ア ナ リ ス ト の 眼 化粧品業界の現状と展望 【ポイント】 1. 国内化粧品市場は、個人消費抑制から低成長。トレンド的には数量プラスだが価格 低下により伸び悩みが続く。10 年は昨年の急減の反動により一時的にプラス転換し ているが、11 年以降は、景気先行き不透明から横ばいレベルの成長が予想される。 2. 一方で、中国の化粧品市場は高成長を維持。日本の大手化粧品各社は、中国での事 業展開を積極化しており、今後の大きなビジネスチャンスと考える。 3. 大手化粧品 3 社の今期業績は、M&A を除く実質ベースで小幅増収増益の見込み。国内 は低調ながら、中国を中心としたアジアの成長が理由である。今後も中国展開に積 極注力しており、増収増益が予想される。 1.国内化粧品市場は今後横ばい予想 国内化粧品出荷額をヒストリカルに分析すると、景気の影響に左右されており、 現 金 給 与 額 と 比 較 的 相 関 が 高 い 市 場 で あ る こ と が わ か る 。国 内 化 粧 品 出 荷 は 、08 年 は 前 年 比 ▲ 0.2% 、09 年 は 同 ▲ 7.8% の 1 兆 3,900 億 円 と 2 年 連 続 し て マ イ ナ ス と な っ て い る ( 図 表 1、 2)。 リ ー マ ン シ ョ ッ ク 後 の 09 年 は 落 ち 込 み が 厳 し い 。10 年 は 、09 年 急 減 の 反 動 か ら 4 月 か ら プ ラ ス に 転 じ て お り 、 1-9 月 累 図 表 1.国 内 化 粧 品 市 場 化粧品 6.0 現金給与 4.0 2.0 0.0 -2.0 計 で 同 + 1.7% 、 10 年 に つ い て は 同 + -4.0 2.3% が 予 想 さ れ る 。 た だ し 、 10 年 の -6.0 回 復 は 09 年 急 減 の 反 動 に よ る 一 時 的 -8.0 な 好 転 で あ り 、11 年 以 降 は 先 行 き 景 気 (前年比 %) 8.0 -10.0 92 94 96 98 の不透明から横ばいレベルの成長が続 00 02 04 06 08 10(予) (暦年) (資料)経済産業省、厚生労働省 図 表 2.化 粧 品 販 売 金 額 合 計 くと予想している。 また、国内化粧品出荷の傾向として 16,000 (億円) 14,000 は、数量増ながら単価下落が顕著であ 12,000 り 、 毎 年 変 動 は あ る も の の 91 年 か ら 10,000 比 べ る と 単 価 は 年 平 均 ▲ 1.7 % で 下 落 8,000 し て い る 。09 年 の 市 場 規 模 を 数 量 と 単 価 に 分 け る と 、数 量:同 + 0.8% 、単 価: 同 ▲ 8.5% と な っ て お り 、数 量 は 増 加 し 6,000 4,000 2,000 0 90 92 94 (資料)経済産業省 96 98 00 (暦年) 02 04 06 08 10(予) アナリストの眼 ているが、単価の下落により市場が縮小していることがわかる。 市 場 を 価 格 帯 別 に 分 類 す る と 、 5,000 円 超 の 「 高 価 格 帯 」、 2,000 円 か ら 5,000 円 の 「 中 価 格 帯 」、 2,000 円 未 満 の 「 低 価 格 帯 」 の 3 種 類 に 分 け ら れ る 。 09 年 度 は 前 年 比 で 高 価 格 帯 : ▲ 4.1% 、 中 価 格 帯 : ▲ 5.3% 、 低 価 格 帯 : + 1.1% と な っ て お り 、 ボリュームゾーンである中価格帯が最も落ち込んだ一方で低価格帯が増加している。 この傾向は、今年度に入っても続いており、消費者の需要が中価格帯から低価格帯 に流れるトレンドは継続している。唯一拡大している低価格帯においては、ドラッ グ ス ト ア 等 で 1,000 円 前 後 の 価 格で販売されている商品が好調 図 表 3.国 内 化 粧 品 カテゴリー別 構 成 比 (09 年 ) である。今秋には大手化粧品各 その他 社も揃って参入し、競争が一段 と激化しており、今後も単価下 メイク 21.7% スキンケア 43.8% 落が続くと予想される。 また、カテゴリー別のシェア ヘアケア 29.7% を 見 る と 、ス キ ン ケ ア:43.8% 、 ヘ ア ケ ア : 29.7 % 、 メ イ ク : 21.7% 、と な っ て い る( 図 表 3)。 (資料)経済産業省 欧米がフレグランスとメイクアップ中心であるのに対し、日本ではスキンケアが中 心となっているのが特徴である。メイクの売上は景気や流行の影響を受けやすく、 ボラティリティが高い商品である。逆にスキンケアとヘアケアは日常的に使用する ものであり、比較的安定しているとも言える。 