社会保障の現状と課題 ~後期高齢者医療制度、就職支援、介護、年金

分科会番号 12-1
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社会保障の現状と課題
~後期高齢者医療制度、就職支援、介護、年金から
見た我が国の社会保障制度~
長崎県立大学
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綱ゼミ
青木 俊介
青笹 貴大
芦原 望
岩切 達也
越智 咲奈
嶋田 結花
高橋 昌宏
寺田 直人
野上 真人
原田 嘉樹
前田 亮介
原
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龍文
松岡 祐太朗 松本 隆史
山中 大地
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柳内 誠
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はじめに
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第一章 後期高齢者医療制度
第一部 医療制度の現状と課題
第二部 後期高齢者医療制度の保険料
第三部 後期高齢者医療制度の財政
第四部 後期高齢者医療制度の海外の事例、対策
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第二章 就職支援
第一部 我が国の就職の現状
第二部 海外事例
第三部 課題
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第四部 対策
第三章 公的介護保険制度
第一部 介護分野への政府からの支援
第二部 我が国の介護に対する課題と対策
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第三部 海外の介護
第四章 公的年金制度
第一部 年金の現状
第二部 年金の歴史
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第三部 年金のメリット、デメリット
第四部 年金の課題
むすび
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1
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はじめに
少子高齢化の進展、格差社会など我が国の経済・社会問題が山積している中で、今日、
社会保障という言葉が注目されている。この社会保障とは、生活困窮者への支援や、生活
が困窮することを予防する政策的な措置である。我が国の社会保障制度は、児童手当(子
ども手当)
、就業支援、失業保険、医療保険、介護、年金など、人生のあらゆる段階で国民
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生活と密接に関わっている。そこで、私たちは、
「後期高齢者医療」
「就業支援」
「介護」
「年
金」などを中心に我が国の社会保障制度について考えてみた。
第一章
後期高齢者医療制度
第一部・・・医療制度の現状と課題
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第二部・・・後期高齢者医療制度の保険料
第三部・・・後期医療制度の財政
第四部・・・後期医療制度の海外の事例、対策
第一部 医療制度の現状と課題
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日本の医療制度は、全国民が原則加入する公的医療保険制度が基本となっており、年齢
や所得に関係なく、原則としてすべての医療を保険給付として受けられる仕組となってい
る。
医療保険制度によって、すべての国民は、ほぼすべての医療を原則 3 割の自己負担で受
けることができる。わが国の医療提供体制は、戦後、全ての国民に平等に医療を受ける機
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会を保証するという観点から整備が進められてきた。また、国民皆保険制度のもとで、国
民が容易に医療機関を利用できる体制が整備された。
しかし現在の医療制度には課題が出てきている。現在は全国的には必要病床数を上回る
数が整備されており、国際的にみても人口当たり病床数が多いこと、平均在院日数が長い
ことや一床当たり医療従事者が少ないなど、全体として広く薄い提供体制となっているこ
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となどが課題として挙げられている。また、入院については病床の機能分化が十分ではな
く、急性期の患者と長期の療養が必要な患者が混在することが多くなっている。外来につ
いても、大病院と中小病院、診療所の機能分化が十分ではなく、大病院へ患者が集中し、
長い待ち時間などの問題も指摘されている。
また日本は高齢化社会であり、高齢者医療という面でも問題を抱えている。わが国の国
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民医療費は年々増大しており、このうち高齢者にかかるものが全体の医療費の約 3 分の 1
2
を占めており、年々その割合が上昇している。また、国民医療費の伸びは、国民所得の伸
びを上回る伸びを示している。各医療保険制度ともに、低迷する経済状況を反映して保険
料収入が伸び悩む一方、老人医療費を中心に医療費支出が増大し続け、財政状況は大変厳
しい状況にあり、このままでは、良質な医療を国民にひろく提供する医療保険制度の責任
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を果たせなくなるおそれがある。
さらに現在の日本では、高齢者の割合が昔に比べてかなり増えており、超高齢社会を迎
えている。高齢化が進み、高齢者が増加するにつれて医療費が増加してくる。現役世代の
所得移転に頼っている高齢者の医療費が増加すれば、現役世代の負担も増えてしまう。負
担を減らそうと、無理に国民医療費を抑制しようとすれば、医療サービスの低下や、医療
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アクセスの阻害といった問題が出てくるだろう。国民医療費の増加という問題は、医療が
発展していくなかで、発生してしまうことではあるが、それに対して抑制するのではなく、
どのようにして効率的に、無駄のないように対処していくことが重要となってくる。
第二部 後期高齢者医療制度の保険料
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後期高齢者医療制度」とは、75 歳以上(一定の障害がある場合は 65 歳以上)の高齢者を
対象とした医療制度であり、
「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づく。平成 20 年(2008)
4 月から、従来の老人保健制度に代わって実施され、都道府県単位に設けた後期高齢者医療
広域連合が保険者となる。
従来の高齢者医療は、国民健康保険やサラリーマンの健康保険などの医療制度に入りな
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がらも、老人保健制度からもダブルで医療を受けられるという、いわば共同運営的な保険
システムであった。しかしこれからは「後期高齢者医療制度」の発足により、従来の保険
制度から脱退して新たに「後期高齢者医療制度」に加入することになった。
後期高齢者医療制度の発足の背景には、日本の国家財政がひっ迫するなかでの「国民医
療費の大幅な増加」がある。
