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教科内容構成「国語」
目
次
【◎を付した節のみ掲載】
◎1
教科内容構成「国語」
2
語・語彙と辞書―語の意味と類義語・対義語などのとらえかた
3
意味と文法
◎4
言葉をとらえる観点―言葉とその単位体
◎5
言葉の中間的な単位体
◎6
人称と視点、語り
◎7
文章構造と談話構造
◎8
マルチモダリティの観点
9
言葉と地域・環境
10
文字と書字行為
11
説明的な文章教材における複眼的な読解
12
文学教育における教科内容構成力
13
文学作品読解のための基礎―読みの細分化―
14
対比関係を読む―解釈の幅―
15
文学研究から文学教育へ―読みの再構築―
資
料
小 川 未 明 「 眠 い 町 」( 1914)
新 美 南 吉 「 權 狐 」( ス パ ル タ ノ ー ト 版 )( 1931)
新 美 南 吉 「 ご ん 狐 」( 赤 い 鳥 版 )( 1932)
1
教科内容構成「国語」
キーワード:国語、母語、国語教育、言語獲得、環境要因、遺伝要因、教科
内容の構成、教科内容の系統性、システム
学習あるいは教育といういとなみは、静的で単一的なものではなく、動的
で複合的なありようを継続することである。これは言葉にかかわる日常の多
様な事象についてそうであり、また言語(母語)の獲得や発達、さらにその
喪失を視野に入れても同様に言いうる。そこに複合していると想定される一
つ一つのモジュールまたはユニットもまた多様である。それらが融合して一
体 化 し て い る( し う る )と 考 え る の は 、言 語 教 育 に お い て 誤 っ た 認 識 で あ る 。
現在の学校におけるさまざまな教科は、いわば運動し続けるシステムとし
て 認 定 さ れ る 。 教 科 と し て の 「 国 語 ( Japanese Language )」 も そ の よ う に み な
される。環境である教室では、多人数の言語による、あるいは言語以外の手
段による相互作用(相互行為)が継続しており、その継続は多重の偶有性
( contingency ) に 支 配 さ れ て い る 。 言 語 行 為 と い っ て も 発 語 や 書 か れ た 結 果
の み な ら ず 、書 字 行 為 や 身 振 り 、パ ラ 言 語 的 な 諸 要 素 や 価 値 観 が 関 係 し あ う 。
最小のコミュニケーション単位である2人によって構成される教師対生徒、
または生徒対生徒についていえば、環境要因や遺伝要因とも関係しながら、
そ の 2 人 の 間 の い わ ゆ る 2 重 の 偶 有 性 が 継 続 し 、国 語 を 支 え て い る の で あ る 。
教材、学習材としてのテクストは、児童生徒と教師の間の相互行為におい
て焦点化され、児童生徒は、それを教師から提示される教室(授業)の組織
化に関する情報とあわせて運用し、様々な事象との関係づけにおいて相互行
為 を 継 続 す る こ と に な る ( Maybin: 1999 )。 言 語 学 は 、 す で に 言 語 獲 得 、 言 語
発達さらに言語喪失を研究対象として組み込んでいるが、それらは常に環境
要 因 ( 学 習 ) と の 関 連 の な か で 捉 え ら れ る も の で あ る ( 酒 井 : 2002 )。 こ の
環境要因の1つとして、制度としての学校教育がある。可変的であるにせよ
学習指導要領やテクストとしての教科書もその要因とみなしてよい。1つの
-1-
教科である「国語」は、言語学、文学、書写・書道の領域が並列的に関係し
あい、これに方法としての国語科教育学が関係するシステムである。
教員養成大学の「国語」は、そのように、既存の言語学、文学、書写・書
道の成果と方法としての国語科教育学とが相互作用を継続し、またそれらが
個々に、または複合して環境との間で相互作用を継続する、という作動のな
かにおいて構成される。環境要因には、教室のありようやその地域の状況、
地域語、さらには価値意識なども想定される。
教科内容構成「国語」は、このような複合体を、児童生徒における言語獲
得や言語発達の過程と実態に応じてどのように分析し、組み立て、相互に関
係させて体系化し、系統化していくのかを検討する動的で複合的なシステム
を構成し、その中で学習指導要領の批判的な検討も可能になるのである。
(野村 眞木夫)
【参考文献】
阿 部 昇 他 ( 2010) 『 国 語 科 教 科 内 容 の 系 統 性 は な ぜ 100 年 間 解 明 で き な か っ た
のか』学文社
石 戸 教 嗣 ( 2000)『 ル ー マ ン の 教 育 シ ス テ ム 論 』 恒 星 社 厚 生 閣
石 戸 教 嗣 ( 2003)『 教 育 現 象 の シ ス テ ム 論 』 勁 草 書 房
今 岡 光 範 編 ( 2004) 『 教 科 内 容 学 の 体 系 的 構 築 に 関 す る 研 究 』 同 プ ロ ジ ェ ク ト
酒 井 邦 嘉 ( 2002)『 言 語 の 脳 科 学 』 中 央 公 論 新 社
改
時 枝 誠 記 ( 1963) 『 稿 国 語 教 育 の 方 法 』 有 精 堂
吉 越 秀 之 ( 2011 ) 「 児 童 生 徒 の 思 考 を 育 む 沈 黙 」『 上 越 教 育 大 学 国 語 研 究 』 25.
チ ョ ム ス キ ー ・ N. /井 上 他 訳 (1980/1984) 『 こ と ば と 認 識 』 大 修 館 書 店
マ ト ゥ ラ ー ナ ・ H. , バ レ ー ラ ・ F. / 菅 訳 ( 1984/1987 )『 知 恵 の 樹 』 朝 日 出 版 社
Maybin, J. 1999
Framing and evaluation in ten- to towelve-year-old school children's use of repeated,
appropriated, and reported speech in relation to their induction into educational procedures and
practices.
Text. 19 ( 4 ).
その他、国立国語研究所・文化庁の国語施策関係のサイトに情報がある。
-2-
4
言 葉 をと ら え る観 点 ― 言葉 と その 単 位 体
キーワ ード: 単位の 仮説と種 類、単 位の関 係、単位 の運用と 活用、 言語活動 と単
位、 言葉 の機 能、 継時 的 ・同 時的 、表 現・ 理解
言葉 を教室 で取り あげると き、そ の単位 を仮定し ておくこ とで議 論が展開 しや
すく な る。 では 、 その 単位 をど の よう に仮 定す る のか 。こ れ は、 文章 (書 き 言葉 )
を前 提 にす るか 、 談話 (話 し言 葉 )を 前提 にす る かに よっ て も差 異が 生じ う るし 、
どの よう な言 語観 に立 つか に よっ ても 異な りが 予測 され る。
「 語」
「 文」
「文 章」の 3つ の単 位を 仮定 する 考え 方 があ る。これ は、時 枝誠 記(1950)
による もので 、次の ような前 提にた つ。そ れは「言 語過程観 」すな わち「言 語を
人間 が 自己 の思 想 を外 部に 表現 す る精 神・ 生理 的 活動 その も のと 見る 考え 方 」で 、
「要素 の結合 として でなく、 表現過 程その もの」に おいて言 語を見 ようとす る言
語 観 であ る 。 こ の 立 場 で は 、「 分析 以 前 の 統 一 体 と して の 言 語 的 事 実」 を 記 述 す る
とこ ろか ら出 発し よう とす る (同 :21)。
そこ で提案 された 単位のう ち文章 につい て、時枝 は音声言 語の場 合も含め て、
国 語 教 育 の 当 面 の 問題 と み な す ( 同 : 24)。 し か し 、 最 初 の 2つ の 単 位 は 、 直 観 的
に理解 しやす いと思 われるが 、文章 をどの ように理 解するか は、議 論を要す ると
こ ろ で あ る 。 時 枝 は 、「 文 の 集 合 が 決 し て 文 章 に な ら な い 」、 つ ま り 要 素 還 元 主 義
に た つこ と を 排 除 す る 。 そ の 上 で 、「 文 章 は 文 の 説 明原 理 と は 別 の 原理 を 以 て 説 明
されな ければ ならな い」とい う。こ れは問 題提起で はあるが 、その 解決は私 たち
に委ね られた と考え てよい。 また、 文章を 「要約」 すること を考え ると、そ れが
文なり 語なり に単純 に還元し にくい ことも 明らかで ある。表 現過程 を逆にた どれ
ば、 文章 を要 約で きる わけ で はな い。
さら に、文 と文章 との中間 に何ら かの単 位を想定 すること ができ ないか、 とい
う問い も有効 だろう 。かりに 、ひと まとま りの小説 や評論、 随筆を 文章の典 型と
み な すな ら ば 、 そ れ ら が 1 個 の 文 だけ で 完 成 さ れ て いる こ と は 想 定 しに く い 。「 連
-1-
文 (文 の 連 続 体 )」 や 「 段 落」「 文 段 」「パ ラ グ ラ フ」 な ど の 概念 が 、 ど のよ う な 実
体を意 味する のか、 またそれ らを語 や文と ならぶ単 位体とし て認定 できるの か、
認定で きるの ならば その認定 基準は 明晰な のか、と いう問い がただ ちに浮か び上
がる 。
ここ までは 書き言 葉を念頭 におい て考え てきたが 、それで は話し 言葉(音 声言
語、 談話 )に 眼を 転じ ると ど のよ うな 問題 が生 じる だろ うか 。
た と え ば 、 南 不 二 男 (1974: 73)は 、「 文 章 の 単 位 」 を 考 え る た め の 手 が か り と し
て次 のも のを とり あげ る。
表現 された形そ のもの
参 加者
媒体
使用 言語
内 容(話題)
言語的コ ミュニケー ションの機 能
全 体的 構造
これ らを理 解する ためには 、くぎ りと連 続性、言 葉の機能 、文章 の書き手 (送
り 手 )・ 読 み 手 ( 受 け 手 ) や 談 話コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの 参 加 者 、 な どが 問 わ れ る と
されて いる。 これら を明らか にしな がら、 小さい単 位体を検 討して いく。具 体的
な言 語活 動の なか に、 単位 体 を位 置づ ける とい うこ とで ある 。
話し 言葉( 談話) のばあい は、書 き言葉 (文章) のように 、表記 のうえで 、句
