米国 vs.中国 vs.欧州 vs.日本?

情報提供資料
GSAM 会長
2012年12月
ジム・オニールの視点
2013 年のテーマ。米国 vs.中国 vs.欧州 vs.日本?
今年もあと数週間を残すこととなり、私も皆さんの仲間入りをして、2013年について考えるべき最も興味深い投
資テーマと、どのあたりに強いパフォーマンスの源泉がありそうか考えてみたいと思います。
過去12ヵ月というもの、そして実は過去2年間の大半の時期は、少なくともマクロ経済に関して言えば、2つのこ
とが投資家心理を支配してきました。1つは米国、もう1つは欧州、特にユーロ圏です。時折思うのは、この2つ
の地域については、分析がこれ以上ないほど行われているので、何か新しい見方を付け加える余地がないのでは
ないかということです。しかし、もし誰かが相当有用な基準を持っており、特にそれが「一般的な見方」とは違
う判断を下すようであれば、彼らの見方は価値を持つのではと時には思ったりもします。2013年について言えば、
米国と欧州に関して、いくつかの面で後者のケースが当てはまるかと思っています。というのは、米国株式市場
の上昇があっても、米国は2009年以降の時期程は興味深いものには思えません。一方で、多くの見方がいまだに
弱気であるため、欧州には確実に興味が持てるのです。そして、この二地域以上に、中国の方が、ずっと興味深
いと思っています。特に、その世界経済に及ぼす影響は、多くの人々が理解するよりはずっと大きいと思えるか
らです。さらにこれに加えて、実は日本が最も興味深く注目すべき存在であると考えています。もちろん、今週
の日本の選挙結果がこの当否のカギとなります。これについては、後述致しましょう。
2012 年を手短に振返る
2013年の話に戻る前に、そして先週の興味深い出来事についてご紹介する前に、2012年を振返ってみます。
世界経済の成長は、多くの期待に比べて、多かれ少なかれやや弱いものとなりました。私の予想も、もっと強め
のものでした。とはいえ、大きく下振れする懸念は回避されました。
4万フィートの上空から見ると、今年の主要な展開は、米国と中国が比較的無傷の状態であったことだと言える
でしょう。この世界の二大経済大国どちらもが大きな課題を抱えているにも拘らず、いずれにおいても今後良い
展開がありそうなシグナルが見えています。
中国はここまでのところ、「ソフトランディング」の状態に到達した状態で(あまりにも単純化された表現で、
そう結論づけるには時期尚早ではありますが、今のところは優勢な見方です)、景気は第3四半期の半ば頃に底入
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れしたように思われます。そして、2013年の景気を占うスタートの基準値としては、GDP実質成長率7.5〜8.0%
といったところが妥当と思われます。より重要な点は、国際収支の黒字がGDP対比で、現在「ほんの」3%程度
となっており、個人消費がGDPに占める割合を増しており、また新指導部が主張していることが、少なくとも変
革という面においては、的を射たものとなっていることです。今週行われた新リーダー習総書記の広州への象徴
的な訪問に注目しましょう。
米国では、多くが「財政の崖」に注目する中、木曜日付けのフィナンシャル・タイムズでミッタル・スチールCEO
のラクシュミー・ミッタル氏が、「米国の民間部門は回復しつつある住宅市場の恩恵をますます享けつつあり、
同様に、米国内のエネルギー市場は、極めて大きな変化を遂げつつある」と指摘しました。経常収支は、中国程
の規模での改善は見られないものの、2009年以降の改善傾向を維持しています。エネルギー開発と同様に、この
点は、多くの懐疑派が考えつくこともできなかったような重要なプラスの展開です。米国の対外不均衡という問
題は、構造的に良い方向に推移してきたと自信を持って言えるのではないでしょうか。
もちろん、多くの問題が未解決であることも事実です。「財政の崖」以外の問題点については後述しましょう。
この他の地域で極めて重要だと思われるのは、2012年の欧州通貨同盟が、最も悲観的な考え方に染まった多くの
人が覚悟しなければならないと思った状態よりは、ずっと良い状態で生き延びたこと、そしてもちろん、加盟国
がすべて無事だったことでしょう。ユーロ圏経済は、コンセンサス予測よりも深刻な景気後退に陥ったものの、
