2012年4月

フランス学術情報(平成 24 年 4 月分)
平成 24 年 4 月 10 日
ストラスブール研究連絡センター
●「未来への投資:癌研究に関する大学病院研究拠点プロジェクト採択」
2012 年 3 月 20 日、労働・雇用・厚生大臣 Xavier Bertrand 氏、高等教育研究大臣 Laurent
Wauquiez 氏、労働・雇用・厚生大臣付特命担当大臣(厚生)Nora Berra 氏、投資委員会委員長
René Ricol 氏は、未来への投資プログラムの一環として癌研究に関する大学病院研究拠点プロジ
ェクトの採択課題二件を発表した。
選考は、ドイツ・ハイデルベルグ腫瘍研究所の Prof. Christof von Kalle が委員長を務める国際委
員会で行われ、次の二プロジェクトにそれぞれ 1,000 万ユーロずつ支給される予定である。
1. プロジェクト PACRI (alliance parisienne des instituts de recherché en cancérologie 癌研究に
かかる研究所パリ地域同盟)
パリ周辺イル・ド・フランスにおける癌の基礎・臨床研究をより促進することを目標とする。パ
リは、フランス全土の癌研究の 50%を占めており、本プロジェクトの採択により、より革新的
な治療法を確立する。対象機関は PRES Sorbonne Paris Cite(パリ・シテ研究・高等教育拠
点)で、キュリー研究所、グスタフ・ロワシー研究所、サン・ルイ研究所、公的研究機関(パリ
病院、パリ大学、INSERM、CNRS)が含まれる。
2. プロジェクト CAPTOR (Pharmacologie contre le cancer à Toulouse et sa région トゥールーズ
と周辺地域における抗腫瘍薬学)
トゥールーズ周辺における抗腫瘍薬の開発を支援し、高いレベルの戦略研究を行うことで
新しい治療薬の発見を目指す。広い地域を対象とする CAPTOR では、産業界と学術界双
方の強みを生かし、教育的、薬学的な研究を行う。対象機関は PRES Université de
Toulouse (トゥールーズ研究・高等教育拠点)でトゥールーズにある主要大学、研究所等が
含まれる。
本事業は、フランスにおける癌研究をより魅力あるものにするために新しく創設され、フランス国
立研究機構(ANR: agence nationale de la recherche)が事務手続きを行うこととなっている。フランス
で最も優れた科学・医療チームがイノベーションのイニシアチブをとり、国際的な研究成果を出すこ
とを主な目的としている。
参考資料
・フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 3 月 20 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59682/20-millions-d-euros-pour-les-laureats-de-lappel-a-projets-p.h.u.-cancerologie.html
●「フランスの宇宙戦略」
2012 年 3 月 22 日、フランス高等教育研究大臣 Laurent Wauquiez 氏は、フランスの宇宙戦略に
関する報告を発表した。本報告は、フランスの宇宙戦略に関し、ヨーロッパの中でフランスが宇宙開
発の中心的存在であること、宇宙へのアクセス・技術的な独立の確保、開発応用技術の促進・質の
高いサービスの提供、欧州レベルでの調和のとれた意欲的な産業政策の政治的合意等の基本方
針を掲げている。Wauquiez 大臣の発表の概要は次のとおり。
「本報告は、2008 年 2 月にフランス大統領が行ったフランスの宇宙戦略と将来的なガイドラインの
基本方針を確認するものである。フランスの宇宙戦略は欧州において第一位であり、欧州は世界
の宇宙開発力の三本の指に入る。ド・ゴール将軍の将来への見通しと宇宙開発の先駆者達の活躍
により、フランスは国立宇宙研究センター(CNES: Centre National d'Etudes Spatiales)を中心として
宇宙戦略を展開してきた。また、Ariane(人工衛星打ち上げ用ロボット)開発により、宇宙への独自
のアクセスが確保され、宇宙観測やテレコミュニケーションを発展できるようになった。宇宙は我々
の日常生活に深く関わっており、宇宙政策のおかげで、衛星放送のテレビやインターネットの受信
が可能となる。また、より精度の高い気象情報等で多くの人々の生命を救い、遭難者の位置を確認
することができる。宇宙開発は贅沢品ではなく、未来への投資であり、科学・技術の促進に寄与す
るものである。フランスの財政状況は厳しいが、2007 年から 2012 年にかけて宇宙予算は 16%上昇
している。」
報告書には1.宇宙探索、2.日常的なスペース利用(テレビ、携帯等)、3.宇宙と持続的開発、
4.宇宙ノウハウ、5.フランスと宇宙、の五項目がわかりやすく掲載されている。
参考資料
・ フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 3 月 22 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59719/presentation-de-la-strategie-spatiale-franca
ise.html
●「ストラスブール大学での卓越した大学拠点協定締結」
フランス高等教育研究大臣 Laurent Wauquiez 氏は、2012 年 3 月 13 日ストラスブールを訪問し、
