利益が減っても支出は維持: グローバル・ イノベーション 著者:バリー・ヤルゼルスキ ケビン・デホフ 監訳:富永 和利 1000 景気後退にかかわらず大半の企業はイノベーション投資を継続しており、 景気回復を見据えた競争力の構築に向けてR&D支出を増やしている企業も多い。 この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で ご確認ください。 世界経 済が大不況に陥った時点で未 知数だったことの1つ 企 業 のイノベーション 支出についての調査であるGI1000 は、企業が研究開発に関して有言実行を貫き、本当に資金を出 は、2009 年で 5 年目を迎える。これまでと同様に、製品やサー し続けるかということだった。大多数の経営者は、R&D支出は ビスの研究開発支出上位の上場企業1000 社を特定した。加え 競 争上 必要 不可欠なものであり、経営が厳しいからといって て、2009 年 は 景 気 後 退 に 対 する 各 社 の R&D 対 応 につ いて 削減するものではないと主張してきた。2009 年の「グローバ アンケートや 個別インタビューを実 施し、230 社・約 300人の ル・イノベーション1000(GI1000 )」調 査 結 果 をみ ると、イノ 経営や R&D 担当幹部から回答を得た。 ベーション支出額トップ企業は「有言実行」であった。2008 年 すべての企業が R&D支出を維持あるいは増額したわけでは の R&D支出額は前年比 5.7 %増となり、伸び率は前年の10 % ない。GI1000 の 4分の1以上は、2008 年のイノベーション予算 増を下回っていたものの売上成長率 6.5 %に沿った数字となっ を縮 小した。イノベーション 支 出 額の 多い上位 20 社の 場 合、 た(図 表1参 照)。GI1000 社の 2008 年 の 営 業 利 益 が 8.6 %、純 R&D支出の伸び率は、前年の10.7 %に対し、3.2 %にとどまっ 利益が 34%も落ち込んだことを考えると、この R&D支出額の た。さらに、2009 年に入ってイノベーション支出の下降を示唆 増 加は特 筆に価する。今 年 の調 査 対 象 企 業 の 3 分 の 2 以 上 が する兆しもある。しかし、2009 年第1四半期の決算を発表した R&D支出を維持あるいは増額している。調査対象企業の経営 522 社では、R&D支出が 7.4%縮小したものの、売上高の減少 幹部の 90 %以 上は、景 気回復に備えてイノベーションを最重 率18.5 %に比べ れば半分以下であった。また、R&D 支出額 が 要課題として捉え、その過半数が技術ポートフォリオの拡大や 多い上位企業は、不況時の投 資戦略を検 討する中で、設備投 新しい製品の開発を追求している(図表 2 参照)。 資を抑えてもR&D支出は増やしている(図表3 参照)。 24 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r バリー・ヤルゼルスキ ([email protected]) ケビン・デホフ ([email protected]) 本 稿には、顧 問 編 集 者エドワード・H・ベ 富永 和利(とみなが かずとし) ([email protected]) イカーも貢献した。 ブーズ・アンド・カンパ ニー フロ ーハ ム ブーズ・アンド・カンパ ニー フロ ーハ ム ブーズ・アンド・カンパニー東 京オフィス パーク(ニュージャージー州)オフィスの パーク(ニュージャージー州)オフィスの のプリンシパ ル。自動 車、機 械、エレクト ヴァイス・プレジデ ント。ハイテク・工 業 ヴァイス・プレジデント。イノベーション ロニクス、エネルギー等の 分野でコンサ 関 連 クライア ント に 関 する 業 務 を 率 い 事 業 のグローバ ル・リー ダーを 務 め る。 ル ティング経 験を有 する。ニューヨーク る。20 年を超えるコンサルティング経 験 15 年 以 上 にわたり、研 究 開 発、テクノロ 事 務 所 勤 務 に 加 えて、欧 米 亜 市 場 の グ を持ち、専 門 分 野は、企 業・製 品 戦 略、製 ジー 管 理、商品 企 画、新製 品 開 発 などの ローバル案件を多数手がける。自動車/ 品 開 発 の 効 率 性・効 果、中 核 的 イノベー 分 野において、クライアントの成 長と業 製造業プラクティスのメンバー。 ション・プロセスの変革など。 