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平成 23 年度の国民医療費(概算)は、前年比 3.1%増となる 37.8 兆円にもなり、ここま
での 9 年間、国民医療費の総額は右肩上がりで増加しており、金額・伸び率ともに過去最
高となった。ちなみに毎年の国民医療費は、一年でおおむね 3%程度の自然増が見込まれて
いる。このうち 70 歳以上の高齢者の国民医療費は約 17 兆円となり、全体の 4 割強を占め
ている。なかでも「後期高齢者」層の一人当たり医療費は 91.6 万円に達し、現役世代の 5
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倍程度はかかっているとされている。
以前の制度では健康保険や国保などそれぞれの保険制度のなかに「後期高齢者」層が含
まれていたことから、現役世代と「後期高齢者」との負担関係がわかりにくくなっていて、
国としても膨張する医療費の抑制がやりにくい構造が、これまで続いていた。
また、高齢化社会が今後とも急ピッチで進む見通しに変わりがない以上、安定的で持続
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化が可能な医療保険制度をつくらない限り、現在のシステムの部分的な手直しだけでは早
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晩限界がくる、との声が、大勢を占めるようになった。
このような背景を受けて、国の医療制度改革の柱のひとつとして、この"後期高齢者だけ
を対象層として独立させ、医療給付を集中管理する"という、世界的にもほとんど類を見な
い新制度がスタートすることとなった。
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第三部 後期医療制度の財政
上で高齢者医療というのが課題の一つであると述べたが、その対策として後期高齢者医
療制度が創設されている。ここでは後期医療制度について、財政の運営の視点から見てい
く。最初に後期高齢者医療制度の概要について述べていき、次に従来の医療制度の財政上
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の問題点について考え、最後に後期高齢者医療制度の財政面のメリット、デメリットにつ
いて考察していく。
まず後期医療制度の概要について見ていこう。後期医療保険制度とは75歳以上からは
独立採算によって保険運営をしていく制度である。年齢別に順におって説明していくと、
まずそれぞれが国民健康保険や各被用者保険に加入する。その次に65~75歳の間で、
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制度間に生じた医療費負担の不均衡を調整する。そして75歳以上になるとすべての人が
後期高齢者医療制度の被保険者となり、保険に加入することになる。
後期高齢者医療制度の保険者、つまり保険の運営は都道府県単位の広域連合が行う。財
政構成は高齢者の保険料が1割、後期高齢者支援金が4割、公費が5割となっている。後
期高齢者支援金とは、若年者の保険料が財源となっており、公費の内訳は、[国:都道府県:
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市町村=4:1:1]となっている
次に従来の医療制度の財政上の問題点を見ていく。従来では退職者医療制度と老人保健
制度という二つの制度によって医療保険を行っていた。退職者医療制度とは、65歳以上
になると健康保険組合など被用者保険と市町村保険との間に生じる負担の是正を行うため
に作られた。その仕組みはサラリーマンの期間が20年以上の退職者の医療費について、
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被用者保険が市町村国保に拠出金を出して負担するというものであった。
そして老人保健制度とは老人医療費の膨張を少なくするために設立された。その仕組み
についてみてみると、75歳以上の人は国保、被用者保険に加入しつつ市区町村が運営を
行う老人健康保険にも加入し、被用者保険料を支払いながら給付を受けるというシステム
になっている。つまり国保、被用者保険と老人保健制度の二つの保険団体に加入している
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ということになるのが、従来の高齢者医療制度の特徴であった。
これにより二つの問題が起こってしまった。一つ目が保険者と給付者が異なることであ
る。高齢者は国保、被用者保険などそれぞれの医療保険に保険料を支払うことにより、老
人保健制度による医療給付を受けてこられた。しかし老人保健制度の運営を行うのは市町
村であり、保険料を実際に支払われているわけではない。よって保険料を支払先と給付先
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が異なるという問題があった。
4
二つ目が、現代世代と高齢者の負担が不明確なことである。老人保健制度は、各被用者
保険や国保など、すべての医療保険者が共同で費用を負担し、市区町村が運営を行うとい
うものであった。要するに現代世代の保険料の一部が、老人保健制度の拠出金になってい
たということである。現代世代と高齢者世代の「病院に行く回数」
、
「薬をもらう回数」、
「医
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療費」など様々な点で高齢者世代のほうが上回っており、現代世代は自分の医療費よりも、
むしろ高齢者の医療費に多く支払っている可能性も出てきた。よって後期高齢者医療制度
は、従来の医療保険制度には以上の問題が生じていたことが創設された背景のひとつであ
った。
最後に後期高齢者医療制度の財政面のメリットとデメリットについて考えていく。まず
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メリットについて述べていく。後期高齢者医療制度のメリットは二つある。一つ目が保険
者と給付者が同じになったことである。従来では前に述べたとおり、保険料を国保や各被
用者保険に支払い、給付を市区町村から受けていた。しかし高齢者医療制度では保険料の
支払いも給付金の受けとりも、両方とも市区町村になり、問題が改善された。
二つ目が国・都道府県による、財政リスクの軽減である。具体的には広域連合に対する
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高額な医療費などについて国・都道府県による財政支援や、国・都道府県も拠出する基金
による保険料未納などに対する貸付・交付などがあげられる。
次にデメリットについてあげてみる。後期高齢者医療制度のデメリットは、財政構成の
4割が国保や各被用者保険からの拠出金であることだ。よって若年者は自分に保険料を支
払っているだけではなく、高齢者への保険料も同時に支払っていることになる。つまり世
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代間において不公平が生じるだけではなく、高齢化が進むことにより一層若年層の負担が
増加する問題が生まれてくる。
第四部 後期医療制度の海外の事例、対策
先進諸国の医療支出を対 GDP で見ると、2006 年の時点で 15%に到達しているのはアメ
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リカであり、それを追うようにしてフランス、ドイツ、カナダ、ノルウェーとなっており、
日本は最低水準の 8%程度である。それなのに何故、日本の医療支出は問題となっているの
かを海外の事例から考察することにする。
医療支出に占める公的部門の割合は上からイギリス、ノルウェー、日本、フランスとな
