ラファラン法

委託研究論文
1980年代から90年代にかけて、 医薬品卸売業は激しい再編成の渦中にある。 特に, 90年代後半に
はその再編成の速度が加速するとともに, 業界の勢力関係を根底から揺るがす大型合併も発生して
いる。 その結果, アメリカの卸売業に比べると緩やかではあるが, 上位企業へのシェア集中が進ん
でおり, ある局面ではいわゆる「卸寡占」の兆候もみえる。
卸段階の提携・合併を促進させる一般的な要因は, 市場の伸び悩み (縮小) と競争激化, 生産段
階と小売段階の集中化の動きである。 ただし, 医薬品流通においては, これらに加えて, 公的制度
変更 (薬価引き下げ, R幅の縮小) による流通段階の収益力低下の影響が大きい。 特に, 90年代後
半の卸売業の急速な業績悪化に伴い, 経営不安への対応と流通マージンをめぐる交渉力ポジション
強化の意向が強く示されている。 ただし, 現在の流れは, メーカー, 卸売業, 医療機関を繋いでい
た価値連鎖の鎖 (関係性) をむしろ弱める方向に作用していることは留意すべきである。
90年代以降の激しい流通変化には, 従来とは異なる新しい要因が作用している。 それは, 情報シ
ステムを駆使し販売動向と在庫・物流活動を“同期化”することで全体在庫の最適化を目指す動き
であり, 製販統合あるいはサプライチェーン・マネジメントなどと呼ばれる活動である。 医薬品流
通では, 病院や診療所などの購入が“価格条件”に主として左右され, 大包装単位かつ低頻度発注
を特徴としてきたことから, 在庫や物流コストあるいは物流サービスのあり方への関心は低かった
といえる。 しかし, 医薬分業の進展と調剤薬局の比重の上昇はいわゆる“多頻度小口化”の傾向を
強めさせ, それが医薬品卸の物流システムを撹乱させるようになっている。 物流システムの適否が
医薬品卸の競争の鍵となりつつある。 但し, 患者の症状に合わせた多様な医師の処方と調剤を支え
さらに服薬指導や経過管理なども含む価値実現を保証する必要のある医薬品流通には, 既存のサプ
ライチェーン・モデルでは十分でない。 顧客との関係性維持と顧客理解を柱とした新しい流通マネ
ジメント手法が必要である。
規制緩和の一連の動きが作用して生じたものであ
る。 したがって, 出店規制や免許制など新規参入
を抑制する制度の壁に守られてきた業界ほど公的
制度変更の影響が大きいといえる。 大店法の規制
1990年代は, 日本の流通において大きな構造変
緩和と撤廃 (2000年6月) を背景とした大型スー
化が生じた時代である。 それは, 長引く景気低迷
パー (総合スーパー, 食品スーパー), ホームセ
と価格競争の激化に加えて, 日本市場開放と流通
ンター, ドラッグストア分野における激しい出店
競争は, 価格競争と合わせて主要小売企業の業績
を著しく悪化させている。 さらに, 2000年12月,
医療と社会 Vol.11 №2 2001
世界第8位の小売企業カルフールの日本市場進出
間格差の拡大と優勝劣敗の競争のもとで合併や企
は, 世界的商品調達システムを基盤としたコスト
業間連携による基盤強化を必要とする段階に入っ
競争力を誇る異質な競争相手の登場を意味してお
ている。 ドラッグストア業界の再編成では, 共同
り, 流通関係者の危機感を煽ったといえる 。
仕入れによるメーカーや卸売業への仕入れ交渉力
1)
消費市場の低迷と売上げ減少, 価格競争と利益
の発揮に焦点がある。
率低下, 売り場面積過剰といった現象は, 1960年
小売業における再編成の進展は, アメリカ,
代以降の日本の流通業界が直面した初めての深刻
EU 各国においてより顕著である。 とくに国内市
な事態である。 そのため, 日本の小売業において
場の狭隘さと出店規制の厳しさ (主として土地利
も買収や合併といった再編成の進展も予想されて
用規制と環境規制) を特徴とする EU の小売業は,
いる。 ただし, 百貨店や総合スーパー企業のいく
早い時期から買収・合併による再編成と国外進出
つかは, 業績不振に加えて多額の債務処理の問題
を進めてきた。 先述のカルフールは最も国際化の
を抱えていることから, 再編成は必ずしも容易で
進んだ企業といわれるが, フランスにおける大型
はない。 それに対して, ホームセンターやドラッ
店規制の厳しさ (1996年, ロワイエ法を改正強化
グストアにおいては, 買収・合併や物流共同化な
したラファラン法の成立) により一層合併の動き
どの動きが活発に行われている。 たとえば, 2000
が加速され, ハイパーマーケット分野におけるカ
年7月, ジャスコは提携先のドラッグストア10社
ルフールを含む上位5社のシェアは75%にのぼる。
(ハックキミサワ, ツルハ, クラフト, スギ薬局,
フランスのみならずイギリス, ドイツ, オランダ,
ドラッグイレブン, グリーンクロス・コア, クス
北欧諸国においては, 共通して少数の寡占的小売
リのアオキ, タキヤ商事, ドラッグス, メディカ
業へのシェア集中が進んでいる2)。
ル一光) と仕入れ窓口の一本化を目的として事務
豊かな国内市場を抱え新規参入の盛んなアメリ
局 (イオングループ調剤・ドラッグ連合商品開発
カの小売業においても, 1990年代に入り激しい買
グループ) を設置している。 ジャスコを含む11社
収・合併が繰り返されている。 1998年, スーパー
全体で, 年商4千億円, 店舗数1,150店という一
マーケット分野第2位のクローガーが第7位のフ
大ドラッグストア連合の形成による共同仕入れや
レッドメイヤーを買収している。 さらに, 1999年,
共同商品開発に取り組む意向が示されている。 規
第6位のアルバートソンズが第5位のアメリカン
制緩和と医薬分業への期待を背景として急速に店
ストアーズを買収している。 これらは, オランダ
舗数を伸ばしたドラッグストアであるが, すでに,
のアホールドなど国外小売企業の積極的なアメリ
業態ライフサイクルの成熟期を迎えており, 企業
カ市場進出と, ウォルマートのスーパーセンター
など異分野からの進出に対抗する意図で行われた
1)
1999年の商業統計によるならば, 1997年対比で小売
商店数は0.9%, 年間販売額は2.6%のそれぞれ減少で
あるにも拘らず, 売り場面積は4.6%の増加を示して
いる。 このことが, 多くの大型小売業の深刻な業績
不振の一因である。 日経流通新聞の調査によれば,
99年度の大型小売店舗上位1,000店のうち減収店舗が
全体の82.8%を占めている。 2000年8月中間決算では,
日本チェーンストア協会加盟全国スーパー企業の売
上げは, 前年同期より1393億円の減収となっている。
1960年代以降でこれほど長く厳しい業績不振が続く
のは初めてといえる。
ものである。
2)
日本と同様に相対的に中小小売業の比率の高かった
フランスにおいて, 一気に小売寡占が進んだのは90
年代である。 その主役がハイパーマーケットである。
ハイパーマーケットの急成長に対する危機感がフ
ランスにおける大型店規制強化に結びついている。
1997年におけるハイパーマーケット (上位5社で約
75%シェア) は, 食品販売額の33.8%を占めている
(相原, 2000)。
医薬品流通の構造と変化
アメリカや EU における小売寡占の進展状況に
収益率の低下
比べるならば, 日本の小売業再編成の動きは極め
②小売段階の寡占化の進展, 組織小売業の成長,
て緩やかである。 これは, 大型小売業のオペレー
小売業者の仕入れ交渉力の発揮と業種横断的
ション標準化の程度が低く, 立地確保以外に合併
な一括仕入れへの要求
効果が発揮しにくい状況にあることが反映してい
③新規の情報・物流システム投資の負担増加
る。 ただし, 流通再編成は, 小売段階に先行して
④製販統合 (サプライチェーン) の試みや物流
中間の卸段階で最初に生じるように思われる。 こ
外部化 (専門物流業者利用) による“中抜き”
れは, 生産段階と小売段階の変化に挟撃される卸
(卸排除) への卸売業者の危機感
段階の位置の不安定さによるものであるが, アメ
以上の4要因については, 日本とアメリカにお
リカにおいては, 1980年代から90年代初め, 食品
いて大きな違いはない。 日本の小売業者の脆弱性,
卸や医薬品卸において大型の合併が進み, 少数の
そして見かけの交渉力発揮 (基本的には卸売業者
巨大卸を中心とする卸寡占が成立している。 日本
への機能依存) という点は異なるとしても, 卸売
の卸売業は, これに10年ほど遅れて, 提携や買収・
業者が自らの位置強化をめざして, 提携・合併に
合併を通した激しい再編成の波に洗われたといえ
よる“規模拡大”を進めようとしているのである。
る。
ただし, 日本の卸再編成にはこれらに加えて日
食品卸においては, とくに酒販店免許制の緩和
本独特の要因が作用している。 それは, メーカー
(距離基準および人口基準の段階的緩和, ただし,
主導で構築された流通システムからの“相対的”
2003年9月全廃という当初の予定は不確定) をきっ
な自立化を目指す動きである。 つまり, 卸売業の
かけとして, 総合食品卸と酒類卸との異業種卸間
あり方をメーカー起点 (メーカーの販売代理) か
の提携・合併が積極化している。 この動きの中心
ら需要起点 (顧客の購買代理) へと転換させよう
は, 国分, 菱食の二大食品卸による地域の酒類卸
という流通システム編成の根本的な組替えを意図
の吸収であるが, それに対抗して, 2000年, 小網
するものである。 この方向性は, 卸売業の相対的
(酒類卸第2位) と三友食品 (総合食品卸第8位)
な地盤低下が意識され始めた80年代から卸売業の
の大型合併も行われた。 また, やはり地域卸どう
活路として理念的には提示されていたが, これを
しの提携・合併による集約化が進んでいた石鹸・
明確な戦略方針として再編成を進める有力食品卸
洗剤・化粧品卸においても, 1999年, 中央物産
がその流れを作り出したといえる。
(業界第5位) とチヨカジ (業界第9位) の上位
卸売業の販売代理業から購買代理業への転換
企業どうしの合併が行われている。 90年代後半に
(実現の可能性は別として) を必然的と考えさせ
は, 日本の流通業界も, あくまで卸段階に限られ
る第一の根拠は, オペレーション特性や消費者へ
るが, 大型合併の時代を迎えたといってよい。
のサービス水準の違いを明確に打ち出す小売勢力
の台頭, つまり小売業態の明確化である。 品揃え,
価格水準, 消費者サービス水準, 店舗立地や規模,
ただし, 外見は類似しているとしても, 日本と
営業時間などの違いは, 納入業者に求めるサービ
アメリカの卸段階の再編成にはある本質的な違い
ス (品揃え, 発注単位, 配送頻度とリードタイム,
がある。
流通加工など) の内容と水準の違いに反映される。
卸再編成を加速させていると一般的に考えられ
る要因は次のものである。
①市場の伸び悩みと価格競争の激しさによる卸
すべての顧客に一律の卸サービスを提供していた
日本の卸売業の前提を崩し, 小売業態特性に合わ
せた卸機能発揮の必要性を最初に認識させたのは,
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コンビニエンスストア・チェーンであった。
だし, リベート支払いの増加は, 結果として価格
第二に, 小売業態特性や店舗事情に合わせて異
引き下げの原資となり価格競争を頻発させる一方
なる水準の卸サービスを提供するためには, 取引
で, リベートの目的である販売活動の刺激効果は
先の要求の理解とサービス提供に伴うコストを掌
相対的に低下していた。 1991年に公表された公正
握しておかねばならない。 80年代後半から90年代
取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法
初めにかけて, 小売業者の小口多頻度配送の要求
ガイドライン」を契機として, リベートや建値制
に無原則に対応することで多くの消費財卸が経験
など日本的取引慣行是正への社会的要請が強まっ
した著しいコスト上昇は, その経営のあり方を根
たが, 建値制の動揺やリベート肥大化の矛盾に直
本的に変えることの必要性を認識させたといえる。
面したメーカーからも, リベートの簡素化や建値
そして, このことは, 卸機能をメーカーとの関係
制修正の試みが進められるようになったのである
だけではなく小売業との関係においても再検討す
(山田・大熊・楢崎, 1991, 193-198)3)。
る必要を示唆したのである。
第三に, メーカーの流通関与への姿勢の変化が
ある。
このことは, メーカーの流通に関与する姿勢の
変質ととらえることができる。 つまり, 流通段階
への全面的かつ包括的関与から, 効率を重視した
70年代までは, 日本のメーカーは流通段階への
部分的かつ重点的関与への移行である。 また, メー
積極的な関与を通例としていた。 その狙いは, 乱
カーの競争力を直接的な流通統制力ではなく, 新
売の防止と中間段階の流通在庫の掌握である。 と
製品開発力とブランド力という本来のメーカー機
くに, 卸売業者の経営基盤の脆弱さが, 流通在庫
能に求めるべきとの考え方が強くなっている。
の不透明さとイレギュラーな商品の流れを作り出
POS システムや EOS などの流通情報化の進展に
す最大の要因と考えられたのである。 そのため,
伴い, 従来の取引関係に拠らなくても中間在庫の
多くのメーカーが卸段階への直接進出 (販社設立)
掌握が比較的容易になっていることもある。 業界
や卸売業者の集約化と系列化を実行している。 こ
によってあるいはメーカーの市場地位によって事
の時期に卸段階の系列化に成功したメーカーがそ
情は様々であるが, 従来の流通系列化の有効性に
の市場地位を強固にしえたといえる。
疑念が提示され, その修正と変更が求められてい
しかし, 80年代以降, 緻密に構築されたメーカー
ることは確かである。
の流通系列化に様々な歪みが生じている。 何より
も, 市場の伸び悩みと競争激化のもとで系列メン
このメーカーの姿勢の変化は, 日本の卸売業の
