聞き上手さとユーモア表出が青年期の友人関係構築に及ぼす

聞き上手さとユーモア表出が青年期の友人関係構築に及ぼす影響
The effects of a recipient’s openness and humor expression
on friendship construction in adolescence
山本 知青
YAMAMOTO, Chiharu
キーワード:自己開示 オープナー ユーモア 社会的スキル 友人関係
Key words:Self-Disclosure,opener,humor,social-skill,close friend
ら、高オープナーは低オープナーよりも相手か
問題
ら開示されることが確かめられている。また、
1-1 聞き上手とは
高オープナーは低開示者の開示を高めること
1−1(1) 自己開示から始まる対人関係
も示されている。さらに明らかなことには、高
自己開示はコミュニケーションの最も基本
オープナーは低オープナーよりも好かれてお
的なものである。対人関係形成の初期には、相
り、高開示者・低開示者の双方からポジティブ
手との信頼関係を築かなければならないため
な感情を抱かれていた。また、性差の検討では、
に、ごく表面的な領域で相互の自己開示を行う。
女性の方が男性よりも自己開示されやすく、
一方が自己開示した程度に応じて、もう一方も
“聞き上手”であることが明らかとなっている。
自己開示をするという自己開示の「相互性」と
1−2
いう現象が見出されており(榎本、1983)、緊
ユーモアについて
1−2(1) ユーモアの種類とその効果
張が解けた状態が自己開示を高めるといった
上野(1992)によると、ユーモアは「遊戯的
知 見 も 得 ら れ て い る ( e.g.Rohrberg &
ユーモア」「攻撃的ユーモア」「支援的ユーモ
SousaPaza,1976)
。
自己開示には話し手がいる一方で、聞き手も
アの3つに分類できる。遊戯的ユーモアは、人
いなくてはならない。聞き手にも自己開示の受
を楽しませたい、ふざけて、笑って、愉快に楽
けやすさの個人差がある。こうした自己開示の
しみたい、そうして対人場面を和ませようとす
聞きやすさ、受けやすさを測定する「オープナ
る目的で表出される。この志向の人は、相手の
ー・スケール」を Miller,Berg,&Archer(1983)
感情を思いやり、気まずい雰囲気の改善を求め
が考案した。オープナー(opener)とは、他者
る傾向にある。攻撃的ユーモアは、誰かを攻撃
から親密な自己開示を引き出しやすい人を言
することを目的に、風刺や皮肉、ブラックユー
う。したがって、オープナー傾向が高い人は、
モアやからかいなどを使って生み出されるユ
自己開示を受けやすい人である。一般に“聞き
ーモアである。自分を攻撃して傷つける自虐的
上手”と言われる人はオープナー傾向が高い人
なユーモアもある。支援的ユーモアは、笑いや
であるといえる。
ユーモアによって他者を励まし、許し、慰めた
りして、心を落ち着かせる目的で表出される。
1−1(2) 聞き上手“オープナー”の特質
Miller et al.(1983)や小口(1990)の研究か
この志向の人は、親和欲求・愛他性が高く、人
1
間関係を大切にする傾向がある。
な関わりを避け表面的な楽しさを追い求める
1−2(2) ユーモアと対人関係構築との関わり
傾向がしばしば指摘されている(岡田、1995
ユーモアは人間関係を良好にし、円滑にする
など)。また、自己に対する関心の低下(岡田、
ために使用され(井上、1984)、対人関係にお
1993)、親からの自立に消極的、マニュアル人
ける緊張した状態を和らげるための社会的潤
間、指示待ち人間(千石、1985)などが、大学
滑油である(Hampes、2001)と考えられている。
生世代の青年の特質として指摘されている。岡
しかし、上野(1992)によると、それは遊戯的
