わが社、ここにあり!

◎特集
わが社、
ここにあり!
~日本特殊塗料の創意工夫~
Company profile
日本特殊塗料株式会社
1929(昭和4)年創業の航空機用塗
料の専門メーカー。同時に、自動車
用防音材の分野でも国内トップシェ
アを誇っている。
その他、建築・構築物用の塗料や防
音材、鉄道車両や家電・OA機器用
防音材等、幅広く事業展開している。
【所在地・連絡先】
〒114-8584
東京都北区王子5-16-7
TEL:03-3913-6131
http://www.nttoryo.co.jp
※1)GHQ
連合国軍総司令部
(General Headquarters)
「創意工夫」によりCS(顧客満足)の実現を目指す
日本特殊塗料は、まさに技術者集団である。社名の
とおり特殊な塗料を手がけるほか、自動車用防音材
でも高い市場占有率を誇り、業界でもユニークな地
位を築いている。同社における技術開発の一端を紹
介しよう。
創意工夫の歴史
日本特殊塗料(以下、ニットク)の原
点は、航空機用塗料の開発である。創業
挑戦。その結果、陸海軍の採用を勝ち取
り、市場を独占していった。
しかし、第二次世界大戦が終結すると、
わが国の航空機の製造はGHQ※1によっ
当時の同社が製造・販売していたのは、 て全面的に禁止され、ニットクは休業へ
羽布塗料。そのころの飛行機の主翼は骨
組みを羽布で覆う構造だった。やがて羽
布から金属へと変貌することを予測した
た しち
創業者の仲西他七氏は、金属用塗料の開
発にも着手した。
と追い込まれる。
その窮地を救ったのが、戦後復興の建
設ラッシュとニットクの創意工夫だ。
戦後、高価だった陶器瓦に対し、安価
なセメント瓦が普及し始める。ただし、
航空機用塗料は、温度差や風圧、気圧
それは美観に劣るものだった。そこに目
の変化等の厳しい環境から機体を守るた
をつけたニットクは、航空機で培った塗
め、要求仕様のハードルは高く、高度な
料技術をセメント瓦にスピンオフ。
技術を要する。同社が創業したころは、
事業として成立するか未知数だったにも
かかわらず、仲西氏はこの分野に果敢に
【ニットクにおける主要製品の販売構成(販売金額)】
1951年に「スレコート」として販売
を開始し、起死回生を成し遂げる。
次いで、「ニットク・アンダーシール」
を1953年に上市する。これは自動車の
床裏やトランクルームの内側等に使用す
る防音・防錆・耐衝撃用防護塗料だ。
当時の国内自動車メーカーは、高価な
外国製塗料を使用していたのだが、安価
な塗料を開発したニットクは、わが国の
自動車産業を下支えしたといえよう。
この2大ヒット製品により、同社は再
建を果たした。現在の事業の柱は、左図
のとおり、塗料(イロ)と自動車用防音
材(オト)である。戦争や石油危機等、
幾多の苦難を乗り越えてきた同社が現
©nittoku
The lnvention 2011 No.1
在、掲げるテーマとは?
特集 わが社、ここにあり!
塗るだけで涼しくする塗料の開発
屋根の色には、熱吸収しやすい黒やグ
レー等の濃色系が好まれているからだ。
ニットクの塗料は機能に特化したもの
2000年にパラサーモの開発はスター
が多く、他のメーカーがあまり参入して
トした。鈴木氏は、「濃色でも太陽光中
い な い 分 野 に 強 み を 持 つ。「 ス カ イ ハ
の赤外線を効率よく反射するように試行
ロー」はその一例であり、同製品は、過
錯誤を重ねました」と語る。
酷な使用環境に耐用するように設計され
しかし、機能ばかりでなく、特定の色
ている。国内の航空機用塗料市場を独占
が高価にならないように各色のコストを
する同社の高い技術レベルを裏付けてい
平均化する必要もあるという。
る(下表)
。
塗料の主な構成要素は3つ。塗膜を形
成する樹脂、色彩を出す顔料、そして溶
さらに、作業性や乾燥性、臭気等にも
配慮しなければ、製品として販売するこ
鈴木 裕史 氏
開発本部 第1技術部 部長
とは許されない。
媒である。これらの各要素にはさまざま
そして、最も苦労したのが 「色分かれ」
な素材が存在し、目的や用途に合わせて
対策だったという。通常、黒はカーボン、
それぞれ選択して適正な配合比率を割り
白は酸化チタン、赤は酸化鉄等の顔料を