今年の金融市場のパフォーマンスは、以前より良好なものとなりました。この展開は、私にとっては想定内のこ
とでした。特に、欧州中央銀行(ECB)が「ユーロのリスクプレミアムを下げるために必要なことは何でもする
用意がある」とした「スーパー・マリオ」発言が7月にあったことで、そう確信していました。もし、
「年間最優
秀政策賞」があったとしたら、受賞者は間違いなくマリオ・ドラギECB議長だったでしょう。
米国や中国について、「未解決の問題がある」とすれば、この「未解決な問題がある」という表現は、ユーロ圏
については、あまりに控えめなものです。これについても、後述します。
世界のこの他の地域について申し上げると、おそらく最も重要な経済事象は、中東での大きな混乱にも拘らず、
石油価格が下がってきていることでしょう。これは、私が数年前から気付いていたことに対する認識が広まって
きたせいだと思います。つまり、おそらく需給関係が良い方向に変化しつつあること、過去10年間絶え間なく続
いた原油価格の上昇が少なくとも終わりの兆候を見せており、もしかしたら反対に下落を始める可能性があると
いうことです。このことは、エネルギー輸入国にとって、極めて嬉しい知らせでしょう。
国によっては、2012年は、忘れてしまいたい年かもしれません。BRIC諸国の中では、ブラジルとインドがこれ
に当てはまります。英国ももちろんそうです。しかし、その他の多くの新興国に属する国々にとっては、2012
年も、良い年であったと言えるでしょう。「正しいこと」を行おうとすれば誰にも頼らずに自分で実現できた年
だったということです。南米諸国、アフリカ、ユーロ圏以外の欧州の一部、そしてもちろんアジアが、こうした
地域でした。これら諸大陸、そして当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを指しま
す)で言うN-11 (ネクスト・イレブン)諸国の多くにとっては、2012年は、良い思い出の残る年となるでしょ
う。
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総じて言えば、今年は、少なくとも経済面では多くの課題に遭遇した年ではありましたが、多くの地域では、力
強い株式市場の力でこれをしっかりと乗り越えた年でもありました。
ナイジェリア:ラゴス版「モノポリー」
新興国の重要性がますます高まっていることの見事な象徴として、何人かの方が今週eメールを送って下さった
のですが、それに添付されていたYou tubeのクリップによれば、ナイジェリアで人口最大都市であるラゴスが、
あの有名なボードゲーム「モノポリー」の題材となったとのことでした。何と素晴らしいニュースでしょう。
他の N-11 諸国に関する希望に満ちた楽しい話題あれこれ
メキシコは、当社でマクロ面から高く評価している国ですが、今週はフィナンシャル・タイムズで盛んに採り上
げられたため、ほんの一瞬ですが、我々が思っている以上に状況が進展しているのかと思いました。しかしなが
ら、当社のサム・フィンケルスタインと5分程話をしたところ、正しい状況が分かりました。メキシコは、着実
に成長を続けています。そして、もしペニャ・ニエト大統領が国営の石油とガス事業についての改革を完遂する
ことができれば、それは大変な功績となるでしょう。
フィリピンについては、私も何度か触れましたが、最近他のところで話題になっていました。今週の日経の週刊
英字新聞雑誌「日経ウィークリー」には、フィリピンの経済発展についてかなりの紙面が割かれ、第3四半期に
7.1%を記録したGDP成長率が強い内需に支えられていることや、民主主義が定着してきていることを示すデー
タについて触れられていました。
先週は、インドにとっては、やや良い1週間となりました。10月の工業生産指数も、前年同期比+8.2%と、予想
をはるかに上回りました。
今週は、ロシアに関する興味深い情報が飛び交っています。資本の流出を抑える一方で、より多くの海外資本を
誘致するというものです。プーチン大統領が、ロシアから資本が逃避していることについての懸念を演説で強く
訴え、興味深いことに、資本流出抑制についても、外資の導入についても、具体的なステップが示されました。
私よりも情報通の方からの話では、このどちらをも容易に実現する方法があるのだそうです。そして、そうした
方法として、より信頼のおけるビジネス関連法規や所有権に関するルールも考えられているようです。
