インドの製薬産業概況 (2008年4月)

製薬市場の概況
2007 年の世界の製薬市場は推定 7,000 億米ドルであったが、CAGR16%で成長すると見込まれ、2012
年には 9,370 億米ドル規模に達すると予想される。ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、世界の医
薬品全売上高のうち 920 億米ドルを占めていたが、CAGR11%での成長が見込まれており、2012 年に
は 1550 億米ドル規模に達すると予測される。
世界的には、インドの製薬産業は、生産量ベースでは第 4 位、内需額でみると第 13 位に位置している。
インドの製薬市場は 2007 年度2の 130 億米ドルから、2012 年度には 340 億米ドルに成長すると予想さ
れる。この成長の主要な要因として、一人当たりの医薬品購入費の増加、医療インフラの改善、医療
保険の普及、疾病構造の変化などが挙げられる。
インドの製薬産業 (単位:10億米ドル)
CAGR(2002∼2007年)
5
0.9
13
20%
3.7
33%
9.4
16%
4.4
2001-02
2006-07
APIおよび中間体
製剤(ジェネリック薬品 + 特許薬品)
現在、インドの製薬部門は国内の医療ニーズの 95%を満たしている。インド製薬産業は、リバース・
エンジニアリング集中型から、研究主導型、輸出志向、国際的競争力重視へと進化してきた。
インドの製薬業界は、国内企業と多国籍企業の子会社で構成されている。インド企業は、様々なジェ
ネリック医薬品(ブランド、ノンブランド品)、中間体、バルク製剤/医薬品有効成分(API)を製造
しているが、 今後もジェネリック医薬品がインドの製薬産業の主流であり続けると考えられる。
インドの製薬会社は、最近、創薬・薬剤開発、委託研究・製造などの新たな分野にも進出しており、
製薬価値連鎖(バリューチェーン)の数分野で競争力を高めることに力を注いでいる。
1
2
年平均成長率
2007 年度 -2006 年 4 月 1 日から 2007 年 3 月 31 日の会計年度
1
インドの製薬産業
医療用医薬品は、特許医薬品とジェネリック医薬品に大きく分類される。特許医薬品は、承認を受け
た日からある一定期間(通常 20 年)特許権により保護される新薬である。ジェネリック医薬品は、特
許期間の切れた新薬をコピーしたもので、投薬量、安全性、強度、用法、効果、使用目的 などが新薬
とほぼ同じである。
2007 年度のインドの医薬品市場は、推定 94 億米ドルで、国内消費が 62 億米ドル、輸出が 32 億米ド
ルという内訳になっている。医薬品市場は、CAGR17%の成長が見込まれており、2012 年度には 210
億米ドルに達すると予測されている。数量ベースで、インドの医薬品市場のほぼ 97%を、先進国世界
では特許保護の対象ではなくなっている第二世代および第三世代の医薬品が占めている。
インドの製薬業界は、過去 30 年間で、世界のマージナル・プレーヤーから、高品質のジェネリック薬
品製造分野の世界的リーダーへと変貌した。インドは現在、米国、ロシア、中国、英国など、200 以
上の国々に医薬品を輸出している。インドの最大の輸出国は、引き続き、世界最大のジェネリック市
場である米国である。
地域別輸出額(2005年)
ロシア
12% ブラジル
7%
その他
29%
英国
9%
ナイジェリア
5%
中国
8%
米国
30%
ジェネリック医薬品の製造コストは、特許医薬品に比べて 40%から 75%低い。低い製造コストによっ
て、インドは他のジェネリック薬品生産国より優位に立っている。近年、インドの製薬企業は、世界
全体の投資額のかなりの部分(30%)をジェネリック医薬品製造に投資している。現在、米国食品医
薬品局(FDA)に提出したインド企業による DMF(原薬等登録原簿)の申請件数は全申請件数の 35%
超、また、ANDA(米簡略新薬申請)申請は全申請件数の 25%を占めている。これらの申請が、イン
ドのジェネリック薬品製造企業に、他のジェネリック薬品生産国に対してメリットをもたらしている。
またインドは、米国 FDA の承認を受けた製造地の数が米国以外では最も多い。