っており、これらの国は国民皆保険制度や公的医療制度を導入している。そのため高齢者
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の増加によって公的部門への収入が減る一方、支出は増え、財政が圧迫される。一方で総
医療支出の高いアメリカ、ドイツ、カナダなどは民間部門が医療支出に占める割合が多く
なっている。このように全部を公的支出で補うのではなく、一部を民間部門で補うことで、
医療の質を上げることが可能である。
アメリカを例に挙げると、アメリカの医療制度の特徴は、国民皆保険制度がないため多
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数の無保険者がいることである。国民の大半は、雇用先が提供する医療保険に加入するな
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ど、民間保険が中心的な役割を果たし、公的医療保険としては、主に高齢者を対象とする
メディケア等があるのみである。メディケアは 1965 年に導入され、約 4600 万人が加入す
るアメリカの公的医療保障の中核をなす制度となっている。
メディケアは、
パート A からパート D までの 4 つの部分から構成される。
パート A は、
5
主に入院時の病院費用に適用される。現役時代に社会保障税・メディケア税を負担し、社
会保障法による老齢・遺族・障害年金の受給資格を有する 65 歳以上の者に適用され、保
険料は課せられない。パート B ~D は任意の保険であるため、ここでは参照しないことに
する。
メディケアの財政状況は厳しく、パート A は、2008 年から単年度収支が赤字に転落し、
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2009 年の報告では、2017 年にはパート A の財政が破綻すると見られていた。そのため、
2010 年 3 月、オバマ大統領の署名により、医療制度改革法が成立した。同法は、無保険
者に民間医療保険への加入を義務化して、国民皆保険を実現しようとするものである。
同法には、高額所得者の一定額以上の所得に 0.9% のメディケア税を加算する、割高とな
っているメディケア・アドバンテージ・プランへの医療費の支払いを削減する、病院等へ
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の医療費支払いの改定額を抑制する、効率的な医療提供方法と支払い方法を模索するため
のパイロット・プログラムを導入するなど、メディケアの財政に影響する重要な改革も含
まれている。これらの改革で、メディケアの支出は、2010 年から 2019 年の間に 4280 億
ドル削減できると見られている。改革が順調に実施されれば、パート A の破綻する時期を
2017 年から 2029 年まで遅らせることができる。また、GDP に対するメディケアの費用
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の比率は、2020 年において 14%、2030 年において 21%、2050 年において 32% も低く
なると見られている。このようにアメリカは民間部門を活用することによって高齢者医療
費の拡大を防ごうとしているのである。
ここまで第一章、後期高齢者医療制度についてみてきた。日本は急速に高齢化が進んで
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いる。それにより医療費が増大し、国民経済を逼迫する可能性が出てきた。そこで政府は、
後期高齢者医療制度という新しい制度を導入することにより、対応しようとしている。こ
れは諸外国に例を見ない、新しい医療制度であることがいえる。
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第二章
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就業支援
第一部・・・我が国の就職の現状
第二部・・・海外事例
第三部・・・課題
第四部・・・対策
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第一部 我が国の就職の現状
現在、日本で行われている就業支援について調べてみた。まず現状として、日本の人口
のうち、どれくらいの人々が働いているかを調べた。総務省統計局のデータによると、2
4年6月時点での就業者(収入を得る仕事をしたもの)の数は6304万人。雇用者(他
人に雇われて働いている人)は5528
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万人。就業率(15歳以上のうち、働い
ているもの)は56.8%、完全失業者
(15歳以上、働く意思のあるもので、
仕事を探しており、すぐ働くことのでき
るもの)は288万人というデータが載
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っている。雇用・労働に関して、近年で
は、派遣労働を主とする非正規雇用、
(※
1)フリーターや(※2)ニートの増
加、賃金格差など様々な問題がある。
不況により企業が採用を渋り、高卒・
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大卒で職業に就けないものも大勢いる。
フリーターは、やりたい職業が見つか
るまでの「モラトリアム型」
、正規雇用
を志向しながらそれが得られない「や
むを得ず型」
、明確な目標を持った上で
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生活の糧を得るための「夢追求型」な
(出所)総務省統計局 労働力調査
(基本集計) 平成 24 年 6 月分結果
などに分類される。フリーター数は平成
15 年に 217 万人に達して以降、5年
(備考)上が労働力人口の推移
連続減少していたが、
下が若年層の労働力人口の推移
その後2年連続で増加を続けている。
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※1「フリーター」とは
「15~34 歳の男性又は未婚の女性(学生を除く)で、パート・アルバイトして働く者又は
これを希望する者」のことを指す。ニート(※1)の状態にある若者は、10 年間で 40 万人
5
から 60 万人前後に増加している。25~29 歳と 30~34 歳の年齢層は、それぞれ 10 年前に
比べて倍増している。
※2「ニート(NEET)」とは
Not in Education,Employment or Training(就学、就労、職業訓練のいずれも行っていな
い若者)の略で、元々はイギリスの労働政策において出てきた用語。日本では、若年無業
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者のことを指す。若年無業者とは、
「15~34 歳の非労働力人口のうち、通学、家事を行って
いない者」をいう。
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第二部 海外事例
<アメリカでの障害を持つ人の就業支援の事例>
米国では、
「大人」に移行することは障害の有無にかかわらず大変なことで、とりわけ障
5
害を持つ人には大変であるとして、障害を持つ人のための支援とはせずに若者の移行支援
のための5つの指針がまとめられている。また、障害をもつ若者の職場への移行に関わる
専門職に求められる技能が整理されている。
日本での障害者の就業事例ついては「大学等における障害・疾患のある学生の就職活動
支援」
、
「軽度発達障害のある若者の学校から職業への移行支援の課題『長崎国際大学論叢』