績改善をサポートしている。 図表1 : R&Dと売上高 図表 2 : 新たな製品、市場及び成長のためのR&D R&D支出の伸びは2008 年、若干ペースを シニアエグゼクティブとイノベーション・リーダーを対象とした我々の調査から、 落としたものの、対売上高比(点線)は 4分の3近くがR&Dポートフォリオを維持もしくは拡大しており、 3分の2近くが成長と新市場のための製品に注力していることが明らかになった。 2008 年も従来の水準を保った。 基準年:1997年=1.0 R&Dプロジェクト・ポートフォリオの変化 2.5 売上高 2.0 規模 構成 拡大 38% 47% 成長可能性のある製品が増加 維持 35% 16% 新市場向けの製品が増加 17% 既存市場向けの製品が増加 大きな変化はない R&D支出 1.5 1.0 売上高研究開発費比率 1997 2000 2005 縮小 21% 14% 分からない 6% 6% 分からない 2008 出所:ブーズ・アンド・カンパニー 厳しい時期にあっても企業がイノベーション支出を減らし 出所:ブーズ・アンド・カンパニー 図表 3 : 設備投資が 減少する中でR&Dは維持 3.9% たがらない理由は、主に3 つある。 イノベーション支出額が多い 上位100 社は、設備投資を削減する 1. まず、イノベーションは企業戦略の核である。近年の熾烈な 中でもR&Dを現状維持した。 グローバ ル競 争環 境を踏まえると、イノベーションへの取 2007−08年の支出の変化 「グローバル・イノベーション1000」の 上位100社 り組みを 減らすことは 戦 争で 武 器 を捨てるようなもので ある。 2. 企業の製品開発サイクルは、往々にして一時的な景 気後退 出所:ブーズ・アンド・カンパニー 期間を大きく上回るため、R&D 費を急激に減らすことに至 らない。また、次のイノベーション・サイクルを逃すことは景 気回復後の脱落を意味するため、長 期的なイノベーション 支出は減らせない。 3. 経営基盤がしっかりしている企業は、基盤が脆弱な競合他 R&D ‒1.0% 設備投資 社を引き離す絶好の機会と考える。イノベーションのペース を 維 持できれば、景 気が 本 格 的な回 復 基 調に入った 暁に 市場シェアを素早く奪取できるということだ。 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r 25 調査対象企業の3分の2以上は、 R&D支出を維持あるいは増額していた。 とはいえ、イノベーションの上位企業でも景 気後 退の対応 ことも明らかになっている。 策 は 取って い る。今 回 イン タビューした 経 営 幹 部 全 員 が、 景 気 悪 化 の 影 響は、産 業によって大きく異 なっており、最 R&D 投 資 効率を上げるために「賢い使い方」を推し進めてい も厳しい影響を受けたのは自動車産業であった。自動車部門 ると答えた。景 気後退は、イノベーション支出において3 つの で R&D 支 出 額 上 位 10 社 の うち 9 社 が、2008 年 の イノベ ー 傾向を生み出している。 ション 支出を削減した。たとえば、59 年ぶりの 赤 字に転 落し ・ 企業は理論系や応用系の研究を減らし、代わりに製品開発 たトヨタ自動車は、イノベーション支出額の世界トップという にシフトしてい る。この 傾 向 は 数 年 続 いており、回 答 者 の 地位は守ったものの、R&D 支出を 6 %近く削減した。一方、ソ 44 %は R&D 予算のうち基 礎研究と先行開発に充てるのは フトウエア・インターネット業 界は景 気後 退を好機と捉 えて 20 %未満であると答えている。景気後退はこれに拍車をか いる。同業 界でイノベーション支出額が多かった上位 10 社の けている。経営層の優先順位は景気回復を見据えた新製品 うち 8 社は、2008 年の R&D 支出を増額した。コンピュータ関 の上市 であり、回 答 者 の 40 % 近くが 基 礎 研 究 から新 製 品 連・電子機器産業のイノベーション支出は 4% 超の増大となっ 開発へ経営資源をシフトしていると答えた。 たもの の、R&D 支出が増 大した企 業 の 割 合は 基 本 的に昨 年 ・ 景 気 悪 化 を 受 け て、多くの 企 業(今 回 の 調 査 で は 全 体 の 40 %)がイノベーション・プロセスの効率化をスピードアッ プしていた。 と変わらなかった。 ( 図表 4 参照) 損失を出している企業でさえも、必ずしも R&D 支出を削減 してい るわけで は な い。GI1000 企 業 の ほぼ 3 分 の 1が 2008 ・ 景 気悪化へ の反 応として、企業はリスクに対して消極的に 年に損失を計上したが、それらの企業でも R&D 支出を減らす なって おり、調 査 回 答 者 の 半 数 近くが 以 前 より保 守 的 に 傾向は増やす傾向をわずかながら下回るレベルであった(図 なっていると答えている。トレンドとして、新製品開発の承 表 5 参 照)。つ まり、景 気 後 退 の 影 響 が どの ような も ので あ 認 基 準を 変えたり、既存顧客との関 係を緊密 化したり、競 れ、企業はイノベーション活動を全 体 戦略における重要な要 合他社と市場をよりいっそう注視している。 素とみなしていることは変わらない。 景気悪化が世界のイノベーション活動に与える影響はこの 戦略上の重要課題 ように様々ではあるが、来るべき景 気回復に備えてイノベー ションのアクセルを 今 踏むことが、競 争 優 位性を築くチャン 290 人の経営幹部とR&Dリーダーを対 象とする2009 年の スであると考えている企業が多い。 アンケートの 結果は、企 業戦 略におけるイノベーションの重 要性を裏付けており、2009 年イノベーション支出も同水準を 景気後退の影響 維持することを示唆している。回答者の70 %は、2009 年の研 究開発支出を維持あるいは増額する計画を立てていると述 GI1000 調査の対象企業も、世界的な経済低迷の影響を受 べており、4 分の 3 近くは景気後退期でもイノベーション・ポー けている。全体的に、2008 年の R&D 支出額は 5,320 億ドルと トフォリオを維持、拡大したと報告した。 なり、2007 年比 5.7 % 増という順 調な伸びを 示したもの の、 景 気後退がイノベーション活動の強化のきっかけとなった 2006 年から2007 年における10 %増には及ばなかった。総売 ケースもいくつかあった。たとえば、年間売上高 63 億ドルの郵 上 高 は 6.5 % 増 の 15 兆ド ル と なった が、こ の 場 合 も ま た、 便サービス機 器 会 社ピツニーボウズ( Pitney Bowes )社は、 2006 年から2007 年 の10 % 増に比べ ると小さな伸び であっ 景気が本格的に落ち込むことを想定しながらもイノベーショ た。この結果、対象1000 社の R&D 支出の対売上高比率は、横 ン 投 資を 増 やした。健 全な財務 体質 を 踏まえるとR&D 支 出 ば い の 3.6 %となった。また、過 去 5 年 の 調 査 結 果と同 様に、 を増やすことは可能であると判断し、景 気が回復に転じれば 企 業 の R&D 支出額と業 績とは直 接的・統 計的な 相関が ない 競争優位性を築けると見通していたのである。 26 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r 図表4 : イノベーション支出額上位10 社 順位 会社名 R&D支出 08 (百万ドル) 2008 2007 2007年比 増減(%) 本社 所在地 業種 日本 自動車 売上高比 (%) 1 1 トヨタ自動車 8,994 ‒5.7 4.4 2 4 ノキア 8,733 5.7 11.8 フィンランド コンピュータ・エレクトロニクス 3 8 ロシュ・ホールディング 8,168 5.5 19.4 スイス ヘルスケア 4 7 マイクロソフト 8,164 14.6 13.5 米国 ソフトウエア・インターネット 5 2 ゼネラルモーターズ 8,000 ‒1.2 5.4 米国 自動車 6 3 ファイザー 7,945 ‒1.8 16.5 米国 ヘルスケア 7 5 ジョンソン・エンド・ジョンソン 7,577 ‒1.3 11.9 米国 ヘルスケア 8 6 フォード 7,300 ‒2.7 5.0 米国 自動車 9 11 ノバルティス 7,217 12.2 17.4 スイス ヘルスケア 10 12 サノフィ・アベンティス 6,695 0.8 16.6 フランス ヘルスケア 出所:ブーズ・アンド・カンパニー 図表 5 : 経済的打撃にかかわらず、企業はR&Dを増大 赤字決算でも、減益でもR&D予算は拡大。 