あり方に大きな影響を与えることになる。
バー間の業績格差拡大の問題が大きい。 系列維持
のためには, 業績不振メンバーの支援やてこ入れ
が必要となるが, それは系列維持コストを高める
とともに非効率を温存させることにもなる。 さら
に, 流通系列化の前提である価格体系の一元化と
利益 (流通マージン) 配分の秩序化を保証してき
た建値制の綻びが目立つようになった。 リベート
の多用は, 揺らぎ始めた建値制維持の帰結といえ
る。 本来, 価格体系の事後調整手段としての性格
を有していたリベートが取引条件の中心となり,
リベートが卸経営の収益源とさえなっていた。 た
3)
建値制に基づく価格体系の事後調整手段でありまた
販売協力への報奨としての機能をもつリベートが,
大量取引促進の刺激手段としての性格を強めたこと
が小売段階の価格競争に拍車をかけ, メーカーや卸
の収益を圧迫したといえる。 リベートを完全に廃止
し小売業との直取引も可能な取引体系を導入したP
&G (1999年の新取引制度) に追随するメーカーは
日本リーバなど少数に留まるが, リベートの簡素化
と, 取引数量や支払い条件あるいは担われる流通機
能 (販促や物流活動など) に応じた価格体系 (サー
ビス料支払いを含む) への移行は必然的な流れとさ
れる。
医薬品流通の構造と変化
それは, 卸売業者の経営がメーカーの流通系列化
後退するに伴い, カテゴリー内フルラインと一括
政策に規定されると同時にそれに大きく依存して
配送による相対的自立化を目指す卸再編成が開始
いたためである。 つまり, メーカーの流通関与の
されたといえる。 カルフールなどの国際流通企業
後退は, 実質的な卸マージン縮小 (第一次差益を
の進出がこの動きをさらに加速するとみられてい
補完するリベート縮小による) とメーカー主導で
る。 さらに, 業種の枠組みが長く固定化していた
維持されてきた流通秩序の動揺 (緩やかなテリト
酒類業界であるが, 酒販店免許制の緩和による販
リー制の崩れ, 地域市場への競合企業の進出と帳
路の拡散 (スーパーマーケットやコンビニエンス
合変更などブランド内競争の激化) となって卸売
ストアでの取扱い増加) が, 特定の酒類メーカー
業者を苦しめるためである 。
との繋がりの強さに依拠していた酒類卸の経営基
4)
つまり, メーカーの流通関与の後退は, 卸売業
者の行動の自由度を高めるとともに卸経営を不安
定化させ, メーカー依存 (とくにリベート依存)
盤を崩し, 業種を超えた再編成への流れを生んだ
のである。
一方, 奇妙なことではあるが, 卸売業界のなか
からの脱皮の必要を意識させることになる。 「顧
で最も激しい再編成が展開されている医薬品卸は,
客の購買代理業への転換」に意図されることは,
総じて流通系列化の枠組みが強く残されている分
仕入れ・販売差益とメーカーからのリベートを主
野である。 そのことが, 医薬品卸の再編成の動き
たる収益源とする従来の“マージン商法”からの
を分かりにくくさせ, かつ様々な屈折や逆流現象
脱皮である (上原, 1998)。
を生じさせたといえる。
もちろん, このような方向性は共通していても,
有力メーカーの流通統制力の程度によって, また
メーカーと卸売業との関係のあり方によって業界
ごとにそのあり方は一様でない。 加工食品業界に
おいてはもともと食品メーカーの流通統制力は弱
く, 小売段階におけるスーパーマーケット勢力が
1960年代以降の医療用医薬品卸の再編成には性
格の異なる2つの流れがある。
優勢なことで, スーパーマーケットに対するフル
日本の医薬品流通は, 1961年の国民皆保険制度
ラインの品揃えと一括配送を目指す食品卸の自立
成立に伴い徐々にその形を整えてきたが, 1960年
的な動きが進んでいる。 これに対して, トイレタ
代後半から70年代初めにかけて行われた医薬品卸
リー業界では, 卸売業の規模が相対的に小さく有
の再編成を第一次再編成, 1980年代以降展開され
力メーカー主導の流通経路が構築されていたが,
ている再編成を第二次再編成と呼ぶことができる。
小売段階の大型化に伴いメーカーの流通統制力が
第一次再編成は, 自社製品の販路整備を目標と
する有力医薬品メーカー主導で, 特約店である中
4)
競争制限的性格と競争促進的性格の共存という流通
系列化の本質は, ブランド内競争とブランド間競争
という概念を使うことでより明確に示される (野田,
1980, 18;263-267)。 但し, メーカー主導の流通シ
ステム整備による流通効率化と流通サービス水準向
上, さらに中小流通業者の経営改善というメリット
もあり, 流通系列化自体は否定されるべきものでは
ない。 ここで問題にしているのは, 環境条件の変化
によって流通系列化の有効性の低下と逆作用を生じ
させている事態である。
小卸の合併 (営業権譲渡を含む) が進められたも
のであり, 4大メーカー (武田薬品, 三共, 塩野
義製薬, 田辺製薬) がその主役である。 医薬品分
野では価格競争が激しく, 添付販売など独特の値
引き競争のもとで中小卸の経営の疲弊が深刻になっ
ていた。 第一次再編成には, 経営困難に陥った中
小卸の救済という意図が含まれていた。
この第一次再編成を通して医薬品流通は整備さ
医療と社会 Vol.11 №2 2001
れ, 4大メーカーによる流通系列化が日本の医薬
品卸の収益率の低下が深刻に意識されるようになっ
品流通の基軸となっている。 そして, 4大メーカー
ていた。 さらに, 市場拡大と規模拡大を狙う大規
を核とする流通秩序のもとで, 東京, 大阪, 名古
模卸の地方市場進出が地域卸にとって脅威と受け
屋を拠点とする大規模卸 (スズケン, クラヤ薬品,
取られた。 大規模卸のうちでも, 地方市場進出を
福神, 東邦薬品), メーカー (資本) 系列卸, そ
積極化させたのは, メーカー系列の規制から比較
して地域卸 (都道府県・市町村単位) の3つの勢
的自由であった非武田薬品系と非三共系卸である。
力が棲み分ける構造が短期的ながら維持されたの
大規模卸の地方進出には, 直接進出による自社販
である。 ただし, 4大メーカー系列といっても,
売網拡大を進めるスズケンと, 地域卸との緩やか
塩野義製薬と田辺製薬の系列の枠組みは緩く, 実
な連携を進める東邦薬品や福神という二つのタイ
質的に流通統制力を発揮しえたのは武田薬品と三
プがあったが, 地域卸に強いインパクトを与えた
共の2社のみである。 1960年代後半は, 日本の流
のはやはり前者であった。
通全体で有力メーカー主導の流通経路整備が進め
1980年代初め, 既に1,000億円程度の年商に達
られ, 松下電器や花王の販社制に象徴されるよう
していたスズケンやクラヤ薬品に対して, 地域卸
に高度な流通系列化が完成した時期である。 医薬
の多くは100億円前後にとどまっていた。 この規
品卸の再編成も同じ流れにある。 しかし, メーカー
模の圧倒的な格差を解消するために, 営業圏の重
統制力の弱さを背景として自立化を進める“非系
複ないし隣接する地域卸どうしの合併が積極的に
列卸”の存在, 医療機関に対する多品種の品揃え
進められるようになったのである。 1983年の宮城
提供の必要 (社会的品揃え形成機能), そして販
県と福島県の地域卸の合併によって成立したサン
売地域割り当ての曖昧さなど, 医療用医薬品の流
エス (2001年1月, さらに合併を進め, 現在バイ
通系列化は未完成であり, ブランド内競争の頻発
タルネット) を出発点とする第二次再編成である。
など内部矛盾を抱えこんだままであったとみるこ
この第二次再編成とそこにおける地域卸の構造変
とができる。 この時期の医薬品卸の提携や合併の
化については, 拙稿「医薬品卸売業の構造変化と
ほとんどは系列メーカーの意向を汲んだものであっ
再編成過程―1980年代以降の関東地域医薬品卸の
たとはいわれるが, 医薬品流通は,“強力な非系
列卸の存在と不安定な流通系列化”として特徴づ
5)
けることができる。 したがって, 1970年代までに
構築された勢力構造も極めて不安定なものであっ
た (野田, 430-436)5)。
この微妙な力関係のバランスが崩れ始めたのが
1980年代である。 この直接的な切っ掛けは, 1981
年の18.6%という大幅な薬価引き下げである。 さ
らに続く1984年16.6%,1988年10.2%の大幅な引き
下げにより, 医薬品卸は医療用医薬品市場の先行
きに不安感を強めたといえる。 医薬品の最終的な
償還価格である薬価の大幅な引き下げは, 薬価を
上限として医療機関への納入価格交渉を行う卸売
業者にとってその経営を直撃するものとなる。 メー
カー仕切り価と納入価格とに挟撃される形で医薬
再販制導入を背景として流通系列化が進められた大
衆薬と異なり, 医療用医薬品においては薬価差に収
益源の一部を求める医療機関を販売先としているた
め, 乱売の収束は容易に進まなかった。 さらに多品
種の品揃えの必要が特定メーカーによる流通系列化
の制約となった。 1960年代半ばより, 有力メーカー
は重点卸政策のもとで傘下の中小卸の合併・吸収を
進めたのである。 非系列化による大規模化を実現し
つつある卸と中規模卸を対象に系列化政策を進める
有力メーカーという二つの異なる流れが生まれたの
はこの時期である。 但し, 一部を除けばテリトリー
制は曖昧なままであり, また, 卸の取引先の集中度
も品揃えの必要から一定水準を超えることはなかっ
たため, ここでは, それらを留保条件とした上で,
「一応の完成をみせている」と表現がされている。 む
しろ, 医療用医薬品分野における流通系列化は“未
完成”という方が適当と思われる。
医薬品流通の構造と変化
提携・合併を中心として」 (1998年7月) で分析
なものであったことは1990年代後半に再燃した激
している。
しい再編成が示している。
第一次再編成と第二次再編成には, 本質的な違
いを指摘することができる。
つまり, 有力メーカーの流通統制力強化と中小
卸救済の性格の強い第一次再編成に対して, 第二
1998年以降, 医薬品卸は以前にもまして激しい
再編成の嵐に巻き込まれることになった。
次再編成は, あくまでメーカー系列の枠内ではあ
1998年から2001年 (予定も含む) において発生
るが, 経営基盤強化を目指す地域卸の主体的な提
した提携・合併の主たる動きは, 表1に示すとお
携・合併の動きが目立ったことである。 1980年代
りである。
から1994年頃までに, 北海道, 東北, 関東, 中部・
1998年以降の再編成は, 第二次再編成の延長で
東海, 近畿, 中国, 九州の各地域で, 地域卸どう
はあるものの, それまでと比べると規模において
しが合併し複数県 (北海道は別として) を営業エ
かつ速度においても予想を越える激しい動きを生
リアとする広域卸に, さらに地域ブロックを営業
じさせている。 また, 1990年代前半までの流れと
対象とする有力広域卸へと規模の拡大が進められ
は異なるいくつかの要素を含んでいることが特徴
た。 この過程で, 年商500億円∼1,000億円程度の
的である。
医薬品卸が各地に登場していったのである。
一旦は均衡状態にあった卸売業の勢力構造を崩
1994年頃までの再編成においては, いわゆる経
す切っ掛けとなったのは, 1998年4月, スズケン
営救済の意図はほとんどみられない。 むしろ, 広
と北海道の有力卸 (当時業界10位) 秋山愛生館と
域化による規模の経済追求と重複営業拠点集約に
の合併である。
よる経営効率化という合併効果を狙った総じて前
この合併は, 業界関係者に大きな衝撃を与えた
向きのものである。 それは, 薬価引き下げ傾向は
が, それは, 秋山愛生館が当時年商1200億円とい
強まりつつあったが, 医薬品卸の経営環境は比較
う上位卸であり, かつ武田薬品との取引関係の強
的順調であり, 大規模卸との競争もまだ緩やかで
い卸売業者であったことである。 したがって, フ
あったためといえる。 少なくとも, 1990年代初め
ルライン卸を目指すスズケンによる“武田薬品系
までの医薬品卸の提携・合併には, 流通系列化の
列の切り崩し”という面が注目を集めた。 強固と
枠内ではあるが, 有力メーカーからの“相対的自
みられた武田薬品系列にも意外な“弱さ”がある
立化”が意図されていたといってよい。
ことを示したという意味で, 時代の変化を象徴す
1994年頃までに, 地域的な差異はあるとして,
る合併といえる。 また, 北海道第一位のシェアを
東京, 大阪, 名古屋を拠点とする大規模卸, 札幌,
誇る有力卸と評価されてきた秋山愛生館が, 全国
仙台, 福岡, 広島を拠点とする有力広域卸, 複数
展開を目指すスズケンの傘下に入ったこと (形は
(都府) 県を対象とする広域卸, そして単一 (都
対等合併であったとしても) は, 第二次再編成を
府) 県内を対象とする従来の地域卸の4勢力から
通して年商1,000億円規模に達した他の有力卸に
なる業界構造がほぼ固まっていった。 1994年以降
とってその先行きに不安感を抱かせるに十分であっ
は, 合併や提携の動きは続くものの卸再編成の終
た。 さらに, 自社販売組織による直接進出を特徴
息期と一般的に捉えられたのは, このような勢力
としてきたスズケンが, 合併により一気に地域市
構造のもとで棲み分けが可能との業界関係者の判
場を獲得する戦略に転換したようにみえたことで,
断があったためである。
地方の卸売業者の不安感を煽ったといえる。
ただし, この勢力構造が過渡的で極めて不安定
スズケンと秋山愛生館の合併によるスズケンの
医療と社会 Vol.11 №2 2001
<大手卸をめぐる動き>
クラヤ三星堂
2000年4月 クラヤ薬品、 三星堂、 東京医薬品の3社が合併
*クラヤ薬品
年商5,431億円, 主取引先=武田薬品10.4%,
*三星堂
年商2,723億円, 武田資本系列 (資本比率22.5%), 主取引先=武田薬品15.8%
営業エリア=兵庫県, 大阪府, 奈良県, 和歌山県, 京都府, 滋賀県, 福井県, 石川県
*東京医薬品
年商840億円, 武田資本系列 (資本比率71.8%)
