序章 証券販売チャネルの拡充とは チャネルとは企業と

序 章 証 券 販 売 チャネルの拡 充 とは
チャネルとは企 業 と顧 客 とをつなぐ架 け橋 である。企 業 はその架 け橋 を通 して、様 々な
商 品 ・サービスを提 供 し、さらに顧 客 はそれを通 じて企 業 の商 品 ・サービス等 を享 受 する
ことができる。具 体 的 にチャネルとは顧 客 が商 品 を購 入 する手 段 のことだ。近 年 のインタ
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ーネットの盛 況 や金 融 規 制 緩 和 によって、証 券 会 社 の窓 口 以 外 で 購 入 しにくかった 証
券 が様 々な手 段 で購 入 できるようになった。チャネルの増 加 は顧 客 と金 融 商 品 の距 離 を
縮 めたのである。
また、近 年 の規 制 緩 和 やインターネットの盛 況 によって、競 争 が激 化 する事 により金 融
機 関 は業 務 分 野 を見 定 め、それに経 営 資 源 を集 中 させるというフォーカシングと、経 営
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戦 略 上 必 ずしも自 ら行 う必 要 がなく、顧 客 など外 部 との接 点 が少 ない業 務 についてはア
ウトソーシングを行 うよ うになってきている。つまり、限 られた経 営 資 源 を高 い利 益 を生 み
出 す業 務 に集 中 的 に分 配 し、低 付 加 価 値 の業 務 からは撤 退 もしくは外 部 委 託 すること
で、利 益 率 を高 めようというものである。このように、金 融 機 関 は業 務 を 選 択 し、そこに
経 営 資 源 を投 入 する 集 中 の経 営 戦 略 がとられているのである。みずほフィナンシャル
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グループでは経 営 改 革 の柱 として徹 底 した選 択 と集 中 を掲 げている。シンジケートローン
や企 業 再 生 ビジネス、保 険 ・投 信 販 売 に重 点 的 に資 源 を配 分 し、ポータルサイト事 業 や
不 動 産 投 信 事 業 からは迅 速 なる判 断 のもと撤 退 をしている。それらを実 行 する事 によっ
て不 良 債 権 の削 減 と顧 客 からの信 頼 に努 めている。その他 にも三 菱 東 京 フィナンシャル
グループや大 和 証 券 投 資 信 託 委 託 会 社 などが選 択 と集 中 の戦 略 を採 用 している。
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1、金 融 サービス業 の戦 略 転 換
選 択 と集 中
(1)ビジョンの策 定 と浸 透
ビジョンを定 めることは本 来 の業 務 の目 的 達 成 、顧 客 や従 業 員 からの信 頼 を得 るとい
う観 点 からも非 常 に重 要 だといえる。日 本 の金 融 機 関 は従 来 の規 制 の下 、業 務 の方 針
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は規 制 によって決 められてきた。だが、業 務 の自 由 化 された環 境 において、有 限 の経 営
資 源 を最 大 限 に利 用 するには一 定 のビジョンが必 要 となってくる。業 務 環 境 が競 争 、複
雑 化 された今 、闇 雲 に業 務 を行 っては他 社 との優 位 性 を見 つけにくくなる。また、そのビ
ジョンは経 営 方 針 の決 定 だけでなく、従 業 員 が経 営 方 針 を理 解 する上 でも重 要 な役 割
を果 た す 。企 業 の 商 品 ・ サービ スを消 費 す るのは顧 客 であ り、その 大 事 な 顧 客 と 接 する
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のは企 業 の社 員 である。つまり、その企 業 の価 値 を引 き出 すのは一 人 一 人 の社 員 であり、
彼 らのモチベーションを上 げることが企 業 の長 期 的 な利 益 につながるのだ。その際 に、ビ
ジョンが従 業 員 に理 解 されていれば、それに沿 った経 営 方 針 の理 解 も容 易 であり、具 体
的 な行 動 も ス ムー ズに なる。したが って、そ のビ ジョン は経 営 者 だ けで なく 、全 社 内 で 共
有 されることが望 まれる。さらに、それは顧 客 にとっても重 要 な役 割 を果 たす。インターネ
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ットが発 達 した今 、企 業 は顧 客 の優 れた判 断 力 によって選 ばれる立 場 にある。その中 で、
どのような企 業 であるかというビジョンの開 示 によって顧 客 にアピールすることが必 要 だ。
それによ って、企 業 の 信 頼 向 上 に 伴 う、顧 客 との リレー ショ ン シッ プ 確 保 が期 待 できる 。
実 際 、アメリ カの 銀 行 の アニュ アルレポー トで は、最 初 に 銀 行 のビ ジョンに ついて説 明 し
ているものが多 い。
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(2)
自 社 の強 みの見 直 し
また、選 択 と 集 中 を行 う前 提 と して、自 らの 強 み を見 極 め 、自 らの 経 営 資 源 におい て
どのような事 業 ができるのかを考 える必 要 がある。自 らの強 みとは、その企 業 の中 心 能 力
で、かつ他 社 との差 別 化 ができるその企 業 独 自 のスキルや技 術 でなければならない。金
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融 機 関 にとっては自 社 の強 みを見 極 めるのは非 常 に難 しい。それは今 まで、多 くの規 制
によって他 社 の明 確 な差 異 が見 えにくかったからである。だが、近 年 の高 度 な金 融 技 術
を駆 使 し、金 融 業 界 でも事 業 の差 別 化 により評 価 を得 ている金 融 機 関 が多 数 存 在 して
きている。金 融 業 界 においても自 らの強 みを認 識 できるような環 境 は整 いつつある。
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(3)
顧 客 の選 択 と集 中
また、規 制 の 緩 和 は顧 客 の 選 択 にも 影 響 を及 ぼす 。制 約 がなく なれば 、様 々 な業 種
の企 業 が金 融 サービス業 に進 出 してくる。競 争 の激 化 により、自 社 のみですべての商
品 ・サービスを取 り扱 うようなワンストップ企 業 は、IT の発 展 と一 定 の商 品 ・サービスに特
化 した 企 業 が多 数 存 在 する社 会 で は顧 客 を奪 われてしま う恐 れがある。一 定 の 顧 客 に
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一 定 の商 品 ・サービス提 供 を戦 略 的 に選 択 することで自 社 の強 みが発 揮 されるのだ。近
年 の インタ ー ネッ ト 取 引 の 活 況 に よ り、松 井 証 券 などオン ライン ト レー ドに 特 化 した 証 券
会 社 や銀 行 借 り入 れが困 難 な顧 客 を対 象 に業 績 を伸 ばした武 富 士 などの消 費 者 金 融
が代 表 的 だ。
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(4)
商 品 ・サービスの選 択 と集 中
そして、顧 客 を選 択 すれば、次 はその顧 客 に対 してどのような商 品 ・サービスを提 供 す
る か を選 択 す る 必 要 が あ る 。ここで の 選 択 で は 、考 慮 す べ き 点 が 二 つ あ る 。一 つ 目 は 、
具 体 的 にどのような商 品 ・サービスを提 供 するかということ、二 つ目 は、これらの業 務 の中
で自 社 グループではどこまで提 供 するかということ である。業 務 を自 社 です べて行 わなく
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ても、不 得 意 な分 野 や 提 供 不 可 能 な分 野 は他 社 との金 融 機 関 との提 携 やアウトソーシ
ングによって補 完 できるため、その選 択 は自 社 の強 みを見 極 めによって決 定 されるのだ。
また、限 られた 経 営 資 源 の配 分 も 、その 業 務 か ら 得 られ る 収 益 を勘 定 しながら、併 せ て
決 定 される。この顧 客 の 選 択 と 業 務 の 選 択 によ って、期 待 収 益 が決 まる といっても過 言
で はない 。た と え 高 収 益 な業 務 に 特 化 し ても 、そ の 業 務 範 囲 が 小 さ けれ ば 利 益 の 額 が
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小 さくなるので、その業 務 フィールドの大 きさと業 務 自 体 の収 益 性 の2つを考 慮 した選 択
が必 要 になる。
(5)
チャネルの選 択 と集 中
最 後 に、適 切 なチャネルを適 切 な顧 客 に提 供 することが必 要 である。いくらチャネルを
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整 備 しても、実 際 にそれを使 う顧 客 との間 にミスマッチが生 じては意 味 が無 い。販 売 チャ
ネルの開 発 動 機 は取 引 コストの削 減 である。ネット証 券 がインターネットの利 用 によって、
セミプロの投 資 家 を市 場 に呼 び込 む ことに成 功 した要 因 は、手 数 料 の低 下 と 情 報 の 非
対 称 性 の低 下 である。このように、今 までは高 い取 引 コストによって達 成 できなかったこと
が IT の進 展 によりが可 能 になったのである。だが、これらのチャネルは比 較 的 若 い世 代
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には受 け入 れられているものの、高 齢 者 などのインターネットに不 慣 れな世 代 には、まだ
慣 れ親 しんでいるわけではない。高 齢 者 世 代 は未 だ従 来 の支 店 を利 用 する傾 向 にある。
金 融 機 関 は業 務 とチャネル選 択 にギャップが生 じている場 合 には、その解 消 法 を考 えな
ければならない。つまり、それを怠 ってしまっては、折 角 のコストダウンを目 標 としたチャネ
ル選 択 も意 味 がなくなる 。さらに、それは顧 客 と 金 融 機 関 との距 離 を遠 ざけてしまい、そ
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の金 融 機 関 は顧 客 から選 ばれる事 はなくなるだろう。
(6)
アウトソーシング
近 年 、アウトソー シング を受 託 する 企 業 が 増 加 し、その競 争 が 激 しく なるとともに、その
サービスの質 が向 上 している。その中 でも金 融 機 関 はアウトソーシングを多 く利 用 する事
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によって業 務 の効 率 化 を図 っている(図 1)。アウトソーシングに特 化 した企 業 は、その業
種 しているために 専 門 性 も高 く 、コストも 安 価 なも のになっている 。つま り、アウトソー シン
グを行 うことによって、コスト削 減 とサービスの質 向 上 の効 果 が期 待 できるのだ。図 2から
見 て分 かるように、アウトソーシングの目 的 は業 務 の効 率 化 、強 化 、充 実 が中 心 となって
いる。これらを戦 略 的 に 利 用 し、経 営 資 源 を企 業 のコ アの業 務 に 再 配 置 する ことによ っ
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て、他 社 との 競 争 力 を高 めることができる 。最 近 の 金 融 機 関 の アウト ソーシングはシス テ
ムを中 心 に企 画 ・開 発 などの重 要 な業 務 も任 せていて、その重 要 性 は高 まっているのだ
(図 3)。アウトソーシングの有 効 利 用 は、金 融 機 関 の効 率 的 なワンストップ化 を可 能 にす
る。その成 果 も図 4を見 れば明 らかで、コスト削 減 や事 業 展 開 の迅 速 化 、さらに本 業 への
集 中 と存 分 な結 果 が上 がっていることが分 かる。
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また、近 年 の金 融 機 関 ではアウトソーシングとは逆 にインソーシングの動 きも出 てきてい
る。自 社 の 強 み を使 い 、他 者 の アウト ソー シング を受 託 して収 益 の 一 つ とする ものだ 。こ
れはスケ ールメリッ トが 得 られる 資 産 運 用 業 務 や 装 置 産 業 的 な業 務 に インセン ティブが
あり、具 体 的 には、投 資 信 託 の卸 売 りや決 済 業 務 の受 託 などがあげられる。
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図1
図2
図3
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図4
金 融 サービス業 の成 功 への道
これ か らの 日 本 の 金 融 サ ー ビ ス 業 界 の 展 望 を 見 た 場 合 、 様 々 な 観 点 か ら問 題 を 取 り
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上 げる 事 ができる 。規 制 緩 和 を利 用 した 総 合 化 型 か 特 化 型 か 。また 、資 産 規 模 は大 き
い方 がよいか、小 さいほ うがよいか、果 たして適 正 規 模 はあるか。さらに は、地 方 銀 行 や
地 場 証 券 などは今 後 どのような道 を歩 むべきか、ノンバンクと銀 行 の区 別 はどうなるのか
など、問 題 は多 岐 にわたる。
だが、 これと言 った1つの答 えはない が適 切 な答 えであろう。それは、総 合 化 しようが
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特 化 しようが、規 模 の 大 小 を求 めよ うが、金 融 サ ービス業 が 成 功 を収 める 鍵 は、金 融 機
関 自 身 が自 社 の強 みに合 った戦 略 を確 定 し、経 営 理 念 を徹 底 して実 行 し、その戦 略 を
実 行 す る 事 であ る からだ 。例 え ば 、世 界 中 で 総 合 金 融 サ ービ ス を提 供 してい る シティグ
ループを例 に取 ろう。シティグループは、多 大 な資 本 力 とブランド力 、販 売 力 が強 みであ
る。これらの強 み を持 っているからこそ 取 れる 差 別 化 戦 略 が 総 合 金 融 サ ービスだ。結 果 、
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シティグループはマーケットリーダーとして世 界 の金 融 機 関 を引 っ張 っている。このように、
自 らを 振 り 返 っ て、 自 ら の 強 み と は何 なの か を特 定 し 、そ の 力 を 活 用 して 、一 番 収 益 が
入 る 戦 略 を取 る 事 こそが 重 要 である 。企 業 の規 模 も 戦 略 も 自 らと 向 き 合 い、自 らに 合 っ
たものを選 択 すべきである。さらに、上 記 で見 てきた戦 略 と共 にアウトソーシングを利 用 す
る事 こそが金 融 サービス業 が成 功 するもう一 つの鍵 であるだろう。
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金 融 サービス業 におけるチャネルの役 割
以 上 で見 てきたように、チャネルは金 融 サービス業 の戦 略 において重 要 な役 割 を担 っ
ている。チャネルが整 備 されなければ折 角 のよいサービスも無 駄 になる。また、金 融 機 関
に と ってチ ャネ ル戦 略 は 他 社 と の 差 別 化 を 図 る 有 効 な 方 法 で あ る 。と い うの も 、金 融 商
品 ・サービスは模 倣 が容 易 で、長 期 間 にわたって差 別 化 を図 る事 が困 難 なため、新 しく
商 品 ・サービスが開 発 されても、短 期 間 のうちに 追 従 者 が現 れ、間 もなく 業 界 の標 準 的
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な商 品 ・サービスとなってしまうためだ。
また、チャネルの拡 充 には3つの側 面 がある。それは、 利 便 性 、 商 品 ・サービス・付
加 価 値 の提 供 、そして 顧 客 である。チャネルの増 加 ならば利 便 性 を考 慮 するのみで
十 分 だろう。だが、あえて拡 充 というならば 商 品 ・ サービス・付 加 価 値 の提 供 と 顧 客
の2つの側 面 を考 えなければ真 のチャネルの拡 充 とは言 えない。これら2つを考 えなけれ
