報告書 - リスク工学専攻

生体認証システムの選択に関するガイドライン
~リスク評価からのアプローチ~
リスク工学グループ演習 3 班
茂木
友里加
小岩 敬太
小原 伸広
アドバイザー教員
亀山 啓輔
1.はじめに
1.1.背景
生体認証とは、身体または行動の特徴を用
いた個人の認証であり、身体特徴としては、
指紋、顔、静脈、虹彩が、行動特徴としては、
声紋、署名などが挙げられる。使用例として
は、PC、携帯電話のロック解除、入退室管理、
銀行の ATM などが挙げられる。生体認証の
メリットとしては、パスワードの記憶や IC カ
ードの管理が不要なため、記憶忘れや紛失に
よるトラブルがなく、利便性が高いことや、
生体情報を使うため本人しか使用できず、偽
造も難しいことが挙げられる。デメリットと
しては、モダリティによっては経時的な特徴
の変化に弱い、生体情報の秘匿性や識別性能
の課題、一度登録した生体情報の変更の困難
さ、使用に対する心理的抵抗があることなど
が挙げられる。近年、こういった生体認証シ
ステムを不正に突破(攻撃)する犯罪が見ら
れ、問題となっている。
生体認証の認証精度を表す指標としては
FRR(False Rejection Rate)と FAR(False
Acceptance Rate)があり、FRR は本人拒否
率であり、本人を他人として拒否する割合を
示している。FAR は他人受け入れ率であり、
他人を本人として受け入れる割合を示してい
て、生体認証システムの安全性を考える場合、
FAR の方を重要視する。どのセキュリティ方
法にも脆弱性というものがあり、生体認証に
対しても偽造などによる様々な攻撃が考えら
れる。攻撃事例としては、2005 年に使用者の
指を切断することで、指紋認証付きの車両が
盗まれる事件や、2008 年にシリコンで指紋認
証を突破し、不法入国されるという事例が挙
げられ、生体検知機能や他の認証システムと
の併用利用の必要性が論じられている。
そこで、私たちは生体認証に関する文献調
査を行い、セキュリティ機器の開発とサービ
ス化を行っているセコム(株)の技術者にヒ
アリングを行い、生体認証技術に関すること、
安全性評価に対する考えなどを聞いてきた。
―目的:生体認証におけるリスクの定量評価
(安全性評価)に対し、セコムの人たちはど
のように考えているのか、そして、本調査研
究のこれからの方針についてアドバイスをも
らうこと。
ヒアリングの調査結果の一例
Q.認証システムの安全性についてアドバイス
をいただけますか?
A.認証システムの安全性を評価についての考
えは、開発目的や立場によって異なる。
(以下考察)
生体認証の種類、使用目的、使用者、評価
を行う立場などによって、許容できるコスト、
使用環境、求められる精度、問題となる脆弱
性が異なる。したがって、生体認証全体に対
するリスク評価をするのではなく、考える範
囲を絞ってテーマに取り組むべきであること
がいえる。
1.3.研究目的
文献調査、ヒアリングから様々な状況な状
況により生体認証における脆弱性、許容でき
るリスクが異なり、生体認証全体に対して、
リスクを定量的に評価することの難しさがわ
かった。そして、生体認証を導入する際に、
どの認証システムを用いれば良いのか判断す
ることも難しいと考えられた。そこから、生
体認証におけるリスクを定量評価するととも
に、使用環境に合わせた認証システム選択に
関するガイドラインを作成し、生体認証導入
の適切なコンサルティングを可能にすること
を本のグループ演習の目的とした。
まず生体認証に関する文献調査を行い、現
在の技術に対する偽造テストを行う。次に生
体認証を種類ごとに比較することで、選択に
おけるガイドラインを作成し、ガイドライン
を適用したケーススタディを行うことで、ガ
イドラインの流れを確認する。
1.2.ヒアリング
調査概要
―日時:2012 年 6 月 20 日 10:30~
―調査対象:セコム株式会社セコム IS 研究所
・運営管理グループリーダー長谷川氏
・先端研究ディビジョンサブマネージャー兼