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第10巻2010年3月175頁~186頁175に関する研究」、「職業リハビリテーシ
ョンからみた発達障害青年の移行支援の課題」等、障害を持つ学生の就職活動の支援につ
いても研究が進められつつあり、障害理解の支援や職業リハビリテーションの利用可能性
を高めるための支援の必要性等が論じられているものの、いまだ模索段階である。
アメリカには障害を持つアメリカ人法(Americanswith Disabilities Act: ADA)があり、
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個別障害者教育法(Individuals with Disabilities EducationAct: IDEA)や落ちこぼれ防止
法(No ChildLeft Behind Act: NCLB)があることは日本でもよく知られている。またノー
スカロライナ州で開発された TEACCH プログラムは広く教育や福祉の分野で取り入れら
れている。その他テンプル・グランディンら当事者による著書や当事者向けの著書も多く
紹介され、当事者やその家族、教育・福祉の関係者にとって影響の大きい、身近な国だと
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考えられる。日本では、障害者の雇用の促進等に関する法律による障害者雇用率制度が、
障害を持つ人の雇用の促進を図るための取り組みの柱の一つとなっている。ADA をもつア
メリカには、障害者雇用率制度はない。
<フランスでの就業制度>
フランスにおいても、EU 全体の政策方針に沿って、1990 年代終盤あたりから Welfare
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to Work ともいうべき方向に政策の舵取りがなされている。その代表的存在は、失業者に
対する PARE 制度であり、失業に滞留して長期失業となることを防止することに施策の重
点が置かれている。2001 年に締結された失業保険協定では、失業者の再就職支援を一層強
化するために、再就職支援プラン(PARE)が導入された。これは、失業手当を給付する傍
ら、各失業者の求職活動を個別にバックアップしようとするもので、2001 年 7 月 1 日か
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ら実際にスタートした。PARE の対象となるのは、PARE 契約を結んでいる求職登録者で、
「積極的に求職活動をおこなう」ことを誓約することが求められている。
求職活動支援を迅速に行うために、事前 PARE(PARE anticipé)の制度もある。雇用主
は、解雇通知の際に従業員に対して PARE に関する情報を提供し、当該従業員が PARE の
適用を望む場合、解雇通知から 8 日以内に必要書類を ASSEDIC に提出することで、当該
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従業員は解雇前から ANPE での面談と職能診断を受けることができる。この時点で個別行
9
動計画(PAP、後述)が策定され、雇用復帰支援手当(ARE)の受給手続きを開始できる。
第三部 課題
特に新卒者に対する就職支援の充実は大きな課題である。2011 年春卒業学生の就職内定
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状況は非常に厳しく、昨年 12 月 1 日現在で大学(学部)では 68.8%(前年度比△4.3 ポイ
ント)となるなど、平成8年度の調査開始以来、過去最低の就職内定率となった。政府に
おいても、
「戦略雇用対話」や「新卒者雇用・特命チーム」が設置され様々な対策が取られ
ている。文部科学省においても、キャリアカウンセラーの増員や大学の就業力支援事業な
ど各大学に対し支援を行っている。また、雇用枠の拡大はもちろんのことであるが、新卒
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者の採用活動に関して近年さらに早期化・長期化が進んでいること、新卒一括採用により
既卒者の就職が厳しいことなど雇用慣行の是正に向けた動きが政府、経済団体、大学等に
おいてでてきている。最近、文部科学省が中心となり、関係各府省、経済団体、大学団体
が一同に会し「新卒者等の就職採用活動に関する懇話会」を設置し議論が行われ始めたと
ころである。
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一方で、大学においてのキャリア教育・職業教育の充実は緊急の課題であり、
「大学設置
基準及び短期大学設置基準の一部を改正する省令」を踏まえ、平成 23 年度から全ての大学
において、教育課程内外を通じた社会的・職業的自立に関する指導等への取組及びそのた
めの実施体制の整備が全学的な実施体制の下、展開されることになった。各大学において
カリキュラムやインターンシップの充実、また、きめ細やかな就職指導が行われるよう積
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極的な取組がなされることが必要である。Benesse 教育研究開発センターの「平成 17 年度
経済産業省委託調査 進路選択に関する振返り調査 -大学生を対象として-」によると、
大学に入っても職業を意識していない、又は大学に入ってから意識した者は、自分の適性
や就きたい職業等で悩み、社会に出ることに不安を感じている傾向にあることがわかった。
また、インターンシップは、学校単位の実施率は高水準ながら、個人単位では、公立普
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通高校で 15%弱、大学で 1 割弱と低水準であった。キャリア教育については学校教育全体
を通じた取組が重要となるが、高校・大学入学後、早期に、キャリア教育の中核的取組と
して、インターンシップ・職場体験等を実施することが課題となっている。
さらに大卒と中小企業のミスマッチの問題もある。中小企業の大卒求人倍率は、現在で
も3倍以上と中小企業は採用意欲が旺盛であることがいえる。学生の間では、中小企業に
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対する希望も強まりつつあるが、依然として大企業志向が根強い。中小企業と学生の間の
ミスマッチの解消が課題である。
35
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第四部 対策
現在の就職支援の問題としては、新卒者の就職率の低下がある。これにより、若い世代
でのニートやフリーター化が深刻化しているのである。若者の完全失業率は平成 21 年の調
査結果 9.1%で依然年齢比の 5.1%に比べて相対的に高水準に推移していることがわかる。
5
フリーター数についても、平成 15 年の 217 万人をピークに 5 年連続で減少したものの、平
成 21 年には 178 万人と 6 年ぶりに増加するなど厳しい状況にあるのである。若年者の雇用
状況をよくするため様々な対策がある。
まず、ハローワークである。ハローワークの正式名称は公共職業安定所といい、常用就
職を目指しているフリーターの人に、担当制・予約制による職業相談から職場定着までの
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マンツーマンの支援を行っている。また、どんな求人があるかは、ハローワークインター
ネットサービスやしごと情報ネットからも検索ができる。
次に、トライアル雇用である。トライアル雇用とは、ハローワークの紹介により、正規