出していくのだ。
使用する。単色であればこの現象は起き
近年、ニットクが注力しているのが、 ないのだが、中間色を出すにはさまざま
遮熱、断熱、光触媒といった環境をテー
マとする塗料だ。屋根用遮熱塗料として
開発された「パラサーモ」の開発につい
な顔料を調合しなければならない。
「遮熱機能とともに色相にもこだわり、
通常よりも多くの特殊な顔料を使用した
て、鈴木裕史氏に話を伺った。
「 夏 場 は、 屋 根 の 表 面 温 度 が70 ~
80 ℃ に 達 し、 室 内 温 度 も 上 昇 し ま す。
通常、建築物にはグラスウールやウレタ
ン 等 の 断 熱 材 が 使 用 さ れ て い ま す が、
我々は塗装によって室内温度の上昇を防
ぐ塗料を開発しました」
塗膜を厚くすることによって、ある程
度の断熱効果を得ることもできるのだ
が、それよりも太陽光中の赤外線を反射
するほうが効率的である。
もともと、白色塗料が反射には最適な
のだが、そうはいかない事情があった。
【航空機用塗料「スカイハロー」の主な採用実績】
1994年
日本航空「SUPER RESORT EXPRESS」「ドリームエクスプレス」、航空自衛
隊「ブルーインパルス」
1995年 日本国「政府専用機」、日本航空「SUPER RESORT EXPRESS OKINAWA」
1996年 全日空「スヌーピー号」
1997年 日本エアシステム「ポカリスエット号」
1998年 全日空「ANAポケモンジェット」
1999年
全日空「ANAポケモンジェットU.S.バージョン」
「ANAポケモンジェット’99」
「ス
ターアライアンス」、宇宙開発事業団(現JAXA)「H-Ⅱロケット」
2000年 日本航空「ニューリゾッチャ」
2001年 全日空「ANAウッディージェット」
、日本エアシステム「JASフレンドリーバード」
2004年 全日空「ピカチュウジャンボ」「ANAポケモンジェット・お花ジャンボ」
2007年 全日空「FLY ! パンダ」、宇宙航空研究開発機構「H-ⅡAロケット」
2009年 北海道国際航空(エア・ドゥ)「ベア・ドゥ号」
※『日本特殊塗料80年のあゆみ1929 ~ 2009』より作成
2011 No.1 The lnvention ので、色相の安定化には苦労しました」 料としての評価に値する製品になりま
と鈴木氏。
す。我々が提供する製品は、エンドユー
こうした苦労の甲斐もあり、屋根の裏
ザーにとって半製品にすぎないのです」
面温度を低減する遮熱塗料の開発に成功
同社では、塗装業者や販売店との連携
した。顔料等の配合は企業秘密であるた
を重視している。ニットク・アメニティ
め明かすことはできないが、パラサーモ
シ ス テ ム 連 合 会( 以 下、NAS会 ) は、
の遮熱の仕組みを鈴木氏が解説してくれ
鈴木氏の言葉を裏付ける存在である。
た。
NAS会とは、ニットクの塗料事業本
「熱反射顔料や特殊セラミック顔料が
部による塗料の販売店や施工店の全国組
太陽光の赤外線を反射・散乱して熱吸収
織であり、年1回の全国総会を開催する
を抑えます。さらに、塗膜にいったん吸
ほか、各地区で独自に講習会や勉強会を
収された熱も特殊セラミックが放射する
行っている。その目的とは、ニットク製
のです(下図)」
品の良好な仕上がり品質を保証し、CS
現在、遮熱塗料分野でもトップシェア (顧客満足)を満たすこと。例えば、施
を独走するニットク。その歴史やパラ
工が難しい塗料の場合、講習会と試験を
サーモの開発についてみてきたが、ここ
実施し、塗装業者にライセンスを発行す
で、同社が創業者から受け継ぐポリシー
ることで徹底した品質を担保している。
について紹介しよう。
「塗料とは、適切な塗装で塗膜が形成
されて、初めて適正な性能を発揮し、塗
【「パラサーモ」の遮熱の仕組み】
©nittoku
The lnvention 2011 No.1
信頼のおける“プロの技術”による責
任施工は、同社にとって譲れないこだわ
りなのだ。
【「パラサーモのデモ機」による照射実験】
営業用に開発されたデモ
機。持ち運びに便利なハ
ンディタイプ。
照 射 時 間 は 約30分。 左
がパラサーモで68.8℃、
右が一般塗料で81.5℃を
表示している。
特集 わが社、ここにあり!