画像センシンググループリーダー徳見氏
図1 研究の流れ
2.主な認証システムの特徴
ここで、主な生体認証システムの特徴とそ
の問題点を把握しておく。
2.1. 指紋認証
早くから実用化され、技術向上・普及が最
も進んでいる生体認証システムである。指紋
は万人が異なり、また成長などによる変化を
伴わないとされる。1)
認証方法は、まず指紋のパターンを読み取
り、分岐点や端となっている点の位置や 方向
を数値化し、予め登録した数値と照合するこ
とで認証を行う。2)広く普及したシステムで
あり、PC のログインなどから出入国審査まで、
幅広く使用されている。
問題として、以下の点が挙げられる。
・指の損傷などにより使用できなくなる可能
性がある。
・もともと指紋を持たない個人に対しては別
の認証が必要になる。
・情報が漏えいしても、登録情報(指紋)の
変更が困難である。
・指紋の押印と捉えることもできるため、心
理的抵抗を持つ人もいる。
・鍵となる生体情報の秘匿性が低い。
・比較的安価に装置を購入することができる
ため、偽の機会を設置し指紋情報を読み取
られる可能性がある。
・偽造が可能である。
2.2. 静脈認証
指紋認証などと比べてなりすましが難しい
認証の方法として関心が高まっているシステ
ム。静脈も万人が不同といわれており、大き
さ以外の経年変化は見られない。認証として、
手のひら、手の甲、指を用いるものがある。
近赤外光により静脈パターンを読み取り、パ
ターンの特徴に基づきマッチングを行う。1)
問題として、以下の点が挙げられる。
・もともとこの生体情報を持たない個人へは
別の認証が必要になる。
・情報が漏えいしても、登録情報(静脈パタ
ーン)の変更が困難である。
・偽の認証装置を設置し静脈パターンを読み
取り、悪用することが可能である。
2.3. 顔認証
他の生体認証に比べて、離れた場所からの
認証が可能であり、手をかざすなど特別な動
作を必要としない。歩いている状態からも認
証可能なシステムが開発されたことでも注目
されている。また自分の顔を用いるというこ
とから、不正利用者が発覚した場合、記録さ
れた顔画像から個人を特定することが容易で
あるといったメリットがある。同様の理由か
ら、犯罪抑止効果も期待される。
照合方法は、まず撮影した画像から傾きや
位置を検出して補正し、特徴点(眼の中心や
唇の端など)の位置や点同士の距離などを計
測、予め登録しておいた特徴データと照合す
る。
問題として、以下の点が挙げられる。
・顔の角度や髪型・表情・成長、サングラス
やマスクなどで、認識率が低くなる可能性
がある。
・比較的装置自体が高価である。
・鍵となる生体情報の秘匿性の問題。
3.生体認証の安全性に関する既往研究
3.1.文献調査
生体認証の偽造に関するリスクについて、
文献調査を行った。
生体認証技術を対象とする標準やガイドラ
イン等の策定は世界中で活発に行われている
が、認証精度に関しては、日本国内では、日
本規格協会情報技術標準化センター
(IN-STAC)のバイオメトリクス標準化調査
研究委員会によって、指紋、虹彩、血管パタ
ーン、顔、音声、手書き署名を用いた認証制
度の評価方法について検討が行われ、関連す
る TR(テクニカルレポート)が作られており、
それらにおいては認証精度評価を行う際の留
意点や評価結果報告方法等を規定している。
しかし偽造に関する詳細なリスクについては、
各々研究者による研究報告に留まっている。
米澤ら 3)によると、FAR によってなりすま
しの確率を評価することができるが、悪意の
あるユーザーによる故意の攻撃は含まれてい
ない。なりすまし攻撃の種類としては、攻撃
者がなりすまし対象の生体情報を取得してそ
の模造物を作成し認証システムに提示するテ
スト物体攻撃と、攻撃者が認証アルゴリズム
の情報を基にして、多くの登録ユーザーにな
りすますことのできるサンプルを作成し認証
システムに提示するウルフ攻撃が提案されて
いる。後者は、アルゴリズムの入出力及び動
作が分かっているシステム(ホワイトボック
スシステム)でのみ実行可能であり、それら