田(1995)は、大学生の友人関係の特徴として、
ユーモアや支援的ユーモアに限られることに
互いに傷つけあわぬよう気を遣う・互いの領域
なる。集団の中にあって人々と仲良くしたいと
に踏み込まぬよう、関係の深まりを回避する・
いう要求があるとき、攻撃的ユーモアではなく、
楽しさを追及し群れる、といった3側面を見出
遊戯的ユーモアや支援的ユーモアが使用され
している。また、宮下(1995)は、青年期の友
ていたからである。つまり、使用するユーモア
人の意義の一つとして、友人関係を通して自分
刺激の種類が、対人的な効果に違いをもたらす
の長所短所に気付き、自己を客観的に見つめる
ことが示唆されているのである。
ことを挙げている。
1−3
目的
社会的スキルについて
社会的スキルとは、菊池(1998)により「対
本研究では、自己開示を引き出しやすいとい
人関係を円滑にはこぶために役立つスキル」と
うオープナー効果を確かめるとともに、相手か
定義され、相川(2000)では「対人場面におい
らの開示や好意を高めるであろうオープナー
て、個人が相手の反応を解読し、それに応じて
以外の要因:ユーモア、社会的スキル、個人の
対人目標と対人反応を決定し、感情を統制した
パーソナリティについても検討したい。聞き上
うえで対人反応を実行するまでの循環的な過
手な人は、対人関係を構築するスキルが備わっ
程」と定義されている。社会的スキルが高い人
ており、対人的な魅力度も高いと思われる。よ
とは、対人関係を良好にするという対人目標を
って、聞き上手な人ほど対人関係を構築するこ
達成するために、有益な行動を効率よく用いる
とに長けているのか、検証したい。今回予定さ
ことができる人である。
れた被調査者が大学生であり、大学生の開示対
また、藤田(2000)によると、社会的スキル
象としては友人への自己開示が最も大きいこ
が身についているという自己評定をしている
とが従来の研究で明らかとなっていることか
者は、心身の活動性が高く、対人的な面で積極
ら、大学生の友人関係を調査の対象とした。
的であり、対人的な関わり合いを好む傾向があ
仮説
ることが明らかにされている。これとは逆に、
①高オープナーは低オープナーよりも、心を許
抑うつ性・気分の変化・劣等感・神経質といっ
し合える友人関係を構築しやすいだろう。
た性格傾向は少ないことも示されている。
②高オープナーはユーモアをうまく使用し、社
会的スキルも高いので、友人関係を築くこと
1−4
青年期の友人関係について
に長けているだろう。
1990 年代以降の青年の特質として、内面的
③特に高オープナーにおいては、ユーモアの効
2
果が相手の自己開示をより高めるので、心を
を合わせた計 23 項目を「ユーモア志向性」と
許し合える友人関係を構築しやすいだろう。
して用い、5 件法で回答を求めた。
④ 社会的スキル
方法
社会的スキルを身につけている程度を測定
2−1 調査対象者・調査期間・調査方法
するために、kiss-18(菊池、1988)を使用し
調査対象者は、関西の大学に通う大学生 202
た。全 18 項目中、対人関係の開始時に必要な
名(男性 106 名、女性 96 名)であった。2007
スキル 5 項目を採用し、5 件法で回答を求めた。
年 10 月 2 日∼11 月 6 日の間に、友人・あるい
⑤ 心を許し合える友人関係尺度
は友人に配布を依頼した大学生 120 名に質問
友人との付き合いの深さを測定するために、
紙を配布し、その場で回答してもらう形と後日
友人関係測定尺度(吉岡、2001)の全 27 項目
回収する形を取り調査を実施した。また、関西
中、友人への自己開示や信頼感を表す内容であ
大学社会学部 2007 年 10 月 26 日(金)1限の「推
る 10 項目を採用し、5 件法で回答を求めた。
測統計学」
講義受講者 82 名に質問紙を配布し、
⑥ Big Five 尺度
