GC/MS による微量分析に有効なシステム評価用試料の作成

GC/MS による微量分析に有効なシステム評価用試料の作成
西川計測株式会社
山上
仰
1.はじめに
近年では、GC/MS は定性だけでなく定量にも広く用いられています。特に微量有機化合
物の多成分一斉分析には、欠かせない手段となっています。これはほとんどの化合物に感
度を有しつつ選択的に検出できるという GC/MS の特徴が、測定要件に対して非常に適して
いるためでありましょう。
一方、測定対象成分および試料は増加の一途を辿っており、分析者としてはできるだけ
多くの化合物を同時に測定したいところです。これに加えて、測定に必要とされる検出下
限も下がっていく傾向にあります。これらの要件を満たそうとすると、GC/MS(特に GC)
のパラメータの自由度が狭くなり、GC/MS システムの状態を合目的的に維持することはも
とよりその状態の把握も困難になります。もちろん、測定対象成分の標準溶液の測定結果
からシステムの状態を判断することは可能ですが、多数のピークが検出されているクロマ
トグラムから的確な判断を行うためには、相応の経験もしくは知識が必要となります。ま
た、
「個人の判断」に委ねられるため、人あるいは状況によって判断に差を生じ易く数値化
も難しくなります。
筆者らは、微量有機化合物のスクリーニング分析を主な用途とするリテンションタイム
ロッキング(RTL)注1)対応のデータベース(商品名:NAGINATA)を構築しましたが、
この構築ならびに運用にあたって GC/MS システムを一定のレベル状態に保つ必要がある
と考え、その客観的かつ簡便な評価を目的として評価用試料(クライテリアサンプル)を
作成しました。
注1)数年前に Agilent 社が実用化した技術で、GC 条件一定のもとカラムのロット、測定日あるいは
装置が異なっても、実用上問題無いレベルで保持時間の固定化が可能になります1)。従って、GC 条件
を決めれば、各化合物の保持時間をデータベース化できます。
2.基本的な考え方
ガスクロマトグラフのシステムチェック試料としては、Grob のテストミックス注2)が知
られていますが、これは主としてカラム性能を確認するためのもので微量分析を用途とす
る GC/MS システム全体のチェックには適していません。また、MS のチェック化合物とし
てステアリン酸メチル、ヘキサクロロベンゼンなどが使用されていますが、これらもたい
ていの場合は MS の感度をチェックするためだけのものです(実は微量のステアリン酸メ
チルはカラムの状態からも影響を受けますが)
。
一方、北九州市環境科学研究所の門上氏らは網羅的検出に使用する GC/MS の状態を担保
するために評価用試料を作成しています2)。本クライテリアサンプルの作成にあたっては、
かなりの部分をこの報告に負っています。
GC/MS を大別すると、注入口、カラムおよび検出器(MS)になります。ここでは、測
定目的を考慮して注入口は微量分析の大半に使用されているスプリットレス法を念頭に置
いています。また、カラムは汎用性の高い 5%フェニル系で標準的なサイズ(具体的には
HP-5MS、30m×0.25mm×0.25um)の使用を前提条件にしています。これらを考慮して
クライテリアサンプルを作成しましたが、他の無~微極性液相カラムについても適用が可
能と思われます。
各部位のいずれかに劣化(ここでは汚染および活性点が生じることを総称して「劣化」
と記載しました)もしくは不具合があると、その程度に応じて測定結果の信頼性は低下し
ます。ただし、その影響の出方は化合物(および劣化した部位との組み合わせ)によって
異なります。そうとう劣化が進行してもほとんど影響を受けないものもあれば、特定夾雑
物を数回注入しただけで全くピークが出なくなってしまうような化合物もあります。
クライテリアサンプルでは各部位毎にその劣化もしくは不具合に対して、経験的に感受
性の高い化合物を選択しました注3)。これは、このような化合物が確実に検出できていれば
当該部位には問題が無いと推定できるとの考え方に基づいています。
注2)Dr. Grob が作成した評価用試料で、C10~C15 程度の直鎖炭化水素、ドデカノール、4-クロロ
フェノール、デシルアミンなどが含まれています。これらにより、カラムの理論段数や液相の酸/ア
ルカリ度を評価できるようになっています。