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ばチャネルの増 加 は無 駄 なものとなってしまうためだ。
まず、利 便 性 と は、「い つでも、どこでも、どん な方 法 でも 取 引 ができる」( 新 世 紀 のリテ
ー ル金 融 機 関 よ り 引 用 ) とい うこと で ある 。だが 、 利 便 性 だ けを高 め ても 意 味 が ない 。利
便 性 を通 じて顧 客 に 何 ができるかを考 える 事 が 重 要 である 。それは商 品 ・サービスの 内
容 や金 融 機 関 全 体 と して顧 客 中 心 主 義 を掲 げ、付 加 価 値 を提 供 する事 である。ここで
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は付 加 価 値 を「 正 しい 顧 客 に 、正 しい 商 品 を、正 しいチ ャネ ルで 、正 しい タイミ ングで 提
供 し、顧 客 の気 付 かない商 品 ・サービスを提 供 すると共 に、リレーションシップを獲 得 ・強
化 すること」(新 世 紀 のリテール金 融 機 関 より編 集 )とする。付 加 価 値 の 提 供 のためには
常 に 顧 客 を中 心 と して考 え ることが 必 要 であ る 。顧 客 をセグメント 化 し、顧 客 のニー ズに
応 え、顧 客 の「ためになる」ことを実 行 することと共 に、顧 客 のニーズを自 ら探 り出 し、それ
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に能 動 的 かつ 顧 客 の便 益 を高 めるように対 応 する事 が不 可 欠 である。また、チャネルを
増 やす際 に、企 業 が顧 客 を軽 視 して誤 ったチャネルの使 い方 をしたり、顧 客 が間 違 った
認 識 のままであったら、それは企 業 のコスト倒 れになったり、顧 客 との距 離 を遠 ざけてしま
うという危 険 性 を持 っている。このように、チャネルと顧 客 セグメントの確 定 は不 可 分 の関
係 にある。それは、それぞれのチャネルは特 定 の投 資 家 層 を前 提 にしており、チャネルを
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変 え れば 、投 資 家 層 も 変 わ る 可 能 性 が 強 いの か らで ある 。さらに 、ただ 利 便 性 を 高 め 、
宣 伝 ・PR をしても、実 際 に提 供 されている 商 品 ・ サービスの質 が 悪 ければ 、顧 客 はそれ
に幻 滅 し離 れて行 ってしまう。それでは折 角 の顧 客 との距 離 を縮 めるための手 段 である
チャネルも効 果 を存 分 に 発 揮 しない。つまり、 利 便 性 と 商 品 ・サービス ・付 加 価 値 の
提 供 、 顧 客 はそれぞれリンクしており、どれも軽 視 する事 はできない 。これら3要 素 を
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拡 大 、充 実 させていくことがチャネルの真 の拡 充 へとつながるのである。
金 融 サービス業 における CRM 経 営 の重 要 性
CRM とは
金 融 サービス業 においてチャネルや商 品 ・サービスなどは確 かに重 要 である。だが、金
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融 サービス業 で最 も重 要 なのは顧 客 中 心 主 義 の発 想 である。金 融 機 関 においてその顧
客 と接 するのは社 員 である。例 えば、証 券 会 社 の社 員 は顧 客 にポートフォリオを提 供 す
ることが 主 な仕 事 で ある 。ポート フォリオに はその 組 み 合 わ せの 数 が 無 限 にあり、その 中
で1つに決 定 するのはかなり困 難 な仕 事 である。その中 で、顧 客 のニーズを正 確 に把 握
し、ニー ズに 合 った 金 融 商 品 を提 供 す ることが 要 求 される 。つま り、どうす れば顧 客 のた
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め に なる か を 考 え 、そ れ を 社 内 全 体 で 意 識 す る 事 が 必 要 に な っ てく る 。 金 融 業 界 は 商
品 ・サービスによって差 別 化 が困 難 な業 界 であるため、社 員 を商 品 として付 加 価 値 を提
供 していかなければならない。だが過 去 、金 融 サービス業 において当 然 存 在 すべき顧 客
中 心 主 義 というものは完 全 に無 視 され、金 融 機 関 は自 社 の短 期 利 益 のための活 動 を行
ってきた。規 制 によって自 由 な競 争 が働 かなかった金 融 業 界 では、サービス業 の本 質 と
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いうものが忘 れてしまいがちであったため、顧 客 の信 頼 を勝 ち取 ることができなかった。近
年 、CRM という言 葉 が注 目 されている。CRM とはまさに顧 客 中 心 主 義 を実 践 しようという
もので、Customer Relationship Management の略 である。
CRM とは、個 々の顧 客 をよく知 ってその顧 客 にあった良 いサービスを提 供 するための、
組 織 全 体 の 協 力 に 基 づ く販 売 、マ ーケ ティング 、サービスの 統 合 戦 略 で ある。そのため
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には顧 客 のセグメント化 を行 い、IT を利 用 した顧 客 データの整 備 ・分 析 が必 要 になる。こ
れは ワン・ツゥ・ワン・マーケティング と呼 ばれている。
特 に 銀 行 が 総 合 金 融 サ ービス 機 関 へ 向 か う原 動 力 は顧 客 の 満 足 度 を 向 上 させるク
ロスセルであり、その中 でシェアの拡 大 するためには CRM は避 けては通 れないだろう。ま
た、CRM とは一 般 に、顧 客 との長 期 的 に良 好 な取 引 関 係 を築 く事 を通 して、企 業 の長
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期 的 かつ持 続 的 な成 長 を可 能 にするものである。CRM における長 期 的 に良 好 な関 係 と
は、顧 客 ・企 業 の双 方 にとって満 足 ができる関 係 の事 であり、どちらか一 方 に偏 ってはい
けない。それは、長 期 的 な視 点 で見 ると、最 適 な経 営 理 念 であり、それが長 期 的 な企 業
価 値 増 大 へとつながるのだ。
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CRM の実 際
今 までのCRM活 動 はデータ・ウェアハウスの導 入 やコールセンターの新 ・増 設 や効 率
化 、顧 客 別 収 益 管 理 システムの導 入 など、顧 客 との接 点 に関 連 するIT主 導 のプロジェ
クトを柱 とするものが 中 心 であ った。も ちろ ん 、これを導 入 することによって成 果 が 上 がっ
ている企 業 はあるが、それは一 部 にとどまっており、全 体 としてはCRMを形 だけ導 入 した
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にすぎず、それがほとんど活 用 されないケースが多 い。
そこで、近 年 では包 括 的 なアプローチによるCRM活 動 が主 流 となっている。これが導
入 され る 背 景 に はI T主 導 の プ ロ ジェ ク トの 成 果 を上 げられ ない 原 因 を 全 体 的 な方 針 を
抜 本 的 に見 直 さないまま、IT中 心 の施 策 を取 っていたことが上 げられる。本 当 に顧 客 の
視 点 から経 営 を行 うには、顧 客 へのサービス面 だけでなく、それをサポートする仕 組 みや
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企 業 内 の価 値 観 、さらには人 事 制 度 まで多 岐 にわたって良 し悪 しが問 われるのだ。もち
ろん、IT を軽 視 しろというのではない。企 業 として自 らがどうあるべきかを明 らかにした上
で、その実 現 のために IT のサポートを求 めるべきであるのだ。つまり、顧 客 中 心 主 義 の
経 営 を実 践 する上 で、IT を活 用 して保 有 情 報 の質 ・量 を向 上 させるのは不 可 欠 である
ものの、それだけでは不 十 分 ということである。
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もちろん、CRM経 営 を掲 げ、顧 客 中 心 主 義 と 言 うのは簡 単 だ。だが、最 も大 事 なこと
はそれを実 践 することなのだ。企 業 自 身 が変 わろうと努 力 をし、それを企 業 内 に文 化 とし
て定 着 させることが大 事 である。何 度 もいうが、その文 化 の特 徴 とは社 員 重 視 である。上
記 で述 べたように、商 品 ・サービスを消 費 するのは顧 客 であり、その顧 客 と接 するのは社
員 で ある か らで ある 。また 、株 主 に と って企 業 価 値 を上 げる こと も 、顧 客 との 取 引 か ら 価
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値 を見 出 してい く こと か ら始 ま る 。企 業 の 価 値 を 引 き 出 す の は一 人 一 人 の 社 員 であ り、
彼 らのモチベーションを上 げることが長 期 的 な企 業 の利 益 につながるからである。
CRM 実 現 のための第 一 歩
そして、そのためには、現 状 を適 格 に分 析 することで、多 くのギャップをなくしていくこと
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が 必 要 だ 。そ れ こそが C R M 経 営 の 第 一 歩 で あ る 。その ギャッ プ と は具 体 的 に 経 営 陣 と
社 員 、金 融 機 関 と顧 客 の2つがある。
前 者 は経 営 陣 が打 ち立 てた経 営 理 念 やビジョンと営 業 の前 線 にいる社 員 の行 動 には
食 い違 いがあるということである。そして、後 者 については、金 融 機 関 には思 い込 みが先
行 している部 分 も多 く、顧 客 の視 点 を正 確 に理 解 しているとはいえないだろう。図 1は98
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年 と00年 にデトロイト・コンサルティング社 が世 界 各 国 行 った調 査 結 果 である。これからも
分 かるように金 融 機 関 は顧 客 のニーズを的 確 に把 握 しているとはいえないのである。
また、既 存 顧 客 と潜 在 顧 客 とのギャップにも注 意 が必 要 だ。CRMでのターゲットが既
存 の顧 客 にとどまらないことから、既 存 顧 客 だけの調 査 だけでは十 分 な結 果 は得 る事 が
できないのである。
図 1 『消 費 者 にとって何 が重 要 か』に関 する見 解 の相
違
項目
経 営 者 (98年 調 査 )
消 費 者 (00年 調 査 )
24時 間 サービスの提 供 と利 便 性
「打 てば響 くようなサービスや
サービス
が
「一 人 一 人 に対 する関 心 」が、利
カギ
便
性 よりも重 要
金 融 機 関 にとって、すぐに基 本
インターネット
ほとんどの消 費 者 にとって未 だに
的
支店
な要 件 となる
重 要 ではない
重 要 性 は低 下 している
銀 行 の顧 客 にとっては依 然 として
非 常 に重 要
非 伝 統 的 業 者 の参
競 争 上 の最 大 の脅 威
ほとんど消 費 者 は無 関 心
入
論 文 『「CRM経 営 」への道 』より
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つまり、利 用 者 の利 便 を図 るために、利 用 者 が求 める様 々な金 融 サービスを適 切 なチ
ャネルを介 し適 切 な時 期 に提 供 し、利 用 者 と 金 融 機 関 が永 続 的 な取 引 関 係 を安 定 的
に実 現 するためには、CRM に基 づく組 織 ・体 制 を構 築 するとともに、伝 統 的 金 融 機 関 か
らの脱 皮 が必 要 なのだ。
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第 二 章 証 券 販 売 チャネルの拡 充 へ向 けた二 度 にわたる金 融 制 度 改 革
(1)金 融 ビッグバン
日 本 では、戦 後 一 貫 して銀 行 中 心 の「間 接 金 融 」主 体 の金 融 構 造 が維 持 されてきた。
しかし、バブ ル経 済 崩 壊 後 、銀 行 が 深 刻 な不 良 債 権 問 題 に 直 面 しそれ が不 況 の 長 期
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化 を招 いているとの見 方 が強 まると、銀 行 の審 査 能 力 と不 動 産 の担 保 価 値 だけに依 存
していたのでは、効 率 的 な資 金 配 分 はなされず、新 たな経 済 成 長 へつながる産 業 構 造
の転 換 は到 底 実 現 できないという危 機 感 が強 まった。また、高 齢 化 社 会 へ向 けて 1,200
兆 にも及 ぶ国 民 の金 融 資 産 をより効 率 的 に運 用 する、次 代 を担 う成 長 産 業 へ資 金 を供
給 する、世 界 に貢 献 する ために海 外 に資 金 を円 滑 に供 給 するなどの 目 標 が掲 げられ、
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そのために「間 接 金 融 」に依 存 する金 融 構 造 から脱 却 し、「直 接 金 融 」型 の金 融 構 造 へ
と変 換 することが必 要 視 されていった。その帰 結 が「日 本 版 金 融 ビッグバン構 想 」であっ
た。
1996年 に 当 時 の 橋 本 首 相 か ら「わが 国 金 融 システム 改 革 」 (2001年 東 京 市 場 の 再
生 に向 けて)という「フリー、フェアー、グローバル」を旗 印 とした金 融 ビッグバン宣 言 が打
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ち出 された。議 論 では特 に伝 統 的 金 融 機 関 業 務 の相 対 的 停 滞 の認 識 か ら「間 接 金 融
体 制 から直 接 金 融 体 制 へ」の方 向 転 換 が前 面 に出 され、証 券 市 場 の改 革 がメインテー
マとなった。その改 革 の多 くは1998年 12月 施 行 の金 融 システム改 革 法 で実 現 した。
特 に 、 証 券 販 売 チ ャネ ルの 拡 充 に 関 す る も の と して、 証 券 会 社 の 免 許 制 か ら 登 録 制
への移 行 、株 式 売 買 委 託 手 数 料 の自 由 化 、PTSの解 禁 、そして投 資 信 託 の銀 行 窓 口
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での販 売 が解 禁 されたことが上 げられる。これらの規 制 緩 和 によって金 融 機 関 の垣 根 が
なくなることにより、金 融 の業 態 間 競 争 を促 進 させた。
(2)証 券 市 場 の改 革 促 進 プログラム
金 融 ビ ッ ク バ ン やペ イ オ フ解 禁 以 降 、 証 券 市 場 は 様 々 な変 化 を 経 て きた 。 委 託 手 数
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料 の大 幅 な低 下 や銀 行 による投 信 窓 販 、またネット事 業 証 券 (松 井 証 券 )など特 色 ある
証 券 会 社 の登 場 で徐 々に市 場 における促 進 の成 果 が現 れてきている。一 方 で、実 体 経
済 における長 期 の不 況 の影 響 のせいか、証 券 市 場 は活 況 に乏 しいのが現 状 である。
そのような状 態 を打 破 するために、金 融 庁 が平 成 14 年 8 月 6 日 に公 表 した、読 んで
字 のごとく、証 券 市 場 を改 革 ・促 進 するプログラムである「証 券 市 場 改 革 促 進 プログラ
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ム」。目 的 事 項 として盛 り込 まれていることは現 状 のこれらの背 景 からきている。①投 資 家
が 投 資 しや す い 市 場 の 整 備 が 図 られ てい ない 、 ② 市 場 メカニ ズム の 担 い 手 で あ る 発 行
体 企 業 、 仲 介 機 関 、 市 場 開 設 者 ひ い ては市 場 メカニ ズム 自 体 に つい て 国 民 の 十 分 な
信 頼 が得 られていない、③市 場 の安 定 性 や効 率 性 を支 えるインフラ面 でもさらに整 備 を
進 めるべき、ということである。
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①の「投 資 しやすい市 場 の整 備 」の具 体 策 として、銀 行 ・証 券 の共 同 店 舗 や証 券 仲 介
