1日の閣議で今年第4四半期(10∼12 月)の景気刺激策の柱の
ひとつに農家支援策を掲げ、コメ農家 350 万世帯に総額 400 億バーツの補助金を支給する
ことを発表している。前述の公共投資の拡大と併せて、軍事政権が景気刺激策を矢継ぎ早
に打ち出しており、地方部におけるピックアップトラックの需要回復の有無を注視してい
きたい。
図表 13 第1次産業従事者の多い東北部と北部のピックアップトラックの販売が増加
ピックアップトラックの地域別販売台数推移( SAAR)
千台
700
600
500
400
300
200
100
0
中央部
9月 SAAR、前月比
中央部 28.7万台、+0.9%
東北部 6.6万台、+9.8%
北部 4.2万台、+2.6%
南部 2.5万台、▲16.0%
120
北部
100
東北部
南部
80
60
40
20
0
.
2010年
11
12
13
注1: 赤いマーカーは各年1月実績値
注2: 季節調整はX-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が実施
出所: Bank of Thailandのデータを基に作成
6
14
図表 14 タイの地域分類(主要4区分)
出所:浜銀総合研究所が作成
図表 15 タイ主要4地域の概要
地域
2014年
ピックアップトラック販売台数
(対全国構成比)
第1次産業(農業・林業)
対名目GDP構成比
人口(万人)
所属県
中央部
東北部
北部
南部
422,594
(71.9%)
77,360
(13.2%)
54,202
(9.2%)
33,959
(5.8%)
4.0%
21.2%
25.6%
28.1%
2,145
アーントーン
アユタヤ
バンコク
チャイナート
ロッブリー
ナコーンナーヨック
ノンタブリー
パトゥムターニー
サムットプラーカーン
サラブリー
シンブリー
ナコーンパトム
サムットサーコーン
ラーチャブリー
ペッチャブリー
2,150
アムナートチャルーン
1,177
チエンマイ
チェンラーイ
ラムパーン
ラムプーン
メーホンソーン
ナーン
パヤオ
プレー
ウタイターニー
ピッサヌローク
スコータイ
ターク
カンペーンペット
ピチット
ペッチャブーン
ナコーンサワン
ウッタラディット
881
チュムポーン
クラビー
ナコーンラーチャシーマー
チャイヤプーム
ブリーラム
スリン
シーサケート
ヤソートーン
ウボンラーチャターニー
カーラシン
コーンケン
ルーイ
マハーサーラカーム
ムックダーハーン
ナコーンパノム
ノーンブワラムプー
プラチュワップキーリーカン
ノーンカーイ
スパンブリー
ローイエット
カーンチャナブリー
サコンナコーン
サムットソンクラーム
ウドーンターニー
チャチューンサオ
チャンタブリー
チョンブリー
ラヨーン
プラーチーンブリー
サケーオ
トラート
出所: タイ国家経済社会開発庁(NESDB)統計を基に浜銀総合研究所が作成
ナコーンシータンマラート
パンガー
パッタルン
プーケット
ラノーン
スラートターニー
トラン
サトゥーン
ソンクラー
ヤラー
ナラーティワート
パッタニー
担当:調査部 産業調査室 深尾三四郎
TEL 045−225−2375
E-mail: [email protected]
本レポートの目的は情報の提供であり、売買の勧誘ではありません。本レポートに記載されている情報は、浜銀総合研究所・調査部が
信頼できると考える情報源に基づいたものですが、その正確性、完全性を保証するものではありません。
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