読点を 付し、 あるい は改行・ 1字下 げのよ うな形式 によって 、何ら かの表現 の区
切れを 明示す ること は困難で ある。 文法的 な文に対 して、不 整表現 と言うべ き表
現が普 通であ る。息 継ぎや沈 黙は認 められ るとして も、それ が生理 的な要因 によ
って いる のか 、言 いよ どみ な のか 、な どは 認定 しに くい 。
そ こで 本テ キス トで は、
「 発話 」と いう 単位 を仮 定し てお く。国立 国 語研 究所 (1987
:83)では 、次 のよ うに 定義 さ れて いる もの であ る。
ひと りの参加者 のひとまと まりの音声 言語連続( ただし、笑 い声やあい づち
も含 む)で、他 の参加者の 音声言語連 続(同上) とかポーズ (空白時間 )に
よ って 区切 られ るご とに 1単 位と して 数え よう と する 単位 であ る。
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発話 は、書 き言葉 の単位体 の文と 一致す るばあい も想定で きるが 、偶然性 に支
配さ れ、 確定 しに くい 。
そ こで 、書 き言 葉の 文に 近 似す る概 念と して 、「 Sentential Unit」 が仮 定さ れる (メ
イ ナ ー ド 1993: 96ff)。 こ れ は 、 通 常 少 な く と も 1 つ の 用 言 を 含 む 、「 − て 形 」 で
終わる 表現も 文末が 下降調の イント ネーシ ョンであ れば文末 とみな す、主節 が省
略さ れた 従属 節も 文と する 、 など の基 準で 認定 され る。
書 き 言 葉 の 段 落 や 文 段 に 相 当 す る 単 位 に つ い て は 、「 話 段 ( paratone)」 が 仮 定 さ
れて いる 。ど のよ うな 認定 基 準が 有効 か、 検討 が求 めら れる 。
ここ で言葉 の機能 (言葉の はたら き)に ついて触 れておく 。書き 言葉と話 し言
葉の単 位を共 通に認 定しよう とする とき、 一つのよ りどころ となる と考える から
であ る。
言葉 の機能 の提案 者として 、ビュ ーラー 、ヤコブ ソンがあ げられ るが、こ こで
は、 ハリ デー ら(1985)の 考え 方を 紹介 しよ う。 次の 図で あ る。
状 況:
(状 況 は テ ク ス ト に
テク スト :
コ ンテ クス トの 特 性
よっ て実 現さ れる )
意味 体系 の機 能部 門
談話のフィールド:言語
経験 的意 味機 能
活 動領 域
(他 動性 、命 名、 等)
( 何が おこ って い るか )
談 話の テナ ー: 役 割関 係
対人 関係 的意 味機 能
( 誰が 係わ って い るか )
(法 、法 性、 人称 、等 )
談 話の モー ド: 伝 達様 式
テク スト 形成 的意 味機 能
( 言語 に与 えら れ た役 割)
(主 題、 情報 、結 束関 係)
これ らの機 能をに なう言葉 の実体 を単位 体とみな すならば 、発話 はその一 つで
ある 。 発 話に つ いて 機 能を 仮 定 する と 、た と えば ザ トラ ウ スキ ー (1993)が 提案 し て
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いる 談話 の核 にな る代 表的 な もの とし て、 次の 2つ があ る。
「情 報 提 供 」: 実 質 的 内 容 を伝 え る 発 話 で 、 客 観的 事 実 に 関 す る質 問 に 対 す る
答え も含 む。
「情 報要 求」:情 報の 提供 を 求め る発 話で 、「 質問 」の 類が 多い 。
こ れ を[ 情報 要 求→ 情報 提供 ] のよ うに 組み 合 わせ ると 、 談話 の基 本で あ る「 質
問− 応答 」ペ アが 構成 され る 。こ のペ アも 単位 体の 一つ にな る。
言葉 は、時 間にそ って表現 される もので ある。し かし、表 現しよ うとする とき
には、 表現対 象が認 識され表 現され た結果 が概ね予 測される もので もある。 言葉
の理解 も、表 現され た結果を 時間軸 にそっ て行うが 、書き言 葉であ れば「拾 い読
み」と いった 読み方 も現実に あり、 文脈を 予測しな がら理解 をすす めている こと
は明確 である 。そう すると、 単位体 のむす びついた 言葉をど のよう に表現し 理解
するの かには 、多様 な観点か ら検討 する余 地がある ことがわ かる。 次の図は 、そ
の概 略を 示し たも ので ある 。
観点
表現
全
理解
同時的全体
A
B
継時的全体
C
D
体
性
文章 や談話 の全体 性につい て、そ れを直 観的に同 時的にと らえる か、それ とも
時間軸 にそっ て継時 的にとら えるか 。また その表現 の過程と 理解の 過程のど ちら
に重き をおい てとら えるか。 これは 、言語 表現が、 例えば短 詩形文 学の作品 であ
るばあ い、長 編小説 であるば あい、 話し合 いである ばあい、 などに よっても 異な
る。ま た、そ れぞれ のばあい に応じ て、言 葉のどの ような単 位体に 着目する かに
も 差 異 が 生 じ うる 。
( 野村 眞 木 夫 )
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【ア クテ ィビ ティ 】
1 . 言 葉 の 意 味 を 認 識 す る た めに 、 ど の よ う な 単 位 体 に 注 目す る こ と が 有 用 で あ
る か。 語 の 意 味 の 認識 、 多 義 語 の 認 識、 類 義 語 ・ 対 義語 な ど の 認 識 、文 の 意 味
と 機能 の 認 識 、 文 章全 体 の 意 味 と 機 能の 認 識 に つ い て、 言 語 習 得 と 言語 発 達 の
段階 を想 定し なが ら、 任意 の学 習 材を 分析 する 。
2 . 言 葉 の 単 位 体 を 、 文 章 や 談話 の ま と ま り の 観 点 か ら 理 解す る た め に 、 具 体 的
な 教材 お よ び 活 動 とし て ど の よ う な 組み 合 わ せ が あ りう る か 、 検 討 する 。 共 通
資 料 の 「 ご ん 狐 ( 赤 い 鳥 版 )」 と 教 室 談 話 資 料 と を 参 照 し 、 こ れ ら を 視 野 に 入
れな がら 具体 的に 考察 する 。
3 . 文 章 表 現 の 過 程 に お い て 、ど の よ う な 単 位 体 を 認 識 す るこ と が も と め ら れ る
か 。表 現 す る 内 容 とも 関 連 さ せ な が ら、 言 語 発 達 の 状況 を 想 定 し て 、課 題 ( 内
容 )や 文 章 の サ イ ズ、 文 章 の 組 み 立 てか た に つ い て 先行 研 究 を 整 理 し、 検 討 す
る。
4. 言葉 の機 能は 、さま ざ まな サイ ズの 言語 表現 に割 り当 てる こと が可 能 であ る。
こ れま で に 提 案 さ れて い る 言 葉 の 機 能を 任 意 に と り あげ 、 着 目 す る 言語 表 現 の
サ イズ の 上 限 と 下 限を ど の よ う に 設 定し て お く こ と が適 格 で あ る か 、教 室 に お
ける 運用 を前 提と して 分析 的に 検 討す る。
5 . 文 章 ・ 談 話 を 要 約 す る 作 業は 、 こ と ば の 理 解 と 表 現 の 双方 に か か わ る 。 文 章
・ 談話 を 全 体 と し て掌 握 し て 要 約 し たり 、 文 書 ・ 談 話の 展 開 に そ っ て要 約 し た
り 、反 復 ・ 接 続 ・ 指示 表 現 等 に 着 目 して 要 約 し た り する 作 業 が 想 定 され る 。 言
語 発達 の 段 階 に 応 じて 、 上 記 の 観 点 をど の よ う に 運 用す る こ と が 効 果的 で あ る
か 、大 学 の 講 義 を 要約 し た り 、 ノ ー トし た り す る ば あい も 考 え 合 わ せて 考 察 す
る。
-5-
【参 考文 献】
石黒
圭( 2008)『日本 語の 文章理 解過 程にお ける 予測の 型と機 能』 ひつじ 書房
市川
孝 (1978)『の た めの 文章 論概 説』教 育出版
国 語 教育
北原 保雄 監修・ 佐久 間ま ゆみ編 (2003)『 文章 ・談話 (朝 倉日本 語講 座第 7 巻)』朝倉 書
店
串田 秀也他 編(2008)『「 単位 」とし ての 文と発 話』 ひつじ 書房
佐久 間まゆ み(2006)「文章 ・談 話の分 析単位」『月 刊言語 』35-10.
佐久 間まゆ み(2008)「講義 の談 話の話 段と全 体構 造」『表 現研究 』88.
佐久 間まゆ み編(1989)『文 章構 造と要 約文の 諸相 』くろ しお 出版
佐 久 間 ま ゆ み 編 ( 1994)『 要 約 文 の 表 現 類 型 ― 日 本 語 教 育 と 国 語 教 育 の た め に ― 』 ひ つ
じ書 房
佐久 間まゆ み他編 (1997)『 文章 ・談話 のしく み』 おうふ う
ザト ラウス キー, P.(1993)『 日本 語の談 話の 構造分 析』く ろし お出版
寺村 秀夫他 編(1990)『ケー スス タディ
日本 語の 文章・ 談話 』おう ふう
戸田 正直他 (1986)『 認知科 学入 門―「 知」の 構造 へのア プロ ーチ― 』サ イエン ス社
時枝 誠記(1950)『日 本文法
口 語篇』 岩波書 店
野村 眞木夫 (2000)『 日本語 のテ クスト ―関係 ・効 果・様 相』 ひつじ 書房
野村 眞木 夫(2013)「今 井文男 表現 学の 位置― 表現 研究の あら たな可 能性を もと めて― 」
『表 現研 究』98.
ハリ デー, M. A. K. ・ ハッサ ン, R. (1985)『 機能 文法の すす め』大 修館 書店
ビュ ーラー ,K. (1934)『言 語理 論
上 ・下 』クロ ノス
南不 二男(1974)『現 代日本 語の 構造』 大修館 書店
ヤコ ブソン ,R. (1973)『一 般言語 学』 みすず 書房
Brown, G. and Yule, G. (1983)Discourse Analysis. Cambridge University Press.
van Dijk, T. A. (1977)Text and context: Explorations in the semantics and pragmatics of discourse.
