産業医の先生へ ∼定期健康診断における有所見率の改善のために

産業医の先生へ
∼定期健康診断における有所見率の改善のために∼
産業保健相談員
武田
由美子
山形県の事業所(従業員50人以上)における定期健康診断の有所見率は約60%(!)
と、全国平均を約10%(!)も上回りながら、年々、増加傾向にあると言われて久し
いです。
健康診断の有所見の増加には、いろいろな要素が上げられると思います。
線引きとなる基準値が、きちんと決められていないことも一因でしょう。
個人の病態や経過でみたら、同じ値でも要再検となる場合もあれば、支障なしのことも
あるので、調査目的に、一律に基準を適用することの是非はあるのでしょう。
とはいえ、有所見率を下げるべく、色々と対策を講じたいところでありますが、その前
に、ちょっと思う所あります。
監督署に提出する書類というもの(「定期健康診断結果報告書」)を事業所の担当者が産
業医の先生方に見せに来られると思います。
見せに、というより、とりあえずハンコさえ頂ければという雰囲気もなきにしもあらず
ですが、産業医の先生方は、そこの数字を見て、ギョッとされることはありませんでし
ょうか?
たとえば、貧血検査。従業員50人ちょっとなのに、有所見者数が20人もいたら、
え!?貧血の人がこんなに??と、ビックリしますよね……。
さて、どうしますか?
健康診断は、今は、ほとんどがコンピューター処理で、自動判定もしてくれて、かなり
便利になっています。要観察、要精査…etc.有所見者の拾い上げも楽チンです。人間の
手作業より、コンピューターのほうが正確(?)なので有所見者〇〇人、医師の指示人
数〇〇人とはじき出されたら、ハア∼そうですか……と素直に受け止めますよね?
しかしですね。
自分の担当した事業所の有所見率がこんなに多いなんて!!!とショックを受けつつ
自分の身内と思っている事業所をかばいたくなりながら、これは、何かの間違いで
は??
と思いたくなるのも人情です。
従業員50人ちょっとなのに、貧血検査の有所見者数20人は、絶対おかしい!!と思
うわけです。
そう疑いつつ、健康診断の個人票に目を通します……
有所見者に関しては、事業主は、医師に意見を聞くことになっていますので、健康診断
の個人票を産業医の先生にお見せしていると思います。
(一人一人、ご覧になっていますよね。)
法定の定期健康診断の項目は、シンプルです。正直、これだけ?という感じなので、事
業所や健保によっては、多項目にわたる詳細な健康診断を取り入れているところも多い
かと思います。
有所見者が多いことを、問題として話を進めていますが
項目が増えることは、有所見者が増える要素になります。
たとえば、貧血検査の法定項目は、赤血球数と血色素だけです。
けれど、自動血算では、白血球数や、MCV などの赤血球恒数も一緒に検査されます。
白血球数の判定を別に出してくれている機関もありますが、そうでないところもありま
す。
貧血有所見者のなかには、白血球数の異常者がほとんどだったことがあります。
それと、多血症傾向の場合も、貧血検査異常として、拾い上げている場合があります。
医師の判断で支障なしと判断されれば、貧血検査の有所見にはならない例です。
そのほかの例では、肝機能の有所見もあります。
法定項目は、GOT.GPT・γGTP の3項目だけですが、もっと詳細に検査されている場合
があります。そのなかで、たとえばコリンエステラーゼが、若干、基準値からはずれた
場合に有所見となっている場合があります。これなどは、産業医の判断で、支障なしと
判断できる可能性があると思われます。
健康診断の有所見が多いことをお題にしてきましたが。
もちろん、監督署に提出する法定健診の範囲内のことです。
しかし、意外にも、思わぬ落とし穴があることもあります。
法定項目外の項目が有所見となる場合です。
たとえば、尿酸値です。かなり高値で要再検となる場合に、有所見であっても監督署の
提出用紙の有所見者には入らなくても、医師の指示人数にカウントされてしまう恐れが
あります。医師の指示人数が、法定項目のみになっているかの確認が必要です。
本来、求めていないものが、結果に反映されていたとしたら正確な判断はできません。
疑うわけではありませんが、正確な機械と言えども、設定しているのは人間で必要な情
報により、調節しないといけません。
産業医の先生方の目で、今一度、健診結果のご確認を、お願いいたします。