インタラクティブ・マーケティング戦略 - Strategy

インタラクティブ・
マーケティング戦略
この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった
2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で
ご確認ください。
[ 第三回 ]
広告メディア業界の
統合と進化
著者:岸本 義之
インタラクティブ・マーケティング戦略に関して、
2009年冬号では広告を取り巻く環境変化について論じ、
2009年夏号では、
企業のマーケティング部門がなすべきことについて論じた。
本稿では、
メディア業界と広告業界が直面する変化について考察してみたい。
1. 広告媒体業界の将来
「マス広告の内容を覚えておく」のではなく「買いたいときに
ネットで情報を探す」ようになっていることである。
広告媒体と情報媒体
ここで改めて認識をしておかなければいけないのは、マス
グーグルをはじめとするネット広告媒体が企業の広告予算
メディアというのは「広告媒体(メディア)」として収 入を得 る
に占める比重が上がってきているなか、既存の広告媒体業 界
ことがビジネスであって、
「 情 報 媒体(メディア)」としての 活
としてはどのような対策を講じるべきなのだろうか。まず重要
動はそのための 手段ということである。メディア業 界で 働く
なのは、消費者のマス広告媒体離れが起きているということ
人の 大 半 は、
「 情 報 媒 体」としての 活 動、す な わちジャーナリ
を認識することである。メディア企業の中にはいまだに「従来
ズムやコンテンツ制作に魅 力を感じて就 職したはずであり、
型メディアの地位は不変であり、ネットはしょせん周辺でおき
その情 報内容にプライドを持ち、その分野においてはネット
ている小さな変化」としか認めていない人もいるようである。
に負けないという気概を持っているであろう。それはそれで、
しかし、消費者のメディア接触時間の配分は、とくに若年層
もちろん構わない。しかし、どこから収入を得ているのかとい
を中心に変化しており、実際に雑誌などでは販売部数が如実
う点を考えると、
( 購読料、視 聴料、販 売 収 入 だけで成り立つ
に減少している。テレビの視聴時間が同じであったとしても、
事業でない限り)広告収 入の分野でネットの脅威にさらされ
「ながら視聴」でパソコンやケータイをいじりながら見ている
ているのが現状である。ネット広告によってマス広告が 直接
人 が増えていたり、ハードディスク・レコーダーなどで「とば
代 替されているだけではなく、ネット上に氾 濫する大 量の無
し視聴」している人が増えていたりする。いま起きている本質
料情報によってもマス広告が間接的に代替されてしまってい
的 な 変 化 とは、消 費 者 の 情 報 収 集 の 方 法 が 変 化して おり、
るのである。
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岸本 義之(きしもと よしゆき)
([email protected])
ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィス
のディレクター・オブ・ストラテジー。20
年近くにわたり、金融機関を含む幅広い
ク ラ イア ント と 共 に、全 社 戦 略、営 業
マー ケ ティング 戦 略、グロ ーバ ル 戦 略、
組 織 改 革 な どのプ ロジェクト を 行 って
きた。
消 費 者 のメディア接 触 行 動がシフトすれば、もちろん広告
対象の広告ということで矛盾を生じてこなかったわけである
主の行動もシフトする。消費者のマス広告接触の量(時間)が
が、ターゲット・メディアに転換しようとなると、コンテンツ制
減 少しているだけでなく、質(購買情 報の収 集に利 用してい
作のコンセプトにまで立ち返って見直さないといけなくなる。
るか)も低下しているとなれば、マス広告支出を抑制する方向
もしターゲット・メディアを目指すとしたら、
「 誰をターゲッ
にならざるを得ない。そもそもマス広告は費 用が 高い 割に、
