農協における信用格付に基づくプライシングと 収益管理の予備的考察

23
農協における信用格付に基づくプライシングと
収益管理の予備的考察
加
島
徹*
要約 : 本稿では῍ 貸出の信用リスクの管理と収益性の向上のために何を行っていくべきなのか῍ 実際
の農協の現状を踏まえたうえで明らかにしていきたいῌ
信用リスクの管理としての債務者の信用格付῍ 貸出のキャッシュフロ῎の把握とポ῎トフォリオと
しての貸出の管理の必要性῍ 考え方を整理したうえで῍ 農協の貸出における信用リスク管理῍ 収益向
上策の課題を整理していくことにするῌ
本研究は῍ 農協の貸出における金融工学的なクレジットῌスコアリングモデルを含めた将来の本格
的な信用リスク管理の実現に向けた予備的な考察であるῌ
キ῍ワ῍ド : 農協経営῍ 信用リスク῍ 信用格付῍ プライシング῍ デフォルト῍ 信用コスト
῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍
῎ῌ は じ め に
特に農協における信用リスクの管理は資産査定
῏ῌ
農協における信用リスク管理の現状と問
題点
による債務者区分しか信用リスクの評価を行う手
ῌ 農協の貸出金の現状と特色
段がないῌ 農協における事業リスクの計量化は῍
いくつかの実際の農協での貸出金の現状をみる
金利変動リスクに関してはある程度の数値化が行
と῍ 以下のような共通した特色がみられるῌ
われているものの῍ 信用リスクに関する数値化は
ῌ 貸出先の属性と業種集中
行われておらず῍ 信用リスクの量の把握が困難で
資金の貸出先は῍ 個人が圧倒的なシェアを占め
あるῌ このため῍ 残念ながら信用リスクの管理の
ているが῍ 個人の場合῍ 資金使途をみると賃貸住
面では他の金融機関に遅れをとっている状況にあ
宅建設等の事業性資金が大きな割合を占めてい
るῌ
るῌ 法人に関しては῍ 不動産業῍ 建設業関係に関
本稿では῍ 農協の利益に占める貸出収益の重要
する融資が多く῍ 業種集中がみられるῌ 法人の資
性に鑑み῍ 現状の農協の信用リスク管理の問題点
金使途についても設備投資など比較的短期の運転
を把握したうえで῍ 今後の信用リスクの管理の高
資金や設備投資に関する資金は少なく῍ 長期に亘
度化と収益性の向上のために条件整備として何が
る賃貸住宅建設資金が多いῌ
必要なのか῍ 課題は何かについて述べていくこと
῍ 貸出先の集中度
にするῌ
貸出金額のうち約 - 割の貸出先で 3 割程度の貸
本研究は῍ 農協の資金貸出における金融工学的
出残高を占めるῌ 約 , 割で 2 割程度῍ + 割で 1 割
なクレジットῌスコアリングモデルを含めた将来
程度を占めるῌ この比率はいくつかの農協でも多
の本格的な信用リスク管理の実現に向けた予備的
少の違いはあっても同様な傾向にあるῌ とくに大
な考察と位置づけられるものであるῌ
口先への貸出の集中が顕著であるῌ 信用リスクの
管理の意味では῍ 大口債務者を中心にデ῎タの整
* ῏社ῐJA 総合研究所基礎研究部
備や信用リスクの管理を行うことが効果的であるῌ
農村研究 第 ++* 号 ῏,*+*ῐ
24
ῌ 信用格付の適用
ためには担保情報の整備は不可欠であるῌ
現在῍ リスクマネジメントのコンサルを数農協
῎ デフォルト率
で実施しているが῍ どの農協においても信用格付
デフォルト率は῍ 破綻懸念先以下をデフォルト
を導入しているところはなかったῌ 信用格付に該
として算出すると農協による格差がでるῌ これ
当するものとしては自己査定上の正常῍ 要注意῍
は῍ 農協の管内のエリアの市場性など῍ 地域差が
要管理῍ 破綻懸念῍ 実質破綻῍ 破綻先などに区分
大きく影響しているῌ 破綻懸念先以下をデフォル
されているものしかないῌ 信用格付ではより正常
トとし῍ その件数と金額で比較すると一般的に件
先や大口先の信用状況の変化を把握するため῍ あ
数でみたデフォルト率よりも金額ベ῎スのデフォ
る程度の規模の他の金融機関ではすでに金融庁な
ルト率のほうが高いῌ これは῍ 件数的には少ない
どの指導に基づいて債務者格付の導入を行ってい
が῍ デフォルトすると金額ベ῎スでは影響が大き
るῌ
いことを示しているῌ
῍ デフォルト時損失率 ῏LGDῐ
ただし῍ 破綻懸念以下の債権額をみると大きな
実際の融資において相手先が倒産した時にどれ
ものが多く῍ 信用リスクの管理は収支面でも農協
だけの担保でカバ῎できない金額があるのかを示
にとって重要と考えられるῌ 大口の債務者から信
すのがデフォルト時損失率であるῌ 基本的には担
用格付けなど相手先の分析力を高めていくことは
保で貸出を行っているスタンスにあるが῍ 実際の
必要といえるῌ
デフォルト時損失率 ῏LGDῐ を把握すると正常先
῏ 貸出のポ῎トフォリオ
はほとんど担保でカバ῎されており῍ 破綻懸念先
農協の資金貸出ポ῎トフォリオは῍ 圧倒的に長
+ῐ
以下になると LGD 率が急速に上昇し῍ 債務者区分
