サブプライム危機と日本のクレジット市場(

JAPAN CREDIT PERSPECTIVES
サブプライム危機と日本のクレジット市場(����
第2弾�
)
小関 広洋
(おぜき こうよう)
2008年1月
サブプライム問題は、金融システム危機としての色彩を強め、米欧各国の金融当局・政府
による対応にもかかわらず、市場の不透明感はなかなか晴れる兆しが見えません。この
間、日本のクレジット市場においても、CDSプレミアムの拡大が続き、景気減速のリス
クとあいまって、市場環境は大きな節目を迎えつつあると考えられます。サブプライム
問題はいつ底を打つのか?日本のクレジット市場はどうなるのか?前回のJapan Credit
Perspectives 10月号 1 に続き、今回もこの問題について考えて見ることにしましょう。な
お、テーマの性格上、米国・欧州の状況に関しても言及していますが、これらは筆者自身
の推定・分析を多く含んでいるため、文責は全て筆者にある点を予めおことわりしておき
たいと思います。
サブプライム問題の展開-修正を迫られた金融機関のビジネスモデル
サブプライム危機は、2007年2~3月の住宅ローン専業ノンバンクの破綻(ニューセン
チュリーなど)から始まり、5~6月の投資ファンド数社の破綻を経て、8月以降は資産担
保コマーシャル・ペーパー(ABCP)市場の流動性危機、さらに10月以降は欧米大手金
融機関の巨額赤字計上・資本増強へと展開してきました。いわば、銀行の周辺分野から銀
行システムの中枢へと危機が迫り、かつ単なる流動性危機から、金融機関のソルベンシー
(資本不足)に関わる問題へと拡大してきたのです(図表1)。これは、サブプライム問題
が、単なる住宅価格の調整による不良債権の発生に止まらず、過去数年間に築き上げられ
た金融市場の構造そのものが修正を迫られているということを示しています。すなわち、
①米国住宅バブル崩壊、②金融商品のレバレッジの巻き戻し、③ABCP、ストラクチャー
ド・インベストメント・ビークル(SIV)など、銀行のオフバランス・ビークルの流動性リ
スクの顕在化、④トランザクションの透明性欠如とリスク拡散による問題の複雑化、⑤過
度に縮小したリスクプレミアムの調整、など複数の要因が相互に絡みあいながら金融市場
の地盤を揺るがせているのです。
Phase 1
Phase 2
Phase 3
Phase 4
2006年
米国住宅市場の冷え込み
2007年2~3月
住宅ローン業者の破綻多発(ニューセンチュリーなど)
2007年5月
UBSが傘下の投資ファンド(ディロンリード)を解散
2007年6月
ベアスターンズ傘下のヘッジファンドが経営危機
2007年7月
サブプライム関連の証券化商品の大量格下げ
2007年8月
BNPパリバ傘下のファンド凍結を機に金融市場で流動性問題発生
→ABCP市場で流動性危機が発生
2007年9月
英銀ノーザンロックに取り付け発生
2007年10月
米国金融機関が巨額の損失を発表(シティー、メリル)
2007年11月
モノライン保険会社の損失計上→格下げ懸念浮上
フレディマックが第3四半期赤字計上
欧米金融機関の赤字拡大→自己資本増強相次ぐ
出 所:PIMCO
図表1
JAPAN CREDIT PERSPECTIVES
サブプライム問題の全体像
サブプライム問題がなぜ金融市場の流動性危機に
昨今、ABCP・SIVの流動性危機、モノライン(金
至ったのか、そのメカニズムについては前回詳しく
融保証保険会社)の信用力低下、政府系住宅機関
説明しましたので、今回は、その後ハイライトを浴
(GSE)ファニーメイ、フレディマックの信用力
びたモノライン(金融保証会社)とGSE(ファニー
問題など、さまざまなニュースがメディアを賑わせ
メイ、フレディマック)の問題について補足してお
ています。それらはどのようにサブプライム危機と
きましょう。
繋がっているのでしょうか。まずは登場人物とその
モノラインの格下げ問題
役割を整理し、「サブプライム劇場」の舞台全体を
モノライン(金融保証会社)とは、地方債等の公的
見渡して見ることにしましょう(図表2)。サブプ
セクターの債券を保証する機関として1970年代に
ライム住宅ローンは、その約70%が証券化(うち
設立されました(現在、公共セクターの保証残高
約40%が二次証券化)されて金融機関や投資家に
150兆円)。近年は証券化商品の保証業務を拡大さ
保有されていると見られます。銀行・証券会社など
