創造的復興:ハイブリッドアート演習 担当者:村上史明、逢坂卓郎(アドバイザー) 執筆者:村上史明 再生可能エネルギーによるライトアート作品の企画・展示 マイクロ水力発電を開発したNPOとの協働で、再生可能エネルギーにより電 力を創出し、奥会津地方でLEDを用いたライトアート展の企画を実施した。 また、学生の作品制作に対し、三島町での現地の住民の方々や、行政の協力 を得ることが出来た。同時に、マイクロ水力発電に対応した蓄電システムや 暖炉に対応した熱電発電の装置の開発も実施した。 ・活動の背景 森林文化の活用による地域再生プロジェクトとして、森のはこ舟アートプロ ジェクト2014へ筑波大学の逢坂卓郎特命教授(hybrid16 逢坂卓郎教授によ る作品)の参加が決定していたが、地域と学生の協働作業により、更に広い 地域での展覧会実施の可能性が予想された為、創造的復興:ハイブリッドア ート演習の履修者も参加することとなった。また、奥会津地方の三島町では、 NPO法人会津みしま自然エネルギー研究会が活動を行っており、水路に設置 するマイクロs 水力発電(hybrid18 発電水車)を開発していた為、再生可 能エネルギーを利用したライトアート作品の提案を行うこととなった。 ・目的 過疎地において、屋外で光の展覧会を実施することで、観光資源としての可 能性を提示する。また、震災以降、広域での停電や原子力発電所の事故を経 験したことから、再生可能エネルギーに限定した電力の供給行った。農村地 での水路は勾配が大きく、昼夜・年間と通して一定の水力が期待できる。自 然エネルギー研究会の開発した水車を設置することで1ワット程度の電力量 が予想される。蓄電・点灯システム(hybrid02 水力発電システム)を開発 することで、日中に充電を行い、夜間に展覧会の電力として使用する。ライ トアートの展示を通して、マイクロ水力発電の可能性を視覚化することを目 的とする。加えて、熱電装置(hybrid01 熱電発電システム)の開発を行 うことで、暖炉の熱による光の点灯を試みた。 ・実施 2014年11月と12月にそれぞれ1泊2日で調査を行った。三島町役場のご厚意に より教職員と学生の20名がバスで筑波大学から三島町に来訪した。現地の地 形や水量の調査だけではなく、現地の方々に民芸品や農具の紹介をいただき ながら、三島町の文化について見識を深めた。展示期間は1月の降雪期で、 日本有数の豪雪地帯であるため、作品の設置について検討することが困難で あったが、NPOの方々の助言をいただいた。作品の制作については大学で実 施した。プランの傾向によって5グループに分け、学生の主導によって制作 を進めていった。 展覧会の実施おいて以下の点を明らかにすることが求められた。 A 雪対策 1.二メートル以上の積雪のなかで作品の施工 2.雪に慣れていない学生に対する援助 3.展覧会期間中の降雪対策 B LED蓄電点灯システムについて 1.低温下でのシステムの動作 2.低温下でのバッテリーによる蓄電 3.低電圧の蓄電・駆動回路の実現 4.降雪時の漏電対策 5.熱発電の昇圧 雪対策については、シャベルやスノーダンプによる除雪も検討したが、施 工における滞在日時に限りがあり、小型の除雪機やショベルカーで大まかに 雪を整える作業を担当いただけることとなった。また、屋根からの圧雪の落 下の危険がある箇所については、事前に雪下ろしを実施いただいた。学生に 対しては、厳寒地における服装のアドバイスを行い、定期的に室内に待避で きるように、自然エネルギー研究会のご自宅をお借りした。展覧会期間中に ついては、NPOの方々により定期的な除雪と作品の管理をいただけることと なった。 今回のLED点灯システムは、日中に充電を行い夜間に電力を放出するため、 システムが零下以下でも確実に動作することが求められた。また、水車に利 用されている発電機は自転車用のダイナモモーターであるため、10V以下の 低圧である為、太陽電池用のパワーサプライを流用することが出来ず、マイ クロコンピューターによる制御回路の開発を行った。バッテリーについては、 リチウムイオンポリマー電池が単位容積あたりの容量が大きいことが知ら れているが、零下では極端な性能低下を行うことが判明したため、低温下で もある程度の充電と放電能力を持つ、ニッケルカドニウム電池を採用するこ ととした。作品のプランによっては、システムからLEDまで数百メートルの ケーブルで接続する必要があり、ケーブル間で接続を行う必要がある。その 際に、雪などの水分が入り込み漏電を起こす可能性があった。一カ所の漏電 においてもシステム全体の動作不良が起こることが予想された。その為、 PWM(pulse width modulation)による定電流を用い、万が一漏電しても300mA 以上は流れない仕組みを構築した。暖炉(ロケットストーブ)における熱発 電については、暖炉の天板が260℃程度まで上昇するため、通常のペルチェ 素子ではなく、高温に対応するものを入手した。また、50℃程度の温度差か ら発電を行うことができるが、出力電圧は0.8V程度とLEDの定格である3.3V にとって低圧の為、昇圧回路の組み込みを行った。 