最新の先進国経済データ
先週は、いわゆる先進国からの重要なデータの発表という意味では、静かな1週間でした。ただし、いくつかの
興味深い情報がありました。
もし米国の中小企業における信頼感の大きな低下が「財政の崖」による経済停滞への何らかの抵抗表現であると
いう希望を持てるなら良いのですが、そうでなければ、誰にとっても気になることです。実際、全米独立企業連
盟(NFIB)が発表した中小企業楽観指数は93.1%から87.5%へと低下し、数年間の上昇を一挙に打ち消すかたち
となりました。非常に奇異、かつ心配な動きです。
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こうした中にあって、最新の週次新規失業保険申請件数は、かなり健全で前向きな低下を見せ、これが経済の実
態を示すものであれば、米国経済楽観論をさらに裏付けるものとなります。
最新の米国貿易収支は、10月に若干の悪化を示しましたが、以前ご紹介したこととの関連で申し上げると、1月
から10月では4,522億5千万米ドルと、2011年同時期の4,593億米ドルからは減少しています。過去の米国の状況
と比較すると、貿易収支を安定させながら国内の成長が達成されているわけで、大きな成果であると考えられま
す。
ここ英国では、再度我々を混乱させるかのように、最近発表された予想を大きく下回るデータの発表後、今度は
かなり好調な雇用統計が発表されました。昨今の英国は極めて生産性が低いのか、あるいは、他のデータが単に
間違っているのかのいずれかです。こうした状況では、英国のデータの一貫性に信頼を置くわけにはいきません。
しかも、このことは、先週ご紹介した英国の政策立案に関わるハンディキャップとはまったく関係のないことで
す。
おそらく驚くには当たらないのでしょうが、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、先週木曜日に英国債
の格付け見通しを引き下げ、実質GDP成長率の回復が市場の予想を上回らなければ、格下げの可能性有りとしま
した。このことは、2013年に現実になるかもしれません。
日本では、金曜日に日銀短観が発表され、予想を下回って弱い結果となりました。これで、選挙後には、日銀に
対する金融緩和圧力がさらに強まることでしょう。
名目 GDP ターゲットは、「新しいこと」?
米連邦公開市場委員会(FOMC)は、水曜日に最新の政策ステップを発表し、興味深いことに、現在の超低金利
政策を一定期限まで継続するという指針から、経済状況によって引上げ期限を決定するという指針への転換を行
いました。もう1つ興味深かったのは、市場があまり反応しなかったことです。これは、連邦準備制度理事会(FRB)
が、ここ数週間で、市場がこの変更への準備を行うよう巧妙に仕掛けたということを意味すると思われます。FRB
の新たな指針には、3つの主要ポイントがあります。(1)失業率が6.5%に低下すること(2)FRBの向こう1〜2
年の予測において、インフレ率が2.5%を上回らないこと(3)そして私が重要と考える点ですが、長期のインフ
レ予測が十分に安定していることです。
私はこれを、米国流の名目GDPターゲットに向かうためのさらなるステップであり、バーナンキ議長/イエレン
副議長/ダドリーニューヨーク連銀総裁体制下での一定の方向性を示すものと解釈します。こう考えると、米国
の景気回復に対して楽観的になれます。
興味深いことに、また英国にとって希望を与えたのは、イングランド銀行(英中央銀行)の次期総裁であるマー
ク・カーニー氏がスピーチを行い、政策目標に名目GDPの導入を支持すると表明したことです。このスピーチは
新聞紙面を飾ったのですが、私は、これで彼の就任日に、すべての英国内の問題が解決するのではないかと思い
ました。新総裁の輝きがあまりに増しているので、就任前に人々の期待を小さくしておく必要があるのではない
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かと思います。同時に、彼の就任は、先週ご紹介した通り、一服の清涼剤のように受け止められると思われます
ので、彼が有用で、信頼できる英国の長期インフレ期待値に関する調査データを手に入れることができれば、名
目GDPターゲットがより良いインフレターゲットとなり得るのではないでしょうか(もちろん、金融環境指数の