期の貸出が多く῍ 短期が少ないのが特徴であるῌ
によってその格差が大きい結果が得られているῌ
現状の金利リスクの大半は῍ 長期の貸出によると
債務者格付も現状では未導入であり῍ 債務者格
ころが大きいῌ 現行のポ῎トフォリオを変えてい
付と資産査定結果が一致しない可能性もあるῌ 実
くためにはこれまで取り組んでいない法人の運転
際に正常先から破綻懸念先になったケ῎スでは多
資金などを取り組んでいくことになるが῍ そのた
くの引当金が要する結果になっているῌ これはと
めには格付けや相手先の分析力を高めていく必要
くに建物の担保評価が再度῍ 建物を建設するよう
があるῌ
な再調達価格の評価であるなど῍ 担保評価の基準
が影響していると思われるῌ
長い貸出ほど利率面や金利リスクなどの面で条
件が厳しくなってくるので῍ 既存の貸出ポ῎トフォ
実際に信用リスクが及ぶ範囲を特定するために
リオの利息の減少をカバ῎していくためにはさら
も資産査定の基準ではなく῍ 正常先の大口貸出先
に融資を伸ばし続ける必要性があるῌ しかし῍ 金
を中心に実際のデフォルトを想定した担保評価に
利リスクや自己資本比率などを考慮すれば῍ 有価
近い評価を行い῍ デフォルト時の損失率をリスク
証券も含めた信用事業全体の利回り向上を図って
管理上は採用すべきと思われるῌ
いくことが必要と考えられるῌ
また῍ 農協の例では῍ 担保が無いと貸出を行わ
ῐ デ῎タ等῍ 基礎インフラの整備
ないことになっているが῍ 正常先῍ 要注意先など
農協は῍ 信用力の分析のために῍ デ῎タの整備
の貸出先では肝心の担保デ῎タに欠損値が多い例
計画を策定していく必要があるῌ とくに῍ 信用リ
などがみられ῍ 貸出先の担保情報の整備を査定だ
スクの可能性のある金額はいくらなのか῍ LGD+ῐ
けではなく῍ 信用リスクの観点から正常先῍ 要注
に関わるデ῎タの整備῍ 法人に関しては債務者格
意先の大口先についても整備していくことが必要
付などによる分析の高度化῍ 大口個人に関わる基
であるῌ 自己査定上῍ ῑ分類となる正常先῍ 要注
礎デ ῎ タ ῏収支 ῑ 保有資産内容ῐ の蓄積が重要に
意先であっても信用リスクの及ぶ範囲を特定する
なってくるῌ これらは῍ 時間を要する課題である
農協における信用格付に基づくプライシングと収益管理の予備的考察
25
ので῍ 整備計画を策定していくことが必要 ῏整備
ルトしても担保でどこまでカバ῎されているかが
を行わなければ先に進まないῐ であるῌ
数値として把握されることがまず必要であるῌ 担
インフラ面では῍ + 次査定と , 次査定に関わる
保で実質カバ῎される信用リスクがどの程度か判
牽制を行えるようにするため῍ 査定シ῎トの改善
明すれば LGD ῏デフォルト時損失率ῐ など信用リス
や支店でのデ῎タ管理から本店集中化によるデ῎
クの管理上基本となる情報が得られるῌ
タ管理へ変えていくことが必要になってくるῌ
しかしながら῍ 実際の農協では担保情報が正
ῌ 農協における信用リスク管理の問題点
常῍ 要注意先は登録されていないケ῎スもみられ
農協における貸出のポ῎トフォリオでの個人の
るῌ こうした状況では信用リスク管理の入り口に
事業性資金のウエ῎トが大きいことや信用リスク
も到達しないῌ まず῍ 信用リスクの及ぶ範囲を特
の管理が自己査定や会計処理を中心としたものに
定するために必要な担保などの情報整備ができて
なっている実態を踏まえると以下のような課題を
いるかを検証していかなければならないῌ
挙げることができるῌ
信用リスクは῍ 相手先の信用状況を評価し῍ デ
ῌ 大口債務者向けの信用格付の未導入
フォルトになる程度を評価するῌ そのためには大
農協において他の金融機関が実施している債務
口債務者を中心に信用状況に関わる基礎デ῎タの
者格付が導入されていないῌ このため相手の信用
収集と蓄積が必要であるῌ 法人では῍ 貸借対照表῍
力を適正に評価することはできず῍ 信用力の変化
損益計算書῍ 個人については青色申告の場合῍ 貸
を反映した対策を構築することは困難な状況にあ
借対照表῍ 損益計算書῍ 収支だけの個人について
るῌ 正常先のなかでもどの程度の信用状況が悪化
は῍ 税務申告書の第 + 表に加えて不動産収支内訳
しているのか῍ 逆に良くなっているのか῍ 単なる
書などが必要になってくるῌ デ῎タの整備計画を
正常先では信用状況が悪化した場合の対処策を講
作成し῍ 信用リスクの管理に向けて査定時などに
ずることはできないῌ
あわせて着実に基礎デ῎タを整備することも必要
とくに破綻懸念先が大口融資先になっているこ
であるῌ また῍ 住宅ロ῎ンなどリテ῎ルの小口の
とや個人においても事業性資金が多い実態を踏ま
資金については῍ 信用リスクの評価のために家族
えると大口融資先の財務分析や信用力の評価を十
構成や勤め先の業種など属性デ῎タの整備が必要
分行うことが必要であるῌ 特に法人等の大口貸出