以下学生の作品についての解説を行う。 ○雪の壁チーム(hybrid13 雪の壁チーム:部分) 通路に彫り込んだくぼみに、26個のハイパワーのLEDを設置し雪に反射した 光を表現した。センサーにより人が近づくことで流れ星のように光が移動す る。現地で化け物とされているヤサボロカカに対して、魔除けの存在でる「め け」が住人を守るため、家から家に駆け抜ける様子を表現している。 ○禅ガーデンチーム(hybrid08 禅ガーデンチーム:部分)(hybrid15 禅 ガーデンチーム:全景) 30m×50m四方の田園の全体を使用し、23個のパワーLEDの設置を行った。京 都の竜安寺をイメージして、雪を砂、氷を岩に見立ている。小水力では同時 の点灯が難しいため、マイコンによる点灯制御を行い、光のパターンを作り 出している。 ○水車小屋チーム(hybrid05 水車小屋チーム:作品全景) 水車のホイールに5mmの砲弾型LEDを取り付けて発光させている。直流平滑回 路は使用していないため、高速に明滅し微弱な電力においても高い視認性を 有している。電圧が一定してない為、定電流ダイオードにより電流リミット 回路を添付した。プラスチックダンボールで作られた覆いの内部には、マン ボウを模したオブジェが設置されており、LEDにより外部に影が投影される。 マンボウは英語でSunfishと呼ばれ、三島町の方々の温かいおもてなしに感 激した学生がオブジェを設置した。また、夜水中で発光することも古い文献 で伝えられており、子供達が喜ぶ工夫が凝らされている。 ○星をみるチーム(hybrid04 星をみるチーム:雪洞内部)(hybrid07 星 をみるチーム:遠景) 4名程が内部に入ることの出来る雪洞である。内部には青色のLEDが壁に埋め 込まれており、来場者が内部に入ることを促すようになっている。天井には 30cmほどの穴が開いており、鑑賞者が内部に入るとセンサーによって青色の LEDがフェードアウトで消灯し、天井から屋外の星がみえる仕掛けとなって いる。学生が調査の際に、三島町でみた星空の美しさとゆっくりとした時間 を多くの方と共有するために制作を行った。 ○小屋に投影チーム(hybrid11 小屋に投影チーム:外部)(hybrid12 小 屋に投影チーム:内部) 取り壊しの予定であった物置小屋のなかで、三島町の伝統工芸品の編み組細 工を発見し、LEDと組み合わせることで、空間内に影を投影した。LEDの特徴 であるシャープなエッジによる影に加え、光源を振り子に取付けて部屋全体 が振り子時計の様に時を刻むイメージを表現した。 ○ロケットストーブチーム(hybrid09 ロケットストーブチーム:作品全景) (hybrid03 ストーブに設置した熱電発電装置) 石川様宅の玄関の軒下に、ヤマブドウを模した光るオブジェを設置した。暖 炉を使用したときのみオブジェが点灯し、火力によって明るさが変化するこ とで、生活の痕跡や人の温かさを表現している。 1月9日(金)から12日(月・祝)にかけて、作品の施工のため三島町に滞在 した。例年より積雪が多いとのことであったが、幸いにも天候が厳しくなる ことはなく、終日作品の施工・調整を行うことができた(hybrid10 作品の 施工)(hybrid14 作品の施工)(hybrid17 作品の配線作業)。また、各 チームにはNPOと近隣の方々が個々に同伴していただき、安全面に対しても 援助をいただいた。最終日には、現地の方々も含めた反省会を行い意見交換 を行った。 ・評価 2015年1月13日(火)から1月23日(金)の期間中に、のべ**名の来場者があ った。また、福島民友や福島放送局からの取材もあった。期間中のLEDシス テムの動作時間は、合計**時間で、大きなトラブルはなく、低温下での動作 も可能であることが証明された。授業終了後の学生へのアンケートでは、**% の学生は履修について、満足していると答えており、特に奥会津地方の方々 との交流が出来たことを理由に挙げている学生が複数いた。現地のNPOから は、**************であったと評価をいただいている。 ・今後の展望と課題 今回のプロジェクトでは、NPO・役場の方々などの現地の方々のサポートに より実施を行うことができた(hybrid06 自然エネルギー研究会によるサポ ート)。また、学生らしいの斬新な発想や筑波大学の工学技術により、三島 町の方々との協働プロジェクトを十分に遂行することができたと思われる。 このような関係を今後もより深く継続する為の方法を検討する必要がある のではないだろうか。(あと100字ほどこの部分に記載いたします。) ・履修者 蔵本 航、安齋 聖人、酒井 菜津子、石田 結香、齊藤 明美、鈴木 絹 彩、鈴木 ゆり、石川 文月、丹治 遥、野口 悠梨、早川 翔人、別城 拓 志、堀内 菜穂、三宅 映未、Mana Salehi、Bao Zixian、堀 真実 ・TA(ティーチングアシスタント) 成田 敬、永井 淳也 ・研究員 飯田 将茂 ・履修者の声 石田結香 私たちの作品は水車小屋とマンボウの作品ですが、二日目の夕方の設置中、 寒さが増して空も暗くなり作品もどうなることか…と不安だったときにぼ うっと光を浴びて小屋に映ってくれたピンク色のマンボウの神々しい姿が 忘れられません。