ようなもので補完される必要はありますが)。あるいは、カーニー新総裁がイングランド銀行での仕事にすぐに
飽きてしまったら、次期チェルシー監督になってもらいましょう。
2013 年以降を展望する:先行指標を使って
経済や金融の予測する者として、そして当社での現在の役割の中で、私は多くの客観的指標を使って世界の景気
循環や主要国の行方を判断しようとしてきました。2008年、そして特に2009年初め頃には、3つの指標を組み合
わせることで、金融危機後の最悪シナリオがどう展開するだろうかを考えてきました。3つの指標とは、GS金融
ストレス指数、GSグローバル先行指標(GLI)、GS OECD金融環境指数(FCI)です。
2013年について見ると、この3つの指標がすべて明るい見通しを示しており、楽観的な見方にとって特に重要な
OECD FCI(原油価格調整済)は、特に良い傾向を示しています。最新の指数を最終ページに添付致しました。
下方に向かう線がグッドニュースで、特に原油価格調査済のものが有用です。これらの指標、特に原油価格調整
済FCIを見ると、もし何かあるとすれば、2013年の世界GDPのリスクは、かなり上方リスクであることが分かり
ます。ただし、さまざまな場所で、繰り返しあるいは同時に、多くの人々が言っている最悪の事態が起こった場
合は、この限りにあらずです。
米国と欧州
11月のViewpointsで、2013年と2014年の予測について触れた際に、米国の景気回復が予測を上回る可能性を指
摘しました。しかし、これは、「財政の崖」に関する何らかの合意を前提としています。当社が正しいとすれば、
当社が好んで使用しているバリュエーションモデルを使うと、米国株式について強い確信を持てるわけではあり
ません。ただ、「財政の崖」に関わる合意がなされた後は、株式市場のかなりの上昇が見込まれます。しかし、
その上昇がその価格水準から大きくかつ継続的なもので、景気循環調整済み株価収益率(CAPE)のバリュエー
ションといった大きなリスクプレミアムを正当化するようなものになるためには、「財政の崖」に関わる合意が
必要で、しかもその合意は、財政に関わる問題がすべて解決し、それが景気回復に対して何らマイナス影響も及
ぼさないのだという確信を与えるようなものである必要があります。
もし米国の景気回復が予想を上回る強いものであるとすれば、米ドルに対しては緩やかな支援材料(ただし、対
円では「緩やか」以上のインパクトが予想されます)、米国債にとってはマイナス材料になると思われます。
米国vs.欧州について述べれば、ゴールドマン・サックスの株式担当トニー・パスカリエロが私にくれた興味深い
情報によると、1975年以来、カリフォルニア州からだけでグローバルFTSE500種株価指数に26社が追加されて
いる一方で、ユーロ圏からの追加はわずか1社だそうです。これは驚きでした。しかし、現在のバリュエーショ
ンと収益予想を使った場合には、こうした大きな乖離は2013年には起こらないのではないでしょうか。
ユーロ圏については、今年の夏以来私が考えている通り、株式市場は極めて魅力的であると今も思っています。
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それは、夏以来の強い株価上昇の後であっても変わりません。多くの国の国内市場や業種は魅力的に見えますし、
夏以来のECBの政策スタンスが変わらなければ、そしてドイツが「ヨーロッパ合衆国」的ビジョンを推し進めよ
うとする限り、割安銘柄への投資や、広い意味でのコンバージェンス・トレード(異なる証券取引所に上場して
いる同一銘柄株式の価格差を狙う取引)を考えるのは、まだ理にかなっていると思います。先に述べましたよう
に、ドラギ議長による宣言によって、債券投資家の姿勢は、「グッドニュースを打ち消す」から「バッドニュー
スを欲しがる」に一転したものと思われます。
今週も、欧州のメディアにはさまざまな見出しがありましたが、中でも注目されたのは、おそらくイタリアでの
ベルルスコーニ前首相復帰のニュースでしょう。彼が政権に復帰するなど真面目に考えられませんが、もしそう
したなら、そのことについて少し考えてみる必要があります。おそらく政治的駆け引きにすぎないと思いますが、
それはそれとして、市場にとって、この話が重要性を持つとはとても思えません。
