最近の消費者クレームからみたワインの安全

J. ASEV Jpn., Vol. 17, No.3
[ 2006年 日本ブドウ・ワイン学会 特別講演要旨 ]
最近の消費者クレームからみたワインの安全・安心
角野 久史
株式会社コープ品質管理研究所
(〒601-8382
京都市南区吉祥院石原上川原町 1-2)
The Recent Consumer’s Objections about “Safety and Security” for Wine
Hisashi SUMINO
CO-OP Quality Control Co., Ltd
(1-2 Kissyoin Ishihara Kamikawara, Minami, Kyoto 601-8382, Japan)
1.消費者の食品に対する意識は変化している
2000年の大手乳業メーカー食中毒事件以後、消費者の食品に対する意識は変化していることを、クレ
ーム等のお申し出から見ることができる。
①臭いや味に関しての申し出
• 長崎カステラ
開封して食べようとしたら、保存料のようなにおいがしました。
• 日本の檸檬マーマレード
防腐剤くさいです。特に一口目がくさい・・・。
• 合挽ミンチ
今回のものは妙に輸入牛くさかったです。それまではこんな事ありませんでしたが、値段が安かったから?でしょうか。
消費者は臭いや味に対しての不満をいろんな表現をする。消毒臭や薬品臭という表現が一般的であるが、
「ゴキブリの味がする」とか「足の裏の臭いがする」「猫のしっこのような臭いがする」とかいろんな表現
をする。保存料や防腐剤は無味無臭である。輸入牛も特有の臭いがあるわけではない。保存料や防腐剤は食
品添加物である。普通の消費者は食品添加物を安全だとは思っていない。また輸入牛もアメリカ牛の牛海綿
状脳症(BSE)問題があり安全だとは思っていないのである。私が食べた食品は安全なのだろうかと不安の現
われである。
②異物混入に関しての申し出
• アロエヨーグルト
アロエの果肉に、取りきれてない皮や皮の固いところが在り、口にさわった。
• チキンピラフ
食べている時、骨のような物が出て来ました。恐らく鶏の骨でしょうが、どういう過程で混入したのか、この骨のような物が
何なのか、知りたいです。気に入っている商品だけに残念です。
豚肉をフライパンで炒めていて、おかしなものが目に入ったので取ってみると、豚の毛が生えている部分だった。
• 白身魚フライ
骨が入っていて、舌に少し刺さりました。時々購入していますが、骨が入っていたのは、初めてです。
日本人は食品の異物混入には寛大ではない。アロエの皮もチキンピラフの骨、白身魚の骨も原料由来であ
るから、本来は異物ではないので、日本以外の国はクレームにはならない。日本は原料由来のものであって
も異物である。異物混入食品は安全ではないのである。
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③製造メーカーの対応に対しての申し出
• 賞味期間内に食べたのですが 30 個のうちの 1 個がすごくアルコールで湿っていて少し食べただけで気分が悪くなりまし
た。メーカーに電話をしたのですが、工場の方は「消毒のアルコールが多くかかったためですね」という軽く答えられただけ
でした。当時は友人の子供も遊びにきており、皆で食べていたので、もし子供が食べていたらどうなっていたことかと思うと
メーカーのこのような対応では心配に思いました。
• 賞味期限 2005/10/23 の商品ですが、開封すると内部の空洞になっているところがピンク色or肉汁が出ていて捨てました。
メーカーに直接TELしましたが態度がよくなかった。(回答になっていなかった)
予期しない臭いや色があると、黙って捨てることはしない。疑問にたいしては、直接メーカーに問い合わ
せをおこなう消費者が多くなっている。そのとき、消費者の気持ちを汲んで正直、丁寧に応対しないと安心
できないメーカーとおもわれ、二度とその商品をかってくれない。商品だけではなくそのメーカーのブラン
ド全部を買おうとしない。
④安全に対する疑問の申し出
• 海ぶどうを指示どおり 1 分洗ったら絵の具の匂いがした。30 分間水に浸したが変わりませんでした。汚染された海域で獲