せ、RMBS(主として高格付け)を中心に証券化商
の金融機関はサブプライム全体の40%程度(約80
品の保証残高は95兆円にのぼっています。市場は、
兆円)を保有し、さらに一部はSIVが保有(約10
MBIA、AMBAC、FGIC、FSAの4社が90%のシェ
兆円)していると推定されます。また、ファニーメ
アを占める寡占状態となっています。金融保証とい
イ、フレディマックも、自己の投資勘定で約30兆円
うビジネスの性格上、AAAの格付けが事業の根幹
のサブプライム関連資産を保有、モノラインと呼ば
となっているわけですが、ことの発端は、10-11
れる金融保証会社も、約95兆円のABS-CDOを含む
月のABSの市場価格急落(ホームエクイティローン
住宅ローン担保証券(RMBS)に保証を行っていま
ABSインデックスABXのAAA格価格は約30%下
す。サブプライム問題は、このように、関連する当
落)により、評価損の計上により資本が毀損した結
事者を次々と巻き込んで、信用不安の連鎖を招いて
果、格付け会社がAAAの格付け見直しに入ったこと
いるのです。
でした。もしモノラインが格下げとなれば、被保証
資産の格付けが低下、それがさらにモノラインの格
1200兆円
下げにつながるという格付けのスパイラル的低下を
米国住宅ローン市場
200兆円
1000兆円
サブプライム
プライム
140兆円
100兆円
プライマリー
マーケット
もたらし、モノラインの保証によって成り立ってい
る商品・市場も機能低下のリスクに晒されるわけで
す。また、信用保証という、いわば信用力の最後の
400兆円
砦が傷つくことによる心理的影響も、市場環境に大
銀行/証券会社
ファニーメイ/フレディマック
きなインパクトを与える可能性があります。モノラ
証券化
RMBS
金融保証
再証券化
モノ
ライン
ストラクチャ
リング
イン大手各社は格下げ回避のため資本増強を模索し
ており、格下げスパイラルによるシステミックリス
ABSーCDO
クの増幅は避けられそうですが、格付けが安定する
60兆円
50兆円
90兆円
まではワイルドカードとして、予断を許さない状況
が続くと見られます。
10兆円
ヘッジファンド
SIV
80兆円
その他のABCP
30兆円
ファニーメイ、フレディマック問題
投資家
バックアップライン
出資/融資
ファニーメイ、フレディマックはともにGSE
銀行
証券会社
ファニーメイ
その他の
フレディマック 投資家
(Government Sponsored Enterprises、政府
出所:PIMCO
支援企業)と呼ばれ、民間保有の株式会社ながら
図表2
「暗黙の政府保証」によりAAAの高格付けを付与
されています。GSEに対する「暗黙の政府保証」
1.��������������������
資産デフレは人為的な政策では止められない
の具体的内容としては、①財務省の債券買取りに
2. 問題先送りは傷を深くする
よる緊急融資枠(22.5億米ドル)、②法人所得税
3. 金融機関の損失処理が終わらないと金融市場は
安定しない
免除、③GSE債券は米国証券取引委員会(SEC)
への登録免除、④銀行はGSE債券の保有制限を受
けない、などの優遇措置が挙げられます。問題発
などが挙げられますが、サブプライム問題に関して
生のきっかけは、11月にフレディマックが第3四
も、この教訓はそのまま当てはまると考えられます。
半期20億ドルの損失計上を発表、連邦住宅貸付機
上に挙げた諸施策は、それぞれ一定の役割、効果は期
関監督局(OFHEO)が同社に資本増強を指導した
待されるものの、それだけで問題の解決につながるも
ことでした。ファニーメイ、フレディマックの株
のではないのです。
価は急落、市場の一部では、GSEの信用力低下の
市場安定化の必要条件
懸念が取り沙汰されました。ただし、ここで注意
現在の市場環境を見てみると、サブプライム問題で株
しなければならないのは、フレディマックの損失
式相場は下落しているものの、影響はクレジット市場
は自己勘定におけるサブプライム関連投資による
の方がより深刻です。クレジット市場の混乱は、金融
ものであり、同社が証券化・保証した所謂「エー
機関のリスクテーク能力の低下によって、マーケット
ジェンシーMBS」のクオリティー悪化を意味する
の潤滑油である仲介機能が停止していることによると
ものではないという点です。米国の住宅市場にお
ころが大きいと考えられます。その意味で、クレジッ
