何度も登場する「作用」から読み取れること

添付文書に聴く!(4)
何度も登場する「作用」から読み取れること
山村 重雄
城西国際大学薬学部教授
添付文書は、隅から隅まで目を通している方が多いと思
います。しかし今回は、添付文書に記載されている情報を
斜め読み することで見えてくる、重複して登場する情
報=「作用」から何が読み取れるのか考えてみましょう。
●「効能・効果」
「副作用」と関係しない「薬効薬理」の記述
「効能・効果」と関連性のない「薬効薬理」にはいくつかの
理由が考えられます。その理由の一つは、臨床的に用いられ
る投与量では、十分な効果が得られないことが考えられます
(他に、「効能・効果」追加の承認申請のための臨床試験を行
っていない場合もあります)
。SU薬では、
「薬効薬理」の記述
からは、脂質低下作用があると期待できます。しかし、「効
能・効果」には高脂血症の記述が見られませんし、「副作用」
にも脂質代謝に関する明確な記述もありません。インタビュ
添付文書の中で、医薬品の作用について記載されている場
ーフォームを読むと、脂質低下作用は、動物実験によって、
所が複数あることに気づいていますか。そのような場所は、
かなりの高投与量で効果を確認していることがわかります。
少なくとも3カ所あります。
従って、通常の投与量では十分な脂質低下作用が認められな
重要なのは、「効能・効果」「副作用」(特に「重大な副作
いものと考えられます。一方で、この
情報
をより適切な
用」)「薬効薬理」の3項目です。(他に薬効分類名もあります
医薬品選択に役立てることもできます。例えば、高脂血症を
がここでは省略します)。この3カ所の関係を理解すると、薬
合併している糖尿病の患者さんに、このSU薬を選択すればわ
の特徴を理解するのに役立ちます。
ずかながら脂質低下作用が期待できる可能性があります。
●「効能・効果」
「副作用」
「薬効薬理」に記載された「作用」
表にSU薬(スルホニル尿素薬)の「効能・効果」
「副作用」
降圧薬としてのARBの特徴も「薬効薬理」を見ると理解で
きます。例えば、オルメサルタンの「効能・効果」は、高血
「薬効薬理」の一部を示しました。SU薬には、
「薬効薬理」と
圧症だけですが、
「薬効薬理」の項には、降圧作用の説明の中
して血糖降下作用があるので、2型糖尿病(
「効能・効果」
)に
に、「総末梢抵抗が減少し、腎血管抵抗の低下が認められた。
用いられます。しかし、その効果が強く出すぎると「副作用」
血圧の下降とともに、心重量の低下及び心筋線維径の減少が
として低血糖を起こす可能性が見て取れます。このように、
認められ、心肥大を抑制することが認められた」との記述が
「効能・効果」「副作用」「薬効薬理」の3つの項目は互いに関
あります。いずれもARBの特徴を示しており、前者は腎保護
連し合っています。
「薬効薬理」の記載内容から作用機序が理
作用、後者はうっ血性心不全への弱い作用が示唆されます。
解できれば、薬理作用の過剰発現による副作用である低血糖
はすぐに思い当たるでしょう。薬理作用の過剰発現による副
このような
情報
をうまく使うと、患者背景を考慮して
適切な医薬品の選択のヒントとなるでしょう。
作用は、比較的頻度が高く、誰にでも発現する可能性がある
ので注意が必要です。
低血糖以外の、
「重大な副作用」の記載項目は、
「薬効薬理」
表 作用に関連した事項(SU薬の一例)
効能又は効果
2型糖尿病(ただし、食事療法・運動療法のみで十分な効果
が得られない場合に限る)
重大な副作用
1.低血糖
2.無顆粒球症、溶血性貧血
3.肝炎、肝機能障害、黄疸
薬効薬理
1.血糖降下作用
2.脂質代謝に及ぼす影響
3.作用機序 本剤は主として膵β細胞を刺激して、内因性イ
ンスリンの分泌を促進し、血糖降下作用を発揮する。主
にATP依存性K+チャネルの遮断による
から考えて、薬理作用とは直接的な関係はなさそうです。残
りの副作用は、薬理作用の過剰発現ではなく、薬物の毒性あ
るいはアレルギー反応によると考えられます。薬物毒性は投
与期間が長くなると発現割合が高くなり、アレルギー反応は、
投与直後に激しい反応が起こることが特徴ですので注意する
必要があります。
10
No.4
No.4
11