Exeter 訪問記 今回、Cemented Hip Education Foundation (CHEF)のトラベルスポンサーシ ッププログラムに参加させていただき、エクセターの Royal Devon and Exeter Hospital を見学してきました。現地で体験したことなどをご報告させていただ きます。 Royal Devon and Exeter Hospital 8 月 31 日(土) エクセターはイングランド南西部、Devon 州の州都で、ロンドンから鉄道で約 2 ~3 時間で行くことができます。プログラムが、9 月 2 日月曜日の午前 9 時から 開始とのことでしたので、私は 8 月 31 日に日本を出発、同日夜にロンドンに到 着し、Paddington 駅近くのホテルに宿泊しました。 9 月 1 日(日) 午後に Paddington 駅を出発した私は、町の北西にある Exeter St David's 駅に 無事に到着しました。無事にと書きましたが、実は、駅に着いたにもかかわら ず、電車のドアが待っていても開かず、かなり焦りました。私の後ろに並んで いた人に、電車のドアの窓を開けて、手を列車の外に出して外側のハンドルを 使ってドアを開けたらよいと教えてもらい、何とか事なきを得ました。この方 式は、イギリスでは当たり前のことのようですが、ドアは自動で開くものと思 っている日本人の私には、結構な驚きでした。私以外に電車を降りる乗客が、 いなければ、降り損なっていたかもしれません。 エクセターは、決して大きくはないですが、街のいたるところに、ローマ時代 の城壁の遺構が残っており、それを取り囲んで新しいショッピングモールがあ るというような具合で、古い ものと新しいものがうまく同居しており、落ち着 いた雰囲気の街でした。 1 9 月 2 日(月) 私が見学させていただいた Royal Devon and Exeter Hospital は、約 850 の入 院用ベッドと 75 の日帰り用ベッドを持つ、この地域の中核病院で、Exeter Hip Team もこの病院の整形外科専門部門である Princess Elizabeth Orthopaedic Centre (PEOC) に属しています。PEOC では、年間 THA 1000 件、TKA 800 件程度はこなしているとのことでした。 午前 9 時前に PEOC についた私を、Jonathan Howell 先生が出迎えてくれまし た。 Howell 先生 今日は、朝から、Charity 先生の、primary THA が三件と午後に Timperley 先 生の revision THA が 1 件あるとのことで、さっそく、手術室に案内していただ きました。 THA は、すべて後方アプローチを用いて、行われていました。体の大きな患者 さんが多いこともあって、15 ㎝程度は皮膚切開をされていました。ステムはも ちろんエクセターステムなのですが、この日の primary THA は、すべてセメン トレスカップを使われており、少し意外な気がしました。このことについて、 Charity 先生に尋ねると、症例によって使い分けられているとのことで、 Charity 先生ご自身は 15%程度の症例にセメントレスカップを使われていると のことでした。ステムの設置については、脚長差を出さないことを最も重視さ れているようで、専用コンピュータソフトを用いて術前X線写真より術前計画 を行い、大転子の頂点からステムのマークまでの長さを計測し、それにちょう ど合わせて、ステムをセメント固定されていました。ちなみに、ボーンプラグ は使用せず、セメントプラグを使用されていました。セメントの温度管理につ いては、室温は摂氏 21 度前後に設定し、セメントとステムは摂氏 24 度に設定 2 した保温庫の中で保管してありました。ステムは挿入前には摂氏約 56 度の生食 につけて、プレヒートしていました。閉創時には、関節包、外旋筋群を、大転 子に穴をあけしっかりと縫着し修復されていました。 術前計画 pre heat_edited-1 rasp 余談ではありますが、Charity 先生はブラジルのご出身で、奥様は日系のブラ ジル人とのことで、家でおいしい日本食を食べることができるので私はラッキ ーだと言っておられました。 午後の Timperley 先生の revision THA は、エクセターステムがネックのとこ ろで折損した症例でした。Timperley 先生曰く、ステムの折損は非常に珍しい ことで、ステムの製造過程で何か問題があったのではとのことでした。 Exeter Hip Team は、Timperley 先生を長として、Hubble 先生、Howell 先生、 Wilson 先生、Charity 先生の 5 名のスタッフ及び Petheram 先生と Kazi 先生 のフェロー2 名(卒後 10 年程度とのことでした。)の医師とオーストラリアから 3 来ているリサーチフェローの Whitehous さんと数名の秘書で構成されています。 世界的に有名な Exeter Hip Team の割には、意外とこじんまりとしているなと いう印象を私は受けました。 