The 3rd Mobile Health Symposium 2012 in Tokyo モバイルヘルスシンポジウム2012 2012年7月22日 於 東京医科歯科大学M&Dタワー 鈴木章夫記念講堂 抄 録 集 発行 ITヘルスケア学会 ISSN 1881-4808 モバイルヘルスシンポジウム2012 『長寿健康社会でのイノベーションを実現するモバイルヘルス』 2012年7月22日 東京医科歯科大学M&Dタワー 鈴木章夫記念講堂 (東京都文京区湯島 1-5-45) 主 催 ITヘルスケア学会 移動体通信端末の医療応用に関する分科会 協 力 R102株式会社 協 賛 株式会社ビジネス・アーキテクツ 第一三共エスファ株式会社 後 援 YRP研究開発推進協会 中央コリドー高速通信実験プロジェクト推進協議会 モバイルヘルスシンポジウム2012 実行委員会 実行委員長 水島 洋 (国立保健医療科学院研究情報支援研究センター) 実行委員 石井 留雄 (NPO法人中央コリドー情報通信研究所) 実行委員 磯部 陽 (国立病院機構東京医療センター) 実行委員 伊藤 篤史 (東京医科歯科大学歯学部) 実行委員 大西 由華 (医療法人社団至高会たかせクリニック) 実行委員 木暮 祐一 (武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部) 実行委員 酒井 三奈子(明治安田生命保険相互会社) 実行委員 高瀬 義昌 (医療法人社団至高会たかせクリニック) 実行委員会事務局 東京都文京区湯島 1-5-45 東京医科歯科大学M&Dタワー 株式会社R102 http://www.facebook.com/mobilehealthsymposium http://ithealthcare.mobi [email protected] モバイルヘルスシンポジウム2012 『長寿健康社会でのイノベーションを実現するモバイルヘルス』 抄録集 目次 頁 5 … 目 次 6 … 開催のご挨拶 8 … プログラム(午前) 9 … プログラム(午後) 10 … 在宅医療が日本を変える―キュアからケアへのパラダイムチェンジ 水島 洋 ケア志向の医療である”在宅医療”という新しい医療概念の提唱 中野 一司 12 … これからの在宅医療は ICT でどう変わるのか 遠矢 純一郎 14 … これからの在宅医療は ICT でどう変わるのか 片山 智栄 16 … 超高齢社会システムの実現とジェロントロジーの可能性 長谷川 敏彦 18 … ローテクモバイルヘルスケアの現場から 近藤 則子 20 … 諸外国のモバイルヘルスの動向と事例 信國 謙司 22 … スマートフォン社会が医療・ヘルスケアをどう変えるか? 木暮 祐一 24 … 音声感情認識技術とヘルスケア分野への応用 光吉 俊二 26 … M2M とビッグデータで実現するヘルスケア・医療イノベーション 稲田 修一 28 … ランチョン セッション 1 30 … 3G携帯電話回線利用の職員配布モバイル端末による院外からの 電子カルテ閲覧システムを運用して 32 … 佐藤 智太郎 マートデバイスを利用した遠隔医療システムに求められるセキュリティ 富永 崇之 34 … モバイル端末とクラウド、CRM を活用した災害時健康支援システムの構築 水島 洋 36 … ランチョン セッション 2 38 … 地域の医療・福祉情報共有運用システム 株式会社ビジネス・アーキテクツ 41 … 移動体情報通信・端末の医療等の応用に資する提言(第1版) 42 … 編集後記 5 ご挨拶 移動体通信端末の医療応用に関する分科会 モバイルヘルスシンポジウム2012実行委員会 委員長 水島 洋 今日の高度情報通信ネットワーク社会を取り巻く環境も大きく変化しており、スマートフォンの出 荷台数はすでにコンピュータを上回るまでになりました。そのような中、接続性や操作性からモバイ ルヘルスケアとしての移動体情報通信が大きく注目されて、進歩しています。 タブレット型携帯端末に代表される移動体通信機能を実装した携帯情報端末も一昨年の iPad の登 場から急速に普及し、Android 端末やタブレット PC などの普及も相まって、医療・介護領域のシー ムレスな連携実現へ向けて、データ通信領域としての移動体情報通信網の利活用がますます進んでき ました。また、ネットワーク上に情報システムを構築するクラウドの普及も進み、移動体通信端末と の連携によってより大きなシステム構築の可能性が現実のものとなろうとしています。さらに、 WiMAX や LTE などの高速通信インフラの整備もすすみ、移動体通信が苦手としていた通信速度に ついても大きな改善がみられています。 一方で、医療情報をモバイル端末で扱うことについては、端末の紛失や通信路からの情報漏えいな どによるセキュリティ面の弱さの指摘も多いのも事実です。さらに、新しいシステムには既存の法律 が対応できず、法的措置が不十分になりがちです。 2010 年秋、保健情報、医療情報への移動体情報通信端末の利活用について、IT ヘルスケア学会 に「移動体通信端末の医療応用に関する分科会」が設立され、私が初代代表に任命され、2010 年 10 月 23 日に第 1 回のモバイルヘルスシンポジウムを東京医科歯科大学で開催しました。100 名 を超える大勢の参加をいただき、この分野への期待の高さを感じることができました。第 2 回は会場 を品川のコクヨホールに移し、2011 年 8 月 27 日に開催し、200 名を超える参加者にご来場いた だきました。第 1 回が iPad 中心であったものの、第 2 回は端末の種類も増え、さらに、携帯情報端 末と連携したセンシング技術などに関する発表もお願いしました。また、最後には分科会としての提 言をまとめることができました。 そしてその第3回目のシンポジウムとして「モバイルヘルスシンポジウム2012」が企画され、 多くの方のご協力とご賛同をいただきより大きな会場で開催することになりました。今回のシンポジ ウムでは最新の活用事例や海外の話題についてご紹介いただき、今後の携帯情報端末の普及をめざし ていきたいと思っています。 本セミナーの目的が、事例成果の発表や意見交換を通して、参加者各位へ広く共有されることを心 より祈念し、今後ますます医療の情報化が推進していくことを強く願っております。 6 実行委員長 水島 洋(薬学博士)プロフィール 1983 年 東京大学薬学部 卒業 1988 年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程 修了 薬学博士 国立がんセンター研究所生物物理部研究員、同がん情報研究部室長 2000 年から米国 NIH, NLM, National Center for Biotechnology Information. Visiting Scientist、国立がんセンター研究所疾病ゲノムセンター、国立がんセン ター研究所がん予防・検診研究センター情報研究部情報システム研究室 室長など を歴任後、2006 年から東京医科歯科大学情報医科学センター准教授、2009 年 から東京医科歯科大学疾患生命科学研究部オミックス医療情報学講座教授。神戸大 学医学部客員教授、ハワイ大学医学部併任助教授なども兼務。2011 年から厚生労 働省国立保健医療科学院研究情報支援研究センター上席主任研究官。詳しくは http://hiroshi.mizushima.info/ 参照 7 プログラム(午前) 実行委員長 開会挨拶(09:50~10:00) 水島 洋(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター) 座長 高瀬 義昌(医療法人社団至高会たかせクリニック) 招待講演1(10:00~10:30) ビデオ録画出演 「映像提供:株式会社イニシア USTREAM」 在宅医療が日本を変える~キュアからケアへのパラダイムチェンジ~ ケア志向の医療である”在宅医療”という新しい医療概念の提唱 中野 一司(医療法人ナカノ会ナカノ在宅医療クリニック 理事長) 招待講演2(10:30~11:10) これからの在宅医療は、ICTでどう変わるのか 遠矢 純一郎 (桜新町アーバンクリニック 院長) パネルディスカッション(11:10~12:00) どうする日本の在宅医療、多職種協働ネットワークへの課題と展望を語る 片山 智栄 (桜新町アーバンクリニック 看護師) 遠矢 純一郎(桜新町アーバンクリニック 院長) 高瀬 義昌 (医療法人社団至高会たかせクリニック 理事長) 中野 一司 (医療法人ナカノ会ナカノ在宅医療クリニック 理事長) Skype 参加 長谷川 敏彦(日本医科大学医療管理学 教授) 昼 食(12:00~13:00) ランチョンセッション 1 座長 磯部 陽(国立病院機構東京医療センター) ポスターセッション(12:00~12:20) 3G携帯電話回線利用の職員配布モバイル端末による院外からの電子カルテ閲覧システムを運用して 