塗るだけで汚れを落とす塗料の開発
TOTOにおいても各塗装業者と個別
に契約を取り交わすことは非現実的であ
ニットクは、2002年に光触媒塗料の
ることから、ニットクが一括してライセ
「エヌティオ」を上市した。樹脂に酸化
ンスを受けることになった。「NAS会の
チタンを混合すると、光触媒効果によっ
会員が安心して塗装を行うため、そして
て塗膜が内部から劣化してしまうという
何より、エンドユーザーから信頼を得る
課題を克服した製品だった。
ための決断でした」と生田氏は語る。
しかし、エヌティオの施工には高度な
しかし、そこで手をこまねいているわ
塗装技術が要求されること。さらに、光
けではなかった。エヌティオと同等のセ
触媒超親水性技術は、TOTOが基本特
ルフクリーニング機能を有する「シルビ
許を取得していたことが問題となった。
アセラティー」の開発に成功したのだ。
同社は藤嶋昭氏、橋本和仁氏との共同
同製品は樹脂にシリコンを採用。超低
開発により※2、タイルをはじめとする多
汚染性、長期耐久性、防藻・防カビ性、
くの製品に光触媒を応用していたのだ。
遮熱性を兼ね備えた画期的な外壁用塗料
「TOTOと協議した結果、製造・販
だ。しかも、エヌティオよりも安価で施
売においては、基本特許に抵触しないこ
工も容易だという。
とを認めてくれましたが、塗膜が形成さ
同社に取材した時点では、同製品はモ
れ、光触媒効果が発揮される段階で抵触
ニター販売中で、近日発売に向けて準備
するということになってしまいました」 が進められている段階だった。鈴木氏も
と語るのは、生田武氏。
イチオシの製品である。
生田 武 氏
業務本部 総務部 知的財産担当
担当課長
※2)藤嶋 昭氏(神奈川科学技術ア
カデミー 理事長)、橋本 和仁氏(東
京大学 先端科学技術研究センター
所長)、早川 信氏(TOTO 知的
財産部 第二知的財産グループ グ
ループリーダー)らの共同研究によ
る「光触媒性超親水技術の発明(特
許 第2756474号 )」 は、 平 成18年 度
全国発明表彰恩賜発明賞を受賞して
いる。
※肩書は受賞当時
【「パラサーモ」の施工例】
1
2
©nittoku
©nittoku
1.屋根用遮熱塗料「パラサーモ」が塗装されたサヌキ畜産加工協同
組合(香川県)
2.屋根用遮熱塗料「パラサーモ」と外装用遮熱塗料「パラサーモ外
壁用」が塗装された一本松中学校(愛媛県)
2011 No.1 The lnvention ※3)メルシート
©nittoku
車体フロアの振動を抑えて騒音の発
生を防ぐ。発売から40年以上たった
現在も市場占有率約70%(販売台数
ベース)を誇る超ロングセラー。制
振材の代名詞的存在だが、メルシー
トはニットクの登録商標である。
防音とは、制振、遮音、吸音の3つに
オトとの出会いと防音のキホン
大別することができる。
現在、ニットクの売上の3分の2を占
フロア(床)部等のパネルの振動を抑
める自動車産業。そのきっかけは、1953
える制振材、エンジンルームの音を遮断
年。前出の防音塗料「ニットク・アンダー
する遮音材、車内外の騒音を吸収して低
シール」からだ。
減させる吸音材だ※5。
その後、約10年の時を経て1964年に上
制振にはアスファルト等の粘弾性のあ
市されたのが、アスファルトを主原料と
る素材を用いる。パネルの振動が粘弾性
※3
する制振材の「メルシート 」
。爆発的に
によって熱エネルギーに変換されること
普及して市場を席捲していったという。
で振動が制御されるのだ。
しかし、防音材の基礎技術を持ってい
遮音には、一般的にゴムシートが用い
▲商標登録第754758号
なかった同社は、防音部品の最先端技術
られている。ゴムが音を遮ることで、反
※4)ユニケラー社
1995年、リエタ・オートモーティブ・
インターナショナルに社名変更。現
在も欧州を代表する自動車用防音部
品メーカーである。
を有していたスイスのユニケラー社 ※4
対側(車内)に伝わる音を小さくする。
(以下、リエタ社)と1967年に技術提携
吸音には、フェルトやグラスウール等
※5)ニットクでは、制振に「メル
シート」、遮音はゴムシートとフェ
ルトの2層構造の「タカポール」、
吸音にはフェルトの「タカ」を生産
していた。
契約を交わして基礎技術を導入。そして、 が使われている。音は、空気振動が伝播
わが国の自動車用防音材市場において確
するのだが、フェルト内部を音が伝播す
固たる地位を構築していったのだ。
るとき、空気が振動することで繊維表面
現在、防音材として数多くの製品が使
との間で摩擦が起きる。その際に振動エ
用されているが(下図)、ここで防音の
ネルギーが熱エネルギーに変換されて音
基本に触れておきたい。
が吸収されるのだ。
【自動車に使用されているニットクの防音材】
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
⑰
超軽量防音システム部品「リエタ・ウルトラライト」
吸音材「リアパーセル」
鋼板補強材「NTスティフナー」
遮音材「リトラクターインシュレーター」
吸音材「吸音ホイールハウスプロテクター」
制振材「メルシート」
吸音材「トランスミッションインシュレーター」
遮音材「フェンダーインシュレーター」
吸・遮音材「ダッシュアウターインシュレーター」
吸音材「フロントフェンダーインシュレーター」
吸音材「エンジンアンダーカバーインシュレーター」
遮音材「エンジントップカバー」
吸音材「フードリッジインシュレーター」
吸音材「フードインシュレーター」
吸音成形天井
塗布型制振材
塗布型制振材「NTダンピングコート」
The lnvention 2011 No.1
14
15
2
13
12
9
11
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1
8
7
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5
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塗布型制振材
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17
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特集 わが社、ここにあり!