であるῌ
先は信用状況の変化を細かく把握し῍ 客観性῍ 公
῎ 他事業との連携と新規資金需要の開拓
平性を確保した大口債務者向けの信用格付の導入
農協の資金貸出は῍ 賃貸住宅建設融資が多く῍
が必要と考えられるῌ
期間が長期に渡るものが多いῌ 基本は担保主義の
また῍ 貸出の契約と実行が完了すれば貸出業務
貸出が主流であり῍ それが農協の貸出の特色であ
は終了でその後の信用状況の変化を管理していな
るῌ とくに῍ 信用リスクの小さい優良貸出先に関
いケ῎スがよくみられるῌ このため῍ 貸出先が延
しては῍ 他行との競争が激しく担保条件や金利面
滞してはじめて対策を行うケ῎スが多いῌ こうし
での競合が激しいῌ
た現行の問題点は大口貸出先でも同じ状態にあ
担保主義に拘れば優良貸出先を失うことにな
り῍ とくにデフォルトした場合の損益に影響の大
り῍ 信用リスクを評価できなければ金利面での優
きい貸出先の信用リスク評価ῌ分析や格付けの実
遇などの措置ができないῌ 債務者格付の導入と格
施は重要といえるῌ
付けによる内部基準῍ 基準金利のル῎ルを定めて
῍ 信用リスク評価のための基礎デ῎タの不足
いかなければ῍ 競争激化のなかで事業を伸長させ
信用リスクを評価するためには῍ まず῍ 農協の
ていくことは難しいῌ 優良貸出先を着実に確保し
信用リスクがどの程度まで及ぶのかを特定するこ
ていくことが将来の貸出の安定収益につながって
とが必要であるῌ このためには῍ 貸出先がデフォ
いくῌ
農村研究 第 ++* 号 ῏,*+*ῐ
26
また῍ 貸出の現状のポ῎トフォリオは長期の案
件が多く῍ それが金利リスクを増大させているῌ
ῌῌ 債務者の信用格付による信用リスク管理
期間の短期化では῍ 法人融資なども良いが῍ その
ῌ 信用格付による信用リスクの評価と対策
場合῍ 法人向けの財務分析を基本とした債務者格
債務者の信用格付の導入により῍ 貸出先の信用
付けの導入など基礎インフラの整備が不可欠であ
状況の評価と変化をみることができるῌ 債務者の
るῌ
信用格付は現時点での貸出先の信用力の評価であ
現状の農協の貸出形態をみた場合῍ 担保主義か
るῌ 債務者の信用格付が変化することは債務者に
ら信用主義に変更する῍ 信用力判定のための基礎
信用状況の変化があったことを示すῌ 信用状況が
インフラの整備が課題であるῌ
好転する場合もあるし῍ 悪化する場合もあるῌ 前
現在῍ 農協の貸出のポ῎トフォリオのなかで住
者では債務者の信用格付が良い方向へ変化し῍ 後
宅ロ῎ンや賃貸住宅建設資金が大きなウエ῎トを
者では悪化の方向へ変化するῌ 格付けの変化が分
占めているが῍ 今後の人口減少や世帯数の減少を
かれば῍ 将来の損失の可能性の有無が判明し῍ 信
想定すれば地域によっては貸出の増加傾向が鈍化
用状況が良化していけば他行との競争が生じてく
していく可能性もあるῌ
るなど῍ 将来の変化に備えて対策を講じることが
一方で今後とも貸出のボリュ῎ムを確保してい
可能になるῌ
くためには῍ 例えば経済事業と信用事業との与信
債務者の信用格付の変化を前回の債務者の信用
管理方法を共通化するῌ 経済事業の未収金管理に
格付と今回の債務者の信用格付でクロスさせると
も信用事業における債務者格付の導入を行えば῍
次の図のような例になったとするῌ 例のような債
取引先の信用状況の評価が統一的に行え῍ 信用状
務者の信用格付けの変化があったとすれば + ラン
況が良好な取引先については新たな貸出先として
ク債務者の信用格付が落ちたところは業況をより
開拓していけるなど῍ 農協の総合事業としての特
詳しく把握すべきところ῍ , ランク債務者の信用
色を生かした貸出の事業伸長が可能になるῌ
格付が落ちたところは急速に財務が悪化している
経済事業の取引先には組合員もいれば仕入先な
ため業況把握とともに今後῍ 信用状況の悪化が進
ど一般法人も存在するῌ そうした経済事業の取引
めば保全強化など将来の損失に向けた対策を講じ
先を含め貸出を伸ばしていくには相手先の財務を
るべきところ῍ - ランク以上もしくは最低の債務
分析し῍ 信用力を評価していく能力を農協自らが
者格付になっているところは業況が悪化している
つけていくしかないῌ
ため῍ 保全強化῍ 金利引き上げなどを行って将来
図 + 信用格付による信用力の評価と管理
῏出所ῐ 筆者作成ῌ
῏注ῐ +ῐ マトリックスのなかの数値は債務者数を表しているῌ
,ῐ 債務者格付が大きく悪化しているところは色が付いている箇所で色が濃くなれば信用状況が悪化していると
ころを示しているῌ
農協における信用格付に基づくプライシングと収益管理の予備的考察
27
の損失の低減 ῐ回収の強化ῑ に向けた対策を講じて
をみると +* 段階に債務者の格付が行われており῍
いくことになるῌ
1 ランクまでは正常先῍ それ以下では要注意先以
῍ 信用格付と自己査定の厳格化
下の債務者に該当するように定義されているケ῏
