『香港在住16 香港在住16年 16年。暮らしと仕事 らしと仕事と 仕事と北海道と 北海道と』 北海道海外貿易協力員( 北海道海外貿易協力員(香港) 香港)上出公一氏 平成 21 年 2 月 5 日(木)札幌 グランドホテルにて開催され た『香港セミナー』(主催:北 海道国際ビジネスセンター、 (社)北方圏センター、後援:北 海道 他)において、北海道海 外貿易協力員の上出氏が講演 されましたので、講演録を転載 させていただきます(作成:北 海道国際ビジネスセンター)。 香港に、私は16年住んでいます。ご縁がありまして、香港に来ました。そのご縁を話すと長くなり ますので、割愛しますが、どんなことを話しようかと考えた時、日本に帰ってくる度に、香港ってどん なところなの、中国ってどんなところなの、という素朴な質問がありますので、その質問にお答えする、 という形で今回まとめてみました。香港というのは、貿易自由度ナンバーワン、と今財前さんが言われ ましたが、それは本当にそうだと思いますが、僕はそれに加えてスピードだと思います。それがキーワ ードだと思ってください。 1.香港とはどういうところか ○気候 今は香港は冬です。大陸性、亜熱帯気候です。緩やかですが四季があります。今、気温は大体10度 ~18度ですが、冬は10度を下回ることもあります。ちょっと前に山の上の方に10数年ぶりに、雪 じゃないんですけど、霜が降りたという話がありました。そういう時というのは5度以下になって、ホ ームレスが凍死してしまうくらい寒いです。10度~18度とこちらの人に言うと、暖かいですね、と 言われるけれども、正直寒いです。一般的香港の家というのは、暖房設備がありません。小さな温風暖 房器を入れていたりもしますが、それでも寒いので家の中でダウンジャケットを着ていたりします。僕 はやはり冬場になると、北海道の方が室内が温かくて大好きなので帰ってきたいと思います。夏は暑く て33~34度あります。湿度も90%以上です。外でものを干してもほとんど乾きません。雨期にな ると雨がすごく多いです。特徴としては夏も冬もクーラーをかけています。夏はわかりますが、何故冬 もクーラーをかけるかというと、空気がよどんでいるのが嫌で、空気を循環させるためなんです。循環 した空気は清風で、それは冷たいものでないとだめだと思っているみたいです。それで、冬場オフィス はすごく寒いです。それで日本人は大概そのスイッチを切ります。でも知らないうちにまたオンにされ ています。そのいたちごっこに日本人は困るという話を良く聞きます。それから7月から10月という のは台風が多くなる時期で、台風の距離に応じて10段階のシグナルで知らされます。報道されるのは 1、3、8で1は台風が来たということ、3は幼稚園とかが休みになるレベル、8になるとオフィスや お店の営業も休みになります。実際営業している所もあるのですが、営業していると違法になります。 8になりそうだと聞くとみんな早く帰りたがります。8になっているときに、外を歩いていて、看板が 落ちてきて頭を打って死んでも保険は下りません。日本だと、お年寄りが台風で増水した川などを見に 行って、流されてしまうなどという話がありますが、日本もこのシグナルで予報をしたらいいのではな いかと思います。 ○中国に返還になって変わったことは 返還前の96年、97年には色々と憶測が流れて混乱していました。返還された今、普段の生活で変 わったことは何もないです。変わったことと言えば、役所に香港の国旗に加えて中国の国旗も掲げられ るようになったこと、役所の中に飾ってあるエリザベス女王の肖像画が外されたこと、ポストの色が変 わったこと、このくらいです。大きな違いはありません。中国に変わっても国境はあり、イミグレーシ ョンは存在します。それからマスコミが中国批判をしなくなりました。自主規制が入っていると言われ ています。中国もいろんなところがありますので、人権がないとか、汚いとか、いろんな批判がありま したがそれがなくなりました。 ○中国とどう違うのか まず、香港というのは、700万人の長崎の出島だと考えて良いと思います。特別独立行政地区とい う言い方をしていて、あと40年は現状どおりです。中国大陸は沢山の省があって、言語も民族も違う 集合体であって、それを中国とひとくくりにするのは難しいと思います。