第6回 「個人情報を盗むスパイウェアとその対策」

敵を知り、防御法を知れば、危うからず!
ウイルス
ワーム の
近年、
「MSBlaster」や「Sasser」などに代表されるコンピュータウイルスによる被
害が拡大している。本連載では、まずそれらのウイルスの特徴や動作を分析し、各ウ
イルスの特徴に合わせた防御法について解説していく。最終回となる今回は、ウイル
ス/ワームと同様に問題となっている「スパイウェア」とその対策について解説する。
最終回 個人情報を盗むスパイウェアとその対策
ユーザーに気づかれずに
個人情報を盗むスパイウェア
■スパイウェア
スパイウェアということばは、後述するアドウェアなど
を含めて広義の意味で使用されることが多いが、狭義の意
スパイウェアとは、一般的にユーザーが知らない間に
味では、PC内部のメールアドレスやパスワード、クレジ
PC内の情報を外部に送信するプログラムのことをいう。
ットカード番号などの情報をユーザーに気づかれずに送
スパイウェアには、ユーザーの“好み”などを調査するた
信するものを指す。
めにWebブラウザの履歴やクッキーの内容などを収集し、
特定のWebサイトに送信するもの、広告ページを表示させ
るもの、特定のサイトにジャンプさせるものなどがある。
■ブラウザハイジャッカー
ブ ラ ウ ザ ハ イ ジ ャ ッ カ ー は 、強 制 的 に Internet
スパイウェアは、Webブラウザなどのセキュリティホー
Explorer(IE)などのWebブラウザのスタートページを特
ルを悪用してユーザーに知られずに侵入する悪質なもの
定のサイトに変更したり、独自の検索バーを追加したりす
もあるが、有用なフリーソフトやシェアウェアなどととも
るもので、ActiveXコントロールやWebブラウザのセキュ
にインストールされるものも多い。この場合、そのソフ
リティホールを悪用してインストールされる。代表的な
トウェアの使用許諾契約書にスパイウェアのインストー
ものとして、
「CoolWebSearch」がある。
ルと使用についての説明があることが多い。しかし、ほと
んどのユーザーはきちんと使用許諾契約書を読むことな
く同意してしまうため、スパイウェアがインストールさ
れてしまったことに気づかない。
■ダイヤラ
ダイヤラは、強制的にある特定の有料電話サービスなど
にダイヤルアップし、攻撃者がこの通信の発信元であるユ
スパイウェアは破壊活動を行うことはないが、ユーザー
ーザーに高額なサービス料を請求するといった悪意のあ
が気づかないうちにインストールされ、個人情報が盗ま
るソフトウェアである。ダイヤラは、ActiveXコントロー
れるという問題があり、これまでに紹介してきたウイル
ルを利用してインストールされる。
ス/ワームと同様に大きな問題となっている。
■キーロガー
キーロガーは、ユーザーが入力するキー入力や訪問した
広告表示や情報を盗み出すなど
その目的はさまざま
Webサイトの情報をログとして記録し、電子メールなどで
スパイウェアにはその目的によってさまざまな種類の
バンキングなどを利用した場合、訪問した銀行のWebサイ
ものがあるが、細かく分類すると次のようになる。
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外部に送信する機能を持つ。これにより、インターネット
トと口座番号、暗証番号などの情報が悪意のある第三者に
ウイルス
盗まれてしまう。
ワーム の
ここでは、フリーでありながら強力な検出・除去機能を
備えたアンチスパイウェアソフトである「Spybot - Sear
■アドウェア
ch&Destroy」と「Ad-Aware SE Personal Edition」
、さら
アドウェアは、宣伝を目的としてユーザーのPC上にポ
に、これらのアンチスパイウェアソフトでも検出するこ
ップアップ広告を表示させるものである。ユーザーの好
とが難しい「CoolWebSearch」と呼ばれるブラウザハイジ
みに合わせた広告表示を行う目的で、PC内部の情報を収
ャッカーを専門に検出・除去する「CWShredder」を紹介
集するものが多い。
する。また、スパイウェアのインストール自体を防ぐた
めのツールとして「SpywareBlaster」や「SpywareGuard」
■クッキー
もあわせて紹介する。
クッキーは、特定ユーザーが特定サイトを訪問した回数
これらは非常に有効なスパイウェア対策ツールである
や日付などを記録したものであり、それ自体は便利な機能
が、現在、スパイウェアも急激に進化しているので、1つの
である。しかし、アドウェアなどは、情報収集のためにク
ツールで十分であるとは言えない。これから紹介するツ
ッキーを利用することが多い。こういったクッキーは「ト
ールを組み合わせて利用することをお勧めする。
ラッキングクッキー」
「スパイウェアクッキー」
「アドウェ
アクッキー」などと呼ばれる。後述するアンチスパイウェ
アソフトでは、アドウェアなどが利用するクッキーを検