Longman.
-6-
5
言 葉 の中 間 的 な単 位 体
キーワ ード: 段落、 文段、話 段、段 、中心 文、中心 発話、中 核文、 まとまり 、話
題、 主題 、文 塊
「言 葉をと らえる 観点」の 節で、 段落、 話段、話 段に触れ た。本 節ではこ の中
間的 な単 位体 をと りあ げよ う 。
先 に 文 を 言 葉 の 単 位 体 と し て 認 定 し た が 、 五 十 嵐 (1909: 495)は 、 次 の よ う に 述
べて いる 。
○
個 文の累積し て更に複雑 なる思想の 一団を結束 したるもの を節といふ 。節
、
、、
は 或は 段と も呼 んで 、昔は その 結尾 に段 落と いふ 」印を 附け る例 であ つた が 、
今 は大 抵節 毎に 行を 改め る習 慣に 成つ て居 る。
いわ ゆる形 式段落 への言及 とみな してよ い。引用 中の「思 想の一 団」とは 、言
葉の意 味や内 容のま とまりを 指摘し たもの と考えら れるが、 これを どのよう にし
て「結 束」し たもの と認定す るかに ついて は、基準 が述べら れてい ない。こ のこ
とは 、 時 枝(1960)が 「 文章 に お ける 段 落の 句 切れ と いふ も の が、 決 して 絶 対的 な も
の でな く 、 相 対 的 なも の で あ る 」 (p.72)と 述べ て い る と こ ろと も 関 連 す るだ ろ う 。
改 行 に よる 段 落に つ いて 、 永 野(1986)は 「 文章 構 造を 解 明 する た めの 手 がか り と
すべき ものは 、現実 にそこに ある文 章の文 脈として の段落( 改行段 落・小段 落)
で なけ れ ば な ら な い」( p.101) と 述 べる 。 永 野 は 「 書き 手 の 脈 絡 」 と「 読 み 手 の 脈
絡」が それぞ れ意味 のまとま りをな すのだ が、前者 は気分的 に改行 すること があ
り 、 後者 は 読 者 の 知 識 や 体 験 に も とづ い て 理 解 さ れ ると し て 、「 客 観的 な 文 脈 」 と
して の形 式段 落を 重ん じる 。
こ れ に 対し て 、た と えば 市 川 (1978)は、 改 行が 内 容上 の ま とま り とは 言 いが た い
こ と を 指 摘 し て 、「 文 段 」 を 提 案 す る 。 す な わ ち 、「 文 段 と は 、 一 般 に 、 文 章 の 内
-1-
部の文 集合( もしく は一文) が、内 容上の まとまり として、 相対的 に他と区 分さ
れる 部分 」(p.146)であ る。
この 二つの 観点に よる規定 が行わ れてい るという ことは、 文章を 形態的に 区切
った「 段落」 と、文 章の部分 の内容 的なま とまりと しての「 文段」 とが、必 ずし
も対 応し ない 事実 を反 映し て いる と考 えら れよ う。
以上 は書き 言葉を 対象とし た議論 である が、話し 言葉を対 象とし たときに 「話
段 (paratone)」 が 提案 さ れ て い る。 こ れ は
topic-shifts
の 標 識 と なる も の で、 英 語
ではピ ッチの 上昇・ 下降やポ ーズ、 開始ま たは終了 の語彙項 目など で認定さ れる
(Brown and Yule 1983: 100f)。
日 本語 に つ い て は 、「 談 話 の 内部 の 発 話 の 集 合 体 (も し く は 一 発 話) が 内 容 上 の
まとま りをも ったも ので、そ れぞれ の参加 者の「談 話」の目 的によ って相対 的に
他と 区 別さ れ る 部分 」(ザ ト ラウ ス キー 1993)だ と 定義 され て いる 。 段落 、 文段 、
話段が それぞ れ上記 のように 定義さ れると して、こ れがどの ような 構造にな って
いるか 、どの ように 認定され るかが 次に問 われる。 類似する 用語と してパラ グラ
フが ある が、 これ につ いて 次 のよ うな 言及 があ る。
パ ラグラフは 読み取りの 過程で浮か びあがって くるよりも 、組み上げ の過
程で 問題になる ものだ。コ ンポジショ ンをする人 の頭の中に 、まず大き な柱
が いく つか 立つ 。柱 が 幹に なっ て、そこ から 枝が 出 る。柱が 編や 章の 標題 名 (タ
イ ト ル )と な り 、 枝 がト ピ ッ ク ・ セン テ ン ス とな る 。 ト ピッ ク ・ セ ンテ ン ス に
葉 を茂 ら せ ると 、 実際 の 文章 が 出来 上 がる 。
( 林 1974: 218)
こ れ は 、「 段 落 分 け 」 と は 逆 の 方 向 を た ど っ た 考 え 方 で あ り 、「 ト ピ ッ ク ・ セ ン
テンス 」とい う重要 な概念が 取りあ げられ ている。 トピック ・セン テンスは 「中
心文 」と も呼 ばれ 、文 段の 中 心的 な内 容( 主題 )を 端的 に述 べた 文を さす 。
中 心 文 の機 能 につ い て、 佐 久 間(1995)は 文 段と 話 段を 総 合 して 段 とよ び 、こ の 段
に 対 する 「 統 括 機 能 」 を 主 張 す る 。あ る い は 、「 パ ラグ ラ フ の 話 題 を提 示 す る ・ パ
-2-
ラグラ フを開 始また は終了さ せる・ パラグ ラフを展 開する様 式を指 定する・ パラ
グラフ の相互 関係を 指定する ・パラ グラフ を論述す る観点を 指定す る」機能 (野
村 2000)な どが 認め られ よう 。
佐 久間 (1995)は、 上記 の観 点か ら、 中心 文の 種類 を次 の よう に整 理す る。
① 話題 文〈 話題 提 示〉〈課 題導 入〉〈情 報出 典〉〈場 面設 定〉〈意 図 提示 〉
② 結論 文〈 結論 表 明〉〈問 題提 起〉〈提 案要 望〉〈意 見主 張〉〈評 価 批評 〉
〈 解答 説 明〉
③ 概要 文〈 概略 要 約〉〈主 題引 用〉
④ その 他〈 前提 設 定〉〈補 足追 加〉〈承 前起 後〉〈展 開予 告〉
こ れ ら とは 異 な った 観 点と し て、 立 川(2011: 95) に より 、「中 核 文」 と いう 概 念
が提案 されて いる。 読解の側 面に重 点があ り、とく にこれが 潜在し ている場 合、
要約 する 行為 と密 接な 関係 が ある 。
中 核文とは、 文段の主題 となる中心 的な内容を 持つ一文で あり、文章 の意
味的 指標ないし 形態的指標 から読み手 が客観的に 認定してい く文である 。ま
た中 核文を含む 意味内容の まとまりを もった文の 集合体を文 段と呼ぶ。 中核
文 は文 段決 定の 手段 とし て常 に存 在し てい るが 、それ が顕 在し てい る場 合と 、
潜 在し てい る場 合と を認 める 。
そ れで は 、 話 段 に も 類 似 の 範 疇 が認 め ら れ る で あ ろう か 。 こ れ に つい て は 、「 中
心 発 話( ト ピ ッ ク ・ ア タ ラ ン ス 、 セン ト ラ ル ・ ア タ ラン ス )」 と い う提 案 が あ る 。
中心発 話とは 、話し 言葉によ る「テ クスト の中で一 定の話題 に関す るまとま りに
た い し て 、 そ の 話 題 を 提 示 す る 表 現 」( 野 村 2000: 13)、 あ る い は 統 括 す る 機 能 を
有 す る発 話 で あ り 、「 提 題 表 現 と叙 述 表 現 が 複 数 の 発話 間 に わ た る 場合 や 、 倒 置 や
省略 され る 場合 も少 なく な い」(佐 久間 2003)。 たと えば 、次 の談 話の 発話 1 K が
-3-
それ に あた る。 ウ サギ の行 動を 「 話題 」に する 発 話で 、こ の ばあ いは 提題 表 現「 ウ
サギは 」と叙 述表現 「ひっか くんだ って」 が完備し た、1つ の発話 によって 中心
発話 が構 成さ れて いる 。こ の 中心 発話 が発 話1 K から 5 K ま での 話段 を統 括し て
いる とみ なす ので ある 。
(1)1 K
2S
ウ サギ は ひっ かく んだ って ?