2
インドの大手医薬品メーカーの主要製品
会社
主要製品:医薬品有効成分(API)およびジェネリッ
ク薬品
抗感染薬、心臓血管疾患治療薬、胃腸薬、中枢神経作
用薬(ジアゼパム 、ミダゾラム)、点眼薬&軟膏、泌
尿器薬、栄養剤、性ホルモン、鎮痛剤、抗喘息薬、咳
止薬&風邪薬、ワクチン
売上比率
ドクター・レディーズ
心臓血管疾患治療薬、胃腸薬、抗感染薬、疼痛管理薬
API: 40%
ジェネリック:60%
シプラ
抗生物質、抗喘息薬、抗 AIDS 薬および抗 TB 薬、タ
ンパク同化ステロイド、鎮痛解熱剤、制酸剤、抗関節
炎薬、抗炎症薬、抗癌剤、抗うつ剤、抗糖尿病薬、抗
てんかん薬、抗真菌剤、抗マラリア薬
API: 7%
ジェネリック:93%
ウォッカード
抗感染薬、疼痛管理薬、栄養補助食品
API: 19%
ジェネリック:81%
ファイザー・インディア
栄養剤、咳止めシロップ、抗関節炎薬、抗感染薬、心
臓血管疾患治療薬
ジェネリック:
100%
サン・ファーマ
抗神経・精神病薬、心臓血管疾患治療薬、胃腸薬、糖
尿病薬、婦人科薬、抗アレルギー薬、抗うつ剤、コレ
ステロール低下薬、抗喘息薬、抗パーキンソン病薬、
ADD(注意欠陥障害)薬、鎮痛薬
API: 18%
ジェネリック:82%
グラクソ・スミスクライン
(GSK)
抗感染薬、抗炎症薬、鎮痛剤、胃・腸管疾患治療薬、
抗アレルギー薬、皮膚病薬
ジェネリック:
100%
ルピン
抗結核薬、抗生物質、心臓血管疾患治療薬
カディラ
心臓血管疾患治療薬、胃腸薬、抗炎症薬/鎮痛薬、抗
生物質/抗感染薬、ワクチン/免疫賦活剤、抗糖尿病
薬、各種ビタミン
ジェネリック:
100%
ジェネリック:
100%
ニコラス・ピラマル
鎮痛薬/抗炎症薬、抗生物質、抗真菌剤、抗ヒスタミ
ン剤、防腐剤、心臓血管疾患治療薬、中枢神経系作用
薬、糖尿病薬、皮膚病薬、内分泌薬、胃・腸管疾患治
療薬、ビタミン、肺・呼吸器疾患治療薬、心的外傷後
ストレス障害(PTSD)・救急治療薬、胃腸薬、非ス
テロイド系抗炎症薬
ジェネリック:
100%
オーロビンド・ファーシューテ
ィカルズ
抗生物質、抗レトロウイルス薬、心臓血管疾患治療
薬、中枢神経系作用薬、胃・腸管疾患治療薬、抗アレ
ルギー薬
ジェネリック:
100%
ランバクシー・ラボラトリーズ
API: 22%
ジェネリック:78%
3
インドの製薬企業は、その大部分が収益 500 万米ドル以下という、世界的基準からすれば小規模な企
業である。製薬業界は非常に細分化されており、組織化された部門では 400 社程度、未組織部門では
15,000 社程度のメーカーが存在する。様々な治療薬分野で 100,000 種類以上の医薬品が製造されてい
る。製薬市場はインド企業が優位を占めており、上位 10 社のうち 7 社がインド企業である。上位 5 社
(グラクソ・スミスクライン、ランバクシー、シプラ、ニコラス・ピラマル、ザイダス・カディラ)
が国内製薬市場の 23%超を占めている。
地理的に見ると、医薬品の製造機能はインドの西部および南部に集中している。しかし最高小売価格
(MRP)に基づいた消費税が導入されたことにより、製造機能を北部の消費税非課税地域に移転する
企業も出てきている。
インドでは、販売されている全製薬の約 71%が急性疾患(短期間)用で、残りが慢性疾患(長期間)
用である。これは、慢性疾患ニーズが市場の成長を牽引している先進国とは異なり、ほとんどの途上
国に当てはまる。
インドにおける売上別主要治療薬分野(単位:10 億ルピー)
治療薬分野
抗感染
胃腸
心臓血管疾患
鎮痛
呼吸器疾患
ビタミン/栄養剤
皮膚病
婦人科疾患
中枢神経系
抗糖尿病
上位 10 治療薬分野
製薬国内総需要
2005 年度
2006 年度
2007 年度
成長率%
36.9
43.7
49.7
16.0
23.1
27.1
30.5
15.0
21.7
25.3
28.2
14.0
19.6
21.4
26.3
15.7
20.2
22.9
25.8
13.1
19.5
21.7
23.8
10.7
11.4
13.2
15.5
16.8
11.9
13.4
15.2
13.1
10.9
13.3