佐藤 智太郎(国立病院機構名古屋医療センター医療情報管理部) スマートデバイスを利用した遠隔医療システムに求められるセキュリティ 代表 富永 崇之(九州工業大学大学院情報創成工学専攻) モバイル端末とクラウド、CRM を活用した災害時健康支援システムの構築 代表 水島 洋 (国立保健医療科学院研究情報支援研究センター) ランチョンセッション 2 地域の医療・福祉情報共有運用システムのご紹介 株式会社 ビジネス・アーキテクツ 8 プログラム(午後) 座長 水島 洋(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター) 基調講演(13:00~13:50) 超高齢社会システムの実現とジェロントロジーの可能性 長谷川 敏彦(日本医科大学医療管理学 教授) 座長 石井 留雄(NPO法人中央コリドー情報通信研究所) 特別講演1(13:50~14:30) ローテクモバイルヘルスケアの現場から 近藤 則子(総務省情報通信審議会 委員 老テク研究会 事務局長) 座長 水島 洋(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター) 招待講演3(14:30~15:10) 諸外国のモバイルヘルスの動向と事例 信國 謙司(株式会社ビジネス・アーキテクツ管理部) 休 憩(15:10~15:30) 座長 木暮 祐一 (武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部) 座長報告(15:30~15:50) スマートフォン社会が医療・ヘルスケアをどう変えるか? 木暮 祐一(武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部 准教授) 招待講演4(15:50~16:40) 音声感情認識技術とヘルスケア分野への応用 光吉 俊二(株式会社 AGI 代表取締役 東京大学大学院工学研究科 非常勤講師) 特別講演2(16:40~17:30) M2Mとビッグデータで実現するヘルスケア・医療イノベーション 稲田 修一(総務省大臣官房 審議官 情報流通行政局担当) 実行委員長 総括(17:30~17:35) 水島 洋(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター) 9 在宅医療が日本を変える―キュアからケアへのパラダイムチェンジ ケア志向の医療である”在宅医療”という新しい医療概念の提唱 医療法人ナカノ会理事長 中野 一司 1999 年 9 月 2 日に、在宅医療の専門のクリニックであるナカノ在宅医療クリニックを鹿児島市 で開業し 13 年が経過する。開業当初は、病院で行われている(キュア志向の医療である)病院医療 をそのまま在宅で展開するのが在宅医療だと考えていた。ところが、実際、在宅医療を始めてみれば、 何かが違う。病院医療と在宅医療は似て非なるパラダイムの違う医療ではないかと考え始めた。 そうした中で、開業 9 年目の 2008 年 8 月 24 日、9 月 7 日、9 月 21 日に、村田久行先生の 3 回のセミナー(1 回 4.5 時間x3 回)を受講し、目から鱗、であった。村田先生は、京都ノートルダ ム女子大学大学院人間文化学部特任教授(哲学者)で、 「哲学とは、漠然とした観念を、しっかりと 言語化する学問」と喝破される。 本講演では、村田理論におけるキュア概念とケア概念(定義)を用いて、従来の”キュア志向の医 療=病院医療”に対し、 ”ケア志向の医療=在宅医療”という”在宅医療”の新たな医療概念を提唱 する。 現在進行中の医療崩壊は、キュア志向の病院医療の崩壊である。キュア志向の病院医療崩壊の救世 主は、ケア志向の在宅医療と考える。病院医療崩壊後に見えてくるわが国の医療再生のシナリオは、 1)急性期医療(キュア志向の医療)の集約化、機能強化、2)在宅医療(ケア志向の医療) ・介護 の連携・推進・普及、3)病院医療(急性期医療)と在宅医療(慢性期医療)の良質な連携で、その 行き着く先に地域包括ケアシステムが展望できる。そして、これらの方向性は、平成 24 年度診療報 酬・介護報酬の同時改定に反映された。 団塊の世代が後期高齢者(75 歳)になる 2025 年度問題を睨んだ、これらの抜本的ともいえる全 体的な医療、介護のシステム変更は、日頃から厚労省や筆者らが主張し、また筆者の主催するメーリ ングリストである”在宅ケアネット鹿児島ML” (以下、CNK-ML) http://nakanozaitaku.jp/carenet.html で、活発に議論されてきた内容である。そして、これら のインターネット上での議論が、具体的に国の政策として採用された。情報(ICT)革命により、イ ンターネットが国の大きな政策にも影響、反映する時代になった象徴的な出来事であったと考える。 以上の経過で、2012 年度(平成 24 年度)の診療報酬、介護報酬の同時改定の理念と内容には全 面的に賛成なのであるが、これらのシステム変更がうまく機能するには、特に療養型病床群(老人病 院)や介護施設、外来や在宅で現在展開される慢性期医療の哲学が、キュア志向の病院医療の哲学か らケア志向の在宅医療の哲学にパラダイムチェンジすることが重要と考える。 10 中野 一司(医学博士)氏プロフィール 略歴 1981 年 東京理科大学薬学部 卒業 1987 年 鹿児島大学医学部 卒業 1987 年 鹿児島大学病院第 3 内科 入局 1999 年 ナカノ在宅医療クリニック 開設 2003 年 医療法人ナカノ会 理事長 2004 年 ナカノ訪問看護ステーション ナカノ居宅介護支援事業所 設立 2008 年 鹿児島大学医学部臨床教授 就任 役職 鹿児島大学医学部 臨床教授 日本在宅医学会 幹事 社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会 IT・コミュニケーション局長 第 11 回日本在宅医学会大会長(2009 年 2 月 28 日、3 月 1 日開催) 著書 臨床診断のピットフォール(只野寿太郎監修、医歯薬出版) 感染症(一山智、丸山征郎偏、メディカルビュー社) がんの在宅医療(坪井栄孝、田城孝雄編、中外医学社) 褥創の常識・非常識(鳥谷部俊一、三輪書店) これでわかった!褥創のラップ療法(鳥谷部俊一、三輪書店) 11 これからの在宅医療は ICT でどう変わるのか 医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 院長 遠矢 純一郎 今後日本の医療のなかで大きな役割を担うであろう在宅医療であるが、外来や入院といった既存の 医療体制とは異なる特殊性がある。1)アウェイの医療、2)24 時間 365 日対応、3)多職種多 事業所との連携と言った要素である。在宅医療は 24 時間 365 日体制で患者の急変に備えておかな くてはならず、いつでもどこでも対応できるような仕組みが不可欠である。筆者らはオンコールや臨 時出動を複数の医師でカバーし合うグループ診療体制を構築している。加えて日々の在宅診療やケア において欠かせないのが多職種多事業所との連携である。 これら院内外との情報共有に基づく連携は、安全で質の高い在宅医療を実践する上で最も重要であ る。さらにアウェイという現場である以上、関係者がいつでもどこでも必要な情報にアクセスするこ とが求められる。そこで筆者らは昨今のスマートフォンとクラウドサービスを活用することで、安 全・安価に情報にアクセスできる仕組みをつくれないものかと検討を重ねた。 そこで開発されたのが、地域医療連携支援システム「EIR」(エイル)である。これはグループウェ アの考え方を応用したクラウド型 Web アプリケーションで、在宅医療に関わる多職種・多事業所の さまざまなプレイヤーが、全員で情報を共有しながら日々の記録を積み重ねていくことで、病状の把 握やケアの進捗管理をすることができる。クラウドシステムを採用することで、OS などのプラット フォームやデバイスにこだわることなく利用出来る。よって手持ちのパソコンやスマートフォン、携 帯電話を活用できるため、新たなハードへの投資が必要ない。かつユーザー側がさほど意識せずとも クラウドシステムによる高いセキュリティが保たれている。 地域医療連携支援システム「EIR」では、どの職種も等しく診療、看護、ケアの記録を入力するこ とができる。記録は時系列に配列され、 「重要」や「至急」 「通常」などのタグをつけることで並べ替 えることも出来る。写真を添付することで、褥瘡の経過を写真で確認することなども可能である。チ ーム内での連絡をスムーズにするお知らせ機能やスケジュール管理機能があり、連携に必要な書類帳 票も作成できるように設計されている。地域で 1 つの患者カルテとして共有することで、ケアとキュ アの質が向上し、患者や家族の安心感につながるものと確信している。