ルノーといえば日産の親会社。カルロス・ゴーン氏の辣腕で日産は復活したが、日本ではルノーそのものをあまり見かけない。ところが、熱狂的なルノー・ファンがいる。彼らが﹁日本の聖地﹂とするのが、江東区東雲にある﹁ルノー東京有明﹂。これは株式会社東京ベイの展示場と整備工場を兼ねた社屋なのだ。輸入車に限らず、販売会社の社屋がユーザーから﹁聖地﹂と崇められているような会社は滅多にないだろう。契約関係がいろいろと⋮⋮ 難しいメーカーとの関係会長の金谷正次氏は代。まだまだ若いのに、日本の外車ディーラーテラン﹂とされている。老舗会社のの中では、いまや﹁最長老﹂﹁最ベ 60 代表取締役会長金谷正次氏 4 2014. 3 TOMIN MANAGEMENT BUSINESS 21 Tokyo Bay 株式会社東京ベイ取材・構成 ● 西原勝洋経済評論家熱烈ファンが﹁聖地﹂と仰ぐルノー販売社 Shinonome 代替わりがあったこともある。が、それ以上に、﹁輸入車販売﹂という商売が、なかなか長くは続かないからでもある。国内の特約契約、メーカーとの間の輸入権契約、ディーラー権⋮⋮いろいろと難しい。﹁売れる﹂欧米系のメーカーは、と見たら、﹁これまでの義理﹂といった日本的発想はなく、直営の販売店を設立したりもする。金谷会長の輸入車販売との関わりは１９７３年から始まるが、﹁Ａ社と契約を結んだが、切れ ⋮⋮﹂﹁Ｂ社の特約店になったが、切れ⋮⋮﹂で、東京ベイを設立したのは２００６年のことだ。整備部門を引き受ける店長の井上クが起きて売れ行き不振が続いた。哲鑑氏は﹁ルノーのスポーツカーや日も私だけは休み。金庫番だけして金谷会長は﹁会社は水曜日が定休日なので、私は月火木金に出勤、土この会社も、次女の婿が入社して頑張ってくれたが、リーマンショッマニュアル車ファンにとっては、ま﹁若い夫婦だから再出発できる。彼らを借金まみれにさせるわけにはいいる隠居会長です﹂と言うのだが、ス工場になった。東京五輪があった１９６４年のことで、それが金谷家が自動車に携わった最初であった。そうした中で、次男の正次氏は暁星高校を卒業すると、米国に留学し、ンスタンドと自動車整備工場を開設えていた父親の富安氏は、ガソリカーから﹁コンピューター・ソフト田刈り﹂があり、正次氏も大手メーまだ日本人の留学が珍しい時代だった。日本の大手企業の﹁海外青財政学や経営学を学んだ。し、東京日産モーターの指定サービ金谷家は、そもそも金物販売を家業にしていた。しかし、事業欲に燃労があったに違いない。そうなれるまでには、いろいろな苦さにカリスマ的存在﹂だ。店長が受け持っている。営業関係は娘婿で代表取締役社長の荒木勇人氏、整備部門は井上哲鑑日本のコンビニ第１号になっていたかも？かない﹂と、会社整理を真剣に考えた時期があった。が、当の娘婿が﹁もう少し頑張ってみたい﹂と言ってくれた。それで続けたところ、風向きが変わってきた。ルノーの高価なスポーツカーやマニュアル車ファンが思いのほかに存在していたのだ。 2014. 3 TOMIN MANAGEMENT BUSINESS 21 5 （右）代表取締役会長金谷正次氏（左）代表取締役社長荒木勇人氏株式会社東京ベイ作成の有望人材﹂として声を掛けられた。が、正次氏は﹁私は、大企業の一員として働く気はありません﹂理解できた。倉庫用の土地を持っていた。梱包・運送業務に適した土地だから国道沿苦労を味わうことになる。年には、カナヤ自動車株式会社に社名変更すると同時に、ミツワ自ある日、その１カ所にフォルクスワーゲンが目を付け、﹁直営販売店﹂は段違いのパワーがある。それゆえ、に切り替えた。ポルシェは国産車といだ。の話を持ち掛けてきた。輸入車販売試乗した客が事故を起こしてしまう動車の特約店としてポルシェの販売ならではの〝ややっこしさ〟があり、というケースもたびたび発生した。と、それを断った。父親の富安氏は金物類販売の延長で、梱包・運送代行も手掛けていた。結局はヤナセの特約販売店になるこオイルショック、バブル時の相続税、リーマンショック⋮ し、そこが事実上の撤収に踏み切っそれには倉庫が不可欠で、何カ所かくそこにいた。しかし、何の仕事もとになり、給料をもらって、しばらで、輸入車販売をの小売りをたたん氏は食料品や雑貨兄が自動車整備工場を継ぎ、正次とで落ち着いた。ず流れる事態になり、兄の要請で急のは兄の会社だった。応札者が足らのだ。実は、その土地を欲しかったた。東京都港湾局の入札に応札したそうするうちに、ひょんなことから東雲の土地が手に入ることになっそして日本に戻ると、一時は外資系の食品メーカーに勤務した。しかた。小さな日本事務所は残存するこそこで実家に戻り、金物店の一部で、食料品や雑貨の小売りを始めた。