の不明なブラックボックスシステムに対して
は行うことのできない攻撃である。前者はど
ちらのシステムにも実行可能な攻撃である。
しかし、ブラックボックスシステムの内部動
作を分析し、ホワイトボックスシステムに帰
着させるような攻撃も考えられるとしている。
また、松本 4)は、ウルフ攻撃よりもテスト
物体攻撃に着目し、認証システムのセキュリ
ティについて論じている。これによると、シ
ステムの利便性上、FRR が適度に低く抑えら
れるように設計するのが普通であるため、
FAR をゼロにすることは難しいという。身体
部分と同じように観測される対象物であれば、
受け入れられる可能性があるが、生体検知機
能がうまくはたらいていればそのような対象
物は登録も照合もできないことになる。しか
し、利便性を優先して FRR を小さく設定する
ことによって、この機能がうまくはたらかな
い場合があるとしている。
そこで、偽造や他人受け入れ問題に関して
は、①テスト物体がそのシステムに登録でき
るか②登録できたら再び提示した同じテスト
物体で照合されるか③人間の身体部分に対し
てそれを模擬してつくられたテスト物体は照
合できるか④そのテスト物体を登録して対応
する人間の身体部分で照合できるか。といっ
た事項について実験を行いその結果を分析す
るセキュリティ評価方法が有用であり、この
ような目的に用いることのできるテスト物体
が満たすべき条件の整備や作成の方法を確立
することが必要であるとしている。5)
さらに、指紋認証について、実際に指紋を
偽造しテストを行い、容易性を研究したもの
がある 6)。これによれば、指紋認証システム
に対する攻撃として考えられるものは
① 登録された人物の指(本人意思に反する
利用)
② 登録されていない人物の指(出入国の際
など)
③ 切断された登録者の指
④ 登録者の遺伝子クローンの指
⑤ 登録者の人工的模造物の指
などであり、その中でも⑤が最も簡易である
と推測される。そこで、実際に指から直接指
紋を取り偽造する方法と、残留指紋から指紋
パターンを採取し偽造する方法の 2 パターン
について実験を行っている。その結果、どち
らも 1 時間~2 時間程度の労力で偽造可能で
あり、指から直接偽造する方法に至っては
600 円程度で作成することができ、それら偽
造指紋は 11 タイプの指紋認証に照合されて
いる。
また、松本らによる、指静脈認証システム
について偽造を試みた研究もある。 7)8)9)予
め用意した静脈画像をプリントし、光の散乱
や透過を制御するためビニールテープ等を用
い、試験管などパイプ状の物に静脈をプリン
トした紙を貼り付けることで再現している。
紙の種類や画像の処理方法、パイプの種類等
の条件を変化させて実験を繰り返し行った結
果、いくつかの条件の組み合わせを除いて、
登録・照合可能なテスト人工指が作成できる
ことがわかっている。
3.2.考察
既往研究から、攻撃者によっては、登録者
の多くに照合するようなウルフ物体をつくる
ことが可能であるということ、またテスト物
体においては、指紋・指静脈については偽造
が可能であるということがかわった。それぞ
れの性質から、ウルフ攻撃よりもテスト攻撃
の方が多くの攻撃者に可能な手段であり、ま
た容易であると考えられる。そのため、本研
究ではブラックボックスシステムを前提とし、
テスト物体攻撃の可能性を攻撃リスクとする。
また、顔認証、手のひら静脈認証について
は偽造攻撃に対する安全性に関する研究はな
されていない。
さらに、これらの研究が行われた時から数
年が経過しており、偽造に対する対策を含め
認証システムの技術は格段に上がっている可
能性がある。そのため現在主流となっている
認証システムにおいてもこれらの偽造方法が
有効であるという保証はない。
4.実験
現在の認証システムに、既往研究でなされ
た偽造が有効であるかどうかを検証するため、
実際に指紋認証装置を用いて偽造攻撃実験を
行った。実験手順は松本 6)の実験報告を参考
にしている。
使用認証装置
(1)USB 指紋認証システムセット・スワイ