加えてこれらの記録にそれぞ れの職種がコメントをしあうことで、比較的医療知識の乏しいホームヘルパーなどへの教育的役割を も果たすのではないかと期待している。 当院がある東京都世田谷区での実証実験を行いながら 2010 年秋より開発を続け、2011 年 8 月 からはサービスとして正式にスタート。2012 年 3 月下旬現在で登録されている患者数が約 1300 名、施設数は約 40 施設、利用ユーザー数が約 130 人に広がっている。より多くの職種が簡単安価 で安全に利用出来る IT 連携の実現を目指す取り組みについて報告する。 12 遠矢 純一郎氏プロフィール 1992 年 鹿児島大学医学部 卒業。 同年、鹿児島大学医学部第 3 内科所属 沖縄県立中部病院 研修 公益財団法人昭和会 今給黎総合病院呼吸器科部長 赴任 2000 年 用賀アーバンクリニック開業時より参画、副院長 就任 2004 年 在宅医療部設立、広域の老人ホームへの在宅医療を展開 2006 年 家族の看病のため帰郷 ナカノ在宅医療クリニックにて在宅医療に従事 2009 年 医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 院長 就任 東京世田谷を中心とした在宅医療を実践している 13 これからの在宅医療は ICT でどう変わるのか 医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 看護師 片山 智栄 昨今、高齢化の進展や慢性疾患の増加により、医療が一病院内完結型から地域完結型へと移行する につれ医療の現場は在宅へとシフトしている。そしてまた病院から在宅へとシフトしたことで患者に 提供するサービスレベルはケアとキュアとに分類され、それぞれの職種には高い専門性とコミュニケ ーション能力が求められている。しかしながら組織を超えて専門の異なる職種が必要十分な情報を継 続的にやりとりすることには困難がつきまとう。 在宅医療において中心的な役割を担う在宅医や訪 問看護師、ケアマネージャーなどが対面でコミュニケーションを図る機会も少ない。 情報共有の方法として、通常メールや FAX が長らく活用されてきた。メールや FAX は電話と違 い、相手の作業を中断させることなく情報を容易に伝達することが可能である。また最近の携帯電話、 スマートフォンには写真などの画像を添付することが手軽にでき、その場の状況を客観的にとらえる ことが容易になった。私たちは連携先の訪問看護ステーションや居宅介護事業所に日々の診療情報や 訪問看護記録をメールや FAX で一斉に配布し、積極的な情報共有による円滑な医療介護連携を目指 している。今回、この情報共有の方法や内容について、連携先の方々にアンケート調査を実施した。 結果は「診療内容を把握することで、ケアやキュアに反映することができた」 「病状や処置の説明の 統一ができた」などたいへん高い評価をいただいた。 その一方でメールではたくさんの他のメールに埋もれてしまい、情報が蓄積されにくい。重要な内 容なので返事、指示が欲しいといった場合にも気づかれないということもあるだろう。FAX ではせ っかく書かれている情報を二次活用することが難しい。またこれらは大凡自由記述されており、情報 にまとまりがなく書き手の度量に委ねられている。正しい診断を下して、最適なケアとキュアを提供 する為には各職種が専門知識を駆使しながら患者の情報を効果的に集めることが重要になる。在宅医 療ではそれぞれのプレイヤーが患者や家族といった同じ対象を観察し、ケアやキュアに必要な情報を 抽出して統合するという情報の調整作業が必要になる。その統合、調整された情報をもとに各プレイ ヤーが共通のケアやキュア目標の確認をするといったことが可能になり、在宅医療の質の向上につな がると考えている。 また、医療と介護にはコトバの違いも存在する。通常記録される医療用語や疾病の問題について介 護職が十分に理解することは困難である。医療と介護の両輪を担う訪問看護師がその「通訳」をする 必要があるが個々の介護職に働きかけるにはあ限界がある。 こういった情報の調整作業にこそ IT が活用されるべきであり、今後在宅医療の現場で必須のツー ルになるであろう。地域医療のコミュニケーション問題を解決する手段として情報技術(IT)はどう 活用し得るのか検討してみたい。 14 片山 智栄氏のプロフィール 防衛医科大学校高等看護学院 卒業 防衛医科大学校病院消化器外科病棟 集中治療部(ICU/CCU) 勤務 2003 年株式会社ビーアールビーメディカルサロン事業部 勤務 富裕層向け会員制医療相談室でチーフナースを務め、その後クライアントサービスセクションに配属。 チーフナースとしてサービス企画立案や法人営業、CRM を担当 2009 年医療法人社団プラタナス勤務 経営企画室医療連携担当マネージャー として主に在宅訪問診療部門の医療連携構築や仕組み作り、 健診事業に従事 桜新町アーバンクリニック看護師として在宅訪問診療の現場で在宅看護を実施中 2010 年株式会社メディヴァに移籍し現在に至る 15 超高齢社会システムの実現とジェロントロジーの可能性 日本医科大学医療管理学 教授 長谷川 敏彦 日本は 21 世紀初頭大きな転換点を迎えた。 2007 年世界唯一の超高齢社会(65 歳以上)21%) となり 22 世紀に向けて江戸へと回帰する。 日本の未来は現在とは断裂しており、過去から予測(フォーキャスト)は危険、未来から捉える(バ ックキャスト)ことが必要である。そしてその変化は多面に展開し相互に影響する。人生、家族、列 島、経済、医療は大きく転換する。その理由は、人類の生存戦略の転換「生存転換」の最終相に日本 が世界に先駆けて突入しているからある。 現在の医療は 19 世紀後半に平均寿命 40 才代、65 才以上人口 5%のドイツで開発された科学的 医学を基本としている。 ヒトの 50 才までは疾病は単一でエピソードも単一、 治癒可能なものが多い。 しかし高齢者の医療は複数の疾病が継続し、いわゆる「ケアサイクル」をなす。目的もシステムも大 きく転換する。 現在ケアサイクルにある高齢者は 500 万人と推計され、それが 2030 年には 900 万人、慢性臓 器不全等を加えると 1000 万人となる。つまり新たな医療の「国家目標は 2030 年に国民と共にケ アサイクルを 1000 万個」回すことである。そのために必要な 5 側面の 10 項目を推進する必要が ある。 まさしくその中に IT そして総合的老年学(ジェロントロジー)が必須の要項となっている。近代を終 えた人類は日本を先頭に次の時代へ突入する。今日本は日々刻々、人類未踏の社会を再新している。 つまり日本は人類のための究極の「実験研究国家」である。 16 長谷川 敏彦(医学博士)氏プロフィール 学歴 1972 年 大阪大学医学部医学進学課程 卒業 1981 年 米国ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程 修了 医師免許 1972 年 日本国医師免許 1981 年 米国外科専門医資格 学位 1981 年 修士号 公衆衛生学 ハーバード大学 2002 年 博士号 医学 東京大学 職歴 1986 年 国立がんセンター運営部企画室長 1995 年 国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長 2002 年 国立保健医療科学院政策科学部長 2006 年 日本医科大学医療管理学教室 主任教授 現在に至る 主著 長谷川敏彦編著:病院経営戦略、医学書院、2002.3 長谷川敏彦編著:病院経営のための在院日数短縮戦略、医学書院、2001.6 17 ローテクモバイルヘルスケアの現場から 老テク研究会 事務局長 近藤 則子 介護力は情報力 親の介護に奮闘する長男の嫁たちが『笑顔で介護をしたい!』と考え、在宅ケアを支援する情報通 信サービスの研究を開始して20年になる。 当時、半身不随の舅の介護から始まり、認知症の実母を自宅で看取り、現在も高次脳機能障害の実 父と病弱な姑の介護をしている大島眞理子さん(62)と、私(56)の小さなボランティア活動で ある。 『介護力は情報力』という大島さんは、高齢者介護の困難さの本質は、高齢者が病気やけがなどの 後遺症により『中途障害者』になることだと気づいた。障害』を抱えながら、高齢者が新たな生活を 構築するための知恵や知識を若い障害者から学んできた。 世界障害者団体から学んだこと 1994年に、世界障害者研究所のカプラン副理事長は、老テク研究会が主催したシンポジウムの 講演で、車椅子に座って、膝に『ノートパソコン』 、高く掲げた右手には『携帯電話』を持っている ニューヨークの自由の女神が描いてある団体のちらしを見せてくれた。 『新しい情報機器には障害者の自立や社会参加を支援してくれる大きな可能性がある。課題は、そ の技術の恩恵を、誰がどのように障害者に届けるかだ。 』と語り、高齢化社会は障害者社会であると 断言。