5480 日本建築学会大会学術講演梗概集 (東北) 2009年 8 月 ねじ引抜き力と手すり取付け強度の関係に関する実験研究 現場施工対応型手すり取付け強度試験法の提案 その2 正会員○吉田 正人 * 1 正会員 加藤 正男 * 2 正会員 久保田一弘 * 3 正会員 山口 修由 * 4 正会員 布田 健 * 5 正会員 直井 英雄 * 6 手すり 手すり取付け強度 ねじ引抜き力 携行型試験機 低減係数 600 600 変位計 荷重方向 試験体 計測器 ロードセル PC 図 3 手すり取付け強度試験装置 図 4 手すりブラケットの形状 表 1 実験項目及び実験結果 円 ブラケット 四角 L1=65mm L1=55mm L2=33.7mm 壁構法 ねじ*1 SPF SPF 合板 合板 L1=55mm L2=32mm ねじ 手すり*2 手すり L2=28.8mm ねじ 手すり 1,882 1,408 1,882 1,520 1,882 σ 250 188 250 45 250 41 973 866 973 865 973 775 169 64 169 35 169 31 634 713 634 770 634 691 86 46 86 41 PB Ave 12.5 合板 σ mm Ave 軽鉄 σ PB 9.5 mm (単位:N) 楕円 Ave 86 47 Ave 2,205 1,852 ― ― ― σ 95 40 ― ― ― Ave 973 923 973 996 973 1,365 ― ― 886 σ 169 27 169 30 169 27 Ave 973 887 973 957 973 860 σ 169 24 169 28 169 26 *1 ねじ引抜き力、 *2 手すり取付け強度 SPF PB SPF L1 PB L1’ F1 F1 F2 F2 F1 :手すり取付け強度( N ) F2:ねじ引抜き力(N) L2’ L2 支点 支点 圧壊前の状況 圧壊後の状況 L 1 :手すり材中央から支点 (壁表面)までの距離(m m) L 2 :上側ねじから支点(ブラケット 下端) までの距離( m m ) 図 5 ねじ引抜き力と手すり取付け強度の関係 1.00 0.60 1.00 0.81 0.72 0.63 0.72 0.40 0.20 平均値 平均値−3σ 0.00 PB12.5+SPF PB9.5+SPF 図 6 低減係数( P B + S P F ) 低減係数α 0.80 An experimental study on relationship of strength of withdrawing screws and strength of installed handrail. A proposal of the testing method on strength of installed handrails on the site (part2). ―983― 図 2 壁の模擬試験体 図 1 携行型試験機 低減係数α 1.実験 目的 昨年度の研究 1 ) では現場でのねじ引抜き力の測定に 用いる携行型試験機( 図 1 ) の実用性の確認と、これを 用いた手すり取付けねじの引抜き力の測定を行った。 手すり取付け強度は、このねじ引抜き力と手すりブラ ケットの形状が確定すれば、単純なモーメント伝達関 係により机上の計算で予測ができる。しかし、実際に はブラケットの座面形状や壁構法の違いなどによって モーメントの伝達 が低減されるこ とが予想される。 そこで本研究では同じ試験体からねじ引抜き力と手 すり取付け強度を測定し、壁構法とブラケットの違い によって、モーメントの伝達がどの程度低減するかを 把握することを 目的とする。 2.手すり 取付け 強度試 験 試験体は既往研究 2 , 3 ) を参考にし、代表的な壁構法を 選定し、壁の模擬試験体( 図 2 ) を作製した。これを試 験装置( 図 3 ) に装着し、加力試験を行った。既往研究 では転倒時に手すりにかかる荷重は水平方向よりも鉛 直方向の方が大きいことが明らかになっているため、 本試験は鉛直方向のみとし、ロードセルや治具の重さ が加わらないように試験体を水平に寝かせた状態で手 すりに荷重をかけ、手すり取付け強度を測定した。ね じ引抜き力の測定には携行型試験機を使用し、測定箇 所は手すりを取付ける箇所の近くとし、端距離を十分 に確 保 し て 手 す り 取 付 け強 度 に 影 響 が な い よ う にし た。 