さまざまなマスコミ筋から銀行規制に関する欧州連合内での取り決めがすでに行われたと耳にしました。この取
り決めによって欧州地域の単一の規制当局に対しゴーサインを出す国々にはそれを、またそれを望まない国(ス
ウェーデンと英国)には、ゴーサインを拒否することが許されることとなります。話を総合すると、ECBが英国
とスウェーデンを除く欧州連合内の最重要200行を監督することになりそうです。注目すべきことに、この合意
に対して「まだ合意していない」と申し出ている国がないようなのです。
2013年のユーロ/米ドルの為替レートについては、引き続き上下を繰り返しそうです。この展開には、さしたる
興味も持ち得ませんが、大方のレンジをお示しすると、2013年は、1.21から1.38で取引されると予測します。
中国そして成長国(グロース・マーケッツ)および N-11 諸国
先週ご紹介した通り、BRICsの成長神話はすでに終わったと考えるのが流行となっているようです。こうした流
れを見ていると、もし中国の景気が回復に向かえば、BRICsをテーマにした投資を行うには非常に良い時期が再
び巡ってくるという確信が深まります。そして、それにはもちろん、何らかのかたちでの中国株投資が含まれて
います。しかし、ここ数カ月中国について述べてきました通り、「新」中国が出現しつつある今、投資は一筋縄
ではいかないということを強く思います。
11月の中国に関わる経済金融データは先週末ないしは今週初めにすべて発表されました。総じて言えば、データ
は「ソフトランディング・シナリオ」を裏付けています。鉱工業生産は10%超の水準に戻り、小売売上高は、名
目でも実質でも予想を上回りました(引き続き好調です)。そして、中国の貿易黒字は、予想を下回りました。
これは、グッドニュースだと思います。マネーサプライM2(現金、預金、準通貨)の伸びは予想をやや下回っ
てプラス13.9%で、これにはやや留意する必要があるものの、全体として見れば前向きのデータが多い状況でし
た。
すでに申し上げました通り、新たに就任する習総書記は、広州への象徴的な訪問を行いました。中国の政治に詳
しい方に聴いた話では、この訪問は間違いなく優先的に改革を進めることへのコミットメントを示すための意図
的な行動であるとのことです。たまたま在英中国大使によるプレゼンテーションに出席することができました。
話の中味は新指導部の優先事項についてでしたが、その中で大使は、経済目標は、量ではなく「質」を伴う成長
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であるべきこと、そしてその中で、2020年までに一人当たりGDPを倍増することと環境保護へのコミットメン
トについて述べられたことが印象に残りました。
中国の市場は、この2週間ほどは、好調を維持しました。今後、より大きな上昇が見られるのか注目ですが、も
しそうなったとしても、驚くには当たらないと思っています。
「グロース・マーケッツ」のほとんどの国の株式バリュエーションは、当社の保守的な推定によっても、非常に
魅力的な水準です。また、日本と欧州については、2013年にこの両市場のパフォーマンスが米国を上回る可能性
が非常に高いと見ています。
日本、円そして日本の資産市場
さて、今週は、安倍氏と自民党が週明けには政権の主導権を握るという世論調査を受け、FOMCの影響もものと
もせず、さらに円安が進みました。この議論はもう何回も繰り返されているのですが、今週はさらにこれが話題
に上ることが多くなってきました。私の話した相手の中にはかつて為替予測をやっていたころの親しい友人もい
ました。多くの人々は、円のことをよく理解している人たちだと思うのですが、実際にこのまま円安が進むとは
考えていないようでした。彼らが上げた理由は、2つでした。1つは、安倍氏がメディアの注目を集めそうなコメ
ントをさかんに行っても、元来保守的な日本では、日銀がインフレターゲットを、「目標」ではなく「目安」と
し続けることが容認されるだろう、2つめは、これと関連して、それぞれの政策目的や希望があるため、日本が
過度に円安を進めることを他国政府が「許さない」だろう、ということです。こうしたコメントを聴きながら、
多少懸念は持ちながらも、(その立場になる=選挙で勝つという前提で)安倍氏主導の自民党の政策を見て、多
くの人が見方を変える可能性があるのだと思いました。