R&D支出を減額 純利益を計上 17.2% 52.0% 14.3% 損失を計上 純利益が増大 純利益が減少 R&D支出を増額 16.5% 8.4% 22.2% 26.7% 42.7% 出所:ブーズ・アンド・カンパニー Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r 27 「イノベーションの強化とは、 必ずしも多くの資金を注ぐことではない。 資金をどのように使うかということである」 経営 状 況 が 芳しくなくても、イノベーション活 動を縮 小し フォテイメント・プラットフォーム開発 案件は、これまで類を な かった 企 業 も あった。ア プ ライド マテリアルズ( Applied 見ない規模のものだ。言うまでもなく自動車市場の劇的な落 Materials )社の半導体装置事業部門のハンス・ストーク氏に ち込みで我々の売上も打撃を受けているが、だからといって よると、受 注は大 幅に落ち込 んでいるものの、製 品 技 術のイ 開 発 の 手 綱を緩めるわけにはいかない のである。1∼ 3 年 後 ノベーションに対 する顧客 の 要望は強まるばかりだと言う。 の上市に向けて粛々と物事を進めなければならなかった」。 「我々の顧客である半 導体メーカーは、資 金 が減っても手を コンピュータ関連・電子機器産業の競争環境は熾烈を極め 緩めない。彼らの競 争原 理からすると不況のサイクルが終わ ている。IBM でインテル・ベースのサーバー部門を率いるサン る時により強くなれるよう、イノベーションを推し進める」。 チェス氏は、製品開発期間が製品そのもののライフサイクル 景気後退は、製品ポートフォリオやイノベーションのプロセ を上回るほど長い水準にあるため、開発サイクルを絶えず更 スとコストについて、今まで以 上に経営の 慎 重さを招く。そ 新する必要があると指摘する。 「 投資パイプラインを突然干上 れが、多くの企業にとってイノベーションの起爆剤となってい がらせるわけにはいかない。サイクルを 逃すと市場から締め 「 非常に慎重にならなければなら る。IBM のサンチェス氏は、 出されるからだ」。 ない状 況、つまりより少ない投 資でより多くの成果を挙げな 製 品 開 発サイクルは、経 済サイクルに合わせて 変 えること ければならない状況に置かれたときに、平時ではありえない が できない わけではない。クラフトフーズ( Kraft Foods )の レベルの創造性が生まれる。イノベーションの強化とは、必ず 新 興 国 市 場 向けの R&D 担 当上 級 副 社 長 のアラン・グラント しも多くの 資 金を注ぐことではない。資 金をどのように使う 氏は、毎年何千 もの 製 品 が 開 発されてい る消 費 財では開 発 かということである」と指摘する。 サイクル に 柔 軟 性 が な いと言う。 「 小売 の サイクルを 考える と、1年中新製品の開発が求められる」とグラント氏は指摘す 製品とサイクル る。しかし、新 製 品 の 開 発 や 投 入 時 期 を 柔 軟 に 変 えざる を えない状 況に直面したのも事 実である。 「 景 気後退前に開発 今回インタビューしたイノベーション担当の経営幹部全員 検討していた高級品を据え置きして、購買 力の低下に対応で が、短 期 的に R&D 支 出を削 減 で きない大きな 理 由として製 きる 低 価 格 型 の 製 品 に切り替 え たケースも 多 々あった」と 品開発サイクルの制約を挙げた。理由は単 純である。新製品 グラント氏は言う。 の開発に要する時間の長さは産業によって異なるが、その長 さは月単位ではなく年 単位のものだ。たとえば、新車 開 発は 景気回復に向けたイノベーション 最 大4 年、新薬開発は 10 年以 上かかることがある。しかし、典 型的な景 気後 退 が1年以 上 続くことは滅多にない。そのよう 今回インタビューした経営幹部の 殆どが、いずれ回復する な傾向は、今回の 景 気後 退 がイノベーション 支出に与えるマ であ ろう世 界 経 済 に備 え た 競 争力 の 維 持を 強 調していた。 イナスの影響を軽減している(図表 6 参照)。 ハーマンのようにイノベーションを維持した企業こそが 真の ハーマンインターナショナル (Harman International) は、 競争優位性を築くであろう。ラードン副社長は、 「 この不況か ハイエンドのカーオーディオとインフォテイメント・システム、 ら抜け出した時、我々はより筋 肉 質 であるとともに、高い 技 プロとマス向けのオーディオ機 器を手がける年商 30 億ドル 術 力を持っていなければならない。これは、戦 略 そのもので のメーカーである。