傍大動脈・左総腸骨・左外腸骨のリン

<第 21 回 担当:丸山 Case 1-2016>
<解説>
○画像検査
腹部・骨盤の造影 MRI 検査では、傍大動脈・左総腸骨・左外腸骨のリンパ節で腫脹を
認め、一部に中心壊死を認めた。その他は正常だった。
壊死の可能性のある低信号のリンパ節の鑑別は、非定型感染(細菌性の可能性が高
い)、肉芽腫(サルコイドーシスなど)、若年性関節リウマチ、抗酸菌感染、癌(リンパ
腫など)が考えられる。
《鑑別診断》
生来健康の 18 歳の男性で、発熱・腹痛・血小板減少を急性発症し、腹部の画像検査で
非特異的な異常を示した。発熱・腹痛は入院 4 日目に改善した。症状改善は継続し、
自然寛解すると予想された。急性発症、腹腔内リンパ節腫脹、フェリチン高値、血沈
正常、CRP 高値などの鍵となる特徴に基づいて鑑別を行う。ほとんど全ての急性発症の
発熱・腹痛・血球減少では、感染症・癌・全身性炎症性疾患が考えられる。
○感染
感染症は、健康な若者における急性疾患の最も一般的な原因。本症例では急性発症
し、急速に症状改善しており、ウイルス感染と一致する。抗菌薬治療開始後に急速に
解熱を認めたので、ウイルス性感染と細菌性感染の区別ができない。腹部症状と放射
線学的所見を説明できる診断を見つけたいが、非常に非特異的であり、腹腔内感染
症、腹部疾患に対する炎症反応、非特異的漿膜炎によって引き起こされる可能性があ
る。
どのような感染が本症例の原因となるのか?最も可能性の高い、EBV・CMV・一般的
な市中ウイルス感染は除外された。これらのウイルス病原体の検査が陰性であった
が、正体不明のウイルス感染があったと考えられる。また、腹腔内の液体・壊死の可
能性のある腹部リンパ節から、細菌感染であった可能性も考えられる。しかし、血液
培養は陰性であり、性感染症やダニ媒介の疾患の検査は陰性だった。結核は、本症例
のいくつかの特徴を説明することができるが、結核に対するインターフェロンγ遊離
試験が陰性であるので除外した。中央アメリカ出身だったことを考えると、ヒストプ
ラスマやコクシジオイデス症のリスクがあるかもしれないが、症状がこれらの感染症
を標的とした治療をせずに改善しているので考えにくい。まとめると、感染症がある
ならば、それはおそらくウイルス感染であると考えられ、その原因が明確に判明する
ことは困難であると考える。
1
<第 21 回 担当:丸山 Case 1-2016>
○癌
発熱・リンパ節腫脹・血球減少症の若者の中で最も可能性の高い癌はリンパ腫であ
る。赤沈上昇がなく、症状が 4 日間で改善しことからリンパ腫は考えにくい。除外す
るために末梢血フローサイトメトリーを実行するが、癌の疑いは非常に低いと考え
る。
陰嚢痛について癌が懸念されるかもしれないが、画像検査では、精巣上体嚢胞を除
いて異常は認めなかった。自転車事故が痛みの直接の原因であると考えられる。陰嚢
痛は今回の疾患とは無関係であると思われる。
○炎症
以前に診断未確定の自己免疫疾患にかかっていた可能性はあるだろうか?最も可能
性の高い疾患はスティル病・全身性エリテマトーデスだが、これらの診断のための所
見(発疹や関節痛など)は認めず、抗核抗体は陰性であった。関節痛・関節炎・皮膚
所見・全身性自己免疫疾患の他の症状がない場合は、そのような診断は考えにくい。
○異常検査所見
本症例では、炎症性疾患を示唆する CRP とフェリチンの著明な上昇を含むいくつか
の特徴的な検査所見を認める。これらの異常は、重要な手がかりになるかもしれな
い。CRP の上昇を認めたが、赤沈は正常だった。これらが不一致であるのは比較的稀
で、通常非特異的な診断となる。ある研究では、CRP 高値と赤沈正常の最も一般的な原
因は胃腸や尿路の感染であった。炎症マーカーのこのパターンは、癌の診断には当て
はまらないが、感染症と全身性炎症の鑑別は必要である。
おそらく本症例で最も特徴的な所見は、フェリチンの異常高値。このレベルのフェ
リチン高値は、スティル病・急性,慢性炎症性疾患・肝不全・腎不全・溶血性貧血・血
液腫瘍・血球貪食症候群が考えられる。
○血球貪食症候群(HLH)
本症例で患者のフェリチンレベルをみた医師は、この若い男性が血球貪食症候群で
あるとおそらく考えたかもしれない。血球貪食症候群は、T 細胞およびナチュラルキラ
