新エネルギー・先端的基礎研究 Fe(Se0.5Te0.5)超伝導薄膜のホール効果 背 景 2008 年初頭に発見された鉄系超伝導体の中で、FeSe 系超伝導体(図1)は、静水圧下でバルク結晶の超伝導転移温度 Tc が 36.7K まで上昇し、薄膜結晶では更なる Tc の上昇が期待される。同材料の薄膜化にいち早く取り組んだ結果、Te で 一部置換した Fe(Se0.5Te0.5)組成において超伝導を示す薄膜を得る事に成功した。1) 目 的 Fe(Se0.5Te0.5)薄膜の電子状態を調べる目的で、抵抗率とホール効果を 2K から 300K の範囲で測定し、超伝導転移温 度 Tc との相関について議論した。2) 主な成果 条件やターゲット組成を変えて成長した計 8 枚の Fe(Se0.5Te0.5)薄膜試料(表1)に対して以下の結果を得た。 ① 抵抗率測定の結果、8 試料はその温度依存性により大別して(A)金属的、(B)中間的、(C)半導体的、の 3 種類に区別 でき、この順に Tc が低下することがわかった(図2)。 ② ホール効果測定の結果、室温付近ではすべての試料において正のホール係数を示し、上記分類によらず正孔が支 配的であることが示唆された(図3)。一方低温では、上記分類に対応する形で、低温の抵抗率の上昇傾向とホール 係数の正の方向への発散の大きさの対応が見出された。 ③ ホール係数と超伝導転移温度 Tc との関係について強い相関を見出した。 高 Tc 試料では、ホール係数は室温から 100K 近くまでほぼ一定の正の値をとり続け、その後低温で急激に減少 して Tc に達する前に負の値に転じる。(図3(a)) 低 Tc 試料では、250K あたりから徐々にホール係数が小さくなり 60K 付近で極小値を持った後、再び低温にかけ て正の方向へ戻る。(図3(b),(c)) ④ ホール係数が符号反転する金属的試料において、ホール抵抗の磁場依存性に非線形性を観測した。2キャリアモデ ルでフィットすることが可能であることを見出し(図4)、電子密度と正孔密度の差を求めることができた。 ⑤ 20K において n-p = 1.44 x 1022 cm-3。(n と p は電子密度および正孔密度) 30K において n-p = 3.38 x 1022 cm-3。(n と p は電子密度および正孔密度) 以上の結果から、FeSe 系超伝導体において高 Tc を実現するための必要条件が、電子キャリアの増大/正孔キャリア の抑制にあることが強く示唆された。 なお、本研究は、科学技術振興機構からの受託研究(JST-TRIP)として実施した。 今後の展開 基板材料や成長条件の範囲を広げてさらに Fe(Se1-xTex)薄膜成長を推し進め、バンド計算の結果と電子輸送現象のデー タを比較検討しながら、50K を超える Tc の実現を目指すと同時に、素子応用や線材応用の可能性を検討する。 主担当者 材料科学研究所 先進機能材料領域 上席研究員 塚田 一郎 関連論文 1) I. Tsukada et al., 「Superconductivity of FeSe0.5Te0.5 Thin Films Grown by Pulsed Laser Deposition」 Japanese Journal of Applied Physics 49 (2010) 023101; Physical Review B 81 (2010) 054515. 2) I. Tsukada et al.,「Hall effect in superconducting Fe(Se0.5Te0.5) thin films」 機能性酸化物 表1 測定した 8 枚の Fe(Se0.5Te0.5)薄膜の試料諸元。 試料名 基板 Tc [K] 膜厚 [nm] タイプ Sample A MgO (100) 9.2 55 (A) Sample B MgO (100) 8.8 164 (B) Sample C MgO (100) 4.6 135 (B) Sample D LaSrAlO4(001) <2 80 (B) Sample E LaSrAlO4(001) 2.0 250 (C) 図1 FeSe 超伝導体の結晶構造。赤 Sample F LaSrAlO4(001) <2 190 (C) が Fe、青が Se を表す。 Sample G MgO (100) 9.4 212 (A) Sample H LaSrAlO4(001) 3.4 348 (B) 図2 抵抗率の温度依存性。赤が金属的試料、青が 中間的、緑が半導体的傾向を示した。Tc はおよその 傾向として赤・青・緑の順に低くなる。 図3 ホール係数の温度依存性。図2に対応して赤 が金属的、青が中間的、緑が半導体的試料。Tc が 低い青や緑は低温で正の方向に増大する一方、Tc が高い赤では 250K 以下でのホール係数の減少が 図4 試料 G のホール抵抗の磁場依存性。20K およ び 30K のデータは2キャリアモデルでフィットできる。 抑制され、低温でホール係数が負に転じる。
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