業 制 度 (平 成 16 年 12 月 解 禁 の銀 行 に対 する解 禁 も含 めて)、最 低 資 本 金 引 き下 げが
考 え られる 。単 純 に 証 券 を扱 う販 売 チ ャネ ルが 広 がること での 投 資 家 の 誘 引 を狙 う。銀
行 という私 達 にとって非 常 に身 近 な金 融 機 関 で証 券 を扱 えば、新 たな個 人 投 資 家 を市
場 に引 き込 むことができることが考 えられる。また、証 券 会 社 参 入 を促 進 させるために最
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低 資 本 金 を引 き 下 げる ことで 、多 様 な業 種 か ら の 新 規 参 入 を狙 う。た だ 、これ らの 施 策
は②で挙 げた問 題 も含 めて、課 題 が残 っているのも確 かである。銀 行 ・証 券 の共 同 店 舗
と銀 行 に対 する証 券 仲 介 業 解 禁 に関 しては、証 券 取 引 法 第 65 条 の問 題 やコンプライ
アンスの面 で多 種 に渡 る課 題 が考 えられる。詳 しくは後 で触 れるが、証 券 市 場 に活 況 を
もたらす構 造 改 革 を図 ることは大 変 な難 儀 である。それらも踏 まえて次 章 では証 券 販 売
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チャネルを中 心 とした改 革 について述 べていきたい。
第 二 章 リテール証 券 営 業 の現 状
日 本 にお けるリ テール証 券 営 業 は、長 期 に 渡 る株 式 市 場 低 迷 に 加 え 、インタ ーネット
等 の技 術 革 新 、銀 行 の投 資 信 託 販 売 解 禁 などの影 響 を受 け、重 大 な岐 路 に立 たされ
ている。一 方 、時 代 の流 れは直 接 金 融 化 の促 進 に加 え、銀 行 預 金 、公 的 年 金 のような
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リスクのようなリスクの少 ないと見 られていた資 産 に対 する信 頼 感 の低 下 が起 こる可 能 性
があり、顧 客 基 盤 を拡 大 する機 会 が増 大 しているとも言 える。
2003年 度 の 株 式 の 売 買 代 金 は、個 人 投 資 家 の存 在 が高 まっている 状 況 にある。個
人 投 資 家 による委 託 注 文 の売 買 代 金 全 体 に占 める個 人 投 資 家 の割 合 は、それぞれIT
バブル期 である20 00 年 前 後 の 水 準 まで 回 復 した。しか しなが ら、インタ ーネット 取 引 経
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由 による 注 文 が 主 力 と なってお り、対 面 営 業 によ る取 次 ぎはそれほど伸 び ていないと 考
えられる 。また 手 数 料 も 低 下 している こと か ら対 面 営 業 中 心 の 証 券 会 社 にとって、株 式
市 場 の上 昇 が急 激 な収 益 の拡 大 に結 びつくわけではなくなりつつあると考 えられる。
債 券 の売 買 代 金 は、個 人 投 資 家 への販 売 額 は、1999年 以 来 の低 水 準 となっている。
これは、対 ドルの急 激 な円 高 、外 債 の販 売 に一 巡 感 が出 始 めたことが理 由 として挙 げら
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れる。ただ、新 規 参 入 者 の影 響 のほとんどない商 品 であり、収 益 性 に関 する変 化 はない
ものと予 想 される。
投 資 信 託 の販 売 については、低 迷 が続 いている。図 表 は個 人 投 資 家 の購 入 がほとん
どであると見 られる株 式 型 及 び長 期 公 社 債 型 の 公 募 投 資 信 託 の販 売 額 推 移 を示 した
ものである。1998年 以 降 、この商 品 の販 売 には金 融 機 関 が 参 入 してシェアを拡 大 して
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いることを勘 案 すると、既 存 の証 券 会 社 はかなりの苦 戦 を強 いられていると見 てよいだろ
う。ただ、販 売 手 数 料 の低 下 は起 こっておらず、株 式 と比 較 すると収 益 性 の高 い商 品 で
ある。
また、新 しい商 品 として、大 手 証 券 会 社 を中 心 に変 額 保 険 の販 売 が拡 大 していること
が 挙 げられる 。以 上 をま とめ る と 株 式 委 託 手 数 料 の 収 益 拡 大 効 果 が 限 定 的 と なる 中 、
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多 くの証 券 会 社 はそれ中 心 の収 益 構 造 から脱 却 しきれていない状 況 にあるといえる。対
面 営 業 中 心 の既 存 の証 券 会 社 に求 められるのは、新 しいチャネルに対 する優 位 性 を探
し出 し、それを利 用 して個 人 投 資 家 にアプローチすることである。
第 三 章 新 しいチャネルの種 類 と特 性
1、インターネット取 引
19 99 年 1 0 月 か ら 株 取 引 の 手 数 料 が 完 全 に 自 由 化 され 、そ れ に よ って手 数 料 を従
来 の証 券 会 社 に比 べ大 幅 に割 り引 いた、インターネット取 引 専 業 の業 務 を展 開 していく
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証 券 会 社 が相 次 いだ。
インターネット取 引 によって個 人 投 資 家 は、営 業 時 間 外 や休 日 でも、自 宅 や会 社 から
直 接 注 文 を出 すことができるようになり、証 券 会 社 の営 業 マンに会 ったり、電 話 で話 した
りする煩 わしさがなくなった。また、近 くに支 店 がないため口 座 を開 設 できなかった人 も取
引 が行 えるようになるなどの利 便 性 を享 受 した。証 券 会 社 にとっては、店 舗 を持 たなくて
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済 むため、不 動 産 や人 件 費 などの固 定 費 を大 幅 に削 減 でき、それによって手 数 料 の大
幅 な引 き下 げや、松 井 証 券 、カブドットコム、楽 天 証 券 が行 っている一 日 の株 の売 買 代
金 が10万 円 以 上 であれ ば手 数 料 が 無 料 となる サービスの実 施 が 可 能 と なった 。これに
よって、回 転 売 買 を行 う投 資 家 や 短 期 的 な取 引 で利 鞘 を得 よ うと する 投 機 家 を顧 客 に
取 り込 んだ。
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また、インターネット取 引 はリアルタイムで株 価 やニュースなどの市 場 情 報 を得 ることが
できたり、注 文 や売 買 結 果 、資 産 内 容 などについても、知 りたいと思 った時 に取 引 情 報
を把 握 できる。これによって個 人 投 資 家 と株 式 市 場 間 の情 報 の非 対 称 性 が解 消 され
た。
これらによって、回 転 売 買 や投 機 的 な目 的 で投 資 を行 う投 資 家 や、またインターネット
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から得 られる情 報 を理 解 し投 資 判 断 ができる株 式 投 資 に慣 れた個 人 投 資 家 など、余 分
なサ ー ビ ス は望 ん で お らず 、安 い 手 数 料 で 迅 速 に 注 文 を 執 行 す る こと を 重 視 した 個 人
投 資 家 を取 り込 み、インターネット取 引 は拡 大 していった。
しかしながら、インターネット取 引 口 座 数 は増 加 しているが、増 加 率 は年 々低 下 してお
り、さらに、インターネット 上 に複 数 の 口 座 を所 有 した1人 の投 資 家 は、1 人 と 数 えられる
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のではなく、増 加 した口 座 数 で数 えられるので、口 座 数 の増 加 がそのまま個 人 投 資 家 の
増 加 につ なが るわ けではない 。また 、最 近 で は、インタ ーネ ット 専 業 証 券 会 社 間 の 合 併
や撤 退 も相 次 いでいる。このような状 況 から判 断 すると、市 場 が飽 和 しているのではない
かと考 えられる。
ここでアメリカの例 を見 る。アメリカではITバブルによって、一 時 はインターネット専 業 証
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券 会 社 に よる 取 引 が 拡 大 したが 、200 0 年 のI Tバブ ルの 崩 壊 に よ って縮 小 の 一 途 をた
どった。相 場 が好 調 な時 、投 資 家 は自 分 の判 断 だけでもそこそこのリターンを上 げること
ができるため、手 数 料 の安 いインターネット専 業 の証 券 会 社 の取 引 が拡 大 するが、一 旦
相 場 が不 安 定 になると、投 資 知 識 のある投 資 家 でもなかなかリターンを得 ることが難 しく
なり、少 々手 数 料 が高 くても、信 頼 の置 けるフルサービスの証 券 会 社 との 取 引 に推 移 し
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てしまう。このような理 由 により、インターネット専 業 証 券 会 社 が煽 りを受 けた。
このよ うな逆 風 下 で 生 き 残 るた めに規 模 の 追 求 によりシス テムの 性 能 を向 上 させ 、迅
速 な執 行 を売 り物 にする証 券 会 社 、総 合 金 融 サービスの方 向 を追 及 する証 券 会 社 、ア
ドバ イスや 資 産 管 理 業 務 に 注 力 す る 証 券 会 社 に分 かれた 。全 体 に 共 通 す ることは、手
数 料 体 系 の見 直 しと、店 舗 の重 視 であった。チャールズ・シュワッブの「クリック・アンド・モ
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ルタル」のように最 初 から店 舗 を重 視 する証 券 会 社 もいたが、大 手 インターネット専 業 証
券 会 社 が総 じて店 舗 を重 視 するようになったのもここ数 年 の傾 向 といえる。
インターネット取 引 が飽 和 しつつある現 在 の日 本 で、新 たな顧 客 を取 り込 むためには
まず、回 転 売 買 や 投 機 家 などの従 来 の インター ネット取 引 の 顧 客 以 外 の 顧 客 のニー ズ
を把 握 することが必 要 である。ここでターゲットとなるのは、手 数 料 の安 いインターネット取
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引 に関 心 を持 つ中 高 年 層 である。
近 年 、インタ ーネット 取 引 に関 心 を持 つ 中 高 年 層 を顧 客 に 取 り込 も うと 、様 々な工 夫
を凝 らす証 券 会 社 も現 れた。
リテア・クレア証 券 はイン ターネット取 引 専 門 店 舗 を2001年 に開 店 した。「 パソコンは
苦 手 だけれど、インターネット取 引 に挑 戦 してみたい」という個 人 投 資 家 を積 極 的 に取 り
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込 むことを目 的 とし、店 舗 ではパソコン操 作 やネット取 引 の方 法 を専 属 インストラクターが
無 料 で教 えている。チャールズ・シュワブをはじめ米 国 ネット証 券 を視 察 し、いくつかの店
内 で投 資 教 育 を手 がける様 子 を見 て真 似 たという。
旧 平 岡 証 券 と旧 藍 沢 証 券 が合 併 した藍 沢 証 券 では、対 面 取 引 とインターネット取 引
の窓 口 を併 設 する店 舗 を2002年 に開 店 した。口 座 開 設 やインターネット取 引 に必 要 な
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パソコンの操 作 方 法 を助 言 し、未 経 験 者 でも一 からインターネット取 引 を学 ぶことを目 的
としたものである。また、一 つの店 舗 で 対 面 取 引 とインターネット取 引 の 両 方 を体 験 する
こと で 顧 客 が 好 み の 取 引 手 段 を選 べ る た め 、 他 の 証 券 会 社 に 顧 客 が 移 る こと も 妨 げる
利 点 がある。
また、松 井 証 券 では今 年 9月 からNTTのグループ会 社 と組 み、パソコンを新 たに購 入
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し、松 井 証 券 の 株 式 取 引 口 座 で 売 買 を希 望 す る投 資 家 を対 象 に、イン ターネット 取 引
の初 心 者 向 けに 出 張 サ ービスを始 めた 。パソコン に不 慣 れな中 高 年 層 に も手 軽 なサ ー
ビスを提 供 し、顧 客 獲 得 につなげたい考 えである。
新 たなターゲットである 中 高 年 層 を顧 客 に取 り込 むためには、まずそれ らの層 にインタ
ーネ ッ ト 取 引 の 優 位 性 を 理 解 しても らうこと か ら 始 め なけれ ば ならない 。そ のために は店
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舗 を設 置 し、既 存 の対 面 営 業 主 体 の証 券 会 社 に足 を踏 み入 れにくいと感 じていた人 や、
敷 居 が高 いと感 じていた人 が気 軽 に足 を踏 み入 れられるような店 舗 作 りをし、一 からイン
ターネット取 引 を学 べる環 境 を作 らなければならない。また、ただ単 に店 舗 を設 置 すれば
それでよいというのではなく、中 高 年 層 がどんなサービス・商 品 を欲 しがっているのかをし
っかり把 握 することや、パソコンの操 作 の分 かりや すさを追 求 することも今 後 重 要 な課 題
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となってくるだろう。
対 面 営 業 の重 要 性 クリックアンドモルタルとは
2000年 の IT バブルの崩 壊 後 、米 国 においても市 場 の低 迷 と個 人 投 資 家 が不 安 に
なるような事 件 が続 き、オンライン証 券 会 社 の取 引 は減 少 の一 途 をたどった。チャールズ
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シュワッブも例 外 なく取 引 高 の減 少 により幾 度 かのリストラを迫 られ、従 業 員 数 は一 番 多
いときの6割 にまでなった。しかし、そんな中 でも同 社 は個 人 金 融 資 産 を順 調 に取 り込 み、
資 産 残 高 は米 国 の 証 券 会 社 の 代 表 と いえ る メリ ルリ ンチの 約 7 割 に 及 ん だ。では、チ ャ
ールズシュワッブはどのようにして成 功 を修 めたのであろうか。
チャールズシュワッブはオンライン証 券 会 社 の大 手 として有 名 であるが、店 舗 を全 米 に
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約 400をも持 つディスカウントブローカーである。当 初 チャールズシュワッブは電 話 だけの
営 業 であったが、最 初 の店 舗 を開 いたところ、その周 辺 地 域 の住 民 の口 座 開 設 が増 加
したというきっかけがあった。これにより同 社 は店 舗 の重 要 性 を認 識 し、店 舗 を重 視 した
戦 略 をとることにした。そして、パソコンが普 及 するとインターネットが広 く使 われるようにな
り、同 社 はいち早 くオンライントレードに進 出 したが、既 存 の店 舗 への影 響 を考 え、オンラ
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インでの手 数 料 割 引 を2 割 程 度 に抑 え ていた。ここにネット専 業 証 券 会 社 が登 場 し、同
社 の4 分 の1と いう安 い 手 数 料 を掲 げて市 場 に 参 入 してき た 。しか し、オ ンライン 取 引 は
ある程 度 普 及 してしま うと需 要 と している 人 が 限 られているため 、頭 打 ちになってしま う。
それに対 し同 社 は口 座 取 引 や投 資 相 談 は店 舗 で行 い、取 引 はインターネットで行 なうと
いうクリック&モルタルの戦 略 をとっていたため、今 日 の成 功 があるといえる。クリックアンド
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モルタルとはインターネット上 のオンライン店 舗 と現 実 に存 在 する店 舗 を組 み合 わせて、
相 乗 効 果 をはかる手 法 のことであり、同 社 の CEO であるデビット・S・ポトラックによって表
現 された言 葉 である。
2003年 第 1四 半 期 の純 資 金 流 入 額 140億 ドルに対 し、アドバイス提 供 チャネルの純