彼らの売上の75 %は自動車関連 だが、景 あり、我々の企業文化の根幹である」と言う。 気後退に突入した時、自動車メーカー向けに13 種類ものカー また、ハーマンのイノベーションはグローバ ルな 転 換を 進 オーディオシステムを開発していた。いずれも遅らせるわけに めている。これまでプレミアム自動車市場向け製品を事業の はいかないプロジェクトであった。ハーマンのラードン氏は、 中核にしてきたハーマンは、中国とインドにおいて「ゼロベー 次のように語る。 「 今 回の 景 気低 迷 期に取り組 んできたイン ス」で 中 価 格 帯 インフォテイメント・システムの 開 発 に 取り 28 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r 図表 6 : 製品開発サイクルは長いが、景気後退期間は通常短い 厳しい経営環境にあっても企業がイノベーションを削減できない1つの理由は、製品開発サイクルが景気後退期間より長い点にある。 製品開発サイクルと景気後退期間の比較 製薬 半導体 ハイテク医療機器 ハイテクB2B機器 自動車 飲料 ハイテク電子部品 B2C電子機器 1945-2001年 の平均的な 景気後退 10カ月 月数 0 2007年12月 −2009年9月 22カ月 20 1929年8月 −1933年3月 43カ月 40 60 80 100 出所:ブーズ・アンド・カンパニー かかった。通 常 2 ∼3 年かかるところを1年以 内 の 開 発リード と認めている。 タイムに短 縮して、上市 まで のスピード アップと共に大きな 今回インタビューした R&D 担当幹部のほぼ全 員が、短 期・ コ スト 削 減 を 目 指 す。この 戦 略 的 な 動 き に より、アジ アの 長 期的なイノベーション ROI の改善を目標に掲げ ている。ア 自動車市場の回復を捉えることを虎視眈々と狙っている。 ンケート回 答 者 の 40 %超は、今回の 景 気低 迷を機に無 駄 な こ の 1年、劇 的 な 崩 壊 に 直 面 し た GM も、前 を 見 て い る。 R&D 支出を抑えるためのプロセス改善に取り組んだと答え、 2009 年夏に破 産手 続を終了した後、ブランドの 徹 底 縮 小を 「悪いプロジェクト」にうまく見切りをつけられるようになっ 中心とした 大改 革 で R&D は大 幅に収 縮した。それでも、GM たと答えた。たとえば、3 分の 1以 上の企業は具体的な期間が のグローバル R&D 担当副社長のアラン・タウブ氏は、 「 リスト 定まっていないプロジェクトを打ち切るとしており、40 %超 ラクチャリングを機に事業の優先順位を整理しなおした GM は成長ポテンシャルを特定できる新製品開発にシフトしてい は、前 進 する準 備 が 整ってい る」と語る。GM は、自動 車 の 将 ると答えた。クラフトフーズのアラン・グラント氏は、 「 小さな 来の姿を技 術的に研究するだけでなく、そもそも顧客が欲し 暫定的プロジェクトをたくさん手がけるのではなく、数を絞り ているものとは何か、を追求している。 込んでより大きなアイデアに焦点を当てている。つまり、景気 後 退 で R&D ポートフォリオの 選 別 基 準 が 変 わった。厳しい イノベーションの ROI 経 済 状 況をみながら、何を第一 線に持って行き、何を 切り捨 てるか、の秩 序が生まれた」と語った。 景 気悪化は、経営基盤の強い企業にビジネスチャンスをも きわめて困難なイノベーション環境に直面したアプライド たらしたが、殆どの 企 業 のイノベーション活動に何らか の 形 マテリアルズの ケースを 考えてみよう。景 気後 退でウエハー で 影 響を及ぼしている。イノベーション支出を劇的に縮小し 装置トップメーカーの売上は四半期ベースで最大 80% 近く落 ていない企業でも他経費を切り詰めており、経営プロセスを ち込み、R&D 支出の負担が大きくのしかかった。一方で、半導 引き 締 め るとともに 製 品 開 発 ポートフォリオを 見 直してい 体の小型化などによるイノベーションへのプレッシャーは緩 る。調査回答 者の 40 %超がイノベーションに対して以前より むことなく、アプライドマテリアルズのシリコン事業グループ 慎重なアプローチを取るようになったと答え、70 %が顧客要 も増え続けるR&D 資 金ニーズに苦心していた。