- 讃岐の多様な石の文化 - 旧石器時代から讃岐は石の名産地でした。讃岐における石材の利用は旧石器時代のサヌカイトから始まり、時 代と共に石の主役が交代していきました。そして今なお花崗岩石材の日本一の産地です。讃岐における多様な石 の文化は、軟らかい凝灰岩から超硬質のサヌカイトまで幅広い物性をもつ岩石を形成した瀬戸内火山活動の賜物 です(表1)。讃岐の石の文化の伝統を守り、後世に伝えたいものです。 表1 香川県産石材の物性値(乾燥状態) ①旧石器時代からのサヌカイト石器 旧石器時代から弥生時代までは サヌカイトが瀬戸内の石の主役で した。サヌカイトは、瀬戸内火山岩 類に属する古銅輝石安山岩で、約 1300 万年前に噴出・急冷した溶岩 です。本岩はガラス質で緻密、硬質 で、かつ流理に沿ってエッヂ状に割 れやすい性質があります。このた め、打撃によってナイフ型石器など を容易に作ることができました。 ④近世の豊島石石造物 江戸時代になると、石造物の石材 は豊島石(玄武岩質火山礫凝灰岩) が主流になります。土庄町豊島の豊 島石は、加工しやすい岩質で京都の 桂離宮などの石灯籠として使用さ れました。 ⑥300 年の幕を閉じた由良石 由良石は、由良山産の黒雲母デイ サイトで、その加工の容易さから江 戸時代以降、墓石や石灯籠などに加 工されました。由良石は皇居東庭の 敷石にも使用されています。 サヌカイト製石器 (坂出市金山けいの里) 鷲ノ山石(輝石角閃石安山岩)の石棺 (高松市国分寺町石舟) ③中世の流紋岩質凝灰岩の石造物 鎌倉時代から室町時代になると、 瀬戸内火山岩類基底部にある白色 の流紋岩質凝灰岩(約 1400 万年前) を使用した石灯籠や五輪搭が広ま ります。流紋岩質凝灰岩の石造物 は、加工が容易なものの風化に弱い ため、多くは原形を残していませ ん。 流紋岩質凝灰岩の岩壁に残っている 磨崖仏の彫刻(三豊市三野町弥谷寺) 香川大学工学部安全システム建設工学科 香川県高松市林町 2217-20 * ジオパークとはユネスコの支援のもと、世界ジオパークネットワーク並びに日本ジオパークネットワーク が推進する大地の公園で、地質遺産の保全とともに地域の教育や活性化を目的としています。 讃岐は世界に類のない石と文化のジオパークになる素材があります。ただし、ジオパークとして認められ るには、財政基盤のしっかりとした運営組織をもち、日頃からガイドを養成し、見学会や講演会を開催して 啓発活動を行うこと、ガイドマップ、解説書や説明版の充実、保全のために地道な活動が必要とされます。 讃岐ジオパークの認定に向けて、一緒に活動を始めませんか。 - 讃岐平野の造形美 - ②古墳時代の石棺 古墳時代になると、瀬戸内火山岩 類に属する高松市国分寺町鷲ノ山 石(輝石角閃石安山岩)やさぬき市 の火山石(流紋岩質凝灰岩)が香川 県内だけでなく、近畿地方の石棺に も使用されるようになりました。 [作成] 讃岐を世界のジオパークに! 豊島石の石燈籠(高松市栗林公園) ⑤近世の城の石垣と花崗岩 国内で大規模な石垣が作られる ようになったのは戦国時代から江 戸時代で、西日本で多くの石造りの 城が築造されました。特に大阪城の 石垣は、瀬戸内の各地から巨大な花 崗岩石材を運ばせたことで有名で す。小豆島土庄町小海の大坂城残石 記念公園には多くの花崗岩の残石 が展示されています。 柱状節理が発達した由良石の丁場 (高松市由良町由良山) ⑦現代の最高級石材:庵治石 高松市牟礼町と庵治町から産す る庵治石は、8000-9000 万年前に 併入した黒雲母花崗岩で、日本一の 最高級石材と評価されています。牟 礼・庵治地区は日本一の石の町で、 世界的な彫刻家のイサム・ノグチの アトリエが庭園美術館として公開 されています。 讃岐平野の特徴は何といっても、平野の中に浮かぶ台地状あるいは円錐状の美しい小山が点在することです。こ れらの地形は、高松市屋島などの山頂に安山岩等の火山岩を頂く開析溶岩台地(メサ)の台地群と、小山の山頂を 安山岩等の火山岩が覆った飯野山(讃岐富士)等のビュートあるいは火山岩頸(かざんがんけい)に区分されます (図1)。これらはともに約 1300-1500 万年前の瀬戸内火山活動でできた溶岩等(瀬戸内火山岩類)が、8000-9000 万年前の領家花崗岩類を土台としてその上に堆積した後、1000 万年以上の歳月をかけて侵食された残丘です。 讃岐の瀬戸内火山岩類は讃岐層群と呼ばれています 1) 。