けるGSEの重要性に鑑みて、「暗黙の政府保証」
ト市場の混乱は金融市場における流動性危機、さらに
は今後とも継続され、エージェンシーMBSなど
突き詰めれば、金融機関の財務体力と表裏一体である
シニア債のAAA格付けは維持されると考えられ
と言うことができます。金融機関の財務体力回復と
ます。
は、損失処理完了と資本再構築のプロセスであり、言
日本の不良債権問題の教訓
い換えれば、問題解決への道のりはそれに要する時間
さて、ここで話を本論に戻し、サブプライム問題が
軸ということになります。
終息するためには何が必要なのか、改めて考えて見
問題解決への道のり
ることにしましょう。現在、市場安定化の施策とし
問題解決までの距離を測定するための第1のステップ
ては、政府・中央銀行の政策として、①金融システ
は、サブプライムと関連商品の評価損がどこまで拡大
ム安定化策(流動性供給・預金の保証など)、②金
するのか、という見積もりです。これに明快な答えが
融政策(利下げ)、③債務者救済策などが実施ない
あるわけではありませんが、国際通貨基金(IMF)や経
し計画され、民間金融機関サイドも、④問題債権の
済協力開発機構(OECD)の試算を参考にして、サブ
受け皿創設(サブプライム対策基金など)、⑤自己
プライム関連損失=30兆円という数字を出発点として
資本強化などの自助努力を行っています。これら
考察を進めることにしましょう。これは、大まかに言
は、まさに日本の不良債権問題における官民の施策
うと、サブプライム住宅ローン(Alt-Aを含む)残高
と、ほとんどオーバーラップして見えます。サブプ
200兆円の15%(デフォルト率40%×ロス率40%)
ライム問題は、「間接金融主体の日本のケースとは
に相当します。最近金融機関が公表した損失の内容を
全く事情が異なる」という見方もありますが、事態
見ると、直接のサブプライム向け損失に加え、その他
が金融機関のソルベンシー問題の次元に達した今
の証券化商品等の評価損が全体の約半分を構成してい
日、本質的には日本の不良債権問題と極めて類似し
ますので、全体の損失はサブプライム向け30兆円の
た側面を有していると考えられます。日本の不良債
倍近く、すなわち50-60兆円と推定することができま
権問題から学ぶべき教訓としては、
す。このうち、金融機関が保有するエクスポージャー
JAPAN CREDIT PERSPECTIVES
は40%程度と見られ、金融機関が負担しなければ
がかかる点にも留意が必要です。最近発表された、
ならない潜在損失は20-25兆円ということになり
欧州系大手銀行が損失額の2倍に及ぶ資本調達を行っ
ます。
たというニュースも、この文脈で捉えると理解しや
すいと思います。
次に、推定された潜在損失と、金融機関の計上した
損失(評価損を含む)の間のギャップを測定してみ
欧米大手金融機関のセンシティビティー分析
兆円
280
ましょう。2007年12月末までに公表された大手金
年間収益
融機関の損失額の合計はおよそ10兆円で、これは
270
推定潜在損失20-25兆円の40-50%に相当します
260
(図表3)。
250
自己資本
30
240
潜在損失と損失処理の状況(推定)
230
サブプライム以外の商品
サブプライム
240
ローン
RMBS
ABS CDO
RMBS
評価損
CDO
評価損
HY
Loans
関連
30兆円
10兆円
10兆円
1-2兆円
220
210
0
30
40
出所:PIMCO試算
50兆円
50
60
70
80
90
100
兆円
サブプライム関連損失
図表4
金融機関
シェア40%
その他投資家
シェア60%
20兆円
30兆円
このように見てくると、問題解決に向けた現在まで
の進捗度合は、全体として見ると概ね4~5合目であ
損失計上済みは8兆円
出所:PIMCO
り、金融機関ファンダメンタルズのボトムアウトと
金融市場の安定性回復には、なお時間を要するもの
図表3
と考えられます。今までの損失認識のペースから見
て、最短でもあと2四半期を要すると見るべきでしょ
さらに、潜在損失の増減に対する、金融機関の財務
う。ただし、スピード感としては、日本が15年間か
体力のセンシティビティーを見てみましょう。欧米
けて処理した問題を、1年足らずで目処をつけること
の大手銀行(上位50行)に大手証券会社(上位10
ができるとすれば、処理は極めて迅速という評価も
社)を加えた金融機関全体の自己資本と年間純利益