この2つの論点のうち、後者については、今週日本の官僚と話をする機会がありました。非常に率直な話し合い
だったと思います。同じ円安といっても、介入によって起きるものと、ファンダメンタルズや市場の動向による
ものには、大きな違いがあります。特に米国については、為替に関する公式な政策は、市場に価格を決めさせる
ことであり、また、中央銀行が量的緩和によって国内経済を刺激することを好む国であることから、日本政府が
採る政策の結果として起きる円安に異を唱えることは考えにくいと思われます。また、第1の点に関しては、日
本の過去に対しやや同情的な気持ちを持っています。しかし、間違いなく安倍氏とその側近たちが実行したいと
思っているのは、国民の国に対する誇りを取り戻すことでしょう。(この誇りがあるからこそ、中国との領土論
争が起こり、強い自民党政権になれば、それが復活するのでしょう)
日本の市場と円の関係について言えば、今のところ、円安になれば、貿易主導の上昇をにらんで日経平均を買い
たいというのが、広く市場に浸透している考え方です。しかし、私の同僚、ジェームズ・リスデールが指摘した
のは、新たな国内的ファンダメンタルズのために円安になるとすれば、そして投資家がそうなる確率が高いと見
れば、国内株式市場でさらに注目すべき大きな動きが出てくるかもしれないと言うことです。特に、ずっと続い
ていたデフレの恐怖が終わることで、そのメリットを享ける投資家の動きが出てくる可能性があるという見解で
す。こうしたことが起こってくれば、おそらく国内の資産配分にも多くの変化がもたらされるのではないでしょ
うか。
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ともかくも、今後非常に刺激的な展開になる可能性があると思われますし、繰り返しになりますが、円の動きは、
非対称的になると思えます。(ただし、今週円安に動いたとは言え、先週、あるいは2週間前の同じ時期に比べ
ると、非対称な度合いがやや小さくなっています。)可能性としては、安倍氏が敗れれば、再び1米ドル78〜79
円に戻る可能性はあると思います。あるいは、何らかの理由で、彼が大幅にこれまでの主張をトーンダウンさせ
る場合も、そうなる可能性があります。こうした背景の中、安倍氏が勝ち、計画を実行に移せば、間もなく88円
の水準に達する可能性があると思います。そしてさらに、以前ご紹介した通り米国の景気回復が予想を超えて進
めば、今後12〜24ヵ月の間に100〜120円という水準に達することも考えられると思います。
サッカー
大好きな話題を語らずしてこの稿を終えることができません。先週の日曜日は、たまたま、マンチェスター・シ
ティのオーナーや首脳の席近くに座ることとなりました。そこで非常によくわかったことは、彼らが持っている
素晴らしい将来計画です。マンチェスター・ユナイテッドのファンとしては、若干嫉妬を感じる程でした。それ
はそれとして、ロビン・ファン・ペルシーが決勝点を入れたときは、何と嬉しかったことでしょう。そして、アー
セナルFCファンの皆さん、もう一人の元アーセナル選手の発言には賛同したことでしょう。(訳者注:元アーセ
ナル選手であり監督であったアルセーヌ・ヴェンゲル氏がアーセナルが勝つためには優れた選手が必要と発言し
たことについて)
ともかく、「我々はトロフィーを奪還したい!」のです。
来週のViewpointsが、2012年の最終号となります。お喜びの方もいらっしゃるのでは。 ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:12 月 14 日)
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本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、GSグローバル・イ
ンベストメント・リサーチ(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいか
なる部署・部門の視点を反映するものではありません。本資料はGSグローバル・インベストメント・リサーチ
が発行したものではありません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ
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