高齢障害者への情報教育の重要性を示唆してくれた。 パソコンボランティア(シニアネット)の普及に取り組んで 米国では、高齢者が高齢者にボランティアでパソコンを教える『シニアネット』という非営利団体 があることを知り、日本のシニアネット普及を支援してきた。仙台や松本、京都や大阪、佐賀、沖縄 など、各地で高齢者むけ非営利パソコン教室を運営しているシニアネット団体と連携して、外出の困 難な患者や介護者も自宅から参加できる『電脳雛祭』や『電脳七夕祭』など、さまざまなオンライン イベントを開催してきた。 高齢者医療改革がもたらすもの 今年改正された訪問診療報酬は、医院の再診料の実に12倍の8300円である。しかも、訪問看 護師も手厚く看護する場合にはほぼ同じ報酬という大改革である。国は地域医療の現場に『訪問看護』 を推奨し、 『在宅ケア』を高齢者医療の中心にする方針をはっきりと打ち出した。理由ははっきりし ている。患者は『自宅で死にたい』し、費用負担も病院で亡くなるよりもずっと少ない。 しかし、自宅が病室になると家族の負担が大きく、そもそも家族のいない高齢者がこれから増える。 ほうっておくと『老人ホームで孤独死』があたり前になる。それを救えるのは地域の絆とそれを支え る通信網である。 大阪府富田林市の NPO による『おはよう伝言板』 10年前から、パソコンは難しいという高齢者むけに『モバイルシニアネット』という企業や行 18 連携した高齢者むけ無料携帯電話教室を実施してきた。 今年、この活動をきっかけに大阪の NPO『きんきうぇぶ』が、大阪府の支援をうけ、災害用伝言 版サービスの練習もかねて高齢者が楽しく携帯電話を日常的に利用したくなる無料の生活支援情報 サービスを開始した。毎朝、登録した会員の携帯電話に『おはよう』の挨拶メールが届き、希望すれ ば相談や買い物の代行などを依頼することができる。利用講習会も無料で、講師である事務局のスタ ッフから届く心のこもったメッセージも好評である。 高齢患者と家族の悩みは『役割の喪失による退屈』 介護者が困っているのは、高齢者(患者)に、1日をどう過ごしてもらうか、である。高齢になる ほど親しい友人は既になく、体の自由がきかないので、趣味や娯楽も限られる。身体の障害のレベル に応じた心を活性化してくれるリハビリが切実に求められている。おはよう伝言板はモバイルサイト を活用した高齢者にやさしいヘルスケアサービスである。 高齢者に情報学習の機会を! 在宅ケアを支える ICT は、技術面で目覚しい発展がある。しかしあいかわらず普及の課題になって いるのが『情報端末の操作が難しい』ので、 『高齢の医師や患者や介護者が使えない』ことだ。しか し、パソコンを使わなくても困らない(と考えている)高齢医師と違って、病気で困っている高齢の 患者や家族はパソコンや携帯電話のメリットを理解できれば、すぐにこれを習い、購入し、ヘビーユ ーザーになることは老テク研究会 20 年の経験で十分に検証できた。小型のパソコン電話であるスマ ートフォンは操作が簡単と宣伝されているが、それはパソコンを使える人の『簡単』であって、初心 者にスマートフォンは決して簡単ではない。 だからこそ、ここに新たな市場や可能性があるのではないだろうか? 高齢者への情報教育は、IT を活用した在宅ケアを普及する最高の処方箋である。 近藤 則子氏プロフィール 1976 年 米国マサチューセッツ州マウントアイダカレッジ 卒業 1992 年 老親を介護する友人と電子情報通信学会ICS研究会の分科会として 「老テク研究会」創設。以後、事務局長を担当。 老テク研究会事務局長 東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野交流研究員 総務省情報通信審議会委員 技術分科会構成員 スマートフォンを経由した利用者情報 WG 構成員 19 諸外国のモバイルヘルスの動向と事例 株式会社ビジネス・アーキテクツ 管理本部 信國 謙司 モバイルヘルス、あるいはmヘルス(mHealth)と呼ばれるカテゴリーは米国を中心とする所謂先 進国で利用されているものと、アフリカ、インド、中南米で利用されているものに大別できる。前者 は iPhone や Android スマートフォンの利用が主体で、これも治療目的のものと健康維持・増進を 目的にしたものとに大別することができる。後者はベーシックフォンおよびフィーチャーフォンと呼 ばれる携帯電話機を利用するものが多い。 米国では FDA(食品医薬品局)が 2011 年 7 月に医療用モバイルアプリケーションの承認手続き に関するガイドライン草案を発表し、広くコメントを求めている。並行してモバイルヘルスで利用す るデバイスやアプリケーションの承認作業を行っており、その数は 2011 年から急増している。ま た、IEEE は BAN(Body Area Network)の規格となる IEEE802.15.6 を 2012 年 2 月に正式 承認したほか、FCC(連邦通信委員会)が 2012 年 5 月に MBAN(Medical Body Area Network) 向け周波数割り当てを行うなど、規制当局や標準化団体がモバイルヘルス普及を推進する動きを活発 化させている。 先進国における豊富な事例を敢えて類型化すると、(1)ショートメッセージサービス(SMS)を活 用したコンサルテーション(患者と医療関係者のコミュニケーション) 、(2)テンポラリー・コミュニ ティー、(3)ハンドヘルド・ホスピタル、(4)トラッキング(位置情報の追跡)などに分けることがで きる。特に(3)ハンドヘルド・ホスピタルは必要に応じてスマートフォンにアタッチメントを装着す ることにより、比較的安価で持ち運ぶことができるエコー検査器、血糖値測定器、視力検査装置を実 現しようというもので、先進国内での利用だけでなく途上国での活用も期待されている。血糖値や血 圧、体重の測定については既存の機器の測定値をスマートフォンに Bluetooth などで送信し、ロー カルのアプリケーションやクラウド・サービスで蓄積する事例が多い。 健康増進のためのアプリケーションは主として活動量計の計測値(歩数、消費カロリー、睡眠時等 の動き)や食事内容を記録するものであるが、継続利用を促すための工夫が施されている。まず、デ ータをグラフ化して利用者自ら傾向や目標の達成度合いを視認し易くし、さらに利用者にコミュニテ ィーを形成させて相互に励ましあったり競い合ったりする仕掛けを組み込んでいる。Facebook や Twitter と連携したものも多い。また、計測する動機づけにゲーム要素を取り込んだ事例が数多く存 在する。こうしたゲーミフィケーションは健康増進系だけでなく、服薬や血糖値測定など患者からす ると持続の難しい繰り返し作業を促すためや、生活習慣を改善させるためにも広く活用されている。 途上国や新興国では国連や欧米の大学、医療機関のほか、NGO や民間企業が積極的に関与してい る。携帯電話機のショートメッセージを使って住民に HIV/AIDS などの啓蒙、教育、情報提供を行 ったり、医療関係者の支援、遠隔地のデータ収集を行ったりしている事例が多数存在する。 20 信國 謙司氏プロフィール 1985 年 東京大学工学部物理工学科 卒業 1992 年 カリフォルニア大学バークレー校 Haas School of Business 卒業 1985 年 日本電信電話株式会社 日本電信電話株式会社にて ISDN パケット交換網の開発ならびに標準化活動、 インターネット関連事業開発などに従事。 東京めたりっく通信、センチュリーシステムズ、チャットボイスなどを経て 2008 年 NEC ビッグローブ株式会社ビジネスサービス事業部にて新事業開発 マーケティングなどを担当 2012 年 株式会社ビジネスアーキテクツ 同志社大学大学院ビジネス研究科嘱託教員 21 スマートフォン社会が医療・ヘルスケアをどう変えるか? 武蔵野学院大学 国際コミュニケーション学部 准教授 木暮 祐一 携帯電話やスマートフォン(以下、モバイル機器)がすでに 1 人 1 台以上まで普及し、人々がい わばどこでも通信が可能なコンピュータを常時身につけて行動するという環境が現実のこととなっ ている。こうしたモバイル機器を通じて、人々は思い立ったときに通信を通様々な情報にアクセスす ることが可能であるし、さらに日常生活の様々な状態をモニタリングし、モバイル機器を通じて情報 を収集したり、クラウドにデータを送信することが可能である。 わが国は、世界に先駆けてモバイルインターネットサービスが普及し、携帯電話を通じたデータ通 信の利用が一般化している。さらに 2008 年のソフトバンクモバイルによる iPhone 発売以降、他 の通信事業者もスマートフォン導入を積極的に行い、現在世界の中で最もスマートフォン普及率が高 い国となっている。市販されているモバイル機器のほとんどがスマートフォンにシフトしている現在、 2015 年頃には誰もがスマートフォンを所持し、日常的に利用するような環境となっていく。 