トにすれば広告収 入を得やすいか」を 先に発 想し、そのあと
実際の売上に結びつくかどうかの効果の測定が難しいという
で「そのター ゲット消 費 者をひきつけるにはどういうコンテ
受け止められ 方をされている。さらには、製 品 差 別 化を 進め
ンツを 制 作 すればよいか」を考えることになる。既存 の 媒体
て顧客ター ゲットを絞っている企 業にとって、マス広告では
をマスからターゲットに方向転換するのは困難かもしれない
ターゲット以 外の多数の視 聴者にも広告を見せざるを得ず、
が、新たな媒体を作る際にはターゲット・メディア化を目指せ
ターゲット一人 当たりに見せるコストが 高く感じられてしま
る可能性はある。
う。これまでは他に代替手段がなかったが、これからはネット
さらに進めて考えると「ターゲット消費者を確実に引き込む
という安い代替手段も出てきている。
にはどの媒体を組み合わせて使えばよいか」という発想にも
マス広告媒体が高い対価を取れていた理由は、多数の広告
つながっていく。これまではテレビ局はテレビ、新聞社は新聞、
主と多数の 消 費 者を結ぶ 広告 媒体スペースが 相対 的に希少
というように単品で広告収入を得ることが当然であったが、他
であったためである。しかし、ネットの登場とともに情報媒体
の媒体との組み合わせのキャンペーンとして販売するというこ
としての希少 性が崩れ、広告媒体としての希少 性も崩れてし
とも考えられるはずである。ターゲットが重なる媒体同士であ
まった。何しろ企 業自らの サイト上でも、ブランデッド・エン
れば連携することで相乗効果が生まれるかもしれない。
ターテイメントなどを展開すれば、広告媒体として使えるよう
特に、既存媒体とネット媒体をどう連動させるかという観点
になってきたのである。
においては、まだ創意工夫の余地が大きく残されている。これ
まではどちらかというと、既存媒体はネット媒体と連携しない
マス単品というビジネスモデルを超える
方が得策という考えが主流派だったかもしれない。しかし、マ
マス広告媒体が希少性を失いつつあるなか、相対的に価値
ス単品販売というビジネスモデルを超えなければ活路が見出
が 高まりつつあるのが、ターゲット顧客層を押さえるという
せないという状 況にまで追い込まれつつある中では、ネット
ことである。どの広告主にとっても、自社のターゲットとする
との連携のあり方をより真剣に検討すべきであろう。
顧客層(だけ)にどうリーチするのかが重要になってきており、
実際、各媒体とも大なり小なりネットとの 連 携を試 行しは
そのためにターゲット・メディアというものの価値が高まって
じめている。但し、広告を得るビジネスモデルという観点から
きている。ニッチ向けの媒体の方が、むしろ対価を得るという
の試 行というよりは、情 報 媒体としてのコンテンツ補 完とし
上では有利になるのである。
ての 意 味 合 いがまだ中心 のようである。今 後は、ジャーナリ
つまり、マスメディアからターゲット・メディアへと転換でき
ズムとしてのあるべきネット戦 略という側 面からではなく、
るかどうか(したいかどうか)が、ビジネス上の意 思 決 定とし
て重要になってくる。ジャーナリズムやコンテンツ制作という
「広告ビジネスモデル」としての 観 点から、ネット媒体との 連
動を追求する必要がある。
観点から見ると、マスを相手にすることの方が意義が大きい
ということに なるが、広告 収 入という観 点 からすると、ター
ネットメディアの将来
ゲットを絞った 方 が 対価を得やすいという二律 背反状 況に
一方、ネット の広告 媒 体 の 側 はどう進 化 するのだろうか。
なってしまう。これまではマス対 象のコンテンツ制 作とマス
ネット広告媒体としてのビジネスモデルは一言では表しにくい
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図表1 : 従来型媒体とネット媒体の役割
従来型マス媒体
ネット媒体
目標
読者・視聴者
目標
読者・視聴者
視聴
視聴
情報コンテンツ媒体
広告
情報コンテンツ群
関連性が重要
広告
広告主サイト
クリエイティブ
が重要
購買
選好
購買?