次第に水車によってカラフルに照らされていくとともにい ろいろな暗い気持ちが吹き飛びました。屋根にもあんなふうに、三島町の建 物と同じようにきれいに雪が積もってくれるとは思っていなかったので感 動でした。この授業ではみんなで一つのものを作るにあたっての意見共有や 役割分担の難しさ、グループワークの難しさを改めて実感しました。自分の 中で反省し、整理して、いい経験になったと思うので、今後に生かしていけ たらと思っています。雪もごはんもきれいでおいしいし、みなさんの作品も 素敵でとても楽しい時間でした。 齊藤 明美 今回のプロジェクトでは現地の方の存在がとても大きいものになりました。 多くの人のお力を借り、期待もあった中でのプロジェクトだったので、どう しても成功させなければならないという気持ちが大きかったです。また、自 分とは全く異なる環境に住む、異なる世代の方とお話することができたのは、 普段はできないことだと思います。今までは三島町の"み"の字も知らなかっ た私ですが、この授業で物理的に遠かったはずの町に思い入れができ、去る ときは寂しい気持ちになっていました。 堀内 菜穂 今回の活動で大きく感じたものの一つが、作品として完成させることの難し さです。簡潔なプロジェクトだと思って取り組み始めましたが、そんなこと はなく、来る日も来る日も基盤やケーブリングに追われていました。基盤が できても、ケーブルをさばいても、なぜかLEDが点灯しない。完成なんてし ないのではと内心かなりネガティブになっていました。それでもこのプロジ ェクトを投げずに逃げずに取り組めたのは、グループワークであり、三島町 の方との共同プロジェクトだったからです。今まで自分が制作したものは大 なり小なり自分のさじ加減で妥協ができていました。しかし今回は点灯する か否かという点において妥協ができず、完成させざるを得なかったものでし た。ものを作る人・表現者として妥協はいつでも許されませんが、初めて本 当に妥協が許されない制作であったと思います。それがまた自分にはプレッ シャーとなっていたのですが、その分作品が完成し光が点灯したり走ったり する様子を見た時はとてもとても感動しました。今の自分にとっては、初め て「やりきった」作品になったと思います。 野口 悠梨 コンセプトに着想を得て固めていく間、チーム内での完成予想図がなかなか 共有できなかったり、スケジュールがぎりぎりになってしまう場面もありま した。けれど工程を経るにつれ、それも解決していきました。当初ひとりで 始まったこの企画が、ふたりの仲間が加わり、先生をはじめ、様々な人に助 けてもらった、この関わった人たちとの連なりに感謝と人の暖かみというも のを感じました。このプロジェクトに参加しようと思ったのは、初めは、光 を使って自然と息を合わせるような作品を作るということ、まだ会ったこと もない方々と協力してひとつのプロジェクトを形作るということ、そして雪 深い所という、会津の三島町で展示をするのがとても楽しみだと思ったこと が出発点でした。けれど活動を終えて、経験したことのない大きなひとつの アート作品を多くの住む土地も考え方も違う人々と共に作るという貴重な 経験をすることができました。楽しみ、緊張感も味わいながら、意味のある 作品を制作できた三日間でした。 Mana Salehi Light and water are two important elements in nature and have main role in the scenery which we observe during four seasons from day to night in Winter, Spring, Summer and autumn. In this project we all faced with the process that how a dream comes true even seems impossible! Language and knowledge are very important for communication and expressions but is more important your warm attitude, effort and interest to realize a dream which is a constant reconciliation with nature and others. Many thanks for your generous and gentle attitudes to make this poetic memory happen. It will be forever in Otani, Mishima-cyo. ・協力団体・組織 森のはこ舟アートプロジェクト実行委員会事務局 三島町教育委員会 NPO法人会津みしま自然エネルギー研究会 NPO法人わくわく奥会津.COM 三島町の住民の方々
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