信用格付が導入され῍ 債務者の信用格付と自己
スが多いῌ このように本来῍ 債務者格付は自己査
査定が毎年῍ 更新されている状況を想定してみる
定結果と連動するものであり῍ 債務者格付が行わ
ことにするῌ 債務者区分が正確であれば債務者の
れることで自己査定結果も決まるようになり῍ 自
信用格付と債務者区分の分布は同じになるはずで
己査定の正確性に寄与することになるῌ
あるῌ 日本では῍ 債務者の信用格付の概念がな
かったため῍ 金融検査マニュアルで債務者区分を
定義し῍ 荒い債務者の信用格付の導入を行ったῌ
῍ῌ 信用リスク管理による収益性の向上と
ポ῍トフォリオ管理
米国等海外の事例では融資先の信用状況は個῎に
ῌ 信用リスクと貸出金利の決定
評価῍ もしくは倒産確率を推定し῍ 債務者を細か
金融庁の金融検査マニュアルでは῍ 貸付の基準
いランクに分類し῍ 行政庁に報告する際に / 段階
金利,ῑ を決めて基準金利を下回った場合には信用
に分類し῍ 検査用のデ῏タとして提供しているῌ
リスクに見合う経済的な合理性がなく実質的な条
本来であれば債務者格付が先にあり῍ 行政庁へ
件緩和債権とみられるため῍ 要管理先などの債務
の報告が後になるのだが῍ 先に述べたように日本
者区分に変更することになっているῌ この基準金
では行政への報告が先にあって個別債務者の信用
利とは何であろうか῍ 金融検査マニュアルでは基
状況の評価が後についてくる形で導入されたῌ こ
準金利は調達と貸出コストに信用コストを加えた
のため῍ 債務者格付の必要性がなかなか理解され
ものとされているῌ
なかったが῍ 金融庁の検査では債務者格付の導入
では債務者格付や信用リスクの計量化が実施さ
されていない金融機関に対しては債務者格付を行
れている金融機関ではどのように貸出金利が決め
うよう検査指摘がなされてきたため῍ 規模の比較
られているのであろうかῌ 農協の貸出金利は῍ 信
的大きい他の金融機関で債務者格付が導入されて
連がおよその金利を決めて農協はその水準を貸出
いないケ῏スは現在では無くなってきているとい
先の信用状況ではなく῍ 住宅ロ῏ンなど貸出の種
えるῌ
類に応じて金利を決めて事業推進しているのが通
こうした債務者格付の導入は῍ 比較的債務者格
例であるῌ
付の判定がしやすい法人向けに実施されてきた
債務者ごとに相手先の信用状況に応じて῍ 貸出
が῍ 今では個人を含むリテ῏ル部門向けの融資ま
金利を決める際῍ どのような金利水準にしたらよ
で債務者格付の導入が始まっているῌ
いかῌ また῍ どこが下限か上限なのかを判断する
こうした債務者格付の導入は῍ 自己査定の正確
性とリスク状況の把握にも寄与しているῌ 債務者
ためにはプライシング ῐ債務者格付ごとの金利決定ῑ
といった考え方が基本になるῌ
格付と自己査定をクロスさせればきれいに債務者
プライシングによる貸出金利の決定は῍
格付と自己査定が一致し῍ むしろ債務者格付と自
貸出金利ΐ格付毎の信用コスト率ῒ調達金利
己査定の評価があっていなければどちらかの評価
ῒ経費率ῒ信用リスクプレミアム
が誤っていることになるῌ
といった形で示されるῌ
他の金融機関では῍ すでに債務者格付が導入さ
実務的には῍ 信用リスクを加味した貸出金金利
れているところでは῍ まず῍ 債務者格付があって
決定は῍ どのように行われるのかῌ 主に行われて
その格付に応じて債務者区分が決まる仕組みに
いる , つのケ῏スで示すと以下のようになるῌ
なっているῌ
実際の信連において導入されている債務者格付
この例をみると ῌ のプライシング ῐ信用リスク
に基づく金利決定ῑ 方法の考え方は῍ 以下のようで
28
農村研究 第 ++* 号 ῎,*+*῏
あるῌ 債務者格付が悪化すれば当然῍ 信用コス
-῏
この方法は῍ ῌ の方法に比べて実務への応用が
ト が上昇するῌ さらに῍ 信用コストに加えて調
容易なため῍ 実際によく行われるプライシングの
達金利は一律であるが経費率は῍ 債務者格付が悪
方法であるῌ より数値の管理や分析が高度な金融
化すれば当然῍ 管理コストも増大し῍ 経費率も高
機関では ῌ の方法も採用されるが῍ 一般的には
くなるῌ 信用リスクプレミアムも債務者格付の悪
῍ の方法が普通のプライシングの考え方であるῌ
化に伴ってより高いプレミアムを付して貸出金利
の水準を高くする方法であるῌ
プライシングのうち信用プレミアムを金利に反
映させているが῍ これはどのように求められるの
考え方としては理論的な考え方であるが῍ 調達
かῌ 金融機関の統合的リスク管理のなかで毎年῍
金利の予測や経費率が債務者格付によってどの程
安定的な収益を確保するため῍ 目標利益を想定す
度異なるのかは明確に算定しづらいなど῍ 実務に
るῌ この目標利益は῍ 経営として実現すべき利益
応用する場合には算出が難しいプライシングの考
水準を想定するが῍ 収益は本来῍ リスクとの見合
え方であるῌ
いで出ている利益部分とリスク以上に超過して発
