建設現場における熱中症予防の手引き

建設現場における熱中症予防の手引き
平成25年
7月
大田区 都市基盤整備部
1.熱中症とは
熱中症は、高温多湿の環境のもとで、体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩
れたり、体温調節機能など体内の調節機能がうまく働かなかったりすることによって発症する
障害の総称です。
熱中症の症状と分類は、表-1のとおりです。熱中症を発症すると死に至ることもあります
が、予防方法を知っていれば防ぐことができます。また、応急措置を知っていれば救命するこ
とが出来ます。
表-1
分類
熱中症の症状と分類
症
状
重症度
小
めまい・失神
(「立ちくらみ」という状態で、脳への血流が瞬間的に不十分になっ
たことを示し、
“熱失神”と呼ぶこともある。
)
Ⅰ度
筋肉痛・筋肉の硬直
(筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴います。発汗
に伴う塩分(ナトリウム等)の欠乏により生じます。これを“熱痙攣”
と呼ぶこともある。
)
大量の発汗
頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感
Ⅱ度
(体がぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から“熱疲労”
といわれていた状態である。)
意識障害・痙攣・手足の運動障害
(呼びかけや刺激への反応がおかしい、体がガクガクと引きつけがあ
Ⅲ度
る。真直ぐに走れない・歩けないなど。)
高体温
(体に触れると熱いという感触がある。従来から“熱射病”や“重度
の日射病”と言われていたものがこれに相当する。)
大
2.熱中症を生じやすい条件
熱中症は、高温多湿の作業環境、作業への慣れ、服装、健康状態などの要因によって引き起
こされます。
(1)作業環境
高温・多湿である発熱体から放射される赤外線による輻射熱がある。風が弱い(ない)な
どの場所は汗が蒸発しにくく、体温の調節に無効な発汗が増え、脱水症状に陥りやすくなり
ます。特に屋外の建設現場は直射熱や輻射熱が多く、極めて熱中症になりやすい作業環境に
あります。
1
(2)初めての作業
人間の体は、熱い環境での作業を始めてから3~4日経たないと、体温調整が上手になっ
てきません。このため、急に暑くなった日や久しぶりに暑い環境で作業を行うと、体温調節
が上手くいかず、熱中症になるリスクが高くなります。
(3)服装
通気性や透湿性の悪い衣服や保護具を着用して行う作業では、汗をかいても熱を下げるこ
とが困難になります。
(4)健康状態
病気や病気で投薬を行っている場合に、脱水症状を生じやすくなる。また、発汗・体温調
節が阻害されやすくなる場合があります。また、発熱・下痢での脱水症状、皮下脂肪が厚い
ことも熱中症の発生に影響を与えるおそれがあります。
3.熱中症の予防
(1)暑さ指数(WBGT値)
熱中症の予防には、作業場所にどの程度の熱中症の発生リスクがあるのかを客観的に評価
することが重要です。熱中症の発生リスクを評価するには、気温のみでは不十分です。
気温が30度よりも低くても湿度が高いと熱中症が発生しやすくなります。
熱中症の発生リスクを知るためには、気温、湿度、放射熱、作業服の状態、作業状態を考
慮したWBGT(湿球黒球温度)値という評価を行う方法があります。
WBGT値は暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数で、式①又は式②により算
出できます。
【屋内の場合及び屋外で太陽照射のない場合(日かげ)
】
式①
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度
【屋外で太陽照射のある場合(日なた)】
式②
※
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度+0.1×乾球温度
自然湿球温度:強制通風することなく、輻射(放射)熱を防ぐための球部の囲いをしな
い環境に置かれた濡れガーゼで覆った温度計が示す温度
黒 球 温 度 :熱輻射(赤外線)量を測定するもので、直径が150mm、卑近放射率
が0.95(つや消し黒色球)、球殻の肉厚ができるだけ薄い、中空黒
球の中心に位置する温度計の示す温度
乾 球 温 度 :いわゆる空気の温度
2
(2)WBGT値の測定装置
現在、いろいろなタイプのWBGT値測定装置が市販されています。温度計・湿度計に加
えて、作業環境や休憩場所の条件に応じた測定装置を用いて、熱中症のリスクを監視するこ
とが有効です。
WBGT値測定装置(例)
(3)WBGT値における作業レベル
現場のWBGT値が表-2の作業レベルの基準値を超えている場合は、熱中症予防対策の
徹底を図る必要があります。また、作業場所だけではなく、休憩場所のWBGT値について
も監視を行い、休息環境の改善を行うことも有効です。
また、表-3に掲げる衣類を着用して作業する場合は、指数計の値に同表に掲げる補正値
を加える必要があります。
3
表-2
身体作業強度等に応じたWBGT基準値