れたような感じがします。
• カレイの頭の下あたりから小エビが沢山出てきた。その小エビを妊婦の奥さんが食べたが、害は無いのか・・・「有害なもので
はないか?」と奥さんからの電話がありました。
• ベトナム産ブラックタイガーをいつも利用していますが、少し気掛かりなことがあります。それは、40年前の戦争で使用され
た枯葉剤のことです。40年経過したとはいえ、ダイオキシンは分解せず土壌に残留していると思われます。そこで、ベトナ
ムで養殖されているブラックタイガーのダイオキシンの検査結果について教えていただけませんでしょうか。よろしくお願い
いたします。
• 2003年産の勝沼ワインを購入したのですが、いつもと違って苦みがあるのですがどうなのか?中身の成分等問題がない
か調べてほしい。
なにか通常と違うことがあったり、ふと疑問に思ったことで安全性に疑問を持った場合にはストレートに
質問がくる。それだけ今の食品は安全で安心ではないのである。
2.最近のお申し出の背景
最近のお申し出の背景は
① 消費者の変化に気がつかない企業の対応
② あとを絶たない企業の不祥事
③ 引き続きある回収
④ 毎年出てくる安全性問題
があるといえる。
2-1. 消費者の変化に気がつかない企業の対応
消費者対応は時代とともに変化をしてきている。第1段階は高度成長期前の黎明期である。例えば商品に
虫などの異物が入っていた場合、「すいません。すいません。」と手土産をもってひたすらお詫びをすれば、
許された時代である。競合他社も少ない時代であり、ご迷惑をおかけしたことに対するお詫びの対応で、ま
た商品を買ってくれた。
その後競合他社が現われきて、第2段階の発展途上期に入る。この時代は大量生産、大量消費おこなわれ
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て、異物混入等のクレームが多発をする。「ご迷惑をおかけしたことに対するお詫びの対応」だけでは顧客
離れがおこり、二度と商品を買ってくれなくなる恐れがおき、ご迷惑をおかけしたことの原因を調べ、二度
とおきないように対策を打つことが求められてきた。クレーム発生の原因を把握して改善、改良をおこない
顧客満足を目指した時期である。
第3段階はバブル崩壊後の成長期である。異物混入等は原因がつかめ、対策を講じることができるが、
「い
つもと味が違う」「薬品集がする」等の異味異臭のクレームは多発をすればその原因をつかむことは可能で
あるが、同一ロットで一件の場合は原因をつかむのは困難である。この場合は明らかな欠陥品ではなく不満
品である。欠陥にはあきらかな原因があり対応しやすいが、不満はなかなかその真の原因がつかみにくい。
しかし、その消費者が不満を感じたのは事実であるために、不満の潜在的要素を探り、分析し対応しなけれ
ば顧客離れがおこる。
現在は第4段階の成熟期である。2000年の大手乳業メーカーの食中毒事件後、消費者は食品に対して
不信と不安をもっている。安心できないメーカーやブランドは消費者から選ばれない時代である。今企業に
最も影響を及ぼす変化は消費者の変化である。その消費者の変化に気づかないで従来の対応をおこなってい
てはその企業は生き残れない時代である。そのためにも消費者を理解し消費者個々人の期待に応えられる対
応の必要に迫られている。
2-2. あとを絶たない企業の不祥事
2001年9月に日本で初めて牛海綿状脳症(BSE)の牛が発見されて、牛肉に対して安全性の不安が広
がった。そのために消費者は牛肉の買い控えをおこない、業界全体が大きな打撃を受けた。そのために農水
省は BSE の全頭検査以前に解体した牛肉の買取制度を始めた。雪印食品が買取の対象外である輸入牛を国
産牛用の箱に詰め替えて偽装したしたことが2002年1月に発覚した。その後雪印食品は解散をした。そ
れ以後同じような事件が起こり現在も発生をしている。
日本の消費者は食品の表示について疑いの目でみていて、安心できないと思っている。
2-3. 引き続きある回収
「賞味期限の表示が間違っていました」
「アレルギー源の表示が洩れていました」
「金属異物が入っていま
した」
「食品衛生法に認められていない食品添加物を使っていました」