注3)選定にあたっては、入手し易さも考慮しました。例えば、p,p-DDT は注入口の劣化により
p,p-DDD に分解することが知られており、両化合物のピーク面積または高さの比率から容易に注入口
評価を行うことができます。しかしながら、p,p-DDT はストックホルム条約により POPs として指定
されており、流通に法的規制を受けるためその使用を避けました。
3.各部位に対する化合物の選定
3-1 注入口
スプリットレス注入口では試料はインサート中で揮発してからカラムへと移動していき
ます。このためインサートのデザインそのものも測定結果に対して影響を与えます。デザ
インによってはたとえ劣化していなくても望ましい結果が得られないこともあります。例
えば、充てん物の入っているインサートでは、ある種の N-メチルカルバメート系農薬で熱
分解が起こりますが、これは本質的な不適合で劣化とは別物です。
ここでは、化合物の間口を広げた場合を想定していますので、できるだけこのような不
適合を避けるために、インサートは充てん物が無くかつテーパー型で不活性化処理が施さ
れたものを念頭に置いて評価を行えるような設定にしてあります。
ア ハ ゙ン タ ゙ン ス
なお、充てん物の入っていないインサ
イ オ ン 1 7 7 .0 0 (1 7 6 .7 0 ~
イ オ ン 2 0 6 .0 0 (2 0 5 .7 0 ~
イ オ ン
7 9 .0 0 (7 8 .7 0 ~
7 5 0 0
1 7 7 .7 0 ): N _S T D 0 9 .D
2 0 6 .7 0 ): N _S T D 0 9 .D
7 9 .7 0 ): N _S T D 0 9 .D
7 0 0 0
ートではインサートが収まっている注入
6 5 0 0
R
6 0 0 0
5 5 0 0
口底部にも直接試料が接触する機会があ
4 5 0 0
4 0 0 0
1
3 5 0 0
ります。従って、この部分も汚染される
2
5 0 0 0
3 0 0 0
2 5 0 0
2 0 0 0
1 5 0 0
可能性を有しています。通常測定結果の
貧弱さはインサートの劣化に起因するも
1 0 0 0
5 0 0
0
2 4 .0 0
2 4 .5 0
2 5 .5 0
2 6 .0 0
2 6 .5 0
イ オ ン 1 7 7 .0 0 (1 7 6 .7 0 ~
イ オ ン 2 0 6 .0 0 (2 0 5 .7 0 ~
イ オ ン
7 9 .0 0 (7 8 .7 0 ~
7 5 0 0
のと考えられますが、特に汚染が進行し
2 5 .0 0
2 7 .0 0
2 7 .5 0
2 8 .0 0
2 8 .5 0
T im e - - >
ア ハ ゙ン タ ゙ン ス
1 7 7 .7 0 ): N _S T D 1 0 .D
2 0 6 .7 0 ): N _S T D 1 0 .D
7 9 .7 0 ): N _S T D 1 0 .D
7 0 0 0
6 5 0 0
6 0 0 0
ていると思われるような場合には注入口
5 5 0 0
5 0 0 0
4 5 0 0
4 0 0 0
底部も考慮した方が良いケースもありま
1
3 5 0 0
2
3 0 0 0
2 5 0 0
2 0 0 0
す。
一般的に注入口が劣化すると、ピーク
形状が変わらないまま感度低下が起こり
ます。原因は分解あるいは吸着もしくは
1 5 0 0
1 0 0 0
5 0 0
0
2 4 .0 0
2 4 .5 0
2 5 .0 0
2 5 .5 0
2 6 .0 0
2 6 .5 0
2 7 .0 0
2 7 .5 0
2 8 .0 0
2 8 .5 0
T im e - - >
Fig..1 カプタホルおよびイソキサチオンのクロマトグラム
1: イソキサチオン、2 : カプタホル、R : フタル酸ブチルベンジル
上:ちんげん菜抽出物注入前、下:同注入後
その両方によるものと推定されます。本
クライテリアサンプルでは、カプタホルおよびイソキサチオンを注入口評価用化合物に選
定しました。両化合物とも注入口の僅かな劣化により大きく感度が低下します。Fig.1 に夾
雑物(ちんげん菜抽出物)を含む溶液を測定した前後のカプタホルならびにイソキサチオ
ンのクロマトグラムを示します。
3-2 カラム
GC/MS の通常の使用状態でカラム劣化が起こり易いのは両端です。注入口側の劣化は比
較的良く知られており、測定を重ねるにつれて残っていった難揮発性夾雑物がやがて液相