主取引先=武田薬品31.9%, 営業エリア=東京都, 神奈川県, 埼玉県, 群馬県
2000年7月 井筒薬品 (京都市) 合併 (発行済み株式51%取得)
*井筒薬品
年商445億円, 主取引先=武田薬品20% 営業エリア=京都府, 大阪府, 滋賀県, 奈良県
2000年9月 平成薬品 (名古屋市) 合併 (発行済み株式51%取得)
*平成薬品
年商500億円, 主取引先=武田薬品30% 営業エリア=愛知県, 三重県, 岐阜県
2000年10月 潮田三国堂 (水戸市) 合併 (発行済み株式50.1%取得)
*潮田三国堂
年商700億円, 主要取引先=武田薬品 営業エリア=茨城県, 福島県, 栃木県, 群馬県
2000年10月 チヤク (千葉市) 合併 (発行済み株式51%取得)
*チヤク
年商247億円, 主要取引先=三共12%, 営業エリア=千葉県
2000年11月 アトル (福岡市), エバルス (広島市) と業務提携
*アトル
1999年11月, ユニック (福岡市) と九宏薬品の合併により設立
年商1,211億円, 主要取引先=武田薬品, 営業エリア=九州全域
*エバルス
1997年10月 オーク薬品と林薬品の合併により設立
年商1,324億円, 主要取引先=武田薬品, 営業エリア=中国地方全域
2001年2月 千秋薬品 (秋田市) 合併
*千秋薬品
年商439億円, 主要取引先=武田薬品, 営業エリア=秋田県, 青森県, 岩手県, 山形県
**全国3箇所の大型物流センターヘの物流集約
スズケン
1998年4月 秋山愛生館と合併
*秋山愛生館
年商1,200億円, 主取引先=武田薬品9.9%, 営業エリア=北海道
東邦薬品
1999年12月サンキと業務提携 (物流・受発注システム共通化)
*サンキ
年商732億円, 田辺資本系列 (資本比率18%)
1998年1月 かみや薬品 (栃木県佐野市) 合併
1998年10月 中日本薬業 (甲府市) 合併
*中日本薬業
年商100億円, 田辺資本系列 (資本比率64%, 東邦薬品21%) 営業エリア=山梨県
2000年1月 同立薬品工業 (札幌市) 合併
2000年4月 船橋薬品 (名古屋市) 業務提携
*船橋薬品
年商241億円, 主要取引先=田辺製薬19.6%, 営業エリア=愛知県, 三重県, 岐阜県,
2000年10月 大島薬品 (函館市) の営業権譲受
2000年12月 本間薬品 (新潟県新津市) 資本参加 (発行済み株式35%)
*本間薬品
年商103億, 主取引先=三共20%, 営業エリア=新潟県
2001年1月 鶴原吉井 (熊本市) と業務提携
*鶴原吉井
年商500億円, 主取引先=山之内, 第一製薬, 営業エリア=九州全域, 山口県
2001年3月 丸善薬品 (高崎市) から営業権譲渡
*丸善薬品
年商98億円, 営業エリア=高崎市, 太田市
2001年10月 セイナス (広島市) 合併予定
*セイナス
年商504億円, 主要取引先=三共21.8% 営業エリア=広島県, 岡山県, 山口県
アズウェル
1998年10月 日本商事と昭和薬品合併により設立
2000年10月 中川安 (東京都), 中央興医会 (東京都) 合併
*中川安
年商702億円, 主取引先=三共20%
営業エリア=東京都, 神奈川県, 千葉県, 京都府, 滋賀県, 大阪府
*中央興医会
年商210億円, 三共資本系列 (資本比率44.5%)
主取引先=三共37%, 営業エリア=東京都, 埼玉県, 神奈川県
福神
1998年12月 協進 (大阪市) と業務提携
*協進
年商1,040億円, 主要取引先=三共13.3%
営業エリア=大阪府, 京都府, 奈良県, 兵庫県, 滋賀県
1999年4月 安藤 (高崎市) への出資比率の引き上げ (15%から51%へ)
福神の群馬県での医家向け営業を安藤に譲渡
物流業務の合理化と共同化, (1998年に業務提携)
*安藤
年商250億円, 主要取引先=武田薬品14.8%, 営業エリア=群馬県
2000年1月 大正堂 (熊谷市) と業務・資本提携
*大正堂
年商585億円, 主要取引先=武田薬品10.9%, 三共8.2% 営業エリア=埼玉県
2000年2月 稲垣薬品 (横浜市) と業務提携
*稲垣薬品
年商243億円, 臨床検査薬の取扱い, 営業エリア=神奈川県
医薬品流通の構造と変化
<有力広域卸をめぐる動き>
ほくやく
1999年4月 バレオ (札幌市) とホシ伊藤 (札幌市) が合併
*バレオ
1991年, 眞鍋薬品, 大槻中央薬品, 寿原薬粧, 丸一斎藤, 多田薬品, 高木薬品, 帯広眞鍋が合併し設立
年商800億円、 主要取引先=武田薬品12%
*ホシ伊藤
年商780億円、 主要取引先=山之内, 藤沢, 田辺
アステム
1998年4月 キョーエイ薬品 (福岡市), ダイコー (大分市), コマック, サン・メック合併により設立,
*キョーエイ薬品 1994年, コーヤク, 大石薬品, シンコー薬品合併により設立
年商900億円, 主要取引先=武田薬品10.6% 営業エリア=福岡県, 佐賀県, 山口県, 広島県, 島根県
*ダイコー
1992年, 吉村薬品, ヨシマツ薬品, 宮崎吉村薬品, ヤナイ薬品合併により設立, 年商860億円,
主要取引先=武田薬品7.8% 営業エリア=大分県, 宮崎県, 鹿児島県, 熊本県
2001年1月 医療機器卸キシヤと提携
物流の共同利用 (鳥栖物流センターから共同配送), 仕入れの段階的一本化,
取引先医療機関に対する物品管理システムの共同提案, 業務系システムの共同利用
*キシヤ
医療機器・消耗品卸, 年商160億円
サンエス
1999年1月 茂木薬品 (東京都) と業務提携,サンエス子会社が茂木薬品の医療用医薬品の営業業務を受託
*茂木薬品
年商237億円, 医家向け10% (OTC中心), 主要取引先=武田薬品28.8%
2001年1月 ニチエー(新潟市), 三栄薬品 (上越市) と合併, バイタルネット設立
*ニチエー
年商764億円, 主要取引先=武田薬品11.9% 営業エリア=新潟県, 山形県, 福島県, 宮城県, 秋田県
*三栄薬品
年商240億円, 主要取引先=武田薬品15.5% 営業エリア=新潟県
オオモリ薬品
1998年7月 大森薬品, 高田東栄薬品, 愛薬など塩野義系列11社の合併により設立
*大森薬品
年商780億円, 塩野義資本系列 (資本比率70%)
主要取引先=塩野義21.8%,三共15.6%, 営業エリア=東京都, 埼玉県, 千葉県, 神奈川県, 群馬県, 山梨県
*高田東栄薬品 年商340億円, 塩野義資本系列 (資本比率83.7%)
主要取引先=塩野義49%, 営業エリア=東京都, 千葉県, 埼玉県
*愛薬
年商68億円, 塩野義100%資本系列, 主要取引先=塩野義42.4% 営業エリア=愛媛県
1999年10月 湊川ツルタ薬品 (兵庫県) 合併
*湊川ツルタ薬品 年商250億円, 主要取引先=塩野義23.7% 営業エリア=兵庫県
ケーエスケー
1999年10月 シンエー, 協進, 錦城薬品が合併により設立
*シンエー
1986年, 大協 (兵庫県) と兵庫薬販 (兵庫県) が合併して設立
年商870億円, 三共 (資本比率16%) ・田辺 (資本比率16%) 資本系列
主要取引先=三共12.5%, 大塚製薬11.6% 営業エリア=兵庫県, 大阪府, 京都府, 岡山県
*協進
1988年, 重松本店, キンキ薬品, 京薬, 明快薬品が合併して設立
年商1,040億円, 主要取引先=三共13.3%
営業エリア=大阪府, 兵庫県, 和歌山県, 京都府, 滋賀県, 奈良県
*錦城薬品
年商124億円, 三共100%資本系列, 主要取引先=三共71.3% 営業エリア=大阪府
<広域卸・地域卸をめぐる動き>
よんやく
1999年10月, 松本薬品 (愛媛県) とサンエイ薬品(徳島県)が合併
*松本薬品
年商330億円, 武田薬品 (資本比率24.1%) 資本系列,
主要取引先=武田薬品15.5%, 営業エリア=愛媛県, 香川県
*サンエイ薬品 年商180億円, 主要取引先=武田薬品19.9% 営業エリア=徳島県
アステス
2000年4月, エイワ (愛媛県), 神原薬業 (香川県), ヤクオー (高知県) が合併
*エイワ
年商350億円, 主要取引先=住友製薬10.0% 営業エリア=徳島県, 香川県, 愛媛県
*神原薬業
年商300億円, 主要取引先=三共12.5%,田辺製薬10.0% 営業エリア=香川県, 愛媛県
*ヤクオー
年商180億円, 三共 (資本比率16.1%) 系列 主要取引先=三共15.9%, 営業エリア=高知県
アスカム
2000年10月 エーシン (仙台市), 菅野商会 (福島市), 出羽薬品 (山形市),
東日本薬品 (水戸市), 石舘商事 (青森市) 合併により設立
*エーシン
年商307億円, 三共 (資本比率14.4%) ・田辺 (同14.4%) 系列
主要取引先=三共, 営業エリア=宮城県, 山形県, 岩手県, 福島県
*菅野商会
年商240億円, 主要取引先=三共18.5% 営業エリア=福島県, 宮城県
*出羽薬品
年商140億円, 三共資本系列 (資本比率56.2%) 主要取引先=三共22.7%, 営業エリア=山形県, 秋田県
*東日本薬品
年商300億円, 主要取引先=三共, 営業エリア=茨城県, 栃木県,
*石舘商事
年商220億円, 主要取引先=中外製薬9.6%,塩野義8.6% 営業エリア=青森県
翔薬
2000年10月 九薬 (福岡市), 平田天命堂 (大分市), 伊藤薬品 (長崎市) と合併による設立
*九薬
年商494億円, 三共 (資本比率10.7%) 系列, 主要取引先=三共18.7%
営業エリア=福岡県, 佐賀県, 長崎県, 鹿児島県
*平田天命堂
年商180億円, 塩野義 (資本比率30%) 三共 (同22%) 系列
主要取引先=三共18.7%, 営業エリア=大分県, 宮崎県
シーエス薬品
2000年10月 中薬 (名古屋市) とサンアイ (静岡市) 合併
*中薬
年商772億円, 主要取引先=武田薬品14.8%, 三共11.0%
営業エリア=愛知県, 静岡県, 岐阜県, 神奈川県, 東京都
*サンアイ
年商377億円, 主要取引先=三共17.3%, 営業エリア=静岡県
(参考) 日経流通新聞, ドラッグマガジン 日本医薬品企業要覧―卸業編
医療と社会 Vol.11 №2 2001
フルライン化は, 現在のところ完成はしていない。
ている。
しかし, 東西を代表する武田薬品系列2社の合
むしろ注目すべきは, この合併が業界内の勢力関
係を一層複雑化させ, 様々な思惑のもとで作用・
併は別の反作用を生じさせた。
2001年1月, 仙台拠点の有力広域卸サンエスが,
反作用の連鎖を生じさせたことである。
第一の反作用は, この合併により直接的な影響
いずれも武田薬品との取引関係の強い新潟県拠点
を受ける北海道において対抗する合併を生じさせ
の広域卸ニチエーおよび地域卸三栄薬品と合併し
たことである。 1999年4月, バレオ (1991年, 地
バイタルネットを設立している。 全国卸化を明確
域卸7社合併により設立) とホシ伊藤の合併によ
な方針とするクラヤ三星堂とスズケンの“二大卸
りほくやくが成立している。 この結果, 秋山愛生
体制”移行への危機感が生んだ反作用であるが,
館, バレオ, モロオ, ホシ伊藤の有力地域卸4社
同じメーカー系列内の競合関係はむしろ厳しくなっ
が拮抗する勢力構造が崩れ, 北海道を拠点とする
たことは否定できず,“メーカー系列強化”の論
ほくやくとモロオの2社, そしてスズケン (旧
理だけではこれらの合併現象は説明しにくい6)。
秋山愛生館), さらに北海道進出を図るクラヤ薬
1990年代後半の再編成を象徴するのは, 上記の
品 (2001年4月よりクラヤ三星堂) と東邦薬品と
4事例であるが, 卸の地域勢力関係を一気に流動
いう大規模卸3社が直接拮抗する勢力構造へと変
化させる合併がこのほかにも生じている。 1998年
化したのである。
10月, 名古屋拠点の昭和薬品 (当時業界8位) と
第二の反作用は, 2000年4月の業界第2位のク
大阪拠点の日本商事 (当時業界6位) との合併
ラヤ薬品と第6位の三星堂の合併である。 この2
(アズウェルの成立) は, 武田系列外で発生した
社に東京医薬品が加わることで, 一気にスズケン
大型合併の代表事例である。
を抜き業界第一の巨大卸が登場した。 第1節で述
この他にも, 1998年4月, 福岡拠点の有力広域
べた通り, 全体として日本の卸再編成は大規模合
卸キョーエイ薬品 (1994年地域卸3社の合併によ
併の段階に入っているが, この3社の巨大合併ほ
り設立) と大分拠点の有力広域卸ダイコー (1992
ど様々な憶測を生んだ合併事例はないと思われる。
年, 地域卸4社の合併により設立) の合併 (アス
それは, 1990年代, 全国卸を目指して積極的な地
方市場進出を進めていたクラヤ薬品であるが, 各
6)
地で激しい価格競争を生起させることで摩擦が表
面化していたためである。 流通系列化の本質はブ
ランド内競争の抑制にあるという観点からするな
らば, 強固にみえた武田薬品系列の内部に揺らぎ
が生じていたことは否定できない。 とくに, 東京
を拠点とするクラヤ薬品が, 1995年5月に大阪の
ホウヤクを買収することで大阪圏への進出を本格
化させた結果, 大阪を拠点とする三星堂との直接
競合を強めたのである。 武田薬品系列の東西大手
2社の直接競合は, 系列秩序の崩れを意味してい
る。 この文脈からするならば, クラヤ薬品と三星
堂の合併は“武田系列強化”を求めるメーカーの
意向を汲んだものという一般的な解釈は理屈に合っ
アメリカの卸売業は, 80年代の激しい再編成を経て,
90年代の初めに二大卸への集中化という究極の段階
を迎えている。 食品卸売業において, Supervaluと
Flemingの二大卸体制が成立したのは1994年のこと
である。 医薬品卸においては, 激しい再編成の結果,
McKesson HBOC, Cardinal Health, Bergen Brunswig, AmeriSource, Bindley Westernの5社でシェ
