全文PDF - 感染症学雑誌 ONLINE JOURNAL

785
海外旅行者下痢症例由来毒素原性大腸菌における
フルオロキノロン系薬剤低感受性菌の出現状況
東京都立衛生研究所微生物部
松下
秀
小西 典子
河村 真保
畠山
薫
森田 耕司
渡辺
高橋 正樹
甲斐 明美
横山 敬子
諸角
聖
杏林大学保健学部
登
金森 政人
工藤 泰雄
(平成 13 年 5 月 7 日受付)
(平成 13 年 6 月 8 日受理)
Key words:
enterotoxigenic Escherichia coli, drug resistance, fluoroquinolone,
DNA gyrase, traveler’
s diarrhea
要
旨
1988∼1999 年に,海外旅行者下痢症患者から分離した毒素原性大腸菌(ETEC)における,フルオロ
キノロン系薬剤(FQ)耐性菌,あるいは低感受性菌の出現状況を調べた.検出該菌については,その諸
性状,及び DNA ジャイレースサブユニット A 遺伝子上のキノロン耐性決定領域(QRDR)における,
変異の有無について検討した.
1,318 株の ETEC について検討した結果,NA 耐性の 21 株(1.6%)は,NFLX,OFLX,CPFX 等今回
検討した 6 種いずれの FQ に対しても,低感受性と判定された.FQ 高度耐性菌は認められなかった.年
次別に検出状況をみると,1996 年に初めて検出され,1998 年は 10 株(6.9%),1999 年は 6 株(15.8%)
と,最近急増してきていることが判明した.なお,21 株中 19 株は,インド亜大陸への旅行者から検出さ
れたものであった.
これら 21 株の,他薬剤と合わせた耐性パターンは 6 種認められ,そのうち 12 株(57.1%)は多剤耐性
菌であった.毒素産生型は,易熱性エンテロトキシン(LT)単独が 4 株,耐熱性エンテロトキシン(ST)
単独が 10 株,LT 及び ST 両産生が 7 株であった.また,これらは 16 種の血清型に分類された.
QRDR の塩基配列解析の結果,83 位のコドンが TCG から TTG に変異し,それに伴いアミノ酸がセリ
ンからロイシンに置換していたのが 19 株,87 位のコドンが GAC から TAC に変異,アミノ酸がアスパ
ラギン酸からチロシンに置換していたのが 2 株であった.なお,全株とも単一部位だけの変異であった.
〔感染症誌
序
文
75:785∼791,2001〕
剤の一種であるナリジクス酸(NA)に高度耐性
近年,各種腸管系病原菌においても,キノロン
で,新キノロン剤と呼ばれるフルオロキノロン系
別刷請求先:
(〒169―0073)
東京都新宿区百人町 3―24―1
東京都立衛生研究所微生物部
松下
秀
を示す菌株の出現,増加が世界的規模で問題と
平成13年 9 月20日
薬剤(以下 FQ と略)にも耐性,あるいは低感受性
なって来ている1)∼6).著者らは,東京で分離された
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松下
秀 他
Table 1 Drug resistance of enterotoxigenic E. coil isolated from overseas traveler's
diarrheal cases in Tokyo, 1988―1999
No. of
strains
No. of
resistants
(%)
CP
TC
SM
KM
ABPC
608
(46.1)
135
(10.2)
434
(32.9)
339
(25.7)
13
(1.0)
303
(23.0)
ST
NA
FOM
NFLX
235
(17.8)
21
(1.6)
15
(1.1)
0
1,318
No. of strains resistant to each drug
(%)
サルモネラにおける状況について検討し,1995
性 20 株については NA,NFLX 及び 同 様 の FQ
年以降の海外旅行者下痢症例由来菌株において,
であるオフロキサシン(OFLX),シプロフロキサ
このような FQ 低感受性菌の検出率が急増してい
シン(CPFX),レボフロキサシン(LVFX),トス
7)
ることを明らかにし,本誌に報告した .
フロキサシン(TFLX)及びスパルフロキサシン
今回は,我が国からの海外旅行者下痢症患者に
(SPFX)に対する最小発育阻止濃度(Minimum in-
おいて最も高頻度に分離される8),毒素原性大腸
hibitory concentration;MIC)を,NCCLS の標準
菌(Enterotoxigenic Escherichia coli;ETEC)にお
法10)に準拠した微量液体希釈法で測定した.