できるでしょう。中東やアジアのソブリン・ウェル
(サブプライム問題発生前の2006年度)はそれぞ
ス・ファンドなど、積極的な資本の出し手が存在す
れ240兆円、30兆円となっていますので、上に述
ることも、金融機関にとっては大きな救いです。
べたサブプライム関連損失(金融機関負担分20-25
兆円)は、年間純利益にほぼ匹敵する規模となりま
しかしながら、金融システム危機が一段落した後
す。潜在損失がさらに拡大すれば、徐々に自己資本
も、金融機関以外の投資家が保有する証券の損失処
を侵食し、ソルベンシー危機へ発展する可能性が強
理も簡単には解決しないと見られること、さらに、
まりますが、証券化によってリスクの半分以上が一
住宅価格下落で損失額がさらに拡大する可能性等を
般投資家に転嫁されていることもあり、金融システ
鑑みると、市場のストレスは長期化する可能性も否
ム全体が債務超過に至るような事態にはなりにくい
定できません。
と考えられます(図表4)。また、潜在損失は、証券
日本のクレジット市場の現状
化商品の組成やABCP・SIV等によるビジネスを手掛
けていた大手金融機関への集中度が高いため、負担
さて、ここで話題を転じて、日本のクレジット市場
は均等ではなく、一部の金融機関により大きな負荷
の状況について見ることにしましょう。日本の金融
機関のサブプライム・CDO関連損失は、当初見込
日本のクレジット市場は、巨大なローカルマーケッ
まれた額より上振れつつあるものの、収益全体の規
トであり、欧米市場から比較的独立した要因で動く
模から見ると未だ限定的なものとなっています。金
傾向が強いと見られています。しかしながら、過去
融庁の発表した邦銀のサブプライム関連エクスポー
数年、日本市場と海外市場のつながりは水面下で強
ジャーはおよそ1.2兆円、これに対して現在までに
まっており、海外市場の影響は決して無視できない
公表された損失額はおよそ6,000億円となっていま
ものとなっています。例えば、銀行やノンバンクな
す。分母の金額は、定義の曖昧さもあって、なかな
ど、資金需要の大きな発行体にとって、海外市場で
か捉えにくい面もありますが、仮に損失が倍に膨ら
の起債は限界的な調達手段として、いわば国内市場
んだとしても、年間のフロー収益で十分にカバーで
の需給調整の「安全弁」として重要性を増してきま
きる金額です。金融市場における流動性も潤沢で、
した。海外市場における起債環境の悪化によって、
欧米のようにシステミックリスクが発生してクレ
この「安全弁」は機能停止の状況に陥っています。
ジット市場全体を揺るがす、という展開は起こりに
現在、日本の社債市場は、発行体にとって世界中で
くいと考えられます。
最も資金調達コストの低い市場となっており、株式
しかしながら、クレジット市場では、グローバル
発行から社債発行への資金調達のシフトも含めて、
なスプレッド拡大の影響が、じわじわと浸透して
社債発行額は今後増加していくものと考えられま
います。例えば、クレジットデフォルトスワップ
す。欧米金融機関やアジアの発行体によるサムライ
(CDS)市場では、海外投資家のヘッジ行動による
債発行の活発化ともあいまって、社債市場の需給
軟化傾向が長期化しつつあり、CDSインデックス
バランスは、向こう6ヶ月~1年の間に、「需要超
(iTraxx Japan)は、9~10月にいったん30bps
過」から「供給過剰」へとシフトする可能性があり
まで縮小したものの、11月には再び拡大し、一時
ます。
50bpsを付け、現在は40bps前後で推移しています
さらに、海外におけるバンクキャピタル市場のスプ
(図表5)。
レッド拡大は、邦銀の資本調達コストを上昇させ、
銀行の貸出姿勢厳格化という経路で貸出金利、ひい
強まりつつある海外市場とのつながり
てはクレジットスプレッド全般の水準調整を促すで
地域別5年CDSインデックス推移
(投資適格級)
しょう。需給環境の変化とともに、過去数年の間に
進んだ「異常な」スプレッドの縮小の水準調整が起
120
北米(IG8)
北米(IG9)
欧州(IG)
日本(IG)
こる環境が、徐々に整ってきているのです。
80
米国景気減速の影響はこれから
60
サブプライム問題が世界経済に影響を与えるもう一
つのルート、すなわち米国の住宅価格下落→消費低
40
迷→企業収益悪化→景気減速というマクロ経済的要
20
因が日本に本格的影響を与えるのはこれからです。
過去数年間、日本の景気を牽引して来た輸出企業の