2.中国化粧品市場は高成長 図 表 4.大 手 化 粧 品 会 社 2社 のアジア売 上 高 推 移 国内市場が低成長の一方で、中 1,800 国 の 化 粧 品 市 場 は 年 率 10% 以 上 1,600 の 成 長 を 維 持 し て い る ( 図 表 4)。 中国の化粧品市場の構成も日本と 同じくスキンケアが中心である。 (億円) 1,400 1,200 1,000 800 600 これは欧米に比べてスキンケア製 品を得意とする日本の化粧品企業 に と っ て 強 み と な っ て い る 。ま た 、 日本の化粧品は同じアジア人であ 400 200 0 04/03 05/03 06/03 07/03 08/03 09/03 (決算期) 10/03 11/03 12/03 13/03 (資料)決算資料から富国生命投資顧問作成 (備考)11年3月期以降は予想値 る中国人の肌に適していると考えられており、美白という概念はアジア人にしかな いものである。中国では普段は化粧をする習慣がなく、改まった場所や特別な時の み化粧する女性が多かったものの、都市部では日常的に化粧をする女性が普通とな っているようである。日本に来る中国人観光客の購入するお土産の中でも化粧品は 大きなウエイトを占めていることからも、日本の化粧品の人気の高さが分かる。 日本の最大手化粧品会社が中国へ進出する際には、まず日本で販売している製品 アナリストの眼 と同様の高付加価値商品を高所得者向けに販売することから始めて、次に現地生産 を開始し中所得者向けの中価格帯に広げていくという戦略を取っている。このター ゲ ッ ト と な る 中 間 所 得 者 層 ( 世 帯 年 間 可 処 分 所 得 5,000 ド ル 以 上 35,000 ド ル 未 満 の 所 得 層 ) は 所 得 水 準 が 上 昇 す る こ と に よ り 今 後 10 年 で 2 倍 に 拡 大 す る と 言 わ れ ている。日本の化粧品産業は国内市場が飽和状態にある中で、中国での売上拡大に 大きなチャンスがあると言えよう。 3.業績は国内低調だが海外好調で増収増益推移 化 粧 品 大 手 3 社 合 計 の 11/3 上 期 決 算 は 、 同 3.2% 増 収 、 同 7.7% 営 業 増 益 で あ っ た 。M&A の 影 響 を 除 く 実 質 ベ ー ス で は 同 0.5% 減 収 、同 20.2% 営 業 増 益 と な っ て い る。実質売上が僅かながら前年割れとなったのは、海外売上は中国中心に伸長した ものの、国内売上が中価格帯商品を主に不振だったためである。一方、利益につい ては、国内がマーケティング費用の効率運用や経費削減等により増益、海外につい て は 増 収 効 果 に よ り 2 桁 増 益 と な っ て い る 。続 く 下 期 に つ い て は 、売 上 は 同 様 な ト レンドだが、国内向けにマーケティング費用を積極投入する会社もあるため増益率 は 一 時 的 に 下 が る 。11/3 通 期 で は 同 5.9% 増 収 、同 3.2% 営 業 減 益 の 見 込 み で あ る 。 M&A の 影 響 を 除 く 実 質 ベ ー ス で は 同 1.0% 増 収 、 同 0.4% 営 業 増 益 と な る 。 国内化粧品事業は今後売上の大幅な拡大は見込めない中で、コスト削減も重要と なる。化粧品はブランディングが大切であるためにマーケティングコストは必要不 可欠ではあるが、広告宣伝費の的確な絞込みやメディアの効率的な使い方による削 減は必要となろう。 海外では販売地域や販路の拡大、店舗数増加等で先行費用が発生するが、売上も 伸びるため増収増益は可能である。市場が拡大しているステージでは多少利益を犠 牲にしてでも、売上を優先して取りにいく戦略は必要となろう。また新たな販路や 商 品 を 取 り 込 む た め の M&A も あ り え る だ ろ う 。 来 期 以 降 も 、 海 外 事 業 が 牽 引 役 と なり増収増益継続が予想される。 12,000 (億円) 図 表 5.主 要 化 粧 品 3社 業 績 推 移 売上高 (億円) 営業利益(右目盛) 1,000 900 10,000 800 700 8,000 600 6,000 500 400 4,000 300 200 2,000 100 0 0 98/03 01/03 04/03 07/03 10/03 13/03 (決算期) (資料)決算資料から富国生命投資顧問作成 (備考)11年3月期以降は予想値 (富国生命投資顧問(株) アナリスト 中川 真紀子)
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