資 金 流 入 額 は70億 ドルで、後 者 は預 かり資 産 残 高 比 でも4割 を占 めるほどとなった。こ
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のようにアドバイスに力 を入 れている背 景 には、投 資 家 ニー ズが変 化 していることがわか
る。従 来 のチャールズシュワッブの主 要 顧 客 層 は、投 資 の意 思 決 定 を自 ら行 なう投 資 家
であったが、このような投 資 家 は全 体 の2割 程 度 にしか過 ぎないことが分 かり、専 門 家 の
アドバイスを必 要 とする投 資 家 の層 が拡 大 しているため、アドバイス提 供 に力 を入 れ始 め
た。以 前 自 分 で投 資 判 断 をしていた人 でも、IT バブルの崩 壊 で手 痛 い目 に会 い専 門 家
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の意 見 を聞 きたいと 思 う人 が 増 えてきたともいえ る。さらに、ベビー ブーマ ー世 代 が 高 齢
化 してきて、その上 、確 定 拠 出 型 年 金 などを通 して証 券 市 場 に個 人 が参 入 してきている
今 、蓄 積 してきた自 分 の財 産 をどう運 用 していくかに関 心 を持 ち、専 門 家 に相 談 しなが
ら、投 資 に興 味 を持 つことは必 然 だと考 えられる。
また、違 った金 融 機 関 に資 産 運 用 を任 せきりにする投 資 家 もいる。チャールズシュワッ
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ブは2000年 に US トラスト社 を買 収 した。USトラストは老 舗 のプライベートバンクで超 富
裕 層 を主 要 顧 客 としていて、預 金 やローン等 のプライベートバンキング業 務 のほかに、一
任 運 用 も 含 め た アドバ イス 提 供 も 行 なう。この よ う な自 社 に は無 い 強 み を持 った 金 融 機
関 を買 収 することによってチャールズシュワッブはフルサービスの証 券 会 社 への転 換 をは
かった。
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チ ャー ルズシュワッ ブ はオン ライン 専 用 チ ャネ ルで 価 格 競 争 を行 な うの ではなく 、人
や店 舗 とパソコンや電 話 といったチャネルを組 み合 わせて顧 客 を獲 得 してきた。いくら取
引 手 数 料 が安 く ても、何 のアドバイスもなしにただ数 値 だけがのっているような画 面 の 上
では大 切 な資 金 を投 資 する気 にはならないであろう。以 上 のことから、今 後 の対 面 営 業
にお ける リ テー ル証 券 営 業 の 重 要 性 が 理 解 で き る 。また 、フルサ ー ビス 証 券 会 社 と して
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チャネル間 の調 整 も重 要 な問 題 となっている。顧 客 の特 性 や預 かり資 産 などから適 正 チ
ャネルを見 極 め、各 チャネルに顧 客 を誘 導 できるようになる事 が今 後 、必 要 とされるであ
ろう。
2、証 券 仲 介 業
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証 券 仲 介 業 は平 成 16 年 4 月 から施 行 された(銀 行 を除 いて)。証 券 仲 介 業 とは、「証
券 会 社 (外 国 証 券 会 社 、登 録 金 融 機 関 を含 む)の委 託 を受 けて、その証 券 会 社 のため
に 、有 価 証 券 の 売 買 お よ び 有 価 証 券 先 物 ・ オ プ ショ ン の 媒 介 、有 価 証 券 の 募 集 ・ 売 り
出 しまたは私 募 の取 り扱 いを行 う営 業 」を言 う。かいつまんで言 えば、証 券 仲 介 業 は、顧
客 を勧 誘 し、顧 客 からの証 券 取 引 の注 文 を所 属 証 券 会 社 に取 り次 ぐのである。
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証 券 仲 介 業 が解 禁 されることによって個 人 投 資 家 は、証 券 取 引 をするチャネルが広 が
ったことで今 まで以 上 に身 近 になりアクセスしやすくなったという利 便 性 を享 受 した。また
同 時 に、ともすれば「証 券 会 社 」に入 りづらかったということ個 人 投 資 家 の不 安 が解 消 さ
れた。銀 行 窓 販 の 利 便 性 と 同 じく 、株 式 等 を購 入 する 際 、金 融 機 関 か ら預 金 を引 き 出
して証 券 会 社 に入 金 す るといった手 間 が省 ける ことでの利 便 性 も 得 られ た。銀 行 などの
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仲 介 機 関 にとっては、手 数 料 収 入 という新 たな収 益 源 を獲 得 することで収 益 力 を拡 大 さ
せることができるだろう。また、地 方 に拠 点 の乏 しい大 手 証 券 会 社 にとって、地 方 に点 在
し、なお かつ 住 民 か ら 絶 大 な信 頼 を得 てい る 地 方 銀 行 や 信 用 金 庫 など の 地 域 金 融 機
関 との業 務 提 携 は魅 力 的 であり、新 たに証 券 市 場 に個 人 投 資 家 を招 き いれるチャンス
でもある。
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個 人 ・一 般 事 業 法 人 による証 券 仲 介 業 は 2004 年 4 月 に解 禁 された。この証 券 仲 介
業 制 度 を利 用 してリテール証 券 営 業 に参 入 するには、すでにある程 度 の顧 客 基 盤 を持
ち、顧 客 の資 産 状 況 を把 握 できる立 場 にある人 達 である。具 体 的 には、不 動 産 投 資 顧
問 、コンサルタント、税 理 士 、公 認 会 計 士 、保 険 会 社 などである。2004 年 8月 末 の時 点
で 、金 融 庁 へ 登 録 を 完 了 させ た 証 券 仲 介 業 者 は75 業 者 と なってい る 。 最 近 の 事 例 で
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は、最 も証 券 仲 介 業 に積 極 的 である日 興 コーディアル証 券 がコンビニエンスストアのロー
ソンと提 携 したことが挙 げられる。
(1)トヨタ自 動 車
証 券 業 への参 入 条 件 の緩 和 (免 許 制 から登 録 制 へ)と、株 式 売 買 委 託 手 数 料 自 由
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化 を背 景 に証 券 業 務 への新 規 参 入 が活 発 化 している。その中 の一 つである、メーカー
に付 随 したファイナンス業 務 へと参 入 したトヨタFS証 券 の例 を挙 げてみたいと思 う。
トヨタFS証 券 は2000年 に設 立 された、トヨタ自 動 車 グループの中 の子 会 社 である。コ
ールセンターとインターネットによる非 対 面 営 業 主 体 の証 券 会 社 であり、投 資 信 託 と個
人 向 け国 債 の販 売 を中 心 としている。ターゲットは、連 結 営 業 利 益 の約 3割 を金 融 部 門
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で稼 ぎ出 すGM並 みのビジネスモデルである。
しかしながら、低 金 利 やシステム負 担 が響 いて経 常 赤 字 続 きである。その対 応 策 として、
2003年 、「証 券 代 理 店 制 度 」を使 い、同 じトヨタ系 列 のあいおい損 保 の代 理 店 を通 じて
の投 資 信 託 などの金 融 商 品 を販 売 開 始 。約 5万 店 に上 るあいおい損 保 の店 舗 網 を活
用 し、販 売 チャネルの拡 大 を図 った。そして、同 年 6月 には米 投 資 信 託 大 手 のバンガー
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ド・グループが運 用 する複 数 のファンドを組 み入 れた株 式 投 信 を販 売 。国 内 で唯 一 、バ
ンガードの投 資 信 託 を取 り扱 ってきたマネックス証 券 の協 力 を得 て、海 外 株 の指 数 連 動
型 運 用 で高 い実 績 を持 つバンガードの知 名 度 をテコに個 人 投 資 家 の開 拓 を図 った。ま
た、2003年 から開 始 された、投 資 先 をトヨタ自 動 車 グループの上 場 企 業 に限 定 した株
式 投 資 信 託 「トヨタグループ株 式 ファンド」が残 高 を伸 ばしている。特 定 の企 業 グループ
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の株 式 で運 用 する投 資 信 託 は初 めてで、投 資 家 の注 目 を集 めている。
そして、2004年 10月 からは系 列 販 売 店 で投 資 信 託 や債 券 などの売 買 を取 り次 ぐ証
券 仲 介 業 に乗 り出 す。トヨタ系 の有 力 販 売 会 社 、名 古 屋 トヨペットが第 一 弾 として取 り扱
いを始 め、顧 客 から受 けた売 買 注 文 をトヨタFS証 券 に取 り次 ぐ。自 動 車 の購 入 者 に資
産 運 用 サービスを提 供 することで顧 客 との接 点 を広 げる目 的 である。
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金 融 というものは消 費 行 動 があって生 まれるものである。人 生 において家 を購 入 する
ことについで大 きい消 費 行 動 である車 を購 入 する場 において、資 産 管 理 も行 うことがで
きれば既 存 の証 券 会 社 では提 供 できないサービスを実 現 できるであろう。また、これは他
の不 動 産 会 社 などにも同 じことが言 えるであろう。
また、トヨタは系 列 販 売 店 を全 国 に約 5千 持 っており、野 村 証 券 (店 舗 数 129)に比 べて
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格 段 に多 いために身 近 で取 引 ができるという利 便 性 を顧 客 は享 受 することができる。
一 方 、企 業 にとっては本 業 の顧 客 へのサービスの拡 充 によって、顧 客 の満 足 度 が上 が
れば、企 業 収 益 も向 上 させることが可 能 となる。
金 融 ビジネスへの参 入 を金 融 部 分 だけの利 益 獲 得 だけを目 的 とするのではなく、有
益 なポジションで実 施 した金 融 ビジネスから得 られた利 益 を、本 業 支 援 に還 元 していくこ
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とが必 要 である。企 業 が金 融 ビジネスで既 存 の金 融 機 関 よりも強 みを持 つのは、本 業 に
おける顧 客 と接 点 があるためである。金 融 ビジネス単 体 として収 益 を追 求 し、本 業 の支
援 をおろそかにしたり、本 業 と無 縁 の分 野 に拡 大 したりすれば、本 業 から得 られる強 みも
失 われてしまうだろう。
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(2)ローソン
3、銀 行
(1)銀 行 における投 信 窓 販
銀 行 において投 信 ならびに保 険 商 品 等 を扱 うことを、「銀 行 窓 販 」という。投 信 は 1998
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年 に、保 険 商 品 は 2002 年 に銀 行 窓 販 が解 禁 された。近 年 、投 信 販 売 残 高 の銀 行 のシ
ェアは40%を超 え、銀 行 の国 民 に対 する信 頼 感 が改 めて証 明 された。
①大 手 行 の現 状
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各 大 手 金 融 グループの外 国 投 信 を含 む投 信 純 資 産 残 高 の動 きを見 ると、04 年 3 月
末 時 点 での投 信 純 資 産 残 高 は三 井 住 友 銀 行 の 2 兆 57 億 円 がトップで、これを三 菱 東
京 FG(東 京 三 菱 銀 行 ・三 菱 信 託 )が 6000 億 円 強 の差 で追 い、ついでみずほ FG(みず
ほ銀 行 ・みずほ信 託 )が 1 兆 2000 億 円 台 、UFJHD(UFJ 銀 行 ・UFJ 信 託 )が 1 兆 円 台
と なっ てい る 。 四 大 金 融 グ ルー プ 以 外 を 含 め た 大 手 金 融 機 関 全 体 全 体 で は、 前 年 同
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月 比 1 兆 9392 億 円 増 かさせている。
このように各 金 融 グループとも二 個 の 1 年 間 で順 調 に投 資 残 高 を増 加 させているが、
増 加 額 では三 菱 東 京 FG が最 も大 きく、UFJHD を追 い抜 き、三 井 住 友 に迫 る形 となって
いる。四 大 金 融 グループ以 外 では、りそな銀 行 が残 高 を大 きく増 加 させている。
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②地 域 金 融 機 関 の現 状
一 方 地 域 金 融 機 関 は、最 近 着 実 に投 信 の販 売 額 を伸 ばしてきている。04 年 3 月 末
時 点 での地 方 銀 行 64 行 (東 京 都 民 を除 き、埼 玉 りそなを含 む)の投 信 純 資 産 残 高 は 2
兆 8187 億 円 となっており、大 手 金 融 機 関 の 42.8%の水 準 となっている。1 年 前 は 2 兆
87 億 円 で大 手 金 融 機 関 の 40.5%の水 準 であり、差 を縮 めてきている。
では、銀 行 における投 信 窓 販 はどのような影 響 を与 えたのか。まず、銀 行 窓 販 によって
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個 人 投 資 家 は投 信 に対 してアクセスしやすくなるといった利 便 性 を享 受 した。証 券 会 社
の店 舗 数 は全 国 で約 2100 に過 ぎないが、銀 行 の店 舗 数 は約 14000 である。投 資 知 識
の浸 透 が不 十 分 な現 段 階 では、投 資 家 がきちんとした説 明 やアドバイスを聞 ける場 所 が
増 えることそれ自 体 に大 きな意 味 がある。投 資 家 が投 信 を購 入 するときにアクセスできる
店 舗 数 が増 え、それだけ商 品 を説 明 できる販 売 担 当 者 が増 えたことを考 えると、銀 行 の
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投 信 窓 販 は高 く評 価 することができると考 えられる。
また 、投 資 家 が 証 券 会 社 で 投 信 を購 入 す るとき は金 融 機 関 か ら預 金 を引 き 出 して証
券 会 社 に 入 金 するので そのこと は案 外 バリ アが高 い 。銀 行 で 投 信 を購 入 する 場 合 に は
銀 行 内 の資 金 移 動 で買 付 けを完 了 できるという利 便 性 のメリットがある。今 までは、預 金
から投 資 信 託 への資 金 移 動 が少 なかったのが、銀 行 における投 信 窓 販 の解 禁 によって、
15
銀 行 内 での容 易 な預 金 から投 資 信 託 へ預 け替 える流 れが実 現 したのである。
だが、投 資 信 託 への 資 金 移 動 が盛 んになった 主 な原 因 は何 であろうか 。もちろん 、上
記 で 挙 げた 利 便 性 の 享 受 や 銀 行 に おけるクロ ス セル効 果 、預 金 金 利 優 遇 などもも ちろ
んあるが、それらだけで多 くの預 金 者 が投 信 購 入 を始 めたわけではない。
投 信 窓 販 解 禁 前 までは、投 信 は認 知 度 の 低 く、株 式 よ りも 専 門 性 が高 く 高 級 な投 資
20
商 品 とみなされていた。だが、そのような投 信 を国 民 の信 頼 性 が高 い銀 行 が販 売 するこ
とによって、預 金 の延 長 線 上 の商 品 という認 識 へと変 わり、国 民 が安 心 して購 入 できるよ
うになったのである。つまり、投 信 窓 販 解 禁 の 最 大 の 効 果 は、投 資 信 託 という商 品 の 社
会 にお ける 見 え 方 、商 品 性 格 を 変 え たと い うことであ る 。それが 、銀 行 の 投 信 窓 販 が 急
増 している最 大 の要 因 である。だが、よく見 ると投 信 の全 体 の残 高 は増 加 していない。む
25
しろ 、証 券 会 社 の 販 売 残 高 減 少 傾 向 で ある 。こ れよ り、銀 行 にお ける 投 信 窓 販 は証 券
会 社 がターゲットとしている富 裕 層 や金 融 商 品 の知 識 がある層 へのイメージへはあまり影
響 を与 えていないことがわかる。つまり、銀 行 における投 信 窓 販 は金 融 知 識 の少 ない層