と反応するためと言われています。一方、MS 側の劣化に関しては論議に上ることが少ない
ようですが、インターフェース部は常時高温に曝されているために、他の部分に比べて劣
化が早くなります。本クライテリアサンプルでは注入口側/インターフェース側について
それぞれ評価用の化合物を選定しました。
ちなみに多くの場合で、劣化した部分を切除することによりカラムは本来の性能に復帰
します。その意味でもカラムの劣化の有無ならびにその部位の特定は重要と言えます。
3-2-1 注入口側
カラムの注入口側が劣化した場合には、ピークのテーリングとそれに付随する感度低下
が認められます。この現象は特に極性化合物で顕著なため、本クライテリアサンプルでは
ペンタクロロフェノール、2,4-ジニトロアニリンおよびシマジンの 3 成分を評価用化合物に
採用しました。ペンタクロロフェノールのテーリングを完全に抑えるのはなかなか困難で
すので、評価基準はやや甘めに設定しました。また、シマジンは他の 2 成分に比べるとピ
ーク形状を整え易いのが通例です。カラム(の注入口側)が原因でテーリングする化合物
としては、アセフェートあるいはメタ
ミドホスが良く知られていますが、こ
ア ハ
゙ ン
タ ゙ ン
ス
イ
イ
イ
れらを対称形のピークとして検出する
オ
オ
オ
ン
ン
ン
2 0 1 .0 0
1 3 7 .0 0
2 5 7 .0 0
( 2 0 0 .7 0
( 1 3 6 .7 0
( 2 5 6 .7 0
~
~
~
2 0 1 .7 0 ) :
1 3 7 .7 0 ) :
2 5 7 .7 0 ) :
Y
Y
Y
N
N
N
0 3 0 3 _ 2 .D
0 3 0 3 _ 2 .D
0 3 0 3 _ 2 .D
7 5 0 0 0
7 0 0 0 0
6 5 0 0 0
のは極めて難しく日常的な運用には現
2
6 0 0 0 0
1
5 5 0 0 0
5 0 0 0 0
実性に乏しいと判断して、本クライテ
4 5 0 0 0
4 0 0 0 0
リアサンプルでは採用しませんでした。
Fig.2 に良好/劣化時のシマジン
(なら
びに農薬ダイアジノンとイソプロチオ
ラン)のクロマトグラムを示します。
なお、注入口側に起因するテーリン
グには不適切なパラメータ(たいてい
3 5 0 0 0
3
3 0 0 0 0
2 5 0 0 0
2 0 0 0 0
1 5 0 0 0
1 0 0 0 0
5 0 0 0
ア
ハ ゙ン タ ゙ン ス
T im e - - >
0
8 .0 0
9 .0 0
1 0 .0 0
イ オ ン
イ オ ン
イ オ ン
1 5 0 0 0
1 1 .0 0
2 0 1 .0 0
1 3 7 .0 0
2 5 7 .0 0
1 2 .0 0
( 2 0 0 .7 0
( 1 3 6 .7 0
( 2 5 6 .7 0
~
~
~
1 3 .0 0
1 4 .0 0
1 5 .0 0
2 0 1 .7 0 ) : Y N 0 3 0 3 _ 1 .D
1 3 7 .7 0 ) : Y N 0 3 0 3 _ 1 .D
2 5 7 .7 0 ) : Y N 0 3 0 3 _ 1 .D
1 4 0 0 0
1 3 0 0 0
1 2 0 0 0
2
1 1 0 0 0
1 0 0 0 0
はオーブン初期温度が高過ぎ)による
9 0 0 0
8 0 0 0
7 0 0 0
ものもあります。クライテリアサンプ
6 0 0 0
3
1
5 0 0 0
4 0 0 0
ルにはいくつか低沸点化合物を加えて
ありますが、これらがテーリングして
3 0 0 0
2 0 0 0
1 0 0 0
0
8 .0 0
9 .0 0
1 0 .0 0
1 1 .0 0
1 2 .0 0
1 3 .0 0
1 4 .0 0
1 5 .0 0
T im e - - >
も上記 3 化合物のテーリングが認めら
Fig..2 シマジン等のクロマトグラム
れない場合はパラメータの問題の方に
1: シマジン、2 : ダイアジノン、3 : チオベンカルブ
妥当性が高いです。
上:正常時、下:劣化時
3-2-2 インターフェース側
インターフェース側の劣 化
では主として高沸点化合物の
感度低下が起こり、しばしばテ
3
2
1
45
6
7
8
ーリングをともないます。揮発
9
10
11
性から考えて GC/MS で測定す
るにはかなり無理のある化合
