‘バイオガス経済’来る! -英国・社会科学研究所(ISIS)のレポート- わずか 2,3 年前に‘水素経済’という言葉が、今の化石燃料に占領されている‘炭素経済’ に続く後継者として誰の口からも語られていた。しかし、実際はそうはならなかった。‘バ イオガス経済’が少なくとも将来を見通せるものとして、その地位にとって替わろうと現 れたのだ。 2007 年にドイツの緑の党がライプチッヒのエコ研究所とエネルギー研究所にヨーロッパに おけるバイオガスの可能性についてのレポートを委託した。そのレポートは 2008 年の初め にメディアに公開され、それは 2020 年にはドイツが単独で、EU 各国が現在ロシアから輸 入している天然ガスの全量以上のバイオガスを製造できる、という主張であった。 ドイツでは、今バイオガスブームに沸いており、再生可能エネルギーの中で、バイオガス 分野がヨーロッパの最も急成長している産業となっている。マーケットリーダーのシュマ ックバイオガスは、1 億 3 千万ユーロ(約 170 億円)もの投資金額を受注して業績を拡大 しており、 数件の大規模プロジェクトに関わっている。それらのうちの 1 件は、E.ON Rurgas (ヨーロッパのガス大手 E.ON の子会社)と E.ON Bayern によるヨーロッパ最大のバイオ ガスプラントであり、4 メガワットの設備で、建設費 1,580 万ユーロ(約 20 億円)となっ ている。ガス洗浄・精製の後、高品質メタンガスとして天然ガスによる都市ガスラインに 供給される。 ドイツのバイオガス生産は、その多くをトウモロコシなどのエネルギー作物に頼っており、 シュワンドルフ地方(ドイツ東部の穀倉地帯)の農業の恩恵を与えてきた。 はじめから農家にとって、 ‘エネルギートウモロコシ’作物としてバイオガスプラントから 買い上げてもらう保障付きの栽培であった。実証に裏付けされた見解ではないが、2007 年 7 月のシュマックバイオガス社の社告によれば、このエネルギートウモロコシは、“同じ食 用トウモロコシの約 1/3 の土地で栽培でき” 、しかも“地味の低い土地でも可能で、それを 肥沃な農地に変える”そうである。 世界銀行の最近の報告でも確認されたように、食品の価格はその一年後のエネルギー作物 への転換による高騰を予測できなかった。 バイオガスは、家畜糞尿に含まれる天然のバクテリア群による嫌気性発酵により造りださ れ、60-70%のメタンガスを含み、それは天然ガスと同じように燃料ガスとして利用できる。 1ヘクタールから収穫できるトウモロコシからバイオガスは、エタノールの 2 倍以上の効 率でエネルギーを製造できることは真実であるが、主な優越性は、家畜糞尿、穀物の残渣、 食品や食品廃棄物さらに、紙や人糞など広範な有機性廃棄物から造りだせることであり、 分散化されたエネルギー供給としてコジェネレーション(電熱供給)によってよりエネル ギー化効率を高めることができる。当社会科学研究所(ISIS)では悪化する温室効果ガス の排出削減と「ピークオイル危機」による「食とエネルギーの安全保障」のため、2005 年 以来嫌気性メタン発酵を推し薦めている。であるからして、我々ISIS は「バイオガス経済」 の到来を歓迎するものである。 しかしながら、 「バイオガス経済」がバイオエネルギー作物による大企業による集中発電シ ステムにハイジャックされ、それにより、私たちの食の安全や、そのフルエネルギー化、 炭素緩和の可能性、そして他の今実現化しつつある利点が危機にさらされる危険性がある。 バイオガス-アメリカ 「バイオガス経済」が離陸しようとしているという確実なサインは、アメリカ合衆国にお いても語られ始めている。新しい研究により家畜糞用からのバイオガスの優位性がさらに 強化されつつある。アメリカの家畜産業は、毎年 10 億トンもの糞尿を排出しており、その 大半は、分解させるためラグーン方式(濠の中に蓄える方式)であって、土地、水や大気 を汚染し、推定では CO2 換算で 5,100 万トンから 1 億 1,800 万トンの CO2、メタン、亜酸 化窒素ガスのような地球温暖化係数(GWP)にして 21 と 310 の温室効果ガスを排出して いる。 