へのイメージを大 きく 変 えたのだ。このように、販 売 チャネルの増 加 は、時 に商 品 の性 格
転 換 を引 き起 こすことがある。
30
だが、これと同 様 に銀 行 における証 券 仲 介 業 解 禁 が株 式 という商 品 の性 格 へも似 た
ような影 響 を及 ぼすのだろうか。
銀 行 における株 式 販 売 の是 非
平 成 16 年 12 月 から銀 行 に対 して証 券 仲 介 業 制 度 が解 禁 される。これは、銀 行 による
5
投 信 (株 式 投 信 ) 販 売 解 禁 後 、今 日 まで銀 行 窓 販 による投 信 販 売 残 高 が全 体 投 信 販
売 残 高 の中 で大 きくシェアを伸 ばしていることが 1 つ要 因 となっている。この結 果 から言
えることは、私 達 にと って、銀 行 とい う金 融 機 関 がいかに身 近 なものであるかということ を
証 明 していることは間 違 いないだろう。上 記 では銀 行 における投 信 窓 販 の解 禁 によって
投 資 信 託 の性 格 に大 きな転 換 が起 こったことを述 べた。ただここで留 意 しておきたいこと
10
がある。金 融 機 関 による 投 資 信 託 の 販 売 実 績 が、金 融 機 関 に対 する 預 金 者 の 信 頼 感
と商 品 販 売 面 での安 全 性 の強 調 を背 景 とするものであれば、それを直 接 銀 行 の証 券 仲
介 業 解 禁 ( 窓 口 での株 式 の取 扱 い)に結 びつけた議 論 は大 いに危 険 性 を含 んでいると
いうことだ。というのも、投 資 信 託 というのは最 近 脚 光 を浴 び始 めている商 品 であり、その
投 資 信 託 への認 識 も薄 いものである。つまり、認 識 が薄 いということはその認 識 は容 易 に
15
変 えることができるということだ。認 識 が薄 い状 態 の商 品 はその修 正 も容 易 である。だが、
株 式 はどうであろう。例 えば、近 年 1年 間 の日 経 新 聞 で「株 式 」をキーワードに記 事 検 索
をしてみると約 11000 件 もの記 事 があるのに対 して「投 資 信 託 」はわずか約 1600 件 に留
まっているのである。さらに、バブル崩 壊 や証 券 会 社 の回 転 売 買 式 による営 業 手 法 など
によって株 式 イコー ル損 の認 識 は投 資 知 識 のあ る層 だけで なく 、日 本 国 民 全 体 におい
20
て根 強 いものとなっている。この根 強 い認 識 は簡 単 に覆 せるものではない。さらに、分 散
投 資 がしにくのも株 式 の特 徴 である。つまり、小 額 資 金 の資 産 運 用 者 をターゲットとして
いる銀 行 の 顧 客 への株 式 販 売 は投 信 には全 然 及 ばない ことが予 想 され る。たとえ銀 行
が証 券 仲 介 業 によって株 式 を販 売 しても、その残 高 は急 激 に増 えることはないだろう。
だが、銀 行 が株 式 を販 売 する動 機 は銀 行 における株 式 販 売 残 高 を伸 ばし、そこからの
25
手 数 料 を得 るということ が一 番 の動 機 で はない だろう。銀 行 が 総 合 金 融 サービス 機 関 と
なることによって、クロスセル効 果 を利 用 した顧 客 とのリレーションシップを強 めることが一
番 の動 機 であると考 えられる。
ワンストップ・ショッピングとは
30
金 融 ビッグバン などの 規 制 緩 和 によ って、金 融 業 態 間 の 垣 根 撤 廃 の 流 れが 加 速 して
いる。結 果 、銀 行 は証 券 や保 険 を自 社 の窓 口 で売 る ワンストップ化 が進 行 する。この
ように複 数 の金 融 商 品 が扱 えるようになると、商 品 の組 み合 わせ方 により独 自 の付 加 価
値 を出 すことが容 易 になり、顧 客 とリレーションシップを確 立 することができる。これをクロ
スセル効 果 という。さらに、金 融 のワンストップ化 によって金 融 機 関 はさまざまな顧 客 情 報
5
を収 集 することができる。今 後 、この膨 大 な情 報 をもとに顧 客 のニーズを探 り当 てる、 顧
客 プロファイリング能 力 が問 われるようになってくるだろう。
ここで、クロスセル効 果 についてのデータを見 てみる。
10
図1
$400
$350
$300
$250
$200
$150
$100
$50
$0
2
4
25
30
6
8
9
家計当たり口座数
20
図3
図
年間利益貢献額($)
15
クロスセルが進むほど収益は改善
2
4
6
家計当たり口座数
600
500
400
300
200
収益的な家計
平均的な家計
非収益的な家計
100
0
-100
-200
2
4
6
8
家計当たり利用商品数
クロスセルが進むほど顧客は定着化
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
家計当たり8商品以上のクロスセルの意義
8
図4
家 計 当 たり8商 品 以 上 のクロスセルの意 義
平 均 クロスセル商
収益別顧客階層
品
最 高 位 (>$1000)
7.64
上 位 ($2005.61
$999)
中 位 ($0-$199)
3.73
下 位 (<$0)
3.33
図5
家 計 当 たり8商 品 以 上 のクロスセルの意 義
■ 8商 品 を購 入 した家 計 は全 家 計 の
10.5%であるが、家 計 取 引 から得
られるリテール利 益 の31%を占 める。
■ 最 高 位 の家 計 の35%は購 入 商 品
数 が8以 上 である。
■ 最 高 位 と Exellent 家 計 の58%は購
入 商 品 数 が8以 上 である。
■ 下 位 家 計 のうち購 入 商 品 数 が8以 上
であるのは7%にすぎない。
(新 世 紀 のリテール金 融 機 関 より作 成 )
5
このようなデータからも、クロスセルの効 果 がいかに重 要 かということが分 かる。このよう
に、銀 行 は総 合 金 融 機 関 となり、顧 客 とのリレーションシップを確 立 することで収 益 改 善
を図 ろうとしている。
2、 銀 行 による「証 券 業 務 」の現 状
10
(1)銀 行 ・証 券 共 同 店 舗
証 券 市 場 改 革 促 進 プログラムの公 表 後 、2002 年 9 月 、金 融 庁 は、銀 行 の店 舗 内 に
証 券 会 社 が専 用 コーナーを設 けて、株 式 売 買 取 次 ぎ業 務 を行 うことを認 めた。いわゆる
銀 行 ・証 券 共 同 店 舗 がこれであり、このとき解 禁 が認 められた。
銀 行 ・証 券 共 同 店 舗 解 禁 の狙 いとして考 えられるのは、長 期 性 資 金 の証 券 市 場 への
導 入 が考 えられる。わが国 において、証 券 会 社 の顧 客 、銀 行 の顧 客 、郵 便 局 の顧 客 の
層 はそれぞれ独 立 していることが 考 え られる 。また、株 価 の 変 動 に 一 喜 一 憂 しないで 済
5
む はず の 一 定 の 資 産 運 用 者 ( 銀 行 に 多 大 な 預 金 をし てい る 層 ) の 金 融 資 産 を 証 券 市
場 に導 入 する、といった狙 いが考 えられる。共 同 店 舗 はそれらの個 人 投 資 家 のアクセス
を容 易 にする機 能 を持 つことが考 えられる。また、銀 行 の立 場 からものを言 えば、銀 行 店
舗 内 における証 券 営 業 は、銀 行 本 体 が投 信 を窓 口 で販 売 する「投 信 窓 販 」を中 心 にす
でにかなりの程 度 行 われている。したがって、銀 行 にとって自 行 店 舗 内 で証 券 会 社 に証
10
券 営 業 を許 すことは、投 信 窓 販 と競 合 することになることもあると考 えられる。
①大 手 銀 行 グループの動 き
2004 年 2 月 、 三 菱 東 京 フ ィ ナ ン シ ャ ル グ ル ー プ が 埼 玉 県 所 沢 市 に 融 合 型 店 舗
「MTFG プラザ」(銀 行 、証 券 、信 託 共 同 )を開 店 した。その後 開 店 から 4 ヶ月 強 で三 菱
15
証 券 の新 規 口 座 700、預 かり資 産 30 数 億 円 、この新 規 口 座 開 設 数 及 び預 かり試 算 の
増 加 額 は同 規 模 の支 店 比 較 で 2.5〜3 倍 のペースだとされる(『日 本 金 融 新 聞 』7 月 7
日 ) 。 同 支 店 で は 解 説 前 か ら 顧 客 の 同 意 を 得 て銀 行 員 と 証 券 外 務 員 との 共 同 外 交 を
行 っており、700 口 座 のうち、銀 行 からの紹 介 30%、来 店 客 36%、自 力 開 拓 34%とされ
る。また同 支 店 での手 数 料 収 入 上 位 30 口 座 のうち 4 割 は銀 行 紹 介 顧 客 であったとい
20
う。
このように見 ると、銀 行 ・証 券 共 同 店 舗 は銀 行 顧 客 の預 金 を証 券 市 場 に振 り向 ける
のにか なりの 効 果 があ ったとい うことに なる 。東 京 三 菱 は、証 券 仲 介 業 と 共 同 店 舗 の 両
面 作 戦 を取 っているのであるが、一 方 、みずほグループは証 券 仲 介 業 よりも共 同 店 舗 に
注 力 する戦 略 のようである。同 グループはこの先 、2 年 間 で共 同 店 舗 を約 100 店 、開 設
25
する計 画 とのことである。(『日 本 経 済 新 聞 』6 月 15 日 )
大 手 行 は 地 域 金 融 機 関 と 異 な り、 証 券 子 会 社 を持 っ てい る た め に 共 同 店 舗 と 証 券
仲 介 業 の両 刀 で行 っても、グループの連 結 ベースで見 ると利 益 があまり変 わらないという
ことも考 えられる。そのためにどちらに特 化 した戦 略 を取 るかなどの使 い分 けが重 要 にな
ってくる。
30
②地 方 銀 行 の動 き
一 方 、証 券 子 会 社 を持 たない地 域 機 関 は、共 同 店 舗 を持 つことよりも証 券 仲 介 業 に
積 極 的 に取 り組 むであ ろう。ただ、人 材 や 組 織 体 制 、システム 面 などで の育 成 、整 備 が
必 要 になるために初 期 投 資 を含 めたコストがかかる。また中 小 や零 細 の金 融 機 関 にとっ
て、資 金 調 達 源 は預 金 に頼 る面 が大 きいために、それらの個 人 預 金 などが証 券 投 資 等
5
に 向 か う こと は あ ま り 歓 迎 で き ない と い う 面 も あ る 。資 本 力 の 大 き い 大 手 行 だ か らこそ 共
同 店 舗 と証 券 仲 介 業 の両 刀 遣 いという戦 略 を取 ることができるというメリットがある。
③共 同 店 舗 の問 題 点
共 同 店 舗 はあくまで銀 行 と証 券 会 社 の店 舗 が物 理 的 に同 じスペースを共 有 している
10
というものに過 ぎず、取 引 口 座 や営 業 担 当 者 が共 通 になるわけではない。顧 客 に関 する
情 報 もみだりに共 有 化 されるわけではない。
そこで、共 同 店 舗 の 問 題 点 として、顧 客 が銀 行 と証 券 会 社 の 窓 口 を混 同 し、実 際 に
は証 券 投 資 商 品 なのに 元 本 保 証 のあ る 銀 行 預 金 だ と 勘 違 いする ことが 上 げられる 。そ
の問 題 に 対 しては、金 融 機 関 に 対 して大 きく2 つの誤 認 防 止 措 置 が 義 務 付 けられてい
15
る。具 体 的 に、銀 行 と証 券 会 社 の窓 口 の区 別 、業 務 主 体 が証 券 会 社 であることの表 示
など適 切 な措 置 を講 じていること、顧 客 に対 して当 該 銀 行 と 当 該 証 券 会 社 は別 法 人 で
あり、当 該 証 券 会 社 提 供 する商 品 やサービスは当 該 銀 行 が提 供 しているものではないこ
とを十 分 に説 明 している こと、というガイドラインを定 めている。さらに、銀 行 員 に対 しても
証 券 外 務 員 と同 等 の知 識 や経 験 が要 求 されるわけで、教 育 、訓 練 などの面 での余 分 な
20
費 用 が発 生 することになる。つまり、銀 行 、証 券 の両 カウンターにおいて同 水 準 のコンプ
ライアンス体 制 が必 要 となってくるのだ。
また、顧 客 情 報 の共 有 、共 同 営 業 は顧 客 からの書 面 による同 意 が必 要 となっている。
これ らを徹 底 す る こと で 誤 認 と い うこと に 関 して は未 然 に 防 ぐ こと は 十 分 に 可 能 で あ る と
考 える。
25
さらに、親 子 関 係 にある銀 行 と証 券 会 社 との間 で生 じる恐 れのある弊 害 防 止 措 置 (い
わゆるファイヤーウォール)がある。このファイヤーウォールによって、「利 益 相 反 に関 する
開 示 義 務 違 反 」や「親 子 関 係 を利 用 した抱 き合 わせ販 売 」、「親 子 間 における顧 客 に関
する非 公 開 情 報 の授 受 」などが規 定 、規 制 されている。
30
(2)証 券 仲 介 業
これまで、銀 行 等 の金 融 機 関 本 体 が例 外 的 に行 える証 券 業 務 とは、①公 共 債 等 、CP、
資 産 流 動 化 証 券 等 にか かる売 買 、証 券 取 引 所 における売 買 の 委 託 ( 先 物 ・オプ ション
を含 む )の 媒 介 ・ 取 次 ぎ 、引 受 、 売 出 、募 集 の 取 扱 ならび に② 投 資 信 託 の 売 買 と 委 託
の媒 介 ・ 取 次 ぎ、募 集 の取 扱 (いわゆる銀 行 窓 販 )、③公 共 債 等 の店 頭 デ リバティブ取
5
引 、と なっていた 。これらの業 務 は政 府 への 登 録 によって行 うことができる ( 登 録 制 )が 、
①における元 引 受 、③の店 頭 デリバティブ取 引 は認 可 を要 する(認 可 制 ) こととなってい
た。
今 回 、証 券 仲 介 業 の導 入 によって銀 行 が営 みうる証 券 業 務 として、あらたに外 国 国 債 、
民 間 社 債 、 株 式 に つ い て「 証 券 会 社 の 委 託 を 受 けて 行 う 売 買 の 媒 介 、 証 券 取 引 所 に
10
おける売 買 の委 託 の媒 介 、募 集 の取 扱 」(証 券 仲 介 業 務 )が加 わったのである(65 条 第
2 項 3 号 、4 号 )。そして、これら外 国 国 債 、民 間 債 、株 式 にかかる証 券 仲 介 業 務 は、当
初 、言 われていたような認 可 制 ではなく登 録 制 でよいことになった。
以 上 の 結 果 、銀 行 は証 券 リテー ル業 務 にお いて引 き 続 き 本 体 で 投 信 を販 売 できるほ
か、株 式 、民 間 社 債 及 び外 国 国 債 の販 売 についても(イ)証 券 会 社 との共 同 店 舗 もしく
15
は(ロ ) 証 券 仲 介 業 、あ るい は勧 誘 行 為 を 伴 わ ない ( ハ ) 書 面 取 次 ぎ 、( ニ) 市 場 誘 導 ビ
ジネス等 の多 面 的 な方 法 で取 り扱 うことができるようになった。こうした新 たな変 化 を受 け
て銀 行 はどのような動 き を見 せているのだろうか。ここで大 手 行 と 地 銀 の それぞれの動 き
について見 ていきたい。
20
①大 銀 行 グループの動 き
りそなグループ 4 行 (りそな、埼 玉 りそな、近 畿 大 阪 、奈 良 )は松 井 証 券 と提 携 し、りそ
な銀 行 等 の窓 口 で証 券 口 座 開 設 の受 付 と松 井 証 券 への口 座 開 設 書 類 の送 付 業 務 を
2004 年 5 月 初 旬 から開 始 した。この口 座 開 設 受 渡 事 務 代 行 に対 して、りそな 4 行 は口
座 開 設 完 了 ごとに手 数 料 として松 井 証 券 から一 口 座 当 たり 3000 円 を受 け取 る、という
25
(日 本 経 済 新 聞 3 月 12 日 )。これは松 井 証 券 に対 する顧 客 紹 介 であって、解 禁 された
市 場 誘 導 ビジネスを適 用 したものと考 えられる。
次 に、証 券 仲 介 業 参 入 に備 えて、東 京 三 菱 銀 行 は子 会 社 の三 菱 証 券 に 300 人 規 模
の、同 様 に UFJ 銀 行 も兄 弟 子 会 社 の UFJ つばさ証 券 に約 100 人 の人 材 派 遣 を要 請 し
たとされる。(『日 本 経 済 新 聞 』5 月 28 日 、31 日 )。すでに見 たように、投 信 窓 判 を本 体 で
30
行 っている 銀 行 が改 めて証 券 仲 介 業 に乗 り出 す 意 義 は、投 信 以 外 の 外 債 や民 間 際 さ
らに は 株 式 を 銀 行 窓 口 で 販 売 した い か らで あ る が 、こう した 金 融 商 品 の 販 売 は 商 品 知
識 や販 売 スキルの面 で特 殊 な技 能 が必 要 であり、また固 有 のコンプライアンス体 制 が整
備 されていなければならないので、そういった面 でこれを担 う人 材 を証 券 会 社 サイドに依
存 せざるを得 ないということであろう。三 井 住 友 銀 行 も SMBC フレンド証 券 を軸 にほかの
5
証 券 会 社 と 友 証 券 仲 介 業 を は じめ と す る 業 務 提 携 に 乗 り 出 す と され る ( 『 日 本 経 済 新
聞 』7 月 13 日 )。
他 方 、証 券 仲 介 業 と 銀 行 ・ 証 券 共 同 店 舗 は銀 行 店 舗 内 での 株 式 、外 債 を含 めた 証
券 販 売 を可 能 にする代 替 的 な方 法 であるが、収 益 的 には手 数 料 収 入 が見 込 める証 券
