イギリスの地方空港における所有形態と 経営成果の定量

イギリスの地方空港における所有形態と
経営成果の定量分析
横
見
宗
樹
.はじめに
.イギリスの空港政策の推移
.イギリスの地方空港の経営成果
.結
論
.はじめに
昨今の世界的な空港民営化の潮流のなか、わが国では関西国際空港と中部国際空港の
(
)方式による空港建設、
年
月には成田空港の民営化(特
殊会社化)など、拠点空港においては効率的な空港運営が志向されている。しかしながら、
依然として地方空港では、その全てが国または地方自治体などによる公的所有・運営がなさ
れている。
とりわけ財政再建が要請される現在では、空港のような公共的性格の強いインフラといえ
ども収支を念頭においた効率的な運営が求められており、離島空港などナショナルミニマム
の観点から維持することが必要とされる一部の空港を除いては、基本的に地方空港において
すら効率化の波は避けて通れないものと考えられる。
先行研究を概観すると、わが国の地方空港に関しては、民営化という主張まではいかない
ものの、昨今の研究では、赤井他(
)や内田(
り方を問うものが目立つようになっている。赤井他(
)など、地方空港の管理・運営の有
)では、空港ターミナルビル会社
の収支に影響を与える要因分析の結果、民間の出資比率が高いほどビル会社の経常利益の増
加することが導出され、内田(
)では、アンケート調査に基づいて地方空港
空港のう
ち 空港が赤字であることが示されている。
とはいえ、こうした実証分析はデータ制約による限界を包含している。すなわち、従来よ
りわが国の空港は
空港整備特別会計 (現在では
空港整備勘定
に改称)による収益
プール制が採用されているため、現在でも個別の空港収支は開示されていない。したがっ
て、地方空港の収支分析は一部を除いて依然として不可能な状況のままである )。
)地方自治体が管理する空港はプール制の枠組みには包含されないため、個別空港の収支は観察可能であ
るが、実際には当該自治体の一般会計における費用配賦の問題より空港そのものの純粋な収支を算出する
ことは困難である。
大阪商業大学論集
第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
一方で、空港民営化の先駆けとして知られるイギリスでは、後述するように地方空港にお
いてすら民営化や商業化の事例が多数存在する。これらの空港の多くでは利潤動機に基づい
た効率的な空港運営がなされていると考えられ、さらに民営化空港では空港ごとに財務諸表
が公開されている。
そこで本稿では、イギリスの地方空港における民営化や商業化の事例分析を踏まえたうえ
で、所有形態の違いが空港の経営成果に与える影響を定量的手法により導出し、わが国の地
方空港の管理・運営の有り方を考えるうえでの示唆を得ることを目的とする。
.イギリスの空港政策の推移
.
の民営化
イギリスでは伝統的に保守党と労働党の二大政党制による政権運営がなされてきた。その
なかで
民営化
は両政党のイデオロギー的な対立軸の中枢に位置づけられてきた。すなわ
ち、労働党の政権下では国有化が、保守党の政権下では民営化が、それぞれ推し進められて
きた。国有化から民営化、そして再国有化と、政権交代のたびに目まぐるしく変化が重ねら
れてきたが、その状況が大きく
民営化
に舵を切る契機となったのが、
チャー保守党政権の誕生である。とりわけ、
年
年
月のサッ
月のサッチャー再選以降において、民
)
営化計画は飛躍的に加速している 。
サッチャーは、 大衆資本主義(
) と銘打った国民の経済活動に対す
る参加、具体的には民営化企業の株式所有を広く大衆に拡散させることにより、民営化の果
実を国民に還元し、民営化政策に肯定的な世論を形成することに成功した )。こうしたなか
で、
年にイギリスの空港運営会社である
が民営化され、
と改称された。
は、前身の公団が設立された
ウィック(
(英国空港公団)
年には、ヒースロー(
)
、スタンステッド(
の空港を所有していた。プレスティック空港は
ンバラ(
)