ける薬剤耐性菌,特に FQ 耐性あるいは低感受性
3.血清型別試験
菌の出現状況について検討した.検出された該菌
FQ 低感受性株については,市販(デンカ生研)
については,他の薬剤と合わせた耐性パターン,
の大腸菌診断用 O 及び H 抗血清を用いて血清型
毒素産生型及び血清型を調べた.また DNA ジャ
別を行った.
イレースサブユニット A 遺伝子(gyrA)上のキノ
4.gyrA キノロン耐性決定領域の解析
ロ ン 耐 性 決 定 領 域(Quinolone resistance deter-
FQ 低感受性株について,gyrA の QRDR におけ
mining regions;QRDR)における変異についても
る塩基配列を解析し,変異の有無を調べた.まず,
検討を加えたので報告する.
Ozeki ら11)の報告した方法に準じた Polymerase
材料と方法
chain reaction(PCR)法により gyrA の検出を行っ
1.供試菌株
た.プライマーは,E. coli K-12 株の gyrA 塩基配
1988∼1999 年の 12 年間に,東京において海外
a(gyrA-s:5’
-CG
列12)を基に設計された gyrA-s,
旅行者下痢症患者(散発事例)より分離された
CGTACTTTACGCCATGAACGTA-3’
,gyrA-a :
1,318 株の ETEC について検討した.
5’
-ATATAACGCAGCGAGAATGGCTGCGCC
TAGCGGAC-3’
)
を用いた.これにより 164bp の
2.薬剤耐性試験
米国臨床検査標準委員会(NCCLS)の抗菌薬
9)
DNA が増幅される.なお,変異のスクリーニング
ディスク感受性試験実施基準 に基づき,市販の感
は,制限酵素 HinfI を用いた PCR-RFLP 分析11)で,
受性試験用ディスク(センシディスク;BBL)を
塩基配列決定は,PCR 増幅 DNA を直接使用した
用いて実施した.供試薬剤は,
クロラムフェニコー
ダイターミネーター法13)によった.
ル(CP),テトラサイクリン(TC),ストレプトマ
成
績
イシン(SM),カナマイシン(KM),アンピシリ
1.薬剤耐性菌出現状況
ン(ABPC),スルファメトキサゾール・トリメト
検討した 1,318 株の ETEC において,供試した
プリム合剤(ST)
, NA, ホスホマイシン(FOM)
,
9 種薬剤に多剤あるいは単剤耐性を示したのは
及びノルフロキサシン(NFLX)の 9 種薬剤であ
608 株で,耐性率は 46.1% であった.薬剤別耐性菌
る.また,NA 耐性 21 株と対照に用いた NA 感受
出現状況は Table 1 にまとめた.最も耐性頻度が
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第9号
フルオロキノロン低感受性毒素原性大腸菌
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Table 2 Minimum inhibitory concentrations of nalidixic-acid resistant and sensitive enterotoxigenic E. coli
to fluoroquinolones
No. of strains with MIC(µg/ml)
Drug
0.008
0.016
0.032
0.063
0.125
0.25
0.5
1.0
2.0
4.0
1
11
11
7
9
3
NA resistant 21 strains
NFLX
OFLX
CPFX
1
2
16
2
LVFX
TFLX
2
18
2
1
11
8
SPFX
6
15
NA sensitive 20 strains
NFLX
OFLX
CPFX
LVFX
TFLX
SPFX
4
1
7
6
12
6
1
14
10
9
10
5
12
10
Table 3 Annual incidence of fluoroquinolone lowsensitive enterotoxigenic E. coli isolated from
overseas traveler's diarrheal cases in Tokyo
Year of
isolation
No. of
strains
FQ low-sensitive
strains
(%)
1988
198
0
1989
1990
155
134
0
0
1991
1992
1993
1994
105
79
84
87
0
0
0
0
1995
1996
106
89
0
(
3 3.4)
1997
1998
1999
99
144
38
(
2 2.0)
10
( 6.9)
(
6 15.8)
Total
1,318
21
( 1.6)
4
9
Table 4 Drug resistance-patterns of fluoroquinolone low-sensitive enterotoxigenic E. coli isolated
from overseas traveler's diarrheal cases in Tokyo
Resistance-pattern*
CP TC SM ABPC ST NA
TC SM ABPC ST NA FOM
TC SM ABPC ST NA
SM ABPC ST NA
SM
NA
NA
Total
*Drugs
No. of strains
(%)
(
2 9.5)
(
1 4.8)
(
5 23.8)
(
3 14.3)
(
1 4.8)
(
9 42.9)
21
( 100)
tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM,
and NFLX
NA 耐性菌について各種 FQ に対する MIC を測
定した.検出された NA 耐性菌 21 株の NA に対
する MIC は全株とも>100 µg ml であった.これ
高かったのは TC(32.9%)で,次いで SM(25.7
らの FQ に対する MIC の分布を,対照に用いた
%),ABPC(23.0%),ST(17.8%),CP(10.2
NA 感受性菌 20 株(NA に対する MIC 1.56∼3.12
%),NA(1.6%),FOM(1.1%),KM(1.0%)で,
µg ml)
と合わせて Table 2 に示した.NFLX では
NFLX 耐性株は認められなかった.