広告主
送客
認知形成
認知形成
クリエイティブ
が重要
広告主
出所 : ブーズ・アンド・カンパニー分析
が、
「 ネットを通じて無料で提 供される情報を視 聴・閲覧する
ブランドが形成されてきた。一方、ネットにおいてはコンテン
利用者に対して、その情報に関連付ける形で広告を表示して
ツ制作者が無数に存 在しているため、情報媒体としての寡占
収入を得て、さらに利用者の反応を計測して広告主に還元する」
が生じず、情 報コンテンツ制作者のブランドはあまり高まら
というようなものとなる。
ない。むしろ大手ポータルや検索エンジンなどのサービス会
このビジネスの特徴としては、単なるバナー広告から、検索
社がブランドを形成し、広告を販売している。つまり、従 来 型
連 動型などの形で情 報収 集 活動に関連付ける広告へと進化
メディアのような意味でのコンテンツ制作者主導の情報媒体
してきた 点があげられる。バナー広告は、いわば紙 媒体 の広
ブランドは(少なくとも今 のところは)ネット上に存 在してい
告をネット上に再現したもので、一方 向 的に情 報を露 出する
ない。むしろ、他のコンテンツ制 作者が 提 供する情 報に広告
ものであるが、それをクリックしてもらえれば、広告主のサイ
を付与するというように、情 報 媒体と共 生する広告媒体とし
トに誘導できるという効果も持つものであった。これが検索
て収入を得ていると言える。
連 動型などに進化すると、ユーザーが知りたがっているキー
では、ネット広告媒体と広告主との関 係はどうなのだろう
ワードに関連付けて広告が表示されるため、より誘導効果が
か。認 知 を 形 成 することで 役 割 を 終える 従 来 型 マス 媒 体 と
高まる。
違って、ネット広告は広告主のサイトに顧客を送客するところ
もう一つの大きな特 徴は、テレビのチャンネル寡占のよう
まで行える。一方 で、ネット上の広告媒体(バナーやテキスト
なことが起こりえず、無 数のサイトが林立し、広告スペースも
の表示)は画面スペースの制約もあり、あまりクリエイティブ
無限に広がっているという点がある。有限な広告スペースゆ
の工 夫 の余 地が大きくない。ネットの 情 報 媒体サイトによる
えに単価が高いという構造ではなく、消費者の購買行動に関
コンテンツがメインの舞台であり、ネット広告媒体はいわば
連 付けられてい るために単価が 相 対 的に高くなるという性
通 路 のようなものとなり、送客先である広告主の自社サイト
質になっている。
がもう一つ のメイン 舞 台ということになる。広告 のクリエイ
従 来 型のメディアにおいては、コンテンツ制 作者(新聞・雑
ティブという意味では、通 路としての広告媒体上ではなく、広
誌 社、放 送 局)が情 報 媒体としてのブランドを自ら形成し、広
告主の自社サイト上のコンテンツが最も創造性の発揮のしが
告スペースを販 売 するというビジネスになっている。そ の 過
いがある場所ということである。従来のマスメディアが、広告
程で 情 報 媒体としての 寡占が生じ、ジャーナリズムとしての
媒体上でのクリエイティブを競ってきたことと比べると、様相
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が異なっていることがわかる(図表1参照)。
2.マーケティング・エージェンシーの将来
このように考えると、無数の情報コンテンツサイトと、多数
総合広告代理店の意義と限界
の広告主と自社サイトをうまくつなぐ通 路的存 在がネットメ
広告 媒 体 によるメディア連 動 の 動 きが 本 格 化 するとなる
ディアということになる。ヤフーはポータルという形で通路を
と、メディア企業と広告主が 直 接的に協働する機 会が増える
形成し、グーグルは検索連動型などの形で通路を形成した。
ことになる。そうなった場合に広告 代 理 店としてはどう対処
もちろん、通路型以外のネットメディアという形態もありう
すべきだろうか。
る。従 来 型マス媒体の会社(新聞社やテレビ局など)が、その
日本の大手広告代理店のこれまでの成功モデルとは、マス
ブランド力とコンテンツ制 作 力を持って、ネット上で 情 報 媒
媒体 の広告枠(ラジオやテレビの広告時間、新聞や 雑 誌の広
体と広告媒体を一 体化したビジネスを展開する、もしくは従
告スペース)を引き受け、それを広告主に売るというものであ
来 型マス媒体との連 動を図ってネット上の 情 報・広告媒体ビ
り、有限な広告枠を寡占的に押さえて高値で販売するところ
ジネスを行うという形で本 格 参入すれば、影 響力のあるネッ
に強みがあった。特に高度 成長 期以降は、広告主の需要が比
トメディアになれるチャンスは今からでもあるはずである。こ
較的強い状態が続き、それに対して広告枠はあまり増えない
れまでのように、情 報コンテンツを有料で配信することにこ