常識を覆す防音材の開発
1990年代後半には防音材の分野でも環
境が開発のキーワードとなり、各自動車
そのころ、欧州でも自動車の燃費向上
をテーマとする熾烈な開発競争が繰り広
げられていたが、リエタ社では“超軽量
防音コンセプト”を導き出していた。
メーカーは、大幅な軽量化を目指すよう
それは、ゴムの代わりに密度が異なる
になる。車体が軽いと燃費が向上して二
フェルトを2層構造にするという従来の
酸化炭素
(CO2)の排出削減につながるか
常識を覆す革新的な発想だった。
らだ。当時、1台当たり30 ~ 50kg使わ
「ゴムに代わる遮音材という固定概念
れていた防音材には、30%の軽量化と
にとらわれてしまうとこの発想にはいた
いう目標が課せられた。
りません。フェルトを単純に厚くしても
従来の遮音材は、ゴムとフェルトの2
ゴムの遮音性能には及びませんが、吸音
層構造。その性能はゴムの重量とフェル
性能を上げることにより、防音効果を維
トの厚さに比例する。つまり、“重い自
持できるのです」と山口氏。
動車は静か”というのがそれまでの常識
だった。山口久弥氏は語る。
品化に全力を挙げ、ようやく完成した「リ
エタ・ウルトラライト」は、従来比30
化を達成するには、従来技術の延長では
~ 60%という大幅な軽量化を実現して
無理だと考え、遮音材の構造を一から見
2001年6月から販売を開始。現在、国
直すことにしたのです」
内ほとんどの自動車メーカーで採用され
ばねの役目を果たして200 ~ 400Hzの周
執行役員 開発本部長
自動車製品事業本部 副本部長
(兼)開発本部 第2技術部長
ニットクは、この新たな技術思想の製
「遮音性能を維持しながら30%の軽量
自動車の遮音材の多くは、フェルトが
山口 久弥 氏
ているという。
【ダッシュインシュレーターとして装着された「リエタ・ウルトラライト」】
波数で共振を起こす。そして、もともと
自動車の車内で生じる“こもり音”がこ
の共振と同帯域であるために、同調して
不快な音を増長させるケースがあった。
「まず、共振現象の改善に取り組みま
した。周波数を変化させるため、試しに、
ゴムとフェルトをひっくり返してみる
と、共振現象は防げたものの、全体の遮
音性能は大きく低下してしまいました」
その後も山口氏は実験・検証を重ね、
ゴムに代わる遮音材を模索したが、開発
は一時、暗礁に乗り上げてしまった。
©nittoku
2011 No.1 The lnvention 新発想の原理と防音材の将来
リエタ・ウルトラライトの原理につい
て、さらに分かりやすく説明しよう。
従来の遮音材の場合、いったん透過し
※7)車両接近通報装置
国土交通省は2009年7月、「ハイブ
リッド車等の静音性に関する対策検
討委員会」を設置。ハイブリッド車
(HV)、電気自動車(EV)、燃料電
池自動車は構造的に音がしないため
危険だという指摘を受け、2010年1
月に「車両接近通報装置」のガイド
ラインを発表した。
http://www.mlit.go.jp/common/00
0057788.pdf
気にする度合いは少なくて済む※6。
当初はユーザーにこの原理を理解して
もらうために苦心したという。「社内で
も、吸音で遮音性能をカバーできること
た音は、車内のどこかにぶつかり跳ね
をなかなか信じてもらえませんでした」
返ってくるが、ゴムはそれを再び反射し
と山口氏は当時を振り返る。
て車内に反響させてしまう。ところが、
※6)ただし、防音上は穴の数が少
なく、小さいほうが好ましい。
吸収できるため、ゴムの遮音材と比べて
しかし、ふと疑問が生じた。近年は、
これをフェルトに置き換えると、透過す
ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)
る音はゴムより多いが、跳ね返ってきた
等に注目が集まっているが、これらは静
音がフェルトに吸収されるため、車内の
かな車であることがウリだ。将来的に防
反響を抑制する(下図)。
音材は不要になるのではないか?