2.ナリジクス酸耐性株のフルオロキノロン系
薬剤に対する MIC 分布
NA 感 受 性 菌 の MIC 分 布 が 0.032∼0.125 µg ml
なのに対して NA 耐性菌では 1.0∼4.0 µg ml と,
全体的にみて 8∼128 倍高い範囲に分布していた.
FQ 耐性あるいは低感受性菌は,旧キノロン剤
同 様 に OFLX で は 0.032∼0.125 µg ml が 0.25∼
とも呼ばれる NA には高度耐性を示すことより,
1.0µg ml,CPFX では 0.008∼0.032 µg ml が 0.125
平成13年 9 月20日
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松下
秀 他
Table 5 Toxin producing type and serotype of fluoroquinolone low-sensitive
enterotoxigenic E. coli isolated from overseas traveler's diarrheal cases in Tokyo
Toxin type*
Serotype**
No. of strains
LT
4
ST
10
O 25: H−
(1),O 167: H5
(1),O UT: H33
(1),O UT: H−
(1)
O 27: H20
(1),O 27: H−
(1),O 78: H12
(1),O 128: H1/12(1),
O 148: H28
(1),O 148: H−
(1),O153: H31
(1),O 169: H41(2),
O UT: H10
(1)
LT+ST
*LT=Heat
7
O 6: H16
(3),O 6: H−
(1),O 8: H9
(2),O 78: H12
(1)
labile enterotoxin, ST=Heat stable enterotoxin
**H−=None
motility, O UT=O untypable
∼1.0 µg ml,LVFX では 0.016∼0.032 µg ml が
0.125∼0.5 µg ml,TFLX では 0.016∼0.032 µg ml
が 0.25∼1.0µg ml,SPFX では 0.008∼0.032 µg ml
が 0.125∼0.25µg ml であった.いずれの FQ に対
しても,NA 耐性菌は NA 感受性菌に比較してか
なり高い範囲の MIC 分布を示しており,低感受性
であることが判明した.なお FQ 高度耐性菌は認
Table 6 Country visited by travelers
with fluoroquinolone low-sensitive
enterotoxigenic E. coli
Country visited
No. of cases
India
Nepal
16
3
Cambodia
Egypt
1
1
められなかった.
次に,この FQ 低感受性菌の年次別検出状況を
Table 3 に示す.検討を始めた 1988 年から 1995
年までは全く検出されなかったが,1996 年 3 株
(3.4%),1997 年 2 株(2.0%),1998 年 10 株(6.9
%),1999 年 6 株(15.8%)と,近年急増してきて
いる.
3.フルオロキノロン低感受性菌の耐性パター
ン
Table 7 Mutation in the quinolone resistance determining region of the gyrA gene
of fluoroquinolone low-sensitive enterotoxigenic E. coli isolated from overseas
traveler's diarrheal cases in Tokyo
Mutation
No. of strains
Ser-83
(TCG)→ Leu
(TTG)
Asp-87
(GAC)→ Tyr
(TAC)
19
2
FQ 低感受性菌 21 株における,他薬剤と合わせ
た耐性パターンを Table 4 に示した.全体で 6 パ
ターン認められているが,NA 単剤耐性菌が 9 株
両毒素産生が 7 株であった.血清型は,O 血清群
(42.9%)と最も多かった.多剤耐性菌のパターン
だけを見ても 11 種(O 群不明を除く)
,H 血清群
は,TC・SM・ABPC・ST・NA が 5 株,SM・
を加えると 16 種の血清型に型別された.