ア90%の寡占状態が続いていたが, 2001年2月, Cardinal Health が Bindley Western を 買 収 , さ ら に
Bergen Brunswig と AmeriSource が 合 併 に 合 意 し
たことで (FTC の判断は未定), Cardinal Health,
McKessonの3社でアメリカの医薬品市場のほとんど
を占有する超寡占状態に入る。 卸再編成の最終局面
と考えられている (Fein and Jap, 1999)。 上位4社
シェアが40%を超えたとき流通寡占状態にあると考え
られる。 90年代後半のアメリカの卸売業の再編を促
進した要因は, 顧客の集中と製販統合の浸透である。
医薬品流通の構造と変化
テムの設立) がある。 これは, 中央卸の巨大合併
的引き下げと R 幅の縮小である8)。
への対抗という面もあるが, むしろ九州全体を営
R 幅は, 薬価差益縮小の衝撃を緩和する意図で
業圏とする広域卸の成立であり, 卸機能の拡充と
設けられたものであり, 医薬品卸の医療機関との
相対的自立化を目指す第二次再編成の一つの到達
価格交渉の余地を広げる役割を果たしてきた。 そ
点ととらえたほうが適切である。
れだけに R 幅の縮小 (最終的に撤廃) は, 医薬
1998年以降の激しい再編成の動きを, 単純に第
品卸の価格交渉の困難を増し, 薬価そのものの引
二次再編成の延長ととらえにくいのは, 第一に,
き下げと相俟って収益率の悪化を招いたのである。
メーカー系列の枠組みが再編成に様々な屈折現象
同じく業績悪化とコスト削減に苦しむ医療機関
を生じさせていることである。 合併規模が大きく
(とくに病院) の納入価格引き下げ圧力の強まり
なると, 当然のことながら地域別に構築されたメー
が, これに拍車をかけたといえる9)。
カー系列販売網との矛盾や摩擦が生じる。 さらに,
1998年以降の再編成には, 前述の巨大合併と並
系列の枠組みを超えた合併が進められるときには,
んで, 現在の経営不振や将来の経営に不安を抱く
この対立点が大きく現れる。 スズケンと秋山愛生
卸売業者の救済的な意味をもつ合併が多く含まれ
館の合併は先述の通りであるが, クラヤ三星堂と
ている。 2000年4月に日本最大の医薬品卸となっ
三共系地域卸チヤクとの合併においては, 武田系
列と三共系列卸の合併の難しさを改めて印象づけ
ている。 もちろん, 有力メーカーの流通統制力は
徐々に後退しつつある。 年商100億円前後の規模
の卸に発揮された力と, 年商1,000億円を超える
規模の卸に発揮しうる力とは大きく異なるからで
ある。 この統制力の緩みが系列内秩序を揺るがす
ほどの激しい提携・合併を生起させたといえる。
ただし, 大規模になったとしても, 医薬品卸の経
営は有力新製品とリベートを通して有力メーカー
へ依存している。 現在の状況は, 従来の流通系列
化の枠組みは後退 (部分的に崩壊) したとしても,
流通をめぐるパワーは依然として有力メーカーに
あるということができる7)。
1998年以降の再編成を特徴づける第二のポイン
トは, 医薬品卸の経営不振や業績悪化である。
1990年代半ばから開始された医療制度改革は, 健
康保険財源の悪化や健保組合の倒産などを背景と
して医療費抑制を目指したが, 診療報酬について
は合意が得られず頓挫することで, 医療費の3割
を占める薬剤費の圧縮が専ら進められた。 ただし,
薬価制度そのものの改革についても, 提案された
参照価格制度の合意が得られず, 現行薬価制度の
修正が主となったのである。 それは, 薬価の段階
チャネル・リーダーの発揮するパワーをチャネル組
織内の資源の偏在に起因すると考える資源依存理論
に拠るならば, 有力医薬品メーカーは, 報酬パワー
(有利なマージン配分やリベート提供など) と制裁パ
ワー (供給調整や取引停止の可能性など) を効果的
に組み合わせてきたといえる。 もちろん, 有望な新
薬開発とMRの積極的な需要開拓がメーカーのチャ
ネル内地位を強めパワーに結びついているのである
が, 専門性パワーや一体化パワーに比べ, この二つ
のパワー資源が強く作用するチャネルでは組織間
関係が未熟で総じて対立が発生しやすい。 医薬品流
通では, 有力メーカーのパワーは依然として強いも
ののメーカー仕切り価をめぐる卸の不満は強まっ
ており, メーカーと卸との関係は不安定といえる
(Etgar, 1977:Etgar 1978:Gaski, 1984:Gaski,
1986:石井, 1983, 125-127)。
8)
1992年に新しい薬価制度 (銘柄別加重平均方式) に
おいて現実の価格交渉の調整弁として導入されたR
幅は, 当初設定された15%から薬価改訂ごとに段階的
に引き下げられ, 94年13%(6.6%), 96年11%(6.8%), 97
年10% (3.0%), 98年には5% (9.7%) にまで縮小して
いた (( )内は薬価引き下げ率)。 2000年の薬価改訂
では, 薬価7.0%の引き下げとR 幅ゼロ (但し別枠で
2%) となっている。 この結果, 卸の価格交渉の余地
は狭まっており, いわゆる価格妥結率は10月末時点
で37.3%(前年同時期72.6%) と著しい悪化となってい
る。 当然のことながら, 卸の収益率も悪化しており,
医薬品卸業連合会加盟卸 (1999年度) の平均粗利益
率9.6%, 営業利益率0.7%という低水準を示した。
7)
医療と社会 Vol.11 №2 2001
たクラヤ三星堂であるが, その後のわずか1年間
現在の不透明かつ不安定な経営環境下では, 自
に, 井筒薬品 (7月), 平成薬品 (9月), 潮田三
社だけで自立的に生き残りを図るか, 合併の道を
国堂 (10月), チヤク (10月), 千秋薬品 (2001年
進むのかという選択に直面したとき, 多くの医薬
2月) の武田系列および非系列の地域卸と広域卸
品卸は後者の道を選んでいるようにみえる。 スズ
を傘下に収めている。 これは, クラヤ三星堂の空
ケンとクラヤ薬品の動きに遅れた東邦薬品と福神
白地域 (名古屋エリアや東北エリアなど) を埋め
の2社も, 提携・合併の動きを積極化させている。
全国展開の基礎を固める面とともに, 収益率低下
東邦薬品は, 緩やかな提携関係にあった地域卸の
で将来の経営に不安を抱く卸売業者の救済という
合併 (かみや薬品, 中日本薬業) や業務提携 (船
面があることは否定できない。 その動きが余りに
橋薬品) などを進めている。 2001年10月には, 広
急ということもあるが, 合併による規模拡大がそ
島拠点の広域卸セイナスと合併する予定である。
のまま経営力強化に結びつくかどうか判断が分か
また, 福神も, 資本関係にあった群馬県の地域卸
れるのは, 不振卸救済により非効率な要素を抱え
安藤との関係を深めるとともに, 埼玉県の有力地
こんでいるのではないかと見られているためであ
域卸大正堂と業務提携を行い, その基盤強化を図っ
る。 また, アズウェルは, 2000年10月に, 三共系
ている。
列の中川安と中央興医会を吸収合併しているが,
競争力を低下させた卸売業者の救済合併とみられ
経営の先行きに不安感を抱く中堅の広域卸や地
域卸をめぐる動きも急である。
ている。 また, 1998年7月, 大森薬品を中核とし
近畿エリアでは, 1999年10月, シンエー, 協進,
て塩野義系列卸11社が合併しているが (オオモリ
錦城薬品の三共系の3社が合併して年商2,000億
薬品, 1999年10月にさらに1社合併), これは明
円の有力広域卸 (ケーエスケー) が成立している。
らかに競争力を低下させた地域卸の経営建て直し
再編成が遅れていた四国エリアでも, 1999年10月,
を意図したものであった。
武田薬品との取引関係の強い愛媛県の地域卸松本
1998年以降, 一気に業界勢力構造が流動化した
薬品と徳島県の地域卸サンエイ薬品の合併 (よん
のは, 巨大合併の衝撃とともに, 地域卸や広域卸
やく), 2000年4月, 三共や田辺製薬と取引関係
における経営不振と経営不安が広がったためであ
の強い愛媛県の地域卸エイワ, 香川県の地域卸神
る。 医療機関と医薬品メーカーとの価格交渉力の
原薬業, 高知県の地域卸ヤクオーが合併している
強化と経営合理化による経費率の引き下げが, 合
(アステス)。 さらに, 大規模卸と有力広域卸との
併の優先目標として提示されているのはそのため
競合が激しい北関東から東北にかけてのエリアで,
である。 “安全な規模”への到達 (ただし, どの
2000年10月, 三共との取引関係の強い宮城県の広
程度の規模が生存条件かは必ずしも明らかではな
域卸エーシン, 福島県の広域卸菅野商会, 山形県
い) がまず意識されているといってよい。
の地域卸出羽薬品, 茨城県の広域卸東日本薬品,
青森県の地域卸石舘商事が合併している (アスカ
ム)。 同時期, 九州では, 三共系の広域卸九薬と
9)
90年代初めには, 年間で約1兆5千億円程度あった
薬価差益は縮小を続けており, 厚生労働省の調査に
よれば2000年度の薬価差は約2千億円程度と推測さ
れている。 また, 1999年における医療費に占める薬
剤費比率は20.8%となり過去最低となっている。 1995
年の28%から7.2ポイントの低下である。 さらに, 院
外処方の割合は32.1% (回数ベース) となり, 医薬分
業は着実に進んでいる。
大分県の地域卸平田天命堂, 長崎県の地域卸伊藤
薬品の合併がある (翔薬)。 また, 2000年10月,
やはり三共系列の名古屋拠点の広域卸中薬と静岡
県の有力地域卸サンアイの合併が行われている
(シーエス薬品)。
これらは, 巨大合併の動きに触発されている面
医薬品流通の構造と変化
もあるが, むしろ再編成の遅れていた三共系列と
方は常にメーカーとの関係 (系列関係) において
田辺系列卸の集約過程と特徴づけられるもので,
議論され検討されてきた。 1998年以降の再編成は
傘下の地域卸の競争力低下を懸念するメーカーの
その傾向を再び強めたといえる。 しかし, 卸売業
意向も反映しているとみられる。
の機能の本質は需給の調整 (量的・質的) であり,
わずか3年間で, 1988年段階の上位卸30社のう
販売先にどのような価値を提供するかにその存在
ち再編成と関係しなかったのは8社に留まる。 ま
意義が認められる。 供給起点ではなく需要起点に
た, 一種の無風地帯は北陸エリアだけであり, 全
視点移動をしてみることで, 医薬品卸売業の別の
国的な規模で再編成の嵐が吹き荒れたことが分か
可能性や問題点が明らかになると思われる。
る。
ただし, ここで検討すべきことがいくつかある。
第一に, 第二次再編成の根底にある医薬品卸の
“相対的自立化”の流れは, 消えたのかというこ
とである。 合併規模が巨大化する一方で, 改めて
1990年代後半の医薬品卸再編成の直接的なきっ
メーカー系列の枠組みの存在が表面化したことが,
かけは, 既述のとおり, 連続して行われた薬価引
医薬品卸の再編成の性格を曖昧にさせているから
き下げと医療機関との厳しい価格交渉に伴う収益
である。
の悪化である。 とくに, 1996年度, 1997年度,
第二に, このことと関連して, 再編成を通して
1998年度の3年連続の薬価引き下げによる影響は
医薬品卸の経営基盤が強化されたのかということ
大きく, 1997年度には, 大衆薬の取扱い比重の大
である。 この問いは奇妙に聞こえるかもしれない。
きい卸を除き, 大半の医薬品卸が減収減益に転じ
少なくとも第二次再編成は, 営業と物流の適正規
ている。 これには, 1991年4月の新仕切り価制
模の獲得と卸売業の独自機能を強化する方向を志
(値引き補償の廃止) への移行に伴い, 卸と医療
向していたといえる。 しかし, 近年の急速な合併
機関との価格交渉への医薬品メーカーの関与が禁
の過程は規模拡大が優先されることで非効率な要
止されることで, 医薬品卸の主体的な価格交渉力
素を多く取りこんでいるようにみえる。 さらに,
の発揮が求められたことが大きい。 当初, この取
異質な組織カルチャーの企業が合併することで,
引制度の変更は, メーカー系列からの自立を志向
新たな組織内摩擦も生じうる。 メーカー系列とい
する卸にとって「新しい成長機会」と受け取られた
う類似の背景をもち, 経営者どうしの意思疎通が
が, 価格交渉の脇役としての位置に留まりメーカー
容易であった規模の合併とは異なり, 大規模な卸
の値引き補償に慣れていた多くの医薬品卸にとっ
企業同士の合併は組織の融合というこれまでとは
ては, 収益の確保を狙う医療機関との価格交渉は
異質な問題を抱えることになる。 さらに, わずか
厳しいものとなった。 同時に, 売上げの拡大を地
20年間に, 100億円企業から, 500億円, 1,000億
域内シェア増大と他地域進出により図ろうとする
円, 3,000億円, さらに1兆円規模の企業へと規
卸間競争の激化が卸売業の経営をさらに苦しめた
模拡大が進められているが, その規模の拡大と組
といえる。
織およびマネジメントの変革が果たして連動して
いるのかという疑問がある。
第三に, 一つの仮説として少数の大規模卸への
表2は, 日経流通新聞・日本の卸売業調査から
医薬品卸上位30社の1988年度, 1994年度, 1999年
度の売上高と営業利益をみたものである。
集約ということがいわれているが, その他の可能
これによると, 1988年度における売上高の平均
性はないのかということである。 医薬品卸のあり
的な伸びは10.4% (28社) であったが, 1994年度
医療と社会 Vol.11 №2 2001
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
1999年度
スズケン
クラヤ薬品**
アズウェル**
福神
東邦薬品**
三星堂**
オオモリ薬品
アステム
中北薬品
サンエス**
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
ホクヤク
エバルス
丹平中田
アトル
ケーエスケー
モロオ
富田薬品
東京医薬品**
成和産業
中薬**
21.