῍ のプライシングの考え方は῍ 信用リスクの程
生する収益プレミアム部分に分けられるῌ
度は ῌ と同様に債務者格付毎にデフォルト率を
信用リスクプレミアムは῍ 本来῍ 期待収益であ
算出し信用状況に応じて信用リスクの程度を変化
るので῍ 全体の目標利益を設定し ῎どれだけの利益
させているのは同じであるが῍ 前年度の平均の調
を確保するか῏῍ そのうち貸出部門ではいくらの目
達金利と経費率を一律に求めて信用リスクプレミ
標利益を達成するかが設定されるῌ そのうち信用
アムも一律に加えて最終的な債務者格付に伴う金
コストなど将来のリスク見合の部分を差し引いて
利水準の決定を行っていくやり方であるῌ 信用コ
いけば農協における貸出部門の上乗せ金利が決
スト以外は一律なため῍ 金利水準は信用コスト
まってくるῌ
῎債務者格付によるデフォルトの差を反映した部分が格
付῏ による水準の違いになるῌ
貸出金金利の決定も獲得すべき全体の利益水準
からそれを実現するための貸出部門の目標利益が
図 , 債務者格付によるプライシングの例
῎資料῏ 筆者作成ῌ
῎注῏ 数値は参考例で実際のものではないῌ
農協における信用格付に基づくプライシングと収益管理の予備的考察
29
図 - 目標利益῍ リスク調整後収益と信用プレミアム
ῐ資料ῑ 筆者作成ῌ
導かれ῍ 個別の貸出案件に対する信用リスクプレ
に伴って減少するῌ 個῎の償還方法の細かい条件
ミアムが決まってくるῌ
をすべて考慮するわけにはいかないので元利均等
このようにリスク管理の目標は῍ 目標とする利
償還方式で返済すると仮定して貸出金残高や貸出
益を獲得することが前提になっているため῍ 金利
金利息が今後どのように推移していくかを示した
決定に際しても利益計画に対してどれだけの安定
ものが図 / であるῌ なお῍ 図 / では折れ線グラフ
した収益を全体で確保できるかが重要になってく
で貸出金残高῍ 貸出金利息の減少の程度を示して
るῌ
いるῌ
いずれにしても債務者格付に応じてどのような
図 / は῍ 実際の農協における個別の貸出金デ῏
金利水準が妥当かは῍ 当農協としての獲得する利
タを基に貸出が伸びなければ貸出金利息がどのよ
益目標水準からリスクに見合う収益とリスク調整
うになっていくか成り行きの収益をみたものであ
後収益が同じ利益のなかで区分できることが重要
るῌ
であるῌ そのためには貸出においては῍ 信用コス
こうした全体の貸出金のポ῏トフォリオから生
トがどの程度かわかっていることが前提になって
み出される収益の減少幅がどの程度か分かれば貸
くるῌ そのための内部の仕組み῍ ル῏ルとして信
出金の利息収入を維持していくためにはどの程度
用格付の導入が前提条件となるῌ
の規模の貸出を伸ばしていかなければ収入が減少
ῌ
貸出金のポῌ トフォリオとキャッシュフ
ロῌ
するかが判明するῌ
当然῍ 貸出が伸びれば収支面では問題がない
ῌ 全体の貸出金のポ῏トフォリオと貸出金収益
が῍ 地域性や経済状況によって貸出の収支が維持
貸出金から生まれるキャッシュフロ῏は῍ 貸出
できるとは限らないῌ 貸出が伸びない場合には῍
金のポ῏トフォリオの形状から決まってくるῌ +
有価証券での運用を増やすなど信用事業全体での
つ + つの貸出金の金額῍ 利率῍ 期間によって生み
収入水準の維持を図っていくことになるῌ
出される収益は異なってくるῌ 実際の農協におけ
貸出金全体のポ῏トフォリオから生み出される
る貸出金の償還期構成と残存期間別の構成を示し
キャッシュフロ῏を正確に推定するためには῍ 成
たものが図 . となるῌ
り行きによる貸出金のポ῏トフォリオからのキャ
貸出金は有価証券と異なり῍ 元本と利息が返済
シュフロ῏から貸出先のデフォルトによる利息収
農村研究 第 ++* 号 ῏,*+*ῐ
30
図 . A 農協における貸出金の満期構成と残存期間
῏資料ῐ A 農協の個別貸出金のデ῎タより集計ῌ
入の減少と繰上償還に伴う利息収入の減などプリ
していくことになるῌ 通常のポ῎トフォリオの分
ペイメントリスクによるキャッシュフロ῎の減少
割の基準は῍ 債務者格付とデフォルト率が一定の
を加味して全体のキャッシュフロ῎を算出しなけ
固まりのなかで分割していくことになるῌ キャッ
ればならないῌ
シュフロ῎とデフォルト῍ プリペイメントリスク
貸出金のキャッシュフロ῎ῒ貸出金全体の
キャッシュフロ῎ ῏利息収入ῐῑデフォルト
による利息減ῑ繰上償還等プリペイメント
リスクによる利息減
の程度が分かれば将来の得られるキャッシュフ
ロ῎が明確になるので貸出金債権の証券化なども
可能になり῍ 債権の流動化も行えることになるῌ
農協の貸出金も証券化する程度までリスク情報
が明確ではないが῍ 通常の農協のポ῎トフォリオ
こうしたキャッシュフロ῎を推計していくため
の構成のうち῍ 住宅ロ῎ン῍ 賃貸住宅ロ῎ン῍ 法
にも債務者格付ごとのデフォルト率や繰上償還と
人貸付が大きな構成要素となるῌ このため῍ 少な