物(おおよその目安として分子
量が 450~500 以上の化合物)
は本質的にテーリングし易く
これを日常的な指標とするに
1
234
6
5
8
7
9
10
11
は困難が予想されます。一方、
なかにはそれほど沸点が高く
なくてもこの部分の劣化にと
もない素直に?感度が低下す
Fig..3 フェニトロチオン他のクロマトグラム 上:正常時、下:劣化時
1:シマジン、2:プロピザミド、3:ダイアジノン、4:クロロタロニル、5:イプロベンホス、6:フェニトロチオン
7:チオベンカーブ、8:イソプロチオラン、9:イソキサチオン、10:クロロニトロフェン、11:EPN
る化合物があります。本試料で
は、この部分の評価にフェニトロチオンを採用しました。Fig.3 に良好/劣化時によるフェ
ニトロチオンその他農薬数成分のクロマトグラムを示します。
3-3 MS
最近の MS ではそのほとんどに「オートチューン」機能が搭載されています。チューニ
ングに際してマス軸は厳密に調整される必要がありますが、一般的な MS の使用目的では、
マススペクトルパターン(以下 MS パターンと略記)に関してはそれほどの厳密さは要求
されていません。このため、
「オートチューン」されていても装置あるいは日によって MS
パターンが変動することもありえますが、ライブラリ検索にはそれほど大きな影響はない
のが通例です。
一方、相対定量注4)のように使用目的によっては、測定日あるいは装置間で MS パターン
をある程度均質に揃えたいような場合があります。MS パターンを精密に調整するチューニ
ングとしては EPA625 メソッドのデカフルオロトリフェニルホスフィン(DFTPP)アルゴ
リズムチューニングが有名です。本クライテリアサンプルは相対定量への応用も考慮した
GC/MS システム用に作成しましたので、MS パターンチェックの目的で DFTPP も加えて
あります。これは「DFTPP チューン」が、GC/MS のチューニングで一般的に使われてい
るパーフルオロトリブチルアミン(PFTBA)を用いて DFTPP のパターンに合わせるよう
なチューニングを行っているためで、実際に DFTPP のパターンも確認しておいた方が良い
と判断したためです。Fig.4 にオートチューンおよび DFTPP チューンにより得られた
DFTPP の MS パターンを示します。また、Table-1 に DFTPP チューンのイオン比設定と
異なる 10 台の装置によるチューニング結果を示します。
この他に MS イオン源の不活性度を評価するための化合物も論議されるべきですが、本
クライテリアサンプルがイオン源の「不活性」を標榜している Agilent 製 5973inertGC/MS
システム用に作成されているため、当面はこれに該当する成分を加えていません。もちろ
ん、使用あるいはメンテナンスを重ねていくうちに不活性度が低下する可能性もあります
ので、将来的にはイオン源不活性度評価用化合物の追加も検討したいと考えています。
注4)内部標準定量法では、あらかじめ求めておいた内部標準物質と測定対象成分の感度比と実測さ
れた両化合物のピーク面積(高さ)の比率から測定対象成分の濃度(量)を算出します。全体的な感
度変動あるいは注入誤差などの補正が可能になります。一般的に、この方法では測定の都度標準溶液
を用いて両者の感度比を再校正します。ここで言う相対定量はこの感度比をデータベース化すること
で、再校正をしなくてもおおよその定量を可能にすることを目論んでいます 2),3),4)。MS パターンが変
動すると、システムの他の部分が変化していなくても比率が変わります。これは、ほとんどの場合内
部標準物質と測定対象成分ではピーク面積算出に使用するイオンが異なるためです。
ア
ハ
゙ ン
タ
゙ ン
ス
1
2
6
0
0
2
4
0
0
2
2
0
0
2
0
0
0
1
8
0
0
1
6
0
0
1
4
0
0
1
2
0
0
1
0
0
0
8
0
0
6
0
0
4
0
0
2
0
0
6
. 9
5
4
1
~
9
1
6
. 9
7
2
m
i n
の
平
均
:
S
T
D
_ 1
5
1
5
0
7
1
7
2
2
7
2
9
1
9
6
2
5
ア
ハ
z
-
゙ ン
-
タ
1
0
0
1
5
0
2
. 2
8
0
0
2
5
゙ ン
9
0
0
0
0
4
5
0
0
0
4
0
0
0
0
3
5