9 月 3 日(火) 前日と同じく、この日も手術見学で、Howell 先生の primary THA が 2 件と外 傷後の complex THA が 1 件でした。この日の primary THA は、カップもセメ ント固定されていました。セメントカップ使用時には、リムカッターと吸引の できるピンリトラクターが Exeter Hip Team のオリジナルのようで、使用を勧 めておられました。complex THA は、股関節の脱臼骨折後で、臼蓋の骨欠損が 大きかったので、同種骨移植をした後、セメントレスカップを使われていまし た。 この日の晩は、ストライカーUK の Sam が、フェローたちとの夕食に誘ってく れて、Harry’s grill bar というお店に連れていってくれました。イギリス料理は 総じておいしくないというイメージがあったのですが、この店でお勧めのシャ ンピニオンステーキは、結構おいしかったです。 9 月 4 日(水) 本日は、Hip Team の手術予定はなかったのですが、Howell 先生が PEOC のす ぐ近くの私立病院である Nuffield 病院で、primary THA を 2 件予定していると のことで、見学に行かせてもらいました。 午後 2 時からは、PEOC でカンファレンスがあり、医師以外に手術室の看護師 やリサーチフェロー、ストライカー社の担当者も出席して、術前後の写真を見 ながら、いろいろと議論をされていました。それぞれの先生方の考え方がよく わかり、このカンファレンスはなかなか有意義でした。そのカンファレンスの 後に、Howell 先生にお願いして時間を少しいただきましたので、ずっとセメン トレスを使用していた私が、何故エクセターステムを使用するようになったか についてプレゼンテーションさせていただきました。 9 月 5 日(木) 午前中は手術がなかったので、空き時間を利用して、市内観光に出かけました。 エクセターはもともと観光地ではないので、そんなに見るところはないのです が、14 世紀ごろに造られた水道跡が町の地下に残されており、まあ単に狭いト ンネルが地下にあるだけなのですが、なかなか歴史が感じられて良かったです。 4 Exeter の町並み お昼からは、primary THA が 2 例で、フェローの Kazi 先生が、小柄なインド 系女性の physician assistant と 2 人で手術をしていました。女性が非力で少し やりにくそうな感じでした。Kazi 先生は、PALACOS R+G を使われていました。 他の先生方が使われている Antibiotic Simplex に比べるとかなり固まるのが早 かったです。骨セメントの使い分けについては、私の聞いた範囲では、術者の 好みとのことでした。 この日は、イギリス北部のダーリントンから、3 名の英国人整形外科医が見学に 来ていました。彼らに、チャンレーステムについて尋ねると、最近はエクセタ ーステムのほうが popular でどちらかというとチャンレーステムは historical な感じがするとのことでした。 9 月 6 日(金) 最終日は、Howell 先生の primary THA が 3 件でした。さすがに、毎日 primary THA を見ていると、皆がほぼ同じ手技でされることもあり、ちょっと飽きてし まいました。 手術が終わって、Howell 先生にお礼を言って別れを告げ、ホテルに戻って荷物 を pick up しようとしたら、ホテルの受付の人が病院から電話がかかってきて、 病院にラップトップを忘れていると連絡があったよとのこと。慌てて、タクシ ーを頼んで、病院に引き返し、ラップトップを取り、それから Exeter St David's 駅に向かってもらいました。夕方の時間帯は、渋滞で、なかなか駅に到着でき ず、予約していた電車の時間に間に合わなかったのですが、電車が遅れており、 何とか予約していた電車に乗ることができ、事なきを得ました。 (英国の鉄道は よく遅れるようで、結果としてラッキーでした。) 9 月 7 日(土) ロンドン観光の後、夕方の便で帰途につきました。 5 1 週間というのは長いようで短くて、もう少し、revision か femoral IBG でも あれば見たかったのですが、ちょっと残念でした。(ただ、femoral IBG は、エ クセターステムが良すぎるので?最近はあまりないようです。) 今回の 1 週間の滞在を通じて感じたことは、イギリスは(アメリカもですが) 比較的変形の少ない一次性 OA の症例が多く、DDH の症例が多い日本とは術前 計画を含めて、手術の考え方がかなり違うということです。この考え方の違い を実際に体感できたことは、私にとって非常によい経験になりました。今回の 訪問を終えて、Exeter Hip Team のオリジナルの考え方を基本に、 (サイズなど も含めて)日本の症例に合わせて modify していくことが重要と考えています。 最後にこのような素晴らしい機会を与えてくださいました CHEF の役員の先生 方に深謝いたします。 6
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