え 、か じる わけ [じ ゃな いの 。
3K
[ か じる んじ ゃな くて ー、
4S
ん ー。
5K
ひっ かく って 。
さて 、中心 文や中 心発話、 あるい は中核 文は、話 題のまと まりと 相関する わけ
だが、 話題と か主題 とか呼ば れる範 疇、さ らにこれ らが文章 や談話 の理解の 過程
で ど の よ う に 捉え ら れ る か と い う 問 題 が ある 。 (1)で は 「 ウ サギ は − ひ っ か く 」 と
いう「 提題表 現−叙 述表現」 によっ て、こ の部分の 話題を提 示して いる。こ こで
は発話 の構造 が手が かりにな るが、 他に、 反復表現 、接続表 現、指 示表現な どが
標識に なり、 文・発 話の時間 的な関 係、論 理的な関 係、心理 的な関 係などが 意味
や文 章・ 談話 を運 用す る水 準 で標 識に なる 。
文段 や話段 は、そ のように 多様な 標識を 手がかり にして重 層的に 認定され るの
であっ て、形 式的な 改行だけ が基準 になる のではな い。これ をより 微視的に 文脈
に即 し て 理解 し よう と した 概 念 とし て 、林 (1998)に よる 「 文 塊」 す なわ ち 「相 接 す
るいく つかの 文が、 特に密接 な関係 を保ち 、文脈の 中では、 融合合 体して1 文に
なっ たよ うな 効果 を持 つ」 現 象が 指摘 され てい る。
( 野 村 眞木 夫 )
-4-
【ア クテ ィビ ティ 】
1 . 本 節 で は 、 形 式 段 落 や こ れを も と に し た 意 味 段 落 に は ほと ん ど 言 及 し な か っ
た 。こ れ ら が ど の よう に 定 義 さ れ 運 用さ れ て い る の か、 そ れ ら を 認 定す る 基 準
ま たは 根 拠 が ど の よう な も の か を 具 体例 に そ く し て 調査 し 、 こ れ と 文段 、 話 段
など の概 念と を比 較し なが ら検 討 する 。
2 . 文 段 ・ 話 段 、 形 式 段 落 ・ 意味 段 落 が 認 定 さ れ る と し て 、こ れ ら を 認 定 す る 基
準 は、 特 に 文 段 ・ 話段 に あ っ て は 微 視的 な 基 準 か ら 巨視 的 な 基 準 ま で多 様 で あ
る 。な ん ら か の 「 まと ま り 」 と し て は認 識 さ れ る が 、言 語 発 達 の 状 況と 段 階 を
想 定し て 、 中 間 的 な単 位 体 を 認 識 す るた め に 最 適 の 認定 基 準 を 整 理 しな が ら 提
案す る。
3 . 中 心 文 や 中 心 発 話 が 仮 定 され る と し て 、 そ れ ら が 実 際 の文 章 ・ 談 話 に お い て
ど のよ う に 認 定 さ れる の か 、 こ れ に つい て も 形 式 的 また は 微 視 的 な 基準 か ら 、
言 葉を 運 用 す る 巨 視的 な 基 準 ま で が 想定 さ れ よ う 。 文章 ・ 談 話 の ジ ャン ル に よ
っ ても 異 な る は ず であ る 。 共 通 資 料 等を 対 象 に 、 任 意の 学 年 で 文 章 表現 や 話 し
合 いを 行 う ば あ い を想 定 し て 、 中 心 文・ 中 心 発 話 を 表現 し 認 識 す る 方法 、 中 核
文 を認 識 す る 方 法 を検 討 す る 。 な お 、潜 在 型 中 核 文 につ い て は 、 高 度な 考 察 が
求め られ るこ とも 考慮 する 。
4 . 段 落 ま た は 文 段 ・ 話 段 は 、一 つ 一 つ 独 立 し て 存 在 す る ので は な く 、 隣 接 す る
段 落等 と 何 ら か の 関係 を 見 い だ す こ とが で き る は ず であ る 。 む し ろ 、そ の 相 互
関 係に 基 づ い て そ れら が 認 定 さ れ た とも 考 え ら れ る 。で は 、 段 落 等 の隣 接 関 係
は どの よ う な 種 類 があ る の か 、 ま た 何を 基 準 に そ れ が認 定 さ れ る の か調 査 し 、
そ れら を 明 示 的 で 理解 し や す い も の 、時 間 的 、 論 理 的、 心 理 的 な 関 係な ど 抽 象
度 の高 い も の な ど に整 理 し 、 言 語 発 達の 段 階 に 応 じ てど の よ う に 提 示す る こ と
が効 果的 か、 考察 する 。
-5-
【参 考文 献】
五十 嵐力(1909)『新 文章講 話』 早稲田 大学出 版部
市川
国 語 教育
孝 (1978)『の た めの 文章 論概 説』教 育出版
北原 保雄 監修・ 佐久 間ま ゆみ編 (2003)『 文章 ・談話 (朝 倉日本 語講 座第 7 巻)』朝倉 書
店
佐久 間まゆ み(1983)「段落 とパ ラグラ フ」『日 本語 学』2-2.
佐 久 間 ま ゆ み (1987) 「「 文 段 」 認 定 の 一 基 準 (Ⅰ )― 提 題 表 現 の 統 括」『 文 芸 言 語 研 究
言語 篇』 11.
佐久 間まゆ み(1995)「中心 文の 「段」 統括機 能」『 日本女 子大学 文学 部紀要 』44.
佐久 間まゆ み(2003)「文章 ・談 話にお ける「 段」 の統括 機能 」北原 監修 (2003)
ザト ラウス キー, P.(1993)『 日本 語の談 話の 構造分 析』く ろし お出版
寺村 秀夫他 編(1990)『ケー スス タディ
日本 語の 文章・ 談話 』おう ふう
立川 和美(2011)『説 明文の マク ロ構造 把握』 流通 経済大 学出 版会
塚原 鉄雄(1966a)「 文章と 段落」『 人文 研究』 17-2.
塚原 鉄雄(1966b)「 論理 的段落 と修辞 的段 落」『表 現研究 』4.
時枝 誠記(1960)『文 章研究 序説 』山田 書院( 1977 明 治書院 復刊 )
永野
賢(1986)『文 章論総 説』 朝倉書 店
長田 久男(1995)『国 語文章 論』 和泉書 院
西田 直敏(1992)『文 章・文 体・ 表現の 研究』 和泉 書院
野村 眞木夫 (2000)『 日本語 のテ クスト ―関係 ・効 果・様 相』 ひつじ 書房
林
四郎(1974)『言 語表現 の構 造』明 治書院
林
四郎(1998)『文 章論の 基礎 問題』 三省堂
南不 二男(1974)『現 代日本 語の 構造』 大修館 書店
南不 二男(1997)『現 代日本 語研 究』三 省堂
森岡 健二(1963)『文 章表現 法』 至文堂
Brown, G. and Yule, G. (1983)Discourse Analysis. Cambridge University Press.
-6-
6
人 称 と視 点 , 語り
キーワ ード: 人称、 人称制限 、視点 、語り 、語り手 、登場人 物、心 情表現、 感情
・感 覚形 容詞 、移 動動 詞 、授 受動 詞
人称 といえ ば、1 人称・2 人称・ 3人称 という3 種類が想 定され るが、英 語と
同じよ うに3 つの人 称を日本 語にも 仮定し てよいの だろうか 。日本 語の人称 を想
定す ると きに 有効 だと 考え ら れる 、若 干の 言語 現象 をと りあ げる 。
次 に 示 すの は 、佐 久 間鼎 (1951)が 、 印欧 語 の代 名 詞の 用 法 から 離 れて 、 日本 語 の
指示語 (コソ アド) の用法を 体系化 した図 である。 人称とい う語句 は用いら れて
い な い が 、「 話 し 手 、 相 手 、 は た の 人 ( も の )」 が 取 り だ さ れ て い て 、 こ れ が 、 結
果的 に、 1人 称・ 2人 称・ 3 人称 に対 応す るこ とに なる 。
指示されるもの
対話者の層
話 し 手
相
手
人
はたの
もの
不
定
所属事物の層
ワタクシ
(話し手自身)
ワ タ シ
話しかけ
の目標
ア ナ タ
オ マ エ
(第三者) (アノヒト)
話し手所
属のもの
コ系
相手所属
のもの
ソ系
(はたのもの) ア系
ド ナ タ
ダ
レ
ド系
また 、日本 語の敬 語の体系 を考え るとき にも、日 本語に3 つの人 称を仮定 して
い る 。 尊 敬 語 ( 為 手 尊 敬 )、 謙 譲 語 ( 受 け 手 尊 敬 )、 丁 寧 語 ( 聞 き 手 尊 敬 ) の 運 用
に つ いて 、「 私 の 父 」 と か 「 あ なた の お 父 様 」 な ど 、話 し 手 の 身 内 や相 手 の 身 内 を
どのよ うに待 遇する かを整理 したの が次ペ ージの図 である。 この考 え方は、 石坂
正蔵 (1944 な ど)以 来提 唱さ れ てい るが 、図 は菊 地康 人(1997)に よる 。普 通の 意味 で
-1-
の人 称と 敬語 上の 人称 が区 別 され てい る。
普通の意味での二人称
二人称並み(相手の身内)
普通の意味での三人称
純粋の三人称 ……………
一人称並み(話手の身内)
普通の意味での一人称
敬語上のⅡ人称 (相手側の領域の人物)
どちらか一方の領域
)
とはいえない人物
敬語上のⅢ人称 (
敬語上のⅠ人称 (話手側の領域の人物)
さて 、3つ の人称 が日本語 の様々 な運用 において 有効に仮 定され るとみな した
うえ で、 次の 問題 を提 起す る 。(1)a.∼ f.の 各例 は、 水 を飲 むこ とを ある 人( 主体 )
が望ん でいる ことを 表現した 発話で ある。 これらが 日常的な 談話( 会話)で 用い
ら れ て い る と き 、 願 望 の 主 体 と し て 、 1 人 称 ( 話 し 手 )・ 2 人 称 ( 聞 き 手 )・ 3 人
称(そ れ以外 の人) のだれが 想定さ れるだ ろうか。 特異な状 況を仮 定せずに 、直
感的 に考 えて みよ う。
(1)a.
水 が飲 みた い!
(願 望の 表出 )
(
)人 称
b.
水が 飲み たか った 。
(
) 人称
c.
水 が 飲み たい (で すか )? (疑 問)
(
)人 称
d.
水を 飲み たが って いる 。
(
) 人称
e.
水 が 飲み たい らし い。
(
)人 称
f.
水 が飲 みた いよ うだ 。
(
) 人称
それ ぞれ一 つの人 称だけが 該当し 、他は 選ばれに くい。つ まり、 日本語の 願望
の表現 である 「動詞 +たい」 が、日 常的な 談話で発 話の述部 に用い られたと き、
述部の 形式と 願望し ている主 体の人 称との 対応関係 が制約さ れてい て、それ を入
れ換え るとす わりが 悪くなる のであ る。こ の現象は 、一般に 「人称 制限」と 呼ば
れ て いる 。 類 似 の 現 象 が 、 感 情 ・ 感覚 形 容 詞 に も 認 めら れ る 。「 嬉 しい 、 楽 し い 、
-2-
悲し い」「痛 い、 苦し い、 だる い 」な どで ある 。
と ころ が、 物語 や小 説を 読 むと 、人 称制 限に 反す る例 が見 受け られ る。
(2)
こ の 年 の 四 月 か ら 、 就 学 困 難 な 児 童 の た め の( 教 科 用 図 書 の 給 与 に 対 す る 国 の 補
助に関する 法律)が施行され た。 志野田先生はその補助を 、 クラ スの三人の子供のた
め に申請してや りたい。
(3)
( 石川達三『人間の 壁』)
山 本 太 郎 は 、 親 た ち に 宣 言し た 通 り 、 旅 に 出 る こ と に した 、 そ れ も 、 で き る
だ け、苛酷 な旅が望 ましか った。ど こへでも いい、行 ったこと がない所へ 行っ
てみたかった。
( 曽野 綾 子 『 太 郎物 語 ― 大 学編 ― 』)
この 現象は 、どの ように理 解する ことが できるだ ろうか。 これま で、視点 、話
法、ム ードな ど多様 な観点か らとら えられ てきたが 、ここで は、視 点と語り の側
面か ら考 える こと とす る。
視点 は、遠 近法の 概念と結 びつき 、カメ ラアング ルとも言 い換え られる。 ここ
では 抽 象的 に 「 認知 す る点 」(糸 井 通浩 2009) と と らえ 、認 知 する 主 体の 存 在を 前
提とす る。物 語では 、語り手 の視点 から記 述したり 、登場人 物の視 点から記 述し
たり する 。こ こに 、共 感・ 転 移・ 同化 ・感 情移 入な どの 効果 が生 じる 。
「志 野田先 生は∼ 申請して やりた い」の ばあい、 語り手が 志野田 先生に寄 りそ
った 視 点を とり 、 彼女 への 共感 度 を高 める こと で 、志 野田 先 生の 「私 ・今 ・ ここ 」
の願望 を直接 に描出 すること が許容 される 。もちろ ん、志野 田先生 を高度に 客体
化して 描写す ること も可能で ある。 要は、 語り手に よる視点 の選び 方と、読 み手
によ る理 解の しか たに 依存 す るの であ る。
形容 詞によ る表現 に動きは ないが 、移動 や授受の 表現にも 視点が 関係する 。た
とえ ば、 次の 例の 「こ こ」 が 発話 の場 所で あれ ば、 許容 度に 違い が生 じる 。
(4)a.