日本人でも、中国の話をでき る人はいないと思います。中国の首脳でさえ、中国全体について言及するのは難しいと思います。次に、 チャイナリスクについてですが、自分も香港でビジネスをやっている以上、チャイナリスクというのは 本当に怖いです。香港だから大丈夫だろう、とも100%いえないと思いますが、香港は色々な法整備 がされていて、日本より整備されている部分もあります。中国貿易をしたいのであれば、香港をエージ ェントにして進めるのが一番いいと思います。ここにも香港の方がいらっしゃっていますが、香港の方 は、中国人とは違う、というアイデンティティーを持っていて、これは97年以前のイギリス式の教育 によるものだと思います。 ○言語 ビジネスの場では普通語、北京語を話しますが、日常生活では広東語を話します。中国ビジネスです と普通語、その他は英語を話します。香港では普通語、広東語と思っていただいていいと思います。 2香港での暮らしについて ○物価 15~20年前は日本よりかなり物価が安かったです。生活物価という言い方をすると、日本の商品 は1.5~2倍、ものによっては3倍するものもあります。先ほど財前会長のお話しの中にもでてきた フォーシーズ(四洲貿易)さんともお取引があり、北海道のお菓子を売っていますが、大体店頭での販 売価格は日本の1.5倍から2倍で売っています。生鮮食料品は市場で買うと安いし新鮮です。農薬と いうリスクもありますが、良く洗って食べればいいかなと思います。毎日日本食レストランに行くとエ ンゲル係数が高くなって破産してしまいます。香港に限らず海外では、日本食を食べるということは高 級なことです。僕は日本に帰ってくると、ああ、日本食が安く食べられる、とついつい食べ過ぎて太っ てしまいます。また、公共料金は比較的安いと言われています。特に、原油価格が上がったときに、香 港政庁長官のダニエル・チャンという方が一般の方の電気料金を月々300ドル負担してくれて一般消 費者の負担が軽減されたと思います。また、路面電車、バスなども安くて、タクシーも初乗りが18ド ル、大体200円くらいです。去年タクシーも2回値上がりしましたが、それでも日本に比べると安い です。 ○食べ物 いつも中華を食べているのではないかと思われますが、自宅では殆ど日本食を食べています。鮭、鯖 などの焼き魚、納豆、みそ汁なども作って食べています。日系のスーパーUNY、JUSCOなどもあ りますので、少々高いですがそこで手に入ります。僕が香港に来た当初は北海道のほっけがなくて、よ く実家から親が来るときに持ってきてもらってましたが、実は今ではほっけも手に入ります。お金をだ せば何でも手に入ります。日本の米を買うと高いですが、いわゆるジャポニカ米は5KGで600円く らいです。冷えると差がでますが、炊きあがりは日本の米と同じく美味しいです。 ○環境 空気はだんだん悪くなってきています。夜になると100万ドルの夜景として有名なビクトリアピー クからの眺めは、日中見ても綺麗だったのですが、10年くらい前から、奥の方がかすんで見えなくな ってきて、空気が汚くなってきたなと感じます。深センの工業地帯から流れてくる排気ガスや、自動車 の排気ガスが原因と言われています。中国と香港の間を輸送するトラックが、香港では高いので給油せ ず、深センなどで安く給油しているようで、どうもこの油の質に問題があるようです。次にゴミの問題 については、分別ゴミの処理というのがようやくここ10年程で、公共の建物などでは4~5個の種類 にわかれたゴミ箱が設置されるようになってきましたが、一般の方はまだまだ生ゴミと乾電池を一緒に 投げているという現状です。また、排水溝がつまるという理由で、家庭ででた汁物のゴミをトイレに流 してしまっています。反面、香港は意外と森が多くて、トレッキングコースなどもあります。香港を何 度か訪れているリピーターの方は、こうしたトレッキングコースを歩くと香港の意外な面が見られて良 いと思います。 ○医療 日本のような社会保険制度はありません。自分で保険に加入するのが一般的です。大きな病院と個人 のクリニック、それも公立、私立に分けられます。大体の日本人は医療保険に入ってますので、通訳の いる大きな病院にいきますが、非常に高い医療費を払っています。