ジャム加工の基礎知識 ジャムとは、果物に糖を加えて煮詰めたものをイメージしますが、最近はさまざまなジャムが売られ ています。果物、野菜だけでなく、乳製品や豆類、お茶などを原料としたジャムもあるようです。今回 はジャムに関する情報を紹介します。 1 ジャムの定義 農林水産省のジャム類品質表示基準の定義によれば、ジャム、マーマレード、ゼリー等をまとめて「ジャ ム類」としています。原形をとどめたプレザーブスタイルはジャムの中に入れてあります。また、ジャ ム類の原料は果実、野菜、花弁としています。 用 語 定 義 ジャム類 1 果実、野菜又は花弁を砂糖類、糖アルコール又ははちみつとともにゼリー 化するようになるまで加熱したもの 2 1に酒類、かんきつ類の果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたもの ジャム ジャム類のうち、マーマレード及びゼリー以外のものをいう マーマレード ジャム類のうち、かんきつ類の果実を原料としたもので、かんきつ類の果皮 が認められるものをいう。 ゼリー ジャム類のうち、果実等の搾汁を原料としたものをいう。 プレザーブスタイル ジャムのうち、ベリー類(いちごを除く)の果実を原料とするものにあって は全形の果実、いちごの果実を原料とするものにあっては全形又は2つ割の 果実、ベリー類以外の果実等を原料とするものにあっては5㎜以上の厚さの 果肉等の片を原料とし、その原形を保持するようにしたものをいう。 (農林水産省ジャム類品質表示基準より抜粋) 2 ジャムの加工方法 ジャムは、一般的に果物に砂糖を加えて加熱してつくりますが、ジャム類の定義にある「ゼリー化す るようになるまで加熱する」のはどのようなことでしょうか? ジャムのとろみ(粘度)は、水分を飛ばし煮詰めて得られるものではありません。 果実等の原料中に含まれるペクチン(HMペクチン*)が糖、酸の相互作用により凝固する性質を利 用してつくります。 このペクチンは、pH 2.7 〜 3.5、砂糖 55 〜 80%という条件で凝固します。このため、ジャムを加工 するときには、一定の酸や砂糖を必要とします。 3者のバランスも重要で、原料に酸が少ない場合は補います。ペクチンが少ない場合は、ペクチンを 加える方法のほか、ペクチンを多く含む果実を加え補う方法もあります。 *【ペクチンについて】 ジャム製造用のペクチンは、主にかんきつ類やりんごなど果実を原料につくられており、2種類あります。 HMペクチン:高濃度の砂糖・酸のもとで凝固する。果実中に主に含まれているのはこのHMペクチン。 LMペクチン:カルシウム、マグネシウムなどがあると凝固する。 凝固に多量の糖と酸を必要としないため、低糖度ジャムに使われる。またジャム用以外に、 製菓材料としても多く使われている。 10 3 ジャム加工に使われる糖 砂糖には製造方法、精製度によっていろいろな種類があります。 精製糖としては、上白糖、三温糖、グラニュー糖等があります。ジャムには、蔗糖 99.5%と純度が高く、 くせのない甘味のグラニュー糖が適しています。仕上がり糖度は、HMペクチン凝固のためには、60% 以上にすることが基本です。最近は甘いジャムが好まれない傾向にあり、糖度を確保し、甘味を控えめ にするため、甘味度の低い糖が使われることがあります。(麦芽糖、オリゴ糖、糖アルコール等) また、高濃度の砂糖や酸がなくても凝固するLMペクチンを使った「低糖度」ジャムが販売されてい ます。 4 ジャム類の製造販売動向 日本ジャム工業組合の資料では、平成 22 年には全国で5万3千tのジャム類が製造されています。 総務省調査では、家庭消費量は1世帯当たり 1.3㎏でした。種類はいちごジャムが最も生産量が多く、 ブルーベリージャム、マーマレードと続きます。 「ジャムと言えば、パンに塗るもの」から、最近はヨーグルトにかける等、新しい食べ方が定着して きており、「塗る」から「かける」に対応して、甘さ控えめでゼリー強度もゆるやかなものが増えてい るようです。 お店に行くと、果実に複数の糖を組み合わせ、さらにペクチン、酸も加えて製造し、比較的安価で販 売されているものがある一方で、ペクチンを使わないことやレモンからペクチンを抽出して使っている といった「こだわり商品」も販売されています。買う人の好みや用途に合わせたさまざまな商品がつく られているようです。 ジャム各種 国産果実を使った新商品開発セミナー(H23.1)より 5 県内の動向 果樹・野菜産地の中では、規格外品を有効に利用しようと加工への取組が行われていますが、個人単 位の小規模な取組がほとんどです。JAの女性グループ等組織で加工している事例もありますが、量的 には少なく、地域内での販売・消費が主体です。 一方、観光農園で自家産の果実を使った加工品を自分で加工するほか、加工業者にも加工を委託し、 通年販売できる商品をつくっているところもあります。 生鮮果実の販売期間は限られていますが、加工することで付加価値が向上し、販売期間も拡大できる メリットがあります。 生産農家が収穫のかたわら加工作業も行うことは、労力的に困難という課題がありますが、地域内で 加工販売を行っている女性起業等との連携や加工業者との連携など、いろいろな可能性があると思いま す。関係する方は積極的に検討していただきたいと思います。 (経営普及課専門技術指導担当 笠原 公子) 参考資料:小清水正美「ジャム」農文協、河田昌子「お菓子『こつ』の科学」柴田書店 11
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