「未来への投資プログラム」に採択されているストラスブール大学にて卓越した大学拠点協定(Idex
Unistra)に署名をし、7 億 5,000 万ユーロの投資を約束した。Wacquiez 大臣は、「ストラスブールは
大学の自治化、未来への投資、未来のキャンパス作りについて、高等教育・研究面から成功を収
めており、ストラスブール大学の成功がヨーロッパでトップレベルにある大学との競争に立ち向かう
手段を与えてくれた」と述べた上で、改革の成功を導いた大学関係者に賛辞を送った。
ストラスブール大学が優れた高等教育機関として選ばれた理由は、ストラスブールにあった三大
学の統合(2009 年)で成功を収めたことがきっかけとなっている。ストラスブール大学がとりわけ優れ
たとみなされる理由は、2 名のノーベル賞学者(Jean-Marie Lehn, Jules Hoffman)、18 名の ERC 受
賞者、13 名のアカデミー会員を輩出していることからも伺える。ヨーロッパ大学リーグ創設の一員で
あり、教授陣の 12%、学生の 20%が外国人で構成されており、ヨーロッパの大学の中で重要な位置
を占めている。
今回卓越した大学拠点協定を締結したことで、ストラスブール大学のヨーロッパにおけるステータ
スと国際的な魅力の向上が期待されている。具体的には、研究面において、国際博士課程プログ
ラムの奨学金を提供し、海外の優秀な博士課程学生が在籍できるようにすること、教育面において、
学部・修士課程のダブルディグリープログラムを推進すること、が挙げられる。
既に採択されている大学の自治化、未来への投資、未来のキャンパス作りについて、ストラスブー
ル大学の特色は次のとおり。
1.大学の自治化:オンラインによる授業の補充
2.未来への投資:45 プロジェクト(7 億 6,800 万ユーロ)の採択、化学、基礎生物学、植物学、材
料物理学、応用科学分野での優れた研究、複合領域の研究促進、産学連携の促進
3.未来のキャンパス作り:3 億 7,500 万ユーロを投資して、より学生が過ごしやすい緑のキャンパ
ス作りを促進
参考資料
・フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 3 月 21 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59704/l-universite-de-strasbourg-entre-de-plain-pi
ed-dans-le-xxie-siecle.html
・DNA 紙「Laurent Wauquiez : une signature à 750 million d’euros」(2012 年 3 月 22 日)
●「公務員の給与の制約」
モビリティと待遇の改善を目指したフランス政府の公務員改革が滞っている。5 年前と比べ、公務
員の数は 160,000 人削減され、サルコジ大統領が目指した改革が実施されていないと感じている
上級公務員は 90%にも上ることが 2011 年 5 月の Acteurs publics 紙の調査で判明した。
2011 年度には公務員の昇給は凍結され、2010 年度にもわずか 0.5%から 1%上昇したにすぎな
い。フランス経済・財務・産業省は優秀な公務員のキャリアパスを尊重するための新しい評価制度
を創設し、例えば税金検査官の初級者で年 713 ユーロ、警察の科学調査官で年 1,042 ユーロ給与
が増加したこと、最低賃金の引き上げを主張しているが、ほとんどの公務員にとって、給与が上昇し
ているという実感はない。
2005 年以来、省庁の統合が相次いでおり、新しいポストの創設が期待されたが、42,000 ポストが
新しく作られたに過ぎなかった。モビリティを高めるためには教育やポストが必要だが、中間管理職
のモビリティについて、同アンケートでは 41%が悪化した、また、30%が何も変わっていないと感じ
ている。
以下、アンケートの一部を抜粋する。
○公的機関で働きたくない理由を挙げてください。(複数回答可)
1.報酬 34 人
2.自宅から遠い 33 人
3.公務員試験 31 人
4.社会的に認められていない 27 人
5.昇進が遅い 23 人
6.政治的な影響を受ける 20 人
7.自治に欠ける 19 人
8.職業の面白みに欠ける 11 人
9.労働環境 9 人
○次の要素に関し、民間部門、公的機関のどちらの特色に当てはまるか教えてください。
1.職業上の発展 民間 51%、公的機関 23%、どちらにも当てはまらない 25%、未回答 1%
2.個人の能力の評価 民間 51%、公的機関 17%、どちらにも当てはまらない 31%、未回答 1%
3.正当な報酬 民間 46%、公的機関 28%、どちらにも当てはまらない 25%、未回答 1%
4.管理職への昇進の可能性 民間 46%、公的機関 25%、どちらにも当てはまらない 29%、未回
答 1%
5.育成可能性 民間 24%、公的機関 41%、どちらにも当てはまらない 34%、未回答 1%
6.労働に対する満足感 民間 20%、公的機関 38%、どちらにも当てはまらない 41%、未回答 1%
参考資料
・Le Monde 紙「La fonction publique sous contrainte budgétaire」(2012 年 3 月 20 日)
http://www.lemonde.fr/economie/article/2012/03/19/la-fonction-publique-sous-contrainte-budgetaire
_1671976_3234.html