先払いで、あとでクレーム(精算) するという方式です。僕はそういうところにはいかないで、公立の病院に行きます。保険には入ってい ますが、私立病院はあまり好きではないという理由からです。よく、待たされるでしょうと聞かれます。 確かに、風邪を引いて病院に行って、診てもらうまでに3時間かかります。3時間もそこにいなければ ならないのは大変ですが、医療費が殆どかかりません。4~5年前まではタダだったのですが、今では 100ドル、約1,200円をどんな治療でも最低払います。今2才の娘がいますが、公立の病院で出 産しました。私立の日本語の通訳がついているような病院に入院しますと、部屋の形態でも違いがあり ますが、大体日本円で60~120万円掛ります。120万円と思っていたら、特殊措置が必要だと2 00万円近くになることもあります。公立病院で半年くらい検診を受け、分娩して、会計したら日本円 で1万円という安さで驚きました。今は4~5万円になったそうですが、分娩の費用は日本と比べると かなり安いです。 3.香港でのビジネスを通して ○世界的な不況の影響 製造業がないので、例えばトヨタが何千人だかを解雇したなどという、レイオフの話はあまりありま せん。みんな住宅を持っていますので、住むところがないということはありません。転職について難し く考えておらず、逆にスキルが上がっているとみなされます。それで給料があがったりするので日本と は違うなと思います。現状をお話しすると、中国に工場を持っていて、香港で代金決済をしているとい う日系メーカーの事務所が多くありますが、そういうところは香港での事務所を閉めつつあります。決 裁は会計事務所に全て任せるようです。駐在員を引き揚げて固定経費を係らないようにするわけですが、 でもそれでゼロになっているわけではなくて、景気が良くなればまた進出してくるのですから、考え方 次第だと思います。 ○どんなビジネスが良いか 僕は何をターゲットにして、何を売るか、誰と組むか、この誰を組むかが一番大事で、よく北海道物 産展に出したけど全然売れなかったなどと、1回だけで判断して、回りにお話しされる方がいますが、 僕はそういう方は物産展に出さない方がいいと思います。1回だけでは判断できません。じゃあ何回売 ったらいいか、と言われますが、それは色々と試行錯誤をしなければなりません。何回というのは僕も わかりません。でも1つ言えることは、90年に初めて香港で仕事をしたとき、知り合った香港人に出 身地を聞かれ、北海道だと言ったらわかりませんでした。でもそれから、直行便も就航して、北海道が 香港人にとってあこがれの土地になったということは間違いないと思います。 ○日本との違いは何か 冒頭でも触れましたが、やはりスピードが違います。普通の人が歩くスピードも、エスカレーターも 早いです。判断ももの凄く早い。日本の判断はとにかく善か悪か、という判断基準だと思います。もち ろん香港にもそれはありますが、損か特か、という方が大切にされていると思います。例えば大もうけ する話があるときに、ちょっと悪な部分があっても、これをどうにか善にできないかなと考えます。そ れでもダメなら進みませんが、日本だったら、ちょっとでも悪だったらもうその時点で前に進みません。 また、感覚的なものですが、弱者に優しい、助け合いの精神があると思います。子供を受け入れてくれ るところが多いです。日本だとなぜ連れてくるのかというようなところもあります。香港だと、店の人 もあやしてくれるし、他の客も親切にしてくれます。弱者というのは子供連れだけではなくて、お年寄 り、ハンディキャップを持った人も同じです。地下鉄とか乗り物に乗ったら、老人、妊婦さんには席を 譲ってくれます。僕も子供を抱いていると、あちこちからここ座れという声が聞こえてきます。日本だ と寝たふりされたりするので、嫌になってしまいます。それと北海道とちがうのは街が非常にコンパク トに纏まっていることで、公共交通機関も安くて発達しており、移動には便利です。また、香港の人と 一緒に仕事をしていて感じるのは、すごくスキルが高いということ、言葉も英語だけではなくて中国語 もでき、フランス語など三カ国語を話せる人もいます。香港の労働者、一般の人達は終身雇用だと考え ておらず、転職して当たりまえと思っています。