15.0
17.5
9.0
10.6
12.5
17.9
184.1
212.6
242.7
14.8
212.7
244.4
279.0
14.5
4
今後、国内の医薬品需要は、インド社会におけるライフスタイルの変化によって慢性疾患が増加する
と予測されることから、抗糖尿病薬や中枢神経系作用薬、心臓血管系治療薬などの慢性疾患治療薬分
野と、胃腸系疾患治療薬などの生活習慣病治療薬分野に牽引されると予想される。
慢性疾患以外では、インドなど、半統制市場における衛生問題により、抗感染薬や鎮痛薬分野が長期
的に順調に伸びると予想される。
慢性疾患 vs. 急性疾患 – 2006 年度インド企業上位 10 社のセールズミックス
急性疾患
ファイザー・イン ディ
ア
アルケムラボ ラトリー
ズ
グラクソ・スミスクライ
ン
アリスト・ファー マ
ラン バクシー
ニコラス・ピ ラマル
イン ダストリー
ザイダス・カデ ィラ
シプラ
サノフィ・アベン ティス
サン ・ファーマ
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
慢性疾患
規制システム
インドの製薬産業の規制は、主として特許、価格、品質に対して行われている。
インドでは 2004 年まで製法特許制度が採用されており、製法特許のみ認められていた。この間、イン
ド企業は、製法特許に触れない独自の製法で世界の大手製薬メーカーの新薬のジェネリック薬品をイ
ンド国内で製造し販売して繁栄してきた。インド企業は、プロセス化学技術は修得したが、新薬開発
のための研究・開発は重視してこなかった。2005 年 1 月、インドは、世界貿易機関(WTO)の製品特
許制度に従って特許法の改正を実施した。改正法により、インド市場で認められるジェネリック医薬
品は、特許期限切れのジェネリック医薬品または 1995 年以前に開発された医薬品のジェネリック・バ
ージョンの二種類のみとなった。また、改正特許法により、特許権者には特許の申請日から 20 年間専
売権が与えられることになり、特許期間中はジェネリック医薬品の販売ができなくなった。
その他、インドにおける医薬品の輸入、製造、流通、販売は、医薬品・化粧品法(Drugs and Cosmetic
Act)によって規制されている。また、医薬品価格規制令(Drug Price Control Order:DPCO) によっ
て最高価格が定められている医薬品有効成分(API)や医薬品もある。現在、74 種類のバルク薬・製
剤の価格規制の対象となっている。
5
政府の取り組み
インド政府は、医療サービスへのアクセスと質を向上させるためのプログラムを推進している。その
うちの一つ、国家農村保健計画(ナショナル・ルーラル・ヘルス・ミッション:NRHM)は農村地域
に基本的保健医療設備を整備することを目的としている。この計画の実施により必須医薬品へのアク
セスが改善されることが期待されている。
2008∼2009 年度予算案に、製薬部門に対する施策が数多く含まれている。主要なものを以下に掲げる。
¾ 全ての製剤処方製品に対する物品税が 16%から 8%に引き下げ。これにより、高い消費税を負
担している外資系製薬会社(MNC)のインド子会社 が恩恵を受けると予想される。
¾ HIV 治療のための支出増加。これにより、シプラ社やグラクソ・スミスクラインなど、抗 HIV
薬を開発しているメーカーが恩恵を受けると予想される。
今後の展望
世界的に、ジェネリック医薬品の使用増加が見込まれ、ジェネリック製造企業に極めて大きな可能性
がある。また、増大する医療費を抑制するため、多くの国の政府がジェネリック医薬品への転換を推
進している。
半統制市場と新興成長市場が新しい成長機会になることが予想されるなか、米国のジェネリック医薬
品市場は、激しい競争に直面している。インド企業が米国・ヨーロッパ市場で生き延び、成長するに
はビジネスモデルの改革および再編が不可欠であるが、振興成長市場におけるプレゼンスを高めるこ
とが国際ジェネリック市場におけるシェア拡大につながる。
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