壁下地材と壁面材の組み合わせで強度の大小が明ら かに判断できるものは今回の実験対象から除いた。試 験ねじは呼び寸法 3 . 5 m m × 4 0 m m の十字穴付き皿タッピ ンねじ( J I S B 1 1 2 2 、鋼製タッピンねじ) を使用して 試験 体 に 手 す り ブ ラ ケ ット を 取 付 け る 。手す り ブ ラ ケットは形状の違う 3 種類とし( 図 4 ) 、表 1 に示す組 み合わせで試験を行った。各項目のねじ引抜き力と手 すり取 付け 強度 、その標 準偏 差に つい ても表 1 に示 す。 3.モーメント伝達に係る低減係数αの定義とその算 出 ねじ引抜き力と手すり取付け強度には図 5 に示すよ うな関係があり、手すりブラケットの寸法とねじ引抜 き力を把握していれば、手すり取付け強度は『F 1 × L 1 = F 2 × L 2 』という式で算出できる。しかし、この 式は理論式であり、実際にはブラケットの座面形状や 壁構法の違いによって手すり取付け強度は減少する傾 向がある。これは壁面材が手すりブラケットのめり込 みによって圧壊し、ブラケットの下端と仮定している 支点が移動することなどが考えられる。すなわち上記 の要因によりモーメントの伝達が低減される。この低 減係数をαと定義すると、関係式は『F 1 × L 1 =α× F 2 × L 2 』となる。この関係式とねじ引抜き力、手す り取付け強度、手すりブラケット寸法の値を用いて各 種手すりブラケットや様々な壁構法の低減係数αを算 出する。 4.実験 結果 及び 考察 (1)壁構法による低減係数αの違い a )P B + S P F の場合( 図 6 ) 壁面材が P B 1 2 . 5 m m の場合の低減係数は 0 . 7 2 、 0.80 0.91 0.82 0.97 0.88 0.94 0.85 0.60 0.40 0.20 平均値 平均値−3σ 0.00 PB12.5+合板 PB9.5+合板 合板 図 7 低減係数( P B + 合板) YOSHIDA Masato et al. 1.00 低減係数α P B 9 . 5 m m は 0 . 8 1 となった。これは P B が厚い方がブラ ケットのめり込みが大きくなり、支点の移動( L 1 が長 くなり、L 2 が短くなる) が生じた影響であると考えら れる 。 b )P B +合板の場合( 図 7 ) 壁面材の厚さや有無に関わらず、低減係数αは 0. 91 ∼ 0 .9 7 と大きい値となっていて、PB + S PF ほど 低減していないことがわかる。これは手すり取付け強 度が小さいため、壁の圧壊がほとんど起こらなかった ことが原因であると考えられ、ねじ引抜き力が大きな 低減なく、手すり取付け強度に伝達されたことを示し ている。 (2)ブラケット形状による低減係数αの違い( 図 8 ) 壁構法により低減係数αは異なるが、ブラケットの 形状による違いはあまり見られなかった。今回の実験 は住宅に取付けられる一般的な形状の手すりブラケッ トを用いての結果であり、その他の特異な形状のもの を取付ける場合は低減係数を小さく設定するなどの対 応をとる 必要が ある。 (3)低減係数 αの提 案 以上の結果を踏まえ、各構法におけるねじ引抜き力 と手すり取付け強度のばらつきを考慮した低減係数α を表 2 に示す。P B + S P F が 0 . 6 と最も小さくなってい るが、ねじ引抜き力が大きいため手すり取付け強度は B L 認定基準である 5 9 0 N を大きく上回る。しかし、壁 下地が合板と軽鉄の場合、低減係数αは P B + S P F よ りも 大 き く な る が 、ねじ 引 抜 き 力 が 大 幅 に 小さ い た め、安全側を考慮すると手すり取付け強度が不足する 危険性が生じてしまう結果となった 。 (4)手すり取付け強度 が不足する場合 の補強方法 上記の結果や既往研究から、必要強度が得られない ことがある。例えば、S P F 等の間柱に手すりを取付け る場合は手すりブラケットの寸法により、間柱に収ま らない状況が考えられる。その場合は、上側ねじのど ちらかを捨てて施工し、捨てたねじ 1 本分の引抜き力 の補填として、長ねじを用いれば十分な取付け強度が 確保できる( 図 9 ) 。