いうまでもなく、人々がインターネットにアクセスする手段は、乗じ手のひらにある「モバイル機 器」での利用が中心となり、さらに個人に関わるあらゆる情報がモバイル機器に集約し、モバイル機 器を通じて活用される時代になっていくと考えられる。 そこで、モバイル機器が社会生活の中でどのように活用されるべきか、現段階での各種技術動向を もとに今後の方向性を示すと共に、わが国における「情報化」に関する課題を明示しつつ、モバイル 機器の医療・ヘルスケア分野における利活用を「M2M」(機器間通信)や「ビッグデータ」(収集し た情報の分析と活用)という視点で展望していく。 22 木暮 祐一(工学博士)氏プロフィール (略歴) 1990 年 杏林大学 保健学部 卒業 1990 -1992 年 東京大学 医学部 研究生(母子保健学) 2000 - 2002 年 東京大学 医学部 研究生(発達医科学) 2007 年 徳島大学大学院 工学研究科 修了 博士(工学) 1992 - 2000 年 株式会社法研 医療・健康・福祉情報誌の編集者・記者 2000 - 2002 年 株式会社アスキー 携帯電話情報サイト編集長 2002 - 2004 年 株式会社ケイ・ラボラトリー(現、KLab 株式会社) 広報担当 2003 - 2009 年 戸板女子短期大学 国際コミュニケーション学科 非常勤講師(兼任) 2009 年~ 武蔵野学院大学 国際コミュニケーション学部 准教授 (経歴) 1980 年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、各種携帯電話情報誌の立ち上げや執筆 に関わる。2000 年、アスキーの携帯電話情報サイト『携帯 24』編集長。のち、携帯コンテンツ業 界を経て、携帯電話の医療分野への応用に関する研究開発に着手。携帯電話を用いた遠隔患者モニタ リングシステムの考案と評価を行い、2007 年、徳島大学大学院工学研究科を修了。博士(工学) 。 2009 年より武蔵野学院大学准教授。近著に『Mobile2.0』 (共著・インプレスジャパン) 、 『電話 代、払いすぎていませんか?』 (アスキー新書) 、 『モバイルマーケティングを活性化する 企業携帯サ イトの構築』 (共著・秀和システム) 、 『最新携帯電話業界の動向とカラクリがよーくわかる本』 (秀和 システム)など。1000 台を超える携帯電話のコレクションも保有。 23 音声感情認識技術とヘルスケア分野への応用 東京大学大学院工学研究科非常勤講師 株式会社 AGI 代表取締役 光吉 俊二 声から感情を認識する ST(Sencibility Technology: 感性制御技術)という独自技術の研究開発 を長年に渡って行ってきた。さらに、ST をベースに声から精神状態も認識することも可能になり、 これを PST(Psychoanalysis System Technology: 医療用音声精神分析技術)として発展させ研 究開発を続けている。ST、PST を用いることで、言葉、国籍、性別、年齢、個人差の影響を受ける ことなく、音声から情動、ストレス、抑うつ状態をリアルタイムに認識することができる。 この技術は 2000 年頃より実用化されてきたが、最近になりスマートフォンが市場に浸透するこ とで、その活用の場が広がりつつある。また、クラウドを活用することで ST の応用は自由度を増し てきており、その応用範囲は医療・ヘルスケア分野にも広がっている。たとえば、音声からストレス を計測したり、心の恒常性の状態を分析したりすることが可能になってきている。また、PST では、 音声から脳活動をリアルタイムで分析する研究も始まっている。こうした技術は、クラウド型アプリ ケーションとして提供し、スマートフォンやスマートタブレットで利用が可能になる。 また PST を用いた医療機器開発においても世界中が注目するようになっており、現在わが国だけ でなく米国、フィンランド、EU、中国政府機関、WHO などの医師・研究者との共同研究、共同開 発を開始している。こうした動向の中で、情報通信技術を有効に活用し、さらに ST、PST を応用し た診断・分析・治療・リハビリがスマートフォンなどの「持ち歩けるコンピュータ」で実現される時 代が到来すると考えている。同時に、PST による精神分析やストレス音声などの日常計測データが クラウドに集積されていけば、そのビッグデータを解析していくことで心のデータマイニングも可能 になっていくと思われる。 24 光吉 俊二(工学博士)氏プロフィール (略歴) 1988 年 多摩美術大学美術学部彫刻科 卒業 1988-1999 年 彫刻家として活動 1999 年 株式会社エイ・ジー・アイ 代表取締役就任 2003-2004 年 スタンフォード大学バイオロボティクスラボラトリ 客員研究員 2006 年 徳島大学大学院工学系研究科 博士課程修了 博士(工学)取得 2006 年 株式会社 AGI 代表取締役就任 (経歴) 多摩美術大学卒業後、彫刻家として活動しつつ、建築、材料化学(ポリマーコンクリート) 、CG の研究を進める。霞ヶ関の法務省赤レンガ庁舎の意匠設計や、松竹映画のタイトル CG 制作などに携 わった。1999 年に韻律からの音声感情測定を確立し、技術の商品化を果たした。またこの技術をバ イオロボティクスへ応用するため、心理学者のシャイン教授(MIT スローンスクール終身名誉教授) の紹介により、2003 年にスタンフォード大学にて客員研究員を務める。 ST 技術の確立のため株式会社 AGI を発足させ、自動感情測定から自動心理分析、仮想自我、感性 発生までの国際特許を取得し研究を進める。現在は、工学から生理学、そして脳科学までの横断的研 究を東京大学工学部および医学部と共同で進めている。 25 M2M とビッグデータで実現するヘルスケア・医療イノベーション 総務省大臣官房 情報流通行政局担当 審議官 稲田 修一 21 世紀に入ってから、ICT の役割が大きく変わってきた。ICT は、かつては効率化やコスト削減の 道具であった。しかし現在は、新しいビジネスモデルを創造する、あるいは、製品やサービスの付加 価値を高める高度に戦略的な資源といえる。 マーケティングの分野でも、ものづくりやサービスの分野でも、そして省エネルギーやヘルスケ ア・医療分野でも、ICT の活用によりイノベーションが起きようとしている。これを生み出す源とな っている概念が「M2M」と「ビッグデータ」である。 「M2M 」 (machine to machine=機械 対 機械)は、センサーを含む機械同士が自動的に通信するシステム、 「ビッグデータ」は大量のデータ 集積を意味する。 スマートフォンにヘルスケア・アプリを取り込むと、バイタルセンサーと M2M を用いた生体情報 や行動情報の自動収集・集積が可能になる。食べ過ぎや運動不足など生活習慣の「見える化」が実現 する。大量の生体情報や行動情報というビッグデータを分析し、生活習慣病予備群を割り出し、きめ 細かなフォローを行う、あるいは発病を予防するための治療などに結び付けることができる。 実際、社員の健康診断データ、レセプトデータ、日々の運動実績データを基に、過去に糖尿病とな った患者の数字から割り出したパターンと社員一人一人のデータを照らし合わせ、発病リスクを予測 する実証実験を行い、その有効性を確認した企業もある。人間の目では読み取りきれないリスクを、 ビッグデータを基にコンピュータで読み取っている。 ビッグデータは、医療の高度化も加速させる。米国では、集積した医療情報データの分析により、 医薬品承認の際に検知できなかった副作用検知が可能なことが判明し、これを活用した医薬品の監視 が開始されている。欧州では、医療情報データベースにより症例を集め、患者の状態と医薬品投与の タイミングと効果を分析し、医者の間でベストプラクティスを共有することにより治療法を改善する 試みがなされている。まさに、データを活用した医薬品の安全性向上や医療の高度化が始まっている。 諸外国では、さらに先を行く取り組みも行われている。集積された医療情報というビッグデータを もとに、病気と遺伝子の関係や遺伝子の違いによる医薬品の効能の違いなどを分析する研究である。 この研究が成功すれば、患者個人ごとに最適な治療法を採用するオーダーメイド医療が可能になる。 同じ病気であっても、患者によって特定の医薬品が効いたり効かなかったりすることは昔から知ら れていた。ヒトの遺伝子の研究が進み、これが遺伝子の違いによることが段々と分かってきた。また、 高血圧、糖尿病などの生活習慣病に関連する遺伝子群も明らかになりつつある。 医療の質を高めるため、そして病気の原因を解明するため、質の高いヘルスケア情報や医療情報を 収集・集積し、それを活用することが不可欠である。現在は、さまざまな情報を容易に収集・集積可 能な時代となっている。情報の集積自体が新たな価値を生み出す。