プ式 SREX-FSU2(ラトックシステム
株式会社)
(2)FMV-BIBLO MG75Y(FUJITSU)
使用材料
・ゼラチンリーフ(186 円/1.5g×20 枚)
・自由樹脂 JJ-35(367 円/35g)
手順
① 指紋認証システムに自分の指紋情報を登
録
② 自由樹脂 35g をお湯で柔らかくし、指を
押し付けて指紋の型を作成
③ 自由樹脂が固まったら、その型に、水に
溶かしたゼラチン(水:ゼラチン=1:1)
を流し入れ、冷蔵庫で固める
④ 固まったら取り出し、指紋センサーでの
認証を試みる
本実験では、現在の認証技術に対する偽造
突破を試みるため、松本らの実験 6)とは異な
り、現在主流となっているスワイプ式の指紋
認証を用いている。その結果、ゼラチンで作
られた偽造物体は読み取り装置の上を上手く
滑らず、つっかえてしまうため指紋が途切れ
途切れに認識され、認証されない。また、ス
ライドさせることでゼラチンが傷ついていく
上に、熱で表面が溶けてくるため、同物体で
10 回も試すと、表面が削れ、さらにベタベタ
とするためますます滑らなくなった。ゼラチ
ンの濃度を高くしたり、冷凍庫で冷やしたり
しても、僅かにつっかえにくくなるが結果は
同じであった。(1)(2)で別々の人間の指紋
を用いて試したが、両者とも結果は同様であ
った。
本実験により、スワイプ式の指紋認証を松
本ら 6)によるゼラチン偽造物体で突破するこ
とは困難であることがわかった。
5.モダリティの比較
本章では、モダリティ(選択肢としての生
体認証システムの種類)の各性能における比
較を行い、ガイドラインを作成する際の指針
となる表を作成する。なお、モダリティのひ
とつとして、暗証番号を用いた認証について
も考えていく。
5.1.セキュリティ機器選択肢
セキュリティ機器の選択肢については以下
のようになる。値段・FAR については、実際
の製品を参考に、平均的な値を示している。

暗証番号(4 桁):10 万円・FAR 無し

指紋認証:40 万円・FAR0.00001%

静脈認証

指:60 万円・FAR0.0001%

手のひら:70 万円・FAR0.00008%
以下

顔認証

静 止 時 で の 認 証 : 100 万 円 ・
FAR0.0001%

ウォークスルー:FAR0.0001%
(価格はインターネット上で確認
できないが、静止時のものよりも
高度な技術であるため高価格であ
ることが推測される)
5.2.生体認証機器の評価項目
生体認証の各評価項目を挙げ、比較を行う。
① 認証精度
生体認証特有の誤検知率(FAR・FRR)
の低さを表す。暗証番号には FAR・FRR
といった概念は存在しないため、認証精
度は最も良いとする。また、各 FAR の
値から、指紋認証、静脈認証、顔認証の
順に認証精度は高いとする。
② なりすまし耐性
不正者がなりすましを行なった際に
突破される可能性から評価を行う。これ
については、後になりすまし耐性の節で
議論する。
③ コスト
各生体認証の購入にかかる費用を評
価する。費用が安いほど評価は高い。
④ 経年変化耐性
利用する生体特徴に経年変化があっ
た際に、認証を問題なく行なえるかどう
かを評価する。顔は年月による変化が大
きいため、顔認証は経年変化耐性が低い
と言える。
⑤ 使いやすさ
認証を行うために必要な動作から使
いやすさの性能を評価する。暗証番号は
指で番号の入力を行う必要があり、番号
も記憶していなければならないため、評
価は最も低い。指紋・静脈認証は、指を
スライドする・かざすといった動作が必
要だが、番号を覚える必要は無い。顔認
証は顔を近づけるだけで認証が行える
ので、評価は最も高い。
⑥ 清潔感
認証を行う時の清潔感を評価する。認
証機器に触れる必要がある暗証番号や
指紋認証は評価が低い。静脈認証は手を
触れるもの・触れないものの両方が存在
し、顔認証は認証機器に触れる必要が無
いので、評価は最も高い。
5.3.なりすまし耐性
ここでは、各セキュリティ機器のなりすま
し耐性を評価する。
まず、偽造を用いずに正攻法で 1000 回認