オースチンにあるテキサス大学の化学者のアマンダ・クエラとミカエル・ウェバーは、ト ップダウンアプローチと複合エネルギーと温室効果ガスのための二つのシナリオの比較を 行ってきた。 シナリオAは今までのやり方で、家畜糞尿を開放したラグーンに貯蔵し、石炭を燃やして 電気を造るというシナリオで、家畜糞尿と石炭火力発電の両方から温室効果ガスが排出さ れる。シナリオBは、全ての家畜糞用を嫌気性メタン発酵槽に投入し、排泄物をバイオガ スに変換するというシナリオ。結果としてバイオガスは石炭火力発電を相殺するため、排 出される温室効果ガスはバイオガス発電によって排出される CO2 のみである。他の異なる 動物の糞尿も併せた結果からクエラとウェバーは、合計で 928 兆 BTU のエネルギーを得る ことができ、これはこの国が使用する一次エネルギーの1%に相当する。そして、バイオ ガス発電の電力変換効率を 25 から 40 パーセントと仮定すると、 年間 680 億 kWh から 1,090 億 kWh の電気が発電され、これはこの国の総発電量の 2.9%に相当する。次に彼女らは、 石炭火力発電所の発電効率を典型的な 33%として、同じ量の電力を生産するために必要な 石炭の当量を計算し、二酸化炭素排出量を比較した。 家畜糞尿からのバイオガス化は、す なわち、CO2 重量換算で約 47.2 から 150.4 メガトンの排出削減になり、これはこの国の二 酸化炭素排出量の 6 パーセントに相当する。アメリカの研究者たちはバイオガスを様々な 面で控え目な見方をしてきている。他の有機性廃棄物と合併処理を行えば、3 倍とまではい かなくても恐らくバイオガスの発生量は倍以上になるくらいの顕著な増加となるであろう。 そしてバイオガスは精製してバイオメタンにすることで、自動車や農業機械への利用によ り再生可能燃料として化石燃料に置き換えられるため、結果として温暖化ガスの緩和と既 存エネルギーの節約に貢献することになる。 バイオガス-スウェーデン スウェーデンは、1996 年からバイオガスによるバスや他の車両への利用で世界をリードし てきた。バイオガスは、車両燃料の必要条件を満たし、エンジンの発錆や磨耗を防ぐため、 ガスクリーニングし精製圧縮したバイオメタンにする必要がある。ガスクリーニングには 微粒子、水分、硫化水素の除去が含まれる。精製にはバイオガスの中に 30~40%含まれる CO2 の除去工程が含まれている。このガスクリーニングと精製は、スウェーデンでは標準 セットとして 1999 年に確立されている。 最も一般的な精製の方式は、高圧洗浄方式であり、 続く一般的な方式は PSA(Pressure-Swing-Absorption)方式である(ガスを容器内で真空 近くまで減圧し、その圧力で活性炭やゼオライトのような多孔物質に CO2 を吸着させ、常 圧に戻す方式) 。その他の方式は、ポリエチレン・グリコールや占有アミンなどの有機溶媒 に吸着させる方式である。2006 年には、車両用燃料ガスの 54%は、バイオガスである。2007 年 6 月には天然ガス、バイオメタン用の車両は 12,000 台であり、2010 年には、ガススタ ンドが 500 ヵ所、車両数は 70,000 台になると予測されている。車両用燃料としてのバイオ ガスの販売は、毎年増加している。2005 年と 2006 年の間で 48%に達し、2006 年末にはバ イオガス/天然ガススタンドの数は 95 軒となっている。 スウェーデンでバイオガスを車両に利用が始まったのは 1990 代で自治体やバス会社の公共 交通用としてであった。そこで彼らは、バイオガスによって下水汚泥が「資源」となり、 そのガスが地域で得られる「車両用燃料」になることを体験したのであった。スウェーデ ンでは、大部分のバイオガスが下水処理場や公共の廃棄物処理業者から供給されるため、 自治体が重要な役割を担っている。