また、手すりを取付けたい箇所に 下地材がない場合( 合板、軽鉄スタッド、P B のみ等) は厚さ 2 0 m m 以上の補強材( 材料が硬い広葉樹の集成材 など) を取付けて、間柱に関係なく自由な場所にブラ ケットを取付ける( 図 1 0 ) 。また、補強材に手すりを 取付けた場合の低減係数αは合板のα= 0 . 8 として強 度の推 測を する。 5.まと め 本実験により低減係数αが把握できた。これを用い れば、現場にて手すり取付け強度を簡易に予測するこ とができる。図11に現場での手すり取付け作業工程 を示す。なお、研究の遂行にあたり、平成 2 0 年度大学 院生瀬戸口俊也氏、卒研生桑原望氏、平戸拓実氏、古 屋花子氏の協力を得た。ここに記して謝意を表する。 0.80 0.60 0.40 0.20 円 0.00 PB12.5 + 合板 PB12.5 + 軽鉄 1).瀬戸口俊也・加藤正男・久保田一弘・山口修由・布田健・直井英雄 「携行型ねじ引抜 PB9.5㎜ + 合板 合板 図 8 手すりブラケットの違いによる低減係数αの比較 表 2 低減係数の提案 壁構法 PB12.5mm PB9.5mm 合板 ブラケット SPF 35mm SPF 合板 軽鉄 SPF 合板 0.6 0.8 0.7 0.6 0.8 PB 40mm 27mm SPF 80mm 0.8 PB 3 本効き 2 本効き 図 9 ねじ長さによる補強 SPF PB 間柱 間柱 80mm 補強材 40mm 図 1 0 補強材による補強 ①壁裏の構造の把握 下地探索センサーや手動式 壁裏探知器具で間柱の位 置・寸法、PBの厚さを把握 する。 ②手すりブラケットの寸法 測定 手すりメーカーのホーム ページ等でブラケット寸法 を把握する。 ③ねじ引抜き力の測定 携行型試験機を用いて、手 すり取付け箇所のねじ引抜 き力を測定する。 試験機の開発及び現場試験法の検討 現場施工対応型手すり取付強度試験法の提案 その 1」 2008年度日本建築学会大会梗概集 予測式を用いて、壁構法に よる低減係数を考慮した取 付け強度の推測をする。 2). 久保田一弘・加藤正男・西田和生・布田健・古瀬敏・直井英雄 「住宅内に設けられる壁つ き手すりの取付け強度に関する実験研究 その1」 2002年度日本建築学会大会梗概集 ⑤手すりの取付け 3). 加藤正男・久保田一弘・矢島規雄・直井英雄 「住宅内に設けられる壁付き手すりの取付 F1 × L 1 =α× F 2 × L 2 推測した手すり取付け強度 がBL基準を満たしていない 場合は、補強などの処置を して手すりを取付ける。 けねじ引抜荷重の計測」 2005年度日本建築学会大会梗概集 4). (財)ベターリビング 「優良住宅部品認定基準(歩行・動作補助手すり)BLS RW:2006」 「優良住宅部品性能試験方法書(歩行・動作補助手すり)BLT RW:2006」 「優良住宅部品評価 基準(歩行・動作補助手すり)BLE RW:2006」 5). 日本建築学会 「木質構造設計基準・同解説」 1995年改定 東京理科大学大学院生 ナカ工業㈱ 技術研究所 東京理科大学 補手 工修 独立行政法人 建築研究所 主任研究員 独立行政法人 建築研究所 博士(工学) 東京理科大学 教授 工博 PB12.5 + SPF 楕円 ④手すり取付け強度の推測 参考文献 *1 *2 *3 *4 *5 *6 四角 図 1 1 手す り取 付け 作業 工程 *1 Graduate Student,Dept.of Architecture,Faculty of Eng,Tokyo Univ.of Science *2 Technical Laboratory,Naka Corporation *3 Research Assoc., Dept. of Architecture, Faculty of Eng., Tokyo Univ. of Science, M.Eng *4 Building Research Institute, Senior Research Engineer. *5 Building Research Institute, Dr. Eng. *6 Prof.,Dept.of Architecture,Faculty of Eng, Tokyo Univ.of Science, Dr.Eng ―984―
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