雇用を前提とした原則3ヶ月のお試し雇用を実施するもので、この期間に就職に必要な技
能や知識を身につけるとともに、職場や職種への理解を深めることができる制度である。
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このトライアル雇用を終了した方のうち約8割の方が、正規雇用として採用されているの
だ。
さらに求職者支援制度とジョブカードである。求職者支援制度は、雇用保険を受給でき
ない求職者を対象に、無料の職業訓練を実施し、収入・資産等の一定の要件を満たす方に
対して職業訓練の受講を容易にするための給付金を支給するとともに、ハローワークでの
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積極的な就職支援により、早期の就職を支援する制度である。ジョブカードは、キャリア・
コンサルティングを受けながら、自らの仕事に関する興味・希望や適性・強みなどを整理
して、それらを書きこんでいくツールである。ジョブ・カードを作成する過程を通じて、自
分の考えがはっきりするので、面接時に自己アピールする能力が向上できる。
次にジョブカフェである。ジョブカフェは都道府県が主体的に設置する、若者の就職支
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援をワンストップで行う施設で若者が自分に合った仕事を見つけるためのいろいろなサー
ビスを 1 か所で、すべて無料で受けられる場所である。ジョブカフェでは、各地域の特色
を活かして就職セミナーや職場体験、カウンセリングや職業相談、職業紹介などさまざま
なサービスを行っている。また、保護者向けのセミナーも実施している。
ここで第二章、就業支援についてみてみよう。若者の就職難は現在の日本の抱える大き
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な問題点の一つである。この就職難により国民経済の成長を鈍化させる恐れがある。よっ
て政府が若者の就業支援をサポートすることの必要性がある。また中小企業は若い人材を
積極的に採用する傾向があるようだ。若者と中小企業を結ぶ何かが不可欠であることが考
えられる。
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第三章
公的介護保険制度
第一部・・・介護分野への政府からの支援
第二部・・・課題・対策
第三部・・・海外の介護
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第一部 介護分野への政府からの支援
この章では介護についてみていく。まず介護分野へ政府がどのような支援を行っている
のか述べていく。
政府が行っている政策の一つに、介護保険制度がある。これは家庭内で行うことが困難
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になってきた介護を、社会全体で支える仕組みをつくるために創設されたものである。こ
れは二つの目標が設定された。
一つ目が老人医療費を削減することである。家族が介護できない高齢者は入院する人が
多く、治療が終了しても、自宅で介護が受けられないため退院ができないケースが増えて
いた。そのため老人医療費が高騰し、国民医療費の 40%を占めるようになり医療費負担の
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軽減が必要になってきた。そこで介護を社会全体で負担する制度をつくることにより、医
療部門の負担を減らそうとした。
二つ目が介護サービスの量と種類を増やすことである。介護保険制度が導入する以前の
介護では、老人福祉法に基づいて市町村の措置により提供されていた。在宅での介護が不
可能な人は申請し、市町村が必要性を判断してサービスの量と内容を決定していた。しか
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し予算の範囲で措置をするために介護サービスの量には限りがあり、その申請が増加して
も十分な対応ができないケースが出てきた。この増加するニーズに対応するためにも、介
護保険制度が必要になってきた。
次に介護保険制度のしくみについてみていく。介護保険制度とは、被保険者が保険料を
納め、保険者である市町村が介護を必要とした人に対して、介護保険給付を行う仕組みで
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ある。介護保険の給付は、サービスの現物給付を基本としている。保険料を支払うことに
より、要介護認定をされたら介護サービスを受けることができるようになる。
大きな特徴は以下の三点である。
一つ目が、個人の希望で加入や脱退ができない強制加入保険である点である。介護保険
制度は介護保険法に基づいて国が定めたしくみで運営されている公的保険制度であるから
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である
二つ目が、40 歳以上が被保険者という点である。介護保険料を納め、介護保険のサービ
スを受けられるのは、市町村に住所を持つ 40 歳以上 64 歳未満の医療保険加入者と市町村
に住所を持つ 65 歳以上のものである。また 40 歳以上 64 歳未満の被保険者を「第 2 号被保
険者」
、65 歳以上の被保険者のことを「第 1 号被保険者」という。
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三つ目だが介護保険料は市町村が決める点である。介護保険料は 3 年ごとに市町村が国
の給付参酌標準をもとに給付総額を算定して、それをもとにして 3 年間の保険料を算出し、
議会で決定する。したがって保険料は市町村ごとに異なり、3 年ごとに見直されるのである。
また介護保険は現金給付の医療保険とは違い、サービスの現物給付を受けることも特徴
5
の一つであろう。
第二部 我が国の介護に対する課題と対策
介護が抱える課題の一つとして、介護人材の確保と育成が挙げられる。少子高齢化の進
展や家族形態の変化、高齢者の生活意識の多様化などを背景として、介護ニーズはますま
す増大するとともに、質的にも多様化・高度化しつつある。しかしその一方で、介護サー
10
ビスの従業者の離職率は他分野よりも高く、常態的に求人募集が行われるなど人材不足の
状態が生じている。そこで介護サービスを担う人材を安定的に確保するとともに、高い資
質を有する人材を育成していくことが重要な課題となっている。
その課題に対して政府は、福祉・介護人材確保緊急支援事業により以下の六つの対策を
行っている。
15
まず一つ目が介護福祉士など修学資金制度の拡充である。若い人材の介護分野への参入
を促進させるために、介護福祉士、社会福祉士の養成校の入学者に対し資金を貸し付け、
卒業後 5 年間福祉・介護の仕事に従事した場合、資金の返還を免除するという制度をつく
った。
二つ目が潜在的有資格者の掘り起しである。介護福祉士などの資格を有していながら就
20
労していないものが多く存在する。そこでその者達に対して一定の研修を行うことにより、
その再就職を支援し新たな人材の参入・参画の促進を行うというものである。
三つ目が職場体験の機会の提供である。就職希望者と事業者との間のギャップを埋め、
円滑な人材の参入を促す観点から、福祉・介護分野の職業体験の機会を提供する。
四つ目が就労して間もない職員への定着支援である。就職して間もない職員の離職が多
25
いことをふまえ、人材定着アドバイザーを都道府県に設置する。そしてアドバイザーが事
業者を巡回して職場の人間関係などに関する相談・助言を行うことを通じて、職員の定着
を支援しようというものである。
五つ目が福祉・介護人材マッチング支援事業である。求職者が自分にふさわしい職場を