そして、ちょっとした知恵と工夫 で、その「ビッグデータ」から新たな価値を引きだすことも可能である。 我が国のヘルスケア・医療分野でも M2M やビッグデータの活用が加速され、国民の健康増進やヘ ルスケア・医療サービスの国際競争力向上につながることを期待する。 26 稲田 修一氏プロフィール (学歴) 1977 年 九州大学工学部情報工学科 卒業 1979 年 九州大学大学院工学研究科修士課程 修了(情報工学専攻) 1984 年 米国コロラド大学 学院修士課程 修了(経済学専攻) (職歴) 1979 年郵政省入省。以来、郵政省、総務省、情報通信研究機構において、モバイルシステムの開 発・国際展開推進、電子政府/自治体システムの開発推進、電波の再配分・利用促進、研究企画、放 送のデジタル移行などの業務に従事。 2010 年 7 月から総務省大臣官房審議官(情報流通行政局担当) 。 (その他) 著述等:三次元映像(編著) 、ワイヤレス・ブロードバンド時代の電波/周波数教科書(共著)の 他、電波政策、技術開発政策の紹介、移動通信システム、ユビキタス・ネットワーク、電子政府・自 治体など情報通信分野の先端システムとその利活用法、関連政策の紹介に関する多くの著述と講演あ り。 27 ランチョン セッション 1 協 賛 株式会社ビジネス・アーキテクツ ポスター演題 座長 磯部 陽(国立病院機構東京医療センター 統括診療部長 医療情報部長 外科医長併任) 3G携帯電話回線利用の職員配布モバイル端末による院外からの 電子カルテ閲覧システムを運用して 佐藤 智太郎(国立病院機構名古屋医療センター医療情報管理部) スマートデバイスを利用した遠隔医療システムに求められるセキュリティ 富永 崇之 (九州工業大学大学院情報創成工学専攻) 木暮 祐一 (武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部) 津村 忠助 (有限会社 TRIART) 山本 邦雄 (九州工業大学大学院情報工学研究院知能情報工学研究系) 乃万 司 (九州工業大学大学院情報工学研究院知能情報工学研究系) モバイル端末とクラウド、CRM を活用した災害時健康支援システムの構築 水島 洋 (国立保健医療科学院研究情報支援研究センター) 藤井 仁 (国立保健医療科学院研究情報支援研究センター) 金谷 泰宏 (国立保健医療科学院健康危機管理研究部) 28 29 3G携帯電話回線利用の職員配布モバイル端末による 院外からの電子カルテ閲覧システムを運用して 国立病院機構名古屋医療センター 医療情報管理部 ○佐藤 智太郎 はじめに 当院では電子カルテの内容をインターネット経由で閲覧できる地域連携システムを 2009 年から 運用しているが、そのサーバーを利用して、職員にモバイル端末を配布し、自宅や出張先等でカルテ を閲覧する運用を開始したので現状について報告する。 目的 救命救急センターをもつ当院は年々救急車での来院患者が増加しており、平成 23 年度は 7195 名であった。それにつれて、夜間・休日の神経内科、脳神経外科、心臓血管外科、整形外科等の待機 医師への来院要請が増加し、院外で携帯電話等で画像を閲覧できないかとの要望が出てきた。当初は、 院内電子カルテのディスプレイを携帯電話の内蔵カメラ等で撮影して待機医師に転送する方式が検 討されたが、試行後に画面サイズ・画質の問題で本格運用は見送られ、モバイル PC(タブレット、 ノート)端末による院外閲覧の運用を検討することになった。 方法 当院で 2009 年から運用している電子カルテの地域連携閲覧システム(対象は院外のリハ病院、 診療所で光ファイバー、ADSL を推奨)を利用し、2011 年 12 月から院内勤務医師(一部医師以 外を含む)を対象に、自宅や出張先での電子カルテ閲覧を可能とする「金鯱テレワーク」サービス(リ モートカルテ)を開始した。ノート型およびタブレット型 PC での試用により脳梗塞等の診断(参考 として)に差し支えない画質の放射線画像が閲覧可能と判断し、2012 年 2 月には神経内科、脳神 経外科、心臓血管外科などの 6 科 20 名の医師にモバイル端末としてタブレット PC(Windows、 画面 10 インチ、CPU クロック 1.0GHz)を配布した。データ通信はセキュリティ確保のため携帯 電話 3G 回線(日本通信-DoCoMo、プリペイド)とし、回線速度を時間帯別に 20 回程度測定した (BNR サイト) 。主な用途としては、時間外に救急外来へ搬送された、脳梗塞患者の tPA 治療の適 応判定、脳出血や解離性大動脈瘤等の手術適応判定、骨折の診断、および入院中の患者急変時の諸デ ータ確認等、を当初想定した。 結果 試験運用中の回線速度は 44.24kbs~2740kbs と時間帯や場所により大きな差がついた。また、 指紋認証 1 回、パスワード入力が 2 画面あり、端末の電源投入から放射線画像表示までは最短で 4 分を要した。運用開始から 6 カ月で平均 14 件/月程度の利用があったが、救急外来関連の利用は 2 件/月程度と少なかった。理由として、データ通信にセキュリティ確保のため携帯電話 3G 回線を使 30 用しており、夕方など混雑する時間帯では患者データの画像を見られるまで時間を要する、電話連絡 のみでもかなりの情報が得られる、さらにタブレット PC と電源アダプタがやや重く感じられて出張 等に持参しにくい、などが挙げられた。ただ、カルテの記載事項(医師・看護師の記録、各種検査デ ータ)が読めるため、画像の診断の際に大いに参考になったとの意見もあり、正確な診断には電子カ ルテの文字情報の閲覧が重要であると述べる医師が複数あった。 考察 放射線画像の参照のみであればスマートフォンサイズでも良いが、カルテ記載事項を読むにはそれ ではサイズが小さいと考えられる。ただ、数百グラムのモバイル PC でも新たに持つことは移動には 負担であるので、BYOD(Bring Your Own Device)を含め、端末運用を検討中である。モバイル端 末で電子カルテの内容をどこでも閲覧できる利点は利用者全員が評価しており、勤務医の負担軽減に つながるデバイスとして今後期待される。 図:配布した端末の例 31 スマートデバイスを利用した 遠隔医療システムに求められるセキュリティ ○富永 崇之*、木暮 祐一**、津村 忠助***、山本 邦雄****、乃万 司**** * 九州工業大学大学院情報創成工学専攻 武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部 *** 有限会社 TRIART **** 九州工業大学大学院情報工学研究院知能情報工学研究系 ** はじめに 近年、医師不足のため、地方の病院では専門医がおらず、脳卒中などの急患に対する適切な処置が 遅れるといった事態をしばしば招いている。そこで、近年登場した iPhone や iPad などのスマート デバイスを利用することで、救急医療の際に、遠隔地の専門医の所見を得ることが考えられる。しか し、スマートデバイスは可搬性が高いために、紛失のリスクなど、個人情報を扱う上でセキュリティ に関する新たな考慮が必要である。 目的 本稿では、iPhone や iPad といったスマートデバイスを用いて DICOM 画像と NIHSS スコアを病 院間で共有し、ビデオチャットによる意思疎通を可能にする遠隔救急医療システムにおいて、どのよ うなセキュリティ対策を講じるべきかについて、実例をもとに論じる。 システムの システムの概要 テムの概要 本稿で想定するシステムはサーバ、クライアントアプリケーション、アップローダの 3 つから構成 される。サーバは病院間の情報を仲介し、地方の病院からアップロードされる DICOM 画像や NIHSS スコアを管理する。また、システムを利用する端末の連絡先の情報も管理し、電話帳機能として病院 間連携を促す役割を担う。クライアントアプリケーションは iPhone 4S および iPad で動作する本 システムのフロントエンドである。クライアントアプリケーションはサーバに登録された DICOM 画 像と NIHSS スコアの閲覧機能、NIHSS の問診機能、サーバが管理する連絡先の情報をもとに、他の 端末に Facetime や電話を発信する電話帳機能を有する。アップローダは MacOS X 上で動作し、サ ーバに PACS サーバから取得した DICOM 画像をアップロードする本システム専用のアップローダ である。 セキュリティ セキュアな情報システムを構築するには、一般に下記の項目を考慮する必要がある。 (1) 機密性 許可された者だけが情報にアクセスできることを確実にすること。この脅威としてはサーバへの 不正アクセスや、情報を格納した端末の紛失、通信路の盗聴がある。 (2) 完全性 情報が保存された状態のまま保持されていること。この脅威にはサーバへの不正アクセスや、通 信路における改竄がある。 (3) 可用性 アクセスを許可された情報が必要なときにアクセスできること。この脅威には自然災害のほか、 サービスの停止を目的とした DoS/DDoS 攻撃がある。 本稿で想定する遠隔医療システムでは、これらに対し以下のような対策を考える。まず機密性につ いては、情報が悪者の手に渡っても問題ないように、すべてのファイルに暗号化を施すことで対処す る。サーバはアップローダが送信した検査した患者の検査情報ごとに、その登録日時をもとに、アッ プロードする際に入力する患者名や部位の情報を組み合わせて一方向ハッシュ関数に入力する。そし 32 て、一方向ハッシュ関数から得られたハッシュ値を暗号鍵として検査情報を暗号化する。クライアン トアプリケーションが検査情報を閲覧する際も、サーバはその場で暗号鍵を生成し、通信終了後に暗 号鍵を破棄することで、暗号鍵をサーバに保存しないようにしている。一方、クライアントアプリケ ーションを使用する際は、ID とパスワードによる認証が必要となる。認証後、そのセッションで使用 する暗号鍵をランダムに生成し、サーバから受け取った検査情報を暗号化してスマートデバイスに保 存する。また、ユーザが一定時間以上クライアントアプリケーションを操作しない場合は自動的にロ グアウトし、ログアウト時に保存した検査情報をすべて削除する。通信路の盗聴についてはサーバと クライアントアプリケーション間の通信を SSL により通信を暗号化する。 完全性について、SSL は通信の暗号化だけでなく改竄にも有効であるため、これを利用する。SSL では送信の際、送信データをもとにメッセージダイジェストと呼ばれるチェックサムを計算し添付す る。受信側でも受信データをもとにメッセージダイジェストを計算し、サーバが送信したものと比較 することで、通信経路でのデータの改竄が無いかをチェックできる。サーバへの不正アクセスに対し ては、事後の対策となるが、定期的にデータファイルやディレクトリの変更を検知するのが有効であ る。また、侵入検知システムや侵入防止システムを導入することも有効である。 可用性については冗長構成が有効である。サーバや電源、回線などを複数用意することで、障害が 発生した場合にもサービスを提供しつづけることが可能になる。DoS/DDoS 攻撃に対しては、回線 の増強のほか、DoS/DDoS 攻撃に対応した FireWall の導入なども有効である。 現在、熊本大学医学部附属病院と阿蘇中央病院の協力のもと、システムの運用を行っている。2 病 院を対象にした小規模なシステムであるため、前述の対処のうち、完全性の項の変更検知や、不正ア クセス検出および可用性の項の冗長構成、DoS/DDoS 対応は実装していない。しかし、今後システ ムを展開する場合にはこれらについても考慮する必要がある。 まとめ 本稿ではスマートデバイスを活用した遠隔医療システムに求められるセキュリティについて実例 をもとに論じた。現在、暗号化と SSL 通信による機密性と完全性の保持について実装し、システム を運用している。今後、システム運用の中で、システムにかかる負荷を検証し、可用性の保持に必要 なシステムの構成について検討していく。 また、本システムの課題として情報システムとしての信頼性以外にも医療システムとしての信頼性 の確保がある。情報システムとしての信頼性が期待された性能を安定して発揮するための指標である のに対し、医療システムとしての信頼性とは、医療ミスが起こらないといった質の高い医療を提供す るための指標である。今後、医療分野の情報化は大きく進むと考えられるが、開発者には医療システ ムを開発する中で双方を考慮した質の高いシステムの構築が求められる。 謝辞 今回のシステム構築にあたり、このような機会を提供いただいた、熊本大学医学部附属病院ならび に阿蘇中央病院の関係者の方々に深謝します。 33 モバイル端末 モバイル端末とクラウド 端末とクラウド、 とクラウド、CRM を活用した 活用した 災害時健康支援システムの 災害時健康支援システムの構築 システムの構築 ○水島 洋* 藤井 仁* 金谷 泰宏** * 国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター ** 国立保健医療科学院 健康危機管理研究部 Hiroshi MIZUSHIMA, Hitoshi FUJII, Yasuhiro KANATANI [email protected] はじめに 2011 年 3 月の東日本大震災では、医療情報の面からも様々な問題を投げかけた。被災地域にお ける医療情報の喪失や通信手段の欠如などの問題とともに、課題の一つとなったのが、避難所や仮設 住宅における健康管理のための情報共有が上げられる。被災地では全国からの支援チームが交代で来 るために、情報共有ができないと毎回同じ問答を繰り返すことになる。また方言のために正確に聞き 取れないことも課題であった。今回被災者の健康管理と、被災地の保健行政を支援するしくみを、厚 生労働省として整備した。 平成23年度第 3 次補正予算による調達で、クラウドを用いた災害時の被災者健康管理システムの 構築を行い、本システムを用いた研修会をおこないながら、よりよいシステムの構築をすすめている。 今回その設計思想、特徴、運用状況、課題について発表を行う。 システム クラウド上に構築することにより、 安全性、共有性、さまざまなデバイス からの入力などにおいて利点がある。 また、平常時にはローカルあるいは最 小限のクラウドにおいて運用や研修 を行い、発災時にはクラウドの規模を 増大することによって、ハードウェア の調達を待つことなく巨大なシステ ムでの運用が可能となる。 また、本システムでは、一般的な会 社で顧客管理に用いられている、顧客 関 係 管 理 シ ス テ ム ( Customer Relationship Management :CRM) を用いることで、システムの構築や運 用を簡単に、かつ柔軟に行えるように している。これは災害の種類や規模に 応じて柔軟に項目を変えるために重要である。 さらに、利用者および避難民の個人認証には Felica を使えるようにしており、Suica や Pasmo, おさいふ携帯などの Felica を所持しない避難民に対してはシール式の Disposable な Felica シール の配布も準備している。 また、自動画像 Upload 機能付きの Web カメラを用いることにより、避難所などの状況の定時連 絡が人を介することなく行うことが可能で、画像は関係者で共有できる。 結果 厚生労働省の災害時における公衆衛生従事者の対応ガイドラインが策定されていないことから、情 34 報収集項目などについては仮のものではあるが、先遣隊の情報収集システム、支援者の情報収集シス テム、避難民の健康管理システム、およびそれらを管理するための各種登録システムが構築できた。 2012年6月、国立保健医療科学院において行われた健康機器管理者研修会においてこのシステ ムを用いた演習を行った。システムができ上って間もなくの研修であったために、我々もシステムに 不慣れで、機器のトラブルも多く、多くの課題を残す結果となった。しかし、外部評価者を含む参加 者からの意見やアンケートでは、トラブルを含めて実際の混乱した状況に共通することがあり、有益 な体験であったとの高い評価をいただいた。 Discussion Table による本部での演習 想定被災地における入力と TV 会議報告 考察 今回はまだ構築されたばかりであり、システムの統合練習、被災演習シミュレーションなどについ ては、これからストーリーを考える必要がある。 派遣された被災地でのコンピュータを扱う必要から、タブレット PC を用いたシステムとしたが、 携帯性、電池の持ちなどについては有効であったものの、多くの情報を入力する端末としては不適で あった。また、項目数が可変なようにプルダウンメニューで設計したたことも入力に時間がかかる原 因となった。 先遣隊のような場合には携帯電話やスマートフォンからの入力や、携帯音声電話、衛星電話、FAX からの情報を別なところで代行入力するようなことを併用するべきであろう。その場で使える環境や 機器をつかった情報連携を臨機応変に行う必要がある。 謝辞 今回のシステム構築にあたり、岩手医大の秋富先生、岩手看護短大の鈴木るり子先生、東北大学の 上原先生には様々なご助言をいただきました。また、システム開発においては、調達会社に加え、日 本マイクロソフト社、ビジネスアーキテクツ社、株式会社イイガのご協力をいただきました。また、 研修会に参加していただいた皆様には、不手際の多い中、未熟なシステムに対して様々なご意見をい ただき、深く感謝いたします。 