なった貸出金金額などの基礎デ῎タが完備されて
くともこれらから生み出されるキャッシュフロ῎
いる必要があるῌ 基礎デ῎タが整っている前提の
を把握すれば῍ どのような貸出を伸ばせば貸出金
なかで貸出金のポ῎トフォリオから生み出される
全体のキャッシュフロ῎を維持もしくは拡大させ
キャッシュフロ῎の維持や最大化のために何を
ていくかが分かっていくῌ
行っていくかが具体的な事業推進上の対策になっ
てくるῌ
ῌ 貸出金のポ῎トフォリオの分割と貸出金収
益管理
貸出金のキャッシュフロ῎を管理していくため
今後῍ 人口減少や経済的な変動は農協経営の外
部環境変化として生じてくるῌ そのような変化が
あった時にもキャッシュフロ῎に着目し῍ キャッ
シュフロ῎を効率的に確保する手段や市場戦略を
たてていく必要があるῌ
には῍ ポ῎トフォリオを分割し῍ その分割された
そのためには῍ 対前年比で貸出残高を伸ばす計
ポ῎トフォリオのなかでキャッシュフロ῎を管理
画ではなく῍ 貸出によるキャッシュフロ῎を効果
農協における信用格付に基づくプライシングと収益管理の予備的考察
31
図 / 成り行きによる貸出金の残高推移と利息収入
῏出所ῐ A 農協における個別貸出金のデ῎タより集計ῌ
῏注ῐ +ῐ 実際のデ῎タを修正し῍ 表示しているῌ
,ῐ 折れ線はそれぞれ貸出元本῍ 貸出利息の減少額を示しているῌ
-ῐ 単位については個別農協のデ῎タのため非公表ῌ
的に増大させる事業伸長の仕組みへの転換が必要
おける貸出金のポ῎トフォリオの管理と収支管理
と考えられるῌ
としては῍ 法人貸付῍ 住宅ロ῎ン῍ 賃貸住宅ロ῎
実際の個人を対象とした貸出先の資金使途を B
農協の事例でみると賃貸住宅建設 ./..3ῌ῍ 住宅
購入関係 -,.-+ῌを占めているῌ このため῍ 農協に
ンに分けてキャッシュフロ῎の把握を行っていく
ことが望ましいと考えられるῌ
32
農村研究 第 ++* 号 ῏,*+*ῐ
ῌῌ 農協における信用リスク管理の実践課題
でそれ以降は延滞するまで管理を実施していな
いῌ これは担保主義で貸している安心感が背景に
ῌ 担保主義から信用評価へ
あるためであるῌ とくに大口の貸出先について
農協において信用リスクの管理は῍ 現状では自
は῍ デフォルトした場合に農協の損益計算書など
己査定の債務者区分があるのみだけであるῌ 今後
に対する影響が大きいῌ 実際に大口で正常先から
の金融業態間の競争では῍ 信用リスクの少ない優
破綻懸念先に陥ると大きな貸倒引当金を計上する
良な顧客や組合員ほど他業態との競合が激しく
ケ῎スが生じているῌ これは担保の評価で建物が
なってくるῌ
再調達価格で評価するなど῍ 実際の市場実勢の価
実際に他業態との競争が激しい地域の農協で
は῍ VIP ロ῎ンの名目で優遇金利を適用したり῍
格と異なるために生じているῌ
こうした大口の貸出先に関しては῍ 貸出金に占
組合員の資産規模に応じて担保の充足度合いを変
めるシェアも高く῍ 貸出実行後も信用リスクの管
更しているῌ これは῍ 貸出先の信用状況を VIP の
理が必要であるῌ 延滞や破綻が生じれば貸倒引当
基準や組合員の資産規模のランクや信用力に応じ
金を計上すればいいとの考え方では῍ 安定収益の
て感覚的に信用格付を行っている例であるといえ
確保や損失の最小化ができないῌ デフォルトに伴
るῌ
う損失を最小化していくためには῍ 大口貸出先の
今までは旧来からの組合員向けに担保に基づい
て貸出を行ってきたῌ これからの世代交代や条件
信用力の評価を行い῍ 変化や懸念が生じれば対応
策を講じていくことが必要であるῌ
を他業態との比較のなかで決定されるようになっ
また῍ 担保で保全されている部分は信用リスク
てくればくるほど農協だから借りてくれる時代で
が及ばないため῍ 信用リスクの及ぶ範囲を特定化
はなくなりつつあるῌ
するためには担保評価は正確であることが望まし
優良な取引先に対して貸出が行えればデフォル
いῌ しかし῍ この担保評価の正確性はいくら追求
トも少なく῍ 安定した将来の収入と利潤が確保で
しても実際に処分できないため何が最終的に正し
きるῌ 優良な貸付先を確保するために῍ 信用力を
いかは誰も判別がつかないῌ このため῍ 破綻先の
評価する仕組みを構築することが必要であるῌ 優
処分の実情を考慮し῍ デフォルトした際にどの程
良貸出先は他行との競合も激しく῍ これまでの担
度の信用リスクの損失が及ぶのかを勘案し῍ 掛け
保主義の一律対応では優良貸出先が農協から離れ
目などを用いて信用リスクの及ぶ範囲を保守的に
ることになりかねないῌ
推定していくことが必要であるῌ
すべての貸出先が一律ではなく῍ 税務相談や土
損益に影響の大きい大口の貸出先については῍
地活用など貸出に付随するサ῎ビスも貸出先の信
担保情報を整備していくとともに信用格付の導入
用度に応じて提供する金融サ῎ビスの内容を見直
を行い῍ 信用状況の変化をモニタリングしていく
