二言語同時学習:接尾辞による語彙強化ドリル(英―仏・伊・葡・西)開発 発表者:彌永史郎・京都外国語大学 共同研究者:石川保茂・ペドロ アイ レス・村松英理子(京都外国語大学) 連絡先(京都市右京区西院笠目町 6 075-322-6174 [email protected]) 1.開発の経緯 京都外国語大学において 2 言語同時学習が開始さ れて間もなく、英語・ポルトガル語の同時学習を担 当していた彌永・石川がドリルの原案を作成した (2006)。各言語の語彙選定・調整については石川 保茂(英語)、彌永史郎(ポルトガル語)、立岩礼 子(スペイン語)、橋本勝雄(イタリア語)、舟杉 真一(フランス語)(50 音順)が担当。20 種類の接 尾辞を選び専門家にオンラインで学習可能なプログ ラムを作成依頼し、CALL 教室関係授業ならびに自習 用教材として 2013 年 4 月より公開した。模範発音を 全語に付し、学習者の達成度を確認する自動採点機 能を搭載。各言語につき約 450 語、各ドリルにつき 二言語で 900 語を含む。例題の 5 語は全言語共通と し、多言語学習の要望に応えられる構造にした。 な お、サイトの URL は http://kufs-suffix.com/である。 2.語彙強化サイト 2.1 目的 昨学 年度 に完成 した 『 接尾辞 によ る語彙 強化 :20 の基礎ルール』は英語を軸としてその他の 4 言語(フ ランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語) が対応する自習教材である。その主たる狙いは以下 の 3 点である。 ①英語力をそのまま第二外国語に移行 ロマンス系諸語の初学者が容易に気づくことのひ とつに英語と当該言語の語彙の類似がある。たとえ ば decision(英語)に対して décision(フランス語) decisión(スペイン語)decisione(イタリア語)decisão (ポルトガル語)というように一見して形態的類似 は明白である。このように正書法上で英語と共通し ている語基に、言語により異なる接尾辞を付加する 方法を体系的に学習し第二外国語の語彙力を一気に 強化する。 ②正しい発音を修得 大学入学前に学習された英語の音声が必ずしも正 確でない場合もある。英語は日常的にカタカナで発 音で「コミュニケーション」など耳にするので「シ ョン」ではなく/ʃ ə n / で あ る こ と に 気 づ く こ と が 重要である。また第二外国語でも安易なカ タカナ表記で記憶されがちな音声の間違い に 気 づ か せ 、 例 え ば «co municação » の «-ção » 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成25年度 教育改革ICT戦略大会 が 「サン、ソン、サォン、サンウ」い ず れも 実際 の音 /sɐ ̃ w̃ / と は 異な って お り、不 正 確な 近似 値 であ るこ とを学習者に気づかせ、正しい音声を修得する意 欲 を 与え る 。 ③第一、第二外国語の相互干渉を断ち切る 多くの学習者が英語とロマンス諸語との 類似から少し学習が進んだ段階から英語と 第 二 外 国 語をシフトすることが困難になる。たと えば英語の culture をポルトガル語風に[ˈkultʃɚ]とし たり、ポルトガル語の cultura を英語風に[kɐlˈtʃuɾɐ] と 発 音 し た り す る ( 正 し く は [kuɫˈtuɾɐ]) 。本 教 材 で音声と表記を比較しつつ類似性の高い異なる二 言語を学習することにより、こうした干渉による 誤 り を防 ぐ 力を 養う 。 2.2 機能 英語を軸にロマンス系諸語で対応が見られる多く の接尾辞のなかから、20 の接尾辞を選びその対応を Rule として提示した。その特徴は以下の 3 点に要約 される。 ①各ルールの例は全言語共通 英語を軸として対応する 4 言語があるので、最初 のフロントページから 4 言語のどの言語を英語の相 手に学習するかにしたがってドリルを選択する。最 初の目次に 20 のルールが示されるので学習者はど れから学習しても良い。どのルールにも最初のペー ジには例として 5 語を提示する。この 5 語はイタリ ア語、ポルトガル語、スペイン語、フランス語、全 言語に共通なものとした。したがって学習者の希望 次第でポルトガル語とスペイン語などのきわめて類 似性の高い、シフトが困難な言語を比較しつつ学習 ということも可能で多言語学習を可能にしている。 ②音声ガイドによる操作説明 操作の説明は操作音の意味の説明が必要なので音 声ガイドにより行われる。カーソルを本のアイコン に当てることで同じ内容が文字でも表示され、操作 が理解しやすいように工夫した。 ③学習成果のフィードバック 採点ボタンを付けてあるので、即時ドリルの結果 が採点でき、どこにエラーがあったかが表示される。 音声ガイドでは辞書の使用が促されており、オンラ インの英語を起点とする辞書(英語・ポルトガル語 など)を使用することも授業内では推薦することも 可能である。