、
)
、プレスティック(
)の
年に売却されたものの、
年にアバディーン(
年にサウサンプトン(
)
、ガト
)とグラスゴー(
)の各空港を取得し、現在では
つ
年にエディ
)
、
つの空港を所有お
よび運営している。
民営化により経営裁量権が飛躍的に拡大した
は、様々な非航空系活動に進出
し、経営多角化を図ってきた。たとえば、アメリカやオーストラリアなど国外の空港や空港
ターミナルの商業施設の経営受託、免税店を運営する
(
の設立、
)や不動産事業を展開する
マッカーサー グレン (
)
)野村(
),
ページ。
は、民営化計画の実行前では約
している。
%(約
ワールド・デューティー・フリー
リントン (
)などの子会社
)というデザイナーブラン
によると、成人人口に占める個人株主数の比率
万人)に対して、
年 月には約 %(約
万人)に増加
イギリスの地方空港における所有形態と経営成果の定量分析(横見)
ドのアウトレットモールを経営するジョイントベンチャーの設立(ただし、
年
月に出
資解消)
、ヒースロー・エクスプレス(
)という鉄
道会社の設立、といった幅広い事業へと進出を果たしてきた。
一般的に、企業経営の側からみた民営化のメリットは、公から私への企業形態(所有権構
造)の転換による利潤動機の発生と経営裁量権の拡大に裏打ちされた 経営効率の改善
ある。民営化以降の
で
は、とりわけ上述のような非航空系活動の経営成果が著しく
増大しており、
(
)のマルムキスト指数(
非航空系活動の全要素生産性(
)による計測では、
)が民営化以降で急激に上昇したという結果が得られ
ている。
しかしながら、
(
年
月に
はスペインのディベロッパーであるフェロビアル
)のコンソーシアム(フェロビアルが
形で買収され、同年
月
(
%出資)に株式の
日に上場を廃止している。さらに、
)が寡占上の問題からロンドンの
空港を売却するよう提案したことに対して、同年
月に
%を取得される
年には競争委員会
空港とスコットランドの
はガトウィック空港の売
却方針を打ち出した。
そもそも民営化時点において、 つの空港を一括して民営化することには、競争上の観点
から当時の経済学者を中心に批判が繰り広げられていた。
の民営化以降の経営成
果が良好であるのは寡占による市場支配力を背景としたものであるという見方もできるもの
の、一方で民営化による経営裁量権の拡大は非航空系活動を中心とした多角化による収益基
盤の強化に結び付いており、これは民営化の成果と位置づけることができる。
.
地方空港の民営化と商業化
現在のイギリスにおける空港政策は、
年の“
”と題す
る政府白書に基づくものである。白書では、今後の増加が予測される航空需要への対応(拠
点空港の容量拡張や既存容量の有効活用)に加えて、地域需要に応えるための地方空港の成
長促進が掲げられている。とりわけ、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドなどの
地域経済の発展や、イギリス南東部地方の空港における混雑解消による便益が強調されてい
る )。
こうした地方空港の位置づけの高まりを受けて、イギリスの航空規制機関である
(民間航空局)は、
(
)、つづく
年に地方空港に対する初の本格的な調査レポートである
年に続編として
(
)を刊行し、地方空港の現状や成長要因
)
の分析をおこなっている 。
イギリスでは、定期航空が就航している空港は
)
ている 。
存在する(アイルランドを含む)とされ
の定義にもとづき、ロンドン地域に所在する
トウィック、スタンステッド、ルートン(
つの空港(ヒースロー、ガ
)
、ロンドンシティ(
)
)以外
を地方空港とするならば、イギリスには の地方空港が存在することになる。
)
)当該レポートにおける 地方空港
)
とは、ロンドン地区以外の空港を指すものと定義している。
に基づく。
大阪商業大学論集
図
は、
年から
第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