仲 介 業 の方 がメリットは大 きいと考 えられる。しかし、参 加 に証 券 子 会 社 を持 つ大 銀 行 グ
10
ループにとって、グループ全 体 の連 結 ベースで見 れば同 じことになる。そこで大 銀 行 グル
ープと してはそれまでの 奇 異 や 状 況 を判 断 しながら、証 券 仲 介 業 と 共 同 店 舗 を使 い 分
けていくだろう。
②地 方 銀 行 の動 き
15
地 方 銀 行 を見 ると、傘 下 に証 券 子 会 社 もしくは系 列 会 社 を抱 え、共 同 店 舗 を解 説 し
ているのは一 部 に限 られている(静 岡 銀 行 と静 銀 ティーエム証 券 、千 葉 証 券 と中 央 証 券
など)。したがって、投 信 以 外 の証 券 販 売 を扱 おうと思 えば、証 券 子 会 社 を持 たない多 く
の地 銀 、第 二 地 銀 に と って、共 同 店 舗 よ り証 券 仲 介 業 の ほ うを志 向 する ことに なるだろ
う。
20
地 銀 は、当 該 地 域 における稠 密 な店 舗 網 を持 っていることに加 え、大 銀 行 グループ
とは違 って傘 下 に証 券 子 会 社 を持 っているのは少 ない。そこで、証 券 会 社 にとって地 銀
は証 券 仲 介 行 の提 携 先 として極 めて魅 力 的 であ り、大 手 から地 場 中 小 に いたるまで多
くの証 券 会 社 は地 銀 との証 券 仲 介 に関 する提 携 に極 めて熱 心 である。例 えば、野 村 證
券 は、証 券 仲 介 に関 する地 銀 との提 携 交 渉 部 隊 (30 人 規 模 )の専 門 部 署 を立 ち上 げ
25
る予 定 との報 道 もある。(『日 本 経 済 新 聞 』6 月 11 日 )。
ところで、地 銀 との提 携 に関 し、証 券 会 社 サ イドとして考 慮 しておか なければならない
固 有 の注 意 点 がいくつかある。第 1 に、証 券 仲 介 業 は勧 誘 行 為 のみを行 い顧 客 の証 券
口 座 は提 携 先 証 券 会 社 に開 設 されるので、地 銀 としては自 らの顧 客 基 盤 を証 券 がイオ
者 に奪 われるのではないかという危 惧 を持 つだろう。第 2 に、証 券 仲 介 業 (および共 同 店
30
舗 )によ ってしか 取 り扱 え ない 株 式 や 外 債 はその 価 格 変 動 要 因 ・リ スク 要 因 の 複 雑 さの
ため固 有 の商 品 知 識 、説 明 能 力 を持 つ人 員 ならびに固 有 の法 令 順 守 体 制 が必 要 であ
り、そうした人 材 研 修 プログラムならびにコンプライアンス体 制 を提 供 できる証 券 会 社 との
提 携 を望 むであろう。
以 上 のように見 ると、大 手 行 、地 銀 でそれぞれこの証 券 仲 介 業 解 禁 は意 味 が異 なる。
5
大 手 行 は証 券 仲 介 業 と共 同 店 舗 を使 い分 け、地 域 によって支 店 数 、人 員 、整 備 ・体 制
等 で 異 なるた めよ り収 益 を挙 げられる 方 法 で 使 い 分 ける ことに なる 。証 券 子 会 社 を持 た
ない地 銀 は、積 極 的 に証 券 仲 介 業 に取 り組 むと考 えられる。地 方 に支 店 数 が少 ない大
手 証 券 会 社 は積 極 的 に地 方 金 融 機 関 に手 を伸 ばすだろうし、手 数 料 収 入 を見 込 める
地 銀 はそれを受 け入 れ提 携 を結 ぶことになるだろう。証 券 会 社 、共 同 店 舗 の存 在 しなか
10
った地 方 において証 券 仲 介 業 解 禁 は非 常 に大 きな意 味 を持 つのは間 違 いない。
③銀 行 における証 券 仲 介 業 の問 題 点
まず、第 一 に銀 行 預 金 との誤 認 が 挙 げられる。だが、これへの対 応 策 は投 信 窓 販 や
共 同 店 舗 解 禁 に際 に、すでに防 止 措 置 が導 入 済 みであって、この点 に関 して問 題 が起
15
こったという事 件 は無 かったため、別 途 で新 たに問 題 になることは少 ないだろう
第 二 に 、 利 益 相 反 の 問 題 が あ る 。 利 益 相 反 と は 自 らの 取 引 先 で あ る 破 綻 企 業 が 証
券 発 行 を行 い 、これに よ って得 た 資 金 で 焦 付 き 債 権 を回 収 しなが ら、証 券 仲 介 業 にお
いて当 該 企 業 発 行 の新 規 証 券 の勧 誘 を行 う、というものである。
また 、複 雑 な価 格 変 動 要 因 を持 った 証 券 の 知 識 、説 明 能 力 を持 った 人 材 育 成 、費
20
用 対 効 果 を考 えたコンプライアンスなどの問 題 もある。アメリカにおける証 券 会 社 の IC の
利 用 は、高 いコンプライアンスコストが発 生 する ため、決 して収 益 性 の高 い業 務 とはなっ
ていないようである。証 券 仲 介 業 者 が顧 客 に与 えた損 害 については所 属 証 券 会 社 が責
任 を負 うことになっているため、証 券 会 社 にとってコンプライアンスコストが最 大 の課 題 で
ある。
25
だが 、よく 考 え てみ る と これ らの 問 題 は何 も 銀 行 によ る 証 券 仲 介 業 者 に 限 った もので
はない。利 益 相 反 にせよ 、コンプライアンスコスト にせよ、他 の証 券 仲 介 業 者 にも発 生 し
る問 題 なのだ。
また、銀 行 が 証 券 仲 介 業 務 と して典 型 的 なリス ク商 品 である 株 式 を取 り扱 う場 合 、銀
行 に 対 する 預 金 者 の 信 頼 感 は、新 規 の 個 人 投 資 家 を獲 得 するための有 力 な手 段 ( 特
30
効 薬 ) と なる 可 能 性 が 高 い 。しか し、 一 方 で 一 旦 その 期 待 が 裏 切 られ たと きに は、証 券
市 場 と銀 行 に対 する著 しい不 信 感 に激 変 しかねない。このように、証 券 仲 介 業 解 禁 は、
明 るい見 通 しもあるが、不 安 材 料 も含 んでいると思 われる。しかし、今 後 、証 券 市 場 を活
性 化 させるためにはこの制 度 を生 かし、新 規 顧 客 をはじめとした顧 客 数 を広 げることが重
要 であると思 う。
5
まとめ
このように、規 制 緩 和 が行 なわれると共 に、金 融 機 関 は顧 客 のあらゆる金 融 サービスを
提 供 す る ワ ン ス ト ッ プ ・ シ ョッ ピン グ を標 榜 す る だ ろ う。あ らゆ る 金 融 ニ ー ズに 一 括 して対
応 するという顧 客 の利 便 性 がうたわれると同 時 に、金 融 機 関 自 身 にとっても、金 融 コング
10
ロマリット化 することによる相 乗 効 果 やビジネス分 野 の分 散 による事 業 の安 定 が期 待 され
る。
だが 、大 き な問 題 が 残 っている 。上 記 でも 見 てきたタ イイングの 問 題 で ある。アメリ カで
は1990年 代 以 降 、大 手 銀 行 の 買 収 ・ 合 併 により、銀 行 ・ 証 券 ・ 保 険 などの金 融 サービ
ス を幅 広 く 提 供 す る 総 合 金 融 機 関 が 誕 生 した 。だ が 、そ の 総 合 金 融 機 関 も エ ン ロ ン の
15
破 綻 を契 機 にそのあり方 が問 い直 されようとしている。なんと総 合 金 融 機 関 となっていっ
たJPモルガンや シティグ ループ はエンロ ンのプリ ペイド取 引 と 呼 ばれる 不 正 会 計 へ 加 担
する事 によって、利 益 相 反 行 為 を行 なっていたのである。結 果 、エンロンの破 綻 はアメリ
カにおける株 式 市 場 への、そして株 式 会 社 への信 頼 というものを失 わせた。日 本 の株 式
市 場 はただでさえ信 頼 が無 く、これから信 頼 を獲 得 していこうという所 である。その中 で、
20
コンプライアンスの十 分 な徹 底 がされていなく、日 本 でも同 じような問 題 が発 生 してしまっ
てはおしまいである。金 融 ビッグバンや証 券 市 場 の改 革 促 進 プログラムにも共 通 するが、
その共 通 目 標 とは 証 券 市 場 活 性 化 である。だが、今 証 券 市 場 活 性 化 という目 標 を
達 成 するための手 段 で あるはずの規 制 緩 和 が足 かせとなってしまう恐 れがある。もし、そ
の 手 段 を 有 効 に 利 用 す る ならば 、 銀 行 ・ 証 券 な どの 兼 業 が も た らす 利 益 相 反 を 排 除 と
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総 合 的 なサービ ス 提 供 の利 点 の 間 で 、いかにバランスを取 っていくかとい う事 が 不 可 欠
となるだろう。
第 四 章 チャネルを拡 充 させる要 因 商 品 ・サービスの充 実
序 章 で は、チ ャネ ルの 真 の 拡 充 のた めに は、実 際 に 提 供 され てい る 商 品 ・ サ ー ビ スが
充 実 されていなければ、チャネルの拡 大 も意 味 が無 いことを述 べた。では、従 来 証 券 会
社 で主 に取 り扱 っていた 株 式 や債 券 を中 心 とした商 品 に新 たにどのような動 きがあった
5
のか。また、顧 客 を取 り込 むために新 たにどのようなサービスが提 供 されてきているのだろ
うか。
商 品 の充 実
ETF
ETF とは株 価 指 数 の動 きに連 動 することを目 的 に運 用 される投 資 信 託 で、取 引 所
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に上 場 され 売 買 される 商 品 であ る 。メリ ット と して、株 価 指 数 の 動 き に 連 動 す るのでわ
かりやすい点 、分 散 投 資 によりリスク分 散 できる点 、少 額 投 資 でファンドマネージャーと
同 様 の 売 買 が 可 能 に なる点 、東 証 で 立 会 時 間 中 にいつ でも 売 買 が 可 能 な点 、信 用
取 引 が可 能 な点 、証 券 会 社 を選 ばない点 が挙 げられる。このように、日 経 平 均 などに
連 動 していて常 に株 価 が身 近 になるため、証 券 の入 門 としても大 きな効 果 を発 揮 して
15
いる。
この他 にも、個 人 向 け国 債 や保 険 会 社 と提 携 した保 険 商 品 、さらに投 資 信 託 もRE
ITを中 心 として、個 人 のニーズにあった投 資 信 託 商 品 が充 実 している。
サービスの充 実
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ラップ口 座
ラップ口 座 とは、証 券 会 社 が投 資 家 の資 産 を丸 ごと預 かり、一 任 勘 定 で運 用 する口
座 のことである。証 券 会 社 は投 資 アドバイス料 、売 買 に伴 う手 数 料 、口 座 管 理 料 など
を投 資 家 の 預 か り 総 資 産 何 % か を 年 間 報 酬 と して 受 け 取 る 。つ ま り、 投 資 家 の 総 資
産 を増 やす 事 が結 果 的 に証 券 会 社 の収 益 増 に つながるのだ。これによって、証 券 会
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社 が手 数 料 獲 得 目 的 に短 期 の回 転 売 買 を繰 り返 すのを防 ぎ、投 資 家 と証 券 会 社 の
利 害 の一 致 をもたらすため、投 資 家 にとってもメリットが大 きい。証 券 会 社 としては大 和
証 券 が始 めて9 月 よ りサ ービスを開 始 している 。最 低 契 約 高 は5000 万 円 で、当 面 富
裕 層 を対 象 にサービスを提 供 していく方 針 である。このサービスを導 入 することで証 券
会 社 に個 人 の長 期 資 金 を流 入 させ、証 券 会 社 が資 産 管 理 ビジネスを確 立 できる幅 を
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広 げたのである。
ミニ株 ・るい投
ミニ株 とは 10 分 の1単 位 で株 が買 える制 度 のことである。メリットとしてはこれまで高
値 で手 の出 なかった株 式 が買 えることと、同 一 金 額 でも銘 柄 を分 けてけるのでリスク分
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散 になるということが考 えられる。
また、るい投 とは投 資 家 の少 額 資 金 を集 め、毎 月 一 定 日 に特 定 銘 柄 の株 式 を買 い
付 ける制 度 で、買 い付 け株 数 の累 計 が単 位 株 に 達 した段 階 で、名 義 変 更 することに
より通 常 の株 主 となる制 度 である。一 万 円 (一 銘 柄 )、1000円 単 位 の少 額 資 金 で株 式
投 資 が可 能 であり、自 己 の持 分 の売 却 も 売 却 申 込 日 の良 く 営 業 美 の寄 付 値 で 可 能
10
である。
これらの2つのサービスは、資 産 が少 なくて証 券 を買 いにくく、分 散 投 資 ができない投
資 家 層 を取 り込 むためのサービスである。例 え ば、学 生 などで資 金 が少 ない人 などは
このサービスを受 けることによって証 券 を買 いやすくなったのである。
この他 にも、証 券 税 制 を簡 単 にするための特 定 口 座 や個 人 向 け401kに対 応 したサ
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ービス、さらにファイナンシャルアドバイザーを利 用 した営 業 員 の質 向 上 のための制 度
など多 くのサ ービ スの 充 実 が 図 られ ている 。さらに、松 井 証 券 で は独 自 の強 みを生 か
してボックスレートの手 数 料 体 系 や 預 株 、無 期 限 信 用 取 引 、さらに10万 円 以 下 売 買
手 数 料 無 料 といったサービスを提 供 している。
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PTS
P TS と は「 電 子 情 報 処 理 組 織 を利 用 し て、 同 時 に 多 数 の 者 を 一 方 の 当 事 者 ま た
は各 当 事 者 と して一 定 の売 買 価 格 の決 定 方 法 またはこれに類 似 する方 法 により行 う
も の 」 と され 、 証 券 取 引 所 と 似 た 売 買 施 設 を 保 有 す る も の 、 一 定 の 範 囲 の 売 買 手 法
及 び売 買 数 量 に留 まることから、証 券 業 者 として認 可 されるものである。日 本 において
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も、アメリカ同 様 、インターネットの急 速 な普 及 に伴 って、時 間 外 取 引 に対 する潜 在 的
な需 要 も視 野 に入 れたPTS創 設 の動 きが見 られた。これによって、昼 の時 間 帯 に忙 し
い顧 客 層 などのニーズに応 えることが可 能 になった。
銀 行 における商 品 ・サービスの充 実 法 人 を中 心 に
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シンジケートローン
日 本 に お ける シン ジケ ート ロ ーン 市 場 は1 99 7 年 の23 00 億 円 か ら2 00 3 年 に は1 5 兆
円 と拡 大 しており、世 界 第 三 の市 場 となった。今 日 では、社 債 と並 ぶ資 金 調 達 手 段 とし
て位 置 づけられており、今 後 一 層 の拡 大 が見 込 まれている。また、最 近 ではシンジケート
ローンの流 通 市 場 である貸 出 債 権 市 場 も広 がりを見 せている。そして、流 通 市 場 が発 達
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することによって、金 融 仲 介 に関 わるリスクとリターンが市 場 を通 じて投 資 家 に移 転 され、
社 会 全 体 でリスクを負 うことで、よりバランスの取 れたものになる。
また、シン ジケートロー ンによる新 た な金 融 商 品 ができることで、投 資 家 の資 産 運 用 の
多 様 化 ・効 率 化 が図 られるとともに、ポートフォリオのリスク分 散 が可 能 となる。
さらに、資 金 調 達 者 へは財 務 体 質 の改 善 、資 金 調 達 の柔 軟 性 そして更 なる付 加 価 値
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向 上 の 機 会 を与 える 事 ができる。さらに 、大 企 業 だけではなく 中 小 企 業 に も市 場 を通 じ
た資 金 調 達 、 市 場 型 間 接 金 融 を行 うことができるようになるのだ。
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証券化
証 券 化 とは企 業 の資 金 調 達 手 段 の一 つで、企 業 が持 っている資 産 の一 部 をもとにし
て新 しい証 券 を作 成 し、これを売 却 して資 金 を調 達 する。よ って、中 小 企 業 などの 信 用
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力 の 低 い 企 業 でも 、優 良 な資 産 を持 っていれ ばこれを証 券 化 すること で資 金 調 達 が 可
能 となる。