22.
23.
24.
25.
26.
27.
28.
29.
30.
ニチエー**
サンキ
中川安**
潮田三国堂**
鍋林
大木
恒和薬品
大正堂
イワキ
マルタケ
31.
32.
33.
34.
35.
36.
37.
38.
39.
40.
セイナス**
九薬**
カサマツ明希
小田島
井筒薬品**
千秋薬品**
アステムヘルスケア
よんやく
サンアイ**
宮崎温仙堂
41.
42.
43.
44.
45.
46.
47.
48.
49.
50.
エイワ**
栗原弁天堂
ヤクシン**
エーシン
アルコス
ショウエー
安藤薬業公司
井上誠昌堂
船橋薬品
サンダイコー
**1999年度以降合併
年商 (百万円)
828,191
543,125
354,308
318,621
316,511
272,359
227,135
188,347
143,444
139,106
(3,331,147)
135,283
132,456
126,963
121,105
107,890
90,507
85,262
83,991
78,260
77,200
(1,038,917)
76,450
73,181
70,167
70,000
69,210
67,604
59,769
58,493
55,037
53,985
(653,896)
50,381
49,418
48,014
47,502
44,542
43,917
43,705
43,182
37,671
35,953
(444,285)
34,976
34,638
31,633
30,744
28,739
27,304
25,927
25,715
24,141
23,235
(287,052)
伸び率 (%)
5.6
10.6
11.9
9.5
3.6
2.3
3.0
3.9
営業利益(百万円)
10,550
3,565
1,203
2,818
810
1,995
-265
2,230
15
1,290
6.9
3.3
0
1.6
-0.6
0.1
0.3
-0.3
2.2
5.7
0.4
1.5
-6.6
-0.6
2.7
-6.0
0.6
-0.1
0.2
0.2
1.0
2.5
-19.0
-56.8
-58.7
営業利益率(%)
1.3
0.7
0.3
0.9
0.3
0.7
-20.1
-97.5
-27.5
1.2
0.01
0.9
-0.1
70.4
0.1
2.2
0.6
1.1
-49.8
6.2
-51.0
-13.7
0.9
2.2
0.15
0.9
458
1,262
-471
-54.9
-21.7
0.6
1.7
65
659
231
321
-34.0
140.6
903
0.1
1.1
0.4
0.6
906
419
165
5.5
85.4
-404
-131
220
619
13
411
-44.7
161
2,885
767
1,374
-897
791
1,892
126
683
4.1
6.9
伸び率 (%)
-17.6
-53.6
-92.9
-25.9
-0.1
-9.1
-1.5
0
2.8
9
20
282
163
308
339
-55
-96.1
116.9
-59.6
-18.1
-42.8
-4.2
1.6
-394
344
-7.3
(日経流通新聞・日本の卸売業調査)
には5.5% (24社), さらに1999年度は3.3% (23
社で売上高が減少している。 ほとんどの企業が減
社) に低下している。 再編成の激しさから30社の
収を示した1997年度の異常さは例外としても, 80
構成は大きく変化しており, また数値の確定でき
年代まで2桁成長を続けてきた医薬品卸の経営環
ない企業が増えているため正確な傾向は把握しに
境が急激に悪化していることを如実に現すもので
くいが, 全体として医薬品卸の成長率が落ちてい
ある。
ることが示されている。 1999年度には, 23社中3
このことは, 営業利益の変化により明らかであ
医薬品流通の構造と変化
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
1994年度
スズケン
クラヤ薬品
三星堂
福神
東邦薬品
日本商事
サンエス
昭和薬品
中北薬品
秋山愛生館
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
協進
丹平中田
キョーエイ薬品
モロオ
ユニック
シンエー
ニチエー
東京医薬品
ダイコー
富田薬品
21.
22.
23.
24.
25.
26.
27.
28.
29.
30.
大森薬品
バレオ
中薬
中川安
ホシ伊藤
オーク薬品
サンキ
九宏薬品
成和産業
潮田三国堂
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
1988年度
スズケン
クラヤ薬品
三星堂
福神
東邦薬品
日本商事
ダイコーG
昭和薬品
秋山愛生館
サンエス
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
中北薬品
丹平中田
ユニック
東京医薬品
ニチエー
中川安G
モロオ
ホシ伊藤
コーヤク
富田薬品
21.
22.
23.
24.
25.
26.
27.
28.
29.
30.
協進
サンキ
イワキ
鍋林
大森薬品
ホウヤク
中薬
九宏薬品
成和産業
シンエー
年商 (百万円)
588,476
314,623
259,025
250,948
222,548
202,446
135,093
134,200
110,172
116,623
(2,334,154)
103,224
98,662
94,018
84,687
84,016
83,226
82,756
82,189
81,822
80,641
(875,241)
78,327
77,051
76,570
75,137
75,131
73,932
72,893
70,695
68,382
66,519
(734,637)
伸び率 (%)
9.3
6.2
6.4
年商 (百万円)
378,002
190,278
168,590
149,412
139,545
130,919
111,547
88,043
84,552
83,365
(1,524,253)
78,692
74,061
68,595
64,912
61,127
60,042
58,367
58,358
57,808
57,714
(639,676)
56,607
53,891
53,693
53,507
52,478
50,066
49,771
48,261
48,188
47,515
(513,977)
伸び率 (%)
15.8
11.5
9.8
10.1
13.2
8.6
11.9
14.3
12.7
12.7
10.5
5.7
5.6
5.6
3.8
7.1
5.2
2.8
4.1
4.5
4.6
5.1
6.6
6.6
4.8
5.9
2.6
3.6
4.5
6.4
4.5
営業利益(百万円)
13,749
4,947
5,180
2,266
1,270
3,694
1,578
伸び率 (%)
-9.7
-17.8
-22.0
-33.3
営業利益率(%)
2.3
1.6
2.0
0.9
0.6
1.8
1.2
1,482
1,688
-19.6
-17.9
1.3
1.4
517
1,182
1,532
1,911
1,790
156
1,514
438
1,815
1,298
-38.8
29.2
0.5
1.2
1.6
2.3
2.1
0.2
1.8
0.5
2.2
1.6
250
1,225
-51.5
-5.3
0.3
1.6
330
1,965
1,446
1,045
1,105
706
-43.7
-9.3
-9.3
-5.3
-27.8
26.7
0.4
2.6
2.0
1.4
1.6
1.0
-4.1
4.5
-30.2
-43.0
-0.2
(日経流通新聞・日本の卸売業調査)
12.7
5.4
9.9
12.5
13.3
16.4
11.5
10.9
6.9
6.8
10.3
6.0
7.8
4.1
6.8
13.3
12.5
4.2
営業利益(百万円)
12,061
5,207
7,083
3,583
3,313
5,526
3,858
2,585
2,176
1,698
1,546
614
1,598
1,149
2,179
540
1,513
1,576
1,759
1,533
302
1,035
811
700
778
1,137
648
856
1,072
864
伸び率 (%)
16.0
14.7
28.7
17.2
5.0
14.1
16.1
17.6
-4.8
21.1
34.6
23.5
-0.4
17.7
38.2
-8.3
-15.0
10.9
11.2
17.6
40.8
19.4
16.7
-28.6
37.2
78.1
-3.7
営業利益率(%)
3.2
2.7
4.2
2.4
2.4
4.2
3.5
2.9
2.6
2.0
2.0
0.8
2.3
1.8
3.6
0.9
2.6
2.7
3.0
2.7
0.5
1.9
1.5
1.3
1.5
2.3
1.3
1.8
2.2
1.8
(同)
医療と社会 Vol.11 №2 2001
(
) 内社数
1988年度
1994年度
1999年度
1∼10位
3.01% (10)
1.46% ( 9)
0.70% ( 9)
11∼20位
2.24% (10)
1.40% (10)
1.02% ( 8)
21∼30位
1.61% (10)
1.36% ( 8)
0.75% ( 6)
(日経流通新聞・日本の卸売業調査)
る。 1988年度には, 数値が明らかでない3社を除
∼3%以上の総じて高水準を示したが, 1999年度
く27社中営業利益の伸びがマイナスとなったのは
には, ほとんどが1%未満の低水準となっている。
6社であるが, 1994年には, 逆に数値の明らかな
1990年代後半の再編成には, このような急激な業
21社中営業利益の伸びがプラスを示したのはわず
績悪化と将来性に対する危機感が背景にあること
か3社に過ぎない。 とくに, 1988年度には上位10
が分かる。 ただし, 1988年度における上位10社,
社の有力卸は1社 (秋山愛生館) を除きいずれも
11∼20位の10社, 21∼30位の10社の平均的な営業
営業利益の伸びはプラスであり, かつそのほとん
利益率を比べと, 3.01%, 2.24%, 1.61%と規模
どが10%以上の2桁の増加率であった。 それが,
と営業利益率の水準は明らかに連動しているよう
1994年度には, 売上げは伸びているものの営業利
にみえ, 規模の大きな卸売業の相対的な優位性が
益は逆に2桁の減少となったのである。 さらに,
示されている。 しかし, 1999年度には規模による
1999年度には, 状況は一層悪化している。 上位30
差異は明らかでない。 むしろ, 上位10社 (ただし
社において数値の明らかな26社中3社が営業損失
営業利益マイナスの1社を除く9社) の営業利益
を生じさせている。 また, 営業利益の出ている企
率の平均が0.7%であるのに対して, 11∼20位に
業においても, 対前年比30%以上という大幅な減
位置する8社 (マイナスの1社と数値不明な1社
益を生じさせている企業が目立っている。 2000年
を除く) の営業利益率の平均は1.02%であり逆転
度には, 4月の7%の薬価引き下げと R 幅ゼロ
現象が生じている。 このことは, 規模を問わず直
(別枠2%の調整幅) を受けて, 200床以上の大手
面している経営環境の厳しさを示すものといえる
病院を中心とした価格交渉が厳しく展開されてお
が, 同時に規模の大きさが必ずしも収益率の改善
り, 従来遅くても10月末頃までには70%程度に達
に結びついていない現状を反映している。
していた価格妥結率が10月を過ぎても40%程度
もちろんこのことは, 医薬品卸業界全体の収益
に留まるという異常な事態が続いた。 そのため,
力の低下を意味するもので, 規模の大きさが競争
2000年度は, 1999年度以上の厳しい結果が予想さ
力と無関係といっているわけではない。 むしろこ
れている。
れだけ経営環境が悪化している状況では, “体力
医薬品卸の第二次再編成は, 基本的には卸の競
(資金力や販売力など) の勝負”となり, 提携・
争力強化を目指して進められたものであるが,
合併による規模拡大で生き残りを求める動きに拍
1988年度と1999年度を対比してみると, 上位10社
車をかけることになったと思われる。
の売上高合計は2.18倍となっているが, 営業利益
1999年度の上位30社において, 2000年度以降さ
は逆に半減 (0.51) という皮肉な結果となった。
らに合併を続けている企業が10社存在している。
営業利益率も, 1988年度には, 上位10社の卸は2
とくに, 2位クラヤ薬品と6位三星堂, 18位東京
医薬品流通の構造と変化
1988年度
1994年度
1999年度
1∼10位
56.9%
59.2%
66.3%
11∼20位
23.9%
22.3%
20.7%
21∼30位
19.2%
18.5%
13.0%
(*上位2社のシェア)
(21.2%)
(22.9%)
(27.3%)
( 7.97)
( 8.85)
(15.3)
(*1位と30位企業の規模格差)
(日経流通新聞・日本の卸売業調査)
医薬品の合併(さらに24位の潮田三国堂も含む),
は, 第一に2000年度の各社の業績が1999年度より
3位アズウェルと23位中川安の合併 (中央興医会
も深刻と予想されているためである。 事態の厳し
も含む), 10位サンエスと21位ニチエーの合併な
さは, 各社軒並み減収・減益を呈した1997年度の
ど上位企業どうしの合併が目立っている。
状況に酷似している。 第二に, 総じて業績不振企
1980年代以降の再編成の結果, 上位企業のシェ
アは徐々に高まりつつある。
業を救済する形で行われた合併事例が多く, 規模