講義時間を約 15 分間頂き回答してもらった。
性格特性を測定するために、Big Five 尺度
2−2 質問紙の構成
(和田、1996)の全 60 項目中、各下位尺度で
① フェース項目
因子負荷量の高い 15 項目を使用し、5 件法で
性別、学年、対人関係の広さを表す「友人
回答を求めた。
の数」
、
「交友関係の広さ」の 4 項目を尋ねた。
以上、計 59 項目から構成される質問紙に、10
友人の数と交友関係の広さは、その人がどれ
∼15 分程度で回答してもらった。
くらい幅広く、様々な人と交流を持っている
結果
かを測定するものである。
3−1
② オープナー・スケール
各尺度の検討
3−1(1) オープナー・スケール
自己開示を受ける程度(=聞き上手さ)を測
定するために、Miller et al.(1983)が考案し、
オープナー・スケール 10 項目について、因
小口(1989)が翻訳したオープナー・スケール
子分析(主因子法、プロマックス回転)を行った。
日本語版の全 10 項目を使用し、5 件法で回答
固有値は、第 1 因子 3.570、第2因子 1.390、
を求めた。
第3因子 1.231 であったので、固有値の減衰状
③ ユーモア志向性
況から1因子構造であると判断した。なお、尺
度の信頼性はα=.786 であった。
遊戯的ユーモア・攻撃的ユーモア・支援的
3−1(2) ユーモア志向性尺度
ユーモアに対する志向性を測定するため、ユ
ーモア態度尺度(上野、1993 及び宮戸・上野、
ユーモア態度尺度 15 項目について、因子分
1996)について、全 24 項目中、因子負荷量の
析(主因子法・プロマックス回転) を行った。
高い 15 項目を採用した。加えて、ユーモアに
固有値は、第 1 因子 4.291、第2因子 2.040、
対する積極性を測定するため、ユーモア積極
第3因子 1.197、第4因子 1.123 であったので、
性尺度(上野、2003) の全 8 項目中、本研究に
固有値が1以上のスクリー基準にて、4因子構
妥当だと思われる 4 項目を採用した。両尺度
造であると判断した。なお、累計寄与率は
3
57.669 %であった。第 1 因子を〔支援的ユーモ
(α=.819)、第4因子〔開放性〕
(α=.776)
、
ア〕(α=0.774)、第2因子を〔ブラックユー
(α=.761)と命名した。
第5因子〔外向性〕
3−2
モア好き〕(α=0.694)
、第3因子を〔友好的
仮説1の検証
攻撃ユーモア〕(α=0.517)、第4因子〔遊戯
オープナー・スケールの尺度得点の中央値
的ユーモア〕
(α=0.400)と命名した。続いて、
35 を基準に高群−低群に分け、高群を「高オ
ユーモア積極性尺度 4 項目について、因子分析
ープナー」(N=94)、低群を「低オープナー」
(主因子法・回転なし)を行った。固有値は、
(N=105)と表した。このオープナー度(高低)
第一因子 2.688、第二因子.694 であったので、
と心を許し合える友人関係得点の t 検定を行
固有値の減衰状況から1因子構造であると判
った。t検定の結果、高オープナー(M=38.606,
断した。因子寄与率は 67.201%であった。なお、
SD=9.356 ) と 低 オ ー プ ナ ー ( M=31.390 ,
尺度の信頼性はα=.835 であった。
SD=8.125 ) の間 に 有 意な 差 が 見 られ た (t
3−1(3) 社会的スキル尺度
(197)= 5.823,p<.001)。このことから、高オ
社会的スキル尺度5項目について、因子分析
ープナーは低オープナーよりも、心を許し合え
(主因子法・回転なし)を行った。固有値は、
るような友人関係を築けていることが示され
第 1 因子 3.154、第2因子.725 であったので、
た。
固有値の減衰状況から1因子構造であると判
3−3
性差についての検討
