応用数理特別講義 II 題目:可解カオス系の超離散化とトロピカル幾何

応用数理特別講義 II
題目:可解カオス系の超離散化とトロピカル幾何
担当:梶原 健司 (九州大学大学院数理学研究院)
概要:
超離散化はある種の極限操作によって離散可積分系の従属変数を離散化し,可積分なセル・オートマトンとそ
の厳密解を組織的に得る手法として開発され,それによって力学系としてのセル・オートマトンの研究が大き
く進んだ.さらに,超離散化された可積分系の背後にはクリスタルやトロピカル幾何などの代数的・幾何学的
構造が見い出されるなど,超離散可積分系の研究は最近急速に進展している.
超離散化それ自体は有理函数の区分線形函数への極限操作であり,適用範囲は可積分系だけに限定されるも
のではないが,実際にはさまざまな困難があり,非可積分系への非自明な適用例はほとんどなかった.そのよ
うな状況の中,我々は可解カオス系と呼ばれる,可積分系と非可積分系の境界に位置する離散力学系のクラス
に注目した.例えばロジスティック写像 (の特別な場合)
xn+1 = 4xn (1 − xn ),
xn = sin2 (2n u),
u ∈ R : 任意定数
が典型的な例である.最近,我々は可解カオス系に超離散化を適用することに成功し,可解有理写像と可解区
分線形写像の間にも組織的な対応が与えられるようになった.例えばシュレーダー写像とその一般解
zn+1 =
4zn (1 − zn )(1 − k 2 zn )
,
(1 − k 2 zn )2
zn = sn2 (2n u; k),
u ∈ R : 任意定数
と,もっとも基本的なカオス力学系の一つであるテント写像とその一般解
¯
¯
Xn+1 = 1 − 2 ¯¯Xn −
¯
1 ¯¯
,
2¯
¯
¯
Xn = 1 − 2 ¯¯((2n ν)) −
¯
1 ¯¯
,
2¯
ν ∈ R : 任意定数
がそれぞれ極限操作で結びついている.ただし,((v)) は v の小数部分を与える函数である.この副産物とし
て,テント写像はあるトロピカル曲線のヤコビ多様体上の倍角写像という幾何学的意味づけができる.これを
きっかけにして,超離散化によって新しい可解区分線形カオス系を構成し,その一般解やトロピカル幾何的構
造を調べることもできるようになった.本講義では,ごく最近の研究成果であるが,以上のような可解カオス
系の超離散化とその背後のトロピカル幾何的な構造をお話ししたい.なお,予備知識はほとんど必要としない
ので,分野を問わず気軽に聞きに来ていただきたい.
内容
1. 可積分系とその離散化・超離散化
2. 可解カオス系の超離散化: テント写像・超離散テータ関数・トロピカル幾何
3. Hesse の 3 次曲線上の倍角写像の超離散化とトロピカル幾何
参考文献
[1] K. Kajiwara, A. Nobe and T. Tsuda, Ultradiscretization of solvable one-dimensional chaotic maps,
J. Phys. A: Math. Theor. 41(2008) 395202 (13pp).
[2] K. Kajiwara, M. Kaneko, A. Nobe and T. Tsuda, Ultradiscretization of a two-dimensional chaotic
map assciated with the Hesse cubic curve, Preprint, MI preprint series 2009-11, to apper in Kyushu
J. Math.(2009) (http://gcoe-mi.jp/publish_list/pub_inner/id:3/cid:11)