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平成 28 年 12 月 22 日
平成 28 年度 2学期終業式 校長講話
申年の平成 28 年もあと 10 日で幕を閉じます。山あり谷ありの一年でした。時間は容赦なくあるいは優しく
過ぎ去っていったような気がします。そんな2学期の終了にあたり,
「あなたにとって本当に大切なものを,あな
たはしっかりつかまえていますか?」というテーマでお話をします。
皆さんはもう「君の名は。
」という映画を観ましたか。観客動員数,興行収入などを見ると大ヒット映画になっ
ているようです。今日はその映画の話題の監督新海誠さんではなく,この映画をプロデュースした川村元気とい
う人のことをお話します。この人は「君の名は。
」という映画を制作配給した東宝という映画会社の社員です。川
村さんは会社の業務の一環として,この映画を制作しました。映画のプロデューサーというのは,映画のストー
リーとなる脚本を決め,あるいは自分で書いて,監督や俳優をキャスティングし,予算をたてて撮影全般を計画
し,そして広報したり・・・と一つの映画の作成から興行までの最高責任者です。この川村元気さんは,勤め先の会
社の仕事としてこれまで様々な映画を制作してこられましたが,その一方で小説家としての顔ももっておられま
す。佐藤健主演の映画『世界から猫が消えたなら』も観ましたか。この映画の台本となる小説を書いたのは,実
は川村さんです。この小説のあらすじは次の通りです。
主人公は,郵便配達員として働く 30 歳の男。猫とふたり暮らし。そんな男がある日突然,不治の病で余命わ
ずかであることを宣告されます。絶望的な気分で家に帰ってくると,自分と全く同じ姿をした男が待っていまし
た。その男は自分が悪魔だと言い,奇妙な取引を持ちかけてきます。
「この世界から毎日,一つ何かを消す。その
代わりにあなたは一日だけ命を得ることができる」と提案します。主人公の男は生きるために,この悪魔の提案
を受け入れることにします。すると次の日から,毎日,電話,映画,時計が消えていきます。主人公は自分の死
を先延ばしにするために,自分が生きているこの世界からモノが一つ一つ消えていくことを目の当たりにしてい
きます。と同時に,主人公は様々なことに気付いていきます。主人公とその飼い猫と悪魔の7日間が始まってい
きます。…そして,ついに悪魔は猫を消すことを提案します。その時,主人公は何を決断するのでしょうか。
この小説は,
「人は何かを得れば,何かを失っていく。失ったときに初めて失ったものの大切さに気が付く。
」
ということを言っているのでしょうか。
著者である川村元気という人は,
この小説の着想をどうやって得たのか,
先日,テレビ番組のインタビューで次のように語っていました。
「私は通勤には中央本線を使っているのですが,
ある時,携帯電話をなくしてしまい,その日は携帯電話を持たずに電車に乗り込みました。やることがないので
車窓を眺めていたのですが,なんと東京では珍しい虹が架かっている風景が眼前に広がりました。なんという幸
運に恵まれたのでしょうか。
なぜか幸せな気分になれたので,
このことをみんなと分かち合いたいと思いました。
しかし,周りは知らない人ばかりだから声をかけることもできないし・・・・・・,と思い周囲を見渡すと,周りのお
客さんは全員,窓に目を向けることなく,携帯電話の小さなディスプレイに集中していました。
」この経験が川村
元気さんに『世界から猫が消えたなら』という小説を書かせることになったそうです。もしあの時,川村元気さ
んと同じ時間と空間を共有していた電車内の乗客が,携帯電話を閉じて,目を車窓に向けていたら,虹を見るこ
とができていたかもしれません。
1年の内に何度見ることができるかわからない虹,
たまゆらの命ゆえ美しい虹,
普段忘れていた憧れとか切なさとかいった感情を想い出させてくれる虹。その虹を見過ごしてしまった乗客は,
携帯電話との変わらぬ友情を確認しました。逆に川村さんはたまたまこの時,携帯を失っていたために,虹を見
ることができました。どちらがいいという訳ではありません。無意識の選択ですから。
私は皆さんに「携帯電話を捨てて,空を見上げろ!」と言っているわけではありません。私たちの生活は「何
かを求めれば,何かを失う」というトレードオフの上に成り立っています。だからこそ,
「何かを選択できる場面
に遭遇すれば,よく考えて選択をして欲しい。
」ということを皆さんには言いたいのです。
「これを選べば,あれ
を失うかもしれない。でもそれは自分にとって,あるいは仲間にとって価値のあることだ。
」と熟慮した上で行動
に移して欲しいのです。瞬間的に湧き起こる感情や欲望の奴隷になることなく,自分をコントロールするもう一
人の自分を持って選択して欲しいのです。そうすれば「あなたにとって本当に大切なもの」を失わなくて済むは
ずです。仮に失ったとしても後悔はしないはずです。
最後に3年生に一言。これから「乗り越えなければならない壁」と「自分の能力のキャパシティ」の関係で言
うと,これから卒業そして進路実現を獲得するまでの期間,この期間に味わう辛さは,恐らく人生最大の試練だ
と思います。これを乗り越えることが皆さんの人間の幅を一回り大きくします。残念ながら誰も助けてくれませ
ん。しかし,すべての人が祈ってくれています。
「君たちがきっとこの試練を乗り越えることができますように」
と。
それでは生徒諸君,2週間後,干支も入れ替わっての酉年1月6日に元気な姿を見せてください。