年にかけてのイギリスの地方空港の発着旅客数(下方の折れ線)
と全空港に占めるシェア(上方の折れ線)の推移を示したものである。
地方空港を発着する年間旅客数は約 億人弱に達しており、
た、イギリスの全空港に占める地方空港の旅客数シェアも
年の時点で約
年のイギリスの
年の約
倍に相当する。ま
年頃より上昇傾向が強まり、
%のシェアを占めている。
図
イギリスの地方空港の発着旅客数と全体シェアの推移
(出典)
イギリスでは地方空港といえども民営化や商業化が積極的に実践されている。
(
)は
イギリスの空港は、この
年間のうちに、かつては大部分が公的所有であった
のが、主として民間所有(部分民営化も含む)へと移行してきた
中条・伊藤(
)によると、政府活動の市場化の形態は、
民間に放出するもの)
、
と指摘している
)
。
完全な民営会社化(株式を
公有商業会社化(株式は政府あるいは自治体が所有するが、商法
上は一般の株式会社と同じステータスにして自由な企業行動を認めるもの)
、
エージェン
シー化(料金収入を得られない組織に自主性を与えて効率改善を図るもの)の つに分類さ
れるとある。
表 はイギリスの公有空港、表
はイギリスの民有空港(部分民有化を含む)の一覧であ
る。イギリスに特徴的なことは、公有空港のいくつかは運営主体に企業形態を採用してお
り、先の分類に従えば 公有商業会社化 (一般的にいう
われている事例が観察される。たとえば、ボーンマス(
(
)
)
、 イー ス ト・ ミッ ド ラ ン ズ (
企業化
や
商業化 )がおこな
)
、マンチェスター
)
、 ハ ン バー サ イ ド
表
空
港
イギリスの公有空港
名
所
有
者
( の地方自治体が所有)
が %、
地方
%を所有
議会が
市議会
(民間供用施設)
州議会
(
によ
る所有)
市議会(
年 月より
の完全子会社である
に移転)
(出典)
(
)の各空港は、
プ (
の地元自治体が所有権をもつ
マンチェスター空港グルー
)が所有しているが、このグループには
ター空港会社 (
また、バーラ(
)という企業が
)
、ベンベキュラ(
インバーネス(
(
)
、アイラ(
)
、サンバラ(
ハイランズ
%の出資をおこなっている。
)
、キャンベルタウン(
)、カークウォール(
)
、タイリー(
は、スコットランド大臣(
額出資する
マンチェス
)
、
)
、ストーノウェー
)
、ウィック(
)の各空港
)が所有権を有し、スコットランド政府が全
アイランズ空港会社 (
)とい
う空港経営企業により運営されている。こうした 公有商業会社化 された企業形態では、空
港経営者は投資の意思決定および資本市場からの資金調達を自由に実施することができる
さらに、ダンディー空港(
よりハイランズ
(
)はダンディー市議会が所有していたが、
アイランズ空港会社の完全子会社である
)
。
年
月
ダンディー空港株式会社
)に譲渡されている。
表
に関する限りでは、純粋な公有空港は、デリー市営空港(
キー空港(
)のみとなっている。前者はデリー市議会(
者はコーンウォール州議会(
)
、ニュー
)
、後
)が、それぞれ所有者となってい
る。
他方で、先に述べたように現在イギリスでは民有空港が公有空港を凌いで数の上では優位
な状況にあるといわれているが、こうした民有空港(表
フェロビアルやピール・エアポート(
有 す る ケー ス が 多 い、
を参照)に特徴的なことは、
)などの特定企業が複数空港を一括所
ス ペ イ ン の フェ ロ ビ ア ル や オー ス ト ラ リ ア の マッ コー リー
)
源の小規模空港などは例外である。
ただし、地方自治体やスコットランド政府が所有する赤字財
大阪商業大学論集
表
空
港
第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
イギリスの民有空港(部分民有化を含む)
名
所
(
(
は
)が所有。
%、
有
者
は
が
が
%、
が %を所有)
(
の 地
(
は
方議会が %、
の教員年金制度と
が所有)が
