The Murata Science Foundation 無機水酸化物イオン伝導体を用いた全固体アルカリ形燃料電池 H24助自34 代表研究者 忠 永 清 治 北海道大学 工学研究院 物質化学部門 教授 Kiyoharu Tadanaga Professor, Division of Materials Chemistry, Faculty of Engineering, Hokkaido University Alkaline fuel cells using an alkaline electrolyte have received attention because of faster kinetics for the oxygen reduction reaction in cathode and the possible use of non-platinum catalyst. However, electrochemical devices using an alkaline electrolyte have serious problems such as the formation of K2CO3 in electrolyte or electrode/electrolyte interface by a reaction between KOH and CO2 in the air. Layered double hydroxides (LDHs) are anionic clays, and the general formula for LDHs is [MⅡ1-xMⅢx(OH)2][(An-)x/n・mH2O], where MⅡ is a divalent cation, MⅢ a trivalent cation, and An- an anion. LDHs have interesting characters such as anion exchange property, catalysis, hydroxide ion conductivity. In this study, MⅡ-MⅢ LDHs intercalated with CO32- were prepared and their hydroxide ion conductivities were examined. Then, the prepared LDHs were applied to solid electrolyte and ionomer for electrochemical devices using an alkaline electrolyte. MⅡ-MⅢ LDHs intercalated with CO32- were prepared by the co-precipitation method and their electrochemical properties were evaluated. The electromotive force for the water vapor concentration cell revealed that the predominant conducting ion species are hydroxide ions. Then, all-solid-state alkaline fuel cells using the prepared LDHs as an electrolyte were confirmed to operate by using non-platinum catalyst and various fuels. The addition of LDHs to the catalyst layer increased the reduction current for oxygen reduction reaction, indicating that hydroxide ion conducting LDHs worked as an ionomer and increased triple phase boundary regions within the catalyst layer. Transition metal containing LDHs (Ni-Fe LDHs) are found to play multifunctional roles in the catalyst layer as a mixed conductor with hydroxide ion and electron conduction, and also an electrocatalyst. Ni-Fe LDHs were also applied to the ionomer of metal-air batteries. The LDH addition to the catalyst layer improved the performance of zinc-air secondary batteries. アルカリ形燃料電池(alkaline fuel cells, AFC) 研究目的 は、アルカリ性の電解質を用いることによって、 二酸化炭素の効率的な排出抑制・削減にむ 安価なニッケルや銀をアノード触媒に用いるこ けて、分散型電源、コージェネレーションシ とができることや、Pt触媒を用いたカソードで ステムの普及は必須であり、高性能で低コス の酸素の還元反応が容易に起こること、多様 トの革新的な燃料電池の開発が望まれている。 な燃料を使用可能であること、金属製のセパ KOHなどのアルカリ水溶液を電解液に用いる レータが使用可能であること、という点で固体 ─ 161 ─ Annual Report No.28 2014 高分子形燃料電池(PEFC)よりも優れた性質を を水酸化物イオン伝導体として着目した。 有する。