最初の火山活動では、流紋岩質のマグマが噴出し、高 松クレーターと呼ばれるカルデラなどを形成しました。その後マグマは安山岩質に変化し、多種多様な火山岩や火 山噴出物が形成されました。瀬戸内火山岩類の分布が最も多い讃岐平野には、色調や硬軟様々な火山岩が分布し、 讃岐独自の景観をつくると共に、石の文化を育みました 2)。 図1 讃岐平野のメサとビュート - 瀬戸内火山岩マグマのでき方 - 大坂城残石記念公園に展示された 花崗岩の残石(土庄町小海) 庵治石の丁場(左)と五剣山(右) (高松市屋島山上から) ⑧世界のサヌカイト楽器 20 世紀後半になってサヌカイトが神秘的 な楽器として復活しました。前田仁博士は、 これまでのかんかん石のイメージを超えた サヌカイト楽器を創作しました。サヌカイ トの楽器は世界の有名な音楽祭や宗教行事 で演奏されています。坂出市金山の「けい の里」には各種サヌカイト楽器が展示され 前田仁博士(1929-2008)と ています(一般には非公開)。 サヌカイト楽器(坂出市金山けいの里) 長谷川研究室 (長谷川修一,鶴田聖子) TEL:087-864-2155,URL:http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/~hasegawa/ 資料の作成に当たり、平成 23 年度香川大学地域貢献推進経費を使用しました。 【平成 24 年 3 月 3 日発行】 海洋研究開発機構の巽好幸博士は、讃岐発の世界的なマグマ成因論を提 唱しています。瀬戸内火山岩類は日本海が拡大した直後に、誕生したての 熱いフィリピン海プレートとともに沈み込んだ堆積物が融解し、流紋岩質 のマグマが形成され、その後、マグネシウム(Mg)に富んだマグマとマン トルとの反応でできたと推定されています 3)。讃岐の里山はマグマの成因 を研究する上で世界的にも重要なフィールドです。 讃岐層群は湖水域に噴出したため、火山岩類の下位に湖成堆積物が残っ ているところがあります。讃岐層群基底の湖成堆積物からは、世界最古の なまずの化石が発見されています 5)。 Mgに富んだ 安山岩 地殻 付加体 堆積物 海溝 アセノスフェア 海洋地殻 熱いフィリピン海 プレートの沈み込み 沈み込んだ 堆積物が 融解 図2 瀬戸内火山岩の成因モデル (参考文献 4)を改変) 参考文献: 1)長谷川修一,斉藤実:讃岐平野の生いたち-第一瀬戸内累層群以降を中心に-,アーバンクボタ No.28, pp.52-59,1989. 2)長谷川修一,田村栄治:世界に誇る石の文化・ジオパーク讃岐に向けて,第 15 回日本技術士会・業績発表年次大会,5-12,2009. 3)巽好幸:安山岩と大陸の起源―ローカルからグローバルへ,東京大学出版会,213p,2003. 4)瀬戸内火山活動ホームページ: http://volcano.instr.yamaguchi-u.ac.jp/seto.html 5) Watanabe, K., T. Uyeno and S. Mori Fossil record of a silurid catfish from the Middle Miocene Sanuki Group of Ohkawa, Kagawa Prefecture, Japan. Ichthyol. Res., 45 (4): 341-345, 1998. (1)小豆島 小豆島石 豊島 (2)豊島 豊島石 (13)五色台と 金山のサヌカイト 小豆島 (7)女木島・男木島 (12)国分台と鷲ノ山 (6)屋島 男木島 瀬戸内海 広島 女木島 五色台 屋島 青木石 (8)栗林公園 (5)五剣山と庵治石 庵治石 (9)石清尾山 五剣山 白粉石 高松平野 金山 サヌカイト (14)丸亀平野と 飯野山 鷲ノ山石 丸亀平野 飯野山 土器川 天霧石 高松クレーター 由良石 雨滝山 香東川 (16)爺神山・ 弥谷山・ 天霧山 弥谷山 (3)雨滝山・火山 火山石 (10)高松クレーター 白鳥 ランプロファイアー 長尾断層 (4)長尾断層 大麻山 前山丘陵 爺神山 塩江温泉 (17)有明浜と七宝山 七宝山 財田川 三豊平野 讃岐山脈 (11)塩江温泉 (15)大麻山・金刀比羅宮 図3 讃岐のジオサイトと石材の産地(青字) (長谷川・斎藤,19891)に加筆)
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