WBGT基準値
身体作業強度(代謝率レベル)の例
熱に順化して 熱に順化して
区
分
いる人
0安静
・安静
(℃)
33
1低代謝率
2中程度代 謝 率
3高代謝率
4極高代謝率
・楽な座位
・軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記)
・手及び腕の作業(小さいベンチツール、点検、組立てや
軽い材料の区分け)
・腕と足の作業(普通の状態での乗り物の運転、足のスイ
ッチやペダルの操作)
30
・立位
・ドリル(小さい部分)
・フライス盤(小さい部分)
・コイル巻き
・小さい電気子巻
・小さい力の道具の機械
・ちょっとした歩き(速さ3.5km/h)
・継続した頭と腕の作業(くぎ打ち、盛土)
・腕と脚の作業(トラックのオフロード操縦、トラクター
及び建設車両)
・腕と胴体の作業(空気ハンマーの作業、トラクター組立、
しっくい塗り、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作
28
業、草むしり、草堀り、果物や野菜を摘む)
・軽量な荷車や手押し車を押したり引いたりする
・3.5~5.5km/h の速さで歩く
・鍛造
・強度の腕と胴体の作業
気流を
気流を
・重い材料を運ぶ
・シャベルを使う
感じな
感じる
・大ハンマー作業
・のこぎりをひく
いとき
とき
・草刈り
・掘る
・硬い木にかんなをかけたりのみで彫る
25 26
・5.5~7km/h の速さで歩く
・重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする
・鋳物を削る
・コンクリートブロックを積む
・最大速度の速さでとても激しい活動
・おのを振るう
・激しくシャベルを使ったり掘ったりする
・階段を登る、走る、7km/h より速く歩く
表-3
WBGT値に
加えるべき補
正値(℃)
いない人 (℃)
32
29
26
気流を
気流を
感じな
感じる
いとき
とき
22
23
気流を
気流を
気流を
気流を
感じな
感じる
感じな
感じる
いとき
とき
いとき
とき
23
25
18
20
衣類の組み合わせによりWBGT値に加えるべき補正値
作業服(長袖
シャツとズボ
ン)
布(織物)製
つなぎ服
二層の布(織
物)製服
SMSポリプ
ロピレン製つ
なぎ服
ポリオレフィ
ン布製つなぎ
服
限定用途の蒸
気不浸透性つ
なぎ服
0
0
3
0.5
1
11
4
WBGT値の測定未実施の場合は、表-4の「WBGT値と気温・相対湿度との関係」を参
考にする。
表-4
WBGT値と気温、相対湿度との関係
(乾球温度)
気温(℃)
相対湿度(%)
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
29
28
28
27
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25
25
24
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22
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19
18
18
17
16
15
15
25
30
29
28
28
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25
24
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22
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21
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19
18
18
17
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29
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26
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19
18
17
17
16
35
32
31
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29
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20
20
19
18
17
16
40
33
32
31
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21
20
19
19
18
17
45
34
33
32
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29
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19
18
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35