仮説では言及していないが、オープナー度や
断した。因子寄与率は 63. 075%であった。な
お、尺度の信頼性はα=.853 であった。
「友人との付き合いの深さ」についての性差を
3−1(4) 心を許し合える友人関係尺度
探るため、次の分析を行った。性別とオープナ
心を許し合える友人関係尺度 10 項目につい
ー得点のt検定を行った結果、男性(M=34.491,
て、因子分析(主因子法・回転なし)を行った。
SD=5.647)と女性(M=36.305,SD=5.923)の間
固有値は、第一因子 5.529、第2因子.964 であ
に有意な差が見られた(t(199)=2.223,p<.05)。
ったので、固有値の減衰状況から1因子構造で
同様に、性別と心を許し合える友人得点のt検
あると判断した。因子寄与率は 55.285%であっ
定を行った結果、男性(M=32.838,SD=7.959)
た。なお、尺度の信頼性はα=.804 であった。
と女性(M=36.842,SD=10.487)の間に有意な
3−1(5) Big Five 尺度
差が見られた(t(198)=-3.058,p<.01)
。この
Big Five 尺度 15 項目について、因子分析(主
ことから、女性は男性よりもオープナー度が高
因子法・プロマックス回転) を行った。固有値
く、友人と深い付き合いをしていることが示さ
は、第 1 因子 3.320、第2因子 2.679、第3因
れた。
子 2.027、第4因子 1.729、第5因子 1.557 で
3−4
仮説2の検証
あったので、固有値が1以上のスクリー基準に
オープナー度(高低)を独立変数とし、ユー
て、5因子構造であると判断した。累計寄与率
モア志向の各因子得点・社会的スキル得点・友
は 75.412%であった。和田(1996)の作成した
人関係の広さ得点をそれぞれ従属変数とした
元の尺度と完全に一致したため、そのまま第 1
t検定を行った。
因子を〔情緒不安定性〕
(α=.881)
、第2因子
(ⅰ) オープナー度と「支援的ユーモア」得点
を〔誠実性〕
(α=.854)
、第3因子を〔調和性〕
のt検定の結果、高オープナーと低オープナ
4
ーの間に有意な差が見られた(t(198)=5.546,
の間に有意な差が見られた(t(199)=5.998,
。よって、高オープナーは低オープナ
p<.001)
p<.001)。よって、高オープナーは低オープナ
ーよりも支援的ユーモアを好み、使用してい
ーよりも友人関係が広いことが示された。
ることがわかった。
以上(ⅰ∼ⅶ)の結果をまとめたものが表1で
(ⅱ) オープナー度と「ブラックユーモア好き」
ある。
得点のt検定の結果、高オープナーと低オープ
3−5
仮説3の検証
ナーの間に差が見られなかった(t
各ユーモア志向得点を3群に分け、高群−中
(199)=0.214,n.s.)
。すなわち、高オープナー
群−低群に分類した。続いて、オープナー度(高
と低オープナーの間で、ブラックユーモアを好
低)と各ユーモア志向(高群−中群−低群)を
む程度や使用度に差はみられなかった。
独立変数とし、心を許し合える友人関係得点を
(ⅲ) オープナー度と「友好的攻撃ユーモア」
従属変数として、2要因の分散分析を行った。
得点のt検定の結果、高オープナーと低オープ
(ⅰ) 心を許し合える友人関係について、オー
ナーの 間に差が見ら れなかっ た(t (199)=
プナー度と「支援的ユーモア」を独立変数とし
1.175,n.s.)
。すなわち、高オープナーと低オ
た2要因の分散分析を行った結果、支援的ユー
ープナーの間で、友好的攻撃ユーモアを好む程
モアに主効果が見られた(F(2,192)=3.617,
度や使用度に差はみられなかった。
p<.05)。しかし、交互作用は見られなかった
(ⅳ) オープナー度と「遊戯的ユーモア」得点
(F(2,192=.493,n.s.)