ー細胞の細胞溶解活性の欠陥に起因し、制御不能 T 細胞活性につながり、直接マクロ
ファージを活性化するサイトカインの分泌を増やす。マクロファージの増殖および活
2
<第 21 回 担当:丸山 Case 1-2016>
性化は、網内系全体での食作用と関連している。活性化マクロファージもフェリチン
を分泌し、高フェリチン血症につながる。
血球貪食症候群以外にマ
クロファージを活性化する
ことができる条件がある。
例えば、マクロファージに
よるオプソニン化赤血球の
積極的な食作用を引き起こ
す溶血性貧血は、フェリチ
ンは著明に高値となる。
HLH は、家族性と続発性
がある。家族性はほとんど
が生後 1 年の間に発生する
が、一部の患者ではその後
に発生する可能性がある。
18 歳の男性が家族性 HLH
であることは考えにくいが、完全には否定できない。若い男性に発症する HLH には、
致死的になり得る特に急性 EBV 感染患者における X 連鎖リンパ増殖症候群がある。本
症例では急速に回復していて、この診断は考えにくい。EBV 検査も既感染であった。続
発性 HLH は、家族性 HLH よりも可能性が高いが、メカニズムは不明。
高フェリチン血症は HLH の診断にどのくらい役立つのか?3 歳未満の小児では、血清
フェリチン 10,000ng/ml 以上は HLH 約 95%の感度・特異度である。18 歳の患者では、
感度と特異度は不透明だ。成人で高フェリチン血症を認めることは、HLH の診断にあま
り役に立たず、溶血性貧血・広範囲な溶血を伴う鎌状赤血球症・劇症肝不全との区別
ができない。
HLH は 8 つの診断基準に基づく臨床診断である(Table2)。これらの基準は、小児の
HLH の診断のためにつくられていて、成人ではあまり効果的でない場合がある。例え
ば、ナチュラルキラー細胞活性分析は成人で診断する上で特に有効でなく、めったに
測定されない。
本症例では、発熱・血球減少症・トリグリセリド高値・フェリチン高値を認めた。
残りの基準のうち、可溶性 CD25 は検査されてなく、脾腫は認めなかった。骨髄穿刺と
生検は、血球貪食を評価するために施行していなかった。HLH の患者は脾腫を持ってい
ると考えるが、たいてい HLH で大人を評価する頃には、発症して数ヶ月経過している
ため脾腫の可能性が高くなる。本症例では、急性発症であったため、脾腫になるため
3
<第 21 回 担当:丸山 Case 1-2016>
の十分な時間がなかったものと考えられる。HLH の成人についての 1 つのレビューで
は、わずか 50%でしか脾腫が報告されていない。
成人の続発性 HLH は通常、感染・癌(一般的にはリンパ腫)・自己免疫疾患によっ
て引き起こされる。感染(特に EBV)は、癌または家族性 HLH 患者の場合でも、HLH のほ
とんどの形態のトリガーとなる。本症例では、EBV 既感染であったため除外された。こ
の患者が HLH である可能性は高いと思われるが、リンパ腫を除外するために可溶性
CD25 検査と末梢血フローサイトメトリー検査を提出した。骨髄穿刺と生検は、血球貪
食のために評価するために施行することが勧められる。この評価で診断されない場
合、リンパ節が壊死性である可能性があるのでリンパ節生検を行うことを勧める。本
症例で実行された診断手順は骨髄穿刺と生検であり、結果は血球貪食症候群に一致し
ていた。
臨床診断
血球貪食症候群
その後の経過
アンピシリン・スルバクタム及びゲンタマイシンが投与され、その後間もなく陰嚢
痛や発熱は改善し、患者は著しく急速な改善を認めた。HLH のための特異的治療法と腹
部リンパ節の生検が考慮されたが、急速な臨床状態の改善のため見送られた。7 日間の
抗菌薬の静脈内投与後、経口アモキシシリン-クラブラン酸の処方で退院となった。
退院の 18 日後に外来受診し経過は良好であった。フェリチンは 133ng/ml に減少し
た。EBV DNA 核酸検査は陰性で、その他の検査結果も特に異常は認めなかった。結核に
対するインターフェロンγ遊離試験も陰性だった。合計 6 週間の抗菌薬治療を行い、2
年後の経過も良好であった。
4
<第 21 回 担当:丸山 Case 1-2016>
病理検査
5