35 ランチョン セッション 2 協 賛 株式会社ビジネス・アーキテクツ 「地域の医療・福祉情報共有運用システム」のご紹介 36 … 株式会社 ビジネス・アーキテクツ 37 地域の医療・福祉情報共有運用システム 株式会社ビジネス・アーキテクツ 地域における健康・医療・福祉に関する情報を自治体や医師、介護・看護サービス事業者など多岐 にわたる関係者で有機的に共有して活用するには、クラウド・コンピューティング、モバイル・ブロ ードバンド、タブレットやスマートフォンなどの技術要素を組み合わせ、柔軟なシステムを構築する ことが必要となる。被災地では特に高齢者の健康管理などの目的にこうしたシステムが現実に強く求 められており、また、自然災害に見舞われることの多い我が国では、近い将来に必ず災害が発生する ことを想定しなければならない。 システム構築に当たって、被災地支援、災害発生時の対応など、特定に限定した目的のために設計 する方法もあるが、日常的に使われないシステムはいざという場合に活用が難しいという課題がある。 さまざまな職種の人々が利用できるようにするには、ユーザインタフェースを直観的なものとし、操 作方法を簡便にする必要もある。 平常時での活用を前提としつつ、被災地や災害発生時にも活用可能なシステムとするためには、高 度なセキュリティを保ちつつ、必要に応じてデータベースやユーザインタフェースの改変が容易でな ければならない。岩手県の大槌町で稼働中のアイシステム2(iSystem2)は、こうした要求条件を 満たすべく、顧客情報を時系列的に取り扱うことが可能で、拡張性の高い Microsoft Dynamics CRM をベースにクラウド・システムを構築し、ユーザには管理者向け PC のほか、ノート PC や Android、 iOS など多様なプラットフォームのモバイル機器からアクセスが可能な構成を採っている。今後は高 齢者自身にもタブレットなどを介してヘルプデスクや遠隔地の家族、友人などとのコミュニケーショ ンに活用できるトータルシステムとして拡張していく計画である。 事業概要 岩手医科大学附属病院救急科秋富慎司医師のご指導を受け、日本マイクロソフト株式会社、株式会 社イイガ、株式会社ビジネス・アーキテクツが東日本大震災の経験を踏まえて開発した地域の健康・ 医療・福祉情報共有システムを岩手県大槌町の仮設住宅などでの利用を目的に運用中。 仮設住宅の集会所に常駐する看護師が主に高齢者の血圧や体重を計測してクラウドにアップロー ドするほか、保健師、看護師が各戸を訪問して健康状態を確認するため、タブレットなどを活用し情 報入力と活用の簡便化・効率化を図っている。災害発生時の混成チームでの利用も想定しているほか、 平常時には訪問看護、訪問介護、その他でも活用可能な設計となっている。 38 会社概要 会社名 株式会社ビジネス・アーキテクツ 所在地 東京都港区赤坂 4-13-13 赤坂ビル 2F 設 立 1999 年 1 月 27 日 代表者 代表取締役 林 亨 変化の触媒として A leader in digital communications. 日本社会が WEB をはじめとする新しいパラダイムに少しでも速く適応するために、伝統的な大企 業とそこで働く人びとの変革に寄与することを使命としています。企業のビジネスにおけるコミュニ ケーションを活性化させ最大化させるための、WEB を中心としたさまざまな手法を提示し、幾多の 実績を積み重ねています。 私たちが提供するビジュアルデザインはコミュニケーションの目的に完全に一致し、インタラクテ ィブに機能することでユーザのエクスペリエンスを強固なものにします。それを支えるテクノロジは つねに最新であり、新しいプラットフォームやデバイスの可能性をより拡大するものになっています。 クライアントと長期的なパートナーシップを結び、ビジネスが継続拡大するなかで変化するコミュ ニケーションを、そのステージに応じて最適化します。俯瞰的に長期的な戦略を立案し、破綻のない 論理的なステップと構造でそれを実現することは、大規模サイトでは必要不可欠な要素です。 コミュニケーションの目的を結実させるために、上流工程から最終工程まで主要なプロセスに社内 リソースを用意しています。それにより、概念レベルから実装レベルまでが分断されることなくシー ムレスにつながり、結果的に優れたコストパフォーマンスを提供します。 39 40 モバイルヘルスシンポジウム 2011 「移動体情報通信・端末の医療等の応用に資する提言」 (第1版) 2011年8月27日 ITヘルスケア学会 移動体通信端末の医療応用に関する分科会 ITヘルスケア学会「移動体通信端末の医療応用に関する分科会」では、 「モバイルヘルスシンポ ジウム2011」 (平成23年8月27日開催)にて、ユビキタス医療実現のための保健、医療・医 薬情報へのシームレスなアクセスとして利活用が期待される移動体情報通信・端末の医療等の応用に 資する以下の提言を致しました。当分科会では、今後ガイドラインをつくるための議論をする場とし ても活動していきたいと思っております。 ○ユビキタス医療を実現する医工融合ICT ・スマートフォーンの台頭によるワイヤレスブロードバンドシステム ・医療と情報通信技術の融合領域 ・無線通信技術を利活用した新たな臨床検査法・治療法・観察法 ・携帯端末とクラウド技術の連携による効率的なデータ保持 ・臨床現場における生体内・生体周囲の安全な無線利用 ○セキュアな環境整備 ・BAN の国際標準化動向 ・IEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers) 802.15.6 ・技術仕様の策定 総務省 医療用新帯域の技術条件の策定 厚労省+総務省 医療用無線機器防護指標の技術条件の策定 ○多数の臨床医・コメディカルが策定するガイドライン ・医師・コメディカル・患者・法律家が参加する自由闊達な創造 ○安心・安全な効率的な医療・介護の実現へ ・医療現場と連携した機器やシステムの開発・評価 41 編 集 後 記 今から2年前に本学会では「移動体通信端末の医療応用に関する分科会」設立の趣意書の冒頭へ『今 日の少子高齢化社会を迎えて、高度情報通信ネットワーク社会を取り巻く環境も大きく変化していま す。政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部での「新たな情報通信技術戦略」にて「どこ でもMY病院構想の実現」 、 「シームレスな地域連携医療の実現」等の工程表が発表され、遠隔医療推 進のための検討、制度の見直し、普及拡大に向けて、地域連携医療ネットワーク実現への各種検討等 が開始されました。今日、操作性や可搬性に優れたスマートフォンの普及により、モバイルヘルスと しての移動体情報通信の拡大が推察されます。移動体通信機能を実装したタブレット型情報端末も登 場して、モバイルヘルスケアモニタリングサービスや在宅医療における医療・介護連携等の実現へ向 けて、広域間のデータ通信による移動体情報通信網が期待されています。 … 中略 … 次世代型移動体情報通信技術を駆使したクラウド型タブレット携帯端末などの保健情報、医療情報 へのシームレスなアクセスへ利活用が期待される移動体通信端末の医療応用について、セキュアなワ イヤレスネットワーク基盤実現へ向けたフレームワーク、安全性、信頼性の確保や標準化に係わる学 際的な研究活動をするため』と記して、創設いたしました。 世界で急速に規模が拡がるスマートフォン市場は、2015 年には単年の販売台数で全携帯電話販売 台数 18 億 3 千万台の 46%にあたる 8 億 5000 万台を占めると予測され、ヘルスケア領域での利 活用が注目される魅力あるデバイス端末です。本シンポジウムが、そのモバイルヘルスに関する移動 体通信端末を使った重要なノードであり、領域横断的な学際的な交流の場となることを願います。 さて、ここに第3回目を迎えるにあたりよく此処まで辿り着いたことと感慨深いものが有ります。 このシンポジウムへ参加する皆さまのご指導ご鞭撻の賜と感謝を申し上げる次第です。本シンポジウ ムへ参加された皆さまが、成長著しいモバイルヘルス領域での益々のご活躍を希望して抄録集編纂の 後記とします。 ITヘルスケア学会 理事 石井 留雄 ※本抄録集の販売価格は、3,000 円です。 ※本誌に掲載の著作物の複写・複製の権利は、ITヘルスケア学会が所有しております。 無断複写は著作権・出版権の侵害となることがありますので、ご注意ください。 本誌掲載の商品名、会社名などは、その会社等の登録商標または、商標です。 本誌掲載の仕様、技術には工業所有権が確立されている場合がありますので、ご注意ください。 発行者 ITヘルスケア学会移動体通信端末の医療応用に関する分科会 発行責任者 水島 洋 分科会事務局 東京都文京区湯島 1-5-45 東京医科歯科大学M&Dタワー 株式会社R102 http://ithealthcare.mobi ISSN 1881-4794(オンライン) [email protected] ISSN 1881-4808(冊子) 42
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