0
0
0
3
0
0
0
0
2
5
0
0
0
2
0
0
0
0
1
5
0
0
0
1
0
0
0
0
5
0
0
4
1
~
1
1
1
7
0
5
1
5
0
-
-
4
5
0
-
)
6
0
2
3
3
0
6
3
5
0
5
4
:
Y
G
4
0
2
0
4
0
7
5
2
5
0
0
7
5
3
0
5
5
5
0
9
4
. 2
8
7
m
2
i n
の
平
均
1
0
2
8
_
A
. D
4
(
4
2
5
5
0
8
5
5
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2
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0
z
3
ス
5
2
/
0
>
1
m
2
4
7
2
)
4
5
3
/
( -
4
0
m
. D
8
1
1
9
0
0
1
5
0
6
2
4
2
9
6
7
3
2
0
0
2
5
0
3
0
0
2
3
3
3
5
6
0
5
4
4
0
0
3
0
4
4
5
7
0
4
5
5
0
0
4 5
0
2
7
>
Fig..4 DFTPPのMSパターン 上:DFTPPチューン、下:オートチューン(一例)
Table-1 DFTPPイオン比設定と10台の装置による結果
T arget m/z
T arget Abundance(%)
50
1.0
69
100.0
131
45.0
219
55.0
Instrument
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Average
SD
RSD, %
1.1
1.0
1.0
1.2
1.0
1.0
0.9
1.0
1.0
1.1
1.0
0.1
8.0
T uning Abundance(%)
100.0
47.6
57.9
100.0
47.7
53.7
100.0
45.6
54.2
100.0
47.2
54.2
100.0
44.4
53.0
100.0
45.4
53.1
100.0
47.3
55.1
100.0
44.5
51.3
100.0
48.8
53.6
100.0
47.1
59.1
100.0
46.6
54.5
0.0
1.5
2.3
0.0
3.2
4.3
414
2.4
502
2.0
2.6
2.6
2.6
2.7
2.4
2.7
2.6
2.7
2.6
2.5
2.6
0.1
3.6
2.4
2.3
2.1
2.2
2.1
2.2
2.3
2.1
2.4
2.3
2.2
0.1
5.2
4.本クライテリアサンプルによる評価ともう一つの評価用化合物
クライテリアサンプルは上記化合物の 1ppm ジクロロメタン混合溶液として調製されて
います。これを実測してシステム評価を行うわけですが、注入口およびカラムのインター
フェース側は感度、カラムの注入口側はテーリングファクター、MS パターンは特定イオン
の比で評価します。この評価はシステムが「適正な」状態で採取されたデータをリファレ
ンスとして行います。従って、より正確な評価のためには測定条件をそのリファレンスデ
ータ採取時と同等にする必要があります。
テーリングファクターについては、そのまま数値としての評価が可能になりますので、
一定の値以下を「PASS」としています。感度による評価については、s/n 比を用いた数値
化が可能ですが、ここでは内部標準物質との相対感度で評価します。理由はシステム劣化
に対して感受性の高い化合物への影響を見積もることを目的としているからです。3-3 で述
べましたように DFTPP チューンによる測定を行うことで、正常時ならびに評価時における
内部標準物質との相対感度の比較により得られる「評価化合物の定量値」による数値化が
可能になりますので、ある値以上を「PASS」とします。なお、内部標準物質にはシステム
劣化の影響を比較的受けにくい点と入手のし易さから数種類の重水素ラベル化多環系芳香
族を選択しました。
MS パターンに関しては、DFTPP の m/z 198 と 442 の比率のブレで評価しています。一
定範囲内で「PASS」になります。DFTPP チューニング自体の基準が厳しいので、補完的
なものと考えています。
これらの評価計算をソフトウエアによる自動処理を行ううえで保持時間が固定化されて
いれば、大変好都合です。保持時間が不変であれば、あらかじめ対象化合物に関して設定