という構 造にあった ため、広告単価を高く維 持できてきた。
だわったり、本業コンテンツの紹介・補完程度に利用したりす
広告 代 理 店はコミッションとして広告枠販売料金の 15-20%
るだけではなく、広告媒体ビジネスとしての本 格 参入を行う
を得るという体系をとっており、広告 料金を高止まりさせれ
かどうかが判断の分かれ目である。
ば自社も儲かるという構造にあった。
一方、モバイルになると、PC インターネットとは 異 なる競
広告 代 理 店の収 支構造がこのようになっていたことも、テ
争環境になるため、一握りの会社が寡占を形成する可能性が
レビ広告が広告営業の主 流であったことの背景にあった。テ
ある。PC インターネットは、ブラウザという標準 技 術が 存 在
レビ 広告 は 単 価 が 高 い 割に手 間 がかからない のであ る。逆
したために、誰でも手軽に情 報サービス提 供に参入すること
に、パーチェス・ファネル の中下流を改善するためのプロモー
ができ、多数の業者による競 争になりやすい。一方、モバイル
ション活動は、手間の 割に儲からず、販促 効 果を検 証されや
では使い勝手の点で制約があるために、一旦流行したサービ
すいという特 徴を持っており、広告 代 理 店としては積極的に
スから他にスイッチしにくく、後発参入組にとって不利になり
勧めたいものではなかった。
やすい。米国での携帯端末であるブラックベリーや iPhone 、
日本でテレビ広告料金が高止まりしてきた背景には、地上
日本のモバイルサービスであるモバオク、モバゲーなど、比較
波民放テレビの寡占体制があった。米国はケーブルテレビ、欧
的 少 数のものに人 気が集 中しやすい。例えば iPhone 上での
州は衛星によって多チャンネル 化が定 着したが、日本では多
産 経ネットビュー のように、既存 マス媒体 のブランドのもと
チャンネル化はあまり進展しなかった。BS デジタルの導入時
で、操作 性に優れたサービスが 提 供できれば、モバイル広告
にも、日本では「高画質化」を目的とすることになり、BS デジ
のビジネスを既存 マス媒体 が取り込むという可能 性もない
タル の チャンネル 数 は 絞り込 まれ、地 上 波キ ー局 の 系 列 が
わけではない。
チャンネルのほとんどを押さえることに成 功した。地上波 民
従来型媒体からの参入であれ、ネット専業媒体であれ、ネッ
放 系の BS デジタル放 送は多くの視 聴者を集めることができ
トメディアとしてのこれからの大きな課題は、送客先である広
ておらず、単体 で見 れば経営が 苦しいはずであるが、逆にテ
告主の自社サイト(モバイルサイトも含む)の魅力度を上げる
レビ視 聴者の 多くが地 上 波にとどまってくれているため、有
という点にどこまでアプローチできるかどうかであろう。通
限な広告枠の中で広告媒体料金を決めることができ、地上波
路としての 送客力がどんなに良くても、肝心の自社サイトの
とBS のトータルでは収支が成り立った。
つくりが悪いのでは最終的な効果が出ない。メディア企業が
広告代理店は、こうして媒体料金を維持し、そこからコミッ
ネット連 動型サービスを目指すのであれば、その目的地であ
ションを得ているのであるが、このコミッションの中から広
る自社サイトの側にも踏み込んでクリエイティブ提 案ができ
告制作費用を出したり、マーケティング・リサーチなどの費用
るようになっていることが必 要であり、広告主の CMO(チー
を出したりするという構造(グロス制)が日本では一般化して
フ・マーケティング・オフィサー)が 抱える悩み(マーケティン
いる。結果的に、高い広告枠を売って儲ける代わりに、その他
グ ROI の向上)にいかに答えられるかが重要となる。
のサービスはタダ で行うという風 潮にもつながっている。広
告 主 が 広告 費 用 の 削 減 を 進 めようとして い る中 で、コミッ
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ション率は徐々に低下してきており、さらに広告媒体費も低下
図表 2 : 広告業界の日米比較
するということになれば、その中で収 支を成り立 たせること
は徐々に困難になってきている。
日本の場合
米国の広告業界 構造
米国の広告業 界では、コミッション制からフィー制へ の移
広告主
総合広告代理店
媒体
行が進んできた。フィー制というのは、広告媒体を買い付ける
− 歴史的には媒体の代理が発祥
費用を分離し、広告代理店の行う作業に対する対価を別途請
− 媒体売上の一定%をコミッションで受け取る
求するという制度である。作 業ごとに対価を設 定して請求す
− メディア・プランニング、クリエイティブ、
メディア・バイイングなどを総合的に提供
る方 式と、代 理 店 社 員が何人・何時間働いたことの対価を請
求する方 式とがあり、さらにこれに成果報酬を組み合わせる
米国の場合