「誇大広告をおこない公正取引委員会
から排除命令が出ました」等の回収が毎日のように新聞に出る。食品の回収は2000年の大手乳業メーカ
ー以前の食品の回収は年に2~3件であった。しかし、2000年からは年に100件ほどになっている。
2000年以前も同じ様な不適合があったが、内密で対応して済ましていたと思われる。しかし、2000
年以後は不適合が発覚した場合は正直に公開し情報発信をしなければ「隠蔽するきか」と疑われ企業の存亡
に係わることもおこっている。
2-4. 毎年出てくる安全性問題
2000年の大手乳業メーカーの食中毒事件以後、毎年のように食品の安全に係わる大きな問題が発生し、
消費者を大きな不安に陥れている。2001年に BSE の牛が始めて発見され、2003年~2004年に
かけて高病原性鳥インフルエンザが山口県、大分県、京都府で発生、特に京都府の場合は生産者が通報を怠
り、インフルエンザにかかった鶏肉が市中に出回ったため、大きな社会問題となった。
2006年には輸入再開されたアメリカ牛肉に危険部位の脊髄を含む背骨が付いていたとして、再び輸入
禁止となった。このように毎年、食品の安全性に関して大きな問題が発生しており消費者は食品に対する不
信、不安を募らせている。
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3.食品の安全安心とは
3-1. 安全とは
前述したように消費者の食品に対する不信、不安が広がる中、多くの食品企業は我社の製品は安全で安心
であると強調している。しかし、我社の安全、安心とは具体的にどうゆうことかと聞いても、明確な回答が
返ってこない。
食品の安全とは検証にもとづく客観的な評価である
安全とは「感と度胸と経験」で製造したのでは保証はできない。例えば HACCP システムで製造する場合
CCP(必須管理点)を設定する。一般的には加熱工程を CCP にする。加熱温度 85℃~90℃、加熱時間を 30
分~35 分と設定したとする。この管理基準は「感と度胸と経験」で設定したのではなく、加熱後微生物検
査をおこない、微生物が一定以下であることを検証して安全を客観的な評価をして設定する。もちろん食品
は安全であってもおいしくなければ売れないので官能検査もして味の客観的評価をする。
食品が安全であることは「食品本来の作用以外に、健康に有害なあるいは不都合な作用を及ぼさない」ことである
すなわち、食品を食べて食中毒にならないし、金属等の硬物異物の混入で怪我をしないということである。
ISO 22000: 2005 の食品安全の定義は
食品が意図した用途に従って調理され及び/又は食される場合に、消費者に危害をもたらさないという概念
となっている。食品を喫食して健康を損ねないということである。
食品安全ハザードは
健康への悪影響をもたらす可能性のある食品の生物的、化学的又は物理的物質又はその状態
と定義している。
具体的に言うと生物的とは代表的なものが微生物で特に食中毒菌である。化学的なものは現在一番問題な
のはアレルギー源であるし、物理的なものは硬物異物である。これらのハザードを管理して「食品本来の作
用以外に、健康に有害なあるいは不都合な作用を及ぼさない」ことが安全である。
3-2. 安心とは
食品の安心とは個々人が感じる主観的な評価である
たとえ検証にもとづく客観的な評価に基づいて安全が証明されていたとしても、その企業が過去に不祥事
事件を起こしていれば、信頼できない企業になっており安心ではないということになる。安心とは個々人に
よって感じ方がちがうのである。不祥事を起こした企業の商品を消費者が購買しないに理由は、もちろんそ
の企業が信頼できないという理由は当たり前であるが、もうひとつの大きいな理由は、不祥事をおこした企
業の商品を買っているところを、他の消費者から見られたくないという心理が働くことにある。
安心とは安全を実現していくプロセスに対する信頼である
詳しくは後述するが、食品安全ネットワーク*が提唱する食品衛生7Sを土台に ISO 22000 の構築が安全
を実現していくプロセスである。
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