太 郎が 昨 日 、こ こ に来 た 。
( 久野 暲 1978: 254)
b. *太 郎 が昨 日、 ここ に行 った 。
-3-
また 、次の 授受動 詞による 例は、 論理的 内容は同 じだが、 話し手 の視点に 違い
があ る、 とし て説 明さ れて い る( 久野 1978: 140f)。
(5)a.
太 郎が 花子 にお 金を く れた 。
b.
太郎 が花 子に お金 をや った 。
同 様 の こ と が 「 て く る ・ て い く 」「 て く れ る ・ て や る ( て あ げ る )・ て も ら う 」
など、 補助動 詞の用 法につい ても問 われる 。空間や 時間軸の どこに 視点をお くの
か、恩 恵のあ りよう をどの視 点から 表現す るのか、 などが問 われる 。なお、 指示
語の 体系 や授 受動 詞の 用法 に は、 地域 差が 認め られ てい る。
最後 に、こ れまで とは別の とらえ かたと して、視 点という 概念を 大局的に 考え
ると、 次のよ うな現 象も問題 にする ことが できよう 。要する に目の 位置がど こに
設定さ れるか 、そこ にどのよ うな表 現価値 があらわ れるかと いうこ とだが、 その
位置 や理 解に 応じ て(6)に 列挙 した 句の 味わ いに 変化 が 生じ るだ ろう 。
(6)a
菜の 花や 月は 東に 日は 西 に
やん
めぐ
与 謝蕪 村
b
旅 に 病 で夢 は枯 野 をか け 廻 る
松尾 芭蕉
c
遠 山に 日の 当た りた る枯 野か な
高 浜虚 子
d
虫 程の 汽車 行く 広き 枯 野哉
森
e
吹 風の 一筋 見ゆ る枯 野か な
幸 田露 伴
f
田圃 から 見ゆ る谷 中の 銀杏 かな
正岡 子規
g
コ スモ スや 海少 し見 ゆ る邸 道
萩原 朔太 郎
鷗外
以上 のよう に、人 称や視点 の概念 は、文 法論の水 準から物 語の語 りかた、 さら
に物 語 や詩 の世 界 をど のよ うに 構 築す るか とい う 水準 まで の 広が りを もっ て いる 。
言葉 を一 貫し た観 点で 理解 し よう とす ると き、 有効 な概 念と なる 。
( 野 村 眞木 夫 )
-4-
【ア クテ ィビ ティ 】
1 . 指 示 語 に は 、 具 体 的 な 事 物を 指 し 示 す 現 場 指 示 、 文 章 ・談 話 の 部 分 で 前 方 ま
た は後 方 の 語 句 を 指し 示 す 文 脈 指 示 、話 し 手 の み が 明示 的 に 想 定 し てい る 事 態
を 指し 示 す 観 念 指 示が あ る 。 そ れ ら には 、 運 用 に お ける 理 解 の し や すさ に 差 が
認 めら れ 、 ま た 接 続表 現 と の 境 界 、 指示 語 と 指 示 対 象の 語 句 と の 距 離、 指 示 対
象 の明 示 性 が 多 様 であ る 。 こ れ ら の 事象 と 言 語 発 達 との 相 関 が ど の よう に 想 定
され うる か、 検討 する 。
2 . 談 話 の 相 手 や 談 話 の 場 に 応じ 、 社 会 的 な 役 割 や 親 疎 な どの 人 間 関 係 が 想 定 さ
れ る。 文 末 や 語 句 の選 択 に よ る 敬 意 表現 の み な ら ず 、相 手 や そ の 場 の状 況 へ の
配 慮も 敬 語 の 運 用 には 必 要 で あ る 。 人称 や 場 に 対 応 して 人 間 関 係 が どの よ う に
構 築さ れ る か を 分 析し 、 運 用 す る 主 体の 年 齢 、 性 別 、関 係 性 を 考 慮 して 教 室 等
での 授業 場面 への 応用 をは かる 。
3 . 言 語 主 体 が 、 1 人 称 ・ 2 人称 ・ 3 人 称 の 使 い 分 け を 認 識し 、 ま た 空 間 的 な 視
点 をど の よ う に 認 知し て い る の か 、 言語 発 達 を 含 む 人間 の 認 知 的 な 発達 を 前 提
に して 、 こ れ が 言 語表 現 に ど の よ う に反 映 し 、 ま た 、自 分 で 任 意 の 「視 点 」 を
選 んで 任 意 の ジ ャ ンル の 文 章 を 表 現 する こ と が で き るか 、 現 実 の 言 語表 現 の 場
や文 学作 品な どに 基づ いて 検討 す る。
4 . 「 権 狐 」・「 ご ん 狐 」 で「 視 点 」 が ど の よう に 処 理 さ れ てい る の か 、文 脈 の 展
開 にそ っ て 変 化 し てい る の か 、 一 貫 して い る の か 。 2つ の テ ク ス ト を対 比 し な
がら 、移 動動 詞、 授受 動詞 にも 着 目し て、 整理 する 。
5 . 「 竹 取 物語 」 の 冒 頭 と 「 平家 物 語 」 の 「 那須 与 一 」「 弓 流」、 お よ び芥 川 龍 之
介 「羅 生 門 」 に つ いて 、 そ れ ぞ れ の 語り か た と 視 点 のお き 方 を 比 較 ・検 討 し な
がら 分析 する 。
-5-
【文 献】
石坂 正蔵(1944)『敬 語史論 考』 大八洲 出版
石 坂正 藏 (1951) 「敬 語 的 人 称 の概 念 」『 法 文 論 叢 』2( 北 原 保雄 編 1978『 敬 語( 論 集 日
本語 研究 9 )』 有精堂 再録 )
石坂 正蔵(1969)『敬 語』講 談社 現代新 書
糸井 通浩 (2009)「表 現 の視 点・ 主体 」糸 井・ 半沢 編(2009)『日 本語 表現 学を 学ぶ 人の た
めに 』世 界思想 社
大江 三郎(1975)『日 英語の 比較 研究 ―主 観性 をめぐ って 』南雲 堂
菊地 康人(1997)『敬 語』講 談社 学術文 庫
菊地 康人(2010)『敬 語再入 門』 講談社 学術文 庫
金水 敏・田 窪行則 編(1992)『指 示詞( 日本語 研究 資料集 1-7)』ひ つじ 書房
工藤 真由美 (1995)『 アスペ クト ・テン ス体系 とテ クスト 』ひ つじ書 房
久野
暲(1978)『談 話の文 法』 大修館 書店
西郷 竹彦(1998)『西 郷竹彦 文芸 教育全 集 14
文 芸学講 座 1
視点・ 形象・ 構造 』恒文 社
佐久 間鼎(1951)『現 代日本 語の 表現と 語法』 恒星 社厚生 閣
ザト ラウス キー,P.(2003)「 共 同発話 から 見た「 人称 制限」・「 視点」をめ ぐる問 題」『 日
本語 文法 』3-1.
鈴木
忠(1996)『子 どもの 視点 から見 た空間 的世 界』東 京大 学出版 会
松木 正恵(1992)「見 ること と文 法研究」『日本 語学 』11-9.
南不 二男(1993)『現 代日本 語文 法の輪 郭』大 修館 書店
南不 二男(2002)「談 話の性 格と 人称制 限」『近 代語 研究 11』武 蔵野書 院
宮崎 清孝・ 上野直 樹(1985)『視 点(認 知科学 選書 1)』 東京 大学出 版会
Nünning, A. (2001) "On the Perspective Structure of Narrative Texts: Steps toward a Constructivist
Narratology." in van Peer, W. and Chatman, S. eds. New Perspectives on Narrative Perspective.
State Univ. of New York Pr.
