田坂広志 風の便り 第171便 小石の意味 フェデリコ・フェリーニ監督の名作

田坂広志 風の便り 第171便
小石の意味
フェデリコ・フェリーニ監督の名作、
『道』という映画の中に、
多くの人々の心を励まし、癒す言葉があります。
家の貧しさゆえに、
大道芸人のザンパノに身を売られた田舎娘、
ジェルソミーナ。
彼女が失意の底にあるとき、
旅の途上で巡り会ったサーカスの道化師、
イル・マットが、
路傍の小石を手に、彼女に語りかけます。
この小石だって、役に立っている。
君だって、きっと誰かの役に立っている。
この小石が無意味だというのなら、
すべてが無意味だ。
登場人物にさりげなく語らせたこの言葉。
それは、実は、フェリーニが、
この映画を通じて伝えたかった
最も深いメッセージではなかったか。
あなたの人生には、意味がある。
この言葉は、たしかに、
我々の心を、励ましてくれます。
しかし、
この道化師の言葉を深く見つめるとき、
そこには、フェリーニが伝えようとした
もう一つのメッセージが潜んでいることに
気がつきます。
この世界のすべてに、意味がある。
道化師の言葉に我々が癒されるのは、
そのメッセージを感じ取るからなのでしょう。