ベーチェット病について

症例検討
平成 28 年 1 月
岐大前店
【患者背景】
54 歳男性
【処方内容】
H27.11.2 初来局
コルヒチン 0.5 ㎎ 3 錠 毎食後 90 日分
アフタゾロン口腔用軟膏 0.1% 10g (1 日 2 回 口の中塗布)
イソジンガーグル液 7% 240mL (1 日数回 うがい)
モーラステープ 20 ㎎ 56 枚 (1 日 1 回貼付 腰・肩各所)
H27.4.30(お薬手帳より)
アコニンサン錠 166.67 ㎎ 9 錠 毎食前 90 日分
コルヒチン錠 0.5 ㎎ 2 錠
朝夕食後 90 日分
ツムラ平胃散エキス顆粒 5g 朝夕食前 90 日分
ツムラ五積散エキス顆粒 5g 朝夕食前 90 日分
ツムラ麻黄附子細辛湯エキス顆粒 5g 朝夕食前 90 日分
MS 冷シップ「タイホウ」1000g 腰部
PL 配合顆粒 3g 毎食後 14 日分
イソジンガーグル液 7% 90mL 1 日数回うがい
デキサルチン口腔用軟膏 15g 1 日 1 回
強力ポステリザン軟膏 60g
痛い時肛門に挿入
MS 温シップ「タイホウ」
500g 腕
マイザー軟膏 0.05% 10g
体
ヒルドイドクリーム 0.3% 80g 体
コルヒチンを長期で服用しており、痛風発作の予防のための継続使用(1 日 0.5~1 ㎎)より高用量で
あり、また皮膚科の先生の処方であったこと、処方箋に難病医療と記載されていたことから、ベーチェ
ット病を疑い、本人に確認したところ「20 年ほど前からベーチェット病を患っている」とのことでした。
そこで今回は、ベーチェット病とはどういう病気か、およびベーチェット病におけるコルヒチンの使
用について調べてみました。
1.ベーチェット病とはどういう病気か
a.概念
ベーチェット病は口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主症状とする原因不明の
慢性再発性の炎症疾患である。
b.疫学
本症は、トルコ、中東、中国、日本を結ぶ帯状のシルクロードに沿った地域に多く、欧米では少ない。
性差はほとんどないが、男性の方が重症化しやすく、内臓病変、特に神経病変や血管病変の頻度は女性
に比べて高頻度と言われている。発病年齢は男女とも 20~40 歳に多く、30 歳前半にピークがある。
c.病因
不明だが、何らかの遺伝的素因に環境などの外因が加わり、白血球の機能が過剰となり炎症を引き起こ
すと考えられている。遺伝的素因で一番重要視されているのは HLA-B51 というタイプで、健常者に比べ
てその比率がはるかに高い。
d.病態
ベーチェット病患者の T リンパ球は種々の細菌抗原に対して過剰に反応し、種々のサイトカインを産生
し、これが好中球の異常活性化をきたし発症に至ると考えられる。
e.身体所見
・口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
ほぼ必発(約 98%)で口唇、頬粘膜、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができる。初発症状とし
てはもっとも頻度の高い症状だが、経過を通じて繰り返して起こることも特徴である。
・皮膚症状
結節性紅斑と毛嚢炎様皮疹がよくみられる。一般に本症患者では皮膚の被刺激性が亢進しており、虫刺
され・外傷などにより化膿しやすい。
・外陰部潰瘍
男性では陰嚢、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられる。
・眼症状
もっとも重要な症状で、前眼部病変として光彩毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞明、瞳孔不整がみら
れる。後眼部病変として網膜絡膜炎を起こすと発作的に視力が低下し、障害が蓄積され、ついには失明
に至ることがある。
・関節炎
非対称的に四肢の大関節の腫脹・疼痛がみられ、ときに発赤を伴う。関節の変形や骨破壊はまれである。
・血管病変(血管ベーチェット病)
深部静脈血栓症が多い。
・消化器病変(腸管ベーチェット病)
回盲部の深い潰瘍を形成する。腹痛・下血、腹部腫瘤を示す。
・神経病変(神経ベーチェット病)
好発部位は、脳幹・基底核周辺部・小脳・大脳皮質である。一部の患者では進行性の痴呆様の精神症状
をきたし、人格の荒廃に至る。
・副睾丸炎
男性の約 1 割弱にみられ、睾丸部の圧痛と腫脹を伴う。
2.治療
ベーチェット病の病状は非常に多様なため、すべての病状に対応できる単一の治療があるわけではな
い。病状や重症度に応じて治療方針を立てる必要がある。
コルヒチンは白血球の遊走を抑える作用を持ち、ベーチェット病に用いられている。副作用として、
服用開始時に軟便や下痢を生じることがあるが、1 週間くらいで落ち着くことが多い。また、ミオパチー
や末梢神経炎、頻度は低いが催奇形性があるので、男性患者も女性患者も内服中は避妊が必要である。
また、肝障害や横紋筋融解症なども生じることがあり、定期的な血液検査が推奨される。
・眼症状
通常、コルヒチンから導入し、効果不十分と判断されればシクロスポリン(ネオーラル)またはインフリキ
シマブ(レミケード)導入を検討する。しかし、シクロスポリンは全例で眼発作を抑制できるとは限らない
うえ、腎機能障害、中枢神経症状、肝機能障害などの副作用の発現頻度が高い薬剤である。
(日本眼科学会によるベーチェット病眼病変ガイドラインによると、
コルヒチン錠(0.5 ㎎)2 錠 分 2 朝夕 副作用に注意しながら増減する とある)
・皮膚粘膜症状
副腎皮質ステロイド軟膏を局所塗布する。内服薬としてはコルヒチン、セファランチン、エイコサペン
タエン酸などが効果を示すことがある。
・関節炎
コルヒチンが有効とされ、対症的には消炎鎮痛剤も使用する。これらの効果がない場合に副腎皮質ステ
ロイド薬を用いることもある。
・血管病変
副腎皮質ステロイド薬とアザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン A などの免疫抑制薬の
併用を主体とする。
・消化器病変
副腎皮質ステロイド薬、スルファサラジン、メサラジン、アザチオプリンなどを使用する。
・神経病変
ステロイドパルス療法を含む大量の副腎皮質ステロイド薬が使用され、アザチオプリン、メソトレキサ
ート、シクロホスファミド点滴静脈注療法などの併用が試みられる。
✰コルヒチンは痛風治療薬でありベーチェット病には保険適応外だが、平成 21 年 9 月 15 日より社会保
険診療報酬支払基金が保険給付を認めている。
【参考文献】わかりやすい内科学第 2 版
文光堂、難病情報センター、ベーチェット病眼病変診療ガイドライン