証を試みる場合の成功確率を求める。暗証番
号の場合、4 桁の数字の組み合わせ 10000 通
りに対し、1000 通りのパターンを試行できる
ので、突破確率は(1000/10000) = 0.1 となる。
生体認証の場合、不正を行わない他人が少な
くとも 1 回認証を突破できる確率は、
FAR = a とすると、(1-(1-a)1000)で求めるこ
とができる。指紋認証の場合、
(1-(1-10-7)1000) ≒0.1×10-3 となる。静脈
認証(手のひら)の場合、
(1-(1-0.8×10-6)1000) ≒0.8×10-3 以下とな
る。静脈認証(指)・顔認証の場合、
(1-(1-10-6)1000)≒0.1×10-2 となる。
次に、偽造など不正行為を行う場合の成功
確率を考える。暗証番号の場合、4 桁の数字
が判明してしまうと誰でも認証を突破するこ
とができてしまう。指紋認証の場合、現在の
主流であるスライド式をゼラチンで突破する
ことは難しいが、指紋自体は用意に採取する
ことができてしまうため、使用材料次第では
突破できる可能性がある。静脈認証の場合、
1000 円強と比較的安価な金額で偽造を行う
ことができるが、偽造に必要な静脈の情報を
得ることが難しい。顔認証の場合、近年では
3 次元顔認証が増えているため写真で突破す
ることは難しく、判定に使うポイントが骨格
の作りに関係する場所が多いため、骨格まで
変える大幅な整形や特殊メイクといったもの
が必要となる。しかし、これで認証を突破で
きる保障はない。
これらの点を考慮してなりすまし耐性の評
価を行う。暗証番号は不正無しでも突破確率
が高く、番号さえ入手できれば誰でも突破可
能なため、なりすまし耐性は低いと言える。
反対に、顔認証は偽造が難しくコストもかか
ることから、なりすまし耐性は高いと言える。
指紋・静脈認証は不正無しでの突破確率はあ
まり変わらず、偽造の方法も存在するが、指
紋と比較して静脈の情報を入手することは困
難なため、指紋認証よりも静脈認証の方がな
りすまし耐性は高いと言える。
5.4.生体認証の比較
評価項目に基づいて各認証システムの評価
を行い、表1にまとめた。各項目は 4 点満点
で評価を行なっており、この点数がガイドラ
インに用いられる。
表1 生体認証の比較
6.ガイドライン
以上の内容を踏まえ、実際の使用者の状況
に合った適切なモダリティ選択を可能にする、
生体認証システム選択ガイドラインを提案す
る。ガイドラインは、使用者がいくつかの質
問に答えることでモダリティを選択する形を
とる。以下が設問の内容である。
使用者への設問
① 予算上限額
② 使用予定年数
また、以下の項目について、重要視する度
合いを、0,1,2 の三段階評価で示す。
③ コスト(購入価格)
④ 使いやすさ(手間、認証スピードなど)
⑤ なりすまし耐性(攻撃からの安全性)
⑥ 清潔感(接触型か非接触型か)
①の設問によって、予算上限額を超える価
格の認証システムを排除する。②において、
使用期間が長い場合は経年変化に対応しづら
い認証システムを排除する。③~⑥では三段
階評価で重み付けをしてもらう。
次に、①②で残ったモダリティについて、
表の各項目の値に対応する③~⑥の数値をそ
れぞれかけ合わせることにより、使用者が考
える各項目の優先順位を反映した値を算出す
る。続いて認証精度項目も加えてモダリティ
ごとの各項目の数値を足し合わせ、最終的に
はその合計値の大きいモダリティを選択する。
7.ケーススタディ
本章では、前章のガイドラインに基づいて、
ケース毎にどの認証システムが選択されるか
のケーススタディを行う。
ケースⅠ
ここでは、予算が 200 万円で経年変化耐性
が必要なく、なりすまし耐性を重視しコスト
については問わない場合を想定する。この場
合、重み付けによりなりすまし耐性のポイン
トを 2 倍、コストについてのポイントを 0 倍
するため、各認証システムのポイントは以下
の通りになる。
① 暗証番号
指紋認証
③
静脈認証
④
顔認証
ガイドラインの流れ
3  2  2  3  0  2  1  10