見つけにくいという状況をふまえ、都道府県福祉人材センターにキャリア支援専門員を配
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置し、個々の求職者にふさわしい職場を開拓するとともに、働きやすい職場づくりに向け
た指導・助言を行い、円滑な就労・定着を支援しようというものである。
六つ目がキャリア形成訪問指導事業である。介護福祉士などの養成校の教員が、福祉・
介護事業所を巡回・訪問し、介護技術などに関する研修を行うことにより、職員のキャリ
アアップや資質の向上及び定着の支援を目的としている。
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以上が介護の課題・対策である。
13
第三部 海外の介護
海外の介護の事例について様々な国の今を取り上げていきたいと思う。最初にヨーロッ
パ全般について述べ、順にスウェーデン、フランス、イギリス、アメリカについてみてい
く。
5
最初にヨーロッパ全般についての介護についてみていく。ヨーロッパ各国においても、高
齢化と厳しい財政状況を背景に、在宅介護において家族等介護者が大きな役割を担ってい
る現状が明らかになってきた。OECD が 1996 年に出した報告書『虚弱高齢者の介護:政
策の進展』においては、家族等による介護(インフォーマルな介護) は、高齢者の長期介護の
重要な三要素(在宅介護サービス、インフォーマルな介護、入所介護サービス) の一つに挙げ
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られ、各国における家族等介護者への認識とこれへの対応がそのテーマとなっている。
次に福祉国家として有名なスウェーデンについて述べていく。まず介護制度についてみ
ていこう。スウェーデンでは1982年に施行された社会サービス法に基づき、基礎的自
治体のコミューンが各々の行政区域内の支援を必要とする者に対して介護サービスを含む
社会サービスを提供している。サービス提供の基準については、各コミューンに委ねられ
15
る。なお、社会サービス法は年齢による区別無くすべての者を対象としている。介護サー
ビスについては、本人または家族の申請に基づき、各コミューンのニーズ判定員による要
介護度の判定及びサービス量・内容のアセスメントを経て提供される。在宅サービスとし
ては、ホームヘルプ、訪問介護、訪問リハビリ、デイケア、夜間ヘルプなどがある。施設
サービスは、エーデル改革以後、従来の医療・介護施設は特別住宅となり、在宅サービス
20
との差異はほとんどなく、居住費用や食費は利用者負担である。これらの介護サービスを
含む社会サービスの財源は各コミューンの税財源及び利用者負担により賄われている。
(スウェーデン)
まずスウェーデンの介護サービスについて触れてみる。高齢者福祉の先端をいくスウェ
ーデンも日本同様に高齢者福祉の中で、一番問題をかかえていることは認知症である。こ
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の認知症の介護の方法としてタクティールマッサージという方法がとられている。日本な
どで見られる指圧やツボなどを刺激するマッサージとは異なる方法で、手を持って身体に
優しく触れたり,撫でたりする,力をあまり必要としないマッサージの事をいう。直接手
に触れることで、認知症高齢者の信頼感を得ることができ、コミュニケーションが取りや
すくなるなどの効果が得られる。
30
(フランス)
続いてフランスである。フランスの高齢化問題は、ほかの先進諸国に比べて出生率の低
下が早期に始まったことにより人口の高齢化も早く到来している。戦後のフランスの高齢
者施策の展開の源流は、
「高齢者問題研究委員会」が今後 20 年間の高齢者施策の指針をま
とめた、1962 年の高齢者施策(ラロック報告書)まで遡ることができるが、フランスで介
35
護問題が社会的に大きく注目され始めたのは 1980 年代に入ってからである。1980 年代に
14
行われた地方分権改革により、フランスの齢者福祉に関する諸権限は国から県に移管し、
1997 年には特定介護給付、2002 年には特定介護給付を廃止し個別化自律手当の創設と相次
いで高齢者介護制度の新たな試みを展開してきた。
次にイギリスの介護について述べていく。介護制度から見ていくと、イギリスでは19
5
93年に施行されたコミュニティケア法に基づき、地方自治体がそれぞれの行政区域内に
おいて、支援を必要とする者に対して社会サービスを提供する責任を負っている。サービ
スの提供の基準の策定については、各自治体にゆだねられ、地域の必要性に応じたサービ
スを行っている。コミュニティケア法は年齢による区別なく全ての者を対象としているが、
サービス提供に際しては受給の用件を満たすかどうかのミーンズテストが行われる。
10
またイギリスの介護サービスについてみていこう。サービスは、在宅サービスにはホー
ムヘルプ、訪問介護、デイケア、配食サービス、施設サービスにはナーシングホームやレ
ジデンシャルホームがある。サービスの提供にあたっては自治体が民間事業者に委託する
形式が広まっている。以上の介護サービスを含む社会サービスの財源は、各地方自治体の
税財源及び利用者負担により賄われている。またこの利用者負担は所得による応能負担で
15
ある。
(イギリス)
イギリスにおいて、なぜこのように介護者を重視した政策がとられている背景には、以上
見たように家族介護が大きな役割を担い、家族等介護者の健康状態の悪化、就労の制限など
をもたらしている。週 20 時間以上介護する者の 50%が長期疾患を抱えている。介護時間が
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長くなる程、身体的・精神的な健康状態が悪くなり、介護時間 20-50 時間未満の者では 61%
が、50 時間以上の者では 72%が不調を訴えている。こういった国民の健康的な問題があっ
たために、イギリスでの介護制度が充実していったことがうかがえる。
(アメリカ)
最後にアメリカの介護制度についてみていく。アメリカには、イギリス、スウェーデン
25
のような介護保障制度はない。その為、公的医療制度が介護サービスをカバーしており、
介護費用を負担するために資産を使い尽くして自己負担が不可能な状態になった場合に初
めて、公的医療制度であるメディケイドがカバーする構成になっている。また、食事の宅
配、入浴介助等の公的医療制度ではカバーできない介護サービスについては、アメリカ高
齢者法によって、一定のサービスに対する連邦政府等の補助が定められているが、この予
30
算規模はきわめて小さいものである。
以上介護についてみてきたが、これから高齢化というのはどの国でも課題になってくる。
その課題に対して国ごとによって対策が異なることがいえる。これも高齢化の進み具合や
その国々の財政状況にもよると推測できる。
35
15
第四章
公的年金制度
第一部・・・年金の現状
5
第二部・・・年金の歴史
第三部・・・年金のメリット、デメリット
第四部・・・年金の課題
第一部 年金の現状
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日本では 1961 年から全国民が年金に加入する「国民皆年金」が実施されている。自営業
者や個人事業主は国民年金、サラリーマンや OL は厚生年金あるいは共済年金に介入してい
る。専業主婦も「第 3 号被保険者」として直接掛け金は負担しないが、夫の年金に加入し
ている。
公的年金には、自営業者の人を中心とする「国民年金」と企業の従業員が対象の「厚生
15
年金」
、公務員などが対象の「共済年金」の 3 種類がある。国民年金は最も基礎的な部分を
担うもので「基礎年金」=年金の「1 階部分」とも呼ばれる。基礎年金には被保険者が老齢
(65 歳)になった時に支給される老齢年金、病気やけがなどで障害を持った場合に支給さ