34
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30
29
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26
25
24
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22
21
20
19
18
55
35
35
34
33
32
31
30
29
28
27
27
26
25
24
23
22
21
20
19
19
60
36
35
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
25
24
23
22
21
20
19
65
37
36
35
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
22
21
20
70
38
37
36
35
34
33
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
75
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
29
28
27
26
25
24
23
22
21
80
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
85
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
90
42
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
95 100
43 44
42 43
41 42
40 41
39 39
38 38
37 37
35 36
34 35
33 34
32 33
31 32
30 31
29 30
28 29
27 28
26 27
25 26
24 25
23 24
WBGT値
注
意
25℃未満
警戒
厳重警戒
25~28℃
28~31℃
危
険
31℃以上
(ここで、28℃~31℃は、28℃以上 31℃未満の意味)
【日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3 から】
この図は、気温と湿度から簡単にWBGT値を推定するために作成されたものであり、室
※
内で日射が無い状態(黒球温度が乾球温度と等しい。)とされたものなので、正確なWBG
T値と異なる場合もあります。(「日常生活における熱中症予防指針」 Ver.3から)
※
危険・厳重警戒などの分類は、日常生活上での基準であって、労働の場における熱中症予
防の基準には当てはまらないことに注意が必要です。
5
(4)作業環境の管理
建設現場は業態として日中、炎天下の高温多湿場所で作業することが避けられず、WBG
T値(暑さ指数)の低減対策が困難な場合がありますが、出来るだけ作業環境への配慮に努
める必要があります。
① WBGT値の低減
直射日光や照り返しを遮ることができる簡易な屋根や被いを設ける等、作業場所のWB
GT値の低減化を図ってください。閉鎖空間については、冷たい外気の導入や除湿が出来
る設備の設置が望まれます。
② 休憩場所等の確保
作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所や、風通しの良い日陰等の涼しい休憩場所を確
保しましょう。休憩場所は、人が横になれる広さを確保してください。
冷水や氷、冷たいおしぼり等を定期的に摂ることが出来る冷水器、製氷機、冷蔵庫、大
型のクーラーボックス等を設置してください。
(5)作業管理
① 作業時間の短縮等
暑さ指数予報の危険度が高い場合や現場のWBGT値(暑さ指数)がWBGT基準値を
超えるおそれがある場合には、あらかじめ休憩時間をこまめに設けて連続作業時間を短縮
するほか、WBGT値が最も高くなり熱中症の発症が多くなり始める午後2時から4時前
後に長めの休憩時間を設ける等、作業従事者が高温多湿環境から受ける負担を軽減して下
さい。
WBGT値の低減が困難な道路上の作業等については、さらに作業時間の短縮や気温の
低い時間帯へのシフトを検討するとともに、確実な水分・塩分補給と休憩をとるようにし
て下さい。
② 新規入場者、作業環境に大幅な変更があった作業従事者の熱への順化
熱中症指数の高い場所での作業は、熱に慣れ作業に適応しているかどうかが熱中症発生
リスクに大きな影響があります。
熱中症指数の高い場所に慣れていない作業従事者がこのような場所に従事する場合は、
熱に慣れるよう7日程度以上をかけて徐々に作業時間を増やしてください。短期間の作業
に従事する場合には、従前の作業場所がどのような作業環境であったかを考慮して作業時
間を検討して下さい。
なお、4日程度作業が中断すると熱への慣れが大きく低下し、3~4週間で熱への慣れ
が完全に失われるとされています。
6
③ 確実な水分・塩分補給
脱水症状は自覚症状以上に進行していることがあります。また疾病や加齢で自覚症状が
出ない場合もあります。このため、自覚症状があるなしにかかわらず、定期的な水分と塩