%、従業員株式信託が
%を所
有)
(
が %、
が %を所有)
自治区議会、経営と整備は
に対する委託契約
所有は
が
%、
自治区議会が
%
を所有
(
%、
所有)
が
が
%を
(イギリスの航空機
製造企業)
(
)
(
と
の合弁企業)
が %、 つの地方自治体が %を所有
(
)
(
が %を所有)
が %、
(
(
)
)
が
(
つの地方自治体が %、
%、
)が
%を所有
空港が %を所有
が %、 つの地方自治体が %を所有
(低費用航空会社の経営やマ
リーナを運営する企業)
(出典)
イギリスの地方空港における所有形態と経営成果の定量分析(横見)
(
)など外資による空港所有がみられること、が挙げられる。
まず
に関しては、たとえばフェロビアルは
(
の
空港とベルファスト・シティ空港
)を所有しており、ピール・エアポートはドンカスター・シェフィールド
(
)とリバプール(
)空港の
ラム・ティーズ・バレー空港(
%の所有権を有するほか、ダ
)に対しても
いる。その他にも、表 に関する限り、さらに
%の出資をおこなって
社の企業や組織が複数空港の一括所有をお
こなっている。
つぎに
に関しては、スペインのフェロビアルは
ティ 空 港 の
(
空港の
%、ベルファスト・シ
%、 オー ス ト ラ リ ア の マッ コー リー は グ ルー プ 全 体 で ブ リ ス ト ル 空 港
)の
%、デンマークのコペンハーゲン空港会社(
ニューカッスル空港(
)の
る外資の取り扱いに関しては、
)は
%の所有権をそれぞれ有している。イギリスにおけ
が民営化された時点で
黄金株 (
)
という特別な株式を政府に留保することで、外資による買収など重要な事項に対する政府の
拒否権が付与され、実質的な外資規制がおこなわれていた )。しかし、
受けて
年に
指令を
が黄金株の廃止に応じることとなり、これをもってイギリス企業から黄金
株は完全に消滅したといわれている。したがって、現在のイギリスでは外資を含めた広範な
所有者による多様な空港所有・運営がおこなわれているのである。
他 に も 特 徴 的 な 点 を 挙 げ る と、 バー ミ ン ガ ム (
(
)
、ニューカッスル、ノリッジ(
)
、 ブ ラッ ク プー ル
)の各空港は、地元自治体も出資する
公私混合企業の形態で所有・運営されている。なかでも、ニューカッスル空港については自
治体の出資比率が %と過半数を超えており、公的な経営裁量権の余地を留保する形となっ
ている。また、バーミンガム空港は自治体の出資比率は
%と過半数には満たないものの、
最大株主が自治体となっている。
また、他産業による空港所有の事例もいくつかみられ、たとえばケンブリッジ空港
(
)を所有する
マーシャル・オブ・ケンブリッジ・エアロスペース株式会社
(
)は航空機製造企業であり、プリマス空港
(
)を所有する
)は
サットン・ハーバー・ホールディングス (
エアーサウスウエスト (
)という低費用航空会社を経営
するほか、マリーナの運営もおこなう企業である。
以上に述べたように、イギリスの空港経営では民営化や商業化による民間活用が積極的で
あり、このことは、
(
)であり
(
規制機関 (
)黄金株の詳細は横見(
)
)を参照のこと。
)の
政府の役割は
許認可権者
)である という指摘にも裏付けられている )。
大阪商業大学論集
第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
.イギリスの地方空港の経営成果
前節において、イギリスの地方空港には多様な所有・運営形態のあることが明らかとなっ
た。こうした所有・運営形態の違いが空港の経営成果に与える影響を検討するため、本節で
はイギリスの地方空港の経営成果を分析する。
イギリスの
バス大学 (
)の規制産業研究センター
(
) は、“
”というイギリスの主
要空港の統計集を毎年公刊している。この統計集は、個別空港の輸送統計のほか貸借対照表
などの財務統計も所収しており、本節の分析におけるデータソースとして使用する。
.