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ベーシス・ポイント
100
業績はスローダウンし、既に弱含みの状況にある中
小企業の業況は、一層厳しくなると予想されます。
出所:ブルームバーグ
図表5
このように、日本における企業のファンダメンタル
JAPAN CREDIT PERSPECTIVES
ズは、2003年以降の急速な回復期からピークアウ
トを積み上げるのも、中長期的な観点からは有効な
トし、今後ダウンサイドリスクが徐々に増加するも
投資と考えられます。マクロ経済とミクロ・企業セ
のと予想されます。
クターの分析を常にすり合わせ、リスクテークのベ
ストタイミングを模索することが、向こう3ヶ月の投
「日本は欧米と状況が違うから大丈夫」と言い切る
資テーマということになります。
のは、2005~2006年当時の米国社債市場におけ
る「クレジット市場は構造的に大丈夫」というユー
フォリアに似たリスクがあると筆者は思います。
小関 広洋
潮目は変わりつつある
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
サブプライム問題は、過去のエンロン、ワールドコ
ム、GM・フォードといった一時的、局地的な事例
とは異なり、金融市場の構造的な問題に深く根ざし
た、地殻変動的な変化であると言えます。リスクプ
レミアムの調整はグローバルな規模で起こりつつあ
り、日本もその例外ではあり得ないでしょう。金融
市場・社債市場経由の需給バランスや価格の変化の
みならず、マクロ経済経由での企業ファンダメンタ
ルズの変化を通じて、リスクプレミアム全般の水準
調整がこれから起きようとしていると考えられま
す。欧米市場とは一定のタイムラグがあるものの、
CDS市場が主導する形で、クレジットスプレッドの
水準が徐々に切り上がる展開が予想されます。
クレジット投資へのインプリケーション
グローバル市場における投資環境を見てみると、金
融市場におけるシステミック危機は一応2008年中
に終息する可能性が高いものの、米国の景気減速に
よる企業のファンダメンタルズ軟化と、需給バラン
ス悪化によるリスクプレミアム上昇には、十分な
警戒が必要です。従って、投資先のクオリティーを
絞ってディフェンシブなポートフォリオを作ること
が、グローバルなクレジット投資戦略の基本となり
ます。
日本に関しても、世界的な潮流であるリスクプレミ
アムの調整は今後じわじわと浸透してくると予想さ
れ、慎重な投資スタンスが必要となります。
一方、過去の経験を振り返ると、金融危機による市
場の混乱は、ユニークな投資機会も提供していま
す。需給要因でスプレッドがワイド化したクレジッ
1
Japan Credit Perspectives 10月号 http://japan.pimco.com/LeftNav/Global+Markets/Japan+Credit+Perspectives/2007/JCP+10+2007+JPN.htm をご参
照ください。
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ります。ローン担保証券(CLO)を含む債務担保証券(CDO)とは、高水準のリスクを伴う場合があり、かかる有価証券の購入に付随するリスクを理解できる適格投資家
に対してのみ販売されます。資産担保型証券(ABS)は金利水準の変化に対する感応度が高い場合があります。資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)は導管体とも呼
ばれる特別目的金融会社が売掛金、ローン、リースを始めとする各種資産の購入資金を調達するために利用する証券化商品です。これらの有価証券は、市場での発行者の信
用力によって変動する可能性があります。モーゲージ担保証券や資産担保証券は金利水準の変化に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴います。また、一
般的には政府、政府機関、または民間保証人の支援に裏付けられていますが、保証人が債務を履行する保証はありません。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポー
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