特別養護老人ホーム「熊野川園」における ヒートポンプ給湯設備

―― 実 施 例 ――
特別養護老人ホーム「熊野川園」における
ヒートポンプ給湯設備
㈱大林組 本店 設備工事部 石 黒 嶺樹雄
■キーワード/
■キーワード/特別養護老人ホーム・ヒートポンプ給湯設備・業務用蓄熱調整契約
1.はじめに
2.建物概要
かつて「蟻の熊野詣」と称されるほど多くの参詣者が
建物名称 特別養護老人ホーム熊野川園
訪れた熊野三山(熊野本宮大社,熊野速水大社,熊野那
建 築 主 社会福祉法人 熊野川会
智大社)につながる熊野古道の中ほどに,特別養護老人
所 在 地 和歌山県東牟婁郡熊野川町西204−1
ホーム「熊野川園」が平成11年3月に開園した。
建物用途 特別養護老人ホーム
この施設は地域住民の介護を必要とする寝たきり老人
構造規模 鉄筋コンクリート造 地上2階建
を収容する特養ホーム(34人)とデイケア(23人)を併設
敷地面積 3,570.40㎡
しており,専門のスタッフ(30人)が交代で機能回復に
建築面積 1,140.57㎡
きめ細やかな介護を行っている。
延床面積 2,036.56㎡
周囲は木々に囲まれ,騒音のない山間の村落があり,
空気の大変きれいな場所である。
工 期 平成9年12月∼平成11年2月
設計管理 ㈱岡本設計事務所
この環境保護の配慮から化石燃料を用いない方式が採
用され,空調用途のエアコンのほかに給湯熱源として空
施 工 ㈱大林組本店
施工協力 電気工事 永野電気工事㈱
気熱源ヒートポンプチラー方式が採用された。保守管理
衛生工事 中村冷機㈱
に省力化をはかり,業務用蓄熱調整契約による安価な夜
空調工事 中村冷機㈱
間電力を用い,省エネルギーで地球にやさしいシステム
を報告する。
写真−1 建物外観
ヒートポンプとその応用 1999.1
1.
No.50
― 36 ―
―― 実 施 例 ――
ろ過循環ポンプ(SUS304製)
3.給湯設備の主要機器
熱交換器 シェルアンドチューブ形
(SUS304製)
空気熱源ヒートポンプ式給湯専用チラー
加熱能力 41,000kcal/h(夜間業蓄運転)
加熱能力85,000kcal/h
×2台
26,300kcal/h(昼間運転)
耐熱FRP製パネルタンク15k
4−1 給湯負荷などの算出
一次給湯循環ポンプ(SUS304製)
×2台
40φ×120r/min×10m×0.4kW
×1台
・日蓄熱対象貯湯量として,使用人員分(100名)と特殊
浴槽分(0.6k ×4回)および一般浴槽・デイ浴槽分
(各5.6kの1/7)また,そのさし湯分を計算し13,600r/d
二次給湯循環ポンプ(SUS304製)
給湯加圧ポンプユニット
(一般給湯系)
(55℃換算)とした。
×1台
・浴槽の保温および装置保温負荷を25,000kcal/hと算出。
×2台
40φ×140r/min×32m×1.5kW
50φ×330r/min×20m×2.2kW
(ろ過系)
4−2 蓄熱用熱源機器の選定(夜間業蓄運転)
×2台
蓄熱給湯制御盤
13,600r/d×(55℃−5℃)÷10h/d×1.2=81,600kcal/h
×1面
加熱能力41,000kcal/h×2台(外気−1.0℃,出湯60℃)
3−2 浴槽ろ過循環装置
(SUS304製)処理能力 20k/h
厨房事務室
女子便所
EV
厨 房
蓄熱槽
男子便所 職員便所
談話室
廊下
検収室
霊
安
室
医務室
会
議
室
静
養
室
介護相談
室
事務室
療養室
療養室
休
憩
室
脱衣室 更
脱衣室
衣
浴室 室
室 デイ
一般浴
療養室
療養室
女子便所
ショート
ステイ
寮母室
療養室
療養室
療養室
屋上広場
特
殊
浴
室
ム
ンルー
ーショ
レクレ
デイ
1F
療養室
介護者
教育室
事務所
男子便所
廊下
相談室
中 庭
職員便所
リネン室 洗濯室
面接室
風除室 玄関ホール
N
介護用材料室
宿直室
湯
沸
室
食 堂
※経年劣化およびデフロスト損失=20%とする
×1台
ヒートポンプチラー
受水槽
蓄熱槽
空 調 機
×1面
4.給湯負荷と蓄熱システムの概要
×2台
50φ×230r/min×14m×1.5kW
×2台
ろ過運転制御盤
×1台
給湯用蓄熱槽
食品倉庫
×1台
50φ×340r/min×25m×2.2kW
3−1 給湯設備
倉庫
居室
2F
機械室
復
機能回
訓練室
居室
廊下
5
居室×
図−1 各階平面図
電動二方弁
給水
給湯用蓄熱槽
65
65
給湯用蓄熱槽
HS
HS
HS
65
50
ヒートポンプ ヒートポンプ ヒートポンプ
チラー
チラー
チラー
;
浴 給湯加圧ポンプ 浴槽昇温用
給湯循環ポンプ
定流量弁
電動二方弁
;
浴 浴 50
65
65
50
25
65
65
一般給湯系統(往)
一般給湯系統(還)
浴槽昇温用給湯(往)
浴槽昇温用給湯(還)
HR
HR
HR
図−2 熱源系統図
― 37 ―
ヒートポンプとその応用 1999.