表
地方空港の収支
は、
(
)のサンプルより地方空港(ロンドン地区を除く全ての空港)
港を抽出し、それらの空港を所有形態別に分類したものである。
表
民間資本が
空
%の出資
サンプル空港の所有形態
注)民 完全民営化、商 公有商業会社化(企業化・商業化)、混
外資が参画
(
)および
(
)より作成。
(出典)
公私混合企業、外
所有権に
イギリスの地方空港における所有形態と経営成果の定量分析(横見)
をおこなう
完全民営化 、
株式は政府あるいは自治体が所有するが、商法上は一般の株
式会社と同じステータスにして自由な企業行動を認める
公有商業会社化 (企業化・商業
化)、 公的部門(地元自治体など)と民間部門の双方が出資をおこなう
公私混合企業 、
の 種類に基本的に分類され、さらに所有権に外資が参画するものも区分している。この分
類に従えば、サンプル中には純粋な公有空港(公的部門が
%の所有権を持ち、直接運営
する空港)は含まれていないことになる。
これらのサンプル空港の収支を示したものが図 である。着陸料などの航空系利潤、ター
ミナル内の商業活動や駐車場収入などの非航空系利潤、両者を合計した総利潤の順に示して
いる。この図によると、航空系利潤単体でみると、全 空港のうち半数以上の
空港が赤字
であり、これらは比較的に旅客規模の小さい空港に集中している。しかしながら、これに非
航空系利潤を合算した総利潤でみると 空港において収支が改善される結果となり、なかで
も 空港は赤字から黒字へと転換している。概していえば、空港本体が赤字であっても非航
空系収入で収益強化を図る構図が観察される。
図
(出典)
(
イギリスの主要地方空港の収支(単位 千ポンド)
)より作成。
つぎに所有形態別に特徴をみてみると、総利潤に関して、表
る
公有商業会社化
空港のうち
の空港では
空港のうち
の分類上は公有企業に当た
空港が赤字、 公私混合企業
空港が赤字であるのに対して、 完全民営化
の空港では
の空港では
空港のうち赤字
は僅かに 空港のみとなっている。さらに、完全民営化の空港のなかでも外資が出資する
空港に関しては、相対的に大幅な黒字額が観察される。このことは、所有形態が収支に影響
を及ぼしているという見方ができる一方で、単に高収益の空港が民間資本による投資を引き
付けているだけという見方もできる。しかしながら、いずれにせよ空港の所有形態と収支は
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第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
何らかの相関をもつことが推測される。
.
による効率性分析
つぎに、効率性(技術的効率性)と空港の所有形態との関係を検討する。本稿では
(包絡分析法)という手法を用いて上記のサンプル空港における効率性を計測する。
一般的に、複数の投入および産出項目を取り扱うことのできる
は、空港の効率性計
測に有効であるとされ、同種の先行研究で最も一般的に採用されている。なお、
の詳
細は補遺を参照されたい。
本稿では、
航空系活動、
測を実施する。前者を 計測
.
.
空港全体(非航空系活動を含むもの)
、の
、後者を
投入・産出項目と
計測
モデル
分析に用いる投入項目は、計測 では航空系費用、計測
では総費用(航空系費用に非航
空系費用を加えたもの)を用いた。産出項目は、まず計測
キログラムを旅客
種類の効率性計
と識別する。
・
共通のものとして、貨物
人に換算した合成指標であるワークロード・ユニット(
)と、航空機離発着数(
)
、さらに計測
では航空系収入、計測
で
は総収入(航空系収入に非航空系収入を加えたもの)の各 種類を使用した。ただし、サン
プル数は欠損値のある
空港を除外した
モデルを採用し、計測には
.
.