れる障害年金、被保険者や年金受給者が死亡した場合に遺族に支給される遺族年金がある。
この中で中心となるのは老齢基礎年金である。基礎年金の給付の財源は第 1 号被保険者か
20
ら徴収する国民年金保険料、第 2,3 被保険者の保険料相当分として第 2 号被保険者が加入す
る被用者年金制度からの拠出金、および国庫負担金とで賄われる。国庫負担は 09 年度から
基礎年金給付費の 2 分の 1 へ引き上げられた。厚生年金や共済年金は基礎年金を土台とし
て、さらに「2 階」
「3 階」を上積みした形。そのほかに厚生年金基金、適格退職年金など
の企業年金や退職一時金がある。
25
基礎的な部分である国民年金は 20 歳以上 60 歳未満の国民全員加入の制度で、加入者は
その職業によって自営業者等の「第 1 号」
、給与所得者等の「第 2 号」、第 2 号被保険者の
被扶養配偶者である「第 3 号」に区分される。
国民年金の保険料は 2004 年の月 1 万 3300 円から毎年 280 円ずつ増加して 2017 年に 1
万 6900 円となったところで固定され、厚生年金の保険料率については 2004 年の 13.58%
30
から 0.354%ずつ引き上げていき、2017 年に 18.30%となったところで将来にわたって固定
される。保険料率水準を固定したうえで財政を均衡させるためには、その反対側である給
付水準をカットしなければならない。そのために導入されたのがマクロ経済スライドであ
る。これは、65 歳時点の年金額決定に使われる賃金スライドと 66 歳以降の年金額に使われ
る物価スライドの伸び率を小さくし、伸び率を低くすることで将来の年金給付をカットす
35
るという仕組みである。
16
日本の年金の財源調達方式は修正積立方式と呼ばれる。これは積立方式を前提として財
政運営を行うが、インフレーションや政治的考慮等によって年金給付額が増大しているに
もかかわらず、保険料を低く抑えた結果、積立金の不足が生じ、財源不足分は年金が支給
される時点で賦課方式により調達することによって、後代の被保険者の負担にしていくと
5
いうものであるが、実態は限りなく賦課方式に近いものとなっている。2011 年度の年金積
立金(厚生年金+国民年金)は 111.7 兆円であった。
第二部 年金の歴史
最初に戦前の年金制度について見ていく。年金制度の始まりは、1875年に創設され
10
た「軍人恩給」である。これは軍人を対象にした恩給制度である。1939年、民間にお
ける最初の年金制度である。
「船員保険法」が制定される。1942年、工場で働く男子労
働者を対象にした「労働年金保険法」が制定される。これは2年後に「厚生年金保険法」
と改称し、女性も含めた一般労働者が対象となった。
次に戦後の年金制度について述べる。1948年、後に遺族年金となる「寡婦年金」が
15
創設された。1954年、雇用労働者を対象にした「厚生年金保険法」が制定され、厚生
年金の現在の骨格が定まった。1959年には国民年金法案が国会に提出・成立し、2年
後に実施された。同年4月からは国民年金保険料が徴収され、その後定められた「通算年
金通則法」とともに国民年金の基本となりかつ国民皆年金制度が確立されることになった。
1965年、厚生年金基金制度が発足する。同年12月からは、内部障害の内、対象外の
20
肝臓病なども対象に加えられ、全ての傷病が障害年金の対象となる。
1973年、年金法が改正され、物価スライド制の導入や年金水準の切り上げが行われ
た。また老人利用費無料化改革も行われた。背景には、第一次オイルショックや変動為替
相場制の導入などがある。1985年、基礎年金の創設により全国民の強制加入が実現す
る。また第三号被保険者制度が導入される。障害年金も老齢年金と同様に2階建て年金制
25
度になった。1989年、公的扶助との逆転現象の発生などを背景に、国民年金基金制度
が創設される。基金には、都道府県単位に設定する「地域型国民年金基金」と、職種ごと
に設定する「職能型国民年金基金」がある。完全自動物価スライド制の導入も行われた。
1992年、年金財政の維持などを目的に、学生の国民年金への強制加入が決定され、学
生納付特例制度が制定されるまで継続された。1994年年金支給開始年齢の段階的引き
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上げが行われた。1941年4月2日以降に生まれた場合、支給開始年齢を60歳から最
終的に65歳までに引き上げ。この影響として、主に2点ある。1つ目が、高齢者雇用の
必要性が出てきたこと。定年退職してから支給が開始される65歳までの5年間の生活を
維持しなければならず、雇用の延長および再雇用が求められる。2つ目は、国民年金の空
洞化、雇用形態の多様化、年金制度への不信感を背景に、保険料の滞納や国民年金への未
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加入などが発生している。このような保険料未拠出者は全国で800万人を超えると言わ
17
れている。1997年、基礎年金番号が導入される。さらに現在のJR・JT・NTTの
共済年金が厚生年金に統合し2000年、平均標準欧州額採用(2003年の4月からは
ボーナスからも徴収)が行われる。また、基礎年金部分の国庫負担率も、2009年から
3分の1から2分の1に変更されることが決定。2002年、厚生年金の支給開始年齢が
5
65歳から70歳に引き上げられた。2004年、保険料の値上げが決定。厚生年金は2
017年から18.3%に、国民年金は同じく2017年から月額16900円に値上げ
される。
第三部 年金のメリットとデメリット
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まず初めに、公的年金のメリットを挙げると次の通りである。
老齢基礎年金は生涯もらえる終身年金である。なぜなら、亡くなる直前まで元気な人は
ごく一部で、ほとんどの人は人生最後の数年は介護が必要になり、お金がかかる。在宅で
介護する場合、介護費用だけでなく、基本的な生活費も必要なので、少なくともその一定
部分を生きている限りカバーしてくれる。
15
また、老後だけでなく、加入者が事故や病気で障害が残った場合、
「障害年金」が支給され、
死亡したときは、その遺族に「遺族年金」が支給される。残された遺族に、現在の生活を
保障してくれる保険的な機能もある。
さらに、納めた保険料は、その全額が「社会保険料控除」の対象となるので、所得から
全額控除され、税金の負担が軽減されるとともに、受給する年金の半分が国庫負担(税金)
20
で賄われていることにより、払った保険料を上回る給付を受けられる計算になっている。
これは、民間の保険会社が提供する商品よりも経済的メリットが圧倒的に大きい。
そして、公的年 金 に は 民 間 の 終 身 年 金 に は な い イ ン フ レ 抵 抗 力 が あ る 。 現 在 の 日
本 の 国 家 財 政 悪 化 の 顕 在 化 に よ り 、急 激 な イ ン フ レ が 起 こ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。
し か し 、公 的 年 金 の 場 合 、物 価 や 賃 金 の 変 動 に 合 わ せ て 年 金 額 を 変 動 さ せ る た め 、
25
インフレ時でも受給額が実質的に維持される。
以上のように、公的年金は、①受給者が亡くなるまで支給されること、②老後だけでは
なく不測の事態に備える保険としての機能を備えていること、③社会保険料の控除対象で
あるため、税金の負担が軽減されること、④生涯受給する年金額が、納めた保険料の倍に
なること、⑤物価スライド制であること、という五つのメリットがあると考えられる。
30
一方、デメリットは、①年金受給資格(25 年)を得る前に脱退した場合、それまで支払
った掛金は戻ってこないこと、②病気や事業で急にまとまったお金が必要になった時でも、