すなど῍ 相手先に応じたメリハリをもったサ῎ビ
ことが必要であるῌ
ス提供の仕組みも必要であるῌ
῎ 貸出先の格付の導入と分析能力の向上
現在の農協では信用格付も無く῍ 顧客情報の収
貸出先の信用力の評価を行っていくためには情
集や分析を行っていないため῍ 感覚的な議論に陥
報の蓄積ῌ把握とともに相手先を分析する能力を
りやすいῌ 主観的な感覚に頼ることなく客観的な
農協自らが獲得していく必要があるῌ 法人融資
基準῍ 債務者信用格付などに基づいて貸出先のプ
は῍ 農協にとって新規の貸出マ῎ケットであり῍
ライシングや融資限度῍ 担保充足率などの基準を
安定的な貸出の収入源となり得るが῍ 信用力を評
設けていくことが必要であるῌ
価する能力がなければ新たな不良債権を生むῌ ま
῍ 信用状況のモニタリングと信用管理の強化
た῍ 信用格付に応じて信用限度額を設けていかな
農協の貸出は῍ 資金を提供するまでが貸出業務
ければ収支に大きな影響を将来῍ 与えていくこと
農協における信用格付に基づくプライシングと収益管理の予備的考察
になるῌ
33
先の信用力を評価する基礎デ῎タが整備されてい
企業融資に関しては財務分析など基礎的な知識
ないことには現場に行くと驚かされるῌ 信用力を
と企業経営をみる目が必要であるῌ 人口減少や地
評価するためには基礎デ῎タの蓄積が必要不可欠
域経済の状況によっては企業向け貸出など῍ より
であるῌ この点に関してはすでに十分述べている
リスクの高い分野にチャレンジすることが求めら
ため繰り返さないが貸出の信用リスクの管理のた
れるが῍ そのための基礎能力の向上を図っていく
めの基礎デ῎タの蓄積は急がれる状況にあると考
ことが重要であるῌ
えられるῌ
また῍ 信用格付の導入のためには῍ 信用力の判
῎ 信用リスク管理のための内部ル῍ル作り
定や評価を行うことが不可欠であるが῍ 人的な評
貸出を伸ばしていくためには῍ 担保主義から信
価に加えてクレジットῌスコアリングモデルなど
用評価へ思考を変える必要があることは述べた
金融工学的なアプロ῎チを併用することでより客
が῍ 実際の考え方を変えるためには内部ル῎ルの
観的な評価や信用格付の実施が可能になってく
確立と定着が必要であるῌ
内部ル῎ルがなければ担保でしか将来リスクを
るῌ
ῌ
貸出先のポ῍ トフォリオのキャッシュフ
カバ῎できないし῍ 信用力を客観的に評価し῍ 収
ロ῍管理
益管理につなげていくためには内部ル῎ルとして
貸出金もポ῎トフォリオが重要であるとの認識
債務者格付の方法や格付ごとの信用限度額῍ プラ
を持っている農協は少なく῍ 貸出金のポ῎トフォ
イシングの決定方法などが内部ル῎ルとして整備
リオが現在どうなっているか十分に把握している
されていることが必要であるῌ
農協はほとんどないと思われるῌ また῍ 基礎とな
るデフォルトや信用情報῍ 繰上償還の状況がどう
ῌῌ お わ り に
なっているか把握されているところは少ないῌ さ
本稿は農協における将来のあるべき貸出の信用
らに῍ 今年度῍ どの程度の貸出金残高が償還にな
リスクの管理の姿と現時点での課題整理を中心に
り῍ 次年度以降どうなっていくのかを把握してい
行ったῌ 農協での本格的な信用リスク管理の実践
るところも少ないῌ 成り行きであっても長期にそ
に向けて実際の農協の貸出金デ῎タを基に住宅
の動向をみるのは - か年計画などを策定する時点
ロ῎ン῍ 賃貸住宅建設資金向け貸出῍ 法人貸出の
に限られているῌ
- つのポ῎トフォリオに分け῍ 今後は金融工学的
貸出金のキャッシュフロ῎を中期的に維持して
なアプロ῎チによって῍ それぞれの貸出の信用リ
いくためには何を実践していくかῌ その具体策が
スクのモデル化῍ クレジットῌスコアリングモデ
貸出戦略といえるῌ 貸出金のポ῎トフォリオを把
ルの作成と信用力の分析を併用した実践的な債務
握し῍ そこから生み出されるキャッシュフロ῎を
者格付方法の確立に向け検討を行っていきたいῌ
最大化していく思考が求められるῌ
さらに債務者格付方法が一定程度確立できれば῍
῍ 信用リスク管理のための基礎デ῍タの整備
貸出のキャッシュフロ῎の把握によるポ῎トフォ
担保情報にしろ῍ 貸出先の資産規模や貸借対照
リオの収益管理手法について実践面での応用を目
表῍ 損益計算書῍ 税務申告書など基礎となる貸出
標に研究を行っていきたいῌ
注
+ῐ
LGD ῏デフォルト時損失率ῐ は῍ 債権がデフォル
ト時にどの程度の経済的な損失を被るかを示したも
のであるῌ LGD 算出のためには経済的損失を評価
するため῍ 担保や保証人からの回収額῍ 回収時点῍
回収に要した費用も含まれ῍ 下のように表されるῌ
LGDῒ+ῑ回収率
ῒ +ῑ῏回収額 ῑ回収費用ῐῌデフォルト時与
信額
農村研究 第 ++* 号 ῏,*+*ῐ
34
本稿でいう LGD は῍ 関連するデ῎タが農協におい
合ったリタ῎ンが得られず῍ 経済的損失が将来的に