分を摂取してください。水分・塩分の補給は個人ごとの表による管理が有効です。
塩分等の摂取を控えなければならない場合は、従事作業等について主治医等と相談する
ことが必要です。
屋外での建設作業など作業環境がWBGT基準値を超えるような作業現場では、少なく
とも0.1~0.2%の食塩水、ナトリウム40~80mg/100ml のスポーツドリン
ク等を20~30分ごとにカップ1~2杯飲むことが望ましいとされています。
④ 服
装
服装は透湿性・通気性の良い服装(クールジェケット等)を着用や、通気性の良い帽子
やヘルメット(クールヘルメット等)を着用するほか、後部に日避けのたれ布を取り付け
て輻射熱を遮ることを考慮してください。
⑤ 巡
視
作業中は、作業従事者の健康状態に異常がないかどうかを確認するため、現場責任者に
よる巡視を行うほか、複数の作業者がいる場合には、作業従事者同士で声を掛け合う等、
相互の健康状態に留意させてください。
(6)健康管理
① 健康診断結果等による配慮
疾病を持っている作業従事者は、その疾病について熱中症に留意する必要があるか主治
医と相談するとともに、対応が必要な場合には現場責任者に申し出て、それをふまえた従
事作業の短縮や変更が必要です。
熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病
・糖尿病
自覚症状はなくても血糖値が上げっていることが多く、十分な水分補強がないまま知ら
ないうちに脱水症状になっている可能性があります。
・高血圧症・心臓病
高血圧症や心疾患で治療している薬には利尿剤を含むものがあり、脱水症状に陥りやす
いほか、ナトリウムも排泄されること、水分や塩分の制限がある病態もあることから、熱
中症になりやすくなります。また、血管を広げる薬を内服している場合、軽度の脱水症状
でも立ちくらみ等を起こしやすくなります。
7
・腎臓病
慢性腎不全では、水分や塩分の排泄量のコントロールが不適切になることがあります。
・皮膚疾患
広範囲な皮膚疾患があると発汗がうまくいかず、体温調節に支障をきたすことがありま
す。
・精神疾患
自律神経のコントロールがうまくいかないと体温調節に支障をきたし、自立神経に影響
のある薬を内服していると発汗や体温調節が阻害されることがあります。
② 日常の健康管理
作業従事者が睡眠不足、体調不良、前日の飲酒、朝食の未摂取、発熱、下痢等の場合、
熱中症の発症に影響を与えるおそれがあります。表-5熱中症に関する健康状態自己チェ
ックシート(例)を参考に、作業従事者は自分の健康状態を日々チェックしてください。
現場責任者は、作業従事者に対して日常の健康管理について指導するほか、作業開始前
や巡回時に、作業従事者の皆さんの体調に十分気を配り熱中症の発症に影響するような状
態が顕著にみられる作業従事者については、作業場所や作業時間、内容の変更を検討して
ください。
体調管理
・風邪気味、下痢やおう嘔吐
発汗や呼吸で身体の水分が減少し脱水症状になりやすく、下痢や嘔吐で身体に必要な水
分や塩分が失われてしまいます。これらの体調不良時は体内の水分やえんぶんが喪失する
ため、脱水症状が著しくなり熱中症になりやすくなります。
・前日の飲酒
前日に飲酒が多かった場合は普段より脱水症状になっているため、十分な注意が必要で
す。
・朝食抜き
起床時には一時脱水症状になっているため、起床後に十分な水分の補給が必要です。朝
食で水分や塩分を補うと汗も出やすく体温を下げる効果があり、失われた塩分を補うこと
になります。夏バテで朝食を摂らない傾向がみられますが、熱中症リスクの高い作業に従
事している場合は必ず朝食をとりましょう。
・寝不足
身体の体温コントロール機能が低下し熱中症になりやすくなります。眠気防止のため、
コーヒー・紅茶・緑茶などカフェインを含む飲み物を飲むと、利尿作用で脱水症状を起し
やすくなります。
8
表-5
熱中症に関する健康状態自己チェックシート(例)
工事件名:
所属会社:
工事場所:
氏
名:
従事期間:
性
別:
年齢:
歳
作業に従事する方が各自で毎日チェックするシートです。朝礼時と休憩時に各自がチェック
してください。
休憩時にチェックで異常が見られたら職長に報告してください。
職長は、各作業員の状況やチェックを見て、早めの対応をしてください。
熱中症へのなりやすさ
確
認
日
平成
既往症
入 場
時
1
高齢者(65 歳以上)
有・無
4
肥満である
2
心筋梗塞・狭心症
有・無
5
その他(
3
高血圧
有・無
6
熱中症歴
年
月
日
有・無
)
有・無
有・無
従前の作業場所、内容
1週間の自己チェック
症
朝
礼
状
時
7
風邪を引いている
8
下痢をしている
9
二日酔いである
10
朝食を食べなかった
11
寝不足である
休
重症度Ⅰ
症状の有無
/
AM
/
PM
AM
/
PM
AM
/
PM
AM
憩
重症度Ⅱ
時
重症度Ⅲの
状 態 発生
12
めまい、立ちくらみがする
13
汗がとまらない
14
手足や身体の一部がつる
15
頭がズキンズキンと痛む
16
吐き気がする
17
身体がだるい
18
判断力・集中力が低下
19
意識がない
発生時刻:
状
況:
20
身体がけいれんする
発生時刻:
状
況:
21
体温が高い(体温・脈拍) 発生時刻:
状
況:
22
呼びかけに反応していない
発生時刻:
状
況:
23
まっすぐに歩けない走れない
発生時刻:
状
況:
応急処置の内容(
/
PM
AM
/
PM
AM
PM
)
熱中症の疑いがある場合は、速やかに医師の診断を受けてください。
③ 労働衛生教育
作業従事者に対して、熱中症の症状や熱中症の予防方法、緊急時の応急処置等について、
労働衛生教育を繰り返し行うとともに、教育内容の実践について、日々の注意喚起を図っ
てください。
9
4.熱中症の応急措置
(1)熱中症の発生に備え、現場で事前に準備すべきこと
応急措置、救急措置のために、現場にはあらかじめ熱中症の発生に備えた準備が必要です。
① 熱中症が起こり得る、熱中症になったかもしれないという意識
現場作業では、自分や同僚が熱中症になっていないかという意識を持ち、自分や同僚の
体調がおかしいと思ったときに、自発的に現場責任者に申し出ることを全員で確認するこ
とが必要です。
② 熱中症の発生を考慮した緊急連絡体制の構築
緊急連絡体制においては、熱中症が発生した場合の対応を予め組み込んでおくことが必
要です。
③ 涼しく横になれる休憩所、身体を冷やす物品・設備の設置
熱中症が発生した場合に現場には涼しく横になれる休憩場所を設けるとともに、塩分を
含んだ冷たい飲み物や保冷材などの応急用の物品をあらかじめ準備しておくことが必要
です。
(2)作業現場での応急措置
現場における応急措置については、厚生労働省「現場における熱中症予防対策マニュアル」
には下記のように記載されています。なお、応急措置で回復しても、念のため医療機関を受
診しておくことが必要です。
職場における熱中症予防対応マニュアル
まずは意識を確認します。例えば「今日は何月何日ですか」、「今は何時頃ですか」「あな
たの名前は何ですか」、
「私は誰ですか」、
「ここはどこですか」などの質問にきちっとした「受
け答え」が出来れば「意識が清明である」と判断できます。
一つでも明確に答えなければ、「意識がおかしい」と判断し、重篤なⅢ度の熱中症として
取り扱います。この場合には直ぐに救急隊を要請します。
意識が清明であっても、救急隊を呼んだ場合でも、まずは①涼しい場所に移し、②脱衣と
冷却を開始します。具体的には①と②のようにします。
①
暑い現場から涼しい日陰か冷房の効いている部屋などへ移します。
②
衣服を脱がせて、身体からの熱の放散を助けます。加えて、露出させた皮膚・体に水
をかけ、うちわ、扇風機などの風にあてます。氷嚢などがあれば、それを首、脇の下、
足の付け根に当てます。
そこには太い血管が皮膚の表面近くを走っており、血液を冷やす。すなわち全身の冷
却に効果的であるからです。寝かせた状態では下肢を持ち上げて下肢に分布する血液を
より多く体の“内部”に集めます。意識清明でない時には、救急隊が到着する前から早々
にこれらの方法を開始する必要があります。
10
意識が清明な場合で上記の①、②を行いながら、水分を自力で摂取できるかどうかを判断
します。ここで、嘔気があったり、また実際に胃の内容物を吐いたりしている場合には、
「水
分を摂取できない」と判断します。
この場合には医療機関の点滴による水分補給を考える必要があります。ここで、救急隊の
要請を検討します。
嘔気、嘔吐がなく、自力で水分を摂取できるなら、水分を与えます。具体的な方法は次の
③に示すとおりです。
③
冷たい麦茶やジュース、氷水などを与えます。
作業をしていた状態では水分のみならず塩分も失われているとみなして、塩分を含んだ
スポーツドリンクや経口補水液を与えるのが簡便な方法ですが、500ml の水に食塩ない
し市販の塩化ナトリウム錠剤(1錠 0.5g)で塩水を作って与えてもかまいません。
ここでは、誰かが付き添って、患者を見守ることが重要です。もし、体調が回復しな
い、悪化するなどあれば、やはり医療機関に運びます。医療機関への搬送のために救急
車を呼ぶことについては躊躇するに及びません。少しでもおかしい、腑に落ちないと感
じれば救急隊を要請すべきです。
(図-1)
また、塩分を摂取させた後に、嘔吐することもないとは言えません。そのような場合
には体と顔を横に向けて、嘔吐した水分などの気道(のどから気管)に流れ込む(誤嚥
する)ことがないように注意する必要があります。
11
図-1
熱中症の応急措置(現場での応急処置)
熱中症を疑う
症状の有無
熱中症を疑う症状には
表-1「熱中症の症状と分類」を参照のこと
有
意識の確認
救急隊要請
意識がない
呼びかけに応じない
意識は清明である
返事がおかしい
全身が痛いなど
①
涼しい環境への避難
①
涼しい環境への避難
②
脱衣と冷却
②
脱衣と冷却
水分を自分で
摂取できるか
医療機関へ搬送
水分を自分で摂取
できない
水分を摂取できる
③
水分・塩分の摂取
回復する
※
回復しない
上記以外にも体調が悪化するなどの場合には、必要に応じて救急隊を要請するなどにより、医療
機関へ搬送することが必要である。
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