しかしながらアルカリ金属水酸化物の 本研究では、層間にCO 3 2- を含むMg-Al系、 電解液を用いたAFCでは、燃料ガスや空気中 Ni-Al系、Ni-Fe系LDHを共沈法により合成し のCO2と水酸化物イオンの反応により炭酸イオ た。XRD、FE-SEM画像から粒径50∼200 nmの ンが生成し、これが電池の性能を劣化させる LDHの生成を確認した。作製したLDHはいず という問題点がある。 れも相対湿度80%下において、10 -3 S cm -1 オー そこで本研究では、このアルカリ性の水溶液 ダーのイオン伝導性を示した。これらの粉末の が電解質として用いられてきたAFCの電解質 ペレットの両面にPt/C触媒を塗布したものを用 を無機固体の水酸化物イオン伝導体に置き換 いて水蒸気圧濃淡電池を構築し、起電力を測 えた、全固体型アルカリ形燃料電池の構築を 定した。その結果、アニオン交換膜と同様の 行うことを目的とする。 挙動を示したため、これらのLDHは水酸化物 研究代表者らは、Mg-Al系やNi-Al系層状複 イオン伝導体であることが示された。 水酸化物(LDH)が水酸化物イオン伝導性を示 次に、α-MnO 2 およびActa社製の非白金系触 すことを見出している。この系は、炭酸イオン 媒を用い、種々の燃料を用いた全固体アルカ を最初から含むので、空気中の二酸化炭素と リ形燃料電池を構築し、LDHの水酸化物イオ の反応による炭酸塩の生成について考慮する ン伝導性固体電解質としての評価を行った。 必要がないという特徴も有する。そこで、本 電解質としてMg-Al CO32- LDH、アノード触媒 研究では、このLDHに特に着目し、この系を としてPt/C、カソード触媒としてMnO 2 を用い 中心に高い水酸化物イオン伝導性を示す無機 た水素 酸素燃料電池の場合、約0.9 VのOCV 材料の探索を行い、全固体アルカリ形燃料電 を示し、発電可能であったことから、α-MnO 2 池に適用する。さらに、遷移金属を導入した が酸素還元触媒として機能していることが示さ LDHを合成することによって無機骨格に電子 れた。また、アノード触媒として非白金触媒 伝導のパスを形成し、これまでに報告例のない、 (Acta製)を用い、燃料として10 wt.%のKOH、 水酸化物イオン・電子混合伝導体を開発する および、10 wt.%の各種アルコールをそれぞれ ことを目指した。このような材料を全固体アル 含む水溶液を用いた燃料電池の発電特性を調 カリ形燃料電池の触媒層に用いることにより、 べたところ、いずれの燃料を用いたときも発電 より良好な触媒-電極-電解質界面の構築を行 可能であることが確認された。これらより、水 うことを検討した。さらに、燃料電池だけでな 酸化物イオン伝導性を有するLDHはアルカリ く、アルカリ性水溶液を電解質に用いる金属- 形燃料電池の固体電解質として機能している 空気二次電池の空気極、水酸化物イオン伝導 ことが確認された。 体を用いた電気化学的酸素分離セルへの応用 LDHの水酸化物イオン伝導性イオノマーと についても検討を行った。 して評価するために、LDHの触媒層へ混合につ いても検討を行った。LDHのイオノマーとして 概 要 の評価は、Pt/CとLDHを混合した触媒層を形成 本研究では、水和水を多く含み、アニオン交 し、これとアニオン交換膜を接合させることで 換体あるいは固体塩基触媒として知られている 半電池を作製し、擬定常分極測定によって空 粘土鉱物の一種である層状複水酸化物(LDH) 気極の評価を行った。作製した空気極の擬定 ─ 162 ─ The Murata Science Foundation 常分極曲線を測定したところ、触媒層にLDH 加により酸素発生電極側の酸素濃度の上昇を を混合することで酸素還元電流値の増加がみ 確認した。これにより、水酸化物イオン伝導体 られ、中でもNi-Fe CO 3 LDHを混合したもの を用いた電気化学的な酸素分離が可能である が最も大きな酸素還元電流を示すことがわかっ ことを世界で初めて示した。 2- た。Ni-Fe CO3 LDHは加湿下において、10 S 2- -3 cm オーダーの高いイオン伝導性を示す一方 -1 で、高い電子伝導性(7×10 -5 S cm -1)を示すこ とが確認されている。したがって、電子伝導 性を有するNi-Fe CO32- LDHが電子伝導経路を 妨げることなく、イオノマーとして良好な三相 界面を形成し、電極反応が促進されたために、 大きな酸素還元電流を示したと考えられる。 燃料電池の空気極としての利用だけでな く、アルカリ性電解液を用いた金属-空気二次 電池の空気極への応用を目的として、酸素還 元・発生反応の評価を行った。触媒層にNi-Fe CO32- LDHを混合して作製した空気極は、LDH を混合していない空気極と比較して、酸素還 元・発生反応の際の過電圧の低減が見られ、 このような空気極が金属-空気二次電池に有効 であることが示唆された。 そこで、酸素反応触媒としてα-MnO2を用い た空気極、負極として亜鉛金属を用いて亜鉛空気電池を構築した。その電流-電圧特性を評 価したところ、触媒層にLDHを混合した空気 極を用いた亜鉛-空気電池は高電流密度での放 電が可能であることがわかった。 これまでに、酸化物イオン伝導体を用いた電 気化学的な酸素分離の研究が行なわれている が、水酸化物イオン伝導性固体を用い、電極 上において酸素還元・発生反応を行うことに より、水酸化物イオン伝導性固体材料を用い た電気化学的酸素分離が可能となることが期 待できる。そこで、Ni-Fe系LDHを電解質層に、 Pt/CおよびNi-Fe系LDHをそれぞれの電極に用 いたセルを構築し、外部電流を流すことにより、 電気化学的な酸素分離を試みた。電流値の増 ─ 163 ─ −以下割愛−
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