貧血の原因と診断に必要な検査について

平成 26 年 10 月 29 日放送
貧血の原因と診断に必要な検査
JA とりで総合医療センター
臨床検査部検査主任 中嶋文江
司会: まず、貧血の診断に必要な検査項目を教えてください。
中嶋: 赤血球数(RBC)
、ヘモグロビン濃度(Hb)血色素量ともよばれています。
それからヘマトクリット値(Ht)、この三項目を測定し、さらに赤血球恒(MCV、
MCH、MCHC)を算出します。通常はこれら 6 項目が貧血の程度と鑑別診断に必
要となります。この結果でさらに詳しい検査が必要になる患者さんもいます。
司会:
貧血とはこれらの検査値がどれ位になった場合ですか?
中嶋:
貧血とは、血液中のへモグロビン濃度が基準値以下に低下した状態を言いま
す。基準値は、成人男性で 13g/dl 未満、成人女性、小児(6歳以上)で 12g/dl
未満、妊婦及び6歳以下の幼児では 11g/dl 未満と WHO で定義されています。
ここで気をつけていただきたいのは、貧血とは、診断名ではなく、ヘモグロ
ビン濃度が低下している症状をいいます。
司会:
どのような自覚症状が表れますか?
中嶋:
全身に酸素を運ぶヘモグロビン量が不足するわけですから、脳などの組織が
酸素欠乏状態になります。主な症状は息切れ、めまい、動悸、倦怠感、脱力
感などといわれますが、貧血の程度や経過によっても異なります。
司会:
先ほどの検査項目から診断がつくのですか?
中嶋:
はい、先ほどの赤血球恒数が貧血の鑑別に有用な手がかりになります。
MCV は平均赤血球容積と言いまして赤血球1個の大きさを表します。
基準値は 81∼100fl でこの範囲の赤血球を正球性、80fl 以下を小球性、
100fl 以上を大球性と大きさで分けます。
MCHC は平均赤血球ヘモグロビン濃度と言いまして単位容積あたりのヘモグロ
ビン濃度を表します。
基準値は 31∼35%で基準値内の赤血球を正色素性とし、30%以下は低色素性
になります。
MCH は平均赤血球ヘモグロビン量と言いまして赤血球 1 個あたりのヘモグロ
ビン量を表します。
これら赤血球恒数を組み合わせることで、小球性低色素性貧血、正球性正色
素性貧血、大球性正色素性貧血に分類することができます。
司会:
小球性低色素性貧血のなかにはどのような貧血がありますか?
中嶋:
代表的な疾患に鉄欠乏性貧血があります。
ヘモグロビンの合成に必要な鉄が不足するために起こる貧血で、月経や婦人
科疾患のある女性に多く慢性の出血が原因となります。また、偏食やダイエ
ットなどで鉄の摂取が少ない場合でも起こります。
この貧血は頻度も高くわが国では貧血の約 2/3 を占めると言われています。
司会:
正球性正色素性貧血のなかにはどのような貧血がありますか
中嶋:
怪我などの外傷による出血で、赤血球を多量に失い急激に起こる出血性貧血
がこのタイプです。また、赤血球が破壊されることを溶血といいますが、色々
な原因で溶血が起こり赤血球の寿命が短くなってしまう溶血性貧血などがあ
ります。
司会:
大球性正色素性貧血といわれる貧血もあるのですね。
中嶋:
巨赤芽球性貧血がその代表的な疾患です。
赤血球の DNA 合成に必要なビタミン B12 や葉酸が欠乏すると骨髄中で、核の
成熟が障害され分裂できないために大きな赤芽球が作られます。これらは壊
れやすく、血液中では大型の赤血球が数少ない状態になります。
司会:
赤血球の大きさやヘモグロビンの量によって貧血のタイプが分類されて
診断がつくのですね。それではなぜ貧血になってしまうのですか?
中嶋: 通常、赤血球は 1 日1∼2%ずつ骨髄で産生され、約 120 日間体内を循環した
後、脾臓をはじめ肝臓、骨髄などで破壊され消失します。赤血球の産生量より
消失量が多くなりそのバランスが崩れた時に貧血の状態になります。
赤血球の元になる幹細胞が減少したり、先ほどもお話しましたが、ヘモグロビ
ンを合成する材料が足りなかったり DNA の合成に障害が起こると赤血球の産
生は低下します。
また赤血球を作るにはエリスロポエチンという腎臓で作られるホルモンが必
要ですが、腎臓が悪いために二次的に産生が低下することもあります。
さらに赤血球の膜に異常があったり、脾臓や肝臓に原因あって赤血球が寿命よ
り早く破壊されてしまう場合もあります。
貧血の原因は本当に数多くあり、その診断は原因により異なります。
司会:
他にも貧血の診断に必要な検査項目がありますか?
中嶋:
実は貧血の中には、重大な血液疾患が隠れている場合があります。白血病や
再生不良性貧血、骨髄異形成症候群など聞きなれない病名もありますが、直
ぐに治療をしなければ命に関わる疾患もあります。それらの診断には先ほど
の6項目に加えて、白血球数、白血球百分率、血小板数が重要な検査項目に
なります。更に血清鉄、フェリチン、TIBC、UIBC などの詳しい検査項目も必
要になります。
司会:
これらの検査は皆さん方がうける健康診断でも測定している項目ですよね。
中嶋:
そうです。ご自分の健診結果をよく見て下さい。貧血はあるのか、赤血球の
大きさは小さくないか、赤血球恒数にも注意してもう一度見直して下さい。
また、貧血を指摘された方は、重大な血液疾患が隠れている場合もあります
ので、必ず病院で更に詳しい検査を受けてください。