2  3  2  2  0  2  2  12
1  4  2  1 0  4  4  17
従って、Ⅰのケースでは顔認証が最適な認
証システムとして選択される。
ケースⅡ
ここでは、予算が 80 万円かつ経年変化耐性
が必要で、使いやすさを重視し清潔感につい
ては問わない場合を想定する。まず、予算が
80 万円かつ経年変化耐性が必要であるため、
顔認証を選択することはできない。次に、重
み付けにより使いやすさのポイントを 2 倍、
清潔感についてのポイントを 0 倍するため、
各認証システムのポイントは以下の通りにな
る。
① 暗証番号
4  1  4  1 2  1 0  11
②
指紋認証
③
静脈認証
④
図2
4  1 2  4  0  1  1  8
②
3  2  3  2  2  1 0  12
2  3  2  2  2  2  0  11
顔認証
選択不可能
従って、Ⅱのケースでは指紋認証が最適な
認証システムとして選択される。
8.今後の課題
例えば、顔認証システムに対して 3D プリン
ターを用いた場合の攻撃リスク評価など、各
認証システムに対する攻撃事例の拡大が必要
であると考えられる。また、各認証システム
を組み合わせる場合など、想定使用状況をさ
らに拡大することも、今後の課題といえる。
9.おわりに
本研究では、外部からの攻撃リスクを考慮
した生体認証システムの選択におけるガイド
ラインを提案した。また、実験により、技術
の進歩によって、指紋認証においては従来よ
りも偽造による突破がしにくくなっているこ
とがわかった。課題としては、本研究で取り
扱わなかったが、虹彩などの認証システムを
取り入れてのガイドライン作成などが挙げら
れる。
謝辞
本調査・研究において、ヒアリングにご協
力いただいた、セコム IS 研究所 運営管理グ
ループグループリーダー 長谷川様、セコム
IS 研究所 先端研究ディビジョンサブマネー
ジャー兼画像センシンググループグループリ
ーダー 徳見様、及びご指導いただいた筑波大
学システム情報工学系亀山先生に、心より感
謝申し上げます。
参考文献
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ついて,FUJITSU.54,4,p.272-279
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ho_tsusin/security/kiso/k01_bio.htm(
最終閲覧日:2012,9,20)
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http://www.hitachi-hri.com/research/k
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http://www.fsa.go.jp/singi/singi_fccs
g/gaiyou/f-20050415-singi_fccsg/02.pd
f(最終閲覧日:2012,9,20)
14)
一 、山
、 川 :顔認証技
術による ンズフリーの次 世 代 物 理 セ キ
ュリティシステム
http://www.nec.co.jp/soft/neoface/( 最
終閲覧日:2012,9,20)
15)顔認証システム:ソフトウェア|NEC
http://pachinkokouryaku.fc2web.com/ka
o1.html(最終閲覧日:2012,9,20)
16)e-words 顔認証
http://e-words.jp/w/E9A194E8AA8DE8A8B
C.html (最終閲覧日:2012,9,20)
17)顔認識システム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9
4%E8%AA%8D%E8%AD%98%E3%82%B7%E3%82%B9
%E3%83%86%E3%83%A0( 最 終 閲 覧 日 :
2012,9,20)