ABPC・ST・NA が 3 株,CP・TC・SM・ABPC
これらの FQ 低感受性菌が分離された旅行者の
・ST・NA が 2 株,TC・SM・ABPC・ST・NA
旅行先を Table 6 に示した.その訪問国は 16 件が
・FOM,SM・NA がそれぞれ 1 株であった.
インド,3 件がネパール,及びカンボジア,エジプ
4.フルオロキノロン低感受性菌の毒素産生型
と血清型
FQ 低感受性菌における,毒素産生型及び血清
トがそれぞれ 1 件であった.
5.フルオロキノロン低感受性菌の gyrA キノ
ロン耐性決定領域における変異
型を Table 5 に示した.毒素産生型は,易熱性エン
検 出 さ れ た FQ 低 感 受 性 菌 21 株 に つ い て,
テロトキシン(LT)単独産生が 4 株,耐熱性エン
gyrA の QRDR における塩基配列を解析し,変異
テロトキシン(ST)
単独産生が 10 株,LT 及び ST
の有無を調べた成績を Table 7 に示した.21 株中
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フルオロキノロン低感受性毒素原性大腸菌
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83 位のコドンが TCG から TTG に変異し,それ
れており2)15)16),その原因として畜産,養鶏等の現
に伴いアミノ酸がセリンからロイシンに置換して
場における本剤の使用があげられている17).ヒト
いたのが 19 株,87 位のコドンが GAC から TAC
から分離される ETEC は,本来ウシやブタ等の家
に変異し,アミノ酸がアスパラギン酸からチロシ
畜が保有しており,当然ながら動物における各種
ンに置換されていたのが 2 株であった.全株とも
薬剤使用の影響を受けている.これらの環境で生
単一部位だけの変異で,両部位とも変異している
じた薬剤耐性菌は,飲食物等を介してヒトに伝播
株は無かった.なお,両置換群の耐性傾向に,有
していくものと考えられている.なお,今回の FQ
意な差は認められなかった.
低感受性菌は,21 株中 19 株がインド亜大陸への
考
察
旅行者から検出されたものであった.また,スペ
ETEC は,熱帯・亜熱帯地域の開発途上国にお
インからインドへの旅行者下痢症患者における調
いては,下痢起因菌として最も検出頻度が高く,
査でも,他の地域への旅行者に比較して,高頻度
我が国等の開発国から,それらの地域を訪問した
にキノロン耐性 ETEC が検出されると報告され
旅行者が下痢症に罹患する,いわゆる旅行者下痢
ている18).近年インドでは,赤痢様疾患やチフス
症の重要な原因菌となっている8).また国内にお
症の治療にキノロン剤が積極的に用いられるよう
いても,本菌による集団・散発食中毒事例が,毎
になっている18)19)とのことで,その影響も受けてい
14)
年かなりの数報告されている .ETEC による下
るものと推察される.
痢症でも,症状の激しい場合は,通常抗菌剤によ
次に,これら FQ 低感受性菌の年次別検出状況
る化学療法がなされる.現在本菌を含めた細菌性
についてみると,1988 年から検討してきている
下痢症の治療には FQ が汎用されているが,近年
が,1996 年に初めて検出され,1998 年は全分離株
FQ に耐性あるいは低感受性を示す,各種腸管系
の 6.9%,1999 年は 15.8% と,最近その検出頻度が
病原菌の出現が問題となっている1)∼6).
急増してきている.著者らがサルモネラについて
本報では,東京において,1988∼1999 年の 12
同様な調査をした成績7)でも,ほぼ同時期より FQ
年 間 に,海 外 旅 行 者 下 痢 症 例 よ り 分 離 さ れ た
低感受性菌の検出が急増しており,ETEC におい
ETEC における,FQ 低感受性菌の出現状況,更
ても同じ状況にあることが判明した.
に,検出された FQ 低感受性菌については,他薬剤
旧キノロン剤とも呼ばれる NA 耐性株は,今回
と合わせた耐性パターン,それらの毒素産生型と
検討した 6 種類の FQ いずれに対しても低感受性
血清型,及び QRDR における変異について検討し
であり,交差耐性を示した.また,NA 単剤耐性の
た成績について述べた.