65歳の受給年齢になるまで、生命保険の解約返戻金のように、それまで支払った掛金の
一部を受け取る事はできないこと、の二つが考えられる。
このように、公的年金には、いろいろなメリット・デメリットを持ち合わせている。
18
近年、急速な少子高齢化の進行により、この公的年金制度の維持可能性が問われている
中、年金保険料の未納者が増加傾向にある。しかし、いずれにしても、自分の将来のこと
を見据えて、年金保険料の納付の是非について慎重に判断すべきである。
5
第四部 年金の課題
年金の課題について見ていく。年金の課題は大きく分けて「保険料徴収の減少」
「納付率
低下」
「無年金・低年金問題」
「基礎年金の給付水準と生活保護との関係」「パート労働者等
に対する適用」の五つがある。
最初に保険料徴収の減少について述べる。日本では現在少子高齢化が急速に進んでいる。
10
子どもの数は年々減少し出生数は 110 万人を切り、高齢者は人口の 21%を占めるまでに至
った。若い世代が高齢者の年金を負担する現在の制度では、若い世代の負担がとても大き
くなる。現在(2010 年時点)は若者 2.8 人で 1 人の高齢者を支えている状況である。加えて、
高齢者の数は増加する一方であり、2060 年には 1.3 人で 1 人を支えるようになると言われ
ている。
15
次に納付率低下について考えていく。近年では、その将来に対する不安感から年金を納
めない人が増加している。平成 13 年までは市町村が徴収していたが、地方分権法の施行に
伴い社会保険事務所が徴収するようになった。市町村が徴収していた時代にも低下傾向が
あったが、社会保険事務所が徴収するようになってから極端に納付率が低下するようにな
った。平成 20 年度の国民年金の納付度は約 62%であり未納者の増加、将来の無年金・低年
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金者の発生につながるとしており、現役世代の負担は増加の一方となっている。
さらに無年金・低年金問題について見ていこう。今後保険料を納付しても年金を受給で
きない無年金者の見込みは最大で 118 万人(うち、65 歳以上の者が 42 万人)となることが予
想されている。国民年金(老齢基礎年金)の平均受給金額は月額 5.4 万円である。国民年金
(老齢基礎年金)のみを受給している人の平均額は月 4.8 万円(そのうち月 3 万円以下が約
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10%、月 2 万円以下が約 2%)であり、低年金者が一定の割合で存在していることが分かる。
また課題に基礎年金の給付水準と生活保護との関係もある。単身者の場合、国民年金(老
齢基礎年金)の満額月 6.6 万円であるのに対し、生活扶助基準額は級地に応じて月 6.3 万円(地
方郡部等)~8.1 万円(東京都区部等)となっており、年金と生活保護との間で一部逆転が生じ
ている。
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最後にパート労働者等に対する適用について述べる。我が国においては、被用者であっ
てもパート労働者等について必ずしも厚生年金が適用されていない。国民年金の第 1 号被
保険者の就業状況を見ると、常時雇用及び臨時の占める割合が約 37%(平成 17 年国民年金
被保険者実態調査より)である。第 3 号被保険者の就業状況を見ると、約 31%が雇用者(平成
19 年国民生活基礎調査より)となっている。
35
現行制度を続ければ、2055 年には 200 兆が底を尽くと、東京学芸大学の鈴木亘准教授は
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指摘している(現時点では 138 兆円程しか残っていない)。これに対して、厚生労働省は基礎
年金部分の国庫補助率を現行の 1/3 から 1/2 にしなければ 2049 年に破綻するとしている。
いずれにせよ現行制度を維持するには、保険料を上げるか給付率を下げるか、あるいは公
費負担を増やさなければ現役世代の年金は破綻するのである。以上が年金の課題であった。
5
以上年金についてみてきた。年金は高齢者が安心して老後の生活を送るための制度であ
るが、さまざまな問題点や課題があることが分かった。しかし、年金のない老後はやはり
不安であり年金の重要性というのは大きいことがいえる。これからもこの制度を維持して
いってほしいと考える。
10
むすび
以上ここまで、高齢者医療、就業支援、介護および年金といった社会保障制度を見てき
た。上でも述べたようにこれからの日本は、ますます少子化、高齢化が進展していくこと
が確実である。その中で、社会保障の果たす役割は、今以上に大きくなるだろう。だが同
時に、日本経済は、以前のような急激な成長を望むことはできない。私たちが安心して暮
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らせる社会を作るためにも、安定期で、持続可能な社会保障の構築が不可欠になる。今後、
社会保障の在り方に注目していきたいと思う。
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参考 URL
1)後期医療保険制度の概要
www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1005-4c.pdf
2)スウェーデン情報 http://www.fukushi-sweden.net/
3)諸外国における介護保障制度の比較
5
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0426-6c11.html
4)2000年 海外情勢報告
http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpyi200001/b0138.html
5)厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000sf7z.html
10
6)内閣府 経済財政運営
http://www.jasso.go.jp/gakusei_plan/documents/daigaku565_07.pdf
7)文部科学省高等教育局学生・留学生課
http://www.jasso.go.jp/gakusei_plan/documents/daigaku565_07.pdf
8)総務省統計局 労働力調査(基本集計)平成 24 年 6 月分結果
15
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm
9)厚生労働省「若者雇用関連データ」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/12.html
20
10)年金制度の基礎知識と今後の課題
www.wombat.zaq.ne.jp/matsumuro/20-09.htm
11)年金制度の課題 http://d.hatena.ne.jp/nami-a/20100417/p1
12)国民年金ネット http://kokumin-nenkin.net/kiso02.html
25
参考文献
13)岡田進一・橋本正明 『高齢者に対する支援と介護保険制度』
ミネルヴァ書房 2010 年 p.122~123 p.161~164
14)結城康博 『入門 長寿[後期高齢者]医療制度』 ぎょうせい 2008 年 p.2~12
15)柿原浩明 『入門 医療経済学』 日本評論社 2005 年 p.132~145
30
16)江口隆裕 『変貌する 世界と日本の年金 年金の基本原理から考える』
法律文化社 2008 年 p.30~31
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