。
のt検定の結果高オープナーと低オープナー
(ⅱ) 心を許し合える友人関係について、オー
の間に有意な差が見られた(t(199)=2.318,
プナー度と「ブラックユーモア好き」を独立
p<.05)
。よって、高オープナーは低オープナー
変数とした2要因の分散分析を行った結果、
よりも遊戯的ユーモアを好み、使用しているこ
ブラックユーモア好きに主効果は見られなか
とがわかった。
った(F(2,193)= .35,n.s.)。しかし、交互
(ⅴ) オープナー度と「ユーモア積極性」得点
作用が見られた(F(2,193)=3.52,p<.05)
。
のt検定の結果高オープナーと低オープナ ー
(ⅲ) 心を許し合える友人関係について、オー
の間に有意な差が見られた(t(198)=3.561,
プナー度と「友好的攻撃ユーモア」を独立変数
p<.001)。よって、高オープナーは低オープナ
とした2要因の分散分析を行った結果、友好的
ーよりもユーモアの使用に積極的であること
攻撃ユーモアには主効果は見られなかった
がわかった。
(F(2,193)=.525,n.s.)
。また、交互作用も見
(ⅵ) オープナー度と「社会的スキル」得点の
られなかった(F(2,193)=1.706,n.s.)
。
t検定の結果高オープナーと低オープナーの
(ⅳ) 心を許し合える友人関係について、オー
間に有意な差が見られた(t(198)= 7.115,
プナー度と「遊戯的ユーモア」を独立変数とし
p<.001)。よって、高オープナーは低オープナ
た2要因の分散分析を行った結果、遊戯的ユー
ーよりも社会的スキルを身につけていること
モアには主効果は見られなかった(F(2,193)=
がわかった。
1.106,n.s.)
。また、交互作用も見られなかっ
(ⅶ) オープナー度と「友人関係の広さ」得点
た(F(2,193)= 1.853,n.s.)。
のt検定の結果高オープナーと低オープナー
(ⅴ) 心を許し合える友人関係について、オー
5
プナー度と「ユーモア積極性」を独立変数とし
た。これは仮説1を支持する結果である。高オ
た2要因の分散分析を行った結果、ユーモア積
ープナーは開示者から好かれるという特性と
極性に主効果が見られた(F(2,192)=6.267,
持っているので、友人関係をより強く結び付け
p<.01)。しかし、交互作用は見られなかった
ているのだと考えられる。
(F(1,192)=.288,n.s.)
。
性差について
女性は男性よりもオープナー度が高く、友人
以上(ⅰ∼ⅴ)の結果をまとめたものが表2で
と深い付き合いをしていることが示された。こ
ある。
3−6
れは Miller et al.(1983)や小口(1990)の先行
パーソナリティ要因との関連
仮説では言及していないが、オープナー度と
研究を支持する結果である。女性は男性よりも
パーソナリティの関連を探るため、オープナー
開示量が多く、また被開示量も多い。一般的に
度(高低)と Big Five 尺度の各因子得点との
女性は男性よりグループを作って行動する傾
t 検定を行った。
向があり、仲間意識が強く、同調性が高いと思
(ⅰ)オープナー度と「情緒不安定性」得点のt
われる。そのため、女性は友人からの開示を受
検定を行った結果、高オープナーと低オープナ
けると、その内容に共感しながら熱心に耳を傾
ーの間に有意な差が見られた(t(186)=2.194,
けるのだと考えられる。
p<.05)
。
仮説2について
(ⅱ)オープナー度と「誠実性」得点のt検定を
高オープナーは低オープナーよりも、
「支援
行った結果、高オープナーと低オープナーの間
的ユーモア」
「遊戯的ユーモア」を好んで使用
に有意な差が見られた(t(198)=2.348,p<.05)
。
し、「ユーモア積極性」が高く、「社会的スキ
(ⅲ)オープナー度と「調和性」得点のt検定を
ル」も身につけていることがわかった。そし
行った結果、高オープナーと低オープナーの間
て、友人関係も広いことが明らかとなった。
に 有 意 な 差 が 見 ら れ た ( t (198)=6.752 ,
しかし、
「ブラックユーモア」や「友好的攻撃
p<.001)
。
ユーモア」を好む程度や使用する程度につい
(ⅳ)オープナー度と「開放性」得点のt検定を
ては、オープナー度で差は見られなかった。
行った結果、高オープナーと低オープナーの間
これは仮説2を支持する結果である。
高オープナーは、ユーモアの中でも対人関
には差が見られなかった(t(198)=0.116,
n.s.)