9 株を除く 12 株においては,5 種類の多剤耐性パ
NA 耐性菌 21 株の 6 種 FQ に対する MIC の分
ターンが認められている.ある種のキノロン耐性
布を見ると,対照として用いた NA 感受性菌に比
は,すべてのキノロン剤に対する耐性をもたらす
較して,いずれの薬剤に対してもかなり高い範囲
が,分子構造の異なる他の抗菌薬に対する感受性
に分布しており,低感受性であることが判明した.
には,影響を与えないとされている20)ことを裏づ
英 国 の Central Public Health Laboratory の Thr-
けるものである.毒素産生型では,ST 単独産生が
elfall et al . は,CPFX における MIC が 2.0 µg ml
10 株,LT 単独産生が 4 株,両毒素産生が 7 株で
以上を高度耐性,0.125∼1.0 µg ml を Low-level-
あった.また,これらは 16 種の血清型に型別され
resistance(低度耐性)としているが,その基準で
た.即ち FQ 低感受性 ETEC は,特定の毒素産生
みると,この 21 株はいずれも低度耐性菌というこ
型や,血清型に集約するものではなかった.
15)
とになる.
大腸菌,赤痢菌,サルモネラ等のキノロン耐性
欧米諸国においても,各種腸管系病原菌におけ
機序における主要機作は,DNA ジャイレースサ
る FQ 耐性菌,あるいはここに述べたような低感
ブユニット A 遺伝子 gyrA の QRDR と呼ばれる
受性菌(低度耐性菌)の出現頻度の増加が報告さ
部所における 83 位,あるいは 87 位のコドンの変
平成13年 9 月20日
790
松下
異と考えられている3)11)12)21)22).今回の FQ 低感受
性 ETEC 21 株の成績では,83 位に変異が認めら
れたものが 19 株,87 位に変異が認められたもの
が 2 株で,これらはいずれも単一部位における変
異であった.片方の部位だけの変異では低感受性
化,両部位ともに変異が起これば高度耐性化する
ことが知られている.今回 FQ 高度耐性菌は認め
られなかったが,FQ 低感受性菌の増加は,高度耐
性菌の出現頻度が高くなる素地が膨らんだことを
示すものと考えられ,今後の動向には引き続き監
視していく必要がある.
文
献
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第75巻
第9号
フルオロキノロン低感受性毒素原性大腸菌
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nalidixic-acid-resistant salmonella serotypes iso-
791
lated from animals in the United Kingdom. J Antimicrob Chemother 1998;41:635―41.
Increasing Fluoroquinolone Low-Sensitivity in Enterotoxigenic Escherichia coli
Isolated from Diarrhea of Overseas Travelers in Tokyo
Shigeru MATSUSHITA , Maho KAWAMURA , Masaki TAKAHASHI , Keiko YOKOYAMA ,
Noriko KONISHI, Kaoru HATAKEYAMA, Akemi KAI & Satoshi MOROZUMI
Department of Microbiology, Tokyo Metropolitan Research Laboratory of Public Health
Koji MORITA, Noboru WATANABE, Masato KANAMORI & Yasuo KUDOH
School of Health Sciences, Kyorin University
Drug resistance trends were investigated for 1,318 enterotoxigenic Escherichia coli(ETEC)isolated from overseas traveler’
s diarrheal cases in Tokyo during 1988∼1999. A total of 1.6%(21
strains)were nalidixic-acid resistant and fluoroquinolones(NFLX, OFLX, CPFX, LVFX, TFLX,
SPFX ; FQ)low-sensitive(or low-level-resistant)
. None of the strains were high-level-resistant to FQ.
The FQ low-sensitive strains were isolated in 1996 for the first time, and increased from 3.4% in 1996
to 15.8% in 1999.
Countries visited by travelers with the FQ low-sensitive ETEC were India(16 cases),Nepal(3
cases)
, Cambodia(1 case)
, and Egypt(1 case)
.
Drug resistance-patterns of the FQ low-sensitive strains, including other drugs(CP, TC, SM, KM,
ABPC, ST, NA, and FOM)tested, varied among the 6 types. Among those, multidrug resistant
strains accounted for 57.1%(12 strains). The enterotoxin producing types of strains were LT(4
strains),ST(10 strains), and both(7 strains). The serotypes of the strains were classified into 16
types.
The quinolone resistance determining regions(QRDRs)of the gyrA genes of the FQ lowsensitive strains were sequenced. The mutations of a Ser to a Leu at position 83(Ser-83→Leu)was
found in 19 strains, and Asp-87→Tyr was found in 2 strains.
平成13年 9 月20日