ジャム加工の基礎知識(8月)

ジャム加工の基礎知識
ジャムとは、果物に糖を加えて煮詰めたものをイメージしますが、最近はさまざまな
ジャムが売られています。果物、野菜だけでなく、乳製品や豆類、お茶などを原料とした
ジャムもあるようです。今回はジャムに関する情報を紹介します。
1 ジャムの定義
農林水産省のジャム類品質表示基準の定義によれば、ジャム、マーマレード、ゼリー
等をまとめて「ジャム類」としています。原形をとどめたプレザーブスタイルはジャム
の中に入れてあります。また、ジャム類の原料は果実、野菜、花弁としています。
用 語
定
義
ジャム類
1 果実、野菜又は花弁を砂糖類、糖アルコール又ははちみつとともに
ゼリー化するようになるまで加熱したもの
2 1に酒類、かんきつ類の果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えた
もの
ジャム
ジャム類のうち、マーマレード及びゼリー以外のものをいう
マーマレード
ジャム類のうち、かんきつ類の果実を原料としたもので、かんきつ類の
果皮が認められるものをいう。
ゼリー
ジャム類のうち、果実等の搾汁を原料としたものをいう。
プレザーブスタ ジャムのうち、ベリー類(いちごを除く)の果実を原料とするものにあ
イル
っては全形の果実、いちごの果実を原料とするものにあっては全形又は
2つ割の果実、ベリー類以外の果実等を原料とするものにあっては5
mm 以上の厚さの果肉等の片を原料とし、その原形を保持するようにし
たものをいう。
(農林水産省ジャム類品質表示基準より抜粋)
2 ジャムの加工方法
ジャムは、一般的に、果物に砂糖を加えて、加熱してつくりますが、ジャム類の定義に
ある「ゼリー化するようになるまで加熱する」のはどのようなことでしょうか?
ジャムのとろみ(粘度)は、水分を飛ばし煮詰めて得られるものではありません。
果実等の原料中に含まれるペクチンが糖、酸の相互作用により凝固する性質を利用し
てつくります。果実等のペクチン(HMペクチン*)は、pH2.7∼3.5、砂糖
55∼80%という条件で凝固します。このため、ジャムを加工するときには、一定の
酸や砂糖を必要とします。3者のバランスも重要で、原料にペクチンや酸が少ない場合
は補います。
* ペクチンには高濃度の砂糖・酸のもとで凝固するHMペクチンとカルシウム、マ
グネシウムなどで凝固するLMペクチンの2種類があります。
3 ジャム加工に利用する砂糖について
砂糖には製造方法、精製度によっていろいろな種類があります。
精製糖としては、上白糖、三温糖、グラニュー糖等があります。ジャムには、蔗糖
99.5%と純度が高く、くせのない甘味のグラニュー糖を使います。
料理によく使われる上白糖は、精製糖に転化糖(ブドウ糖と果糖の混合糖)を添加し
てつくります。果糖は濃い甘味と吸湿性があるため、グラニュー糖よりは甘味も強くし
っとりとしています。また果糖やブドウ糖は着色しやすい性質があります。
最近は甘さの強いものは好まれない傾向にありますが、ジャムの仕上がり糖度は、H
Mペクチン凝固のためには、60%以上にすることが基本です。このため、糖度を確保
つつ、甘味度を低下させることをねらって甘味度の低い糖が使われることがあります。
(麦芽糖、オリゴ糖、糖アルコール等)
また、凝固に高濃度の砂糖や酸を必要としないLMペクチンが使われているものもあ
ります。
4 ジャムの保存
ジャムの保存には、瓶詰めが多く用いられています。使うときに都合のよいサイズの
びんを選びましょう。最近はねじ式のふたではなく、ツイスト式のふたが主流です。
びん、ふたとも洗浄、湯殺菌し、熱いうちに熱いジャムを詰めます。脱気(ふたを軽
く締めて加熱し、内容物とふたの間の空気を抜く)後、しっかりとふたを締め、加熱殺
菌します。
(加熱時間は、内容物やびんのサイズで異なります。いちごジャムの例では、
150∼170g 程度の内容量で脱気15分、殺菌15∼30分程度を目安にしていま
す。
)加熱殺菌には、蒸し器を使い、蒸気が十分上がった状態で行います。
5 ジャム類の製造販売動向
日本ジャム工業組合の資料では、平成20年には全国で5.5万トンのジャム類が製造
されており、家庭用・業務用ともほぼ横ばいです。家庭消費量は1世帯当たり 1.3kg
というデータもあります。種類はいちごジャムが最も生産量が多く、ブルーベリージャ
ム、マーマレードが続きます。糖度は55∼65%台の商品が増えているとのことです。
ジャム類の消費は安定していますが、パンに塗るものから、最近はヨーグルトにかけ
る等、新しい食べ方が定着して来ており、
「塗る」から「かける」に対応してゼリー強度
もさまざまです。
市販品の表示ラベルを見ると、果実のほか、複数の糖を組み合わせ、ペクチン、酸も
加えて製造されているものが多いようです。
一方、ペクチンを使わないことやレモンからペクチンを抽出して使っているといった
「こだわり商品」も販売されています。このような商品は価格も大量生産の商品に比べ、
高くなっていますが、こだわりを求める消費者に支持されているようです。
6 県内の動向
果樹・野菜産地の中では、規格外品を有効に利用しようと加工への取組が行われてい
ますが、個人単位の小規模な取組がほとんどです。JAの女性グループ等組織で加工し
ている事例もありますが、量的には少なく、地域内での販売・消費が主体です。
一方、観光農園で自家産の果実を使った加工品を自分で加工するほか、加工業者にも
加工を委託し、通年販売できる商品をつくっているところもあります。
生鮮果実の販売期間は限られていますが、加工することで、付加価値が向上し、販売
期間も拡大できるメリットがあります。
生産農家が収穫のかたわら加工作業も行うことは、労力的に困難という課題がありま
すが、地域内で加工販売を行っている女性起業等との連携や加工業者との連携など、い
ろいろな可能性を検討してほしいと思います。
経営普及課専門技術指導担当 笠原公子
参考資料
小清水正美「ジャム」農文協
河田昌子「お菓子『こつ』の科学」柴田書店