。
係を円滑に進めるために有効なユーモアを好
(ⅴ) オープナー度と「外向性」得点のt検定
んで使用し、積極的に人を笑わせようとする
を行った結果、高オープナーと低オープナーの
傾向がある。人を傷つけるおかしさ、人を笑
間に有意な差が見られた(t(198)=4.851,
いものにするおかしさ、ふつうは言ってはい
p<.001)
。
けないことを口にするような、倫理に反する
ことをして感じるおもしろさといった攻撃的
考察
ユーモアは、あまり使用されていなかった。
仮説1について
このことは、高オープナーがユーモアをうま
高オープナーは低オープナーよりも、心を許
く使い分け、対人関係を築くことに長けてい
し合える友人関係を築けていることが示され
ることを示している。以上の結果は、
“聞き上
6
手”な人が対人関係を構築するスキルを身に
に劣等感を感じている人ほど、他者の欠点を探
つけており、対人場面で活用していることを
し出し、笑おうとする(足立、1984)という考
示唆している。
えから推測すると、高オープナーに比べて友人
仮説3について
関係が狭く浅い低オープナーは、自らに対人関
支援的ユーモアを好んで使用する人・積極的
係における劣等感を感じており、攻撃的なユー
に人を笑わせようとする人は、そうでない人よ
モアを使用する。しかし、人を笑いものにして
りも、心を許し合える友人関係を築けているこ
優越感を感じることで、少なからず劣等感を軽
とが示された。しかし、友好的攻撃ユーモア、
減させ、その後の対人関係を前向きに構築して
遊戯的ユーモアにおいては、高群−低群の間に
ゆくことができるためではないかと考えられ
差は見られなかった。また、ブラックユーモア
る。
好きにおいては、予測していなかった交互作用
パーソナリティとの関連について
が見られた。高オープナーでは、ブラックユー
高オープナーには、調和性(温和だ、短気で
モアを好まずあまり使用しない人のほうが、ブ
ない)や外向性(話し好き、陽気だ)といった
ラックユーモアを好んで使用するよりも、心を
パーソナリティ特性があり、低オープナーには、
許し合える友人関係を築けている。逆に低オー
情緒不安定性(悩みがち、不安になりやすい)
プナーにおいては、ブラックユーモアを好んで
や誠実性(いい加減だ、ルーズだ)といったパ
使用する人のほうが、ブラックユーモアを好ま
ーソナリティ特性が見られた。なお、開放性(独
ずあまり使用しない人よりも、心を許し合える
創的だ、多才だ)はオープナー傾向と関連がな
友人関係を築けている。以上の結果より、仮説
かった。
3は一部支持された。
全体考察
聞き上手な人は、対人関係のスキルを身につ
仮説3は、ユーモアの「相手をなごませる」
という効果が、友人関係の構築にプラスの効果
けているだけでなく、対人関係の形成にプラス
を及ぼしているかどうかを検討するものであ
の効果をもたらすようなパーソナリティを持
った。自分をさらけ出す自己開示には、相手に
ち併せている。このことから、聞き上手な人は
その後の関係を拒否されるかもしれないリス
対人魅力度が高いといえる。低オープナーに関
クが伴う(相川充、2003)。ユーモアには、そ
しては、全体的に自己に対する評価が低く、劣
のような開示場面での緊張状態を和らげ、なご
等感を抱いているように思われる。
ませてくれる効果があると考えられる。
引用文献
ブラックユーモア好きにおいては、高オープ
ナーの中で、人を傷つけることを目的としたブ
相川充
2003
ラックユーモアや過激な冗談を言わない人の
ル
ほうが、心を許し合える友人関係を築くことに
医学 51(10),915-922
―関係開始から関係深化へ―
浅田由美子
長けている。しかし、低オープナーの中では、
対人関係づくりの社会的スキ
1999
青年期の対人関係とユー
ブラックユーモアや過激な冗談を好んで使用
モア表出に関する研究
する人のほうが、心を許し合える友人関係を築
第8回大会 九州大学人間環境学府
けているという結果が得られた。これを、自分