つまり、最初から音をシャットアウト
「防音仕様が変わるとしても、需要が
するのではなく、音が漏れることを前提
なくなるとは思えません。例えば近年、
として徐々に吸収していくのである。
車両接近通報装置※7のガイドラインが示
ダッシュインシュレーターには、ペダ
されました。この通報音は歩行者の安全
ルや各種配線の穴が開いている。遮音性
を守るためのものですが、ドライバーに
能を高めるには、できるだけ穴を小さく
とっては不要なものです」と山口氏。
する必要があるが、リエタ・ウルトララ
さらに、「人間の聴覚は相対的ですか
イトでは、穴から音が漏れてもあとから
ら、静かな環境になるほど、かすかな音
【ダッシュインシュレーターの新旧比較】
が気になってくるのです」と続ける。
確かに、普段なら気にも留めない時計
の秒針音がうるさくて眠れない。そんな
夜の経験は誰にでもあるのではないだろ
うか。今後、静かな車内空間への要求が
高まると同時に、新たなニーズが生まれ
るはずと山口氏は予測している。
今後の防音材開発の方向性について尋
ねると、「さらなる軽量化、高性能、低
価格を目指していきます。現在、リエタ・
ウルトラライトの性能を凌ぐ製品の開発
を行っているところです」と力強い回答
※上が従来、下がリエタ・ウルトラライトの「吸音で遮音を補う」のイメージ図。
10 The lnvention 2011 No.1
が返ってきた。
特集 わが社、ここにあり!
最後にもう一つニットクの環境への取
知財への取り組みと作業着の再利用
り組みを紹介したい。同社が扱うフェル
自動車メーカー各社の海外現地生産に
トの材料となる繊維の一部は、自動車
合わせ、現在ニットクも米国、中国、タ
メーカー等から回収した作業着のリサイ
イ、インドに防音材の生産拠点を置いて
クルによって賄われている。この活動の
いる。
目的は、環境に貢献することや自動車
今後ますます重要となるであろう、こ
メーカーとの強いきずなを構築すること
うした海外における事業展開において、 にあるが、実はそれだけではない。
知財への取り組みはどうか。
回収された古着に含まれる綿繊維は断
「正直、アジアへの出願はまだまだ不
面形状が複雑で表面積が大きいため、音
十分と感じています。特にインドについ
との摩擦面が増えて吸音性能が上がると
ては、
知財の制度面を含めてよく研究し、 いう仕組みなのだ。
効果的な特許出願をしなければなりませ
ん」と生田氏は語る。
まさに“一石三鳥”のビジネスモデル
が実践されているのである。
国ごとに主要な産業や技術水準は異な
・・・・・・・・・・・・・・・・・
る。そうした要素に特許出願の傾向は連
ニットクでは、“環境”を軸として、
動するという。こうした点を考慮したう
自社の技術を昇華させていると感じた。
えで、時期を失することなく適切な特許
今後も創意工夫によって、革新的な製品
出願による知財の保護が必要ということ
開発を続けていくに違いない。
(「発明」編集部)
であろう。
【リサイクル繊維を利用した吸音材(フェルト)の製造】
1
2
3
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©nittoku
1.各企業等から回収された使用済みユニフォー
ム・古衣料(洗濯済み)は、解繊機によっ
てワタ状に繊維化され、防音材原料として
マテリアル・リサイクルされる。
2.防 音材加工の工程から発生する製品以外の
外周端材は、解繊機によって再度繊維化さ
れ、原料として使用する「ゼロ・エミッショ
ンライン」となっている。
3.リ エタ・ウルトラライトの原理を応用した
ダッシュインシュレーター加工ライン。焼
却される予定だった衣類を主原料として使
用するため、CO2削減にもつながる環境対
応製品である。
2011 No.1 The lnvention 11