などのバリエーションがある。
米国でも1980 年代初頭にはコミッション制が 8 割を占めて
いたが、1990 年代後半にフィー制がコミッション制を上回る
ようになり、2000 年時点でコミッション制は 2 割、フィー制が
7 割になったという。このような構造に移行できた背景には、
広告代理店が広告主の代理としてのポジショニングを明確に
とり、媒体の代理とは一線を画すことができたという業 界 構
メディア・プランニング
広告主
媒体
クリエイティブ
メディア・バイイング
メディア
レップ
− 媒体の代理と広告主の代理が並存
− メディア・プランニング、クリエイティブ、
メディア・バイイングなどが分業化
− コミッションの比重が低下しフィー制が普及
− 結果として、テレビ以外の提案も多くなる
造の特 徴があった。マーケティング戦略の立 案から広告制作
にいたる業務は広告代理店が広告主の代理として行い、広告
媒体スペースの販 売は、メディア・レップと呼ばれる広告主側
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の 代 理 店が 行うのである。米国では広告 代 理 店が 一業 種一
社制をとることが多く、広告主側に明確に立つことが求めら
らメディアに接 触して価格 交 渉を行えばよく、双 方が代 理を
れてきた。
立てる必要性は薄くなる(図表 2 参照)。
さらに米国では、広告主側に立つサービスの内容が作業別
米国流の手法は、広告主側に全体管理の手間がかかるとい
に分化し、メディア・プランニング(どのような媒体に出稿する
う点 で 課 題 は あ るも の の、広告主の 代 理としての 代 理 店 が
かの計画作成)、クリエイティブ(広告 制作)、メディア・バイイ
マーケティング ROI の 最 大化というミッションに沿って動い
ング(広告媒体 枠 の購入)に特 化した代 理 店サービスも登場
てくれるため、トータルでかかるコストは低下するという利点
した。この 中 でメディア・プ ランニングとクリエイティブ はメ
がある。また、広告 代 理 店 の 活 動がブラックボックス化しな
ディア購入とは切り離された業務になるため、出稿料に連 動
いため、取引慣行が透明化しやすいという利点もある。
したコミッション制とならず、フィー制になる。メディア・バイ
だからといって、日本の広告業 界が急に米国流に変わるか
イング・サービスは、広告枠をいかに安く買うかが提供価値で
というと、そうは行きそうもない。一業 種一社という概 念 が
あり、基 本 的にはコミッション(媒体ごとに出 稿 料 の 一定 率
ない中で規 模 のメリットが 優 先されて大手 総合 代 理 店に取
を受け取る)ではあるが、前年もしくは目標よりも媒体 購入
引が集約されてきたという経緯もあり、今から広告代理店の
費 用を引き下げるという成果をあげれば、それに応じて報酬
数が増えていくとは考えにくいからである。媒体の 代 理なの
の一部が増加するという方式などがとられる。
か広告主の 代 理なのか 分からない 状 態 で、大 手広告 代 理 店
一方、メディア側 の 代 理 を 行うメディア・レップ は、主 に メ
が今 後とも強い影 響 力を広告業 界に及ぼし続けることにな
ディア(新 聞 社 や放 送 局)が地 域ごとに分 散してい ることか
ると考えられる。しかしながら、今 後 の 環 境 変 化に応じて媒
ら、地元以外の広告主に広告を営業する業務を代理店に委託
体 料金が低下し、コミッション率も低下していくとなると、コ
したことに起 源を有している。広告主の 代 理とメディア側の
ミッションの 中から諸 活 動 の 費 用をまかなうという従 来 の
代理が双方各々に発展してきたが、徐々に広告主の代理を行
「ドンブリ勘定」では広告 代 理 店の収 益 性 がままならなくな
う側が主流となってきた。特にメディア・バイイング・エージェ
ることが予想され、何らかの形で広告業界の構造にも変化が
ンシーが広告主の 代 理として機能するようになれば、そこか
起こるという可能性もある。
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インターネット広告業界
生態系変化と広告代理店
日本でも、インターネット広告業界においては、米国的に近
大手広告 代 理 店も、いよいよ大 企業 広告主のニーズのシフ
い構図が見られる。インターネットの場合は媒体側も零細な
トに対応して、ネット連動型のマーケティング・キャンペーンを
サイトが多いため、もしくはコンテンツ作成・収 集とユーザー
企画提案することが求められるようになってきた。これまでの
数 拡 大に注 力するため、広告 営 業 の 機 能を 外 出しし、メディ
ように、テレビ広告を売りたがるというだけの代理店では、広
ア・レップというメディア側を代 理する会社が、いわば卸売業