の仕事をすることきょ応札したところ、抽選で当たっ﹁何か仕事をしたい︱﹂正次氏の苦難はまだまだ続く。米国で見たコンビニエンス・ストアになった。株式会ない。がヒントだった。てしまったのである。９７３年に設立す﹁転売禁止﹂の条当たってみると、件が付いていた。銀行から融資を受どんどん嵩む。結局、事業を整理しる。ところがオイルショックにぶち当て、改めて外車販売のディーラー権けて土地を手にしたものの、金利がたった。車が売れを求め、２００６年にルノーの正規最高の土地価格にに父が死去した。権を探したところ、ルノーしか残っこいいが、実は外車販売のディーラー﹁ルノーの正規ディーラーとしては都内初の独立系企業﹂と言えばかっを設立、再出発した。ディーラーとして株式会社東京ベイずに苦労した。そして次にやってきたのがバブル基づく相続税が掛ていなかったのだ。の時代。その最中かってきて大変な 6 2014. 3 TOMIN MANAGEMENT BUSINESS 21 90 社チューガイを１米国で学んだ実用的な経営学に基づき、近所の商店の品揃えや値段を念入りに見て回り、商品を仕入れると、自分で値決めをし、値札を付けて店に並べた。これが大当たりした。そのまま順調に進んだら、日本のコンビニエンス・ストアの第１号になっていたかもしれない。﹁せっしかし、両親にしてみれば、かく米国に留学までさせたのに、なんでそんな仕事をしているのか﹂。当時の日本の職業観からすれば、当然の不満であることは、正次氏もルノースポーツカーの前で荒木社長（左）と金谷会長集まり出したのだ。ルノーのメカニズムについそのころ、娘婿の荒木勇人氏が加わった。２００７年には東雲に、整備工場、展示場、事務部門、そして下取りしては﹁神様﹂のような存在いつしか従業員はルノー・オーナーばかりになった。た車の駐車場が一体になった﹁ルノーである店長の井上哲鑑氏とるユーザーも少なくない。話をしたいと、遠くから来東京有明﹂をオープンした。が、今度はリーマンショックの波をかぶる。高級車はまったく売れない。一時は﹁大損を出す前に会社をツカー・マニュアル車に重心をシフノー東京有明﹂で壮行会が休日である水曜日には、﹁ル従業員の誰かがレースに出場することになると、定トしてから、風向きが変わった。ル開かれ、ファンが集まって整理すべきか﹂とも考えたが、スポーノーのスポーツカーを求めて、客がくる。つまり、﹁ルノー東京有明﹂は熱烈なルノー・ファしかし、金谷会長にとってもうついつの間にやら東京ベイは、日本にカ所あるルノー販売拠点でトッをしておくことが必要だ。な苦労をさせないよう、今から準備ある。子供たちには、あの時のようとになり、たいへん苦労した経験がバブル期に父親の土地を相続するこ題だ。なにしろ、地価が最高だった心配なことがある。それは相続の問 1 プになった。金谷会長は、日本中で東京ベイにしかない部品を指差しながら、﹁でもうちは、ビッグ・ワンよりオンリー・ワンを目指します﹂と笑顔で語った。（代）ンが日本中から集まってくの大きな悩みだ。営業はカリスマ店 17 ︵にしはらかつひろ︶ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ■ 代表取締役会長金谷正次 ■ 代表取締役社長荒木勇人 ■ 創業昭和年 ■ 設立平成年月 ■ 資本金、０００万円 ■ 従業員名 ■ 売上高億円 ■ 事業内容ルノー︵新車・中古車︶の販売、メンテナンス、各種手続︵仏自動車メーカールノー正規代理店 ) ■ 本社〒１３５ー００６２東京都江東区東雲ーー ■ 電話０ー５２７ー５６５６ ■ http://www.tokyobay-ariake.jp/ ︵東京都民銀行春日町支店会員︶ 8 るスポットになったのだ。やほとんどが﹁新車販売﹂と﹁下取輸入車に限らず、自動車販売は﹁修理で儲ける時代﹂﹁ローンで儲ける長に任せても、全体の手綱さばきをり購入﹂がセットだ。したがって車時代﹂と様変わりを続けていき、いする﹁金庫番の隠居会長﹂がどうしビッグ・ワンよりオンリー・ワンを目指すが売れ過ぎると、下取りした車の駐まは﹁販売業者がなかなか儲からなても必要となるわけだ。車場に窮する。これは都会の販売店い時代﹂になったとも言える。輸入車の場合は、その上に円安がのし掛後継者となった荒木氏には、とみん経営研究所の﹁トップスクール﹂でずらりと並ぶルノー・スポール（左からトゥインゴ R.S., ルーテシア R.S., メガーヌ R.S.）営業以外のことを学んでもらった。 6 14 18 39 3 3 8 1 2 3 2014. 3 TOMIN MANAGEMENT BUSINESS 21 7 かる。さらに下取りの問題がある。いま 3 階ショールーム