民間のバイオガス業者は、自動車用燃料販売とガスス タンドの建設にまで踏み込んでいる。E.On やイヨテボリエネルギーのようなガス会社は、 バイオガスの精製プラントに投資しており、更なる再生可能ガスビジネスへ積極的に行動 している。 強い政府の支援は重要である。初期投資額の 30%を助成、固定資産税無し、バイオガス自 動車所有者への所得減税、そして、ストックホルムの交通渋滞緩和のための「混雑税」の 免除などが含まれている。丁度、分散したソーラパネルからの電力が一般電力回線と連係 するように、都市ガス網が同じようにバックアップとしての役割を果たし、そしてバイオ ガスが新たな顧客へと供給されるのである。 バイオガス-ヨーロッパ 実際のところ、ヨーロッパの多くの国々では未だバイオガスを造り出す嫌気性メタン発酵 がバイオガスの優先性をアピールするまでには至っていない。例えばイタリアでは、自動 車は天然ガスか、または天然ガスとガソリンの両方で走っているのが一般的である。2008 年の 7 月にイタリアでの研究と講演の間、17 年も乗ったアウディ 2000cc のガソリンとメ タンガスのハイブリッド改造車を運転してみた。道路上の運転中、ハンドルの横にあるス イッチで二つの燃料の切り替えをスムースにできた。改造費は 700 ユーロ(約 9 万円)で、 トランクに設置し、圧縮したメタンガス 11 ㎥を貯蔵するタンクを含んでおり、さらに「肺」 と呼ばれる、ガスの燃料注入装置と見られる装置も含まれている。メタンを給ガスできる スタンドは 25km ごとにある。但し高速道路は無い。古いアウディは、メタン 1m3(熱量 40MJ、ガソリン1L より 20%多い)で約 30km 走った。これはメタンの方がエンジンをや や効率良く走らせたことになる。その上メタンの価格は m3 当たり 0.95 ユーロ(120 円) で、ガソリンはリッター当たり 1.5(195 円)ユーロ以上であった。以上から当然のことと してイタリアの人々は、ガソリンやディーゼルよりもメタンを利用していた。言うまでも 無いことであるが、ガソリンやディーゼルの価格は上がればメタンも上がる。ということ は自動車燃料としてのバイオガスのもうひとつの理由にもなる。 ドイツやオーストリアでは天然ガス車が走っている。大半のバイオガスの原料がバイオエ ネルギー作物を使っているが、両国ともバイオガスを利用する方向へ盛んに動いている。 最近両国とも自動車用ガス燃料の 20%をバイオガスにするよう、国の目標を定めた。ドイ ツでは 2006 年末で約 3500 基のバイオガスプラントがあり、合計で 110 万キロワットの発 電を行っている。ドイツでは最新式のバイオガスプラントでは、400kW から 800kW の発 電機を備えている。バイオガス発酵槽 40 基、2 万 kW の発電設備を備えた初のバイオガス エネルギーパークが運転を開始した。エネルギー作物が主な原料で、家畜糞尿は半分以下 となっている。エネルギー作物のための貯蔵プラントは主に産業機械会社が建設している。 ドイツではエネルギー作物用の作付面積が 130 万ヘクタールあり、これは全国の耕地面積 の 11.4%に達している。現在では下水処理場、埋立て処分場、そして産廃処理用の大型バイ オガスプラントは少なくなっている。しかし、2020 年には農場に建設された農業用または 食品工場に設置された混合処理用バイオガスプラントからのガスが、バイオガス全体の多 くを占めるようになると予測されている。 ヨーロッパ全体で、エネルギー作物と家畜糞尿を併せてどのくらいのバイオガスエネルギ ーが得られるのであろうか。南デンマーク大学の試算によると、バイオガスプラントにお けるエネルギー作物のエネルギー変換効率は 80%であるが、例えば発酵に不向きなリグニ ンのように、全てのバイオマス成分を消化できるわけではない。またエネルギー作物の約 25%がバイオガス用として供給され、後の残りは固形燃料、または液体燃料として他の再生 可能エネルギーの生産に適用されるのである。 