告主から相談を持ちかけてもらえなくなってしまう。また、メ
的な存在として介在している。
ディア企業がクロスメディアの提 案を自ら直接広告主に対し
メディア・レップとは別に、インターネット広告代理店という
て行うということが、日本においても起こる可能性がある。
業 態 もある。広告主 がロングテールであることから、卸売 業
現 在のところは、日本のメディア企 業はそれほど強 力な広
の代理として小売業的に中小企業顧客を開拓してきたという
告営業 力を有しておらず、クロスメディア・キャンペーンを直
のがこのビジネスの 発 達してきた 経 緯である。なので、純 粋
接 提 案 するほどの 実 力 は 持って い な い と考 えら れる。しか
に広告主の代理の立場をとっているとは、やや言いがたい。
し、広告主と直 接協働することでノウハウを身につけはじめ
ネット広告の主体がバナー広告だった時代には、サイト運営
ると、
「 広告代理店はずし」という現象が現実のものとなる。
企業がメディア・レップに広告スペースを卸売りし、それを広告
マーケティング生 態 系 の変化は、消費 者のメディア接 触行
代 理 店に小売し、広告 代理 店がロングテールのクライアント
動の変化によって引き起こされ、広告主企業のマーケターの
に営業をかけるという流れがあった。それが検索連動型広告
行 動 変 化やメディア企 業 の 行 動 変 化を引き 起こすものであ
になると、どのキーワードをどう競り落とすかということが重
る。その中で、大手広告代理店は従来型の生態系に最も適 応
要になり、そのアドバイスを行うことがネット広告代理店の価
した進化をしてきた種であり、新たな生態 系に移 行すること
値になってきた。また広告主自身のサイトへのアクセスを増や
が最も困難な種ということになる。できれば、生 態 系 の 変 化
すためにいかに検索エンジンに有利に引っかかるか(サーチ・
を遅らせたいはずであり、旧生態系を維持したままで新生態
エンジン・オプティマイゼーション)のアドバイスが求められる
系と並存させたいと考えるはずである。
ようになり、これも広告代理店のサービスの一つとなっていっ
しかしながら、生 態 系 の 変 化は既に始まっている。この 変
た。実際、従来のバナー広告よりも、検索連動型広告の伸び率
化 の 中で鍵となるのは、広告 代 理 店は「広告主の 代 理」を貫
の方が高くなっており、広告 代理 店のサービスも徐々に検 索
徹できるのかという点である。日本の広告 代 理 店は、媒体を
連動型の比重が高まっていくものと考えられる。
販売する側から創業した会社が多く、コミッション制(媒体を
もう一つ、アフィリエイトという分野は、ウェブやメルマガな
高く多く売った方が自社も儲かる)によって繁栄してきた。し
どを発行し、そこで商品の推薦や紹介をしている企業や個人
かしな がら、新 生 態 系 に お いては 広告 主 にとってのマー ケ
が、その結果として広告主のサイトへのクリック、または商品購
ティング ROI を高める提 案をしなければならず、そのために
買(資料請求)などのアクションがおきれば報酬を得るという
はメディア・ニュートラルな 提 案 が 求められる。もちろん、最
手法で、これを仲介する業者が広告ビジネスと販売代理ビジネ
新のネット技 術を活用した提 案を行うことも必要になる。こ
スの中間のような形態で介在する。この場合、ウェブやメルマ
うした提案をするスキルが不十分な営業マンが大多数を占め
ガを運営する主体が多数の小規模業者・個人になるので、シス
てい るという点も問 題であるが、会 社 全 体として「広告主の
テム上の仕組みそのものを代理店が用意することになる。
代理」に立てるのかどうかが最も大きな問題となる。
ネット広告の 初期は、どちらかというと中小広告主を開拓
大手広告 代 理 店もこうした 変 化は当然 見 越しているはず
することが中心であり、大手広告 代 理 店の手がけるマス広告
であり、むしろこうした変化をうまく機 会として利用して、新
とは別の世界を形成していたが、近 年には大 企業もネット広
たなビジネス拡大につなげようとしているはずである。
告に関 心を 示すようになってきており、マスとネットの 世界
が近接しはじめている。大手広告代理店がネット系の代理店
を傘下におさめるようになっていることは、その証 左とも言
える。大手代 理 店とネット系 専 業代 理 店との棲み分けという
構図は大きく変 化しており、特にネット 系 専 業代 理 店は、競
本稿は、 岸本 義之 著
「メディア・マーケティング進化論」
( PHP 研究所)
の第4章からの抜粋である。
争激化による価格競争に巻き込まれる可能性があり、新たな
ビジネスモデルを模索することが必要になる。
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