を拡大したこととは裏腹に体力をかえって消耗さ
当調査の不完全さから傾向をみるに止まるが,
せているようにみえる上位企業が目立つためでも
上位30社の売上げ全体に占める上位10社のシェア
ある。 さらに, 競争者の数は減少しているものの
は, 1988年度56.9%, 1994年度59.2%, 1999年度
各地域市場での競争 (とくに200床以上の大病院
の66.3%となっており, 1990年代の後半に大きく
獲得をめぐる) は依然として激しく, むしろ品揃
上昇していることがわかる。 2000年度の数値はま
えや営業エリアが拡大しているだけに棲み分けが
だ確定できないが70%を超えることは確実である。
難しく, いわゆる“全面競争”に陥りがちなこと
さらに, 1兆1千億円程度 (2000年度1兆716億
が大きい。 その結果, 合併しても合併前の売上げ・
円) の年商をもつクラヤ三星堂と8千億円強のス
利益予想を下回るという状況さえ生まれている11)。
ズケン2社が大きく他社を引き離すことで,“二
大卸”体制が一応成立したといえる。 1999年度に
おける上位30社に占める上位2社のシェアは約
27.3%であるが, 2000年度には37%程度にまで上
昇しているとみられる。 アメリカのような極端な
状況とはまだほど遠いが,“卸寡占”という表現
は少しずつ現実味を帯びているようにみえる。 こ
こでは, 調査数値の信頼性の低さから分析してい
ないが, 上位50社を対象としてみると上位卸と下
位卸との規模格差は拡大しており, 上位卸への集
中化の傾向はより顕著である10)。
ただし,“二大卸”体制が成立したとしても,
現在の業界構造は依然として不安定である。 それ
10)
クラヤ薬品と三星堂、 そして東京医薬品の合併は,
医薬品卸業界のみならず日本の卸売業界においても
最大規模の合併となった。 当然のことながら, 地域
市場における寡占のおそれが問われることになるが,
公正取引委員会は, この合併による競争の実質的制
限の可能性はないと結論づけている。 その根拠は,
①新会社は近畿地区の複数県においてシェア30%強か
つ順位1位となるが, 他に有力卸が複数存在してい
ること, ②近年, 卸の規模拡大と広域化が進展して
いること, ③取引先医療機関の価格交渉力が強く卸
売業者の変更は容易なことである。 また, 大手メー
カー (武田薬品) が新会社の筆頭株主 (株式所有比
率13%) となることについても, 1992年以降の取引慣
行改善が定着しているため問題はないとの判断を示
した (公正取引委員会, 2000, 266-268)。
医療と社会 Vol.11 №2 2001
以上の状況を受けて, 中位以下の卸どうしの合
「第二グループ」
併は依然として続くとしても, 大手卸を中心とし
北海道, 東北, 北陸, 中国・四国, 九州の広域
た大型合併は一旦終息期に入ったとの見方が有力
医療圏を拠点とする有力広域卸
である。 それは, 経営不振や経営不安を抱える中・
地域ブロック内シェア1位の広域卸の位置付け
下位の卸は合併による生き残りを求めたとしても,
を目指すが, その要件を満たしつつあるのは,
大手卸には経営不振企業との合併を継続する余地
北海道のほくやく, 東北のバイタルネット (旧
が乏しいためである。
サンエス) と, 九州のアステム。 北陸, 中国・
ただし, 1990年代後半の再編成を通して, 規模
四国では, 地域ブロック全体で優位な競争地位
の違いは別として経営基盤と経営行動に差異のみ
を確保しえている有力広域卸は未成立。
られなかった医薬品卸が, 異質な戦略グループに
「第三グループ」
分化しつつあることは注目すべきである。 それぞ
複数の都府県 (北海道のみも含む) を対象とし
れの戦略グループとしての有効性や安定性は別と
た営業活動を行い, 特定の地域医療圏での競争
して, 一応, 次のように整理することができる12)。
優位性を目指す有力地域卸・広域卸
「第一グループ」
営業拠点の広がりは第二グループと類似してい
東京, 大阪, 名古屋の三大都市圏を複数拠点と
るが, 個別地域ごとの浸透力の高さを生かしな
する (準) 全国卸
がら広域化を進めようとしている点で, 地域ブ
全国卸・準全国卸としての位置付けを目指すが,
ロックを一つの完結した営業圏ととらえる第二
部分的ながら三大拠点を抑え全国卸としての要
グループとの違いがみられる。
件を満たしつつあるのは, クラヤ三星堂とスズ
「第四グループ」
ケンの2社。
個別の地域医療圏を拠点とする地域卸
(準) 全国卸や有力広域卸との競争では, 相対
2000年度に日本最大の医薬品卸となったクラヤ三星
堂であるが, 2000年度売上高 (予想) は1兆716億円,
経常利益 (予想) 43億円と発表している。 これは当
初予想の売上高を264億円, 経常利益で83億円下回っ
ている。
12)
(準) 全国卸は, 東京, 大阪, 名古屋の三大都市圏を
基盤としなければ成立しない。 それは, これら都市
圏の圧倒的な経済集積力であるが, 名古屋を基盤と
する卸の場合はその市場の相対的小ささから, 東京
か大阪との二極拠点の組み合わせが不可欠である。
1998年における三大都市圏の病院病床数の全国シェ
アは次のとおりである。
東京 (東京都, 神奈川県, 埼玉県, 千葉県, 茨城県,
群馬県, 栃木県) 24.3%
大阪 (大阪府, 京都府, 兵庫県, 奈良県, 滋賀県,
和歌山県) 15.9%
名古屋 (愛知県, 岐阜県, 三重県) 6.9%
ただし, 東京都7.9% , 大阪府7.1%, 愛知県4.2%
一方, 有力広域卸の存立基盤となっている地域ブロッ
クの病院病床シェアは次のとおり。
北海道6.6%, 東北6県8.1%, 九州7県15.3%
(厚生統計協会, 2000)
11)
的に不利な地位にあるが, 品揃えの独自性や特
定メーカーや有力卸そして顧客との繋がりの強
さで生き残りを図っている。
ただし, 第一グループと第四グループとの違い
は明快であるとしても, 第二グループと第三グルー
プとの違いは曖昧である。 その差異は, すでに地
域ブロックで優位な競争ポジション (シェア) を
確保しているか否かと, 対象地域市場を大きく捉
える第一グループに近似した経営戦略を採用する
のか, あるいは個別地域市場へのより緻密な深耕
を優先するかという経営方針の違いによるもので
ある。 第二グループと第三グループは, 本質的に
同じ戦略グループに属している。
全国卸, 広域卸, 地域卸の区分とその経営特性
は消費財卸と共通しているが, 消費者の移動範囲
の拡大と大型小売業の広域展開により地域商圏の
独立性が崩れている消費財と異なり, 医療用医薬
医薬品流通の構造と変化
品では, 診療所, 中小病院, 地域中核病院, 高度
確かに, マツモトキヨシのような規模の大きいド
専門病院, 療養型病院と, 症状によって患者行動
ラッグストア・チェーンの調剤分野進出や, ジャ
や求められる医療サービスが異なり, それに合わ
スコを中心とするドラッグストア連合 (11社の共
せて, 医療圏 (商圏) も, 近隣型, 地域型, 広域
同仕入れ) の動きはあるが, その影響力は OTC
型というように多次元構造を示している。 そのよ
(一般薬) や雑貨分野を超えてはいない。 調剤薬
うな商圏の“重層性”と“自己完結性”を前提と
局の多くは地域内の独立店 (本店・支店経営) で
してみるとき, 消費財卸とは異なる医薬品卸の存
あり, チェーン化されていてもローカル・チェー
立根拠がみえるのである。
ンの規模に留まっている13)。
この仮説が現在までのところ具体化しなかった
理由としては, 調剤薬局チェーンを成立させるマ
ネジメント・ノウハウが未熟なことに加えて, ①
1990年代後半の医薬品卸の再編成は, 薬価引き
セルフ・セレクションによる大量販売を行うドラッ
下げと病院の厳しい納入価格要求という経営環境
グストアと調剤薬局のオペレーションの本質的な
悪化を直接的な要因としている。 そのため, ①病
違い (薬剤師による説明・患者支援が不可欠なた
院と医薬品メーカーの両面への交渉力の強化, ②
め優秀な人材確保の必要性が大きい) と, ②ビジ
規模拡大を通した経営合理化と経費率の引き下げ,
ネスの論理が感じられるチェーン薬局に対する患
③物流・営業拠点の集約と効率化が大きな目標と
者や医師の“抵抗感”や違和感などが指摘されて
して設定されている。 このような目標追求は, 必
いる。 また, ③銘柄別薬価制度ゆえ医師の個別の
ずしも提携・合併を必然化するものではないが,
処方に対応できる多様な品揃えが必要であり, チェー
短期間で規模拡大と経営合理化を同時に図る手段
ン化の基本である品揃えの標準化が難しいという
として有効といえる。
ことも無視できない。 とくに, 第三の点は, 日本
ただし, 最近の提携・合併の動きに対して第三
者の評価が分かれるのは, 提携・合併後も業績改
とアメリカにおける調剤薬局のあり方の根本的な
違いを示唆している。
しかし,“チェーン薬局の購買力の発揮”とい
善の傾向がみられないことに加えて, 上記の目標
の追求だけでは今後の対応として十分ではないと
考えられるためである。 それは, 医薬品卸をめぐ
る長期的な環境変化が背景にある。
その第一は, やはり医薬分業の進展である。 地
域差はあるものの分業比率は全国平均で33.3%
(1999年) に達している。 病院や診療所の経費負
担軽減の面からも分業の流れは定着したといえる。
1990年代における医薬品卸の重要な経営課題は,
この医薬分業にいかに対応するかということであっ
た。
ただし, そのときに設定された“仮説”のひと
つである 「アメリカの Walgreen のような大手調
剤チェーンの成長と仕入れ交渉力 (購買力) の発
揮」 は, 必ずしも現実のものとはなっていない。
13)
世界最大のドラッグストア・チェーン Walgreenの年
商は153億ドル, 店舗数は2,549店 (1998年) である。
医薬品メーカーからチェーン本部への直接販売比率
は, 21%である。 ただし, アメリカにおいてもチェー
ン薬局のシェアは29.1%にとどまり, 調剤部門の拡
張を狙うマスマーチャンダイザーやスーパーマーケッ
トとの競合 (シェア22.8%) が強まっている。 医薬
品流通販路の多様化傾向のもとで, 近年, 高成長が
注目されているのは, 慢性病患者を対象としたメー
ルオーダー, 長期療養患者のLTC・ナーシングホー
ムなどである (NWDA, 1999;流通経済研究所, 2000)。
環境変化が不透明かつ激しいときには, 特定販路へ
の依存度の高さは危険であり, 複合的なチャネル政
策が有効と考えられている。 そのようなメーカー行
動が販路の多様化を一層促進する (Anderson, Day
and Rangan, 1997)。
医療と社会 Vol.11 №2 2001
う問題は予想ほどではないとしても, 医薬分業の
確実に需要を確保しえたことがあげられる。 さら
進展が全く新しい経営問題を発生させていること
に, 新製品や重点販促品目の積極的な受注活動が
は無視できない。 それは, 受注数量の“小口化”
リベートに反映し収益率を高めてきたことも無視
と納品の“多頻度化”である。 従来, 病院を主た
できない。
る顧客としてきたことから, 医療用医薬品の受注
しかし, 前述の小口・多頻度化, そして“緊急”
単位は, 主として500錠, 1,000錠, 3,000錠といっ
発注の頻発は, この営業担当者中心の受注活動に
た大包装単位で行われてきた。 しかし, 調剤薬局
大きな負担を生じさせている。 たとえば, 営業担
の受注単位は, 基本的に, 100錠, 300錠という小
当者の活動別時間コストを計算すると, 一般的な
包装単位である。 さらに, 3か月程度の在庫保有
受注活動が全体の4割を占めるといった実態が示
を通例としている病院や診療所と異なり, 調剤薬
されている。 商物が分離されていない企業 (営業
局の在庫期間は短く“品切れ”が発生する可能性
担当者による納品活動) では, これに納品活動
も大きい。 これには調剤薬局の信用力の相対的な
(荷合わせや配送, 検品作業) が加わる。 卸マー
低さを警戒する卸売業者側の意向も反映している
ジンが縮小するなかで, 経費を抑えかつ営業活動
が, 結果として急な発注と多頻度の納品が日常化
の強化を図らねばならないが, 受注や納品という
しているのである。 さらに, 面分業の進展は, 想
単純な物流業務に多くの時間が割かれ情報提供や
定された以外の医師の処方への対応という新たな
販促活動が手薄となっていることは, 多くの医薬
問題を生じさせている。 調剤薬局特有の小ロット
品卸の共通した悩みとなっている。
かつ不確実な需要が頻繁な“緊急”発注となって,
さらに, 情報化への対応の遅れは, 医薬品流通
医薬品卸の営業と物流活動に不規則変動を生じさ
への電子商取引を軸にした異業種企業の参入の不
せている。 このような問題に対しては, 卸の物流
安も感じさせる。 とくに, 電子機器や自動車部品
センターでの小分け (分割包装) や調剤薬局専用
分野で浸透しつつあるサプライチェーン・モデル
の地域備蓄センターの設置などの対応策が試みら
は, B-to-B の電子商取引により, 医薬品メーカー
れているが, いずれも卸の物流コストを上昇させ
と医療機関 (大病院やチェーン薬局) との直接取
る可能性があり, 根本的な解決策とはなっていな
引きも理論上可能であることを示唆している。 た
い。
だし, 既に直販体制を敷いている医薬品メーカー
第二の環境変化は, 情報化の進展である。
は別として, 「卸中抜き」が有効かは全く別問題で
医薬品流通では, 卸売業者の規模の大きさにも
ある。 B-to-B の電子商取引も, 現実には新規取
拘らず, 情報化への取り組みは遅れていた。 とく