証 券 化 商 品 の市 場 規 模 としては、日 銀 が発 表 する資 金 循 環 統 計 の「債 券 流 動 化 関
連 商 品 」の残 高 は、2002年 度 末 で25兆 円 弱 であった。株 式 、事 業 債 、金 融 債 の市 場
規 模 と比 べると、金 融 資 産 全 体 に占 める割 合 はいまだに大 きくない。最 も証 券 化 が進 ん
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でいる米 国 の市 場 規 模 は2002年 度 末 において約 685兆 円 となっている。
しかしながら、日 本 における証 券 化 商 品 の発 行 額 は着 実 に増 加 を続 けており、2002
年 には4.6兆 円 の規 模 に達 した。特 に顕 著 なのは一 般 債 権 ・債 券 及 び住 宅 ローンによ
るものである。
また、流 通 市 場 では、不 動 産 投 資 信 託 を除 き、取 引 所 での集 中 売 買 が行 われていな
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いのが現 状 である。これは、商 品 および取 引 内 容 が複 雑 であり多 岐 にわたるため、取 引
所 取 引 になじまない性 格 を持 つためである。よって、店 頭 における業 者 間 の相 対 取 引 の
みが流 通 市 場 を形 成 していると言 える。
購 入 主 体 は、非 金 融 法 人 、金 融 機 関 がほとんどである。この理 由 は、証 券 化 商 品 が
複 雑 な仕 組 みを持 っており、十 分 に説 明 責 任 を果 たせないため、家 計 部 門 に販 売 しづ
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らいことなどである。よって、現 時 点 ではほとんど債 権 流 動 化 関 連 商 品 を保 有 していない
が、個 人 投 資 家 の今 後 の潜 在 的 なニーズを持 つのは投 資 信 託 であるといえる。
このように、既 存 証 券 会 社 はチャネルを多 様 化 させ、そのチャネルにあった商 品 ・サー
ビスを提 供 することによって多 くの顧 客 層 を取 り込 もうとしている。また、オンライン証 券 会
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社 も 手 数 料 による差 別 化 を図 りつつ 、既 存 の 証 券 会 社 では提 供 できないサービスの提
供 に努 め ている。このように、個 人 が証 券 市 場 に入 りやすい 環 境 は整 い つつあるのであ
る。では、なぜ日 本 の個 人 投 資 家 は証 券 市 場 を避 けるのか。日 本 の株 式 市 場 を振 り返
ると、1960年 代 の証 券 民 主 化 運 動 、70年 代 初 頭 の時 価 発 行 増 資 の盛 況 、80年 代 後
半 のワラント債 や転 換 社 債 といったエクイティ・ファイナンスのブーム、2000年 春 にはネッ
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トバブルが急 騰 、近 年 ではインターネット取 引 の活 発 化 など多 くの要 因 がありながら、証
券 市 場 が社 会 に根 付 きはしなかった。では、銀 行 のチャネルは浸 透 している反 面 、証 券
のチャネルはなぜ社 会 に根 付 か なかったであろうか。次 の章 では、証 券 販 売 チャネルの
拡 充 が与 えた影 響 を見 ると共 に、日 本 の証 券 市 場 について見 てみる。
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第 五 章 証 券 販 売 チャネルの拡 充 はどのような影 響 をもたらすか
1、証 券 市 場
(1)証 券 市 場 の構 造 上 の問 題
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日 本 の株 式 市 場 の構 造 上 の問 題 は浮 動 株 が少 ないという事 である。それは、株 式 の
大 半 が流 通 に出 てこないということであり、比 較 的 少 ない株 式 で価 格 が形 成 されていると
いうことだ。当 然 ながらそのような市 場 は大 量 の売 りが入 った場 合 、市 場 はそれに対 して
脆 弱 性 が顕 著 に表 れてしまう。
例 えば100万 株 が流 通 している市 場 に1万 株 の売 り需 要 が出 ても、売 り需 要 はすぐに
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吸 収 され てしま うが、2 万 株 しか 流 通 していない 市 場 に、1 万 株 の 売 り需 要 が出 たら、市
場 はそれを吸 収 できずに株 価 は暴 落 してしまう。株 式 というのは一 物 一 価 の法 則 が成 り
立 つ 。一 物 一 価 の 法 則 のもとで は、た と え 少 ない 流 通 量 で 決 ま った 株 価 であっても 、そ
れによって全 体 の株 式 の価 値 が決 まってしまう。つまり、日 本 の 株 式 市 場 は売 り圧 力 に
弱 く、株 価 の乱 高 下 が激 しい市 場 といえる。日 本 の市 場 がそのようになった背 景 には株
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式 持 ち合 いがある。
今 後 、日 本 は401kの導 入 や年 金 改 革 等 により、個 人 は長 期 投 資 を嗜 好 するようにな
るだろう。年 金 の 受 取 額 の減 少 により、個 人 はリ スクを取 りながら自 己 責 任 のもとで資 産
運 用 を迫 られる 。そ れ は、個 人 に と って証 券 の 存 在 感 が 増 してく る こと を意 味 す る 。もし
個 人 が運 用 で株 式 を選 択 した際 、現 状 の株 式 市 場 のままでは大 変 なことになるだろう。
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株 価 の乱 高 下 が激 しいということは売 りたいときに売 りたい価 格 で売 れなくなる可 能 性 が
高 くなるとい うことである。1 週 間 後 、どうしても 資 金 が 必 要 な際 に株 価 が 大 きく 低 迷 して
いたら個 人 の資 産 総 額 は大 きく減 額 してしまう。 投 機 筋 の強 い株 式 市 場 では長 期 投 資
の個 人 投 資 家 は火 傷 を負 い、株 式 市 場 から去 っていってしまうだろう。
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(2)証 券 市 場 参 加 者 の問 題 点 〜株 価 への不 信 〜
近 年 、自 己 責 任 という言 葉 をよく聞 く。広 範 な投 資 家 を集 めることによってリスクを分 散
し、証 券 市 場 を活 性 化 させることで日 本 経 済 回 復 を目 指 している 中 、個 人 に自 己 責 任
を持 たせるためにも市 場 への信 頼 を回 復 しなければいけない。日 本 の 株 式 市 場 では個
人 との情 報 の非 対 称 性 や証 券 会 社 の情 報 仲 介 者 責 任 、証 券 会 社 のノルマ営 業 、政 府
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の株 価 の 買 い 支 え 、取 引 値 幅 制 限 、投 資 教 育 など多 くの 問 題 か ら証 券 市 場 の 公 正 な
株 価 形 成 を妨 げている 。つまり、それは株 価 の 公 正 性 を失 わせ ている こと を意 味 するの
である。
市 場 への信 頼 は株 価 への信 頼 である。個 人 が多 くの情 報 を集 めて株 式 に投 資 をして
も、その株 価 が適 正 でなかったらその行 為 は全 く意 味 のないものとなる。株 価 とは本 来 、
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多 くの 情 報 を 反 映 させ た 企 業 評 価 の 指 標 で なけ れば ならない 。だ が 、そ の 指 標 が 適 正
でなかったら、株 式 投 資 は単 なるギャンブルとなってしまうし、株 式 が資 産 形 成 の一 つと
して使 われることは少 なく なるであろう。現 に、日 本 の株 式 市 場 への市 場 参 加 者 は外 国
人 投 資 家 や一 部 のデイトレーダー、また証 券 会 社 のディーラーなどによる投 機 家 が主 体
となっている。
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(3)問 題 の本 質 〜株 式 会 社 の危 機 〜
だが、株 式 市 場 の問 題 の本 質 は個 人 投 資 家 や市 場 などではなく株 式 会 社 そのもので
はないだ ろ うか 。株 式 市 場 を作 ってい る の は株 式 会 社 で あ り、株 式 市 場 の 問 題 は 株 式
会 社 の問 題 でもある 。そ もそも、株 式 持 ち合 いも 敵 対 的 買 収 防 止 のためや物 言 わぬ 株
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主 作 りの た め に 株 式 会 社 自 身 が 行 ってい た も の で あ る 。そ の 結 果 、 形 骸 化 され た 株 主
総 会 はもはや経 営 者 によるフィクションでしかなくなっている。さらに、株 主 総 会 は6月 の
下 旬 の 特 定 の 日 に限 定 されてしまい、分 散 投 資 を試 みても1つの株 主 総 会 にしか出 席
できないという事 態 を起 こしているのだ。
私 自 身 も過 去 2度 、株 主 総 会 に行 ったことはある。2年 前 、業 績 も好 調 であった某 おも
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ちゃ 会 社 の 株 主 総 会 で は厳 しい 質 問 も なく 穏 や かに 総 会 は 終 わ った 。だ が 最 近 、そ の
会 社 の業 績 は急 落 したのである。本 当 に追 求 す る問 題 はなかったのか、経 営 陣 は言 及
され る 必 要 性 はなか った のか 、本 当 に 否 決 す る 人 間 はい なか ったの かと 様 々 なと ころに
疑 問 が 残 る 。また 、今 年 の6月 、株 価 が 数 円 で 赤 字 続 きの 某 シス テム 会 社 の 株 主 総 会
において、総 会 屋 に近 い3人 の人 物 が発 言 を試 みていたが、最 後 には経 営 者 は彼 らを
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無 視 するかのように無 理 矢 理 総 会 を終 了 させたのである。興 味 のない株 主 、否 決 の通 ら
ない株 主 総 会 、株 式 会 社 の最 高 の決 議 機 関 である株 主 総 会 の現 状 を見 ると、やはり株
式 会 社 は危 機 的 状 況 にあるといえる。
また 、三 菱 自 動 車 の リコ ール隠 しや 山 一 證 券 の 飛 ば し、雪 印 食 品 ・ 日 本 ハムの 牛 肉
偽 装 事 件 など多 くの ス キ ャンダ ルが 横 行 してい る のも 現 状 だ 。経 営 者 の モラルハザー ド
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により不 正 を隠 し、利 益 を出 しているように見 せる。もちろん株 価 は実 体 と乖 離 したものと
なってしまう。
このような事 件 はアメリカでも起 こった。2001年 12月 のエンロン倒 産 、2002年 7月 の
ワールドコム 倒 産 である 。エン ロンの 経 営 者 はアーサー・ アンダ ーセンと 共 謀 し、粉 飾 決
算 によって利 益 と株 価 を高 く見 せた。株 価 操 作 をした彼 らはストックオプションを利 用 し、
5
莫 大 な利 益 を得 ていたのである。その裏 には、401Kによってエンロン株 に投 資 していた
従 業 員 がいた。彼 らが 持 っていたエンロン 株 はた だの紙 切 れとなってしま ったのである。
数 々の市 場 スキャンダルに揺 れるアメリカだが、それをカバーしている存 在 がある。それは
問 題 が起 こったら迅 速 に対 応 するSECを始 めとした官 の存 在 である。日 本 にもSECと似
た証 券 取 引 等 監 視 委 員 会 とい う市 場 監 視 機 関 はある。だが、SEC は約 3000人 もいる
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職 員 は、 証 券 取 引 等 監 視 委 員 会 はわ ず か 2 5 0 人 程 度 に と どま ってい る 。さらに 、 証 券
取 引 等 監 視 委 員 会 は司 法 的 権 限 を持 た ないため、その権 限 はまだ小 さいものにとどま
っている。
(4)証 券 市 場 への影 響
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証 券 市 場 の活 性 化 とは実 体 経 済 を反 映 し、個 人 が株 式 を売 買 したいときに大 きな価
格 のインパクト を伴 わず に、情 報 を広 く反 映 され た公 正 な価 格 で 売 買 で きることである。
証 券 販 売 チ ャネ ルの 拡 充 は個 人 にと って証 券 の購 入 意 欲 を高 め 、市 場 の 使 い 勝 手 を
よく する 。だ が 、そ れはそ の 他 の 問 題 が 解 決 して初 め て効 果 が 出 るので ある 。市 場 の 使
い勝 手 をよくする ことと 市 場 の 質 を高 め る 事 は必 ずしも 一 致 しない 。公 正 な株 価 形 成 の
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ためには1番 目 に株 式 会 社 、2番 目 に証 券 会 社 などの市 場 仲 介 者 、そして最 後 に個 人
の問 題 と、順 に取 りかからなければ最 大 の効 果 を得 られない。これはまさにピラミッドのよ
うで、株 式 会 社 という土 台 が確 固 たるものでなければピラミッドは完 成 しない。だからとい
って、その他 を軽 視 していいわけではない。土 台 があって、次 を作 る。そして最 後 に最 上
部 を作 って初 め てピラミ ッドは完 成 するのだ 。どれが欠 けても ピラミッ ドは完 成 しない。証
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券 販 売 チ ャネ ルはその 中 層 部 で あって、土 台 があってこそ 機 能 するも のである 。その 中
層 部 は土 台 と最 上 部 をつなぐ役 割 を持 っており、双 方 を生 かすことができるのだ。だが、
今 最 も大 事 なことは株 式 会 社 という土 台 がガタガタであるということを認 識 することである。
社 会 の 遊 休 資 本 を事 業 資 金 に 回 すのが 株 式 会 社 の 役 割 だが 、現 在 の 株 式 市 場 はベ
ンチャー企 業 によるわずかな資 金 調 達 とM&Aの場 にしかなっていなく、その機 能 を果 た
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しているとは言 いがたい。さらには上 記 で 見 た営 業 活 動 外 での行 動 や不 祥 事 の横 行 は
個 人 に 対 して 株 式 会 社 に 対 しての 不 信 感 を 募 らせ る 一 方 で ある 。つ ま り、株 式 会 社 自
身 の 改 革 が 求 め られ ているのであ る 。それ らの 問 題 が 解 決 し、株 価 や 市 場 への 信 頼 性
を回 復 でき れば 、証 券 販 売 チ ャネ ルの 拡 充 は証 券 市 場 に 大 き な影 響 をも た らすで あろ
う。
5
近 年 、日 本 の株 式 市 場 では外 国 人 投 資 家 が台 頭 してきている。それ は、日 本 株 を単
なる国 際 分 散 投 資 の一 環 としてしか売 買 していない外 国 人 マネーに日 本 の株 価 が支 配
されてしまうということを意 味 する。外 国 人 投 資 家 は海 外 株 が上 昇 したら日 本 株 を買 い、
海 外 株 が下 落 すれば日 本 株 を売 る。その動 きは日 本 企 業 の事 情 とは独 立 した形 になっ
てしまう。株 式 市 場 の基 本 的 な機 能 とは、個 別 企 業 の活 動 に応 じて株 価 が反 応 し、その
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反 応 が企 業 活 動 に影 響 を及 ぼす。つまり、株 価 形 成 は企 業 価 値 を反 映 したものでなけ
ればならない。だが、外 国 人 投 資 家 は、国 際 分 散 投 資 で日 本 株 をインデックス運 用 する。
こうなると、外 国 人 投 資 家 の比 重 が高 まり、日 本 の株 式 市 場 はインデックス化 が進 んでし
まうことになる。だが、日 経 平 均 株 価 自 体 がインデックス化 する状 況 は、リスク分 散 の上 で
好 ましくない。というのも、インデックス化 した場 合 、個 別 の株 価 変 動 リスクは回 避 できたと
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しても、市 場 全 体 のリス クは大 きくなってしまう。日 本 株 が海 外 の株 価 に 連 動 している 場