11.
No.50
―― 実 施 例 ――
計画電力量kWh 実績電力量kWh
(kWh)
12,
000
10,
000
8,
000
6,
000
4,
000
2,
000
0
3
写真−2 デイ浴室
4
5
6
7 (月)
図−3 月別蓄熱電力量
5.運転開始後の経過
今年3月に開園し,4月業務用蓄熱調整契約開始と非
冬季の運転実績5カ月のみであり,今冬の確認検証を得
ねばならないが,現状実績と計画時の月別蓄熱電力量を
図−3に示す。
実績値と計画値の相違検討
実用面での給湯量に不具合なく推移しており,浴槽の
落とし蓋励行とその湯入替時期が運用面において計画ど
おりに行われている。したがって相違点と考えられる要
因は下記のとおりと推定する。
・システムの熱損失は,終日有人施設での過去実績によ
り30%前後の事例があったので,計画時に30%とし
たが,冬季Max20%でよいと考えられる。
・設計値との相違点は,外部条件も過去の平均としたが
写真−3 給湯熱源まわり
給水温度,外気温度とも3月以降は設計値を上回って
いる。
4−3 保温用熱源機器の選定(昼間運転)
加熱能力26,300kcal/h×1台
(外気7.0℃,出湯60℃)
昼間保温専用;昼間のデマンド対策上7.5kW形とした。
6.おわりに
熱源として夜間電力利用による蓄熱システムを構築し
なお,業務用蓄熱時間帯(22:00∼8:00)は蓄熱運
転を行う。
ており,厳冬期
(地形的に盆地であり積雪がある)の3月
4−4 給湯用蓄熱槽の選定
初旬に開園したが,能力不足などによる不具合は発生し
蓄熱槽は清掃可能にするため2基とし,その貯湯量は
ておらず,今後とも問題なく推移可能と判断する。
また,今回の給湯二次側システムは屋外地上部分に主
「日給湯量+日さし湯量+安全率+浴槽入替湯量」で選
定した。
要機器が設置されており,開放式パネルタンク使用の循
4−5 蓄熱システムのポイント
環式を採用している。そのため,二次給湯循環ポンプは
・夜中に湯カラン利用があっても苦情のないこと。
給湯加圧ポンプユニットを採用し,返湯管末端には定流
・貯湯槽給水は22時∼4時(6時間程度)で完了するが
量弁を配し最低循環量確保,および電動二方弁を配し挿
入温度計連動制御によるポンプ自動運転切り替えなど
槽内温度は42℃以上に補完されていること。
・熱源機器は運転時間の平準化のためローテーション機
と,返湯管末端までの給湯圧力確保を可能にしている。
最後に,環境に配慮され,安全で使いやすく経済性に
能に支障のないこと。
・省エネルギーのため,非専従者による季節ごとの貯湯
温度設定を変更可能にすること。
ヒートポンプとその応用 1999.1
1.
No.50
優れた給湯設備の施工にあたり,ご指導・ご協力をいた
だいた関係者の方々に深く感謝いたします。
― 38 ―