出して削除したり、クッキーの利用自体をブロックしたり
することができる。
日本語対応で手軽に利用できる
Spybot - Search&Destroy
Spybot - Search&Destroy(以下、Spybot)は、Patrick
M. Kolla氏によって開発されたフリーのスパイウェア検
OSのセキュリティパッチ適用や
Webブラウザの設定で対策を行う
スパイウェアへの対策としては、次のものがあげられる。
出・除去プログラムであり、ボランティア有志によりメン
テナンスが行われている。現在の最新バージョンは1.3で
ある。Spybotは、レジストリやハードディスクを完全に
スキャンせずに、既知のスパイウェアが残す痕跡を基にピ
ンポイントでスキャンするため、スキャン時間が短くて済
●Windows Updateなどを頻繁に行い、スパイウェアが
利用する可能性のあるセキュリティホールを修正してお
く。
むという特徴がある。
除去したスパイウェアを元に戻したい場合は、リカバリ
のセクションから修復することが可能である。また、スパ
●クッキーや一時ファイルを定期的に削除する。
イウェアの検出と除去のほか、使用履歴(クッキー)
の削除
●IEのセキュリティ設定を、通常の利用に支障がない範囲
やレジストリ情報の不整合
(ヘルプファイルや共有DLLが
で高くする。
●ActiveXコントロールのセキュリティ警告が表示された
存在しないなど)の検出と修正を行う機能も備えている。
Spybotは、画面1のように、メニューやヘルプなどが日
場合に、ActiveXコントロールをダウンロードしないよ
うにする。
これらの対策を施すことで、スパイウェアの被害を完全
に防ぐことができるわけではないが、その可能性をより減
少させることができるだろう。
しかし、完全に防ぐことができない以上、何らかの対策
を行う必要がある。そこで、専用のスパイウェア対策ソフ
トを使用することをお勧めする。スパイウェアの検出・除
去機能は、最近のアンチウイルスソフトなどにも含まれて
いることが多いが、完全に除去できるものはまだ少ない。
画面1● 日本語に対応しているため手軽に使えるフリーのアンチ
スパイウェアソフト「Spybot - Search&Destroy」
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本語に対応しているため、英語の苦手なユーザーもごく
手軽に利用できるだろう。
また、Spybotは定期的にスキャンを行ってスパイウェア
ブラウザハイジャッカーも検知
CWShredder
を検出・除去するだけでなく、ActiveXコントロールとし
CWShredderは、これまでに紹介したSpybotやAd-
てダウンロードされるスパイウェアに対する免疫機能を
Awareでは検出されにくい、CoolWebSearch系のスパイ
備えている(画面2)。この機能を有効にすることで、
ウェア(ブラウザハイジャッカー)を検出し、除去するこ
ActiveXコントロール系の既知のスパイウェアのインス
とが可能なツールである(画面4)
。
CWShredderは、オランダの学生であったMerijn Belle
トールを防ぐことが可能となる。
kom氏によって開発されたが、現在は、米国のインターミ
Spybot - Search&Destroy
ュートによってフリーソフトとして提供およびメンテナ
http://www.spybot.info/en/download/
ンスが行われている。現在の最新バージョンは2.0である。
疑わしいものはすべて検知
Ad-Aware SE Personal Edition
CWShredder
http://www.intermute.com/spysubtract/cwshredder_
download.html
Ad-Awareは、スウェーデンのラバソフトによって開発
されたスパイウェア検出・除去プログラムであり、ハー
ドディスクの指定した個所やメモリ、レジストリをスキ
有害なActiveXコントロールを遮断
SpywareBlaster
ャンして検出を行う。
Ad-Awareには、フリーソフト版である「Ad-Aware
SpywareBlasterは、米国のJavacool Softwareによって
SE Personal Edition」
(画面3)のほかに、
「Ad-Watch」と
開発およびメンテナンスされている、スパイウェアのイン
いうリアルタイム監視機能などを備えた有償版の「Ad-
ストールをブロックするためのツールである。現在の最
Aware SE Plus Edition」と「Ad-Aware SE Professio
新バージョンは3.2である。
nal Edition」がある。Ad-Aware SE Personal Editionの
SpywareBlasterには、画面5のように、IEでダウンロ
ードされるActiveXコントロールを使用したスパイウェ
最新バージョンは1.05である。