引先の場合は信用調査が不可欠であり, リスクを
に, 卸と医療機関 (病院, 診療所, 調剤薬局) と
排除できず却って高コストになるといわれる。 医
の間の受発注オンライン化率 (EOS) は低く,
薬品流通においては, 地域の顧客管理を通して医
電話, ファックス, 営業担当者 (MS) の介在が
薬品卸が果たす危険負担機能 (信用リスクへの対
主流である。
応) は依然として大きい。 また, メーカーとの直
これは, 特定の卸への受注集中 (受発注システ
接取引きで受注が集中した場合は, メーカーの在
ムによる囲い込み) を嫌う病院や診療所が多いこ
庫負担能力を超えて欠品を頻発させることにな
とに加えて, 診療所や中小薬局はもとより, 大病
る。 中間段階での在庫保有 (不確実性プール) に
院においても院内の在庫管理体制や情報システム
よる需給調整の必要性は否定できない。 さらに,
の整備が進んでいないためである。 また医薬品卸
B-to-B の電子商取引では価格条件に重点が置か
の側でも, 営業担当者による受注活動による方が
れる傾向が強く, 付加価値の高い新製品の需要開
医薬品流通の構造と変化
拓を狙うメーカーにとってメリットは総じて小さ
卸の抱える最も大きな問題があるといえる。
いといわれる 。
14)
電子商取引の利点・弱点に関する理解が進むこ
とで, 一時のような熱狂は影を潜めたが, EOS
から EDI そして Web-EDI へと取引の情報化が進
展することによる受発注コストの削減効果は無視
医薬品卸の直面する問題の複雑さは, 世界的な
できない。 そして, 取引処理速度の加速度的増大
規制緩和や保険財源悪化に伴う医療保険制度の動
は, それに伴う機動的な在庫・物流システムによ
揺と薬価の引き下げ (薬価差縮小) という公的制
る対応を必要とするが, 医薬品卸はこれに十分に
度の変質と, より効率的かつ機動的な卸サービス
応えていない。“異業種 (新タイプの企業) 参入”
の提供を求める社会的要請の強まりがほぼ同時に
の危機感は, この時代の急速な変化への戸惑いと
発生したことである。 とくに, 後者については,
不安から生まれたものである。
やはり医療保険制度が動揺するなかで, 医薬品卸
以上の二つの問題は, 卸だけでなく医薬品業界
と同様に低コスト・効率化への対応と患者サービ
全体が大量生産・大量販売の発想から脱していな
スの充実という“二律背反”の課題を抱える医療
いことが大きく関係している。 卸再編成も, 医薬
機関 (病院, 診療所, 調剤薬局) の問題が大きく
品メーカーや病院への交渉力ポジションの強化や
関係している。
リベート確保という従来の枠組みが残存したまま
医薬品卸と地域の医療機関との間には, 有力メー
で進められてきた。 しかし, 地域需要構造の変化
カーの価格・販促政策の枠組みに規定されたなか
や情報化という新しい環境変化には,“規模”の
で安定的長期取引関係が構築されていた。 一義的
力以上に, 機動性, 意思決定の早さ, 効率性とい
には納入価格条件が主要な交渉要件となるが, 必
う“速度”の力が不可欠である。 ここに, 医薬品
要な商品確保や緊急要請への対応など卸売業者か
らさまざまな便宜が図られることで, 地域卸は医
14)
世界に先駆けて情報化社会に入ったアメリカでは,
電子商取引の利点・弱点の現実的評価の段階を迎え
ている。 インターネットによる取引コストの削減効
果はあるとしても, 物理的要素の大きい分野 (小売
業, 製造業, 航空会社など) では限界もまた大きい。
Web-Supply Chainの最大の弱点は, 顧客注文に機動
的に応じようとしても, 注文の集中などで需要変動
がサプライチェーンの能力を超えがちなことである。
一方, 金融サービスやヘルスケアなど物理的要素の
小さい分野では利点が大きいとされる。 しかしヘル
スケア分野では, Merck-Medco Managed Careなど
のインターネットを通した処方を通して, 年間200億
ドルのコスト削減が可能とされているが, 患者情報
の流出を懸念する医師や保険会社の抵抗にあってい
る。 日本における医薬品のWeb調達で予想される問
題は, 前者の理由に該当する。 これは, 日本の医薬
品卸はあくまで物理的商品を扱う“流通業”であり,
“情報サービス業”的性格は, 現在のところ小さい
ためである ( Rethinking the Internet," Business
Week. March 26, 2001)。
療機関にとって意味ある存在となっていたのであ
る。 地域卸の存立根拠を求めるならば, やはり地
域の顧客ニーズに合わせた徹底した利便性の提供
という点に帰結する。 さらに, 医師や薬剤師との
人間関係が取引関係の安定と“取引コスト”の削
減を可能にする“信頼”を強めていたことも無視
できない (Morgan and Hunt, 1994:Kumar,
1996)。 優秀な営業担当者は, 顧客 (病院・診療
所) の経営特性, 患者特性, 過去の購入履歴, 処
方の傾向や医師のニーズなどを熟知した営業活動
を行ってきている。 そこにあるのは, 属人的かつ
非標準化という面はあるが, ある意味で徹底した
“顧客起点”の営業活動である。 医薬品流通の系
列化が“未完成”のままで留まったのは, 卸売業
の 「社会的品揃え形成 (特定メーカーの枠を超え
た幅広い品揃えの提供)」 機能の発揮に加えて,
医療と社会 Vol.11 №2 2001
その営業活動が本質的に“顧客起点”の要素を保
維持の重要性を認識していても, 当面の激しい価
持しているためといえよう。
格競争への対応が優先される現実がある。 さらに,
しかし, このような医薬品卸と顧客 (医療機関)
多様な需要 (緊急対応を含む) へのきめ細かい対
とのある意味で日本的な長期取引関係は根底から
応と多頻度小口配送など機動的な卸サービスが要
揺らいでいる。 その理由は, 医療機関の経営が厳
求されているにも拘らず, それに十分対応しうる
しさを増すことで, 価格条件が取引交渉の全面に
だけの仕組みが構築されていないことも大きいと
出るようになったためである。 とくに, 大病院に
思われる。 後者は, 実は医薬品流通だけに留まら
おいて組織的購入体制が強化されることで従来の
ず日本の流通システム全体に共通する問題である。
人間的繋がりに依拠した営業活動は難しくなって
いる。 さらに, 医薬分業 (面分業) の進展は需要
の発生点と終結点を分離させることで, 営業担当
第1節で触れた“流通寡占”の進展を流通シス
者の需要掌握力を弱めるのである。 規模拡大が進
テム発展の最終段階ととらえるか, あるいは時代
み経営基盤強化 (あるいはメーカー系列からの相
の大きな転換点に付随する必然的な現象ととらえ
対的自立化) が図られているにも拘らず, 医薬品
るかによって, 次に描くべき設計図は大きく異なっ
卸のあり方に不安定さを感じさせるのは, 地域需
てくる。
要の緻密な掌握力の後退と, 多様で重層的な顧客
流通寡占や上位集中化の現象は, 主として市場
との“関係性”が薄れているようにみえるためで
の成熟・飽和と企業の独自性 (革新性) 喪失を背
ある。 有利な“価格条件”の獲得 (対メーカー)
景に進展する。 小売業態サイクル・モデルの考え
と提供 (対顧客) に偏りがちな現在の医薬品卸の
方を借りるならば, 革新的企業がその独自の需要
活動は, その交渉力ポジションを強化しているよ
開拓力を発揮することで市場も拡大・成長してい
うにみえて, 実は, メーカーから患者に至る付加
くが, 時間の経過とともにその独自性は薄まり
価値連鎖を繋ぐ機能の弱体化と, それゆえにその
(業界標準化の進展) 同質競合が強まる一方, 新
基盤の脆さを象徴していると考えるべきである。
規需要開拓力の低下により市場も縮小してくる。
このことは一見奇妙にみえる。 それは, 既述の
その段階に発揮されるのは規模の力 (コスト競争
とおり, 今日の流通変化は供給起点から顧客起点
力) であり, 優勝劣敗原則の貫徹といえる。 業界
への基軸移動を特徴としており, 卸再編成も顧客
標準が曖昧な百貨店に比べて, 明確な“業界標準
起点の機能再構築の一環と捉えられているからで
モデル”が構築されているコンビニエンスストア
ある。 それにも拘らず, 医薬品卸の再編成は, 今
やディスカウントストアなどでは, この小売業態
のところ対メーカーや対顧客 (医療機関) へのそ
サイクルが早く進み, 3社集中や究極の“一人勝
の交渉力ポジション強化の次元を超えていない。
ち”の構図 (ライフサイクルの成熟段階) が現出
これは, よく指摘されるように, 医薬品卸の急速
しやすい (Davidson, Bates and Bass, 1976)。
な成長が有力新製品の拡販とリベート確保に依拠
ただし, 小売業態サイクル・モデルは, 成熟段
することで, 本来保持されていた緻密な需要開拓
階に達した特定業態が抱える“弱さ”にも注目し
と顧客関係維持の力が弱まったためといえるかも
ている。 つまり, “寡占化”や“一人勝ち”は,
しれない。 もちろん, 医薬品卸のすべてが供給発
特定業態を支えるビジネス論理が支配的になるこ
想に染まっているわけではなく, 顧客に対する適
とで, 市場に“潜在的な不満”を醸成していくか
切な卸サービスの提供と顧客の支持が存立の基本
らである。 この放置された市場の空白部分あるい
条件と考える卸売業者も多い。 しかし, 顧客関係
は潜在需要の大きさこそが, 次の革新者 (既存企
医薬品流通の構造と変化
業の革新努力も含め) の出発点となる。 この新旧
しかし, 1970年代後半以降の不確実性増大と動
交替のダイナミズムが流通システム発展の源となっ
揺と形容される流通環境の変化は, 硬い垂直的機
ているのである 。
能統合と巨大組織に特徴づけられるチェーンスト
15)
ただし, 小売業態サイクル・モデルはあくまで
ア・モデルの有効性を低下させることになった。
循環論にとどまっており, この新旧交替を通して
不確実で変化の激しい環境に適応していくために
登場してくる“革新者”の性格の本質的な変化,
は, 逐次軌道修正を可能にする機動性が不可欠で
そしてその背景となる産業構造や経営組織のあり
ある。 「規模の経済」 に加えて 「速度の経済」 が
方の違いは考慮されていない。 しかし, 小売業態
力を発揮することになる。 速度の経済は, 情報シ
サイクル・モデルが対象としている約120年の流
ステムを骨格とした垂直的な機能連携を通して発
通変化 (1880年代の都市型百貨店成立以降) は,
揮されるものであり, POS 情報を活用し店頭の
第一次産業革命から第二次産業革命へ, さらにま
販売動向と在庫・物流活動との“同期化”を図る
だその姿を完全に現してはいないが“第三次産業
ことによる全体在庫削減として具体化する。 1980
革命”への移行過程と重なっている。 つまり, 流
年代後半に, 同じチェーンストア・モデルに依拠
通発展は, それぞれの時代の論理を体現する革新
しながら, 流通勢力の大規模な新旧交替が発生し
者と既存勢力との対抗と融和のダイナミック過程
たのは, 速度の経済の持つインパクトの強さを示
といえるのである。
している。 たとえば, アメリカにおけるシアーズ・
日本の流通に置き換えてみるならば, 1960年代
ローバックとウォルマートとの地位逆転 (1993年
の 「流通近代化モデル」 は, 標準化と規格化を中
にアメリカ小売業第一位の座の入れ替え) は,
核とする第二次産業革命の論理の流通への応用と
GMS から総合ディスカウントストアへという小
いうべきである。 そのモデルの象徴といえるチェー
売業態の盛衰サイクルだけでは十分でなく, それ
ンストア (1920年代にアメリカで成立) は, 店舗
ぞれの依拠しているビジネス論理の違いを抜きに
と品揃えの徹底した標準化と規格化により規模の
説明することはできない。 それは, 投機 (仮需)
経済を発揮する仕組みである。 また, 仕入れから
型原理に依拠する流通システム・モデル (従来型
販売にいたる全体過程の業務 (PB商品の場合は
の大量生産・販売システム) と, 投機型と延期
生産段階を含む) を分解し, 効率化の観点から業
(実需) 型原理を混合させた流通システム・モデ
務の組替えを行うのである。 チェーンストア・モ
ル (リーン生産・販売システム) の違いである16)。
デルはフォード・システムの流通版ということが
この速度の経済に依拠する新しい流通システム・
できる。
モデル (修正チェーンストア・モデルとも呼べる)
は, 完全な企業内システムとして構築される場合
15)
玩具のカテゴリーキラーとして一時圧倒的な勢力を
誇ったToys'R'Usの業績不振は, 小売業態サイクル・
モデルによく合致している。 “玩具のスーパーマー
ケット”をめざして標準モデルを構築し世界的小売
企業の地位を得たが, より大規模な標準化とコスト
競争力に優るWal-Martとの対抗で苦戦している。
一方, 玩具に楽しさや付加価値を求める消費者は
Schwarz などの専門店に向かっており, Toys'R'Us
の市場基盤は弱まっているとされる (“Toys 'R' Us―
Can CEO John Eyler Fix the Chain?," Business
Week. December 4, 2000)。
と, 企業間連携を通して実行される場合の大きく
二つのタイプがある。 後者のタイプが意味をもつ
のは, 機動性を重視するためにできるだけ組織を
軽量化する必要があり, 企業間の資源共有と業務
16)
最近のNew Economyを産業化社会からポスト産業
化社会への移行の中間過程ととらえる見方がある。
ここでいう第三次産業革命も同様な視点に立ってい
る (Senge and Carstedt, 2001:Drucker, 1993,