教育と
日本青年心理学会
足立和浩 1984 笑いの戦略 河出書房新社
7
上野行良
2003
ユーモアの心理学―人間関
吉岡和子
2002
友人関係の理想と現実のズ
係とパーソナリティ― サイエンス社
レ及び自己受容から捉えた友人関係の満足
上野行良
感
2003
ユーモアに対する態度と対
人意識との関連
福岡県立大学紀要
青年心理学研究 13,13-30
11(2), 森下高治
39-49
1996
自己開示に関する聞き手の
聞き上手さと自己開示の第三者に対する伝
榎本博明
1983
対人関係を規定する要因と
しての自己開示研究
心理学評論
達の影響
26,
8(2) ,
133-153
148-164
小口孝司
流通科学大学論集
----------------------------1989
自己開示の受け手に関する
表1.オープナー高低におけるユーモア志向・社
研究 ―オープナー・スケール,(R-JSDQ)と
会的スキル・友人関係の広さの平均値と標準偏差
(SMI)を用いて― 応用社会心理学研究 31,
オープナー度
49-64
高オープナー 低オープナー
Mean(SD)
Mean(SD)
小口孝司 1990 聞き上手な“聞き上手さ”・
17.479(3.812) 14.547(3.657) ***
“口の軽さ”が開示者の行為・開示に及ぼす 支援的ユーモア
ブラックユーモア好 9.747(2.725)
9.670(2.421)
影響
友好的攻撃ユーモア 10.095(2.497) 9.689(2.400)
心理学研究 6(3),147-154
遊戯的ユーモア
3.768(1.162) 3.377(1.222)
*
菊池章夫・堀毛一也 1994 社会的スキルの心 ユーモア積極性
14.442(3.916) 12.514(3.737) ***
理学 川島書店
社会的スキル
16.821(4.287) 12.648(4.007) ***
夏目智代・橋本宰 2003 ユーモアのセンス及 友人関係の広さ
7.853(2.352) 5.915(2.226) ***
***p<.001,**p<.01,*p<.05
び社会的スキルが心理的適応に及ぼす影響
同志社心理 50,37-47
Hampes,W.P.
2001
Relation between humor
and empathic concern.
表2.心を許し合える友人関係におけるユーモア
Psychological
志向(高群−中群−低群)の平均値
Reports, 88, 241-244
藤田正美 2001 社会的スキル、ネガティブラ
低群
支援的ユーモア
31.59
ブラックユーモア好き 34.22
友好的攻撃ユーモア 34.31
遊戯的ユーモア
33.42
ユーモア積極性
31.33
イフイベント、および対人不適応感の関係に
関する研究
東京学芸大学大学院教育学研
究科
水野邦夫
1996
良好な対人関係に及ぼす社
会的スキルおよび性格特性の効果
同志社
心理 43,1-7
Who
1983
Elicit
Journal
of
高群
38.58
35.67
36.14
36.44
39.32
――――――――――――――――――――――
Lynn Carol Miller,John H. Berg,& Richard
L. Archer
Mean
中群
34.19
34.76
34.42
35.32
35.23
転載・引用をご希望の場合は必ず事前に下記までご連
Openers:Individuals
Intimate
Personality
絡ください。]
Self-Disclosure
and
著作責任者: 土田昭司連絡先:
Social
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Psychology,44(6),1234-1244
最終更新日: 2008 年 4 月 4 日
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