て十分に得られないことから担保のみの回収に限定
生じると考えられる債権を条件緩和債権として判定
しているῌ
を行うῌ 実際の基準金利は῍ 債務者の格付別῍ 融資
,ῐ 当該債務者と同等な信用リスクを有している債務
期間別῍ 融資が担保ῌ信用保証協会の保証によって
者に対して通常適用される新規貸出実行金利をい
保全されている金額を総融資金額で割った保全率別
うῌ それぞれの金融機関が債務者の信用リスクを正
で決められているῌ
確に把握し῍ そのリスクに見合ったリタ῎ンが得ら
-ῐ ここでいう信用コストとは῍ 実際に発生している
れていることが前提となるが῍ この基準金利を下
費用ではなく῍ 債務者のデフォルトに伴う将来の損
回った貸出が行われている場合῍ 信用リスクに見
失見積り額を示しているῌ
引用ῌ参照文献
木島正明ῌ小守林克哉 共著 ῏+333ῐ ΐ信用リスク評価の数理モデル῔ 朝倉書店ῌ
楠岡成雄ῌ青沼君明ῌ中川秀敏 共著 ῏,**+ῐ ΐクレジットῌリスクῌモデル῔ 金融財政事情研究会ῌ
丹後俊郎ῌ山岡和枝ῌ高木晴良 共著 ῏+330ῐ ΐロジスティク回帰分析῔ 朝倉書店ῌ
土屋剛俊 ῏,***ῐ ΐデリバティブ信用リスクの管理῔ シグマベ῎シスキャピタルῌ
ジョンῌBῌカウエット῍ エドワ῎ドῌIῌアルトマン῍ ポ῎ルῌナラヤナン共著 ῏+333ῐ ΐクレジットリスクマネジ
メント῔ 高橋秀夫 監訳῍ シグマベイスキャピタルῌ
日本銀行 ῏,**+ῐ ΐ信用格付を活用した信用リスク管理体制の整備῔ῌ
日本銀行 ῏,**/ῐ ΐ内部格付制度に基づく信用リスク管理の高度化῔ῌ
野口悠紀雄῍ 藤井真理子 共著 ῏,***ῐ ΐ金融工学῔ ダイヤモンド社ῌ
ミッシェルῌクル῎イ῍ ダンῌガライ῍ ロバ῎トῌマ῎ク 共著 ῏,**.ῐ ΐリスクマネジメント῔ 三浦良造 監訳῍
共立出版ῌ
森平爽一郎 ῏+333ῐ ΐ信用リスクの測定と管理῔ 証券アナリストジャ῎ナルῌ
湯前祥三ῌ鈴木輝好 ῏,***ῐ ΐモンテカルロ法の金融工学への応用῔ 朝倉書店ῌ
日本ナレッジマネジメント学会編 ῏,**2ῐ ΐῑ型ῒ と ῑ場ῒ のマネジメント῔ かんき出版ῌ
加島 徹 ῏,**2ῐ ΐグロ῎バル経済下における総合農協の財務ῌ収益力格差発生のメカニズムとリスクマネジメン
トに関する研究῔ 東京農業大学ῌ
῍受付 ,**3 年 ++ 月 ++ 日῏
῎受理 ,*+* 年 + 月 +- 日ῐ
Preliminary Consideration of the Profit Management by Credit Pricing
Based on Credit Risk Rating in the Agricultural Cooperatives
Toru KASHIMA (JA General Research Institute)
In this study, I clarify the present conditions and problems of Agricultural Cooperatives in credit risk
management and improvement of profitability.
I propose the importance of the way of thinking about debtor credit risk rating in credit risk
management for Agricultural Cooperatives, and the necessity of profit management by the grasp of cash
flow as the portfolio of loan for Agricultural Cooperatives.
I make clear some problems of realization of credit risk management and improvement of profitability
in Agricultural Cooperatives.
This study is a preliminary consideration for practical and useful credit risk management in the
future, which includes credit risk rating based on a credit scoring model of financial engineering in the
financing loan of Agricultural Cooperatives.
Key words : management of agricultural cooperatives, credit risk, credit risk rating, credit pricing, default,
future default cost