EU27 カ国は、4 億 3,320 万ヘクタールの土地があり、その中の農地は 1 億 1,350 万ヘクタ ール、耕作地は1億 1,350 万ヘクタールである。もし、その 20%をエネルギー作物、例え ばスイッチグラス(イネ科の牧草)用に供すると仮定し、さらにその 5%をバイオガス用と すると、4,500 万 toe(石油トン換算)のメタンが得られ、これは計画されたヘクタールあ たりの現在達成されている固形物収穫量 20 トンの 2 倍もの収穫に当たる。その上、EU27 では、年間 15 億 7,800 万トンの牛、豚の糞尿がある。EU の家畜関連産業は、温室効果ガ ス排出全体の 18%を占めており、これには人為的発生メタンの 37%と人為的発生の亜酸化 窒素の 65%が含まれている。合計の家畜糞尿のからのメタンは 1,850 万 toe(石油換算 ton) になる。 この双方を併せた 6,400 万 toe、または 717 億立方メートルのメタンは、2020 年にはヨー ロッパの耕地の 5%で栽培されるエネルギー作物プラス山となす家畜糞尿から生産される のである。しかしこれは EU がロシアから輸入している天然メタンガス 744 億立方メート ルのほぼ全てを埋め合わせするものに過ぎない。もし、EU27 の耕地 20%のエネルギー作 物の全てが、バイオガスメタンに変換されるのならば(これはバイオディーゼルやバイオ エタノールに変換するよりはるかに効率がよいので明らかに納得できるが)見積りは極め て大きな増収となる。それは 1 億 8,200 万 toe の増収となり、合計約 2 億 50 万 toe となり これは現在の EU エネルギー消費約 20 億 toe の 10%に相当する。 天然ガスの消費は過去 30 年間増加しており、全世界のエネルギー消費のほぼ 1/4 に達して いる。2030 年にはこの比率が 43%にまでなるだろうと予測される。理論上の可能性から言 えばバイオガスメタンの可能性は、EU27 のヨーロッパの天然ガス消費の 15.5%を充分に製 造し供給できることになる(全てのエネルギー作物がバイオガスに供給されるのであれば、 更に多くの数字が考慮できる) 。同時にガソリンやディーゼル油から排出されるいくつかの 有毒物質、例えば、窒素酸化物や反応性炭化水素の 80%も削減されるのである。 大きな疑問点は、ヨーロッパの耕地の 20%をエネルギー作物に捧げた場合、果たして食物 生産や自然の生態系という面で維持可能となるか否かである。実際問題、用意された土地 のほぼ全ては穀類の栽培に供されることになるであろう。 小規模分散化発電の優位性 エネルギー作物に関しての様々な予測の中で、エネルギー作物を不必要にする小規模分散 化発電とその電力消費の優位性を考慮に入れているものはあまりない。バイオガスメタン は、その地区で造られ、消費されることで、エネルギー効率が高まることからかなりのエ ネルギー節約、それは 70%以上にもなるのである。それは、発電の際にでる「廃熱」を暖 房目的に使用できることと、一般電源に系統した場合の長距離送電のロスを防ぐことがで きるからである。これらの点を考慮し、エネルギー作物を考慮に入れず単にエネルギーと 炭素を緩和する有機性廃棄物からのバイオガスメタンに限定すれば、有機農法と当地農産 物の組合せで、更に 50%以上になるであろう。さらに小規模のソーラ発電、風力発電を加 えれば、炭素化石燃料を必要とせず、炭素隔離、巨大石炭火力発電のための貯蔵、または 原子力発電も必要としない。地域バイオガス循環経済は、きれいな空気と水をもたらす。 これは生物の多様性と農村経済にとっては良いことであるが、同時に豊富で、栄養価の高 い、そして健康に良い食品のための豊かな有機肥料をもたらすのである。 http://www.i-sis.org.uk/theBiogasEconomyArrives.php
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