-6-
7
文 章 構造 と 談 話構 造
キーワ ード: 文章、 談話、文 段、話 段、話 題、主題 、構造、 階層、 展開、入 れ子
構造 、多 重性 、重 層性 、 話者 交替 、非 言語 情報 、論 理
市 川孝 (1978: 156f)は、五十 嵐力 (1909)など を参 照し なが ら、文章 が いく つの(大 )
段 落 に 区 分 さ れ る か と い う 観 点 か ら 、 (1)の よ う に 文 章 の 構 造 を 類 型 化 す る 。「 統
括」と いうの は、文 章の内容 を支配 し、文 章の内容 に関与す ること によって 、文
章全 体を くく りま とめ る機 能 であ る。
(1)(a)
全体 を統 括す る(大)段落 をも つも の(統 括型 )。
(ア)冒頭 で統 括す るも の(頭 括 式)。 ―全 体は 二段 に分 か れる 。
(イ)結尾 で統 括す るも の(尾 括 式)。 ―全 体は 二段 に分 か れる 。
(ウ)冒頭 と結 尾と で統 括す るも の(双括 式)。 ―全 体は 三 段に 分か れる 。
(エ)中ほ どで 統括 する もの (中 括式 )。 ―全 体は 三段 に分 かれ る。
(b)
全体 を統 括す る(大)段落 をも たな いも の(非 統 括型 )。
冒頭・ 結尾があって も、それが統括 機能をもたな いもの。全体は、 二段
・三 段・ 多段 (四 段以 上)、な どに 分か れる 。
市川 の提案 では、 文章の全 体は、 2段ま たは3段 で代表さ せるこ とができ るの
で 、「始 め − 中 − 終 わ り 」 と い った 初 歩 的 な 文 章 構 成の 認 識 に も 引 き当 て る こ と が
可能で ある。 しかし 、一般に 文章は 、段落 または文 段が互い に複合 して多重 的、
重層的 に、つ まり入 れ子構造 として の包摂 関係を構 成しなが ら作り 上げられ てい
ると仮 定され る。こ のことか ら、全 体が大 きく2段 ・3段の 構成に 還元でき ると
しても 、単位 体とし ての段落 や文段 の相互 関係や階 層関係は 、多様 な基準に よっ
て認 定す るこ との 必要 性が 理 解で きる 。
市川 の考え 方は、 文章全体 を大段 落に区 分し、次 第に細か く区分 していっ て、
-1-
内部構 成を明 らかに するとい うもの だが、 逆に文の 連接から 出発し てその累 積と
して 統 括 する 文 を想 定 する 考 え 方が あ る。 永 野賢 (1986)は 、 先ず 文 と文 の 連接 関 係
を次 のよ うに 規定 する 。
(2)1 展 開型 −前 の文 の内 容を 受け て、 あと の文 でい ろ いろ に展 開さ せる 関係
2 反 対 型− 前 の 文 の 内 容 に 対 し 、 あと の 文 で そ れ と 反 対 の 事 がら を 述 べ る 関 係
3 累 加 型− 前 の 文 の 内 容 に 、 あ と の文 の 内 容 を つ け 加 え た り 、並 列 し た り す る
関係
4 同 格 型− 前 の 文 の 内 容 と あ と の 文の 内 容 と が 、 同 じ こ と を こと ば を 換 え て い
った り、 くり 返し であ っ たり する 関係
5 補 足型 −前 の文 の内 容に 対し て 、あ との 文で 説明 を補 う関 係
6 対 比 型− 前 の 文 の 内 容 に あ と の 文の 内 容 を 対 比 さ せ 、 対 立 させ 、 ま た は 、 選
択さ せる 関係
7 転 換型 −話 題を 転ず る関 係
8 飛 石型 −文 を隔 てて 続く 関係
9 積 石型 −一 つ以 上の 文の 集ま り が一 つの 文と 直接 に連 なる 関係
この 関係を 文さら に段落に 拡張し て文章 構造を描 き、全体 が統括 される段 階に
言及 す る。 その 過 程で 、主 語の 連 鎖、 陳述 の連 鎖 や主 要語 句 の連 鎖を とり あ げる 。
市川 は内容 や意味 を重視し 、永野 は形式 や文法を 重視して いると 認められ る。
要す る に、 文、 段 落・ 文段 、文 章 は、 相互 に関 係 し合 い、 時 枝が 指摘 した よ うに 、
相対的 に認定 される 性質を内 在して いると ころから 、上記の ような 対立する 方向
性が 導き ださ れた もの だと 考 えら れよ う。
他 に 、 森岡 健 二(1976)は 、 文 章を 書 く手 順 の観 点 から 、 文 章の 材 料を 整 理し た 上
で、 ど のよ う に 配列 す るか を 型と し て列 挙 し てい る 。以 下 の 11 種 類 であ る 。す な
わ ち 、「 時 間 的 順 序 、 空 間 的 順 序、 一 般 か ら 特 殊 へ 、特 殊 か ら 一 般 へ、 原 因 か ら 結
果へ 、結 果か ら原 因 へ、クラ イマ ック ス( 漸 層法 )、既知 から 未知 へ、問 題解 決順 、
-2-
重要 さ の 順序 、 動機 づ けの 順 序 」で あ る。 土 部弘 (1973)は 、 話題 ・ 主題 や 趣意 を 基
準と し、長田 久男 (1995)は 読 み手 を重 視し 、文 章を 問い と答 えの 側面 から 記述 する 。
以上 は、文 章、つ まり書き 言葉を 念頭に おいた、 一般的な 文章の 構造の規 定で
ある。 ジャン ル、ま たはタイ プによ っても 異なりが 生じる。 たとえ ば、明解 な論
理性が 求めら れる論 説文と心 の動き のまま に綴ろう とされる 随筆と では、自 ずか
ら異な った構 造や統 括の方法 が求め られる し、時間 順序に従 う内容 であって も物
語と歴 史記述 とが全 く同じ文 章の型 に従う ことは想 定しにく い。昔 話であれ ば、
いくつ かの類 似した パターン や繰り 返しを 取りだす ことが可 能であ り、特に 冒頭
と末 尾は 類型 性の 高い ばあ い が多 い。
その 昔話は 、本来 、話し言 葉によ って語 られるも のだが、 それで は一般的 に話
し言 葉・ 談話 にお いて 、そ の 構造 はど のよ うに 理解 され るだ ろう か。
南 不 二 男 (1974: 73ff)で は 、 文 章 や 談 話 の 構 造 や 単 位 体 を 認 定 す る た め の 基 準 と
して 、次 の7 つの 手が かり を 提案 して いる 。
(3)表 現 さ れ た 形 そ の も の
参 加者
媒体
内容 ( 話 題 )
使用 言語
言 語 的 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン の 機 能
全 体的 構造
これ らが文 章と談 話とをつ なぐ共 通の範 疇になる 。談話の 全体構 造は、目 的や
話題が 鮮明な 講義・ 説明や形 式化さ れた挨 拶、会議 や交渉、 さらに 目的が明 確で
ない日 常的な おしゃ べりなど があり 、参加 者の数か らも独話 か対話 かなどが 区分
され、 それら に応じ て構造は 異なる 。直接 話し合う か、電話 を媒介 するかな どに
よっ ても 左右 され る。
(4)は 、 大 学 院 学 生 (M)と 教 員 (N)に よ る 、 ビ デ オ カ メ ラ の 操 作 方 法 を め ぐ る 談
話で ある 。こ の前 後に は、 機 器の 操作 を行 うこ とに よる 沈黙 があ る。
(4) 1N こ れで録 音状態 になって るのか な? ((N は カ メ ラ を 操 作 , M は カ メ ラ の 前 方 に 着 席 ))
2M
そ れで画 面に丸 い丸が出 て,あ ,赤い 丸が出 てますか ?=
-3-
3N
=んー ,出てる 出てる 。
4M
あは い,そ れでもう 録れて ます。
5N
んーん ーんー。 ((カ メ ラ の 横 か ら カ メ ラ の 前 方 に 移 動 ))
6N
それで どれぐら い実際 の音声 が入る かだよね 。
と
7M 今こう やって しゃべっ て[る だけでも もうど れぐら いかで すよね。 ((左 手 で 話 す 身 振
り ))
[んー 。 ((M の 右 隣 に 着 席 ))
8N
9N
んーそ うだよね ー。
10M
じゃど れ,ど れぐら いの音 量で入れ ばいい んです か。
11N
ん,ま普 通に聞 ければ 。
12M
ぼそっ と言う 感じで 。
13N
んーんー ん。{ 笑い}
14M
今ぐら いの[音 で(
),{笑い}
[今ぐら い,こ れぐら いでし ゃべって れば, 大丈夫 なん, = ((左 手
15N
で カ メ ラ を 指 さ す ))
16M
=あ。
17N
しゃべっ てるの が入っ てれば大 丈夫な んじゃ ないか な ,[ん ー。
[見てみ ますか ? ((左 手 で
18M
カ メ ラ を 指 さ す ))
19N
ちょっと 見てみ ようか 。
20M
はい。 ((NM カ メ ラ の 方 に 移 動 ))
21N
ちょっと やって みて。
( 4)に は 、 4 つ の 小 話 段 が 想 定 さ れ る 。 機 器 の 録 音 状 態 を 確 認 す る 話 段 (1N ∼
5N)、 音 声録 音 につ い て の問 題 提起 の 話段 (6N ∼ 9N)、音 量 の程 度 を相 互 に 確認 す
る話 段(10M ∼ 17N)、再 生作 業を 提案 しそ れに 移行 する 話段 (18M ∼ 21N)で ある 。
各話段 は、同 一語句 や関連語 句の反 復、接 続表現、 質問−応 答ペア とその入 れ子
構造、 確認の 要求・ 同意の要 求・相 手への 行為の要 求の発話 などを 基準にし て認
定 さ れ 、 (4)に は 記 入 し て い な いが 、 視 線 や 身 振 り が こ れ を 補足 す る 。 文 章 と 異 な
り、複 数の参 加者が 相互に交 替しな がら発 話し、非 言語情報 とも複 合して展 開す
る。「か (な )」「よ ね」 など の 文末 形式 やイ ント ネー ショ ンも 重要 であ る。
( 野 村 眞木 夫 )
-4-
【ア クテ ィビ ティ 】
1 . 文 章 を 読 む と き 、 文 章 の 全体 構 造 や 段 落 ・ 文 段 の 関 係 を認 識 す る こ と で 、 時
間 関係 、 空 間 関 係 、人 物 の 動 作 の 描 写、 事 実 の 報 告 と意 見 、 例 示 と 一般 化 、 並
列 関係 、 背 景 と 前 景な ど を 理 解 し 、 かつ 文 章 が 多 重 的・ 重 層 的 に 組 み立 て ら れ
て い る こ と が 認 識 で き る 。 そ の 根 拠 と な る 言 語 的 な 指 標 に つ い て 、「 始 め − 中
− 終わ り 」 を 認 識 する 段 階 か ら 多 重 的・ 重 層 的 な 構 造を 認 識 す る 段 階ま で を 想
定し なが ら、 整理 ・系 統化 する 。