あらゆる経費 求の 変 化をより的 確に捉 えるための戦 略 転 換 を図っている 削減 策、プロジェクトの取 捨選 択、最 重要顧客への注 力など Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r 29 伸びる企業は不況下のイノベーション改善体験を 永続的な企業力として捉える。 で 対応した が、それ だ けで は不十 分であ る、とイノベーショ で、強い企 業は知 恵を絞って R&D の 仕 組み、プロセス、選 定 ン・リーダーのストーク氏は言う。不況下では、生き残りは競 基 準を 合 理化・効率化することにより、確 度の高い先 進的技 争原理に依拠する。 「 こういうとき、R&D は売上比で決めるべ 術に賢く賭け、効果 の上がらないプロジェクトを早々に打ち きものではない。競 合 他社の動きが大きな 変 数となる」とス 切る秩 序を自らに課した。このような 組 織 的な 変 革は、不況 トーク氏。 「 それによって、イノベーション ROI を 見る眼 も 変 下のみならずこれからの成長期にも役立つはずである。 わる。市場 の 規 模はどれくらいある?自分 達にシェアは?市 市 況 が 回 復 に 向 かう中、伸 びる企 業 は 不況下 の イノベ ー 場の成長性は?競合他社はどのような状況か?彼らのシェア ション改善体験を永続的な企業力として捉える。今、まさしく を 奪うチャン ス は あ るか?この 景 気 低 迷 の 中、強 いプ レイ 自社のイノベーションシステムとプロセスの強みと弱みを評 ヤーは皆他プレイヤーの動きを伺っている」。 価すべきではなかろうか。最悪の環境におかれることで、今ま で見えなかった悪いところが見えてくる。今直すべきところを 直せば、来るべき 景 気 回 復にお いても、そ の 先にお いても、 景気後退の良い面 イノベーションのスピードや質、そして遂行能力という点で実 今 年 の 調 査 結 果を鳥 瞰 すると、世界 的 な 経 済 低 迷は 必ず を結ぶであろう。 しも企業のイノベーション活動に悪 影 響を及ぼしていない、 Reprint Number: 09404 ということが 言えるのでは ないか。景 気後 退により、あらゆ る産業において競 争環 境は以前に増して激化している。イノ ベーションが企業の競争力の核を形成している以上、収益が 圧 迫されていても R&D 支 出は 維 持 せ ざるを得ない。そ の 中 調査方法 30 2008 年に R&D に最も多額の費用 上昇率に応じて調整した。 とR&D 専 門 家 を 対 象 とする ウェブ を投 入した 世 界 の上場 会 社 1000 社 そ の 後 各 社を、ブル ーム バーグ 社 ベ ース の ア ン ケ ート 調 査 を 実 施 し を特定( R&D 支出額について公的な の 産 業 分 類 基 準 に 沿 って 9 の 業 種 た。ア ン ケ ート に 参 加 し た 企 業 の デ ー タ が 存 在 する 会 社)し、各 社 に (あるいは「そ の 他」)に、そして本 社 R&D 支 出 額 は 2,300 億ドルを 超 え、 つ いて、2001年 から2008 年 ま で の 所在 地によって5 つ の 地 域に分 類し 「グ ロ ーバ ル・イノベ ー ション 1000 主 要 な 財 務 指 標 を 分 析 し た(売 上 た。業 界 間の 有意 な比 較を可能にす 社」の R&D 支 出 総 額 の 44 % を 占 め 高、粗 利 益、営 業 利 益、純 利 益、R&D るため、各社の R&D 支出額レベルと た。回 答 企 業 は、対 象 業 種 すべ てに 支出額、及び株 式時価総額)。支出額 財務業 績指 標を、該当する業 界 の中 わたっており、地域別に見ると、北米 の 数 字はすべて、その 年 の 平均 為 替 央値に合わせて指数化した。 企 業 が 全 体 の 49 %、欧 州 企 業 が レートに従って米ドルに換算した。こ また、R&D 支出及び戦略への景気 38 %、アジ ア企 業 が13 % を占め、そ れに加え、株 価上 昇 率 のデータも入 後退の影響をより深く理解するため、 の他地域は 1%であった。 手し、各社 が属する市場 の 株 価指 数 世界 230 社の 290 人以上の経営幹部 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 2 2 0 1 0 Wi n t e r
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