年金制度もありません。ようやく退職金制度(MPF) ができました。雇用主、本人がそれぞれ5%、合計10%ずつ積み立てるものですが、運用利率がいい ので、加入していた日本人が、5年経って手続きして帰国したら、日本に驚く程の額が送金されてきた そうです。日本では当たり前のものが外国には無かったりするので、日本のものさしで考えるというの ではなく、香港は香港、中国は中国という物差しをもって、生活でもビジネスでも取り組むことが必要 だと思います。 ○苦労話 香港に住み始めた当初は1ヶ月で5kg痩せました。慣れるまで3ヶ月くらいかかりました。あと、 日本人だということでぼられることもあります。日本ではあまりしませんが、価格がついていても、香 港の方はまけて、といいます。値段のないものは高く売りつけられたりして、やはり広東語は必要だな と思います。刷りと置き引きにも遭ったことがあります。タクシーの運転手とケンカして警察沙汰にな ったことがあります。かつてアイスホッケーのチームをつくっていて、夜10時から12時まで練習し ていました。ある日帰りに道具を持ってタクシーに乗り、トランクに入れると5ドルかかるので道具も 席に置いていたのですが、運転手が下りるときにその5ドルも請求してくるのです。僕は料金だけ払っ て車を降りて船に乗ろうとしたら、運転手が追いかけてきました。とりあわなかったら、踏み倒した、 警察を呼ぶといって警察が本当に来てしまいました。事情を説明したら警察もわかってくれて、運転手 を説得しようとしてくれたものの、らちが空きません。もう船がでるので、下りて二人で交渉しろと言 われましたが、こちらも練習後で疲れていて早く帰りたいので、結局5ドル払って時間を買うことにし ました。5ドルは70円くらいのものですが、払ういわれのないお金を払うのは気分が悪いものです。 船に乗っていた周りの白人たちがすごく同情してくれて、「あなたの気持はよくわかる、でもここは香 港だし、あなたは外国人だから」と言われて、そのとおりだなと思いましたね。 4.北海道と香港 ○北海道ブーム 直行便が就航して以来、観光客がものすごく増えました。人の往来だけではなくて、日本のテレビ映 画も香港で見られます。それで、四季がはっきりしている日本で、美味しいものを食べて、温泉に入っ てゆっくりしたい、という香港人が多いのだと思います。それから、何を求めているかというと、雪で すね。今雪祭りですけど、雪、自然、食べ物、温泉に憧れがあります。北海道のもので一番売れている のは、カニ、特にタラバガニがよく売れています。菓子なんかも売れていますが、香港の空港でも、直 行便到着の時間帯にぶつかると、白い恋人の大きな箱を運んでいる人達を見かけます。僕も良く頼まれ て買って帰ることがあります。 ○これからの課題 まず、中国、香港、台湾と中華圏は大きくわけて3つありますが、それぞれ違いがあります。その違 いを学習していただきたいと思います。香港と台湾もかなり違いがあります。それから、昨年11月に 香港エキスプレスという安いエアラインが就航して、11月3日に就航した日、千歳から香港に行った のは1人しかいなかったんです。僕はこうした安いエアラインも官民で応援したらいいのではないかと 思います。また、北海道の飲食店に入ると、英語のメニューがないところが多く、説明出来る人もいま せん。よく助けてあげることもありますが、1冊でいいので英語のメニューを作って、観光客に優しい まちづくりをすることが必要だと思います。物産協会、観光協会といった組織が各地にありますが、や はり物産と観光は一緒にやっていかなければならないと思います。北海道のものが香港で売れるように なったのも、観光で北海道に行って北海道の良さがわかるようになったからだと思います。それから、 千歳空港のアナウンスで、香港から飛行機がきてもアナウンスは普通語です。香港の方はなぜ広東語じ ゃないのかと違和感を覚えるようです。広東語を話す人口は世界に 7,000 万人いると言われています。 普通語のわからない香港人も中にはいますので、広東語のアナウンスにしてくれたらな、と思います。
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