また正解も 60 点以上の場合表示される。 学習者は 60 点を得点するまでは自分で方法を考え て解決することが求められる仕組みとした。 3.リサーチクエスチョン 本研究のリサーチクエスチョンは次の通りであ る:語彙強化サイトは学習者のポルトガル語および 英語の語彙力向上に貢献したか。 4.授業実践 英語・ポルトガル語のドリルは、ペドロ アイレス 担当の「コンピューターポルトガル語」の 2013 年春 学期の授業において学習された。 【科目の目標 】 コンピュータを用いて、ポルトガル語の能力の強 化をはかり、その高度な理解と運用力の向上を目標 とする。 【その科目での語彙強化サイト利用の目的】 ポルトガル語を正しく適切なスピードで入力する 練習とともに、学習者の英語力をポルトガル語力に 移行する練習を行う。また正書法上類似した語英 語 とポルトガル語を正しく分けて発音する練習を行う。 【春学期全体のシラバス】 第1週 春学期の授業の進め方について 第2週 コンピュータを使って何ができるか、何 がしたいか? 第3週 ポルトガル語を入力できるフォントと ポルトガル語の入力について1 第4週 ポルトガル語を入力できるフォントと ポルトガル語の入力について2 第5週 ポルトガル語でメールを作成する 語 彙強化ドリル学習 Rule 1,2 第6週 ポルトガルで使用される検索エンジン について 語彙強化ドリル学習 Rule 3,4 第7週 ブラジルで使用される検索エンジンに ついて 語彙強化ドリル学習 Rule 5,6 第8週 検索エンジンを使って情報を収集して みる1 語彙強化ドリル学習 Rule 7,8,9 語彙強化ドリル学習プレテスト 第9週 検索エンジンを使って情報を収集して みる2 語 彙 強 化 ド リ ル 学 習 Rule 10,11,12 第 10 週 レポートのテーマと作成について。語彙 強化ドリル学習 Rule 13,14,15 第 11 週 インターネット上で購読できるポルト ガル語の新聞、雑誌について 語彙強化 ドリル学習 Rule 16,17,18 第 12 週 検索エンジンを使って情報を収集して みるオンライン上で見られる TV、ラジ オサイトについて 語彙強化ドリル学 習 Rule 18,19,20 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成25年度 教育改革ICT戦略大会 第 13 週 便利な情報サイトについて 語彙強化 ドリル学習の復習 第 14 週 海外でのインターネット接続法につい て ポストテスト 第 15 週 レポートの提出とまとめ アンケート 調査 【語彙強化サイトの利用の仕方】 授業のトピックのひとつとして語彙強化を取入れ ている。最初に教師が接尾辞の対応並びに語基部分 の若干の変更規則などを説明し例題を行う。また発 音上の注意点などを詳しく解説。その後各ドリルに つき 20 分程度でドリルを学習する。随時例外に関し ても解説を行う。ポルトガル語をさまざまな補助記 号を間違いなく相当のスピードでタイプするための 入力練習も含める。 5.有効性の検証 3.のリサーチクエスチョンの答えを求めるため、 事前・事後テスト(英語からポルトガル語を解答す るテスト(以下、E→P テスト)とポルトガル語から 英語を解答するテスト(以下、P→E テスト)各 30 問)と事後アンケート調査(英語力およびポルトガ ル語学力向上実感に関する質問 7 項目、語彙強化サ イトを利用した学習に関する質問 8 項目、計 15 項目 を 6 段階のリカートスケールにより質問)を行った。 事前テストは第 8 週に、事後テストは第 14 週に、事 後アンケート調査は第 15 週にそれぞれ実施した。 5.1 事前・事後テスト 事前・事後テスト結果の差異を t 検定により分析 した結果、E→P テスト、P→E テストともに有意差 が認められた(E→P テスト:p < .01; r = .83、P→E テスト:p < .01; r = .73)。これにより、開発した語 彙強化サイトは学習者のポルトガル語および英語の 語彙力向上に貢献したことが実証された。 5.2 事後アンケート調査 学習者は、開発した語彙強化サイトを積極的に利 用し(平均値 4.25、以下「平均値」を省略)、その学 習は興味のあるものであった(4.56)、今後も、この サイトを利用した学習を継続したいと回答している (4.50)。語学力向上ついては、E→P テストだけで はなく、P→E テストの場合も有意差が認められてい るにもかかわらず、ポルトガル語の語彙力の向上実 感に比べ(4.38)、英語の語彙力はあまり向上してい ないと感じている(3.91)。 6.今後の課題 今後は、ますます一般的化する携帯型端末に対応 する新版を開発し、汎用性のあるオンライン教 材と して旧版とともに学内外に公開することが望まれる。
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