アと、スパイウェアによって個人情報などを収集するため
Ad-Aware SE Personal Edition
に使用されているクッキーの一覧が登録されており、それ
http://www.lavasoft.de/support/download/
らをブロックすることが可能である。なお、クッキーのブ
ロック機能はIE6.0以上でのみ利用可能だ。
登録されたActiveXコントロールのブロックは、IEの
「Kill Bit」機能を利用して実現されている。IEには、Acti
画面3● Ad-Aware SE Personal Editionはラバソフトから
フリーで提供されているアンチスパイウェアソフトだ
画面2● Spybotの免疫機能でActiveXコントロール系のスパ
イウェアがインストールされるのをブロックできる
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画面4● CWShredderはCoolWebSearch系の
スパイウェアを検出・除去する
ウイルス
画面5● SpywareBlasterはスパイウェアが使用する
ActiveXコントロールのインストールとクッキーをブロックする
画面6● SpywareBlasterによりユーザーのPCにスパイウ
ェアをインストールするサイトへのアクセスをブロック
ワーム の
画面7● SpywareGuardはPCに常駐してスパイウェアをリ
アルタイムで検出する
veXコントロールの動作を制御するためのレジストリキー
フトウェアに紛れてインストールされるスパイウェアを
が定義されているが、これを利用して、スパイウェアと思
検出し、除去することが可能である。スパイウェアの検出
われるActiveXコントロールのクラス識別子(CLSID)の
は、スパイウェアプログラムが実行される前に行われるの
「Compatibility Flag」を「Kill Bit」と設定することで、IE
で、被害を被ることなくスパイウェアを除去できる。
がそのActiveXコントロールを呼び出すことができない
ようにするのである。
また、画面6のように、SpywareBlasterにはスパイウェ
SpywareGuard
http://www.javacoolsoftware.com/spywareguard.html
アのインストールやトラッキングなどを行っているサイ
トの一覧が登録されており、これらのサイトをIEの制限付
きサイトのゾーンへ追加することによって、アクション
スパイウェアの除去を行う前に
レジストリバックアップを忘れずに
を制限することができる。WebブラウザにIEではなく、
Mozilla 1.7以上またはFirefox 0.9以上を使用している場
合には、クッキーの制限のみを行うことが可能だ。
特定のフリーソフトのインストール時に紛れてインス
トールされたスパイウェアを除去した場合は、そのフリ
SpywareBlasterの特徴は、プログラムを常駐させるこ
ーソフトがスパイウェアが除去されたことを認識し、動作
となくスパイウェアのインストール自体を防ぐことがで
しなくなる可能性がある。もし、そのフリーソフトが必要
きる点である。ただし、最新の状態を維持するために、少
不可欠のものであり、スパイウェアの動作も許容できるも
なくとも1週間に1度はアップデートすることが推奨され
のであれば、除去したスパイウェアを元に戻すことも必
ている。有償(年間$9.95)ではあるが、自動アップデート
要になるだろう。したがって、アンチスパイウェアソフト
機能を利用することもできる。
で除去を行う前に、必ずレジストリのバックアップを行っ
ておくことをお勧めする。
SpywareBlaster
http://www.javacoolsoftware.com/spywareblaster.html
以上、これまで6回にわたりお届けしてきたこの連載も
今回で最終回である。読者の方がウイルス/ワーム/ス
パイウェア対策を行う際に、この連載で紹介した内容がお
PCに常駐してリアルタイム監視
SpywareGuard
SpywareGuardはSpywareBlasterと同じく、米国のJav
acool Softwareによって開発およびメンテナンスが行われ
ている常駐型のスパイウェア防御ツールである(画面7)
。
現在の最新バージョンは2.2である。
SpywareGuardは、アンチウイルスソフトのようにリア
ルタイムでスパイウェアを検出する。このため、ほかのソ
役に立てれば幸いである。
● 著 者 よ り 一 言 ●
NTTデータ
馬場達也
今回、私も初めてSpybotやAd-Awareを使用したのですが、非常に
多くの警告が出てきて驚きました。ほとんどがいわゆる「トラッキ
ングクッキー」だったのですが、知らず知らずのうちに自分のPC内
の情報が漏れているかと思うと気持ちのよいものではないですね。
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