2 . 文 章 の 構 造 に は 一 般 的 な 特性 が 認 め ら れ る の と 同 時 に 、ジ ャ ン ル に よ っ て そ
れ ぞれ の 特 徴 が 差 異化 さ れ る 。 共 通 資料 や 任 意 の 文 章、 絵 本 を 含 む 書籍 を 取 り
あ げて 比 較 し 、 ジ ャン ル 的 な 特 性 や 文体 の 差 異 を 認 識す る 授 業 を 計 画す る 。 た
と えば 絵 本 を と り あげ る こ と が 小 学 校の 低 学 年 だ け で適 格 だ と い え るか 、 帰 納
・ 演繹 ・ 弁 証 法 な どの 論 理 の 認 識 を 言語 発 達 と ど の よう に 関 連 さ せ るこ と が で
きる か、 など の課 題を 考察 する 。
3 . 談 話 は 、 そ の 目 的 や 場 面 、社 会 的 な 局 面 、 談 話 の 参 加 者の 人 数 や 属 性 な ど に
応 じ て 、 多 様 な ジ ャ ン ル が 想 定 さ れ る 。 例 え ば 本 節 の 事 例 (4)と 共 通 資 料 【 教
室 談 話 資 料 】【 自 然 談 話 資 料 】 と で は 、 そ れ ぞ れ 大 き な 差 異 が 認 め ら れ る 。 そ
の 差異 を 検 討 し な がら 、 話 し 合 い の 目的 や 話 題 、 人 数な ど に 応 じ て どの よ う な
指 導 の 観 点 が 必 要 か を 、 特 に 、 環 境 ( 相 互 の 位 置 を 含 む )・ 人 数 ・ 目 的 を 変 数
とし て、 言語 発達 との 相関 をは か りな がら 具体 的に 考察 する 。
4 . 文 章 に お け る 中 間 的 な ま とま り を 分 析 し て み る と 、 曖 昧な 部 分 が 残 っ た り 、
複 数の 結 果 が え ら れた り す る こ と が ある 。 そ こ で 、 任意 の 随 筆 に つ いて 、 言 語
発 達と 言 語 標 識 の 認知 の 相 関 を 考 慮 しな が ら 、 複 数 の異 な っ た 文 段 認定 と 文 章
の構 造分 析を 試み て、 その 根拠 の 妥当 性を 検討 する 。
-5-
【参 考文 献】
安達 隆一(1987) 『構文 論的文 章論 』和泉 書院
阿部 純一他 (1994)『 人間の 言語 情報処 理』サ イエ ンス社
五十 嵐力(1909)『新 文章講 話』 早稲田 大学出 版部
石黒
圭(2004)『よ くわか る文 章表現 の技術 Ⅱ― 文章構 成編 ―』明 治書 院
市川
孝 (1978)『の た めの 文章 論概 説』教 育出版
国 語 教育
樺島 忠夫(1983)「文 章構造 」水 谷静夫 編『運 用Ⅰ (朝倉 日本 語講座 5)』朝倉 書店
北原 保雄 監修・ 佐久 間ま ゆみ編 (2003)『 文章 ・談話 (朝 倉日本 語講 座第 7 巻)』朝倉 書
店
佐久 間まゆ み他編 (1997)『 文章 ・談話 のしく み』 おうふ う
ザト ラウス キー, P.(1993)『 日本 語の談 話の 構造分 析』く ろし お出版
砂川 有里子 (2005)『 文法と 談話 の接点 』くろ しお 出版
塚原 鉄雄(1993)『国 語表現 の史 的形成 』新典 社
寺村 秀夫他 編(1990)『ケー スス タディ
日本 語の 文章・ 談話 』おう ふう
時枝 誠記(1960)『文 章研究 序説 』山田 書院( 1977 明 治書院 復刊 )
永野
賢(1986)『文 章論総 説』 朝倉書 店
長田 久男(1995)『国 語文章 論』 和泉書 院
野矢 茂樹(2001)『論 理トレ ーニ ング 101 題 』産 業図書
土部
林
弘(1973)『文 章表現 の機 構』く ろしお 出版
四郎(1998)『文 章論の 基礎 問題』 三省堂
ハリ デー, M. A. K. / ハッサ ン, R. (1985)『 機能 文法の すす め』大 修館 書店
プロ ップ, V. (1928)『昔話 の形 態学』 水声 社
湊吉 正編(1995)『随 筆・紀 行の 表現( 表現学 大系 28)』教 育出 版セン ター
南不 二男(1974)『現 代日本 語の 構造』 大修館 書店
南 不 二 男 (2003) 「 文 章 ・ 談 話 の 全 体 構 造 」 北 原 保 雄 監 修 ・ 佐 久 間 ま ゆ み 編 『 文 章 ・ 談
話( 朝倉 日本語 講座 第 7 巻)』 朝倉 書店
メイ ナード ,泉子 ,K.(2004)『 談話 言語学 』くろ しお 出版
森岡 健二(1963)『文 章構成 法』 至文堂
-6-
8
マ ル チモ ダ リ ティ の 観 点
キーワ ード: マルチ モダリテ ィ、ト ランス ダクショ ン、言語 、さし 絵、図表 、レ
イア ウト 、身 振り 情報 、 視覚 情報 、メ ディ ア、 教室
これ までは 、書き 言葉、話 し言葉 などを 個別に取 りあげて きたが 、現実の 言語
表現は 、文字 言語や 音声言語 だけに 限定さ れるもの ではない 。印刷 された一 つの
文字を 観察し ても、 活字の種 類や大 きさや 色、ある いは印刷 されて いる紙の 質感
などに 応じて 、送り 手にどの ような 認識が あったの か、受け 手がそ れをどの よう
に認知 するの かが異 なる。こ のよう な現象 をとらえ る概念と して、 マルチモ ダリ
ティ (multimodality)とい う 用語 が提 案さ れて いる 。
Kress and van Leeuwen(2001: 20f)によ ると 、マ ルチ モ ダリ ティ とは 記号 的な 所産 や
事態に おける いくつ かの記号 的モー ド、す なわち記 号的な資 源の使 用であり 、そ
れらの モード が結合 される方 法であ る。そ のように 統合的に 表現さ れた実体 をマ
ルチ モー ダル ・テ クス トと 呼 ぶこ とに する 。
たと えばミ ヒャエ ル・エン デ『は てしな い物語』 では、活 字が赤 と緑の2 色に
刷り分 けられ ており 、主人公 のバス チアン が『はて しない物 語』を 読みすす める
過程や 読了後 の事態 などは赤 で、バ スチア ンが読む 書物の本 文は緑 で印刷さ れて
いる。 これを 読者が どのよう に理解 するか が問われ るのだが 、これ は活字を 2色
に刷り 分ける ことが 文章の意 味や効 果を規 定すると いう、マ ルチモ ーダルな 現象
の一 例で ある 。
Kress and Jewitt et al.(2001)が着 目し たの は、 小学 校 で行 われ た科 学( 理科 )の 授
業であ る。こ れは、 これまで の研究 が、教 師の言葉 、生徒の 回答の 言葉、教 授と
学習 に 使用 され る 教科 書な ど、 言 語の みに 焦点 化 して きた こ とへ の批 判に 発 する 。
科学の 授業で は、言 語と行為 と視覚 的な情 報とが作 り出すマ ルチモ ーダルな 側面
を端的 に焦点 化でき るのだが 、それ では、 国語の教 室ではど のよう な実態を 取り
だすこ とがで きるだ ろうか。 これま でに言 及してき た、書き 言葉と 話し言葉 、な
-1-
どを 総合 的に 検討 して みよ う 。
『は てしな い物語 』を印刷 する活 字の色 分けから も理解で きるが 、書物の 形態
だけを 取りあ げても 、マルチ モーダ ルな現 象は容易 に見いだ される 。書物か ら文
字言語 の情報 だけを 抽象する ことは 、むし ろ困難で ある。文 字の種 々の属性 、レ
イア ウ ト、 さし 絵 や写 真・ 図表 、 紙質 など が読 み 手に なん ら かの 働き かけ を する 。
たとえ ば、ペ ージに 図表が挿 入され ていた とき、そ のレイア ウトを 変えるだ けで
も、 全体 の情 報に 対す る理 解 の様 相が 変化 する 。
話 し 言葉 では 、 さら にパ ラ言 語 的な 要因 、表 情 、姿 勢、 身 振り 、身 体的 な 距離 、
服装そ の他が 問われ る。通常 の自然 談話や 教室談話 で録音・ 録画資 料を取り あげ
る場合 は、発 話を文 字化する ほか、 視線の 方向、身 体の方向 とジェ スチャを 記述
する こと で基 本的 な情 報が 獲 得で きる 。
まず 、絵本 のマル チモダリ ティを 考えて みよう。 絵本は1 つのジ ャンルだ が、
いくつ かのタ イプに 下位区分 される 。物語 絵本:時 間軸に沿 った一 つの物語 を構
成する タイプ で、童 話などの 原作や 昔話に もとづく ものと新 たに創 作された もの
に区分 するこ とがあ る。科学 的な絵 本:自 然科学や 社会科学 ・文化 などに関 わる
絵本で は図鑑 に近似 するばあ いがあ る。し かけ絵本 :いわゆ る飛び 出す絵本 など
を典型 とする 技術的 な操作が 加えら れたも のなどが あり、読 者対象 や目的に よっ
て複 合 する 。そ の 他、 多様 な区 分 があ るが 、明 確 な分 類基 準 は提 案さ れて い ない 。
文字情 報のな い絵本 もある。 いずれ も見開 き2ペー ジが、独 立性の たかい1 つの
画面と して機 能し、 そこに認 められ る場面 に応じて 1枚から 3枚程 度のさし 絵が
配置 され る。
絵本 では、 文字が 縦組みで 印刷さ れてい るか、横 組みで印 刷され ているか によ
って、 読者の めくり の方向が 逆にな る。こ のことが さし絵の 構造を 規制する 。縦
組みの ばあい 、ペー ジのめく りや文 字の読 み取りは 、右から 左に進 む。これ に対
応して 、たと えば登 場人物( 動物な ども含 む)が歩 く様子は 、右か ら左に向 かう
ように 描画さ れ、戻 る様子は 、左か ら右に 向かうよ うに描画 される 、何かを 待ち
受けて 立ち止 まって いる様子 は、や はり右 向きに描 かれる、 などで ある。横 書き
-2-
の絵 本で は、 この 逆で ある 。
絵 本に つい て、 pageturner
の概 念 が重 視さ れて いる 。これ は、Nikolajeva and Scott
(2001:152)に よ れ ば 「 読 者 に ペ ー ジ を め く る よ う に 仕 向 け 、 次 に 起 き る こ と を 知 り
たい と 思わ せ る、 言語 お よび 絵 画の 表現 」 であ る。 笹本 純 (2001:
120ff)は 、 絵本 の
画 面 展 開 に つ い て (1)の 3 つ の 概 念 を 提 案 す る 。 "pageturner"は 、 笹 本 の 「 引 き 」 に
相当 する 。
(1)「 引 き 」: 読 者 に ペ ー ジ を め く っ て 次 の 画 面 を 見 た い と い う 欲 求 を 抱 か せ る よ
う な画 面の 作用