(
空港としている。
)の
である。
計測 は収入と費用の項目に(非航空系を除
いた)航空系活動の収入および費用を用いた
ものであるが、最も効率的な
空港(効率値
が を示すもの)のうち
空港が
化 の空港であり、うち
空港が外資による
完全民営
資本参画がおこなわれている。その一方で、
空港のうち
空港が
公有商業会社
化 の空港であり、全般的に民有空港の効率
性が高く、公有空港の効率性が低い傾向が観
察される。また、外資は経営成果の良い空港
に対して積極的に出資していることも推測さ
れる。
.
.
計測 の結果
計測 の結果を示したものが表
計測
を使用した。
計測 の結果
計測 の結果を示したものが表
下位
は、産出指向型の
である。
は非航空系活動を含めた収入と費用
を全て包含した計測である。その特徴を計測
表
計測 の結果
イギリスの地方空港における所有形態と経営成果の定量分析(横見)
と比較すると、
マンチェスター空港の効
率値および順位が大きく後退している、
率値の下位に 完全民営化
効
表
計測
の結果
の空港が集中し
ている、ことである。
まず に関しては、マンチェスター空港の
効率値は
(計測
)、順位は
)から
位(計測
(計測
)から
位(計測
)に後退している。このことは、非航空系
活動を含めた経営成果でみれば、公有空港は
民有空港に及ばないことが示唆される。
とはいえ、
に関してみれば、
つの民有
空港が計測 の最下位に集中している。これ
らの空港は他と比較すると小規模な空港であ
り、航空機離発着数(
スエンド(
)でみるとサウ
)は
回と全サンプ
ル中で最も少なく、エクセター(
は
)
回、 ロ ン ド ン・ ビ ギ ン・ ヒ ル
(
)は
回とサウスエ
ンドに次いで少なく、民有空港であれ小規模
な空港では非航空系活動においても効率性に劣ることが明らかとなった。
表
は、空港の所有形態ごとに効率値の平均を比較したものである。これによると、 完
全民営化
と
公私混合企業
有商業会社化 の空港は計測
は、計測
・
・
ともに平均値に殆ど差異はないものの、 公
ともに他の所有形態と比較して
ほど効率値の
平均が低い結果となっている。したがって、たとえ企業形態を採用していても実質的な所有
者が公的部門であることは、効率性において負の影響をもたらすことが明らかとなった。
表
.結
所有形態ごとの効率値の平均比較
論
本稿では、空港民営化の先駆けとして知られるイギリスの地方空港における民営化や商業
化の事例分析をおこない、所有形態の違いが空港の経営成果に与える影響について、収支分
析と
による分析から明らかにしてきた。
(
)ならびに
(
)によると、イギリスの地方空港が成長を遂げた理
大阪商業大学論集
由として、
第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
年のヨーロッパ航空自由化を受けてローコストキャリア(以下、
略記)が急速に拡大したこと、
が顕在化したこと、
と
により地方空港を発地とする潜在的な航空旅客需要
地方空港の民営化や商業化の傾向が高まり、地方空港においても競争
的プライシングや新規航空路線の積極的開拓が進んだこと、
旅客の旅行パターンが経由
(ロンドンやヨーロッパのハブ空港など)から直行(発着地に地方空港を利用)にシフトし
たこと、 地方空港間の競争拡大で空港使用料が低減し、ノンフリルを採用する航空会社間
の競争が激化したこと、が理由に挙げられている )。
第
章の収支分析と
かとなったが、先の
旺盛な
による計測結果より民有空港の経営成果における優位性が明ら
の指摘に基づけば民営化された空港の経営成果の原動力として、
需要に支えられた自由な市場競争が実現されていることが挙げられる。した
がって、わが国の地方空港における効率的な管理・運営を可能にするためには、まずは航空
需要の活性化が前提になるものと考えられ、そのための方策として
などを原動力とし
た航空輸送市場のさらなる競争促進が求められるかもしれない。
補遺
について
は投入から産出への変換過程における物理的な効率性(これを技術的効率性とい