してある保持時間情報に基づきマスクロマトグラム抽出あるいはピーク面積計算等の処理
を簡便かつ高い信頼性をもって行うことが可能です。また、テーリングファクターに関し
ても保持時間を合わせた上での比較であればより厳密性が高くなります。
冒頭にも述べましたが、本クライテリアサンプルはもともと RTL 対応データベースの作
成・運用のために作成された経緯があるため、リファレンスデータを採取した条件であれ
ば評価用化合物に関しても保持時間が固定されています。この保持時間の固定具合を評価
するために、クロルピリホスメチルおよびクロルピリホスを選定しました。両化合物の実
測保持時間と「固定化された保持時間」との差分がある値以下で「PASS」となります。ま
た、この他に保持時間に関する化合物としてトリス(2-クロロエチル)リン酸を加えてあり
ます。同化合物は夾雑物により保持時間がずれ易く、同時に注入された夾雑物だけでなく
システム内に残留している夾雑物からも影響を受けます。本化合物の保持時間(のずれ)
はシステム汚染に起因する保持時間への影響を判断する指標となります。
以上のように、本クライテリアサンプルはシステムセットアップならびに実試料測定の
運用において非常に有効と考えられます。Table-2 に評価化合物とその評価部位等の一覧を
示します。
5.まとめ
本クライテリアサンプルと評価用に作成したソフトウエア(今回は紹介しませんでした)
により、微量分析用の GC/MS システムの状態を簡便に数値化することが可能となりました。
ただし、この数値による線引きをどこに置くかは使う側に委ねられる問題かもしれません。
原理的には、MS パターンの均一化(DFTPP チューン)、保持時間の固定化(RTL)に
加えて、クライテリアサンプルによる診断機能を用いてシステムの状態をある程度一定に
保つことにより、検量線のデータベース化も可能かと思われます。筆者らは既にこの評価
システムのもと有害性が疑われる 450 程度の化合物について、MS パターン、保持時間に加
えて内部標準法による検量線のデータベースとともにこれを利用するためのソフトウエア
を作成しました 3),4)。今後も化合物数を増やしていき、多少なりとも分析の効率化に寄与で
きればと考えております。
最後になりましたが、本クライテリアサンプルを作成するにあたって多大なご協力をい
ただきました林純薬工業株式会社の木村良夫氏、原田修一氏に深く感謝いたします。
Table-2 評価化合物と評価部位
評価部位
注入口
化合物
カラム(注入口側)
カラム
(インターフェイス側)
MS
保持時間 クライテリア (一例)
カプタホル
イソキサチオン 2,4-ジニトロアニリン
ペンタクロロフェノール
シマジン フェニトロチオン
>
>
<
<
<
>
0.7ng(検出量)
0.7ng(検出量)
1.5(テーリングファクター)
3(テーリングファクター)
1.5(テーリングファクター)
0.7ng(検出量)
DFTPP
クロルピリホスメチル
クロルピリホス
トリス(2-クロロエチル)リン酸
< 20%(イオン比のずれ)
±< 0.05 分
±< 0.05 分
±< 0.05 分
参考文献
1)Blumberg, L.M., Klee, M.S.: Method translation and Retention Time Locking in
Partition GC. Anal. Chem., 70, 3828-3839(1996)
2)Kadokami, K., Tanada, K., Taneda, K., Nakagawa K.: Development of a Novel
GC/MS Database for Simultaneous Determination of Hazardous Chemicals.
BUNSEKI KAGAKU, 53(6), 581-588(2004)
3)Yamagami, T., Ogawa, Y., Nakashima, S., Naka, S., Takigawa, Y., Kadokami, K.,
Tanada, K., Higuchi, M.: 日中環境化学連合シンポジウム要旨集 (2004)
4)山上
仰、小川義謙、中島晋也、中
聡子、瀧川義澄、門上希和夫、棚田京子、樋口
雅之:第 88 回日本食品衛生学会学術講演会 (2004)