「 受 け 」: 前 画 面 か ら の 読 者 の 期 待 に 応 じ て こ れ を 引 き 受 け る 、 次 画 面 の 果 た
す 役割
「 止 め 」: 読 者 を そ の 画 面 に 見 入 ら せ 釘 づ け に し て 画 面 展 開 を 停 止 さ せ る よ う
な 作用
絵 本は 、こ のよ うな 基礎 的 な範 疇を もと に表 現さ れて いる 。
一般 の書籍 には、 さし絵や 写真、 その他 の図表が 伴うこと がある 。絵本と 異な
り、さ し絵等 との関 係におけ る見開 きのペ ージを単 位とした 独立性 は認めら れな
い。 し かし なが ら 、図 表を どの よ うに 読み 取る か とい う水 準 とあ わせ て、 当 該の 、
あるい は見開 きのペ ージにお いてそ れらを どのよう に配置す るかが 、読み手 の理
解を規 制する 。特に 複数の図 表を配 置する ばあいは 、その順 序や位 置関係を 無視
するこ とがで きない 。また図 表では 、同じ データに ついても グラフ の種類を どの
よう に選 択す るか によ って 、 理解 の水 準に 影響 をお よぼ すこ とが あり うる 。
この ことを 検討す る考え方 として 、マル チモダリ ティの概 念と関 連してト ラン
スダ ク ショ ン (transduction)の 概念 が ある 。 これ は 、Kress(2010:
124)に よれ ば 「1 つ
のモー ドから 別のモ ードへ意 味を移 動させ る過程を しめす」 用語で あり、意 味の
実体を 、発話 から映 像へ、書 物から 映画へ というよ うに移動 させる ことであ る。
2つの モード は多様 な組み合 わせで ありう るので、 この関係 を手が かりとし て、
-3-
さし絵 から図 表にい たる読み 取りか たを認 定する過 程を明確 に跡づ けること が可
能に なる 。
マル チモダ リティ の概念を このよ うに理 解してく ると、書 物の表 現と理解 のみ
なら ず、 教室 等で のコ ミュ ニ ケー ショ ンも 視野 に入 れる こと がで きる 。
小 学 校 4 年生 の 5 人 で構 成 す る グル ー プ 学習 の 例を 取 り あげ る 。 課題 は 、
指定 さ れた 詩 から 各 自の 好 き なも の を選 び 、そ の 理由 を 集約 す るこ と であ る 。
(2) 5B
ねー ,ね[先 生さあ れ,
6A
[D の「箱 のよー だ」 いーよ ねー ,なん かね。
7B
先生 さっき さ, か,
8C
あー ,じゃ こー 発表し よ。
(3) 27B
ねー 。
28A
(1.4)な に。
29D
こっ ち[は夢 がある でしょ ,
30B
[あれ ,す, さっき [説明の 紙あっ たで しょー ? =
31D
[夢があ る詩っ てゆ ーの(
32B
= 先生 が,((A説 明の紙 を探 し始め る))
33D
こっ ちがー ,
34B
[説明の 紙な んても らった ?
35C
[ちょっ と待 って, いーこ と考 えた。
36C
もっ ともっ とっ て夢が ある みたい でー,
37C
[あの何 度で も打ち 上げる ー強 い心が わか る。
38D
[んー。
39A
) で,
説 明の紙 どこ やった 。
Bは 5で机を 挟んで正 面に着席 している CDEに視 線を向けて 発話するが 、こ
れは 受 容さ れな い。 そ の約 30秒 後 の27で、 Bは 隣 席の Aに 視 線を 向け て発 話 する 。
これ に Aが 対応 し 、以 下A Bの 談 話が 展開 する 。 39で Aが 他 の生 徒に 働き か けて 、
Bの 戦 略が 成功 す る。 視線 や身 体 的な 距離 の効 果 をこ こに 認 める こと がで き よう 。
ビデ オデー タや多 人数用ミ ーティ ングレ コーダー を活用す ること で、視線 の移
動やそ のタイ ミング 、身振り や身体 の向き などなど もデータ として 、多人数 イン
タラク ション の実態 を記述す ること が可能 であり、 マルチモ ダリテ ィの全体 像に
迫る こと がで きる 。
( 野村 眞 木夫 )
-4-
【ア クテ ィビ ティ 】
1 . 絵 本 と し て ジ ャ ン ル が 想 定さ れ る 書 籍 に つ い て 、 そ の 形態 や 対 象 年 齢 を 検 討
しな がら 特性 を確 定し て、ど のよ うに 教室 で 取り あげ るこ とが 可能 か検 討す る。
一 例と し て 物 語 絵 本の な か で 、 特 定 の原 作 が 複 数 の 絵本 と し て 出 版 され て い る
も のを 取 り あ げ 、 場面 や 画 面 の 分 割 のし か た の 異 同 、さ し 絵 で 何 が 素材 と さ れ
て いる か 、 さ し 絵 と言 語 表 現 と の 関 係が ど の よ う に 認め ら れ る か 、 それ ら を 根
拠に 個々 の絵 本の 特性 を理 解す る 。
2 . 言 語 調 査 に 関 す る 論 文 や 書籍 で 、 図 表 を 掲 載 し て い る もの に つ い て 、 そ の 図
表 から 何 が 取 り だ され る か を 検 討 し 、そ の 論 文 等 の 記述 と 照 合 す る 。こ の 作 業
を つう じ て 、 図 表 を各 ペ ー ジ の な か で移 動 さ せ た り して レ イ ア ウ ト を検 討 し 、
同 一の デ ー タ で 異 なっ た 様 式 の グ ラ フな ど を 作 成 し て理 解 の し や す さが 変 化 す
るか 検討 する 。
3 . 自 然 談 話 や 教 室 談 話 を ビ デオ デ ー タ と し て 収 録 し 、 談 話資 料 を 作 成 ・ 観 察 し
て 、笑 い や 同 時 発 話な ど の あ り よ う から 参 加 者 の 人 間関 係 や 話 題 と の関 係 、 話
題 に関 す る 知 識 の 多寡 な ど を 理 解 す る。 こ の と き 、 参加 者 が 2 人 、 ある い は 3
人 以上 の も の に つ いて 、 発 話 や 笑 い 、沈 黙 な ど の 他 、視 線 の 移 動 、 身体 的 な 位
置、身 振り な どを 多層 的に 記述 して 分析 を試 みる 。参 加者 の人 数、性 別 や年 齢、
人 間関 係 な ど を 多 様に 想 定 し 、 教 室 での 具 体 的 な 談 話や 話 し 合 い に どの よ う な
応用 が可 能か 検討 する 。こ のデ ータ の収 録に は、IC レ コー ダー 、ビ デオ カメ ラ、
多 人数 用 ミ ー テ ィ ング レ コ ー ダ ー な どが 必 要 で あ り 、記 述 や 観 察 ・ 分析 に は 、
適切 な再 生の ため の環 境、ELAN など フリ ーウ ェ アの 分析 ツー ルが 有用 であ る。
な お、 イ ン フ ォ ー マン ト の プ ラ イ バ シー に は 十 分 な 配慮 が 必 要 で あ り、 デ ー タ
の慎 重な 管理 が求 めら れる 。
-5-
【文 献】
伊藤 守 2006『 テレビ ニュ ースの 社会 学
マ ルチモ ダリ ティ分 析の 実践』 世界思 想社
榎本 美香・ 飯田仁 ・相 川清明 2013『 マルチ モーダ ルイ ンタラ クシ ョン』 コロナ 社
岡本 雅 史 ・ 大庭 真 人・榎 本 美 香・飯 田 仁 2008「対 話 型 教示 エ ー ジェ ン トモ デ ル 構築 に 向
けた漫 才対 話のマ ルチ モーダ ル分 析」『知 能と情 報』 20-4.
中川 素子、 今 井良朗、 笹本 純 2001『 絵本の 視覚 表現
―そ のひろ がりと はた らき―』
日本エ ディ タース クー ル出版 部
野村 眞木夫 ・畔上 歩美 2011「 絵本『 ごん ぎつね 』の スタイ ルとマ ルチ モダリ ティ」『 上
越教 育大 学研究 紀要 』30.
藤本 朝巳 2007『絵本 のし くみを 考え る』日 本エデ ィタ ースク ール 出版
文化 庁文化 部国語 課『 国語 に関 する世 論調査』 文化 庁( 報告 書、 文化 庁ホー ムペ ージ)
坊農 真弓・ 高梨克 也編 2009『多 人数 インタ ラクシ ョン の分析 手法 』オー ム社
メイ ナード , 泉子 ・K. 2008 『 マルチ ジャン ル談 話論― 間ジ ャンル 性と意 味の 創造― 』
くろし お出 版
Doonan, J. 1992 Looking at Pictures in Picture Books. Thimble Press.
Kress, G. 2010 Multimodality: A social semiotic approach to contemporary communication. Routledge.
Kress, G., Jewitt, C. et al.,
2001 Multimodal Teaching and Learning: The Rhetrics of the Scientific
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Kress, G. & van Leeuwen, T. 2001 Multimodal Discourse. Arnold.
Kress, G. & van Leeuwen T. 2006 Reading Images: The Grammar of Visual Design (2nd ed.).
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Lewis, D. 2001 Reading Contemporary Picturebooks : Picturing Text. Routledge.
Lim Fei, V. 2004
Developing an Integrative Multi-Semiotic Model.
in O’Halloran ed. Multimodal
Discourse Analysis : Systemic-Functional Perspectives. Continuum.
Maybin, J. 1999
Framing and evaluation in ten- to towelve-year-old school children's use of repeated,
appropriated, and reported speech in relation to their induction into educational procedures and
practices.
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Nikolajeva, M. and Scott, C. 2001 How Picturebooks Work. Routledge.
-6-