う)を計測する手法である。すなわち、投入量と産出量の比率尺度(産出量
投入量)を、
それぞれの分析対象ごとに算出し、これを相互に比較することによって相対的な技術的効率
性を評価するものである。
では、各分析対象を
(
)と呼び、各
産出量をプロットしたデータ集合を包み込む(包絡する)凸集合を
の投入量と
効率的フロンティア
と呼んでいる。効率的フロンティアで包み込まれるデータ集合(生産可能集合)はフロン
ティア上の
と比較して非効率的と判定されることになる。すなわち、効率的フロン
ティア上に属する
うのが
を基準として、非効率と判定される
を相対的に評価するとい
の基本的な発想である。
効率的フロンティアに属する
率値を示す
の効率値は
とする。したがって、
よりも小さい効
が、すべて非効率と判定される。さらに、求められた効率値を相互に比較
することによって、非効率の程度や効率的となるための改善案(効率的フロンティアとの距
離)が明らかになる。
の効率値は線形計画法を解くことによって求められる。そのことを説明するため
に、まずは以下のような分数計画を考える )。
)
、および
)以下の数式による説明は、
に基づいている。
イギリスの地方空港における所有形態と経営成果の定量分析(横見)
は投入量、
は産出量、
数、 は産出項目の数、
と
は
は、それぞれ
と
のウエイト、
は投入項目の
の数である。
この分数計画は、以下のような線形計画に書き換えることができる。
変数の定義は
くことにより
式と同じである。各
について、その数だけ、この線形計画問題を解
の効率値を求めることができる。
では、 規模に関する仮定
と
指向性の仮定
により複数のモデルを構築するこ
とができる。規模に関する仮定については、規模に対して収穫一定とする
)モデルと、規模に対して収穫可変とする
(
(
)モデルがある。また、指向性の仮定に関しては、投入指向型(
)と産出指向型(
)の
つのモデルが考えられる。投入指向型とは
産出水準は変えずに効率的フロンティアに移動するために削減すべき投入量の比率を求める
もので、産出指向型とは投入水準は変えずに効率的フロンティアに移動するために増加すべ
き産出量の比率を求めるものである。
の主な特徴としては、多数の投入項目と産出項目を取り扱うことができるほか、産
出項目が明確に定義できない活動(たとえば、非営利団体や政府機関の活動)の効率性を計
測できることである。また、
の基本モデルでは投入項目と産出項目に関する情報のみ
が必要とされ、さらには回帰分析におけるようなコブ・ダグラス型やトランスログ型などの
関数形を特定化する必要がない。しかし、そのために要素価格や生産費用に関する一切の情
大阪商業大学論集
報が含まれないことが
第
巻 第
号(通号
・
号合併号)
の大きな欠点となっている。さらなる欠点として、使用する変
数の数によって結果が変動するという脆弱性、特異なサンプルの存在がフロンティアの形状
を著しく変動させること、などが指摘される。しかし、空港のように複数の投入および産出
項目が存在するケースでは、
は大きな利点をもつと考えられる。
参考文献
赤井伸郎・上村敏之・澤野孝一朗・竹本亨・横見宗樹(
) 地方自治体のインフラ資産活用に対
する行財政制度のあり方に関する実証分析 ─ 地方空港ガバナンス(整備・運営)制度に関す
る考察 ─
(
中条潮・伊藤規子(
) 航空下部構造(空港・管制)市場化の流れ ─ イギリス・オーストラリ
ア・ニュージーランドを中心に ─
(
)
。
運輸政策研究 ,
( )
。
)
野村宗訓(
内田傑(
横見宗樹(
) 民営化政策と市場経済 税務経理協会。
) 地方空港の現況と活性化方策
)
通学研究 ,
運輸と経済 ,第 巻第 号,
。
民営化の成果に関する一考察 ─ 商業政策の変遷における視点から ─
年研究年報
。
謝辞
本 研 究 は、 日 本 学 術 振 興 会 の 平 成
年 度 科 学 研 究 費 補 助 金 (若 手 研 究 ( )
)(課 題 番 号
)による助成を受けている。厚く御礼を申し上げる。
交