合 、海 外 でバブルが 発 生 した 時 、その株 価 下 落 につられて日 本 株 全 体 が低 迷 してしま
う構 図 ができてしまう。
近 年 の日 本 の株 式 市 場 は外 国 人 投 資 家 が主 導 となって株 価 形 成 がなされてきた。そ
こで 、 証 券 販 売 チ ャネ ル の 拡 充 に よ り 、金 融 機 関 が 潜 在 的 に 埋 も れ てい る 顧 客 を囲 い
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込 む 事 で 、様 々 な投 資 観 を持 った 個 人 投 資 家 を証 券 市 場 へ 呼 び 込 む ことができる。イ
ンターネット取 引 というチャネルは法 人 と外 国 人 投 資 家 が主 導 であった市 場 に、専 門 家
のアドバイスを必 要 としない個 人 の 投 資 観 を市 場 に取 り込 んだ。そして、今 後 銀 行 は資
産 運 用 を目 的 とし、専 門 家 によるアドバイスが必 要 な個 人 の投 資 観 を取 り込 むであろう。
また、証 券 仲 介 業 を利 用 したトヨタ自 動 車 は自 動 車 を購 入 する個 人 の独 特 な投 資 観 を
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取 り込 む だ ろ う。個 人 投 資 家 を増 や す と い うこと は株 式 持 ち 合 い によ って形 成 され た 浮
動 株 の 少 ない 株 式 市 場 に 厚 み を持 たせ る ことが できる とい うこと で 、持 ち合 い 解 消 の 受
け皿 となることができる。そうすることによってインデックス化 した株 式 市 場 に厚 みを持 たせ
ることで 、市 場 の ポー トフォリオ 効 果 が 期 待 でき る 。結 果 、日 本 の 株 式 市 場 は投 機 筋 に
強 く、株 価 の乱 高 下 の小 さい市 場 となり、個 人 の資 産 運 用 の場 として有 効 利 用 されるで
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あろう。
また、株 価 は短 期 的 な観 点 から見 ると需 給 関 係 の改 善 によって一 時 的 な株 価 上 昇 が
望 める 。だが、長 期 的 な観 点 か ら見 ると 株 価 は企 業 の 業 績 や 景 気 を反 映 して形 成 され
るため、実 体 経 済 を反 映 し、その影 響 は中 立 的 なものとなるだろう。
5
2、個 人 への影 響
証 券 販 売 チ ャネ ルの 拡 充 に よ って個 人 の 証 券 への 関 心 を 高 め 、個 人 の 様 々 な投 資
観 を市 場 に 取 り込 む こと ができる。日 本 人 は銀 行 の定 期 預 金 や 住 宅 ロ ー ンなどの 知 識
は持 っているが、証 券 に対 する知 識 が明 らかに欠 けている。それは、いかに証 券 というも
のが社 会 に 根 付 い てい るかどうかにか か ってい るであろ う。現 在 、日 本 では証 券 の 学 校
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教 育 の 重 要 性 が 叫 ばれ てい る が 、銀 行 に つい て はそんなこと はない 。も ち ろ ん、その 難
易 度 の違 いはあるが、販 売 チャネルが身 近 であるかという所 も大 きい。ITの進 行 により、
個 人 の情 報 収 集 能 力 が飛 躍 的 に高 まった。ITの進 行 がチャネル拡 充 を一 層 効 果 的 に
するだろう。ITの進 行 とチャネル拡 充 は、それらを通 して個 人 が証 券 に関 心 を持 つことで、
個 人 の金 融 資 産 を預 金 から証 券 へシフトする可 能 性 を高 めたのである。
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以 上 で見 てきたように、証 券 販 売 チャネルの拡 充 は個 人 の余 剰 資 金 を投 資 に回 す架
け橋 となり、証 券 との距 離 を縮 めることができる。だが、それは市 場 の使 い勝 手 をよくする
だけで、市 場 の質 を高 めることではない。銀 行 の投 信 窓 販 の実 績 からも分 かるように、確
かに証 券 販 売 チャネルの拡 充 は一 時 的 には個 人 資 金 を呼 び込 む事 ができる。だが、長
期 的 な観 点 で見 ると、一 概 にそうとも言 えない。今 まで見 てきたように、現 在 の日 本 の証
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券 市 場 に は多 くの 問 題 点 があ り、そ れ らが 個 人 の 証 券 市 場 へ の 信 頼 を 失 わ せ てい る 。
つまり、現 状 の問 題 点 を解 決 し、個 人 が純 投 資 を行 う土 台 作 りができて初 めて、個 人 の
資 金 を呼 び込 む事 ができるのだ。それを怠 って、闇 雲 にチャネルの拡 充 を行 った場 合 、
賢 い投 資 家 ほど市 場 離 れをするであろうし、せっかくチャネル拡 充 によって取 り込 んだ新
しい投 資 家 を証 券 市 場 から一 層 遠 ざけてしまう恐 れすらある。そのような事 態 が起 きれば、
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日 本 の証 券 市 場 は信 頼 をより失 う事 になり、証 券 が社 会 に根 付 くことは一 層 困 難 になる
であろう。さらに、金 融 のグローバル化 の進 展 により、日 本 における資 金 調 達 の機 会 をも
奪 いかねない。
また、証 券 販 売 チャネルの拡 充 によって個 人 の資 金 を証 券 市 場 に向 けることができて
も、呼 び込 む範 囲 にも限 界 がある。日 本 の個 人 金 融 資 産 の半 分 が60歳 以 上 の高 齢 層
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の家 計 に よって保 有 され ている 。高 齢 者 は、年 金 以 外 に 収 入 源 が ないた め、資 金 が 必
要 なときは金 融 資 産 を取 り崩 さなければいけない。高 齢 者 の余 命 を考 えると、流 動 性 の
高 い短 期 の定 期 預 金 や普 通 預 金 といった引 き出 しが容 易 な金 融 商 品 に資 金 が集 中 し
てしま うの は非 合 理 で は ない 。さ らに 、 現 役 世 代 はどうか と い うと 、 住 宅 ロ ー ン や 教 育 資
金 などの大 きな負 担 があるため、投 資 に回 す資 金 は作 ろうとも作 れない状 態 である。
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このような状 態 を作 っているのは所 得 の格 差 である。個 人 の金 融 資 産 が多 く証 券 投 資
に 回 ってい る アメリ カで は所 得 の 格 差 が 大 き い のが 特 徴 だ 。 下 記 の 図 は所 得 の 格 差 を
測 る、 ジニ係 数 の国 際 比 較 をしたものである。ジニ係 数 は0に近 ければ所 得 の格 差 が
小 さく 、1に 近 いほ ど所 得 の 格 差 が 大 きい 。図 から、個 人 の 金 融 資 産 が投 資 に 回 り、証
券 市 場 が発 展 しているアメリカは所 得 の格 差 が大 きいことが分 かる。それに対 し、銀 行 主
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導 で経 済 発 展 してきた日 本 やドイツはアメリカに比 べ格 差 が小 さいことが分 かる。ちなみ
に世 界 第 二 位 の市 場 を持 っているイギリスは0.312となっている。アメリカはマイクロソフ
ト社 のビルゲイツ氏 のように大 成 功 を収 める事 によって多 くの所 得 を得 ている者 がいる反
面 、スラム街 などで職 業 もなく生 きている者 も多 いのが現 状 である。だが、日 本 では累 進
課 税 制 度 などにより政 府 が所 得 の格 差 を縮 めている。さらには、世 界 的 に成 功 を収 めて
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いる経 営 者 などが少 ないのも事 実 である。つまり、日 本 は上 流 階 級 も下 流 階 級 も少 ない
のである 。中 流 層 の 多 い と 投 資 に 回 らず 、格 差 が 広 いと 投 資 に 回 る 。年 間 の余 剰 資 金
が30 万 円 中 流 層 は、次 に必 要 なもの を購 入 する 際 に 備 え て銀 行 などの 安 定 性 、流 動
性 の高 い金 融 資 産 に投 資 する。だが、年 間 1000万 円 の余 剰 資 金 がある上 流 層 は次 の
購 入 に備 えて資 金 を残 しても、資 金 が余 ってしまうことになる。その結 果 、資 金 のよりどこ
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ろに困 った 上 流 層 は株 式 などに 投 資 する ことに なる。完 全 なる 余 剰 資 金 であるため、そ
の額 が多 少 減 額 してもひどく気 にしない。
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【ジニ係 数 の国 際 比 較 】
このように、日 本 の個 人 金 融 資 産 はこのような制 度 や個 人 金 融 資 産 の偏 りにより、いく
ら市 場 の質 や使 い勝 手 、サービスの質 をよくしても、その呼 び込 める額 は限 定 されてしま
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う。だが、唯 一 期 待 が持 てるのは401kの導 入 である。401kの導 入 により、個 人 が自 らの
判 断 で 運 用 を 行 う 事 で 、 投 資 信 託 を 中 心 に 証 券 市 場 へ 資 金 が 流 れ る こと が 予 想 さ れ
る。
3、証 券 発 行 者 への影 響
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証 券 販 売 チャネルの拡 充 によって、証 券 発 行 者 は資 金 調 達 をより容 易 に行 うことがで
きる。それは証 券 販 売 チャネルの拡 充 によって、様 々な投 資 観 の個 人 投 資 家 を市 場 に
参 加 させ る こと で 、 市 場 の 流 動 性 が 向 上 し、 株 価 の 乱 高 下 が 解 消 され 、安 定 した 時 価
発 行 増 資 ができるからである。
日 本 では、1970年 代 後 半 に時 価 発 行 増 資 が普 及 し、近 年 では額 面 発 行 増 資 が廃
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止 され た 。つま り、証 券 発 行 者 が 健 全 な経 営 を 行 い 、I R 活 動 等 を行 な うことに よ って株
価 が上 がれば、時 価 発 行 増 資 によってより有 利 に資 金 調 達 を行 うことができるということ
になる。証 券 販 売 チャネルの拡 充 は個 人 投 資 家 を囲 い込 み、流 動 性 を向 上 させる事 に
よって、株 価 の乱 高 下 を解 消 する事 ができる。もし、企 業 が今 どうしても多 額 の資 金 を調
達 したい時 に、時 価 発 行 増 資 では株 価 が大 きく低 迷 していたら、実 体 より低 い株 価 での
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資 金 調 達 に よ り、企 業 は 発 行 株 式 の 増 加 を余 儀 なく され 、資 金 調 達 が 困 難 に なる 。だ
が 、流 動 性 が 確 保 され 、 株 価 の 乱 高 下 が 緩 や か で あ った ら、 万 が 一 の 状 態 で も 大 き な
株 価 の低 迷 を避 ける事 ができる。
さらに、証 券 販 売 チャネルの拡 充 によって個 人 投 資 家 を集 め、流 動 性 を確 保 できる環
境 が整 った企 業 は、現 在 より健 全 かつ透 明 性 の高 い経 営 を行 うようになるであろう。コー
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ポレートガバナンスの強 化 や四 半 期 情 報 開 示 などによるディスクロージャーの充 実 、さら
に配 当 金 や株 主 優 待 などの個 人 投 資 家 に対 してのアピール強 化 を図 っていくであろう。
そして、企 業 は今 まで失 ってきた個 人 に対 しての信 頼 回 復 改 善 に努 めることになる。
また 、証 券 仲 介 業 と 平 行 して、銀 行 が 市 場 誘 導 ビ ジネ スを行 なう事 に よ って中 小 ・ベ
ンチャー企 業 の可 能 性 の幅 を広 げる事 ができる。さらに、それは雇 用 創 出 にもつながり、
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失 業 率 の改 善 にも寄 与 するだろう。つまり、企 業 が証 券 による資 金 調 達 を容 易 にするこ
とは、社 会 全 体 でリスクを取 り、社 会 全 体 が発 展 することに繋 がるのである。
終 章 誰 のための証 券 販 売 チャネルの拡 充 か
証 券 販 売 チ ャネルの 拡 充 は多 岐 に渡 り、多 く の影 響 を及 ぼす ことを見 てきた。金 融 サ
ービス 業 のあ り方 、証 券 市 場 の 構 造 、個 人 の 金 融 資 産 さらに 証 券 発 行 者 と 与 え られた
影 響 は大 きい。では、証 券 販 売 チャネルの拡 充 は何 のため、誰 のために行 なわれたので
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あろう。第 一 章 で 見 た よ うに、今 回 の 規 制 緩 和 は証 券 市 場 活 性 化 のた めに行 なわれた
ものである。だが、その規 制 緩 和 の真 の目 的 は証 券 市 場 活 性 化 を通 した日 本 経 済 の発
展 であろう。低 成 長 が続 く中 、今 の日 本 は全 国 民 がリスクを取 らなければ経 済 成 長 が望
めない状 況 である。今 回 、政 府 は規 制 緩 和 によって起 こる弊 害 というリスクを負 いつつ、
そのリターンを求 めた 。国 民 はそれに応 え、そのリスクとリターン を共 有 す る義 務 がある 。
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それは証 券 市 場 活 性 化 も日 本 経 済 の発 展 も、政 府 のためでも企 業 のためでもなく、
我 々 国 民 のた めである からである 。株 式 会 社 が 経 済 にお ける 最 大 の 発 明 である ように 、
経 済 を発 展 させる 最 高 の道 具 である 。社 会 の遊 休 資 本 を事 業 資 金 に 回 す株 式 会 社 と
いう チャネル を活 性 化 させることで、我 々も同 時 に成 長 していかなければならなのであ
る。
参考文献
『エンロンの衝 撃 株 式 会 社 の危 機 』 奥 村 宏 NTT出 版 社
『金 融 構 造 改 革 の誤 算 』 大 崎 貞 和 東 洋 経 済 新 報 社
『新 世 紀 のリテール金 融 機 関 −顧 客 中 心 主 義 をどう実 現 するか−』
5
東 証 取 引 参 加 者 協 会 レポート
『わが国 におけるリテール証 券 営 業 について』 福 田 徹
『アメリカにおけるリテール証 券 営 業 の現 状 』 佐 賀 卓 雄
『なぜ資 本 市 場 は不 人 気 か』 中 尾 茂 夫
10
『資 本 市 場 再 生 の条 件 ―個 人 への情 報 発 信 と個 人 からの情 報 発 信 』 首 藤 惠
『個 人 投 資 家 の保 護 と証 券 会 社 の行 為 規 制 』 志 谷 匡 史
『投 資 教 育 がなぜ急 がれるか』 内 田 茂 男
『個 人 に自 己 責 任 を問 う条 件 』 山 田 泰 之
『銀 行 ・証 券 共 同 店 舗 について』二 上 季 代 司
15
『CRM 経 営 への道 』 円 佛 孝 史
知 的 資 産 創 造 (野 村 総 研 )
『証 券 市 場 改 革 の現 状 と展 望 リテール証 券 市 場 と銀 行 証 券 共 同 店 舗 を中 心 に』 安
岡彰
20
『金 融 で本 業 を強 くする 金 融 機 能 の活 用 による成 長 戦 略 』 中 川 慎
『本 格 的 な金 融 業 態 間 競 走 時 代 の幕 開 け 顧 客 満 足 度 向 上 に向 けた新 たな知 恵 の絞
り合 い』 三 浦 智 康
『米 国 の総 合 金 融 機 関 をめぐる最 近 の議 論 』 野 村 亜 紀 子
25
証 研 レポート
『証 券 仲 介 業 巡 る新 しい動 きについて』二 上 季 代 司
『施 行 を前 にした証 券 仲 介 業 制 度 』二 上 季 代 司
証 券 レビュー
30
『銀 行 の証 券 仲 介 業 参 入 について』佐 賀 卓 雄
『銀 行 の証 券 仲 介 業 解 禁 について』新 道 仁 信
http://www.itaku.co.jp/outsourcing/report/index.html