40-45)。
医療と社会 Vol.11 №2 2001
連携が重要な解決策を提示していると考えられる
点の集約と再構築が進められている。 また, 従来
ためである。 1980年代後半から注目されるように
の商 (営業) と物 (物流) 業務が曖昧に混在して
なった 「製販統合」 や 「製配販連携」 の試みがこ
いた体制からの脱皮も必要である。
れに該当する。 とくに, 1993年からアメリカの加
ただし, その物流マネジメント手法としての有
工食品業界で進められた ECR (効率的消費者対
効性は評価すべきとしても, 先述のような特徴と
応) は, トヨタ・システムの流通への応用という
応用限界を有する流通システム・モデル (修正チェー
性格を有している。
ンストア・モデル) に依拠することで, 付加価値
ただし, 情報システムを骨格とした組織間連携
連鎖としての医薬品流通の再生が可能かという疑
としての 「製販統合モデル」 であるが, 店頭起点
問が残る。 医療サービスの重要な一部分を構成す
や情報化という鍵概念を使いながらも第二次産業
る医療用医薬品は, 患者への処方と調剤, 服薬指
革命の論理を超えていないという点は留意すべき
導, 副作用や相互作用のチェックなどの一連の過
である。 それは, 効率化志向の強さと, このモデ
程を通して価値実現が図られるものであり,“物
ルに秘められた“強者の論理”が否定できないた
理的価値と情報・サービス価値が融合”した独特
めである。 また, 取り組む企業間の信頼関係維持
の商品特性を有している。 つまり, 医薬品の価値
はもとより, 利益共有と配分の難しさは想像以上
といえる。 さらに, 需要変動が小さく総じて標準
化の進んだ低リスク商品分野で開発されたノウハ
ウや技法ゆえの応用限界も無視できない。 1990年
代後半に入り, サプライチェーン・マネジメント
という言葉に入れ替わっていったとき, 標準パッ
ケージ・ソフトと IT に支えられた物流 (調達・
販売) と在庫管理技法を通した具体的問題解決手
法としての性格がより前面に出るようになった。
ただし, それは, 信頼とコミットメントを基盤と
した新しい組織間関係の構築を謳った「製販統合
モデル」 の変質でもある17)。
以上のような視点から医薬品流通を捉えると,
医薬品メーカー, 医薬品卸, そして医療機関に至
る付加価値連鎖を繋いでいたメーカーとの系列関
係あるいは地域密着の営業活動で維持されてきた
顧客関係といった従来の鎖 (関係性) の力が弱ま
り, 流通段階での対立の深まりとともに付加価値
創造力が後退していることが指摘できる。 卸マー
ジンの縮小や収益率の低下はその一つの現れであ
る。 それゆえに新しい関係性構築が求められてい
るのである。 この問題に対処するひとつの具体的
方法として, サプライチェーン・マネジメントが
ある。 合併などを一つの契機として営業・物流拠
17)
サプライチェーン・マネジメントの課題は, 単なる
在庫削減ではなく, 生産段階から最終販売段階まで
を一貫したプロセスと捉えることで, 全体在庫の最
適化を図ろうとするものである。 そのときの問題は,
組織間の取引や見込みが介在することで末端の需要
の不規則変動が増幅して川上に伝わる現象 (Bullwhip
effect) である。 ECRで強調された大幅割引による売
上げ拡大をねらう High-Low Pricingから EDLPへと
いう取引条件の根本的な変更には, この需要の不規
則変動を抑える意図がある。 医薬品流通の取引条件
にも, 需要の不規則変動を助長する要素が多分に含
まれている。 ECRなどから発展したサプライチェー
ン・マネジメントの当初の考え方には, 取引条件の
あり方や組織のあり方を根本的に変革する必要性が
提示されていた (Lee, Padmanabhan and Whang,
1997)。 サプライチェーン・マネジメントは, ロジス
ティクスの一手法であるが, ECRや QR に代表され
るように, 供給起点 (Push system) ではなく, 需
要 (店頭) 起点 (Pull system) で, 生産と物流 (受
発注, 在庫, 配送) の業務プロセスを構築していこ
うとするところにその現代性がある。 ただし, 需要
変動への機動的対応を最重視する QR に対して安定
需要を前提としてコスト統制を重視する ECR の違い
というように, 需要の予測可能性や需要の多様性な
どによって適合するサプライチェーン・モデルは異
なる (Fisher, 1997)。 ただし, この需要起点の考え
方はわが国では拡大解釈されているように思われる。
顧客起点へと流通システムが転換していくための一
技術要素と捉えるべきである。
医薬品流通の構造と変化
実現のためには, 供給側だけでなく患者までを巻
“第三次産業革命”の流通システム・モデルは,
き込んだ一連の過程をマネジメントしていく必要
情報化や物流システムを基盤 (インフラ) として,
がある。 品質管理は工場段階では終了せず, 流通
顧客との対話と深い関係性構築を通して多様で非
段階, 患者との接点, そして患者の使用 (服用)
標準的な需要に機敏に対応することをめざすもの
過程まで包括したクオリティ管理の仕組みが必要
である。 それを実現させるコア能力は, 人的能力
になる。 価値実現の中間段階で発生するトラブル
を最大限生かす組織の力である。 第二次産業革命
や予期せぬ事態 (危険) に迅速に対処するために,
の流通システム・モデルが, 標準化や規格化を通
コミュニケーションの円滑な流れが不可欠である。
して人間の介在をなるべく排除することで効率化
さらに, 外科手術や救命医療, ガンや心臓病治療,
を図るものであるのに対して, 今求められている
糖尿病や高脂血症などの生活習慣病, アトピー性
のは, 人間の力を生かす仕組みで顧客の支持を獲
皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患, 痴
得し, 効率と効果のバランスを図る流通システム・
呆症や精神病治療など, 重症から軽症, 急性疾患
モデルといえる。 流通システムの徹底的な簡素化
から慢性疾患まで多様な患者の状態に合わせた処
と効率化の動きは進むとしても, 流通が常に需要
方と調剤そして患者支援 (カスタマイズされた患
の豊かな創造をその本質機能とすることに変わり
者サービス提供) を保証できる付加価値連鎖の構
はない。 まだ, このような新しい流通システム・
築でなければならない。 物理的次元を超えてサー
モデルもそれを具体化させるマネジメント手法も
ビス価値や情報価値の混合体としての“製品”に
明確な形をみせていない以上, 卸再編成は中途段
内在する流通危険への対応は, 従来の流通システ
階にあるといえる。
ム (修正チェーンストア・モデルも含めて) に備
えられた流通危険の分散処理や集中処理の方法だ
けでは困難といえる (三村, 2001)18)。
現在のところ, このような要請に応えられる流
通システム・モデルは存在しない。 ただし, それ
は, これまで存在しない全く異質な仕組みではな
く, 医薬品流通に潜在する患者視点あるいは顧客
起点というカルチャーの再発見と, 属人的と否定
的に捉えられがちな“人的スキル”と“知識”の
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と考えられる。 医薬品流通の今後について悲観的
な見方がある一方で, 漠然としてはいるが将来へ
の手応えを感じている関係者がいるのは, その方
向性が医薬品流通の本質の否定ではなくむしろそ
の再生と考えられるためである19)。
18)
物理的価値とサービス価値の融合した製品における
流通危険は, 市場危険 (見込み仕入れと売れ残り)
に対応してきた従来の流通危険負担機能の限界を超
えている。 そこに現在の流通業の不適応と不振の原
因をみることができる。
19)
マーケティングの基軸が関係性重視へとシフトし
ているなかで注目されているマネジメント手法が
Customer Relationship Management , あ る い は
Customer-Knowledge Managementである。 ただし
ここでは, 従来のハードで明示的 (explicit) な顧
客データ (transaction-based knowledge) だけでな
く, ソフトで暗黙的 (tacit) な顧客データ (human
interaction-based knowledge) が重要な意味を持つ。
後者は, 顧客担当者の顧客との対話, 経験の共有,
そして顧客への深い理解を通して取得されるもので
ある (Davenport, Harris and Kohli, 2001)。
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医薬品流通の構造と変化
Some Evolutionary Changes in Pharmaceutical
Wholesale Distribution
-Transforming Supply-based Distribution into a
Customer-based Marketing System-
The pharmaceutical wholesalers in Japan are still in the dynamic process of
merger and acquisition. In the late 1990s, this process seemed to have been
accelerated and some large-scale mergers among big wholesalers caused more
turbulence and uncertainty. The wholesale consolidation in Japan is rather moderate, but if this process continues, there would be two or three big wholesalers
which would dominate over the distribution.
Shrinking demand, severe competition and consolidation of manufactures
and customers could stimulate wholesale consolidation. In pharmaceutical distribution, one critical factor, changing public health care policy (cutting public drug
prices and reducing R-zone), should not be dismissed. Annoyed by reduced wholesale margin and squeezed profit, wholesalers seem to choose the way of merger
and acquisition on the premise that the scale could strengthen their power to
negotiate with manufactures and hospitals. However, it should be emphasized
that their relational strings with manufactures and hospitals have been weakened
through wholesale consolidation.
Another underlying factor of the structural changes in distribution is integrated
supply. Supply chain management, the know-how to optimize the total inventory
in the value chain by synchronizing sales activity and logistics, is now catching
eyes. In pharmaceutical distribution, logistics has been underestimated because
hospitals buy drugs in large quantities and keep their own stocks. But the
increasing of pharmaciesing which need frequent deliveries of drugs in small
quantities, generates new problems for wholesalers. The question is whether
or not existing supply chain management could solve the problems in pharmaceutical distribution. I assume wholesalers need to develop a new marketing
system model and customer-based demand chain management, which would
integrate logistics, marketing, sales force and customer service to satisfy their
customers.
*Aoyama Gakuin University, School of Business